世にも奇妙な娘達

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112恋の炎
厳かな空間、此処は後藤のいとこの家、今は葬式会場となっている。
亡くなったのは、いとこの夏次雄(かじお)君。後藤と同い年。
葬式は、淡々と滞りなく進んでいく。
いとこの夏次雄君とは、同い年で近所と言う事もあり、仲が良かった。
そして、安っぽい恋愛マンガのようだが、淡い恋心もあった。

静けさは焼香のとき、その部屋にある電話のベルで打ち砕かれた。
「はい、○○ですが…はぁ…はい………えぇ…」
カジオ君の母親が、電話を切り元の場所へ戻って来た。
焼香が一通り終わると、カジオの母はこう言った。
「先程、お医者様から電話がありまして、
カジオの人工心臓の停止手術をしていない。という事でして…」
式場に唖然とした空気が流れる。
「そのまま焼くと爆発するそうなんですよ。それで…」
「あのー、医者は来るんですよね。」
式場の誰かが尋ねると、
「そのーですね。来る事が出来ないそうなんですよ。」
その場所は、さっきとは違う静けさになる。
「じゃぁ、私やります。」
後藤は手を上げた。
113恋の炎 : 2001/02/26(月) 05:04 ID:cI.asXAI
「人工心臓って…生前いろいろカジオ君から聞いた事あるんで…」
後藤はこう続けた。
いつもとは違う、やる気の加減に後藤の家族が驚く程だった。

何故、ここまでやる気があるのか?…それは、後藤が仕組んだ作戦だったからだ。
(死んじゃったんだ…一度でもいいからキスしてみたかった…)
カジオが亡くなったと、知らせを聞いたときに悲しみでは無く、
不謹慎にもそう思ってしまった後藤は、
彼の死亡原因が心臓に関わる事で無い事から、この作戦を思いついた。
人工心臓がまだ止まってないと嘘の電話を友達に掛けてもらって、
皆を式場から一時的に追い出して、その間にキスする作戦。名付けて、
『人工心臓がまだ止まってないと嘘の電話を友達に掛けてもらって、
皆を式場から一時的に追い出して、その間にキスする作戦』である。
そのまま且つ無茶苦茶だ。

「危ないかも知れないんで、別の部屋にでも行ってて下さい。
ここは私一人で大丈夫ですから。」
そう後藤が言うと、なにが怖いのか。皆が部屋から出て行った。
『「大丈夫」と言えば、大体の人がその行為を危険と思う。』
テレビで得た知識だ。
114恋の炎 : 2001/02/26(月) 05:05 ID:cI.asXAI
棺桶の蓋を開ける。
「カジオ………」
後藤の目に涙が溢れてきた。
顔をカジオに近づけた時…
「トゥルルルルートゥルルルルー・・・・・」
電話が鳴り出した。
「まさか、アイツかな?こんな時に…成功してるってゆうのに。」
涙を拭い、後藤は電話を取る。
ガチャッ「はい、○○ですが。」
「葬儀中、失礼致します。カジオ君の担当医の菊地と申します。」
聞き覚えの無い声が、話を続ける。
「申し訳ないのですが、彼のペースメーカーの電源を切る手術を、
しておりませんで、そのまま焼くとマズイ事に…私ですね出張で、
今そちらへ伺えませんので、電源の方をそちら方で切っていただきたいと…」
後藤は固まっている。
作戦ではなく、本当に起きてしまったのだ。

「切り方は簡単です。左、鎖骨の下辺りに切開を縫った後がありますので、
その糸を切って下さい。手術して間もないので、くっ付いて無いと思います。
そうしましたら、青と赤のコードがありますんで、青を切って下さい。
その際ですね、脳に刺激がいって、少し生き返る場合があるので、
注意してください。では。」ブツッツーツーツー  ガチャン

早口の医者の言葉は、後藤が合いの手を入れる隙を与えず切られた。
「どーしよ……………よし、やるか…」
115恋の炎 : 2001/02/26(月) 05:06 ID:cI.asXAI
・・・・・プツン・・・・プツン・・・・・
ニッパーで糸を切るとコードが二つ、赤と………
「………赤だ。」
絶望が微かによぎる。しかし、嘘の電話で葬式を中断させたという罪悪感が、
後藤を後戻りさせない。
「こっちだ…」プッチン
・・・・・・・・・「あれ?真希ちゃんどうしたの?」
(生き返った、ってことは…成功した!)
「やったよ。カジオ!良かった。」
後藤は涙を浮かべて、起き上がったカジオに抱きついた。
「えっ?どうしちゃたの真希ちゃん、泣いちゃって。」
「ううん、なんでもない。ちょっと目を閉じて。
まつげのゴミ、取ってあげるから。」
「あぁ…うん。」
(もう少しでまた、眠っちゃうんだし…やっちゃえ)
後藤は、勢いで夏次雄にキスを…
ドカーン・・・・・・・・棺桶は炎をあげた。

どうやら、もう一方だったらしい。

・・・・・・・・熱海・・・・・・・・ピッ
「あっ!やばい、どっちも赤だった。」
「ええやん、そんなん。それより…」
「ま、ま、待てよ裕子。気が早いって…おいおいおいおい」
恋の炎は、菊地と中澤からも上がっていた。

〜了〜