【小説】FOX TWO モー娘。航空戦

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1DUKE
東西の最新鋭兵器が激突する最大の航空戦に参加したパイロット、石川梨華とその仲間達を描く物語。
ネタ本あるので簡単に行きます。
以下はsage進行にて。
2FANNEL™ ◆wcDO2cRU:2001/08/09(木) 19:59 ID:KJuSZbKs
うたばん見てるので人が集まらない
3DUKE:2001/08/09(木) 19:59 ID:p1rg5Kyg
■ プロローグ

空母ハロープロジェクト。通称ハロプロ。
艦弦のデッキで外を眺めているのは、空母ハロプロ航空団、「ファイティング・ドーターズ」飛行隊に所属するF−4Jファントム戦闘機のパイロットである石川梨華大尉だった。

ハロプロには、F−4戦闘機だけでなくA−6やA−7のような攻撃機、偵察機RF−5、電子妨害機EA−6、空中給油機KA−3、ヘリコプターSH−3など、約90機の航空機が搭載されている。
4名無し娘。:2001/08/09(木) 20:09 ID:uUdsaXHo
F-4Jって艦載運用できたっけ…??
(J型=航空自衛隊仕様)
5名無し娘。:2001/08/09(木) 20:10 ID:uUdsaXHo
すまん忘れた。
6DUKE:2001/08/09(木) 20:17 ID:ccWAegvY
>>4
惜しい!航空自衛隊使用はEJとEJ改です。
ちなみにネタ本は鳴海章さんの小説ではありません。
7DUKE:2001/08/09(木) 20:17 ID:ccWAegvY
何年にも及ぶ戦争の中、海軍と空軍は苦しい戦いを強いられていた。しかし今や、石川を始め海軍の戦闘機搭乗員の練度は世界最高のレベルに達しているとの評価を受け、また「ファイティング・ドーターズ」飛行隊長の中澤中佐や空母ハロプロ航空団司令の寺田中佐も自らの部下に絶大な信頼を置いていた。
8DUKE:2001/08/09(木) 20:18 ID:ccWAegvY
前回の戦闘航海(ツアー)を終え郷里に帰還したときには「よくやった!」と高い賞賛を浴びた石川ではあるが、彼女自身は自分のやった事と言えば浜崎あゆみのCD発売枚数を何枚か減らしたのと、宇多田ヒカルのニューヨーク行きを若干遅らせた事くらいしか考えていなかった。その風貌から頂いたコールサインの“チャーミー”だったけど、この程度の戦果では郷里の英雄、HIDEに顔向けが出来ないだろうと。

しかし今回は違っていた。敵国は支援国からの補給を受け、大規模な攻撃を始めるであろうことが偵察機からの報告で判明していた。ここ数ヶ月間で敵MiG戦闘機の活動も大幅に増えている。石川の向かう先には敵の強力な軍事力が待ち構えているのだ。
9名無し娘。:2001/08/09(木) 20:19 ID:uUdsaXHo
>>6
あそうだっけ。勘違いスマソ。
鳴海章なんて名前、久々に聞いたなあ…。

#ふと、BLACK ONIX を思い出したYO。
10DUKE:2001/08/10(金) 01:38 ID:N04FiANI
■1機目

「やっぱここだ〜かおりんが呼んでるよ。大至急だって」
「すぐ行く、よっすい〜」
石川は不意に声をかけられた。石川の乗るF−4Jファントム戦闘機は二人乗りである。前席と後席に分かれ、前席は操縦を、後席は海軍ではRIO(リオ)空軍ではWSOと呼ばれレーダーの操作を行う。RIOは操縦はこそしないが、我が海軍では前席と待遇に差はなく、後席の方が階級が高かったり、RIO出身の飛行隊長も珍しくない。そして今声を掛けた石川の相棒――海軍ではほぼ固定されている――は吉澤ひとみ大尉であった。
11DUKE:2001/08/10(金) 01:39 ID:N04FiANI
「チャーミー、急いで敵航空基地攻撃隊の護衛任務(MiGCAP)の準備してちょ。本当は私が行きたいんだけどさ。ゆーちゃんがあんたにやってって言うんだ」
“ゆーちゃん”とは飛行隊長の中澤中佐、“かおりん”は飛行隊副長の飯田中佐のコールサインである。仲間内なら階級の上下関係なくコールサインで呼び合うのが常である。

