世にも奇妙な娘達

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6可愛い悪魔。
辻と加護が、またはしゃいでいる。

いつ如何なる時も、そのテンションの高さが変らない二人だが、
特に、ここ数ヶ月のはしゃぎようは、尋常ではない。そして、
そのテンションの異常上昇に同調するように、モーニング娘。
に「ある異変」が起こっていた。

その「ある異変」の前兆に、いち早く気がついたのは、矢口真里
だった。いつも、楽屋入りすると、すぐに矢口にペットリとしな
だれかかってくる中澤裕子が、ここ数日、全く矢口に寄りつかな
くなったのだ。それだけではない。矢口の方から中澤にじゃれつ
いて行っても、中澤はつっけんどんに矢口の躯を押し返し、一つ
ため息をついて、じっと動かなくなってしまうのだった。

明らかに、何かがおかしかった。
7可愛い悪魔。 : 2001/02/10(土) 02:01 ID:Fq8OqWDk
「体調悪いのかな…裕ちゃん」

いつもはウザく感じていた中澤の抱擁も、無くなれば寂しいもの
で、矢口は心配そうに呟くのだった。しかし、そんな矢口の願い
も虚しく、中澤はとうとう仕事場に姿を見せなくなってしまった。
リーダー不在のモーニング娘。ではあったが、結束の強さは変る
ことはなく、いつもの仕事を、いつも以上のがんばりでこなして
行った。が、しかし、どこか締まりがないのも事実で、妙な空気
がメンバー内を包んでいた。しかし、そんな中にあっても、辻と
加護のテンションは下がる事を知らなかった。それどころか、前
にも増してパワーが強くなっている感じさえする。

「ちょっとアンタたち、裕ちゃんがいない時くらい、静かにしたら」

矢口は何度も二人を嗜めたが、その場は大人しくなっても、また
すぐにはしゃぎ回ってしまう。矢口はその様子を横目で見ながら、
中澤の存在の大きさというものを改めて感じずにはいられなかった。
8可愛い悪魔。 : 2001/02/10(土) 02:02 ID:Fq8OqWDk
2日後。
中澤が来なくなって間がないというのに、今度は保田圭が仕事を休
んでしまった。さらに、その翌日に飯田圭織が、そして、さらにそ
の2日後に安倍なつみがと、年長のメンバーが次々と仕事に来なく
なってしまったのである。矢口はガランとした控え室の片隅で、こ
の不可解な事件について、一人考えていた。

『絶対におかしいよ…年上のメンバーから順番に倒れていっちゃう
 なんて…何が起こってるっていうの?…』

そこまで考えて、矢口は背筋に悪寒を走らせた。
そう。順番から行けば、次は矢口の番なのだ。一体、メンバーたち
に何が起こっているのか、そして、矢口自身の身にどんな事が起こ
るのか。矢口は、一人でいるのが急に怖くなって、急いで控え室を
飛び出した。そして、どこに行く訳でもなく、スタジオ内の廊下を
ウロウロと歩き回った。

「………や………さ…」
9可愛い悪魔。 : 2001/02/10(土) 02:03 ID:Fq8OqWDk
ふと、自分の名前を呼ばれたような気がして、矢口は立ち止まった。
辺りを見回すが、人影はない。気のせいかと、また歩き出そうとす
る矢口の耳に、今度ははっきりと自分の名前が飛びこんできた。

「…やぐちさんは……」

矢口の立ち止まった場所は機材倉庫の前だった。開け放たれた扉。
倉庫の中は薄暗くて、誰がいるのか、よく見えない。矢口は怖が
りながらも、意を決して倉庫の中に入っていった。太いカメラケ
ーブルや照明機材が所狭しと置かれていて、歩きにくい中、矢口
は身をかがめ、赤ちゃんのする「ハイハイ」のような姿勢で、ゆ
っくりと薄暗い室内を進んで行く。

「…!」

矢口は驚きのあまり声も出なかった。
10可愛い悪魔。 : 2001/02/10(土) 02:03 ID:Fq8OqWDk
倉庫の一番奥にしゃがんでいた二つの人影。見慣れた赤いTシャツ。

辻と加護だった。

「…みんな、意外と簡単にやられちゃうね」
「だって、みんなもういい歳だから」
「フフフ…そうだよね。年寄りだからしょうがないよね」
「次は矢口さんだよ? どうやって料理しちゃう?」
「そうだなぁ…矢口さんは意外と強いから、ちょっとやそっとの事
 じゃダメだと思うな」
「じゃあ、全開パワーで暴れちゃおっか」
「そうだね…矢口さんの魂って、まだ若いから、きっと高くさばけ
 るはずだし」
「そうだね…でも、みんな驚くだろうね、私たちが悪魔の遣いだっ…」

ガシャーン

矢口は、その場から逃げようとして、近くにあった機材にぶつかっ
てしまった。その物音に気がついた二人が、矢口のもとに近づいて
来る。

「あれ…矢口さーん、何やってるんですか、こんなトコで?」
「もしかして、わたしたちのはなし、きいてました?」

矢口は、もはや瞬きをする事さえできずにいた。いつもの、屈託な
く笑っている辻と加護の表情はそこにはなかった。緑色の皮膚、こ
の世の物とは思えないグロテスクな顔面からは、涎の雫が滴り落ち
ている。それはまぎれもなく「悪魔」の姿そのものであった。

「見ちゃったんですね、私たちの秘密…」
「そうなっしまったいじょうはもう…生かしちゃおけないですね…」

しゃがんだままの態勢の矢口に、口を大きく開けた二人が襲いかか
らんとする。半狂乱となった矢口は大声をあげ、身をよじらせなが
ら出口へと向かおうと身体をもがかせるが、全く前に進まない。矢
口の背後で、ピチャピチャと粘膜の張り付く音がする。矢口は叫び
ながら、耳を塞ぎ、蹲った。

「いやーーーーーーーーーーっ!」
11可愛い悪魔。 : 2001/02/10(土) 02:04 ID:Fq8OqWDk
「…矢口…ちょっと、矢口って…」
身体を震わせ、耳を塞いだまま泣き喚いている矢口を、中澤の両手
が揺すった。恐る恐る目を開け、そこにいるのが中澤と解ると、矢
口はもう一度号泣し、中澤の胸に飛び込んだ。そして、少し落ちつ
いた所で、今見た夢の一部始終を矢口は話した。中澤は、ケラケラ
と笑いながら、時折矢口の頭を撫でてやる。
「…そんな怖い夢見るほど疲れてるんか…少し休んだ方がええのか
 も知れんなぁ」
中澤は自分のハンカチで矢口の涙を拭いながら、そう呟いた。
「もう大丈夫か?歩けるか?」
「…うん…」
「よっしゃ。気分直しにジュースでも買いに行こか」
そう言って中澤は、矢口を抱きかかえるようにして控え室を出てい
った。

その中澤の足跡から、白濁色の粘液が、後から後から滲み出す。

その事をまだ、矢口は知らない…

=終わり=