1 :
TONBA:
どうかな
2 :
名無し娘。:2001/06/04(月) 22:48 ID:C4RIo3wY
さぁ?
3 :
TONBA:2001/06/04(月) 23:00 ID:2LSq4MXM
誰が主人公がいい?
誰でも良いよ。
4 :
TONBA:2001/06/04(月) 23:02 ID:2LSq4MXM
と言うわけで、アンケート開始。
5 :
名無し娘。:2001/06/04(月) 23:03 ID:v5rS5xDU
じゃありかっちで
6 :
名無し娘。:2001/06/04(月) 23:06 ID:ecLl/75I
田中真紀子
外務省大冒険もの
7 :
名無しのサッカー小僧。。。:2001/06/04(月) 23:06 ID:5OzqmJWg
サッカーなら吉澤。
8 :
TONBA:2001/06/04(月) 23:25 ID:XsgvNcxQ
再集計開始。
9 :
名無し娘。:2001/06/04(月) 23:29 ID:acoK7AdE
じゃああいぼんで
10 :
チーズ:2001/06/04(月) 23:57 ID:EJ7p3zH6
矢口さん。
11 :
名無し娘。:2001/06/05(火) 00:01 ID:ToufiIUk
辻がいいです
12 :
竹中:2001/06/05(火) 00:12 ID:Vc3mmkKE
韓国のKリーグではサッカー久慈(テル)「便所」が発売される模様。
13 :
TONBA:2001/06/06(水) 16:41 ID:retRqNLw
ネタが無いから放置して。
意見は参考にするけど・・・・。
14 :
TONBA:2001/06/14(木) 00:39 ID:zE3EHk.g
思いついたから誰か一週間保全してくれ。
お願いします。
15 :
名無し娘。:2001/06/14(木) 00:39 ID:BXXtuNMI
のの!のの!
16 :
名無し娘。:2001/06/14(木) 00:46 ID:ihjWb.j.
TONBA!トンバ!はいいや。
辻。
17 :
TONBA:2001/06/16(土) 22:13 ID:rxeDZn3c
自分で保全。
18 :
名無し娘。:2001/06/18(月) 18:55 ID:mLnnFy4o
保全
19 :
名無し娘。:2001/06/20(水) 00:22 ID:gwH4voGM
小説総合スレッドで紹介・更新情報掲載してもいいですか?
20 :
19:2001/06/20(水) 00:23 ID:gwH4voGM
話が始まったら、です。
21 :
名無し娘。:2001/06/21(木) 09:22 ID:EQFFZMF6
hozen
22 :
TONBA:2001/06/21(木) 22:29 ID:GAuQjsoM
説明
1年前、日本サッカー協会より、新たなリーグ設営の発表があった。
それは現在のJリーグの分身となるMリーグ(女子リーグ)の開催である。
Mリーグに所属するチームは全8チーム。1シーズン1ステージのホーム&アウェー制を取る。
それでは所属チームを発表しよう。
奈良ディア(ホーム・奈良)
三重パール(ホーム・三重)
スウィート鹿児島(ホーム・鹿児島)
シェル青森(ホーム・青森)
FC長野(ホーム・長野)
岩手SC(ホーム・岩手)
京都ドールズ(ホーム・京都)
神奈川バックス(ホーム・神奈川)
ちなみに昨年(一年目)の成績は
1.神奈川バックス
2.三重パール
3.FC長野
4.岩手SC
5.シェル青森
6.奈良ディア
7.スウィート鹿児島
8.京都ドールズ
得点王=平家みちよ(三重パール)
最多アシスト=安倍なつみ(シェル青森)
MVP=石川梨華(FC石川)
といった感じだった。
23 :
TONBA:2001/06/21(木) 22:31 ID:GAuQjsoM
>>22の修正
MVP=石川梨華(神奈川バックス)
ごめんね。
24 :
TONBA:2001/06/24(日) 00:40 ID:5eDAlwZs
開幕当初の予想と反して、日本代表候補が多い奈良ディアが低迷した。
外国人FWダニエルが得点数2位にもかかわらず、チーム失点がリーグ2位と、最悪な守備陣が原因だった。
今年、監督が前年の低迷を責任に辞任し、さらにストライカーのダニエルが
母国に緊急帰国。
大型補強したいといっても、大した金も無いので、補強も出来ない。
監督が一流の監督になるとの噂も立っているが、本当かどうかもわからない。
チームはただひたすら首脳陣の反応を待つだけだった。
吉澤ひとみは、前年、出場機会に恵まれず、3試合しか出ていない。
監督とのプレイスタイルの違いのおかげで出れなかったので、なんとしても
タイプの近い監督が選ばれて欲しかった。
今日、監督の発表があるとの事なので、吉澤は急いでクラブハウスへと
走って行った。
25 :
TONBA:2001/06/27(水) 00:00 ID:uj8s.cuI
「それでは、新監督を発表します・・・・。」
吉澤がミーティング室についた時コーチが監督をちょうど紹介する所だった。
「監督は・・・・パラモンティ・ネロ監督です。」
それを聞いた瞬間、全メンバーに動揺が起こる。
ネロ監督とは数年前、世界ユース大会出で、中国を率いて中国として初めてベスト4まで連れて行った名将である。
そしてその後、オランダの超一流クラブで監督をし優勝もした。
その監督がこの弱小チームにくるとは・・・・。といった心情だ。
「ハジメマシテ。」
ネロ監督が部屋に入ってきた。
「私ガコノチームノ監督ニ選バレタネロデス。」
ネロが、片言の日本語を使う。
これからの為に、勉強したんだろう。
「デワ、コレカラスグニチョットシタ練習ヲシマショウ。サ、グランドニデテクダサーイ!」
と、全メンバーをグランドへと出した。
26 :
名無し娘。:2001/06/28(木) 03:43 ID:gC9UfzSM
金が無いのに、どうやってそんな監督を呼んだのか。続き期待。
27 :
TONBA:2001/06/29(金) 00:02 ID:laou/K22
空は雲ひとつ無い快晴だ。
「コレカラコノトラック500mヲ1周2分デハシッテモライマース。」
ネロ監督がボードをそばにいたコーチから受け取り、コーチに指示する。
「じゃあ、始めるから着替えてきてくれ。すぐにこいよ。」
コーチが全員に着替える様指示する。
5分後、全員が集合する。
「では、始めるぞ。よーい、スタート!」
コーチがスタートの合図に、手を打つ。
各メンバー、一斉にスタートした。
30分が過ぎた頃に、それは起こった。
「・・・・・・・・・ハモウオワリデスネ。」
ネロ監督が、だんだんペースが下がってきた一人の選手を呼び止める。
「モウアガッテイイヨ。オツカレ。」
その選手は何がなんだかわからず、きょとんとしている。
「あがって言いそうだ。お疲れ〜。」
コーチがその選手の背中を叩き、そういった。
選手は何かわからないがとりあえず、あがることにした。
そして、それを境目に、ペースが下がってきた選手がどんどんあがっていく。
この試験の意図を何人かは気付いたようだが、吉澤は何かわからずひたすら走った。
28 :
TONBA:2001/06/30(土) 23:39 ID:p/gWc1Qw
開始から60分たった。
走っているメンバーの割合はスタメンの選手と、控えの選手が多くなった。
吉澤はまだ走っていた。
吉澤は控えではなくて、どちらかと言うと、控えにも入れない光の当たらない選手だった。
ネロ監督はまだ走りつづけるように指示する。
と、その時、司令塔の中澤が、足を引きずり始めた。
どうも、痛むらしい。
そんな中澤に、ネロ監督は言った。
「オツカレ。アガッテトレーニングコーチノトコロニイキナサイ。」
中澤はその言葉に甘えて、肩をコーチに支えてもらいながら、医務室へといった。
ネロ監督は手元のボードに、何か書いている。
吉澤はまだ走りつづけていた。
開始から90分たった。
もう走っているのはスタメンと吉澤だけだった。
そこに、コーチから声がかかる。
「この週でラストだ!ダッシュでゴールに入れ!」
みんな一気にスピードを上げる。
吉澤も負けじと、スピードを上げる。
スピードがグングン伸びて、前のほうまで来たと思うと、もうゴールだった。
1位ではなかったものの、良い位置で入った。
「オーケーデス!キョウハミンナアガッテクダサイ。」
ネロ監督はそう言って、手元のボードに何か書いて、クラブハウスへと歩いていった。
29 :
くそったれ娘、:2001/07/01(日) 00:49 ID:S3LrEHDA
( ´D`)y-~~<晒しage
30 :
TONBA:2001/07/01(日) 18:47 ID:DMfmUf.M
「お疲れ様でした〜。」
吉澤がさっさと着替えて、
吉澤は、中澤のいる医務室まで走って行った。
「失礼します!」
吉澤が医務室に入った。
「あ、ひとみ。お疲れ様。」
「中澤先輩、足、大丈夫ですか?」
吉澤が心配そうに笹本に言った。
「うん・・・古傷がちょっと痛んでな・・・でも大丈夫や。」
「まだまだ先輩には教えてもらう事がありますからね。」
吉澤が笑って言う。
「あ、私、もう帰りますから。足、気をつけてください。」
吉澤が扉を開けて、外へと出て行った。
中澤は何か深刻な顔をしていたが、吉澤はそれに気付かなかった。
次の日から、ネロ監督の総指導のもと、練習が開始された。
練習時間は少なくなったが、密度の濃い練習メニューとなっている。
チームのメンバーはすこし疲れているようだ。
練習のしめに、紅白戦が行われる事になった。
コーチがネロ監督からもらったメンバー表を発表する。
「赤組・・・・・・中澤・・・・。」
中澤の名が呼ばれる。
(ま、当然か・・・・。)
吉澤が、下を向きながら発表を静かに聞いている。
「白組・・・・・吉澤・・・・。」
(え!?)
吉澤は自分の名前が呼ばれたことに気が付いた。
しばらくは信じられなかったが、ビブスを渡されて、初めて選ばれたという実感が沸いた。
31 :
TONBA:2001/07/01(日) 18:48 ID:DMfmUf.M
白組の司令塔のポジションを任された吉澤は、右に左にと動き回り、ボールを拾っては、1、2タッチで前線に送る。
時には、ゴール前まで行き、その長身を生かして、空中で競り合う事もあった。
ネロ監督も、中澤より吉澤を注目視していた。
そして、監督の脳裏に焼き付けたプレイが、紅白戦終了間際にあった。
それは、最終ラインからのロングパスを前を向きながらヒールで前にあげて、そのままボレーシュート!
