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第12章

もし、この世の中を変えることが出来るなら、僕は君の世界の太陽になる。

−エリック・クラプトン−


「♪♪♪・・・」

鳴り続ける着信音が、空しく響く。キャリングポーチの中の奥底にしまわ
れた携帯電話は、取られる事なく哀しげに響いていた。大きな引き戸を
挟んだ向こう側の部屋にいる二人には、この音は、この想いは、届かな
かった。



「よっすぃ〜、ごっちん・・・、何処にいるの・・・」

先程来の通り雨も止んだ誰もいない夜の海岸。梨華は一人蹲り、寂しさ
の中佇んでいた。手元の携帯電話を何度となく鳴らし続けるものの、そ
の先からは何一つ確かな手応えはなかった。
36418-2:2001/07/14(土) 03:42 ID:Y1olRm1k

「もう、誰もいないんだな・・・」

梨華はそうポツリと呟くと、すっと立ち上がり、所作なくふらふらと歩
き出した。湿った砂浜に脚を取られ、何度も何度も躓きながら、大きく
打ち寄せる波の方へと向かう。すっかりと砂まみれになったミュールを
脱ぎ捨て、素足のままでさ迷い歩く。

前方に広がる漆黒の雲の中からか、おぼろげに光る月に梨華の全身が柔
らかく照らされていた。

「ひとりなんだね・・・、わたし」

梨華はふらつきながら漸くと波打ち際にたどり着いた。夏が終わった海
の水は、ひと際の冷たさを湛えている。凍えるような冷たい海水が梨華
のつま先を刺激していた。
36518-3:2001/07/14(土) 03:43 ID:Y1olRm1k

傷ついた心を癒すのと引き換えに、大切な何かを失いつつある焦燥感が
梨華の小さな心を掻き毟る。濡れてゆく心の中とは裏腹に梨華の瞳は乾
いていた。焦点なく視線は乱れ、宙を彷徨い続けていた。

「ミャーン」
「!!!」

背後から聞こえてきたその鳴き声は、心の闇をさまい続ける梨華に、現
実の世界へ呼び戻すかの様な合図だったかもしれない。

先程の動物病院で愛でていた、「彼の分身」がいつの間にか、梨華の後
ろで鳴いていた。その「分身」は、腹をすかして餌を欲しがるかの様に梨
華の顔を見つめて鳴き続けた。
36618-4:2001/07/14(土) 03:44 ID:Y1olRm1k

「どうしたの、ネコちゃん。抜け出してきたのぉ?」
「ミャーン、ミャーン、ミャーン」

梨華は波打ち際から漸く離れると、この間の台風で打ち寄せられたらし
い流木の上にピョコンと座っているその黒猫の間に近寄り、しゃがみ込
んだ。梨華は恐る恐るその猫に手を伸ばし、頭に触れてみる。しかしそ
の黒猫は逃げずに梨華の手を受け入れた。

優しく頭を撫でる梨華の振る舞いに、その小さな身体を丸めて喜びを表
していた。

「おなかすいたのぉ?ネコちゃん・・・」
「ゴロ、ゴロ、ゴロ・・・」

黒猫は喉を鳴らして更に喜びを表現していた。すると丸めていた身体を
一気に伸ばすと、しゃがんでいる梨華の足元に近寄り、先程まで冷水に
浸されていたそのつま先をペロペロと舐め出した。
36718-5:2001/07/14(土) 03:45 ID:Y1olRm1k

「ダメだよぉ〜、くすぐったいから」
「ゴロ、ゴロ、ゴロ・・・」
「ネコちゃんも一人なの?・・・わたしと同じだね」
「ゴロ、ゴロ、ゴロ・・・」

梨華は、喉を鳴らし続けている黒猫を抱えると立ち上がり、毛に纏わり
ついている砂を手ではらった。黒猫の首輪に光るプレートが目に入る。
そこには手書で記された名前の欄に「クロ」と書かれていた。

「そうなんだ、あなたはクロっていうんだったね。あの人が教えてくれたんだ・・・」

梨華は思わずその黒猫に彼の姿を重ねてしまった。先程まであれほど乾
いていた筈の瞳に悲しい雫が溜まり始めた。梨華はそれを拭う事無く、少
しだけキツク猫を抱きしめる。

