辻と加護には今、流行ってるモノがある。
それは、おもちゃ会社から出ている「10分の1の奇跡」という、
子供騙し的な、占いキッド。1セット300円。
商品内容は、一辺10cm四方のボール紙10枚と、外箱。
使い方は10枚の紙に「起きて欲しくない出来事」を書く。
それを外箱に入れ、毎日引く、
そうすると次の日に、引いた紙の内容と、逆の出来事が起こる。
これが結構効果がある。子供騙しと馬鹿にできないモノだった。
ある日中澤は、辻と加護だけの楽屋に居た。というか、置き去りになった。
何をする訳でもない中澤は、辻と加護に話し掛けた。
「なぁ?今、何してんの二人。」
辻と加護は、このおもちゃについて上の様に話した後、こう言った。
「中澤さんにも、一つあげますよ。」
「そうや!モーニング娘。みんなに書いてもろて、
中澤さんが引くっていうのは、どうですか?」
中澤は、二人の強引さにより、その遊びにつきあう事と相成った。
しかし、この説明には、おもちゃの名前の由来ともなった
「アノ説明」が欠けていた。これが後々中澤を襲う事となる。
辻と加護の強引さには頭が下がる。
実は、本当はこの遊びにつきあうことは、中澤は乗り気で無く、
こんな遊びに他の7人は、乗ってこないと思って安心しきっていた。
だが………持ってきた…。
二人は、7+2人分のボール紙を集めて持ってきた。
あとは、私の分だけだ…
「しゃぁないなぁ…よし、後は私の分やな!」
この際だ、ここまでするなら。と、感じ中澤はやけくそ半分に
『素敵な人に嫌われる』と、書いた。そして、箱を振る。
「それでは、中澤さんの一枚目です!」
辻が威勢良く言う。それに押されて、中澤は、箱から紙を…
『100円落とす』
「そんな…なぁ………」
(単なるおもちゃや…けど)怪訝な顔をする中澤に加護は、
「大丈夫ですよ。逆やねんで、逆。」
加護の言葉の、馴れ馴れしさなど気にならない並みのショックだった。
しかし、次の日中澤が100円拾ったことは言うまでも無い。
中澤が100円拾う日、辻と加護に見守られ、
また一枚紙を引いた。それはお金を拾う20分前。
まだ、この行為を「遊び」だと思っていた時だ。
『宝くじの一等が当たらない』
なんと、詳細な不幸だろうか。
この日、こんな紙の事など気にしていなっかった中澤は、
100円の次に、明日抽選がある宝くじをも拾うこととなる。
中澤はこの「遊び」を、確実に当たる占いであることを確信していく。
『損な買い物をする』
大特価でバッグを買った。
『大切な人を失う』
長く連絡が無かった、親友から電話がくる。
『大事な事を忘れる』
郵便物を出さなくてはならない事を思い出す。
『寝過ごしておこられる』
仕事の時間になっても、楽屋で寝ていた皆を起こして感謝された。
『暴言を吐く』
この日は頭の回転が良く、スムーズな司会進行が出来た。
『嫌な知らせが届く』
新しい仕事が決まった事を、知らされる。
…全て逆だった。しかし、それはいけない事だったのかも知れない。
ご機嫌な顔の中澤に、辻は言った。
「中澤さん最近、調子がいいですね。」
中澤は占いの事を話した。
「あの占いええわ、今まで確実に当たってるわ。全部逆やけどな。」
そう聞くと辻は言いづらそうに
「あの…中澤さん、実はこの占い、絶対一つは逆じゃなくて
そのまま本当に起こるんです…。」
中澤は3秒ほど間を置いた後、辻の方を睨んで
「なんやて!…そ、そうなん?」
辻は、中澤を見ないように、小さく頷いた。
聞いてへんで!大変や、この子の言ってることは本当の事やろうしな、
残ってるのはあと2つ、私のともう一つや。
『素敵な人に嫌われる』か…、それは勘弁やな。
もうひとつの方が実現すればええんやけどな。
中澤は、覚悟を決めて1/2の確率で現実に起こる出来事が
書いてある紙を引く。
『死ぬ』
「…えっ…」
それ以降、この日中澤は仕事以外では、喋らなくなっていた。
中澤は願った。もちろんこの紙は、はずれて欲しいと。
それ以上に、今までは偶然の出来事だったと、
自分に言い聞かせたりした。そうでも無ければとても仕事などできない。
次の日、中澤は仕事を休もうとまで思った。
だが、大人としての自覚と、占いに屈したくないという強がり。
それが中澤を仕事へと向かわせた。
怖い、怖いのだ。当たり前だ、自分は今日死ぬかもしれない。
そう、面と向かって「死ぬ」言われているのと同じだ。全てが恐怖の場所と化す。
「石橋を叩いて渡る。」まさに、中澤がそれだった。
周りからすれば、中澤の行動は滑稽に見えたであろう。
しかし、中澤は必死であり、ごく当たり前の行為であった。
細心の注意をはらい、どうにか家に辿り着く。
家でも、油断はしない…つもりだった。
眠いのだ、非常に眠いのだ。中澤はとうとう睡魔に負けた。
そして…………………………。
20年後、モーニング娘。が集まった。「同窓会」と言ったところか。
しかし一人足りない、なぜならあの日中澤は失踪したからだ。
「それにしても、あやっぺの娘って、今テレビ出まくってるよね!」
中澤の事は、アンタッチャブル。暗黙の了解だった。
その、石黒の娘はその会場に来るべきだったかも知れない。
そう思ったのは、辻だ。
以前、その石黒の娘に会った時にこう言われたからだ。
「辻さん、占いはずれたで。ほなな。」
中澤は死んでない、その逆。生まれていた。
〜了〜