その弾道は、最終的にゴールネットを揺らした。
結果3−1で、吉澤は1点しかかかわる事が出来なかったが、評価としてはとてもよい評価を与える事が出来た。
次の週、練習試合を組んでいた。
相手はスウィート鹿児島。
格下ではあるが、前年の最小失点チームである。
その遠征メンバーの発表が、この日行われた。
「発表するぞ。」
コーチが紙に書かれた遠征メンバーを読み上げる。
「GK・・・・・次!DF・・・・次!MF中澤・・・・・・・・吉澤!次・・・・・。」
今回の遠征メンバーは21人。
そのMFに吉澤が選ばれた。
「あした、ネロ監督とともに鹿児島入りするから、きちんと今日走りこんでおくように。」
コーチからはそれだけで、それから練習が始まった。
32 :
TONBA:2001/07/01(日) 18:49 ID:DMfmUf.M
鹿児島に着くとすぐに宿舎に入り、練習が始まった。
練習といっても、30分のランニング、基礎トレーニング、ストレッチと言う軽い練習だった。
吉澤は物足りなかったので、夜に、ボールを持って一人グラウンドに出てリフティングを始めた。
「1、2、3・・・・・・・・・・・・・・。」
夜のグラウンドにボールの音が響いた。
「105、106、107・・・・・・・・。」
いけるだけいって、明日のために寝るつもりだった。
しかし、そこを監督に見つかってしまった。
「吉澤ナニシテルデスカ?」
そう言って吉澤の隣に座った。
「あ、監監・・・・・実はいまいち練習が物足りなくて・・・・・。」
吉澤も監督の隣に座った。
「吉澤、遠征ノトキハムリシナイホウガイイ。ツカレガタマリヤスイカラナ。」
「はぁ・・・・そうなんですか・・・・。」
「遠征ハハジメテナノカ?」
「はい・・・・それで興奮して眠れなかったってのもありますけどね。」
「俺モ選手時代ハジメテノエンセイノトキハコウフンシタヨ。」
「へぇ・・・・そうなんですか。」
「ナニゴトモケイケンダ。・・・・ハヤクネロ。」
ネロ監督はそう言うと、その場を去っていった。
吉澤はその後、軽くクールダウンを行い、すぐに寝た。
33 :
TONBA:2001/07/01(日) 18:50 ID:DMfmUf.M
試合直前、チームのウインドブレーカーをきて、ベンチに座っていた。
吉澤はスタメンからはずれたが、ベンチ入りする事ができた。
(中澤先輩、頑張ってください。)
吉澤は目を閉じて、中澤の活躍を願った。
34 :
TONBA:2001/07/01(日) 18:53 ID:DMfmUf.M
スタメン(前半)
(奈良) (鹿児島)
FW FW 辻 FW
中澤 MF
WB WB WB WB
MF
MF MF MF
DF DF 飯田 DF 保田
DF
GK GK
35 :
名無し娘。:2001/07/02(月) 00:25 ID:m1UZOiVI
笹本って誰?
36 :
TONBA:2001/07/02(月) 18:41 ID:aXh7pUTE
どこに書いてある?
37 :
名無し娘。:2001/07/03(火) 00:35 ID:kfk7tPvg
38 :
TONBA:2001/07/03(火) 15:27 ID:s/bG9wRc
笹本←中澤です。
内容変更前の名前なんです。ゴメンナサイ。
39 :
TONBA:2001/07/03(火) 22:40 ID:x0gKpwAs
試合が始まった。
鹿児島に、去年いなかったFWが一人入っているが、ノーデータなので
どう対処すればいいかわからなかった。
前半15分、右サイドから敵WBのオーバーラップに反応して出来たスペースに
そのFWがすかさず入り、相手司令塔からのパスを軽く横に流し、前を向いて
一人抜く。
ペナルティエリアのライン上で、味方の右ストッパーが抜かすまいと腰を落として相手の
出方を伺う。
と、そのFWがヒールリフトでDFの頭上をボールが抜き、DFの右から
FWがそいつを軽くかわして、シュート体勢に入る。
キーパー飛び出すが、ループを打たれてしまい、まさかの失点を浴びた。
電光掲示板に名前が載る・・・・辻希美、1ゴール。
それから前半中ずっと攻めたが点を取る事が出来ず、結局0−1で折り返す事になった。
ロッカールームで、ネロ監督が次の作戦を打ち立てる。
「鹿児島ハコレカラ自慢ノ守備ニテッスルダロウ。ソコデコチラハ攻撃ニデルヨ。
吉澤・・・・・ヨウイハイイデスカ?」
「は、はい。」
吉澤はちょうどアップを終えた所で、準備は完璧だった。
「ボランチ1枚にして、司令塔を吉澤、中澤の二枚にする。」
コーチが布陣を教えてくれる。
「あいてのDFは強敵だ。世界レベルの統率力で全チームのFW陣を苦しめてきた
DF陣だ。しっかりやってこいよ。」
吉澤はポンと肩をたたかれた。
実は緊張気味だった吉澤だが、今のでなんだかいくらか気が抜けた。
「ディアーーー!ファイ!オーー!」
円陣を組み、気合を入れなおした。
40 :
TONBA:2001/07/03(火) 22:42 ID:x0gKpwAs
後半オーダー
(奈良) (鹿児島)
FW FW 辻 FW
中澤 吉澤 MF
WB WB WB WB
MF MF MF
DF DF 飯田 DF 保田
DF
GK GK
41 :
TONBA:2001/07/04(水) 21:16 ID:66s4DmSU
後半開始すぐ、ボールが廻ってきたが、チェックが一人も来ない。
おかしいなと思い、前を向くと相手は全員守備の体勢をとりつつあった。
とりあえず、そのままキープし、隙を探した。
右WBがオーバーラップしていくのがわったので、ロングスルーパスをだした。
きっちりと胸トラップをし、完全にフリーで切れ込もうとしたその時だった。
左から飯田が滑り込んできた。
WBの体は飯田の上にすくい上げられた。ボールはラインを割り、スローインとなった。
「おい!WBをマークしとけ!」
飯田がまわりの選手に檄を飛ばす。
保田も同じく檄を飛ばす。
この2人がディフェンスの要であり、この世代最強のサイドバックだった。
42 :
TONBA:2001/07/04(水) 21:16 ID:66s4DmSU
だらだら10分たつが、ボールは鹿児島の陣に入ったと思うと、すぐに外に出せれるか、奈良の陣に舞い戻ってくる。
最終ラインでボール回しをする。
相手陣の隙を見つけて、一点取るつもりだった。
が、味方右DFがボランチへボールを渡した時だった。
ボランチがトラップミスをして、ボールを弾いてしまう。
慌てて取りのいこうとすると、後ろからユニフォームを引っ張られ、体勢を崩し、こけてしまった。辻だ!
慌ててDF陣は列を立て直す。
しかし、辻が1対1でスイーパーを股抜きすると、右ゴールネットを揺らすシュートを放つ。
そう、去年までいなかったストライカーが鹿児島には入ったのだ。
ピッチ上の選手は焦り始めていた。
しかし、ネロ監督は落着いていた。
43 :
TONBA:2001/07/04(水) 21:17 ID:66s4DmSU
2−0となり、攻撃にいっそう力を入れる奈良だが、精彩に欠いていた。
縦一本のロングパス、FWへのスルーパス・・・・・。
試してみるものの、一本も成功しない。
チーム全体として負けムードが漂ってきていた。
しかし後半25分、吉澤がスイーパーからのロングパスをフリーで受け取る。
中澤が2枚のマークを受けて、パスを出せなかった。
中澤はチームの柱で、ボールを渡せないと、流れがつかめなかった。
ここから、吉澤と中澤が劣勢ムードを跳ね返す妙技を見せる事となる。
吉澤がボールをとりあえずボランチに下げる。
と、ワンタッチで前線にフィードし、WBが胸でトラップしそこに飯田がつめてきていたので、また後ろに戻す。
そのパスを受けた吉澤が中澤のほうを向き、手を3本立てた。
(コンビネーションBか・・・・確かにこれやったら得点が入るかも。)
44 :
TONBA:2001/07/04(水) 21:20 ID:66s4DmSU
吉澤のいる場所は、右サイド寄りの場所。
中澤は左サイド寄りの所で2枚マークがついている。
パスを受け取れない状況・・・・。
飯田はこの試合の勝利を確信した。
(中澤さえ封じれば、他の選手は大した事が無いよ・・・・。)
吉澤にはボランチが詰め寄ろうとする。
吉澤はそれを軽く抜いてみると、吉澤から見たファーポスト、つまり左サイド
寄りのゴールエリアへの突進を試みた。
「飯田!体で潰せ!」
相手のスイーパーが的確な指示を出す。
飯田が一歩前に出た時、吉澤はボールを軽く前に出した。
(もらった!)
飯田がボールを取りに行った時、前に急に中澤が現れ、クロスの形になり、
ボールを拾って逆サイドへドリブルを始める。
ボールを取り損ねた飯田は吉澤と正面衝突し、2人ともたおれてしまう。
不意をうたれた保田が中澤を追いかける。
中澤はエンドラインギリギリまでボールをキープすると、勢いに任せて
ボールを中に入れる。
グラウンダ―のセンタリングをした。
(中には誰もいない・・・・。ミスだな。)
相手のスイーパーが落着いて大きく、足でクリアしようとすると吉澤が
すごい勢いで突進してきた。
(おかしい!さっき完全にこけていたのに!)
そして、そのボールをダイビングヘッドで、ネットを揺らす!
待望の一点目は、吉澤がたたき出した!
と、同時にスイーパーの足が吉澤の瞼を切った。
吉澤の瞼からは、それ相応の血が流れ出ている。
ネロ監督が心配してピッチの近くまで寄ってくる。
が、吉澤は「心配ない」と言うジェスチャーをして、ネロ監督をベンチに座らせた。
「大丈夫か?吉澤。無理しなくても・・・・・。」
中澤が言っている途中で、吉澤が中澤の目の前に手を開いて出し、黙らせた。
そして、ゆっくりこう言った。
「先輩・・・・勝負の世界に怪我はつき物です。」
45 :
TONBA:2001/07/04(水) 21:20 ID:66s4DmSU
昔、中澤がまだ高校生の時、女子サッカー大会の決勝戦、足をやられて、負傷退場。
負けたことを吉澤は中澤から何度か聞いていた。
「司令塔がぬけると言う事は、チームの敗北を意味する。」
中澤がいつも吉澤に言っていた言葉だ。
中澤はここまで成長した吉澤に、何も言えなかった。
「・・・・わかった。・・・ところで、勝つために作戦があるんやけど・・・・。」
「はい。私もきっと同じ事を考えてると思います。」
「じゃあ、話は早い・・・・。」
46 :
TONBA:2001/07/06(金) 23:22 ID:090wlr/.
ホイッスルが鳴る。
まだ一点リードしている鹿児島は、ボールを最終ラインまで下げて、まわしている。
FWがチェックにいくと、すぐに前線に上げる。
それを味方のDFが空中戦を制し、ボールをボランチに渡す。
今度は冷静にトラップし、接近してきた辻を軽くかわして、1度、FWにボールを当てる。
すぐにFWはボールを後ろの吉澤に下げる。
吉澤はボールを持ちながら孤立したかのように見えた。
中澤がマークをかわすために、ボランチの位置まで下がり、攻撃陣には司令塔のポジションには吉澤が一人、前線にはFWが相手DFにぴったり密着された状態でいる。
考える暇が無い。
吉澤はボールをボランチのポジションにいる笹本に下げる。
中澤はそれをダイレクトで前線に出す。
FWは2人とも一歩目に遅れてDFにつかまっていた。
また吉澤だ。
オフサイドギリギリのポジションから猛ダッシュ!