先程まで月光を隠し続けていた漆黒の雲が、柔らかく吹き続ける夏の終
わりの風に流され、辺り一面を妖しい月の光で照らし出されている。
36818-6:2001/07/14(土) 03:46 ID:Y1olRm1k

「クロちゃん、わたしのオウチに一緒くる?」
「ゴロ、ゴロ、ゴロ・・・」
「・・・いいよね、あなた。これくらいの我儘を聞いてくれるよね」

梨華は一人呟くとその猫を抱えたまま、歩き出した。返るはずの無い返
事だとは思いながら、どこからか聞こえてくるかもしれない「彼の声」を
探していた。当たり前に波の音だけが支配するその浜辺に、彼の声な
どある訳も無かった。

しかしそれでも梨華は今、再び僅かながらも充足された気持ちに満たさ
れ始めていた。なくした筈の絆の欠片が梨華の心を優しく包む。秋を告
げる優しい風に吹かれ、梨華は再び歩き始めた。
36918-7:2001/07/15(日) 02:28 ID:AX7G0EZM

「きれいだね、よっすぃ〜の身体って・・・」
「止めてよ、ごっちん。そんなに見つめないで・・・」

真希は、一糸纏わぬ姿で窓際に立っている吉澤の姿を見つめていた。
その真っ直ぐな視線を受ける吉澤は、恥かしそうに後ろを向いてし
まった。すると真希は吉澤にすっと近づき、その背中に顔を傾けた。

互いに全裸で立ち尽くす美しい少女たちの宴が今から始まろうとし
ていた。
37018-8:2001/07/15(日) 02:31 ID:AX7G0EZM

「よっすぃ〜の背中、柔らかいね・・・」
「アッ、ンンン・・やめて、真希ちゃん」

真希は、吉澤の背中を指でなぞった。その真希の指の動きに沿う
ように、吉澤は微かな喘ぎ声を漏らした。吉澤は、堪らず身体を
捩じらせつつ自らくるりと反転し、真希に正対してみせた。

しばらくの間、静かに見つめ合っていた二人は、どちらともなく
キスを求めた。その甘い口付けが終わると、吉澤は真希の顔を優
しくさすり、淡いブラウンに色を変えたその髪の毛を両手で優し
く撫でた。そして再び濡れている真希の唇にキスを交わす。

その口付けは、次第に首筋から耳たぶへと移行する。真希の透き
通る様な皮膚に少し長めの吉澤の舌が這わされた。
37118-9:2001/07/15(日) 02:33 ID:AX7G0EZM

「アッッ・・・。よっすぃ〜・・・」
「ごっちん・・・」

吉澤は真希の背中に手を回し、優しく撫で回すと真希の腕に手
を絡ませる。吉澤の舌は、その真希の華奢な腕に伝わった。上
腕部から肘、そして下碗にまでその舌は巧みに伸びていたが、
痛々しく傷ついた「あの箇所」に達しすると、その愛撫は止ま
った。

吉澤は真希の顔を凝視し一瞬の逡巡の後、その箇所に優しく口
付けを重ねた。更にその掌にも優しく唇を這わせる。その様子
を漫然と見つめていた真希の眼から、熱いものが零れてきた。
37218-10:2001/07/15(日) 02:34 ID:AX7G0EZM

「どうしたの?ごっちん?痛かった?」
「ううん、違うよ!!」

真希は激しく呼応するとそのまま吉澤を強く抱き締めた。そ
して自らの唇を吉澤の身体中に這わせ始めた。その唇は、吉
澤の可愛らしく勃った乳首、小ぶりながら弾力性を持ち、常
にツンと上向きになっている乳房へ、たゆらかにくびれた腰
へと優しく伝わっていく。

真希は、しなやかな両手で吉澤の乳房を揉みながら、腰をナ
ゾリながら、乳首を指でつまみながら、激しい愛撫を繰り広
げていた。
37318-11:2001/07/15(日) 02:37 ID:AX7G0EZM