この知らせに石川はエキサイトした。前回の戦闘航海では政治的制約のため「牛乳配達」と呼ばれる早朝を狙った爆撃や偵察任務が主だったのに、今回はいきなり敵機と交戦、撃墜できるかもしれないMiGCAP(CAP:空中戦闘哨戒)任務が当たったのだから。
12DUKE:2001/08/10(金) 01:40 ID:N04FiANI
攻撃隊の全体ブリーフィングの席上、石川は度肝を抜かれた。前回の戦闘航海の時にはほとんどなかった、敵の対空砲火(AAA)や地対空ミサイル(SAM)の位置を示すカラー・ピンがまるで一昔前のスパンコールの衣装のように作戦図の上を覆っていたのである。近く開始される侵攻作戦を円滑に行うためにはこの基地の防御は堅牢にする必要がある。敵は本気なのだ。

長い全体ブリーフィングを終え、編隊ブリーフィングに移る。
編隊僚機(2番機)は、前席が加護亜衣中尉“あいぼん”後席は矢口真里大尉“まりっぺ”である。吉澤と加護は今回が初めての実戦なので少し落ち着かない。しかし形勢を有利にするためには、作戦ごとに長時間の計画とブリーフィングが必要とされるのだ。その頃パイロットより多くの人数の整備員が機体を整備し、燃料や弾薬を搭載している。

「チャーミー、出番だってさ。」飛行隊の作戦士官でツアー4回の猛者“なっち”安倍なつみ少佐が電話に出て言った。安倍はこの作戦でもう一つのMiGCAP2機編隊を率いるのだ。
13DUKE:2001/08/10(金) 01:44 ID:N04FiANI
>>9
ちなみに海軍型なんで、機関砲を搭載してなかったりします。
BLACK ONIXって、ゲームのことですか?
その系統の話は、良く分かんないんでごめんなさい。
14名無し娘。:2001/08/10(金) 06:33 ID:ByWe8CMQ
>>13
あんたマニアックやねえ。オレモナー(藁

BLACK ONIX って空戦モノの小説がちょっと前にあったのよ。
ジャンプ系列の…なんていうんだっけアレ?? 背表紙の赤い、
CITY HUNTERとかの小説が出てるレーベルから出てた。

それは傭兵の話で、直接この話とは関係なさそうだけど、ふと、ね。
実在機も出てくるけど、架空機(試作機)がドンパチやってた。
まあまあ面白かったからこの手の話が好きなら読んでみてもいいかも。
でも、もう新本は絶版だろうなぁ…。

雑談sage
15DUKE:2001/08/10(金) 10:31 ID:VBQ5rqaM
>>14
どうもです。探してみます。
16DUKE:2001/08/10(金) 10:32 ID:VBQ5rqaM
石川の乗るファントムは既に準備を終えていた。機首から始め、右回りに機体を一巡し、直接触って点検を終えた後、石川は飛行機に乗るために機体から梯子を引き出した。機種後方にマークされた114という番号と飛行隊のコード・ネームのラブセンチュリーから、石川の飛行機は個人のコールサインで呼ばれないときは、ラブセンチュリー114と呼ばれる。

全て異常なし。エンジン始動の合図が出た。
チャーミーはプレーン・ディレクターに指示を出し、空気を送入してもらう。エンジンの回転があがった所で点火ボタンを押し、エンジンを始動させる。そうしてF−4の2基のエンジンを片側ずつ始動させるのだ。

