世にも奇妙な娘達

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31素敵な人に嫌われる方法
辻と加護には今、流行ってるモノがある。
それは、おもちゃ会社から出ている「10分の1の奇跡」という、
子供騙し的な、占いキッド。1セット300円。
商品内容は、一辺10cm四方のボール紙10枚と、外箱。
使い方は10枚の紙に「起きて欲しくない出来事」を書く。
それを外箱に入れ、毎日引く、
そうすると次の日に、引いた紙の内容と、逆の出来事が起こる。
これが結構効果がある。子供騙しと馬鹿にできないモノだった。

ある日中澤は、辻と加護だけの楽屋に居た。というか、置き去りになった。
何をする訳でもない中澤は、辻と加護に話し掛けた。
「なぁ?今、何してんの二人。」
辻と加護は、このおもちゃについて上の様に話した後、こう言った。
「中澤さんにも、一つあげますよ。」
「そうや!モーニング娘。みんなに書いてもろて、
中澤さんが引くっていうのは、どうですか?」
中澤は、二人の強引さにより、その遊びにつきあう事と相成った。

しかし、この説明には、おもちゃの名前の由来ともなった
「アノ説明」が欠けていた。これが後々中澤を襲う事となる。
32素敵な人に嫌われる方法 : 2001/02/12(月) 02:40 ID:xctfQPfU
辻と加護の強引さには頭が下がる。
実は、本当はこの遊びにつきあうことは、中澤は乗り気で無く、
こんな遊びに他の7人は、乗ってこないと思って安心しきっていた。
だが………持ってきた…。
二人は、7+2人分のボール紙を集めて持ってきた。
あとは、私の分だけだ…
「しゃぁないなぁ…よし、後は私の分やな!」
この際だ、ここまでするなら。と、感じ中澤はやけくそ半分に
『素敵な人に嫌われる』と、書いた。そして、箱を振る。
「それでは、中澤さんの一枚目です!」
辻が威勢良く言う。それに押されて、中澤は、箱から紙を…
『100円落とす』
「そんな…なぁ………」
(単なるおもちゃや…けど)怪訝な顔をする中澤に加護は、
「大丈夫ですよ。逆やねんで、逆。」
加護の言葉の、馴れ馴れしさなど気にならない並みのショックだった。
しかし、次の日中澤が100円拾ったことは言うまでも無い。

中澤が100円拾う日、辻と加護に見守られ、
また一枚紙を引いた。それはお金を拾う20分前。
まだ、この行為を「遊び」だと思っていた時だ。
『宝くじの一等が当たらない』
なんと、詳細な不幸だろうか。
この日、こんな紙の事など気にしていなっかった中澤は、
100円の次に、明日抽選がある宝くじをも拾うこととなる。
33素敵な人に嫌われる方法 : 2001/02/12(月) 02:42 ID:xctfQPfU
中澤はこの「遊び」を、確実に当たる占いであることを確信していく。
『損な買い物をする』
大特価でバッグを買った。
『大切な人を失う』
長く連絡が無かった、親友から電話がくる。
『大事な事を忘れる』
郵便物を出さなくてはならない事を思い出す。
『寝過ごしておこられる』
仕事の時間になっても、楽屋で寝ていた皆を起こして感謝された。
『暴言を吐く』
この日は頭の回転が良く、スムーズな司会進行が出来た。
『嫌な知らせが届く』
新しい仕事が決まった事を、知らされる。
…全て逆だった。しかし、それはいけない事だったのかも知れない。

ご機嫌な顔の中澤に、辻は言った。
「中澤さん最近、調子がいいですね。」
中澤は占いの事を話した。
「あの占いええわ、今まで確実に当たってるわ。全部逆やけどな。」
そう聞くと辻は言いづらそうに
「あの…中澤さん、実はこの占い、絶対一つは逆じゃなくて
そのまま本当に起こるんです…。」
中澤は3秒ほど間を置いた後、辻の方を睨んで
「なんやて!…そ、そうなん?」
辻は、中澤を見ないように、小さく頷いた。
34素敵な人に嫌われる方法 : 2001/02/12(月) 02:45 ID:xctfQPfU
聞いてへんで!大変や、この子の言ってることは本当の事やろうしな、
残ってるのはあと2つ、私のともう一つや。
『素敵な人に嫌われる』か…、それは勘弁やな。
もうひとつの方が実現すればええんやけどな。

中澤は、覚悟を決めて1/2の確率で現実に起こる出来事が
書いてある紙を引く。
『死ぬ』
「…えっ…」
それ以降、この日中澤は仕事以外では、喋らなくなっていた。
中澤は願った。もちろんこの紙は、はずれて欲しいと。
それ以上に、今までは偶然の出来事だったと、
自分に言い聞かせたりした。そうでも無ければとても仕事などできない。
次の日、中澤は仕事を休もうとまで思った。
だが、大人としての自覚と、占いに屈したくないという強がり。
それが中澤を仕事へと向かわせた。
怖い、怖いのだ。当たり前だ、自分は今日死ぬかもしれない。
そう、面と向かって「死ぬ」言われているのと同じだ。全てが恐怖の場所と化す。
「石橋を叩いて渡る。」まさに、中澤がそれだった。
周りからすれば、中澤の行動は滑稽に見えたであろう。
しかし、中澤は必死であり、ごく当たり前の行為であった。
細心の注意をはらい、どうにか家に辿り着く。
家でも、油断はしない…つもりだった。
眠いのだ、非常に眠いのだ。中澤はとうとう睡魔に負けた。
そして…………………………。
35素敵な人に嫌われる方法 : 2001/02/12(月) 02:48 ID:xctfQPfU
20年後、モーニング娘。が集まった。「同窓会」と言ったところか。
しかし一人足りない、なぜならあの日中澤は失踪したからだ。
「それにしても、あやっぺの娘って、今テレビ出まくってるよね!」
中澤の事は、アンタッチャブル。暗黙の了解だった。

その、石黒の娘はその会場に来るべきだったかも知れない。
そう思ったのは、辻だ。
以前、その石黒の娘に会った時にこう言われたからだ。
「辻さん、占いはずれたで。ほなな。」
中澤は死んでない、その逆。生まれていた。

〜了〜