相手のスイーパーも追いかけるが、吉澤の足には着いていくのが精一杯。
キーパーと吉澤の間にボールが落ちてくるが、キーパー有利の位置だった。
(よし!これならキャッチできる。)
と、落着いた時、誤算が生じた。
そのボールはバックスピンがかかっており、ボールは吉澤の方へとはねる。
キーパー慌てて構えるが、吉澤はその勢いに任せて、ダイビングヘッドを打つ。
キーパーは、右手にあてることが出来たが、勢いを殺す事は出来なかった。
ころころと、ボールはゴールへと転がる。
同点ゴールと思った時、相手のスイーパーがスライディングで、ボールをライン上に止める。
DFはその勢いが止まらず、ゴールネットに絡まった。
そのボールに、吉澤、味方FW、相手DF、相手GKがいっせいに群がる。
僅かに足が短いせいか、飯田に取られ、ゴールの外に弾かれる。
が、敵ゴールキーパーの手に当たり、入りそうになるが僅かにポストの横に切れて、コーナーキックとなった。
47 :
TONBA:2001/07/06(金) 23:24 ID:090wlr/.
普段、中澤が蹴るコーナーキックだが、中澤の様子がおかしい。
どうも足がつったらしい。
1度ピッチアウトして、治療を行うことになった。
「吉澤!カワリニケッテクレ!」
ネロ監督が吉澤に指示を出す。
吉澤が中澤の代わりにコーナーキックをする事になった。
(頭で合わせられそうな人は・・・・いないね。足は・・・きっと無理だね。
そしたら・・・・。)
吉澤は助走するための距離を十分に取った。
そして、助走をつけてその右足を蹴り上げた。
ボールのスピードは速く、さらに、ゴールに向かってグングン曲がる。
キーパーが、懸命に横っ飛びして、左手でパンチングするが、勢いが止まらず、飯田の頭上、を飛び越し、ファーポストに当たって、ゴールイン。
2−2の同点。
吉澤はガッツポーズを味方サポーターのいるスタンドに決める。
その辺りのサポーターは大いに沸いた。
ついでに言うと、誰も口にしなかったが、吉澤の瞼のガーゼはほとんど赤に染まっていた。
48 :
TONBA:2001/07/08(日) 23:46 ID:ahpEYAQc
保全
49 :
sarasiage:2001/07/09(月) 17:41 ID:cZEJ0imY
dhgf
50 :
名無し娘。:2001/07/09(月) 17:58 ID:NBNCwyt.
hozen
51 :
名無し娘。:2001/07/09(月) 18:11 ID:frFnr/xc
携帯版「サッカースレ」も製作中。石川がレッズに入りました。これヒント
リスタートの前に、中澤がピッチに戻ってきた。
「ようやったで。吉澤。もう一点、がんばろか。」
と、ポジションに着く前に、中澤が吉澤に声をかけた。
吉澤は中澤の目を見て、うなづいた。
ホイッスルが鳴る。
辻がボールをキープしている。
若きストライカーは、同点に追いつかれた事に対して、イライラしているのだろうか。
一人で強引に突破しようとするが、ボランチにつぶされて、ボールを奪われる。
体勢をくづした辻が、起き上がり、後ろからボランチにスライディングをする。
その足は、相手の股下を通り、見事ボールを足の先とすねで挟んだ。
が、ボランチは気付かずその辻の足ごと、ボールを蹴った。
「いったぁぁぁぁぁ!!!!!!」
フィールド上に辻の悲鳴が響いた。
「担架!担架を!!」
審判がプレーを中断して担架を呼ぶ。
「大丈夫です!いけます!!」
医療チームにそういいつづける辻だが、スパイクを脱がしてみると、足の腫れが酷い。
医療チームは監督に交代の合図を送った。
「ほんとにいけるよ!!!」
辻が外に出されても医療チームに向かって叫んだので、医師は、辻の足を軽く揉んだ。
「ああっぅ!!!」
辻が痛みで悲鳴をあげる。
「わかったか・・・・。」
医師は辻をベンチ裏に下げて、すぐに病院へと運んだ。
53 :
TONBA:2001/07/10(火) 22:58 ID:JMXtdJ86
プレーが再開されたが、辻を失った鹿児島は攻め手に欠き、終始奈良ペースとなるが、得点に結びつかない。
と、言うのも辻の退場後の飯田の動きには、すばらしいものがあった。
スライディング、ショルダーチャージは、きわどいながらもファールを取られない。
空中での競り合いの時は、競り負ける事がなくなった。
マンマークは絶対外さなかったし、インターセプトもさえていた。
そのせいで、均衡状態はいっこうに破れなかった。
そのまま後半45分まで過ぎた。
相変わらず2−2のままだが、ある変化がおきはじめた。
飯田の動きに急にキレがなくなったのである。
さらに立ち止まっては、下を向くのである。
明らかなスタミナ切れであり、奈良にとっては、ラストチャンスであった。
中澤がボールをキープすると、吉澤、FWの2人が一斉に開いて飛び出す。
中澤が蹴るボールの方向はもちろん真ん中を走る吉澤へ。
吉澤もそれを簡単にトラップし、ドリブルをする。
マークにきていた飯田との一対一だ。
足がしんどくなってきた飯田に対して、吉澤は切り返しを多用する。
すると、飯田は自然にひざを地面につける体勢でこけてしまい、吉澤がそれを見て抜き、FWに当てる。
ワンタッチで空中に出されたボールは、エリア内で保田との空中戦をじさない場所に上がった。
身長で優る吉澤は、保田に難なく競り勝ち、ヘディングシュートを放つ。
ネットを揺らし、ゴール・・・かと思われたが、無情にも笛が鳴り終わっていた。
中澤は、吉澤の下へと駆け寄ってみると、吉澤の瞼から出血があった。
「ガーゼ真っ赤やないか!治療してもらわな!」
中澤は吉澤をベンチへ連れて行き、医療班に止血をしてもらっている。
その間に試合後の挨拶が行われた。
54 :
TONBA:2001/07/11(水) 23:26 ID:RhjJYOe.
試合は2対2・・・・。
吉澤の怪我も幸い大した事が無い。
心配なのが、中澤のスタミナだったが、今日フル出場した事によって、その心配もほとんど無い。
(ヤハリ決定力不足ダナ・・・・。)
FWが点数を決めなかった事に不満な監督は、今日の試合に納得しなかった。
(ヤハリ彼女ヲツレテコナケレバ・・・・。)
ネロ監督はオーナーに電話をかけた。
今シーズンの展望を占うと言ってもいい『アティチュ―ド杯(通称:A杯。Mリーグ参加8チーム、招待12チームあわせて約20チームと戦う。)』の開幕なのに、石川はいっこうに後藤の調子が上がらないことにいらつきを感じ始めていた。
前年、MVPを取れたのは、後藤のすばらしいポジショニングと、天性の感覚が生み出すボールへの執着心のフォローがあったからである。
優勝したのも、後藤の得点数がリーグ3位のおかげだろう。
シーズン終了後、後藤はMリーグで1番の人気プレーヤーとなっていた。
その人気が今回の後藤のスランプを引き出したのだろう。
オフの忙しいCM撮影に、バラエティ出演など、もはやアイドルのスケジュールとなっていて、自主トレなどまったく出来なかった。
おかげで今年の練習試合にまだ一試合もでていない。
しかも、練習試合の勝数をとれば、全チーム中最下位である。
それだけ後藤の存在が大きいチームであった。
56 :
TONBA:2001/07/12(木) 23:37 ID:Kyva1G6E
去年同様、チームを率いる山崎監督は、先日、後藤の起用をどうするか悩んでいた。
調子の悪いエースを使うか、調子の安定しているベテランを使うか・・・・。
しかし今日、監督の腹は決まっていた。
前年にベスト6までいったチームとしては、そんな調子の悪い選手は使っていられない。
「スターティングメンバーを発表するぞ〜。GK・・・DF・・・・MF石川・・・・・・。」
後藤の名前は挙げられなかった。
「ベンチ入りは・・・・・、後藤、・・・・。」
私だ・・・・・。
後藤は今年初めてベンチ入りを果たした。
いや、それよりもプロ初めてのベンチスタートと言うほうが正しかった。
後藤はそれも仕方ない事だと思った。
前半、0−0と、格下相手に苦戦した。
監督は激怒した。
「ちゃんと石川のパスを追ってやれや!拾えるはずやろうが!後藤は拾えたんやぞ!」
過去形だ・・・・・。後藤は心の中で思った。
(今でも取れるよ・・・・・・。試合にさえ出れれば・・・・・。)
下を向いて手を強く握り締めた。
「もうええ!!後半スタートから後藤を使う!後藤ぉ!アップしてこいやぁぁぁ!!」
監督が荒れている。
後藤は今日も出ることは無いと思っていたので、今、ろくなアップをしていない。
「は、はい!急いで仕上げます。」
と言うと、部屋の廊下で、簡単な走りと、ボールタッチだけはした。
後藤は、思いも寄らないチャンスを手にした。
後半開始直前、石川が語との元へと詰め寄り、一言声をかけた。
「去年のような動きが出来ないなら、早く替わってね。」
石川はそう言うと、さっさと整列した。
なんだこいつ?こんなやつだったけ?と後藤は思いつつも、その言葉を聞き流し、ピッチに立った。
まさに3ヶ月ぶりのピッチだった。
57 :
TONBA:2001/07/12(木) 23:37 ID:Kyva1G6E
スタンドから選手交代のお知らせが入ると、観客は大盛り上がりだ。
スター後藤の完全復活と観客はみなそう思った。
だが、今年キャンプから練習をそう積んでいない後藤に、まともなプレーができるはずが無い。
ヘッドも競り合えば体で負け、ボールをキープすれば、ボールの上に乗ってしまい、こけると言った始末。
それでも、石川のパスはしっかりとトラップしていた。
観客は石川からのパスをもらった後藤が本物なのか、しょぼい後藤が本物なのかわからなかった。
58 :
TONBA:2001/07/15(日) 00:00 ID:ewTMS7nY
天才パサー石川が手をつけたのは後半30分。
前線に待っている後藤の為に、隙を見て相手陣のセンターラインから一気にペナルティイエリアまでスルーパスを通した。
後藤が丁寧にそれを受け取り、ボールをキープ。ゴールエリアまできた。
後藤は後ろにDFがぴったりついてきてることに警戒し、横にちょいと弾きもう一人後ろからきたFWにまかせた。
低く速い弾道でのシュートを放つ。
キーパー反応する事が出来なく、ゴールネットに突き刺さる。
アシストを決め、喜ぶ後藤に、喜びの表情1つ見せないで、石川が寄ってきた。
後藤が肩を組もうとしたが、石川はそれを拒否して、右手で後藤の頬をビンタした。
「いてっ!何するんだよ!」
後藤が石川に詰め寄る。
チームメイトが後藤と石川を引き離す。
「ストライカーのくせに、ビビってシュート打てないってどう言うことよ!今までのごっちんなら・・・・・・どんな体勢でもシュート打ってたじゃない!」
石川が目に涙をためている。