「ほい」
そうつぶやきながら、石川は機体をカタパルトまで移動させる。ここでキャットクルーによって機体にカタパルトと結ぶためのワイヤーとブライドル・アレスター・ロープを装着する。これによってF−4のような重い機体が空母からカタパルトによって発進できるのだ。隣には加護と矢口が乗る2番機が、その後ろには安倍の編隊が続いている。
17DUKE:2001/08/10(金) 10:32 ID:VBQ5rqaM
ワイヤーが固定され、離艦準備の合図を受ける、石川がエンジンのスロットルレバーを前に進め、さらに左に押しやり前に押し込む。今日はアフターバーナーを使った最大出力での離艦である。しばしのタイムラグの後アフターバーナーが点火し、轟音を立てる。

バックミラーで後席を見るとバイザー越しに吉澤が緊張の表情を見せたが気にせず石川はキャット・オフィッサー(発艦担当士官)に左手で敬礼し発艦の合図を送った。同時にキャット・オフィッサーの右手が円弧を描いて艦首のほうを指した。

その瞬間、石川と吉澤の体に強烈なGがかかり、二人の乗ったファントムは洋上に射出された。
18DUKE:2001/08/10(金) 10:33 ID:VBQ5rqaM
「あいぼん イン ポジション」
石川は空母上で編隊を集合させ一路北上し、CAP空域を目指す。この時点で攻撃の管制はレーダー搭載巡洋艦プッチに移っている。洋上から敵国空域をレーダーで監視してくれる巡洋艦プッチのコールサインは「イエロースカイ」。管制を担当する保田兵曹長は、我が軍の戦果の内、11機の撃墜に協力した優秀な要撃管制官である。
19DUKE:2001/08/10(金) 10:34 ID:VBQ5rqaM
攻撃隊は何事もなかったかのように北上を続けていたが、チェックポイント通過の合図と共に無線封鎖が破られた。それと同時に石川はマスターアームスイッチをONにし武器を使用可能な状態にした。武器はミサイルが8発。飛行機のエンジンから発せられる排気熱を追いかける赤外線誘導のAIM-9Gサイドワインダーと中距離用のセミアクティブレーダー誘導(発射機から常に電波を目標に照射し、ミサイルはその反射派をたどって行く)のAIM-7Eスパローが4発づつである。ファントムは元々ミサイル専用の戦闘機として設計された事と、海軍が空母上での暴発を恐れたため、石川の乗るファントムに機関砲は搭載されていない。
20DUKE:2001/08/10(金) 10:35 ID:VBQ5rqaM
敵飛行場上空を通過しながら、石川は離陸してくるMiGを求めたが滑走路もエプロンももぬけの殻だったので、自分の編隊を攻撃隊と敵飛行場の中間に位置させ、MiGを阻止しようと考えた。

このとき突然、石川の機のレーダー警戒装置が作動した。敵地対空ミサイルSA−2ガイドラインのレーダーにロックオンされたのだ。
21DUKE:2001/08/10(金) 10:36 ID:VBQ5rqaM
「ツー・オクロック」
後席の吉澤の声。2時の方向に2基のミサイルが打ち上げられて来るのが目視することができた。石川にとってはやっかいな状況である。
「あいぼん、そっちは任せるね」
加護の機に飛んで来るミサイルは任せるとして、自分の機に飛んで来るミサイルを回避する事に専念しなければならない。迫るミサイルに対し、アンロード(0G)で一気に加速、ギリギリまで引きつけ急旋回でミサイルを振り切るのだ。

