短編小説・「あいぼんはーと」

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1ののたん
短編書きます。ののたん主人公です。
暇でしたら読んでくらさい( ´D`) 
2ののたん:2001/08/14(火) 12:17 ID:/i7TQciM
  はあぁ… △ばっかりだぁ… またお母さんに怒られるよぉ…

希美は、たった今担任の教師から手渡された通知表を無造作にバックの中に差し込んだ。
7月20日。彼女が中学生になってから、初めての終業式の日だ。

  中学校入ったらちゃんと勉強する、って言って買ってもらったのになぁ…

ポケットに手を入れて、携帯電話を軽く握った。

  「―の、なぁののったらぁ!」
  「えっ? あ、あいぼんー」

希美は不意に腕をつかまれてハッと振り返った。クラスメイトの亜依だ。

  「もぉ、何ボーッとしてんねん。そんなに成績まずかったの?」
  「んんー、もう全然ダメ。国語なんか1だよぉ」
  「ホントかいな… でもわかるわぁそれ」
  「えっ? ナニ、なんで?」
  「だってのの、詩の朗読のとき全然読めてなかったんだもん」
3ののたん:2001/08/14(火) 12:18 ID:/i7TQciM
痛いところを突かれ、希美は少し頬を膨らませた。

  「そういうあいぼんはどうなの?成績。」
  「わたし? もう凄いよ、全部◎。」
  「ウソぉ!? 全部!?」
  「ウソじゃないよ、……音楽だけやけどね」

亜依は去年の春、関西から東京に越してきた。希美とはすぐに打ち解けて、今じゃ大の仲良しになっている。暇があればこうしておしゃべりをしているが、亜依は未だに訛りが抜けきっておらず、なんだか中途半端な関西弁を話すのだった。

  「もぉー、からかわないでよ、ののだって音楽は全部◎だもん」
  「あー、 やっぱりのの歌うまいもんねぇ」
  「あいぼんだって上手…」
――「加護さん!席に付きなさい!」
先生の怒声に、亜依は慌てて自分の席に戻った。
先生の長い話の間、亜依はクスクスと笑っているように見えた。希美にはその理由が解からず、何だか自分が馬鹿にされているみたいな気がして再び頬を膨らませた。
4ののたん:2001/08/14(火) 12:20 ID:/i7TQciM
希美と亜依には夢があった。いつかこの二人で歌手になることだ。希美も亜依も、歌の上手さはクラスで群を抜いている。

―きっと二人で歌うたおうね!
―きっとやないよ、絶対だよ!

何かというとこんな話をしていた。
そんなある日…

ピッピッピ…ピッピッピ…

  あっメール…あいぼんからだ。

  [ 夏休み、オーディション受けようよp(^-^)q
     LOVEオーディション21ってね……       ]

突然の話に希美は途惑いもしたが、8月中に終わるらしいし―もし最終選考まで残ったとしても―、両親も初めこそ嫌な顔をしたものの、どうにか認めてくれた。
5ののたん:2001/08/14(火) 12:26 ID:/i7TQciM
二人は持ち前の度胸で一次審査、二次審査もあっさりパスした。そして三次審査…ここを通れば合格まであと1つだ。
しかし、希美は亜依と別の審査部屋になった。少し寂しがり屋の希美だったが、おおよそいつも通りに歌い貫いた。

  「ののぉ、どうやった?」

ロビーのソファに座っていた亜依が、希美の姿を見て嬉しそうに駆けよってきた。

  「うん、ちゃんと歌えたよ! あいぼんは?」
  「んー、ちょっと緊張したぁ。でも歌はバッチリだったよ」
  「そっかぁ…。受かるといいね!」

ドアをくぐると、焼けるような陽射しとドロッとした湿気が身体にまとわりついた。
駅につくまでに二人ともだいぶ汗ばんでいた。そのせいか電車の中はいささか寒気を感じる程だったが、外に出ると再び汗が噴き出てきた。
6ののたん:2001/08/14(火) 12:28 ID:/i7TQciM
  「なんか嬉しそうやね、どうしたん?」

