世にも奇妙な娘達

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38それぞれの眠り
後藤・吉澤・石川は、暇な時ちょとした賭けをする。
いや、大そうな額を賭ける訳ではないし、
賭けの対象も身近なもの、
例えば、メンバーの誰が一番遅く仕事場に来るか、とか。

最近吉澤は、後藤と石川がこの賭けを仕掛けてこない事に、
ちょっと違和感を感じ、
その二人がよく話しをしている事に、疎外感も感じていた。
吉澤が話し掛けても、あまり話が弾まないのだ。
こういう状況には、少し心当たりがある。

「そういえば、こうなり始めたのは、
私の同級生が事故に遭った頃だったなぁ。」
あまり親しく無かったが、
ここ2ヶ月よく話している男子の、自転車事故のことだ。
この状況と、事故が関係しているのを知ったのは。
コトが起きてからだった…。
39それぞれの眠り : 2001/02/12(月) 23:18 ID:eIbVKzWY
ピィーンポーン、私の家のチャイムが鳴る。
「こんにちは、梨華です。」
梨華ちゃんが家に来た、突然の出来事だった。
「なに?梨華ちゃんどうしたの?」
吉澤の当然の質問に、石川は。
「いやいやいや、いいじゃないですかぁー。」
石川の作ったような「元気」に吉澤は返す言葉は無く、
今日は自分しか居ない家に、石川を招き入れる事になった。

吉澤は石川をリビングに誘導した。
「今、紅茶淹れて来るから。」
そう言った吉澤は、リビングを急ぎ気味で出る。
石川は、吉澤がリビングを出てる間じゅう、真剣な面持ちで、
これからしようとしている、或る「告白」の練習をしている。
「あっ、お待たせ。」吉澤がリビングに戻る、
それと同時に、石川は今までの顔を「元気な顔」に戻す。
40それぞれの眠り : 2001/02/12(月) 23:19 ID:eIbVKzWY
「早速なんだけど、私が今日此処に来たのは、
よっすぃーに言わなきゃいけない事が有るからなの。」
石川はいつもより早口気味で喋り続ける。
「あのね、よっすぃーの同級生の男の子、最近事故を…」
「落ち着いて、紅茶でも飲みながらさっ。」
慌てている様な喋りっぷりの石川に、吉澤は優しく話を中断させた。
紅茶を喉に流した石川は、すぐに話を続けた。
「それで、その事故の事…うっ……グボッ」
石川は、首をおさえると同時に、赤褐色の液体を吐きだした。
「…よっすぃー………じゃぁね。」
石川は苦しい顔で、当然の様に別れを告げた。
石川の目から頬に透明なモノが伝っていった。
「えっ、なんで……じゃぁねって……。」
吉澤が石川の別れの言葉に疑問を抱いてる…その時。
41それぞれの眠り : 2001/02/12(月) 23:20 ID:eIbVKzWY
よっすぃー、早過ぎだよ。」
その時、後ろから聞き慣れた声が聞こえた。
「ご、ごっちん…なんで…?」
振り返った吉澤は、そこに居た後藤に言う。
「ごめん、よっすぃー。今日梨華ちゃんと賭けしてたんだ。」
後藤は、ただ感情無く返した。
「ねぇ、私にも復讐してよ。」
「復讐?」
後藤は、聞き返した吉澤に、苛立つ様な句調でこう返す。
「だから、よっすぃーの彼を私達は、賭けの対象にしたの。」
後藤は淡々と話を続ける。
「自転車のブレーキに細工して、次の日までに死ぬか死なないか…
二人とも『彼は死ぬ』に賭けた…
多分、二人ともよっすぃーに、嫉妬してたんだからだと思う。」
後藤の話は、ここから複雑さと難解さが、更に増す。
「でも、やっぱり後悔した。だから今度は、事実を知ったよっすぃーが、
二人のどっちに先に復讐するか、を賭けの対象にした。
二人とも『自分が先に復讐される』に賭けたの…自分の命を賭けたの…。」
吉澤は呆然と聞いていたしかし、内容はしっかり理解出来た。
42それぞれの眠り : 2001/02/12(月) 23:21 ID:eIbVKzWY
吉澤に後藤はロープを差し出した。
「私は賭けに負けたの。ねぇ、だからよっすぃーが私を殺して…」
さっきより声のトーンが落ちている後藤は、吉澤を説得する。
「よく考えてみて。
梨華ちゃんが先でも、私が先でも、よっすぃーが復讐しなくても、
どっちみちこの賭けをするとゆうことは、二人とも死ぬことになるの。
自分勝手だけどお願い、私にも復讐してよ。」
この賭けが、吉澤に殺されたいが為の賭けであること、
それを、知ってか否か吉澤は、ロープを手に取り、
後藤と向かい合ったまま、ロープを首に巻きつける。
後藤は覚悟を決めながらもこう言った。
「なんで、この体勢なの?」
そうだ、普通首を絞めるとなると向かい合う事は想定できない。
「私もごっちんに、言わなきゃいけないことがあるの。」
後藤は目を閉じる。吉澤は軽く腕を広げながら続ける。
「実は、アイツは私の彼氏じゃないし…、
アイツを殺したの…私なの。」
後藤の体がびくつく。
「私ね…特殊な体質で、10歳に成ってから1年で1人、人を殺さないと…
寝ることが出来なくなるんだ。
だから、手近でどうでもいいあの男子を、事故に見せかけて殺したんだ。」
43それぞれの眠り : 2001/02/12(月) 23:22 ID:eIbVKzWY
吉澤は、後藤が聞きたいであろう、事を話す。
「私ね、梨華ちゃんとごっちんに、それがバレたと思って、梨華ちゃんを…」
後藤は目を閉じたまま
「でもいい、もういい復讐じゃなくても、口止めでもいい。
こうなるのが…、好きな人に殺されるの夢だったし…。」
普通では理解不能な会話であろう。
しかし、少なくともこの二人には、この会話に違和感など無いのである。
今、思い思いの気持ちで流れている大粒の涙がそれを示している。
後藤は徐々にロープが絞まっていくと同時に意識が薄れ、やがて死体と化した。

それから数分後、吉澤も永遠の眠りに着く。
本人の意思では無かった。
吉澤が人を殺せるのは1年に1人が限度だった。
人を殺せば眠れるという特異体質には、
1年に3人は睡眠薬の多量使用と同じだった…つまり、自殺行為なのだ。
三人はそれぞれの涙を流し、ぞれぞれの眠りに着いた。

「うーんっ、なんか眠くなちゃった。」
吉澤の最期の言葉だ。
まるで、吉澤は「これはアクビで出てきた涙ですよ。」と言わんばかりだった。

〜了〜