「ブレイクナウ」
吉澤の合図で石川は機体を旋回させた。すさまじいGで目が真っ暗になりそうだ。ミサイルは自分の機の下を通過する。回避成功。しかし石川には息つく暇はない。
「ナイン・オクロックにもう1基」
9時の方向からもう一つのミサイルが接近してきたのだ。石川は機体をアンロードに入れて加速し、今度はスプリットS(反転降下)でミサイルを振り切ろうと機体を背面に入れて操縦桿を一気に引いた。
22DUKE:2001/08/10(金) 10:37 ID:VBQ5rqaM
「やったぁ、チャーミー」
吉澤の声で何とかミサイルを振り切ったことを知る。
失った高度を得るのと、加護の機と合流するために機体を加速上昇しなければならない。どうやら加護の機も無事なようだ。

攻撃隊のA−6、A−7は果敢に目標を攻撃していた。滑走路に大穴を空け、見事に隠蔽されたシェルター(掩体壕)も見つけ出され破壊されていた。打ち上げれる対空砲火やミサイルに対しては制圧機が対レーダーミサイルとクラスター爆弾をもって沈黙させるのだった。
「そこのA−7、危ないよ〜」
加護の後席、矢口が叫ぶ。既に爆撃コースに入っていたA−7は、後ろからSAMが接近しているの気付き慌てて上昇する。目標を外れたミサイルは地面に激突したがその瞬間、大音響と共に爆発が起こった。燃料タンクに引火した火の玉が何百メートルもの高さに上がったのだ。「あーびっくり。まりっぺサンキュー」とはそのA−7のパイロット、稲葉少佐の言葉である。

爆撃の跡生々しい飛行場を後に、石川はもう引き上げ時かと思った。攻撃隊の護衛任務に当たるMiGCAPとアイアンハンド(対地対空ミサイル制圧機)、対空火器制圧機、電波妨害機は攻撃隊の最後の機が離脱するまで警戒に当たらなければならないのだが、そんな思いは視界に入った機影に打ち消された。
23DUKE:2001/08/10(金) 17:03 ID:Kq/mEf.A
「タリホー(敵機発見)、ブルー・バンデッド。飛行場北側からよ!」
石川は叫んだ。
かなりの低空ではあるが機体から白い排気光が見える。アフターバーナー装備のMiG−21だ。石川は機をMiGに向け追撃する。加護も付いてきた。
24DUKE:2001/08/10(金) 17:04 ID:Kq/mEf.A
石川の機は高度2000フィート(約600m)を、速度マッハ1.2でMiGに向かった。石川の機のレーダーでロックオン、スパローで撃墜するのがべストである。しかし一旦はロックオンしたものの、精度と信頼性が低いレーダは、MiGへのロックを外してしまった。
「あーんっ、もう」
元々海軍ではレーダー誘導のスパローミサイルは全ての状況で信頼性が低いか全く役に立たないとされていた。石川はサイドワインダーで撃墜すべく、ミサイルのセレクターを「RADER(スパロー)」から「HEAT(赤外線誘導ミサイルサイドワインダー)」に合わせた。
25DUKE:2001/08/10(金) 17:04 ID:Kq/mEf.A
後上方では加護と矢口の機がカバーしてくれるので安心だ。左に旋回したMiGを後から追いかける。
「チャーミー、チェック・シックス、クリアー。撃て!撃て!撃て!」
吉澤が後方には脅威がないことを伝える。石川に負けじ劣らずの容姿を持ち、いつもは大人しい吉澤だが、MiG撃墜のチャンスにとても興奮しきっているようだ。