「ごっちんがそんなんだから・・・・そんなんだから予想順位が最下位なのよ!」
そう言うと、捕まえていたチームメイトの手を勢いよく払い、自陣に戻って行った。
確かにサッカー雑誌の予想順位ではどれも神奈川バックスを最下位と予想している。
後藤のほうはチームメイトに手を離してもらい、自陣に戻っていく。
その途中、後藤は自分のさっきのプレーについて考えた。
(そんなこといっても、あそこではどう考えても、もう一人に渡したほうがいいよね・・・・。後ろにもう一人いたしさぁ・・・・。)
そして過去のプレーと比較した。
(・・・そうだね・・・・どんな体勢からでもシュートしたね・・・。梨華ちゃんのパスもらった場所からシュートしてた気がするよ・・・。)
後藤は昔の感覚が体に戻っていくのを感じる。
(そうだよ・・・・。私のプレースタイルは≪真のストライカー≫だった・・・・。)
後藤はそう思いながら、ポジションについた。
その後の後藤の動きは前ステージを思いださせる動きだった。
ボールさばきは下手くそになっているが、精神的に去年よりも強くなっているのが目立つ。
どんなに遠くても、石川からもらったボールは、シュートを放つ。
精度も下がりはしているものの、ボールの勢いは大して差は無い。
後藤の後半からの活躍により、4−0で勝つことが出来た。
59 :
名無し娘。:2001/07/17(火) 02:10 ID:fzUu.J/I
「狂気の〜」にも負けない小説になるよう、頑張ってください。
60 :
名無し娘。 :2001/07/17(火) 20:05 ID:SR9NTd/Q
61 :
TONBA :2001/07/17(火) 23:08 ID:hw7pumWY
>>59 頑張ります。
サッカー、意外と人気あるね・・・。
只今、他にいろいろする事があるので、更新が遅れ気味です。
ごめんなさい。
62 :
TONBA:2001/07/19(木) 23:28 ID:Z/EtFz66
保全
63 :
TONBA:2001/07/22(日) 21:33 ID:RPZyC6bo
保全
64 :
TONBA:2001/07/22(日) 23:52 ID:RPZyC6bo
「いや〜今日の後藤の動きは良かった!」
ミーティング室では監督がハーフタイムの時とは違ってすごく機嫌がいい。
「お!後藤!来週も頼むで!」
後藤の頭を叩きながら言う。
「機会があれば頑張りますよ〜。」
控えめな言葉を言うが「次も出番くれよ。」って言う意味でもある。
「その時の調子次第や〜。」
これもまた「機会ぐらいやるよ!」って言う気持ちを持って言っている。
監督は上機嫌に口笛でも吹いて帰って行った。
後藤が長いすに座っている石川の元へと寄って行った。
全メンバーに緊張が走る。
「さっき・・・ぶってくれたね・・・・・。」
メンバーにさらに緊張が走り、部屋は異様な雰囲気となった。
「ありがとう。あれで目が覚めた。」
(へ?)メンバー全員が気が抜けた思いがした。
「あれが無かった私、またスランプにはまる所だった・・・・。ありがとう。」
「いいですよ。結果さえ出してくれればそれでいいんです。」
石川が座りながら後藤を見上げて言った。
「これで・・・スランプを日本に置いて、アメリカにいけるよ。」
「はぁ?」
石川もメンバーもビックリした。
「あれ?言ってなかったっけ?私、アメリカ一部リーグのチームから正式にオファーが来てるんだ。」
「はぁ?一体どう言うこと?」
「そう言うことだよ〜。だから、これが私の日本の最後の公式戦なんだ。1回戦で負けなくて良かったよ。」
「あ、あはははは・・・・そ、そう言うことなら、頑張ってよ。」
石川が作り笑いをして後藤に言った。
「ん。あ、この事はまだ誰にも言わないでね〜。チーム内の秘密にしてよ。」
「う、うんわかったよ。ねぇみなさん?」
「も、もちろんねぇ?ハハハハハハハハ・・・。」
みんな動揺しているのは明らかだが、後藤はお構いなしに帰った。
「じゃあ、皆さん、サヨウナラ〜。」
「お疲れ・・・さん。」
65 :
TONBA:2001/07/23(月) 23:57 ID:03WEYdkQ
部屋の雰囲気が異常に暗くなった。
「み、みんな大丈夫ですよ。まだ私がいるじゃないですか。」
石川がそう言って、みんなが石川のほうを向くが、みんなはさらにため息をついた。
「な、なんですか〜?」
「だって、梨華ちゃんのパス、速くて取れないし・・・・・・・・。」
「足元にくれないし・・・・・。」
みんなが石川に次々と愚痴をこぼす。
「だいたいさぁ・・・・。」
「それに・・・・・・。」
それを黙って聞いていた石川の表情に変化が現れた。
「そんな事言ったてぇ・・・・・だってぇ・・・・・。」
石川の目に涙がたまる。
「な、泣かなくても・・・・・・。」
チームメイトの一人が慰める。
「うぅ・・・・・・みんながそんな事思ってたなんてぇ・・・しくしく・・・。」
「あぁ・・・・・泣き出しちゃった。」
みんな呆れ顔でそう言った。
すると、石川が泣き顔のまま思いつきか、本気かわからないが大変な事を言った。
「もういいよぉ!!!私、移籍する!!移籍の理由は、チームメイトにいじめられたって言うもん!そしたら問題になって、このチームは・・・・。」
「はいはい、どうぞご勝手に。もうあなたの横暴についていけないしね!」
チームメイトの一人からそんな声が出た。
石川は何も言わず、荷物を持って部屋を飛び出した。
「いいの〜〜?あんな事言っちゃって・・・・。」
「スター選手いなくなるんだよ。」
「いいのよ。どうせ、そんなことするわけないんだから。かまって欲しいだけなのよ。」
「そうかもね。」
石川の去った部屋では、笑い声が聞こえた。
翌日、彼女たちの顔から笑いは消えた・・・・・・。
紙面には≪神奈川、石川を放出へ!?≫の文字が・・・・・。
66 :
訂正:2001/07/24(火) 00:09 ID:jgQrBtSo
上から3行目
石川がそう言って、みんな
↑
石川がそう言ったので、みんな
67 :
TONBA:2001/07/24(火) 23:20 ID:bfxu2qp2
「石川選手!移籍の理由は?」
「海外移籍は考えてるんですか?」
「本命のチームは?」
「代理人は・・・・。」
2回戦の終了後、選手用通路の前で取材人が待ち構えていた。
「すみませんどいてくださ〜い。」
石川はそう言うと、その人並みをかき分けかき分け前に進んだ。
「石川選手〜!答えてください!」
MVPプレイヤーの放出の裏に何かあるとふんだマスコミは石川に食いついてきていた。
「後日、記者会見を開きます〜!」
石川は人並みをかき分け、着いた選手用通路に入ってから、取材人に向かって叫んだ。
68 :
名無し娘。:2001/07/26(木) 09:13 ID:q3qli3lc
パッサーがいない鹿児島かな?
やすいし見れるかな〜
でもやすかごもみたいな〜
69 :
TONBA:2001/07/26(木) 23:48 ID:nr.VBads
後藤はフル出場、石川もフル出場。
後藤はロッカールームへ。しかし石川はロッカールームに戻らなかった。
前日の事が尾をひいているので、試合が終わると、ウインドブレーカーを羽織って、タクシーにのって帰る。
大体のファンは中にいるので、混乱は起きない。
石川は捕まえたタクシーに乗り、代理人と連絡を取った。
「あ、和田さんですか?いま、オファーきてるクラブは・・・・・はい・・・。」
石川はそれをペンをとり、紙に書いている。
石川の希望は「楽しくサッカーができるところ。」。
つまり、環境さえ整えばどこでもいいわけである。
いま、オファーがきているところは、京都ドールズ、FC長野、スウィート鹿児島など。
海外のクラブを含めると、約8チームからのオファーがかかっている。
「うん・・・・。奈良からのオファーは・・・・今のところ無いの・・・・。わかった。今のところ、京都を本命に置いて交渉してください。」
電話を切り、石川は眠りについた。
石川が県選抜に選ばれたのは15歳の時。
その時、石川は高校のサッカー部に所属していた。
選抜に選ばれた事により、3ヶ月間、クラブに顔を出せなかった。
まだ一年だった石川にとって、それは辛いことだった。
選抜から帰って来ると、先輩からの激しいいじめ・・・。
石川はそれが耐えられなくて、半年で高校を中退した。
その時はサッカーをやめたいとすら思った。
立ち直るのに半年かかった。一時はやめたいと思っていたサッカーへの熱意は、再び燃え出した。
そして、当時社会人チームだった神奈川バックスユースのセレクションを受けた。
結果は合格。
そして、一年でトップに昇進。
見事スタメンの座を勝ち取った。
石川が奈良を口にだした理由・・・・。それは、吉澤のことだった。
吉澤は、神奈川県選抜として試合をした時の対戦チームにいた控えの選手だった。
その時、石川も、ベンチウォーマーとして、3試合ほどベンチを暖めていた。
吉澤は一人ベンチの中で、浮いていた。容姿が1番で、雰囲気が他の人と違って・・・・。
いろんな意味で浮いていた。
そんな吉澤が石川は気になったので、ハーフタイムの時に、声をかけたのである。
「ねぇ?」
石川の手が吉澤の肩を捕まえる。吉澤は振り返る。
「なに?」
石川は思い切って聞いてみた。
「どこの高校?」
そんな会話から2人の仲が始まった。
石川と吉澤の境遇は似ていた。
2人ともポジションは司令塔(トップ下)。
そして2人とも上の世代がスタメンを死守しているのでスタメンからはずれている事。
2人は相性が良かった。
そのため、石川が高校をやめてからは一緒にミニキャンプを張ったりしていた。
「よっすぃ〜、将来、どんな選手になりたい?」
石川が宮崎でのミニキャンプ中に吉澤に言った。
「そうだね・・・・みんなに迷惑を掛けない選手になりたいかな?」
「何それ〜!」
石川が笑う。
吉澤も笑った。
「私はね『日本に石川あり!』って言われるくらいの選手になりたい。」
「へ〜。すごいね〜。」
その時、2人は約束した。
≪いつか2人共約束を果たそう。≫
そう言って、石川と吉澤がチーム事情で離れた時から2年が経った。
吉澤の約束はとても難しいことだとわかった。
サッカーはミスがつき物。簡単なトラップの失敗。パスのタイミングの失敗など・・・。
それら全てを完璧にする事が吉澤の目標だった。
石川は思った。
(私の目標よりも、よっすぃ〜の目標のほうがむずかしいんだ。)
あの時笑った自分を恥じ、目標を吉澤のものと同じにした。
そして、2人でその目標を達成したい。その気持ちを吉澤に伝えるべく、奈良に移籍したかった。
73 :
名無し娘。:2001/07/28(土) 10:41 ID:P.gTJzBg
吉澤・加護殿下が一緒か〜。
ポジション被るのなら、ぜひ我が鹿児島へ!
