世にも奇妙な娘達

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237あなたの事を思うと…
「私、もう恋なんか出来んわ。」
加護はポツリと呟いた。

その発端は、加護の特技でもある『ものまね』にある。
いつものような楽屋、その日も始まった辻とのものまね合戦。
お願いモーニングのゲスト、極楽とんぼのまねをする。
加護の発した「まじっすか」に、辻は目をまるくして、
「加護ちゃん、スゴイ!すごく似てる〜。」
辻の驚きには純粋なものに、『気持ち悪い』というものが入っていた。
それほどに似ている…と、言うより本人そのものの声。

加護はそのときから、ものまねの達人となった。
238あなたの事を思うと… : 2001/04/12(木) 01:29 ID:TbOShopE
ついに加護は、その言葉を聞くこととなる。
「もう、ものまね止めなよ。」
後藤は勇気を持って言った。

最初は、加護もメンバーの皆も、
その達人ぶりに驚きそして、楽しんだ。
しかし、次第に皆の加護のものまねに対する反応が、
『笑い』から『苦笑い』に変化していく。
これは調子に乗って加護が、しつこくものまねを見せるのが原因ではなく、
ものまねが似すぎていて、気色悪くなってしまったからだ。

これと同時期、加護はある体の変化に気付いたのだ。
「なんでかなぁ…おかしいなぁ…あ〜あ〜♪」
ものまねを意識していないのに、声が後藤になってしまっていた。
頭のなかにある、「もう、ものまね止めなよ。」が、加護の声を変えた。
そう、人の事を考えるとその人の声になってしまう。
そういう体になってしまったのだ。
239あなたの事を思うと… : 2001/04/12(木) 01:30 ID:TbOShopE
最近、加護の声は同級生の安住くんの声になる。
「私、もう恋なんか出来んわ。」
安住の声で、加護はポツリと呟いた。

単なる恋の悩みで、あるなら誰かにでも相談くらいできるだろう。
しかし、この体質がそれを困難なものにさせる。
「失恋したら忘れるやろ。」
とりあえず告白することにした。
それは、加護が今、考えられる最高の結論だった。
「こんな体だから…絶対、振られるけどな…。」
『振られることを前提とした告白』、それを
『とりあえず安住の声は出したくない』という理由で行うことにした。
自分を勇気付け、そして自分が振られることを納得するために、
この体質を利用した。
いや、ただただ告白したいだけだったかも知れない。
240あなたの事を思うと… : 2001/04/12(木) 01:30 ID:TbOShopE
「ごめんね、呼び出しちゃって。」
口にマスクをした加護は、喋り続ける。
「そ…それで、なっ、ん〜、す、好きです。
こんな…こんな変な声になちゃう私ですけど…
つ…きあってください!」
「う………ん。こちらこそ、お願いします。」
きょとんとする加護。
「いいの?こんな変な体なんだけど………」
「いいよ。僕の声になるってことは、それだけ好きなんでしょ?」


それから加護が別の男の声になるまでには、数ヶ月かからなかった。

〜了〜