サイドワインダーのロック完了を示すオーラルトーンが響く。吉澤の叫び声も耳に入っているが、石川は冷静にMiGの左旋回が終わり、今度は右旋回に移ろうとするまで発射を待つ事にした。
26DUKE:2001/08/10(金) 17:05 ID:Kq/mEf.A
石川の目論見通り、MiGは旋回を終え今度は右旋回に入ろうとした。
「チャーミー、フォックスツー、フォックスツー」
石川はサイドワインダーを2発発射した。一発は右旋回に移るため水平になったMiGの排気口に命中、もう一発は胴体を貫き、MiGは火の玉となった。
27DUKE:2001/08/10(金) 17:05 ID:Kq/mEf.A
「スプラッシュ!やったね、チャーミー!すご〜い!これでミグキラーの仲間入りだよ!」
後方で監視し、この瞬間を見届けてくれた加護と矢口からだ。これで石川の撃墜は認定される。攻撃隊も既に引き上げている。
「チャーミー、ビンゴ(燃料が帰投するだけしか残っていない)」
「チャーミーよりあいぼん、RTB(リターン・トゥー・ベース:帰還)」
低空をフルバーナーで飛んだので、吉澤から燃料がもうないことを告げられた石川は、加護と共に帰艦する事を決めた。
28DUKE:2001/08/10(金) 17:06 ID:Kq/mEf.A
着艦すると空母は蜂の巣に包まれたような大騒ぎになっていた。
撃墜のご褒美であるビクトリーロールの許可もネガティブ(拒否)され、石川と吉澤にとっては無愛想とも思える対応だったが、キャノピーを空けると機体の周りが人の洪水でごった返した。
「石川大尉、吉澤大尉、おめでとう」
「おめでとう」
「さすがね、チャーミー」
「ファイティング・ドーターズ」飛行隊の面々、空母航空団司令で今日の攻撃隊の指揮官を務めた寺田中佐、艦長の瀬戸大佐、空母機動部隊司令官の山崎提督、機動部隊幕僚の堀内中佐の姿が見えた。そんなみんなを書き分け飛行機に登ってきたのは機付長の夏まゆみ兵曹であった。

「石川大尉、やりましたね」
「夏兵曹、あなたのお陰です」
夏を始めとした多くの整備員、兵装員の協力無しでは海軍にとって2年振りである撃墜戦果をあげる事は出来なかっただろう。それを思うと感激で、夏も石川も吉澤も涙で溢れ返っていた。
29DUKE:2001/08/10(金) 17:06 ID:Kq/mEf.A
それからの数時間、石川と吉澤は撃墜の報告書作製と質問攻めがいつまでも続くパーティーでおおわらわになった。主役である石川は上機嫌であったが思いがけない質問を浴びせられた。

「チャーミー、いざ人を殺すとなると、どんな気持ちになるのか教えてくれ」
石川は床の上に叩きのめされたような、強烈なショックを受けた。質問者をじっと見つめたが答える事は出来ず、俯いたまま席を飛び出し、自室に閉じこもってしまった。
30DUKE:2001/08/10(金) 17:07 ID:Kq/mEf.A
石川はそんな質問でひるむとは思わなかった。前回のツアーでも爆弾を落としてきたじゃないか。その時は砂漠での訓練と対して変わらないと思ったが、今回は人が一人死ぬのを間近で目撃したのだが防衛本能から殺人という側面は心から締め出していたのだった。
31DUKE:2001/08/10(金) 17:08 ID:Kq/mEf.A
翌日。
朝一番で石川は隊長から呼び出された。
「なっちも相当苦労したようやからな」
石川の様子を心配し中澤に告げたのは、飛行隊の作戦士官、安部であった。安倍は前々回のツアーでMiGを1機撃墜している。

中澤隊長が憂慮している事は容易に想像ついた。今度石川が敵機に遭遇した時に石川は戦闘をためらうのだろうかと。もしそうならそれは石川当人だけでなく、一緒に飛ぶ仲間達の死を意味する事もあるのだ。

とりあえず、中澤との話し合いで基本的な問題は解決された。
今度敵に遭遇した時、石川は再び同じことができるはずである。しかしそれが好きになる必要はないのである。他人を死なせるという行為は石川にとって当然いい経験ではないし、その残存効果が根強く残る事になるだろう。

一応、そのショックは大きいであろうと判断した中澤は、飯田と安倍に相談した上で、石川と吉澤に一時的に静養するように勧めた。
その日の夕方飛び立った輸送機で二人は空母を後にした。
32DUKE:2001/08/11(土) 10:46 ID:cvEf93z.
■サマーナイト・タウン

