世にも奇妙な娘達

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12東京エレベーターガール
歌番組の収録が、終わった。
「今日も大変やったなぁ。」
加護は、辻と二人で乗った局のエレベーターで呟いた。
「そうですねぇ。最近いっぱいお仕事あって、何処にも遊びに行けませんよ。」
辻は、何の気なしに言った。

今、考えるとそれがいけなかったのだ。
13東京エレベーターガール : 2001/02/10(土) 05:50 ID:NyKI.3.k
いつもなら、楽屋のある階までは、3分かからないのだが、
今日はヤケに、時間が掛かる。
「どうしたんやろなぁ。」
「そうですねぇ。遅いですねぇ。」
エレベーターに乗り、7分が経過していた。
「事故でも起こったんやろかなぁ?」
「あのー、加護ちゃん。」
15分経過、まだ着かない。階数表示も止まったままだ。
「なんやの?辻ちゃん。」
「エレベーターに閉じ込められて、困ることってなぁーんだ?」
「あっ、暇つぶしに、なぞなぞ やね!」
辻は、首を横に振る。
その時だ。チィーン
エレベーターの扉が開いた。二人はホッとしたが、
次の瞬間、目の前に広がる異常な風景に気がつく。
なんと、そこは…
14東京エレベーターガール : 2001/02/10(土) 06:09 ID:3JdI/kHk
トイレだったのだ。
「トッ、トイレ…?」
唖然とする二人、だが辻には安堵の表情が浮かんだ。
「加護ちゃん、答えはお、おトイレ。」
早口でそう言うと辻は、急いで個室へ駆け込んだ。
コトが済むと、この異常事態について話した。
再び閉まったエレベーターの中で…。
しかし、この二人だ。話は、反れる反れる…。
約2時間経った頃か、再び扉が開く。
まさかと思った……案の定、目的の階ではなかった。
そこは…
15東京エレベーターガール : 2001/02/10(土) 06:12 ID:3JdI/kHk
ラーメン屋だった。
扉が開くと同時に加護のお腹が鳴った。
「おなか空いたなぁ。」
そうこうしてる内に、店のオヤジがこういった。
「はい、しょうゆとチャーシュウ…」
二人が、棒立ちになっているとまた、オヤジが、
「なにしてんの?お嬢ちゃんたち。早くしないと麺、のびちゃうよ。」
「辻ちゃん!」
加護が、辻の袖を引っ張る。
そして二人、考えるより先に、椅子に座り麺を啜る。

オヤジは、おいしそうに麺を啜る二人に、
「大変な事になったねぇ、お嬢ちゃん達。
このエレベーターについて誰かに聞いたかい?」
二人は、首を振る、もちろん横に。
「このエレベーターはね。生活に疲れた人が乗ると、
それを癒そうかどうか解かんないけど、
今、行きたい所に移動しちゃう、不思議なエレベーターになちゃうんだ。」
「じゃぁ、おじさんはどうして、此処に居るの?」
辻の質問にオヤジは、真剣にこう答えた。
「おじさんは、そのエレベーターに乗ってる内に、
現実が必要なくなったから…ここから出れなくなっちゃたんだ。」
加護も箸を止めた、オヤジは話を続ける。
「だからね、本当に現実に戻りたいなら、
今でも遅くないと思う、戻りたいって思い続けるんだよ!」
16東京エレベーターガール : 2001/02/10(土) 06:29 ID:3JdI/kHk
「これは、タダでいいから。じゃぁげんきでね!」
オヤジの声を背に、重い空気の中のラーメン屋をでる。
いや正確には、イカれたエレベーターに戻る。
扉が閉まると加護が、
「えらいモンに乗ったなぁ。」
「でも、好きな所にコレで行けちゃうんでしょう?」
辻が、声を弾ませる。
「せやかて戻れんようになるかも知れなんのや…」
加護の言葉の途中で、1分前に閉まったか否か、
またもや扉が…そこは、遊園地。
「辻ちゃん、あのなぁ…」
しかめっ面の加護を尻目に、辻は扉を出る。
「辻ちゃん!待ってーな。」
用意された遊び場に、加護も続いて足を踏み入れた。
どうやら、二人の他には誰もいないらしい。
二人は、遊んだ。
普段、時間が無くて行けない遊園地で遊んだ。
自分達の理想通りの遊園地で遊んだ。
不思議なエレベーターが創ってくれた遊園地で遊んだ。
イカれたエレベーターが創った遊園地で遊んだ。
イカれたエレベーターが自分達のために創った遊園地で遊んだ。
イカれたエレベーターが自分達のためだけに創った空想の遊園地で遊んだ。
時間を忘れて。
日常を忘れて。
現実を忘れて。
エレベーターもオヤジの言葉も「モーニング娘。」も
そして、……………………本当の自分を失った。
二人は遊んだ………あの扉が閉まるまで………ズーンガタッ…
二人は遊んだ………その扉が閉まった後でも…

〜了〜