74 :
TONBA:2001/07/28(土) 23:47 ID:YGesvNQs
2回戦で神奈川はMLSのクラブ、ワシントンD.C Unitedと対戦する事になった。
このクラブチームは後藤の移籍先のクラブチームである。
「緊張するよ・・・・。」
去年のA杯では、海外チームと当たるまもなく、3回戦で三重に破れてしまった。
今回、チーム初の海外チームとの試合という事で、メンバーは緊張していた。
「大丈夫だよ、梨華ちゃん・・・。いつもどおり、冷静にプレーしようよ。」
そう言って後藤が石川の肩に手を置いた。
「うん・・・・そうだね。」
そこにワシントンD.C Unitedの選手が入ってきた。
「どうも・・・・・今日はヨロシク。」
日本語で後藤は言った。
すると、相手チームのFWが何か言い返してきた。
後藤は英語勉強中だったので余りよくわからなかった。
しかし、隣で石川が鋭い目つきで相手を睨み、手を強く握り締め、息を荒くしていた。
「どうしたの?梨華ちゃん?」
不審に思った後藤が石川に尋ねた。
「あいつ・・・許さない・・・・。」
そう言うと、石川はロッカールームに走っていった。
後藤はそれを追いかけた。
「ねぇ?どうしたの?」
ロッカールームで長椅子に座ってトレーニングシューズからスパイクに履きかえる石川に後藤が声をかけた。
石川の目は鋭さを残している。
後藤は石川の隣に座った。
石川がスパイクを履き終わると、後藤が再びたずねた。
「ねぇ?いったい何言われたの?」
「今日の試合、必ず勝つよ。」
石川が立ち上がり、座ったままの後藤を見る。
そして石川は1人でロッカールームの外へ行った。
なぜそこまで熱くなったのかわからなかったが、後藤は石川の影響を受けて、気合を入れなおし入場する場所へと向かった。
75 :
TONBA:2001/07/29(日) 23:46 ID:2eGgvO4M
(ワシントン) (神奈川)
ダニエル キャサリン 後藤 FW
郭 石川
MF MF
MF MF MF MF
DF DF
DF DF DF DF
DF DF
GK GK
76 :
TONBA:2001/07/29(日) 23:48 ID:2eGgvO4M
↑ずれてるけどゴメンね。訂正できない・・・・。
試合は前半から白熱した。
相手FWダニエルの華麗なドリブルに翻弄されるDF陣。
FWキャサリンの飛び出しに再三再四脅かされる神奈川ゴール。
MF郭の正確無比のパスよって、作られる相手のペース。
それでも後藤は頭に血が上らずに、前線に張っている。
これだけ攻められると戻りたくもなるが、後藤は自分の仕事をわかっていた。
点を取る事。
それが後藤の与えられた仕事だった。その精神は、今のゴール数に顕著に表されている。
このトーナメントでの得点ランキング、今、後藤は平家の次の2位に立っている。
遠くから自分のチームが責められているのを見るのは辛いが、完封負けをするよりもましであった。
それに、得点はDF陣の守備の安定にもつながる。
それを知っている後藤はその試合、センターサークルよりも後ろに下がる事は無かった。
78 :
苛立つ石川:2001/07/29(日) 23:53 ID:2eGgvO4M
石川は頭に血が上っていた。
試合開始直前に言われたあの一言・・・・・。
後藤にはわからなかっただろうが、たまたまその英語を知っていた石川は、その言葉の意味がはっきりとわかった。
無性に腹が立って、普段のようなパスが後藤に通らない。
それは、チームの流れをさらに悪いほうに持っていった。
それが形となって現れてしまった。石川がフリーでボールを前を向きながらもらう。
本来、石川はこんな絶好の体勢なら、後藤とキーパーの前にボールを出し、後藤を走らせる。
しかしこの日は違った。
石川が走ったのだ。ボールがくっついているようなボールさばき。
いける・・・・。
石川がそう思ったときだ。石川から見て右から、郭のスライディングが入る。
後2メートル・・・・・。
後2メートル進めていれば、石川は得意のミドルシュートを撃つ気だった。
しかし、石川がゴールを意識するばかりに、周りのチェックができていなかった。
立ち上がり、石川は急いでゴール前に戻る。
石川がセンターライン上にいるときに、ボールをもらった郭のロングパスがフリーで飛び出したダニエルにわたる。
ダニエルはゴールエリアの少し前・・・・ゴールから約25メートル離れた所でボールを貰った。
間にあわないと思った石川は、最後の手段に出た。
ダニエルがこけた。
石川の足はダニエルの足を引っ掛けていた。審判は石川に対してイエローカードを提示する。
それに突っかかっていくダニエル。
今のはレッドだろ!どうしてなんだ!!どうしてイエローなんだ!
そういわんばかりの表情、ジェスチャーで審判に抗議する。
それをなだめるのがキャサリンだった。
キャサリンはダニエルをなだめると、ポジションにつかせる。
あなたの気持ちは判っている。私だって同じ気持ちだ。
キャサリンはボールを置くと、ゴールを見据えた。
79 :
辛い前半:2001/07/29(日) 23:55 ID:2eGgvO4M
郭も近寄る。2人が2人ともゴールを見据える。
ゴールとの距離はそう遠くなく、真正面。
直接狙えといわんばかりの位置だった。
キャサリンが助走距離を取る。
郭はボール前で、腰に手を当ててゴールを見ている。
壁は5枚。
笛が吹かれた。
キャサリンがボールに向かってすごい形相で走ってくる。
壁はみな、キャサリンが蹴ると思った。
しかしキャサリンはボールの上を通ると、間違えて飛ぶ壁の横を回り込む。
郭はその動きに合わせて、ボールをちょうど着地したばかりの壁の裏にボールをふわりとあげる。
キャサリンはそれを足であわせると、ボールはゴール右上隅に。
ネットが揺れた。
相手チームのメンバーが集まって自陣に戻っていく。
その途中、ダニエルが石川を鼻で笑った。石川はさらに頭に血が上った。
そして、石川はボールを持つとひとりでつっこみ、取られて、カウンターをされる。
そんな場面が多くなった。
その結果、前半0−2で後半を迎える事となった。
ロッカーに向けてレガースを投げつける石川。
「ちくしょう!どうして・・・・・どうして・・・・・。」
後藤は、ここまで取り乱した石川を見るのが初めてだったので、石川を心配した。
「どうしたの?」
後藤が微笑みながら言った。
「プレーが雑になってるよ。落着いていこう。」
石川はその微笑が気に入らなかった。
そして、涙目になっていった。
「ごっチンは平気なの!あんな事いわれて!」
「だって私、英語わからないから・・・・・。」
「あの人はね、『貴様達のような2流選手が1流クラブに来れるなんて、幹部にからだでもうったんじゃねえか?』って言ったんだよ!」
石川はそう大声で言った。
ひどく興奮しているようで、顔は真っ赤になり、鼻息が少し荒い。
「実力で勝ち取ったチャンスを・・・・あいつは馬鹿にしたんだ・・・・。それが私は許せないよ・・・。」
石川の顔から涙が流れた。
「どれだけの努力してアメリカ行きを決めたと思ってんの?あいつにそれをわからせたいんだ・・・・。じゃないと、ごっちんを笑顔で送れないよ・・・。」
石川が目を床にやり、涙をこぼした。
後藤が石川の肩に手をまわした。
「大丈夫だよ・・・どれだけ罵声飛ばされても、私は英語がわからないから耐えれるよ・・・・。梨華ちゃん、そこまで頭に血を上らせなくてもいいんだよ。あの人たちも必死なんだ。私が入ることによってそちらかのFWが控えに入らないといけないでしょう?だから、あの2人も私にきて欲しくなくてあんなこと言ったんだよ。」
「でも・・・・。」
「泣かないの。せっかくの可愛い顔が台無しになっちゃうよ。」
後藤が微笑みながら石川にタオルを渡す。
「それにしても、梨華ちゃんって、感情の起伏が激しいね。」
そう言われて、石川の頬は真っ赤になった。
81 :
後半開始:2001/07/30(月) 23:46 ID:o4X6pLoo
後半が始まった。
ハーフタイムに石川に馬鹿にされた事を聞いた後藤は、黙ってられなかった。
(自分を馬鹿にしたのはともかく、たいして実力も無いくせに口ばっかり・・・・。)
と思うと、無性に腹が立っていた。
しかし、前半の石川の怒りと違うところは、怒っていても、冷静ということだった。
82 :
後藤の評価:2001/07/30(月) 23:48 ID:o4X6pLoo
『後藤はポーカーフェイスだから何をしでかすかわからない。』
この言葉は、現在ジュビロ磐田で活躍中のあるDFが練習試合後に言った言葉である。
その試合、社会人チームの助っ人として出場していた後藤は2得点を叩き込み、評価をグンと上げた。
そして、Jリーグ入りかと思われたが、神奈川がどうしてもMリーグ加入で戦力アップのために欲しい人材だと言われたので、神奈川に入団した。
83 :
Mリーグ初!:2001/07/31(火) 23:41 ID:1B8eRjOs
後藤は相手DFの最終ラインに並ぶ。
そして、冷静になったと思われる石川のロングパスを待つ。
オフサイドにならないように慎重にラインに合わせて前後する。
と、ボールを持った石川が後藤を見た。
すると、いつものような華麗なロングパスが空中に上がる。
それを左サイド寄り、ゴールへの角度大体40度、ゴールエリアの手前の所から、走りこんだ体勢のまま左足でのダイレクトボレー。
ボールは見事に弧を描き、ゴール右隅の飛んでいき、ネットを揺らす。
観客席が揺れた。
競技場全体が揺れた。
それは、後藤のスーパーゴールがMリーグで初めて、実況にエクセレントゴールと言わせた瞬間であった。
84 :
石川梨華:2001/07/31(火) 23:42 ID:1B8eRjOs
焦ったワシントンの郭は、ドリブルをし始める。
それを簡単に取る石川。
石川と郭は完全に前半後半で立場が逆転してしまった。
焦る郭。冷静な石川。
その石川から後藤に足元へのスルーパスが、あいてDFの股下を抜いて出される。
それをもらった後藤が、シュートコースを作るために戻ってきた郭を相手にフェイントを使う。
翻弄された郭が抜いていこうとする後藤の足に、自分の足を掛ける。
当然ファールになる。
直接フリーキックの位置としては、石川の得意範囲だった。
右サイド寄りの角度60度、長さ30メートル、壁は3枚。
ここで、石川の閃きが。石川が思いっきりボールを蹴る。
とても低い弾道は飛んだ3枚の壁の足の下を通り抜け、右下隅へ。
キーパーは反応する事が出来ず立ったまま、ボールがネットに包まれるのをみた。
これで2−2のタイスコアに。
流れは完全に神奈川に向いていた。
しかし、向こうもMLSでやってるだけあって、試合運びが上手かった。
不利と見ると、ディフェンシブの人数を増やして、対応する。
向こうはFWまでも守りに入っていた。
その堅い守りを破る事が出来ずに、延長まで終了した。
この大会始まって初めてのPK戦へともつれこんだ。
86 :
名無し娘。:2001/08/01(水) 02:01 ID:h9886LJk
保全
87 :
4126:2001/08/01(水) 14:13 ID:fnR0tcbc
スレに書きこみありがとうございます。
同じサッカー小説家書きとして楽しく読ませてもらってます。
(とはいえ、影響されすぎないようにも気をつけてますが)
定期的更新の辛さはよくわかりますが、お互いがんばりましょう。
PK戦はどう扱うのか、期待sage
88 :
クズ学生 :2001/08/01(水) 16:02 ID:esbdu2IY
保全
89 :