夏兵曹は石川たちに心から休息してくれる事を祈っていたが、真面目な石川は自分達だけがのうのうと休息かとあまり乗り気ではなかった。しかし休養地「サマーナイト・タウン」の街の灯が見える頃には、休息も悪くないと考えを変えた。

着陸すると話は先回りしていたようで、二人は再び握手攻めに合わされた。知り合いはいないかと話をしているうちに、石川はここに「サヤカ」がいると知ったので「サヤカ」の部屋に行ってみる事にした。
33DUKE:2001/08/11(土) 10:47 ID:cvEf93z.
「市井紗耶香少佐、石川梨華大尉であります!」
石川の新人時代の教官パイロットであった“サヤカ”市井紗耶香少佐はベットで寝ていた。
「どうしたんですか?」
尋ねても答えない。
しばしの沈黙・・・。
「ごめんごめん、先祝いで飲み過ぎちゃってさ。和田が飲ませるもんだから、頭ガンガンなんだよ。」
市井は重い口を開いた。
34DUKE:2001/08/11(土) 10:48 ID:cvEf93z.
「聞いたよ。イワン・ターンの瞬間を狙って撃ったんだってね。なかなかやるじゃないの」
イワン・ターンとは後方視界が悪いMiGが死角を確認するために左右への旋回を繰り返して確認することである。教条主義的な敵戦闘機は、そのままスピード出して逃げれば逃げ切れるのに、旋回を繰り返すことで大事な運動エネルギーが失われた絶好の標的になってくれることが、戦訓から分かっていた。

石川が新人パイロットだった頃、市井にはっきり言われた事がある。
「チャーミーが一人前になる前に、私がミグキラーになる。」
そういう経緯もあって石川は早く市井に会いたかったのだ。
自分が先にMiGキラーになったので、石川は市井に褒められるとは思いも寄らなかった。新人パイロットの時にはブリーフィングとディブリーフィングにプロらしさを求め、自分と相手の機体、兵器システムがどのように作動したか的確に報告する事を教えてくれた。石川はそんな市井のようなパイロットを目指して訓練してきたのだった。そんな幸運を石川はしみじみ感じていた。
35DUKE:2001/08/11(土) 10:48 ID:cvEf93z.
数日間、吉澤と共にプールサイドで日光浴をしながら思案にふけっていると、自分のいるべき場所はどこかが分かってきた。――退屈なプールサイドではなく、仲間たちと一緒に戦う空母――休みを切り上げ、二人で空母へ戻る事にした。

戻ってくると武装したファントムが次々と離艦していた。中澤隊長に迎えられ甲板に降り立った。
「チャーミー、気分はどうだ」
「良好であります」
「では2時間後に発艦、空母機動部隊周辺の哨戒任務を与える」
36DUKE:2001/08/12(日) 16:53 ID:lbM/0eZQ
■ 2機目

石川が最初のMiGを撃墜した直後から、敵国は大規模な侵攻作戦を開始した。何百両もの戦車や装甲車で構成された機甲師団が非武装地帯を越えたのだ。これによって、これまで政治的制約によって制限されていた無条件爆撃の許可が出たのだ。海軍と空軍で敵国の交通網、工場、兵站施設を直接攻撃する「ラブ レボリューション」作戦が発動されたのだ。
37DUKE:2001/08/12(日) 16:54 ID:lbM/0eZQ
「ラブ レボリューション」初日はこれまでは政治的制約のため出来ないでいた、港に対する機雷封鎖が行われた。空母から発進したA−6、A−7攻撃機から投下された機雷は素晴らしい効果を発揮し、敵国は攻勢の断念を余儀なくされるかと思われた。

