340 :
保田と吉澤 :
田舎の小道を二人の女が歩いている。
「もし、あのバスの馬鹿運転手が、でまかせさえいわなかったら、
あたしはすんなり店まで行けたのよ。
すぐそこだって、もう六キロも歩いてるじゃないの!」
「いい、あたしが店の人と話すから、あんたは一言もしゃべるんじゃないわよ。
あんたはただ立ってるだけでいいの。
もし、あんたの、元爺とかピーターがばれたら、あたしたちは仕事をもらえないけど、
あんたがしゃべるのを聞くまえに、あたしの歌いっぷりを店の人が聞いたら、
あたしたちは仕事をもらえるのよ。
あんた、わかった?」
もう一人の女が、おずおずと彼女のほうを見た。
「かよこさん?」
「うん、なに?」
「わしら、どこへ行くんじゃったかのう、かよこさん?」
341 :
保田と吉澤 : 2000/12/27(水) 23:28 ID:xiJ2OV2g
「あんた、もう忘れたの、ええ?
あたしはまた繰り返さなきゃならないの?
まったくもう、あんたは大馬鹿だね!」
「すまんのう。わしは忘れてしまったんじゃよ」
「いいよ。もういっぺん、話したげるよ。
あたしたちは新しい店に行くんだよ。
前の街にはもういられなくなったからね。
もうあんなことするんじゃないわよ」
吉澤はふにおちないような顔をした。
「あんなことじゃとのう?」
「じゃあ、あんたはそれまで忘れちゃったの、ええ?
でも、これは、またあんたが繰り返すといけないから、思い出させないでおくわよ」
すると、吉澤はなっとくがいったように、急に明るい顔になった。
「わしらは前の店を追い出されたんじゃった」
と、彼女は得意そうに大声をあげた。
「あたしたちが追い出されたって、なによ」
と、保田はうんざりしたようにいった。
「あたしたちのほうが出ていってやったのよ」
吉澤は、うれしそうに、くすくす笑った。
「わしは忘れてなかったじゃろう、のう、かよこさん」
二人は歩き続けた。