PK戦:2001/08/01(水) 23:27 ID:3L0Pp2w2
先攻はワシントン。
1人目、先攻のワシントンはキャサリン。
キーパーが反応するも、ボールの勢いがあったので、弾ききれなかった。1−0。
神奈川の1人目は後藤の相棒のFW。
狙いすぎで、ポストの横にそれる。観客からため息が漏れる。
これで1−0。
2人目は両チームそれぞれ決めて、2−1。
そして、3人目も両チーム決めて、3−2。
4番手、司令塔の郭・・・・・・・。
ワシントンの監督の期待の星である郭。
この選手は、ワシントンの監督が韓国ユースの試合を見て獲得を決めた選手である。
監督が惚れ惚れする選手に、他の選手がいい気分のはずが無い。
郭は、試合以外で選手たちと話し合う機会が無かった。
今のPKだって外せ外せと後ろから神奈川の雰囲気とともに、数人の郭をよく思わない選手の雰囲気まで伝わってくる。
91 :
郭の気持ち@:2001/08/01(水) 23:43 ID:3L0Pp2w2
ボールはクロスバーを越えていった。そのキックは神奈川の観客席へと飛んでいく。
郭が帰っていくと、数人だが、顔がニヤニヤしている。
(これじゃ、勝てるはずもねぇ。)
そう思いながら郭はグラウンドに座った。
郭はサッカーが好きだから、もう一ランク上のサッカーをしたかったから海外に進出した。
韓国のサッカーと自分のスタイルが合っていないと感じた郭が、まず移籍を熱望した国は日本。
日本の遊び心のあるプレーに対し、韓国は身体能力で勝負するといったイメージがある。
郭は体つきがそれほど良くない。
ただ、それを補うためのボールタッチはとても柔軟で、韓国の選手とは思えないほど。
しかし、日本は不況の折で、韓国のフル代表にも選ばれた事の無い郭を取る余裕は無い。
郭の代理人は、アルゼンチン、ブラジル、アメリカの3国のチームからオファーがあると聞いた。
特にアメリカが1番熱烈だったので、郭はアメリカ行きを決定した。
ワシントンの監督は郭をユースの試合で見て、欲しくなったと言う。
郭が欲しかったのはサッカーを夢中でできる環境。
92 :
郭の気持ちA:2001/08/01(水) 23:50 ID:3L0Pp2w2
しかし、現実は甘くなかった。
郭が入団してから1ヶ月後、事件が起こった。
紅白戦で、郭にボールがまったく回ってこない。
どれだけフリーになろうとも、郭にボールが渡らない。
監督は、郭のポジショニングが悪いと指摘。
そこで監督に言われたとおりに動いてみるが、やはりボールがまわらない。
そこで監督が選手にどうして郭にボールをまわさないのか尋ねた。
「それは、他にもっといいポジション取りの人がいたからです。」
しかし、実際はマークのついている選手にパスしたり、誰もいないところへパスしたり・・・。
「とにかく、試合では郭に回すんだ。」
次の試合では、郭にボールが集められ、そこから前線へという攻撃スタイルが随所に見られた。
(これでチームメイトとも仲良くできる・・・。)
郭はそう思った。
93 :
郭の気持ちB:2001/08/01(水) 23:54 ID:3L0Pp2w2
郭の考えは甘かった。
試合が上手くいったことで、再び嫌味がつきまとう。
「おまえさぁ、何でここにいるの?」
あるチームメイトにそういわれる。
「・・・サッカーするため。」
「お前、英語も下手くそだし、サッカーも下手くそなんだから、国に帰れよ。」
そういわれた。郭はそこでぐっとこらえた。
「これから上手くなるから勘弁してよ。」
笑いながらそう言う。言われたほうは腹が立った顔でその場を去る。
(なんでお前が腹立つんだよ!)
郭は韓国語でその選手に向かってそう言った。もちろん、相手がわかるはずも無い。
94 :
郭の気持ちC:2001/08/01(水) 23:58 ID:3L0Pp2w2
その後も、さまざまな嫌味が行われた。
陰口、紅白戦での完全無視、試合の失敗をネタにいじめられる・・・。
郭はそれも上手くなる試練だと思っていつも耐えた。
日本に来て思う事がある。
(日本に移籍できていれば・・・。)
そうすればきっと人生も替わっていただろう。
あのFWや、MFの動きを見れば、すぐわかる。彼女たちは純粋にサッカーを楽しんでいる。
サッカーするのに日本はいい所だなぁ・・・。
郭はこの試合中、ずっとそう思っていた。
95 :
TONBA:2001/08/02(木) 00:17 ID:mhyGNFQg
>>86 保全サンクス!
1個スレが消えてからどうも心配性で・・・。
>>87 どうもどうも。毎度あり〜。
>>88 本物ですか?
96 :
普通に石川:2001/08/02(木) 23:18 ID:nuKZEkGo
そして神奈川のキッカー、司令塔の石川。
狙いを定めて、右足で蹴る。
ボールはキーパーの手にあたったが、完全に弾ききれず、右ポストの内側にあたり、ころころとゴールに入っていく。
これで3−3。
97 :
焦りは禁物:2001/08/02(木) 23:19 ID:nuKZEkGo
5人目、キッカーは後藤のライバルとなるだろう、FWダニエル。
彼女は去年のMリーグ所属時代にPK決定率100%を叩き出した選手である。ただ、それはリラックスした状態での結果だった。
しかし、今回の彼女の心境は違った。それはレギュラーをとられるかもしれないという焦り。結果を残さないとベンチを温めるかもしれないという焦り。
その焦りが最悪のキックを生んだ。
ダニエルは、踏み込みに失敗し、芝を蹴ってしまい、ボールは勢いなくキーパーの手元へ。
観客席からブーイングが飛ぶ。
そしてそのブーイングの中、後藤がセンターサークルから、ゴールエリアへとゆっくり、堂々と歩いていった。
ダニエルがすれ違いざまに、何か英語で言ってきた。
おそらく、ダニエルはわかっているのであろう。後藤はPKが得意でない事を。
後藤はボールを置きなおす。
そして、大きく深呼吸をする。
後藤は、PKがあまり得意ではなかった。
それは13歳の時、地元の中学校で春の大会に出たときだった。決勝戦・・・・。後藤にとって初めての舞台だった。
3−3と点の取り合いになっていた決勝戦。後藤は3点中、3得点を全て自分で挙げていた。
ロスタイム、自分のチームの選手がゴールエリア内でこかされた。
PKだ。監督の指示で、後藤がキッカーとなった。後藤の頭は真っ白だった。人生初めてのPK。
震える足でキックする。ボールはドンピシャGKの前へ。後藤はど真ん中に蹴った。
動けなかったGKがそれをとるとすぐに前線へ。2人前線にはっていた相手チームに対して、後藤のチームはDFも全てゴールエリア付近にいた。
それが誤算だった。後藤はゴール前から、立ったままで動けなかった。決めれば全国だったはず・・・・。後藤は帰り道、そう思った。
秋の大会は、その無念を晴らすかのように働いた。
全国まで行き、結果優勝した。それでも、後藤の中で、あの事を忘れる事は無かった。
あのPKが入っていたら、もっと早く全国に来れた。あのPKが入ってたら、もっとこの優勝が嬉しかったのに。
後藤は優勝杯を持ちながらも、そんな事を考えていた。
それから後藤はPKのたびにその事を思い出した。そうすると、体がすくみ、思い通り蹴る事が出来なかった。
しかし、これからはそんな甘え事いえなくなる。海外に行くというのはそう言うことだ。
大丈夫だ。これからの私にはできる。そう自分に言い聞かせて、ボールを蹴る。
ボールは低く、速い弾道でゴール右下へ。
キーパー逆サイドに。呆然と逆にいったボールを見るGK。
この瞬間、神奈川の準決勝進出が決定した。
帰りの廊下、後藤と石川は一緒にロッカールームへと戻っていた。
そこに、ダニエル達がとおった。
後藤は流暢な英語でダニエルを睨みつけながら言った。
ダニエルはその言葉を無視するかのように、ロッカールームへと入っていった。
「なんて言ったの?」
よく聞こえなかった石川が後藤に言った。
「『口だけは達者なんだな。』って言った。」
「英語使えたんだ。」
「ちがうよ、これはこの間読んだ英語でかかれた本に書いてあったんだよ。それを思い出してね・・・。」
「ははは!ごっちんらしいね。」
「そうかな〜?」
2人ともくすくすと笑った。
そして、石川は後藤に別れの挨拶して誰もいないうちにカバンをもって裏口からタクシーに乗って帰ってしまった。
「梨華ちゃん・・・仲直りしたらいいのに・・・・。」
後藤は石川がいなくなったロッカールームでそう呟いた。
103 :
波乱のA杯:2001/08/03(金) 23:41 ID:KQWgVcfM
トーナメントは荒れていた。
1回戦で、優勝候補にあげられていた招待チーム、ペルージャが三重に4−3で破れると言う波乱が起きた。
ペルージャは、主力メンバーを使わず、控えで戦いを挑んだため、接戦を制したのは三重だった。
ペルージャの監督はこの試合の感想をこう語った。
『相手チームのFWと、MF陣の連携がすばらしかった。それに比べて我々は少しなめていたようだ。今度、機会があれば優勝したい。』
104 :
TONBA:2001/08/04(土) 00:03 ID:0MuhwVlU
今日はこれだけです。申し訳ない。
その代わりに、何か暴露します。(小説での事。)
質問をPM11:30までに入れといてください。
1つだけ答えます。
105 :
TONBA:2001/08/04(土) 12:22 ID:73LoO88A
スレッド数595なので、保全
106 :
TONBA:2001/08/04(土) 23:40 ID:sfW0klE2
その三重に2回戦で当たるのが、天才左WBとして、今年入団した加護亜依、日本代表GK稲葉貴子率いる新生京都ドールズだった。
「ペルージャに勝った三重が相手や。気合入れていくで!」
チームの守護神でキャプテンの稲葉が全員を集めて喝を入れる。
加護は『左サイドの貴公子』の異名をとり、スカウトから評判で、中学からユースを飛ばしてサテライトに入り、即一軍に昇格した。
そしてその名のとおり、一回戦で左サイドでの3人抜きのドリブル、左サイドからの正確なセンタリングを見せた。
しかし、今回、そんな思い通りに動ける事はなかった。
そんな事とはつい知らず、加護はピッチにたった。
107 :
TONBA:2001/08/04(土) 23:42 ID:sfW0klE2
(京都) (三重)
FW FW 平家
MF 柴田
MF MF
加護 MF
MF MF 斎藤 大谷 村田
DF DF DF DF
DF DF
稲葉 GK
108 :
↑訂正:2001/08/04(土) 23:44 ID:sfW0klE2
(京都) (三重)
FW FW 平家
MF 柴田
MF MF
加護 MF
MF MF 斎藤 大谷 村田
DF DF DF DF
DF DF
稲葉 GK
開始早々、ボールを奪われる京都FW陣。
コイントスに勝ち、ボールをもらったが、これじゃ意味ないじゃん。
加護はそう思った。
柴田が右サイドライン際でボールをキープする。加護は柴田のチェックに入る。
柴田は加護とボールの間に体を入れて、ボールをキープする。
加護は体を寄せ、前を向かせないようにする。
加護が一生懸命ボールを取ろうと足を出していると、柴田が呟いた。
「もういいかな?抜くよ。」
そう言うと、ボールを、加護の股下を通過させて、柴田があっさりと抜く。
そしてそこからさらに2人抜き。
ゴールエリアに差し掛かった所で、ファーサイドにボールを流す。
それに稲葉が飛び込み、ボールを取ろうとする。
しかしそこに平家がスライディングで飛び込む。
ボールは平家の左足の上に乗り、それをふわりと浮かせる。
