やあ、待った?悪い悪い。
今日は過去の話をしよう。
過去って言ってもそんな前じゃ無い。10年位…前の話だ。
えっ?充分昔だって?まあイイじゃん、俺にとってはチョット前だよ?
その頃俺は無職で、毎日プラプラ遊んでたんだけど
その時に知り合った奴に圭織って女が居たのね。
その圭織なんだけど、いわゆる「不思議少女」って奴で
常人には理解し難い言動や行動をしやがるんだよ。
例えを出すと…
「真夜中に駅前公園で消火器を撒き散らす」
「今更ピンポンダッシュに夢中」
「笑いながら泣く。しかも何回話を聞いても内容不明」
「明らかに日本人じゃ無い奴に喧嘩を売る」
ってな具合に中々のクラッシャーだったんだよ。
でも厨房な俺は、そんな彼女の事が大好きで、いつも一緒にツルんでた。
うん、つき合ってた訳じゃ無い。初めて出会った頃に1回だけ体を重ねたけど
SEXしてるより圭織と喋ってる方が刺激的だった。
否、喋るってより「圭織が今、何を考えているか?」を探るって方が正しい。
それは知的な推理ゲームみたいで…
まぁ、実際は全部実弾のロシアンルーレットなんだけど。
散々振り回されてたな、俺。
でも優しい所も有ったよ。
俺が「腹減った」って言ったら、結構遠いスーパーまで歩いて買い物に行って
チーズオムレツとか作ってくれてさ、美味く無かったけどジーンって感動したよ。
おっと!こんな話はどうでも良いね。悪い悪い。
そうそう、その圭織がさ、夜中に突然
「海に行きたい」
なんて言い出して、しょうがないから友達にバイク借りて海に行ったんだよ。
1時間は掛かったと思うよ。遠かったなー。
でもって、海に着いたんだけど、圭織は海なんか見て無くて
ボーっと煙草とか吸っちゃってさ、俺ら何しに来たんだろうって感じ?
でも、俺も俺で1人で砂浜でウィリーとかしちゃってんの。
「俺は風だーっ!」なんて言いながら(藁
俺がウィリーに失敗して大転倒すると、圭織が近寄って抱き起こしてくれて
「ははっ、死んだ?」って訊くから俺は
「このまま死ぬのも悪くない」って答えたよ。圭織の胸にハグハグしながら。
圭織はまるで赤ん坊でもあやす様に、俺の髪を撫で付けながら笑ってた。
月光に浮かぶ圭織の顔を見ながら俺は…俺は…そこに菩薩を見た。
圭織って名前の涅槃。ニルヴァーナは此処に有ったんだよ。
おいっ!此処は笑う所じゃ無い!コッチは真剣に話してんだぞ。
…んっ?圭織はどんな顔かだって?
そうだな〜、「ブレードランナー」のレプリカントって感じ。
んな事は、イイんだよ。それでな、「もう帰ろう」ってなって
帰って来る途中で圭織が
「さっきの話だけどさ〜」
「んっ?何々?」
「死んでもイイって言ったよね〜?」
「ああ、言ったよ。お前となら死んでもイイよ」
「ありがと、嘘でも嬉しいわ」
そう言って圭織は、タンデムの後ろから俺にギュッと抱きつき
淋しそうに笑ってた。
それから1週間位経った頃、圭織がビルから飛び降りた。
葬式に行って圭織の顔を見たけど、飛び降り自殺とは思えない位
顔には擦り傷1つ無かったね。
頭じゃ無くて腰から落ちたって、圭織の親が話してくれた。
まるで寝てるみたいって思ったのを覚えている。
死化粧ってゆーの?元々色白だったけど、もっと白くてさ
カミソリみたいな美麗が有ったよ。
俺さー、最近思うんだよね。
海に行った帰りの時、もし俺が圭織に何か…答え…みたいな物を
言ってやれたら、圭織は自殺しなかったんじゃないか?って。
でも、俺なんかに圭織が何を悩んでいたのかなんて、解りっこ無いんだけどね。
もしかしたら、圭織に悩みなんて無かったのかもしれないしね?
圭織は「今日は、天気がイイから死のうと思う」なんてキャラだから。
そう言われたら納得しちゃうもん、俺。
だらだらと喋っちゃったな、じゃあ俺そろそろ行くわ。
えっ?何処に行くかって?
決まってんだろ、圭織に会いに行くんだよ。
葬式の時、約束したんだよ。
10年経って俺がまだ生きてたらお前に会いに行くって。
じゃあな。
完