「ゴッチン・・・」
「よっすぃ〜、好きだよ・・・」
「そこは・・・ごっちん・・・。恥かしいよ」
「いいの、力を抜いて・・・」

真希の唇が吉澤の首筋を優しく伝わる。吉澤はその耐え
難い快楽に呼応し真希の頭を掻き毟った。

真希の愛撫は吉澤の上半身全体へと進む。吉澤の少し火
照った体を優しくさすり続けていた。
しかしその愛撫が吉澤の右肩少し上の辺りで急に止まっ
た。

そこは過日、吉澤があの少年に貪られた時に出来た傷痕
が残っていた箇所であった。
37418-12:2001/07/15(日) 02:40 ID:AX7G0EZM

「ここどうしたの?よっすぃ〜?」
「なんでもないよ」
「・・・ウソ!どうしたの?私に教えて。」

真希の甘く優しい囁きに吉澤は心を許した。そしてツラク
哀しい告白が続いた。

「されちゃったの。そう、ごっちん、あの男の子に・・・」
「えっ?ウソでしょ・・・なんで、どうして!!なんでアイツなんかに・・・。
よっすぃ〜、ウソだよね?」

「ウウン。ホントなの、ゴメンネ」
「何で!訳を教えてよ、よっすぃ〜!!」

真希は吉澤の両肩を抱え激しく問うた。吉澤は真希の厳し
い眼差しを逸らし、顔をそむけた。しかし真希はその肩に
置かれた手を今度は顔に移し、自分の方に正対させた。
37518-13:2001/07/15(日) 02:41 ID:AX7G0EZM

「よっすぃ〜、見て。私の顔を見て。どうしてなの?なんでなの?」
「・・・ごめんね、ごっちん」
「何で、どうして。ウソだよ・・・そんなの・・・」
「・・・ゴメンネ」

「何で謝るの!よっすぃ〜・・・。どうしてなの!なんでアイツなんかと・・・」
「知りたかったの・・・」
「えっ、何を?よっすぃ〜・・・」
「ごっちんの事、知りたかったの。」

「だからって・・・それであいつとするなんて・・・」
「最初はそんなんじゃなかったの。でも、途中から・・・・」
「もしかして、あいつに乱暴な事されたの?」
「ウウン。心配しないで。ちょっと・・・、変な事言われただけ・・・」

「馬鹿だよ、よっすぃ〜。馬鹿だよ・・・」

真希はその美しい瞳に一杯の涙を浮かべ吉澤の顔を見つめた。
そして嗚咽を漏らしながら、その場に泣き崩れた。今度は吉
澤が真希の肩を抱きかかえる。

そして髪の毛を優しく梳きながら、語りかけた。
37618-14:2001/07/15(日) 02:42 ID:AX7G0EZM

「でも、わかったからいいの。ごっちんの事・・・。ホントに少しだけど、
辛さや痛さがね」
「よっすぃ〜。なんで・・・」
「いいんだよぉ。もう泣かないで。だって一番大切なことがわかったんだから」
「・・・」

「わかったの。心の中から、わたしがごっちんを好きだって事が。・・・好きなの、ごっちん」
「よっすぃ〜」

吉澤は、涙で濡れ尽くされた真希の顔を優しく撫でると、徐に
熱い口付けを交わした。その口付けは、どこまでも甘く、そし
てどこまでも獰猛だった。
37718-15:2001/07/15(日) 02:45 ID:AX7G0EZM

吉澤は巧みに真希の咥内に舌先を忍ばせると真希の咥内を舐
め回し、舌と舌とを上手に絡めた。ぴちゃぴちゃという厭ら
しい音が室内に反響する。

いつの間にか全裸の少女二人は、冷たい床の上に寝そべり、
互いの脚を絡ませながら、そして互いのか細い腕を巻きつけ
ながら、狂おしいまでの行為に耽っていた。

「やっぱ、ダメだった。好きな人とでなきゃ、ダメなんだね。気持ちがないと・・・。
男とか女とか関係ないの。好きな人と一緒にいたいの・・・」
「よっすぃ〜・・・。わたしも同じだよぉ。今日は一緒だね」
「ウン・・・」

<以下は描写が詳細な為、筋には直接関係はないと判断し自粛。以降12章後半へと続く>
37818-16:2001/07/15(日) 02:51 ID:AX7G0EZM

「ごっちん、これからも・・・一緒・・・」
「ウン。一緒だよ・・・よっすぃ〜」
「ねぇ、ごっちん。これから二人きり出会う時は、ひとみ、て呼んでね」
「ウン。わかった。ひとみ・・・ちゃん。よっすぃ〜、やっぱり呼び付けに
なんか出来ないよぉ」
「もう、ごっちんたら・・・」