暑さにだれている亜依とは対照的に、希美は何故か張りきっているようだ。歩きながら時々ニヤけたりもしていた。

  「だってさぁ、もうすぐあいぼんと歌えるかもしれないじゃん。これって私達のユメだよね! ユメがかなうんだよ!」
  「そうだよね…。でも、でもね? もしかたっぽが受かって、もうかたっぽが落ちちゃったらどないする…」

亜依のトーンはいつになく低かったが、それを見た希美はすかさず亜依の正面に回り込み、笑顔で答えた。

  「その時は、ゴメンナサイって言ってやめちゃえばいいんだよ」
  「…辞退するってこと?」

希美は亜依の目を見つめて頷いた。
7ののたん:2001/08/14(火) 12:29 ID:/i7TQciM
  「でもそれじゃ…それじゃ、折角難しいオーディション受かった意味がないやん。…こんなチャンス逃したら、もう二度と歌手になれないかもしれないんだよ!」
  「そんなことないよ、そんなことない。だってね…だってののはあいぼんと一緒じゃなかったら歌手になんかなりたくないもん」

早口で言いきって、希美は少し恥ずかしそうに目を横にそらせた。

亜依はこの一途な少女を目の前にして、今まで悩んでいた自分が恥ずかしくなってきた。情けないとも思った。だがそれ以上に、希美の気持ちが嬉しかった。嬉しくてたまらなかった。


  「そうだね…。なんも悩むことなんてないんやね…」
  「あいぼん、…どうしたの、泣いてるの?」
  「えっ、ち 違うよ、汗が目に入っちゃって…」

いくら鈍い希美でも、このときは亜依が嘘をついていることがハッキリと判った。しかしそれ以上は何も口に出さなかった。
8ののたん:2001/08/14(火) 12:30 ID:/i7TQciM
暫く沈黙が続いた後、ふと亜依が声を震わせて言った。

  「…ゴメンな、のの…」
  「えっ? どうしたの急に…」
  「ウチな、…わたしね、のののこと大好きなんだよ……それなのにウチ、ののと別々になることばっか考えてもうて…。」

涙が亜依の頬を伝った。喉で息をしながら、亜依は続けた。

  「だめだね…ののはいっつもウチのこと考えてくれてるのに…ゴメンな、ゴメンね……」

そこまで言ったとき、亜依のかすれた声を黙って聞いていた希美がいきなり声をあげて笑い出した。
9ののたん:2001/08/14(火) 12:31 ID:/i7TQciM
亜依が赤くなった目を丸くした。

  「なに…何が可笑しいん?」
  「くふふふ、だって、あいぼんがのののこと大好きなんて言ってくれたし、それにね、のののためにこんな真剣に悩んでくれてるんだなって思ったらもう、嬉しくってしょうがなくって、ゴメンね、あいぼんが真面目な話してるのに。くふふふ!」

亜依は言葉を失った。ただ、今目の前でくふくふと笑っているこの少女には、自分をとがめたり恨んだりする気など全く無いという事。それだけは確実に伝わっていた。

  「行こ、あいぼん」
  「…うん」

希美は亜依のことで頭がいっぱいだった。浮かれていたのかもしれない。そう、周りが見えなくなる程に…

  「待ってよののぉ、そんなに走らないでよー」
  「だって勝手に足が動いちゃうんだよ、しょうがないじゃん。ねえアイス食べよっか」

前にコンビニが見えた。ようやく追いついた亜依を尻目に、希美はまた足早に歩き出した。

  「早くおいでよー、あいぼ…キャッ!!」
10ののたん:2001/08/14(火) 12:56 ID:LzcGihmY
亜依を呼ぼうとして振り返ろうとした瞬間、希美は突き飛ばされて前に倒れこんだ。同時に、低くて鈍い、何かがぶつかったような音…

