世にも奇妙な娘達

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60映画みたいな恋したい。
「そうだなぁ…なっちは、映画みたいな恋がいいな。
刺激的なやつ…そう、命がけの恋とかがしたいな。」
女の子が集まれば、いろんな話に花が咲く。
特に年頃ならば、恋の話をする機会が多い。
メンバーも、そんなお年頃だ。
先ほどの言葉は、どんな恋がしたいか?、という話題での
安倍なつみの言葉。
このような話の内容は、殆どが
その日の気分で出る出任せや。洒落などが多い。
この話題の締めは安倍の、
「もー、こんな話してたら、
本当に恋してきたくなっちゃったよ。」
という言葉だった。
この言葉に皆が頷いてこの話題は終わった。
61映画みたいな恋したい。 : 2001/02/17(土) 01:19 ID:hAnES6Jk
出会いは中学校だった。
もとい、出会いはそれから数年経った今、
仕事が早く終わった後の、街中だった。
「あれっ、安倍さん・・・だよね?
俺だよ俺。ほら、中二の時、転校して来て、
5ヶ月でまた転校していった・・・・ほら、ほら、ホラホラホラ。」
最初は図々しいファンかと思った。
「あっ…あぁ、はいはいハイハイ、洋二君!」
「そう。久しぶりだよね、安倍さん。」
思い出すのには、時間が掛からなかった。
何故なら、転校生という特殊さと…
当時、一目惚れしたという特別さがあったからだ。
「時間ある?よかったら一緒にお茶でもどう。」
行く事にした。なんか、ナンパっぽかったけれど。
62映画みたいな恋したい。 : 2001/02/17(土) 01:20 ID:hAnES6Jk
二人の話は弾んだ。
「えっ、うそ。テレビ出てるの?」
彼は芸能に疎かった。でも、当時のように格好良かった。
安倍は少しときめいていた、中学時代の気持ちが蘇ってきたんだろう。
(「恋ちゅうのは、押しが肝心や。押しが肝心やで。」)
何時かの裕ちゃんの言葉を、思い出す。
「ねぇ、今から洋二君の家、行かない?」
「……………。」彼は黙っている。
私は軽い女に見られたかも知れない。
「いいけど・・・・ちょっと寄る所があるんだ。
そこ寄ってからでいい?」
「えっ何処?」
彼が私のお願いを許した事に、ホッとしていたので、
彼の憂鬱そうな顔に気付かなかった。
「幼稚園・・・なんだ・・・子供を迎えに。」
「幼稚園か…誰かに頼まれたんならしょうがないか。」
彼はこう、即答した。
「いや、俺の子を迎えに。」
出会ってから50分後の出来事だった。
63映画みたいな恋したい。 : 2001/02/17(土) 01:22 ID:hAnES6Jk
彼はバツイチだった。17才で、できちゃた結婚。
それを聞いても何故か私は、彼への気持ちが冷めなかった。
「まぁ、よくある話よね。」
今日の私は、なんか変だ。
まるで、運命の人を逃さないようにと、
必死に彼にしがみ付いているみたいだった。
(「恋ちゅうのは、押しが肝心や。押しが肝心やで。」)
裕ちゃんの言葉が脳を駆け回る。

目的地、幼稚園の前。彼が言う。
「此処で待ってて、すぐ来るから。」
「そんな…一緒に行くよ。子供、好きだし。」
『子供、好きだし』は、押しの気持ちが生み出した無駄な言葉だった。
園内から、女の人の声がした。
「はーい、恭平くーん。お父さんが来ましたよー。」
保育士の人が、男の子を連れて近づいてきた。
「なに?新しい彼女?洋二。」
「別れてるんですから、名前で呼ばないで下さい。」
此処は一気に修羅場になり、私はおどおどするばかりだった。
彼は子供の手を引き、
「ありがとうございました。」怒ったように早口で言った。
「いいじゃない、怒らなくても。
恭平もお母さんといっぱい一緒に居たいでしょ?」
保育士は子供の顔の近くで、同意を求めるように、優しく言った。
「………行くぞ。恭平!」
彼は子供を引っ張って、今来た道を戻っていく。
私も無言のまま、彼に付いていった。
出会ってから70後の出来事だ。
64映画みたいな恋したい。 : 2001/02/17(土) 01:23 ID:hAnES6Jk
「今のが、別れた妻。つまり、」
「もういいよ。いいから…ねっ。」私は彼の台詞を遮った。
子供はボールを強く握っていた。そして、俯いていた。
「…追ってきたんだ。アイツ、追ってきたんだ。
自分勝手だよ。離婚の原因はアイツな」
「だから…もういいよ………公園でちょっと休もう。ねっ。」
通りかかった公園で、ひと休みすることにした。

ひと休みと言ってベンチへ座ったが、あの後だ。気は休まらなかった。
子供は持っていた、ビニールで出来たソフトボールで
独り遊びをしていた。
「時間って酷いね、あの頃は、…………………
…………………………………………………ねぇ、キスしない?」
普通ならこんな男には幻滅だろう、しかし今の私には…
裕ちゃんのあの言葉が、今が恋をするチャンスと言うように私を後押しする。
「うん…」彼がポツリと言った。
雰囲気は途端に高まった。向き合う二人の顔、目を瞑る彼。
私も目を……と、その時、恭平くんがボールを追いかけて道路に出ようとした。
「あっ、だめっ!恭平くん、危ないっ!」
私は道路に向かって走った。
一台のワゴンがこっちに来ている。このままだと、あの子を轢きそうだ。
「ダメっ!危ないっ!」
乱暴だが、間一髪、道路ギリギリで恭平くんの襟を引っ張り、公園方向へ倒した。
だけど…人は急に止まれない。走った勢いで私は道路に…。
65映画みたいな恋したい。 : 2001/02/17(土) 01:24 ID:hAnES6Jk
安倍は、映画みたいな恋をした。
1時間40分で終わる恋をした。

〜了〜