私には人に知られてはいけない秘密がある…。
「どうしたの、よっしー?矢口の顔に何か付いてる?」
「いっ、いえっ、別に」
矢口さんが私の顔を見上げながら訊いてきた。
いけない、あの日以来どうしても無意識の内に矢口さんの方を見てしまう。
気を付けなければ…。
一ヶ月前…。
その日私は仕事が終わってスタジオを出た後、久しぶりに地元の友達と遊びに出かけた。
カラオケBOXで大騒ぎし、程よい疲労感と共に家路に向かってタクシーに乗っていた時、
「あ、矢口さんだ…」
そこには、マンションのエントランスホールから出てくる矢口さんが居た。
スウェットの上下でスッピンの矢口さんは、場末のスナックのママみたいだ。
どうやらゴミを捨てに、外に出てきたようである。
その小さい体の三分の二は在ろうかという、大きなゴミ袋を両手に持っている矢口さんは、
ちんちくりんのやじろべぇみたいで、そぉ〜と〜カワイイ。(顔はスナックのママだけど)
矢口さんは辺りを窺うと小走りで横断歩道を渡り、道の向かい側のゴミ捨て場にゴミを捨てた。
なぜか矢口さんはニヤリと笑い、マンションに戻っていった。
(危ないなぁ、モーヲタどもに見つかったら漁られちゃうよぉ)
その時は、ただ単に老婆心から矢口さんをモーヲタから守ってやりたいと思った。
私はタクシーの運転手さんに車を止めてもらい、料金を払って車を降りた。
私はゴミの山に近づきながら嘆いた。
「まったくもぅ〜、プライベートの管理が大切なのは、なっちの件で解りそうだけど…」
でも、なんでわざわざ外にゴミを出すんだろう?
マンションなら敷地内に共用ゴミ捨て場があるはずだ。おかしい。
その時、矢口さんが捨てたゴミ袋の縛り口が緩んでいるのに気付いた。
覗くつもりは無かったんだけど、“ソレ”が目に飛込んで来た。
これって…、注射器?…何で?あと…毛皮?
しかし毛皮だと思った物は、犬の死体。バラバラにされた、かつて犬だった物。
吐き気が私を襲い、堪らず吐いた。
あれ以来、私の矢口さんを見る目は変わった。
矢口さん、その小さな体にどれだけの狂気を詰め込んでいるのですか?
完