この日石川は攻撃隊に参加し、敵の高射砲や地対空ミサイルの陣地に対して爆撃を行った。石川自身がMiGを撃墜する事はなかったが、海軍全体では5機のMiGを撃墜し、これまでにない気分の高まりを感じていた。

この当時、敵国ではパイロットに「一つ、黄色い雪を食べない事。一つ、灰色のファントム(空軍のファントムは緑とタンの迷彩色)を攻撃しない事」と指示していたという。
38DUKE:2001/08/12(日) 16:54 ID:lbM/0eZQ
翌日、石川にMiGCAPのミッションが与えられた。今度は敵トラック集積所に対する攻撃隊に先行し護衛する任務である。空からの攻撃は橋梁、補給用道路、鉄道網、物資集積所に向けられる事になったのだ。

計画は周到、ブリーフィングは綿密に行われた。発艦し編隊を集合、北上した所までは上手くいったのだが、作戦地域の天候がすぐれず敵地進入の許可が出ない。このままではせっかくの作戦が中止になってしまうかもしれないと石川は焦った。
「こちらラブセンチュリー114、イエロースカイ、前進か中止かはっきりさせてよ」

しばらくヘルメット内で雑音が響いた後、巡洋艦プッチから保田兵曹長のきびきびとした声が聞こえた。
「ギコ猫さん、敵地進入への飛行を許可します」
39DUKE:2001/08/12(日) 16:54 ID:lbM/0eZQ
「ミグ、ミグ、ミグ、そこらじゅうミグだらけよ!」
A−7のパイロット、稲葉大尉は叫んだ。攻撃であるA−7にも空対空ミサイルは搭載されているが、攻撃機はまず第一に敵地の爆撃が任務である。

この無線を聞いた、石川とは別のMiGCAP編隊を率いる安倍なつみ少佐は海軍のエースコントローラー、保田兵曹長に誘導され上空へ向かった。
40DUKE:2001/08/12(日) 16:55 ID:lbM/0eZQ
「りんねよりなっち、ジュディ、ボギー、333、40」
安倍の僚機の戸田鈴音大尉(前席)、木村麻美中尉(後席)のファントムのレーダーがミグを補足したのだ。安倍はまだロックオンできないので戸田の機を先頭にMiGを追尾に入る。
41DUKE:2001/08/12(日) 16:55 ID:lbM/0eZQ
注:戸田大尉、木村中尉は「レザーネック」と呼ばれる海兵隊からの交換士官
42DUKE:2001/08/12(日) 16:56 ID:lbM/0eZQ
「イエロースカイよりなっち、チェック、テン、オクロック」
保田兵曹長が10時の方向に敵機がいるのではないかと安倍に警戒を促した。そのうち安倍は保田の言う10時方向に2機のMiG−21を発見した。敵機の高度はやや下、まだ安倍と戸田に気付かない様子だ。安倍は後席の辻に後方の警戒を促しながら、戸田に攻撃させようと指示を出した。
「りんね、エンゲージ。なっち、サポート」(エンゲージ:交戦するとの隠語)
43DUKE
「あさみ、レーダーでロックオンできる?」
「りんね、ボアサイトでお願い。少し左。もうちょいで追いつく」
戸田は、射程の長いレーダー誘導のスパローを発射した。スパローの信頼性は低いので戸田は一瞬はずれたかと思ったが、ミサイルは見事にMiGの胴体を真っ二つにした。

もう1機のMiGは急旋回を切ったので、戸田は危うくオーバーシュート――敵の前に飛び出してしまうところだった。左に逃げるMiGに対して今度は安倍がその後方に回り込み、サイドワインダーを発射した。ミサイルはMiGの排気口を直撃し続いてキャノピーが吹き飛んだかと思うとパイロットが射出座席で飛び出してきた。

2機が撃墜されるまでの間はわずか一分半の事であった。安倍がパラシュートで降下するパイロットの周りを旋回すると、MiGのパイロットは口惜しそうにして顔を背けていた。