  「イタタ、ヒザ擦りむいた…」

痛みに顔を歪めながら希美は後ろを振り向いた。

希美の真後ろに、まばゆいほど日を照り返すものがある。希美は目を細めた。シルバーの車だった。そして、その横には亜依がうつ伏せに横たわっている。

頭の中が真っ白になった。何が起こったか理解できなかった。

風が止まった。せわしいセミの声も、背中を伝う汗も、真上から焼けつく太陽も…、希美には何も感じられなかった。
ただ、ピクリとも動かない亜依を食い入るように凝視した。
11ののたん:2001/08/14(火) 13:36 ID:LzcGihmY
  「あいぼん、あいぼん! 起きて、あいぼん!」

救急車の中で希美は亜依の名前を叫びつづけた。

  亜依が…、亜依が私を突き飛ばしてくれたの?
  それで自分がこんな目に…?
  酷いよ、酷いよあいぼん…それじゃ、私どうすればいいの!?

  「起きて、起きてよ、亜依! 寝てなんかないで! やだよ、起きてくれなきゃやだ! 亜衣、起きて!!」

なにも反応は無かった。ただ、病院に着いて手術室に運ばれる直前、亜依の閉じられた目から一筋の涙が流れている…希美にはそんな風に見えた。


「脳死」…それから2週間、医師の下した結論だった。

三次審査は亜依も希美も受かっていた。
二人とも最終審査に出ることはなかった。
12ののたん:2001/08/14(火) 14:10 ID:JTZbj2UM
― 三年後 ―

希美は高校に入って、最初にできた友達がいた。関西出身の、亜弥という娘だ。
入学式の日、希美は亜弥を一目見て懐かしい感覚を覚えた。亜依に似た雰囲気を感じた。

  関西の娘だからかな…

亜弥は身体が弱いらしく、体育はいつも見学だった。選択科目では希美と同じ音楽をとっていたが、満足に歌うこともできなかった。

  「希美ちゃん歌上手いよね、羨ましいなぁ」
  「そうかなぁ…、でも前までは歌手になるのがユメだったんだ」
  「前まで? 今は諦めちゃったの?」

希美は言葉を詰まらせた。答えが見つからなかった。

  「あのね、私、前に心臓の手術受けたんだ」

希美が黙りこくっていると、亜弥が突然切り出した。
13ののたん:2001/08/14(火) 14:11 ID:JTZbj2UM
  「私、生まれたときから心臓が弱くって、運動なんて少しもできなかったし、学校にもあんまり行けなかった」

希美は黙って聞いていた。

  「だからね、友達も全然できなかったし将来のユメなんて何にもなかったんだよ。…でもね、今は違う」
  「今…は?」
  「うん、三年前にね、心臓の移植手術受けたんだ。それから急に歌を歌いたい、って思うようになってね、今はまだ心臓に負担がかかるからあんまり歌えないんだけど、もう少し良くなったら思いっきり歌っていい、ってお医者さんに言われてるの! それにね、それに東京に来てからすっごく調子がいいんだよ!」

亜弥は本当に嬉しそうな顔で話した。

  「ねえ、その…、亜弥ちゃんの心臓、提供してくれた人のこと知ってる?」

希美はなにかに駆り立てられるように聞いた。
14ののたん:2001/08/14(火) 14:12 ID:JTZbj2UM
  「えっ? あ うん聞いてるよ。同い年の娘でね、東京で交通事故に遭ったらしいんだ」

希美は直感した。

  亜依は…、亜依は生きてるんだ…! この娘の中で今も、今でも力強く鼓動を刻んでるんだ!!

