●(#´▽`)´〜`0 )Love〜いしよし PART3●

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274SR
「Beautiful」

シュル。
シュルシュル。
包帯を取れていく感覚。

「大丈夫です。ゆっくり、ゆっくり目を開けて」
怖いです。
「ゆっくり。ゆっくり」
怖い。気持ち悪いです。
「ゆっくり。急がないで。無理なら良いからね」
大丈夫です。あの。手を、握ってください。

……。
明かりが見えます。それとドアが。
「どうです?石川さん。私がわかりますか?」
はい。お医者さまです。
「どんな感じの人ですか?」
めがねを、かけています。
「そうです。かけてます。ちゃんと見えているようですね」
でもはっきりとは見えません。
「最初はそうなんです。あせらずにいきましょう。
 さ、今日は目が疲れるのでこれくらいにしましょう」

また、あたしの目に光が戻ってきた。
音だけで過ごした暗闇の中の1年から。
久々に見た世界は。
にじんでて。

とても。

美しかった。
275SR:2001/05/15(火) 12:07 ID:0fI9LCi2

あたしの目が見えなくなったのは、ささいな事がきっかけでした。
連日のリハーサルで誰もが疲れていて。
誰かがあたし背中を押して。
誰かがあたしを倒して。
誰かがあたしの腕を押さえて。
誰かがあたしの脚をとめて。
誰かの持っていたハサミと。
誰かの持っていたハサミが。
私の左目を。
私の右目を。
そして。
それっきり。
あたしの目は光を失いました。
今でもどのメンバーの責任かはわかりません。

モーニング娘。は相変わらずでした。
私の唯一の友達のラジオからもよく曲が流れています。
その声を聞くたびに。その様子を知るたびに。
あたしは悲しく、そして淋しくなりました。
地球上で自分だけが取り残されたような感じにさせられます。

久々に見た世界はとても美しく、
それだけで涙があふれそうになりました。
……。
だから。
あたしは決めたんです。
あの子達にもこの気持ちを味わってもらいたい。
誰の責任かが解らないから。
みんなに。
みんなにもこの暗闇を。
孤独を。
味わってもらうの。
276SR:2001/05/15(火) 12:08 ID:0fI9LCi2

あたしの目はしだいに良くなってきました。
世界はかすむ事なくとらえられる。
はっきりと見える世界は汚れが目立っている。
でも美しい。
それでも美しい。
そう思いながら。

あたしは退院しました。

自分の部屋でダーツの的を作る。
メンバーの名前を書いて。
そして目を閉じてダーツを投げる。
…決まった。
よっすぃーだ。

よっすぃー。
この1年でどう変わったんだろう?
よっすぃーの顔を思い出すと、決心が鈍りました。
こんなむなしい事はやめようかな。

いや。
思い出して。
あの暗闇の中で過ごした1年を。
いつも死ぬ事ばかり考えていたあの1年を。
同じ1年を。
あの子達は光り輝いて過ごしたのに。

そう。この復讐は正しい行為。
誰もが平等であるための。
美しい。
復讐。
277SR:2001/05/15(火) 12:08 ID:0fI9LCi2

「梨華ちゃん!?」
思った以上に簡単でした。
「どうしたの?もう、退院できたの?」
あたしの姿を見つけたよっすぃーは自分から駆け寄ってきて。
「でも会えて嬉しいなぁ〜」
そして。
「まだ声は出ないままみたいだね…」
隠していたナイフで。
「…梨華ちゃん?」
よっすぃーの両目を。
刺しました。

「いやぁぁぁぁぁぁぁあ!」
すごい量の血で視界が赤い。
よっすぃーは死んだかも知れない。
ごめんよっすぃー。
「あ、あ、あ、あ」
そんなに苦しめるつもりは無かったの。
目だけが見えなくなる予定だったの。

「梨華ちゃん!梨華ちゃん!大丈夫!?」
ああ。
誰かの声がする。よっすぃーの声?
「い、今、救急車呼んでくるから!」
そして。倒れる音。走る音。

もし。
もしよっすぃーが死んだら。
あたしも死んであげる。
他のメンバー達も一緒に連れてってあげる。
ううん。
世界中の人を一緒に連れてってあげるよ。

遠くでサイレンが聞こえました。
278SR:2001/05/15(火) 12:09 ID:0fI9LCi2

あたしはベッドで横になっていました。手は動きません。
前がよく見えなくて。暗い。

「この光がわかりますか?」
光?
わかりません。
「そうですか。気持ちを楽にしてください」
あたしは眠くなりました。

左右に揺れるあたしの肩と、首と、頭。
ああ。
思い出してきました。
1年前の事を。
あたしは。
あの日。
疲れていて。
楽になりたくて。
眉を整えようと持っていたハサミで。
自分の。
両目を。
深く。

叫び声。泣き声。倒れる音。
ああ。
そうでした。
私は。
この美しい世界を。
自分で。
封じ込めたんでした。
279SR:2001/05/15(火) 12:09 ID:0fI9LCi2

そして。
この恐怖を。
孤独を分かち合おうと。
よっすぃ−を。
呼び出して。
よっすぃーの。
前で。
ナイフで。
自分の。
両目を。
深く。
つきました。

「石川さん。気がつきましたか?」
はい。
「気分はどうですか?」
なんだか、落ち着いています。
あの、先生。
「はい。何でしょう?」
あたし。また目が見えるようになりたいです。
「はい。また、治療しましょう」
良かった。
また、見えますよね?
「見たいですか?」
はい。
だって。
世界は。

とても。

美しかったったんです。