二人は、宴の余韻を楽しむかのように、互いの顔を見つめあいながら、
どちらともなくキスをした。激しく続いた愛の行為に浸りながら、互い
の心をそして体を鎮めた。

力尽きた二人の少女は、全裸のままベッドの上で共に静かに目を閉じた。

<以上、自粛部分。ここから第12章後半部分続く。/自粛部分は何れ補完の予定あり>
37918-17:2001/07/16(月) 00:44 ID:n8wD6p3.

鮮烈な太陽の光に全身を照らされ、彼は目覚めた。背中を丸めた老婆が
なにやらぶつぶつと囁きながら大きな籠に巻かれた紐を解いているだけ
の静かな甲板の上で彼は漸く浅い眠りから覚醒した。

グルリと辺り一面を見回しても海以外に目に入るものは無い。少し強め
の北風に揺られながら、古びたフェリーは南へと進路を急いでいた。

「そんな格好で寝てたか。風邪、ひいちまうぞ」

安繕いのビーチチェアーの様な長椅子で寝転ぶ彼に、先程の老婆が語り
かけてきた。上半身裸のショートパンツという彼の姿を訝しそうに見な
がら、訛のある口調で畳み掛けてくる。彼は少々戸惑いながらも、人懐
っこいそのしゃべり方に絆され、話の調子を次第に合わせていった。
38018-18:2001/07/16(月) 00:46 ID:n8wD6p3.

「夏じゃあんめいし。さむくなかったかい?」
「そうでもなかったですよ。丁度いい具合でした」
「そうかいな。しっかし、あんた見かけない顔だけんど、島のもんじゃないな。」
「ええ。観光みたいなもんです」

「観光って、ああ、あんたも潜りにきたんかい?」
「いや、ちがいますよ」
「じゃあ、何しによ。あんたさん、あん島は、海以外に見るもんなんか
なかっとよ」
「アハハ。いや、何となく一人になりに来たんですよ。」

「一人にかい?かわっとね。でんも、旅館とかそんな立派なものなかっとよ」
「そうなんですか?」
「そうさな。あんたさんはどっか、泊まるとこ決めてっか?」
「いや、別に・・・」

「じゃあ、ウチのトコさ、来いな。狭いっけど、いいトコよ。」
「いや、いいですよそんな」
「遠慮なんかスンナ。勿論、タダって訳ねえど。内は民宿やってから」
38118-19:2001/07/16(月) 00:48 ID:n8wD6p3.

「そうなんですか・・・。おばあちゃん、商売上手いなぁ。それじゃあ、お願いしますよ」
「あいよな。そういやぁ、下の倉庫に止めてあった車はあんたさんのかい?」
「ええ。」
「島で車で使うんかい。そげな広い島じゃなかっとよ」

「そうですか。それじゃ、いらないかな・・・。まぁどうにかしますよ」
「そうかいな。とにかく、遠慮すんなや。」
「ハイ。そうだ、前払いでいいですか、お金の方は?」
「もちろん、いいわな。当たり前やがな。・・・そんでどれくらいいんのさ。」

「1ヶ月くらいのつもりなんですが、まずいですか?」
「構わないわな。いつまでいても結構さね」

老婆は手持ちの大きな籠を勢いよく背負うと、手を振りながら客室
の方へ戻っていった。彼は一晩中この甲板で海風に当たり、身体に
染み込んでいた「錆付いた鉄の香り」が、消え去った事を確認する
と、チェアーの横に置いておいた黒の大きなバッグから、デンバー
ブロンコスというロゴの入った大きめの黒のTシャツを取り出して
身に着けた。
38218-20:2001/07/16(月) 00:49 ID:n8wD6p3.

彼の短く刈り整えられた髪ですら、なびきそうな位の強風が甲板を吹き
ぬける。太陽の眩しさと反比例して、その空気は冷たかった。彼は大き
く息を吐き出すと、再びチェアーに寝転んだ。

雲一つない空を、漫然と眺めながらいつの間にか深い眠りについていく。
もう一度来る朝のために、彼は静かに目を閉じた。

<第12章 了>