  「の 希美ちゃんどうしたの!? 私、悪いでも言った?」

突然大粒の涙を流し出した希美に、亜弥は慌ててハンカチを差し出した。

  「うん…、ゴメンね、何でもないんだ」
  「何でもって…、だっていきなり泣き出すなんて…」
  「ねえ、亜弥ちゃん!」

急に希美が声を明るくして言った。

  「なに?」
  「亜弥ちゃんの心臓がすっかりよくなったらさ、私達一緒に歌を歌おうよ!」



――二人しかいないのに自称「三人組」という不思議なユニットが世間を騒がす事になるのは、それからさらに5年後の話だ。


                       ― 完 ―
15:2001/08/14(火) 14:12 ID:JTZbj2UM
書き終わりage
16名無し娘。:2001/08/14(火) 14:18 ID:PvPDgEt6
良い話。
感動。
17名無し娘。:2001/08/14(火) 14:22 ID:PvPDgEt6
感動age(何
18名無し娘。:2001/08/14(火) 14:26 ID:HdQ5CPXM
グラスハート・・・
19名無し娘。:2001/08/14(火) 14:57 ID:JKdAeFS6
いい話だね。
でも、こんなこと書くの申し訳ないけど、臓器提供者の情報ってそんなに細かく
教えてもらえるのかな?(教えてもらえるんだったらスマソ)
加護の心臓だって分かるところを、もっと凝って書いてもらえたら最高。
20名無し娘。:2001/08/14(火) 19:16 ID:/YxXWS.2
続かないの?
21:2001/08/14(火) 20:12 ID:/i7TQciM
>>16 17 18
どもありがとうございます。反響があってこちらも感動です(w
>>19
スマソ、1は何も考えずに書いてたので(藁
そのへんはふぃくしょんってコトで大目に診てください。
>>20
ちょっとキツいです。
1にもっと発想力とか文才とかあれば…(藁
22名無し娘。:2001/08/14(火) 20:20 ID:VpqXlprc
十分あると
23名無し娘。:2001/08/14(火) 20:27 ID:4V7HCXDc
お見事。24時間TVでキャストそのままで見たいぐらい良い
24名無し娘。:2001/08/14(火) 20:31 ID:IrHJYDVY
よくがんばった!感動した!
25名無し娘。:2001/08/14(火) 20:34 ID:bzD8VDpA
感動した!!
26名無し娘。:2001/08/14(火) 20:44 ID:udLJ/GzQ
>>18
俺もチョト思った。
27名無し娘。:2001/08/17(金) 03:41 ID:qtVzaYn2
保全
28名無し娘。:2001/08/17(金) 19:21 ID:yOaPew7I
 
29名無し娘。:2001/08/18(土) 16:25 ID:0I4GjXZE
保全
30名無し娘。:2001/08/19(日) 07:45 ID:35MU79iQ
31名無し娘。:2001/08/20(月) 01:22 ID:oKMRhSjM
hozen
32名無し娘。:2001/08/20(月) 17:55 ID:Cr4m2wLc
a
33名無し娘。:2001/08/20(月) 18:02 ID:zBQHy4Sw
感動した・・・
34名無し娘。 :2001/08/21(火) 00:04 ID:QFcJTdjw
研よりずっと感動するね
35名無し娘。:2001/08/21(火) 01:37 ID:lcYbY.HE
かんどうしたYO!
36名無し娘。:2001/08/22(水) 10:43 ID:AuQQpxt2
h
37名無し娘。:2001/08/22(水) 10:49 ID:SmVg2OWU
染んでもええわ・・・
38名無し娘。:2001/08/22(水) 11:21 ID:Am3sVUGo
保全
39ののたん:2001/08/22(水) 11:29 ID:8f/dK9C6
皆さんお待たせしました。
今晩より続編「じゃいぼんはぁと」開始します。
40名無し娘。:2001/08/22(水) 14:40 ID:Am3sVUGo
がんばれ!
41
このスレまだ生きてたんですね(焦
保全してくださた方、どうもスマソ。

>>39
続編を書くのは構わないけど勝手に漏れの名前使うのはやめてくれ。