ボールは稲葉の体の上を通る。テンテンと音を立ててボールがゴールの中に転がっていく。
平家の周りには、相手チームの輪が出来た。
加護はその得点シーンを、ただただポカーンと見ているだけだった。
さらに追い討ちをかけたのは至近距離でフリーキック。ファールを取られると、相手のキッカーは大谷。
見事左足で蹴り上げられたボールはキレのいいカーブを描き、ゴール左下隅へ。
そしてその後、ミドルレンジでボールをもらった斎藤のミドルシュートが決まる。
前半の締めくくりとして、村田がドリブルで切り込み、柴田へのスルーパスを通し、柴田がゴールへ流し込む。
京都ファンは一瞬にして静まり返った。
前半だけで4−0。負け試合となってしまっていた。京都のロッカールームは暗かった。
4−0で、シュート数0。反撃の形すら出来てなくて、加護にボールも渡らない。
ボール保持率34%。これが前半の京都のボール保持率。
その結果として、パスがまったく自由にまわらないことがあって、その理由にフラットのトリプルボランチのポジショニングがあげられる。
3人のボランチは守備時には、すぐに加護とFWをマークし、パスコースを潰す。
そして、出す相手のいなくなったボールは後ろに回される。
それを柴田がカットすると、3人のボランチは両サイド、真ん中から前線にでる。
そしてシュート。稲葉がそれを好セーブで弾く。そんなシーンが10回ほどあった。
しかし、抑えきる事が出来なかった。結果、4点奪われて、反撃も出来なかった。
去年、三重に足らなかったものは中盤の強さ。
それが完全に克服された今、平家の決定力、中盤の強さで、得点を重ねて、点を入れられても入れ返すほどの強さまで登りつめていた。
112 :
加護の目:2001/08/05(日) 22:49 ID:MAB9ArFQ
後半が始まった。
やはり、平家、柴田を中心に積極的な攻撃に出てくる三重。
そして、三人のボランチで前線へのパスを完全に遮断する。
(隙がないよぅ・・・・・このままじゃ負けちゃうよ。)
加護は正直この状況にまいっていた。ボールさえまわってこれば何とかできる自信があった。
しかし、前にいる村田のおかげでほとんどボールに触れない。
そのおかげで体力が減らない。汗をかかない。
それに引き換え、村田の顔は汗でびっしょり。前半と違って上がる事は無く、柴田たちが攻撃に出ているとき、こまめに水分を補給している。
その時、加護はもう少し、もう少しで反撃にでれると思った。
加護の考えどおりだった。
後半も半分が過ぎると、3人のボランチの運動量がすごく落ちた。スタミナ切れである。
それも仕方が無かった。なぜなら、1番運動量が必要とされるWBの1.5倍はすでに運動しているようからである。
これほどの量動くことは、加護の運動量を持っても難しい。
そして、初めてのチャンスがやってきた。
村田の動きが完全に止まってしまった。他の2人も足が止まっている。
それをチャンスと見た京都は加護にボールを出す。
今日、8回目ぐらいとなるボールタッチは、フリーでまわってきた。
前を向くと、早く戻ってきた柴田がいた。
まだスタミナがあるのかと思って、仰天したが、足を見てみると、震えている。
「強がりはやめときや。」
柴田に、抜き際にそう言った。柴田は動けなかった。
加護はFWにボールを出した。そして、DF陣は加護のスピードに振り回される。
右に左にちょろちょろ動き、DFを振り払ってボールをもらう。
そして、サイドから綺麗なセンタリングを上げると、FWがヘディングで押し込む。
これが本日はじめてのシュート。そして、初ゴール。ここから京都の反撃が始まると思われた。
114 :
TONBA:2001/08/06(月) 23:39 ID:uUr9kY8I
↑京都の反撃です。
今のペースだと、一ヵ月後にはストックがなくなるという非常事態が発生しましたのでペースを下げます。
要は取水制限と同じです。
たまればまたペースをあげます。
115 :
試合終了:2001/08/07(火) 22:39 ID:ddsXnTS6
終わってみれば、6−1・・・・。
加護は呆然とした。まさか、あの人ががそれほど動けるとは・・・。
後半は平家一人にやられた。ゴール3分後、ボールをもらった柴田は前線に張っている平家にパスを出す。
それを受けた平家は振り返ると同時にシュートを放った。
それは稲葉が今まで、平家のシュートを見た中で1番速く、伸びのいいシュートだった。
パンチングで正面に弾くと、平家がそれに、DF2人そばに連れたまま突っ込む。
そして、ダイビングヘッド。それは吸い込まれるかのようにネットに刺さる。5−1。
さらに戦意をそがれた京都にとどめが入る。平家がボールをもらうと、前人未到の6人抜きを見せた。
そして、シュート。稲葉は反応するが、指をかすめるだけで、弾く事は出来なかった。6−1。
後半の前半は反撃にも出た京都だったが、これで完全に戦意をそがれ、あっけなく負けた。
それは加護のプロになったときに出来た自信を完全に打ち砕いた。
116 :
4126:2001/08/08(水) 14:36 ID:BKQ1poTU
気持ちはわかる。なんか思いついた時になんとかふくらまそうと必死です。ガンバ。
帰り道、加護は罵声を浴びせられた。
「バカヤロー−−−−!」「やめちまえよ!」「京都の恥さらしが!」「ホームで負けんじゃねーよ!」「6−1って、お前らやる気あんのか!」
加護は耳をふさいでロッカールームへと走っていった。ロッカールームの雰囲気は最悪だった。
加護は一言もしゃべらずに稲葉とともに競技場を後にする。
加護は放心状態だった。いままで自分を可愛がっててくれたファンがあんな事言うことが、若い加護にとって、とても苦痛だった。
バスまでの道のり、加護と稲葉は、戦犯扱いされた。空き缶を投げられる。石を投げられる。卵も投げられた。
それを全てよける事も無く、加護は当たっていた。と言うよりも、あたっている事に気付かなかった。
稲葉が加護をかばうが、それでも数本は加護に当たる。バスに乗り込んでも、缶は投げられた。
加護は完全に自信を失っていた。
118 :
TONBA:2001/08/08(水) 23:33 ID:zr4MOwNA
119 :
TONBA:2001/08/09(木) 22:58 ID:PukTEAco
次の日、スポーツ面のカラーは石川だった。それと、新聞の一面は後藤になっていた。
それは、同日、人気の高い2人のいる神奈川がワシントンに2−2のPK3−2で勝利したからだ。
昔からそうだった。平家が活躍した時は、何らかの形で一面をとられる。
三重がJFLにいた2年前、デビュー戦でハットトリックを決めた時、ユース代表の試合があった。
さらに去年、ハットトリックを2試合連続で決めた時も、新聞の一面は後藤の神奈川入団だった。
いい事があった日は、一面を他の話題に持っていかれた。悪い事に、まったくダメだった日は、他に何も無い日で、スポーツ面で叩かれた。
それが平家の人気低迷につながってしまう。
さらに今回、サッカー界の期待の星、加護の自身を打ち砕くまでの働きをした平家は、叩かれた。
120 :
名無し娘。:2001/08/10(金) 01:13 ID:n9WqO/oA
te
121 :
TONBA:2001/08/10(金) 23:01 ID:IvdsuUMA
『中学生相手に本気の平家。情けを知らない血も涙も無い人間!』
「情けだぁ?プロ同士なんだから、情けなんてものあるかよ!」
笑い声が部屋に響く。
「だいたい、この新聞社は私を叩くのが本当に好きだな。他の社では、小さくだけど褒めてるのにな!」
「そうですよ。」
隣にいる柴田が首を縦に振る。
「後藤さんや、加護よりも、日本代表に1番近い選手なのですから。」
「・・・・日本代表はわからんな。後藤が海外行ったし、海外にはあいつもいるからな・・・・。」
横の壁に貼られてあるポスターを見た。紙の色から見ると、まだ最近のようだ。
「・・・・あの人ですか・・・・。」
2人の視線はチームの集合写真のある人物に釘付けだ。
「・・・あの人を超えれば、うちは確実に日本のストライカーなんだ・・・・。」
122 :
吉澤は?:2001/08/11(土) 23:52 ID:ylSoDdvE
吉澤はその日、寮の自室にいた。
A杯決勝戦をテレビで見ていた。先週準決勝で三重に3−1で敗北したので、神奈川とあたる事は無かった。
この日は完全オフで、なんの予定も無かったので、寮でA杯を見る事にした。
まず、前日までのハイライトが放送される。
神奈川と三重を中心にハイライトを写している。そして、準決勝、三重VS奈良。
この試合、フィールド上に吉澤はいなかった。それは瞼の傷が前日の試合で少し開き、出場を断念したからだ。
その分、中澤が働いていた。しかし、総合力で優る三重に勝てるはずも無かった。3−1で敗北。
吉澤は目の上にガーゼを当てながら、その試合を観客席から見ていた。
すごい試合だったのは覚えている。
平家の圧倒的な存在感。柴田、大谷、村田、斎藤のMF陣の攻守の切り替えの早さ。
これらが効果的に動いたので、試合のほとんどが奈良陣内での試合だった。
123 :
TV特集:2001/08/11(土) 23:53 ID:ylSoDdvE
神奈川の準決勝の相手は、サガン鳥栖。
J2のクラブチームが相手で、試合運びがらくったみたいで、石川の表情は苦しそうではなかった。
とても楽しそうなサッカーをして、2−0で勝利。
その後、得点ランキング、アシストランキングの発表があった。
現時点での得点ランキングは1位平家の6点、2位は後藤の5点。アシスト数は1位石川の4本。2位柴田の3本。
これらと、総合力から見る限りでは、三重に軍配が上がっていると、解説のおじさんが言った。
124 :
吉澤の頭脳:2001/08/11(土) 23:53 ID:ylSoDdvE
吉澤の考えは違った。
有利なのは神奈川。三重はワントップなので、フォローが無く、神奈川のDF陣に潰される。
柴田と石川のレベルを比べると、石川のほうがワンランク上。
チーム総合力はほぼ互角。ゆえに、FWが働けそうに無い三重が敗北すると考えた。
実際、奈良VS三重戦で、平家を完全に抑えていたが、柴田に動かれたため、負けてしまった。
それを見ていた神奈川の監督が同じ間違いをするはずが無い。
両方ともにマンマークをつけてくるに決まっている。
やはりそのとおりだった。
吉澤の考えが的中した。しかも、完璧に・・・・。
柴田はボランチに、平家はディフェンダーにパスコースを遮断される。
ボールがまわらない三重に対し、神奈川の前線は滑らかにボールが動く。
そして、後藤の飛び出しと石川のスルーパスのタイミングが完全にあうと、得点する。
前半は2−0。
後半、平家が意地を見せて1点取るが、そこまで。試合もそこから動かず、そのまま終了した。
優勝は神奈川。石川が優勝カップを掲げる。神奈川キャプテンが盾を掲げる。
同時に各賞の発表がされた。
MVPは後藤真希(FW・神奈川)、得点ランキング1位は平家みちよ・後藤真希(2人ともFW:平家・三重:後藤・神奈川)、アシスト数トップは石川梨華(MF・神奈川)。
ベストイレブンも発表された。
126 :
TONBA:2001/08/11(土) 23:55 ID:ylSoDdvE
早く次のステップへ行きたいので、さっさとA杯を終わらせてしまいました(焦)。
その分、面白いものにするので許して。
127 :
名無し娘。:2001/08/12(日) 09:48 ID:TdlWo.mw
頑張って〜
移籍先は?鹿児島?
128 :
TONBA:2001/08/12(日) 23:38 ID:yUJio456
廊下の公衆電話から、吉澤は久しぶりに石川に電話した。
「もしもし?梨華ちゃん?」
『あ〜、よっすぃ〜!久しぶり〜!』
「久しぶりだね〜。ところで、優勝、おめでとう。」
『ありがとう!と〜っても嬉しいよ!』
「アシスト王獲得おめでとう!うらやましいよ。」
『・・・次に会うときは、ユースのセレクションのときだね。』
「うん。8月、楽しみにしてるよ。」
『受かろうね。』
「うん。」
『じゃあ、今からシャンパンかけがあるから。バイバ〜イ♪』
石川はそう言って電話を切った。
吉澤は、電話を受話器に置くと、無性にサッカーがしたくなり、グラウンドにボールを抱えて出て行った。
129 :
松浦登場:2001/08/12(日) 23:39 ID:yUJio456
そこで、監督と見た事の無い女の子が一緒にいるのを見た。2人はクラブハウスへと歩いていく。
吉澤はそれが気になり、ついて行った。
2人はオーナ室に入っていく。吉澤はドアの前で耳を部屋にくっつけて中の話を聞いていた。
「コノ娘ガ、松浦デス。ワタシガAZデ監督ヲシテイタ去年、私ガ日本ニオシノビデヤッテキテ発掘シタ中学生MFデス。」
「しかし、これ以上の司令塔が必要なのかね?司令塔は吉澤、中澤の2人でも多いぐらいなのに。」
「ワタシニ案ガアリマスノデ安心シテクダサイ。」
「そうかね・・・。まぁ、君に任せよう。松浦君、ヨロシク。」
「よろしくお願いします。」
そんな声が聞こえてきた。吉澤は人が出てきそうな気配があったので、急いで物陰に隠れた。
すると、3人が出てくる。
「背番号の話をしてなかったな。何番がいい?」
「そうですね〜。8番か10番がいいです。」
「・・・・何とかしよう。それでは、ネロ君。明日、みんなに発表するから連れてきてくれよ。」
「大丈夫デス。」
そう言うと、オーナーは部屋に戻り、2人は外へと歩いていった。
130 :
TONBA:2001/08/12(日) 23:40 ID:yUJio456
131 :
127:2001/08/13(月) 09:08 ID:iUZebfs.
>>130 後藤は決まってるんだよね?
鹿児島かな〜って鹿児島にして(w
132 :
TONBA:2001/08/13(月) 23:50 ID:towDSwSo
背番号10と言えば中澤さんの。8番といえばつい最近変更してもらった自分の背番号だった。
JFL時代からチームに貢献している中澤の背番号が変えられる事はない。
となると、もし変えられるとするなら、自分の背番号が変えられると吉澤は考えた。
そう考えながらグラウンドに出た。
新入団の選手のためにそこまでしないだろうと思いながら、グラウンドにコーンを並べて、ドリブルを武器にするべく、一生懸命練習した。
133 :
TONBA:2001/08/13(月) 23:50 ID:towDSwSo
明日、石川の移籍先を発表します。
134 :
名無し娘。:2001/08/14(火) 08:44 ID:H1Fc8WxQ
>>131 自然な流れから、吉澤のところだろ?
楽しみだな〜
135 :
名無し娘。:2001/08/14(火) 20:47 ID:H1Fc8WxQ
鹿児島には、傷心の加護が来て年上二人にしごかれます。(w
やすかご最高
この日、Mリーグ全球団で、新入団選手発表の記者会見が行われた。
各チーム、将来有望な高校生の入団発表をしたが、特に注目されたのが石川の移籍先。
その石川の記者会見が、神奈川の石川宅近くの公民館で開かれた。
注目されていた石川の移籍先は、青森になることが決まった。
理由として、金額がまあまあなのと、環境が1番良い事にあった。
当初、予想されていた京都への移籍は、京都が移籍金を出しおしみしたため、決裂。
熱烈なオファーが来ていた青森に移籍する事になった。
ちなみに、その契移籍金は6000万円(推定)。年俸は4000万円(推定)。
また、一部のファンの間では、鹿児島行きとの話もあったが、「あのFW(辻)と私のタイプは合わないから。」と言って、否定した。
また、後藤も同日、記者会見をアメリカで行っていた。
そこで、後藤は初めてMLSのワシントンD.C Unitedにレンタル移籍する事を明かした。
レンタル金、日本円にしておよそ3000万円(推定)。年俸は2500万円(推定)の模様。
完全移籍の場合、移籍金、1億6000万円(推定)。年俸は6000万円と言う、好条件での移籍。
また、同日、神奈川の球団事務所で、新入団選手として両アメリカ国籍のMFミカ、FWレフアのレンタルでの獲得を発表した。
次の日の、サンデイ新聞のスポーツ面
ということにしてください。
138 :
松浦亜弥:2001/08/14(火) 23:19 ID:f/iuD/ek
その日、吉澤のいる奈良でも入団発表があった。
公式記者会見終了後の選手間でのものだったので、マスコミは当然一人もいなかった。
「これより、新入団選手を紹介します。」
オーナーがみなをクラブハウスのミーティング室に集めて、あらためて発表する。
「オランダリーグAZの練習生、松浦亜弥さんです。」
そういわれると、松浦が頭を下げながら入ってきた。
「今回、このチームに入ることになりました、松浦亜弥です。ポジションはオフェンシブハーフです。よろしくお願いします。」
吉澤の隣にいた中澤が吉澤に小声で言った。
「あのコ、なんでとったんやろうか?」
「・・・監督の考えはちょっとわかりませんね。」
吉澤がそう答える。と、ネロ監督が前に出た。
「今カラ10分後、グラウンドニ集合デス。ソコデ、大切ナお話シガアルノデ、オクレナイヨウニ。」
そういって、解散した。
10分後、ジャージに着替えたメンバーに、ネロが大切な話を始める。
「ポジションノヘンコウガイクラカアルノデ、コレカラ配ル登録表ヲミテクレ。」
配られた登録表には、驚くべき事が書いてあった。
「これは・・・どう言うことですか!」
中澤が立ち上がる。
「吉澤の登録ポジションが・・・・・FWなんて!」
「コレカラ話ヲスルカラキキナサイ。」
ネロが、そう言って中澤を座らせる。
「吉澤ノポジションニ関シテハ固定シナイコトニシタ。」
「それじゃ、この子の才能が伸びないじゃないですか!」
再び中澤が抗議する。松浦は何も言わずに下を向いて、やりにくそうにしている。
「吉澤ニハ、才能ガアルト思イマスヨ。ダカラコソ、タクサンノポジションヲ経験サセタイノデス。」
「でも急にFWって言うのは・・・。」
「時ト場合ニヨッテハ、MFデ起用スルコトモアル。」
「そんな事言っても・・・吉澤はどうなん?これでええの?」
中澤が隣にいる吉澤に言った。吉澤は少し困惑した顔で言った。
「・・・監督が言うのなら・・・やります。」
自分の才能を買ってくれた監督を裏切れなかった。
「吉澤・・・あんた・・・。」
「コレデ決定デス。イイデスネ?」
ネロ監督が中澤を見た。中澤も何も言い返せなかった。
「アト、練習後、吉澤ハオーナー室ニ来テクダサイ。以上。ソレデハ練習ヲハジメル。」
そして、練習が始まった。
松浦ができるだけチームに溶け込もうとして、話し掛けまくっている。
実際、松浦はいい子で、すぐにチームに溶け込めた。中澤と吉澤ともすぐに仲良しになった。
練習も年齢の近い吉澤と松浦は一緒にする事が多かった。それを見たネロ監督は、ひとまず安心した。
140 :
(0^〜^0)@狼:2001/08/15(水) 19:17 ID:vQOAp.ac
がんばれ〜
141 :
クライフ:2001/08/15(水) 23:50 ID:Wc4OB0QU
練習後、オーナー室へと吉澤が歩いていった。
「失礼します。」
入ると、オーナーとネロ監督がソファーに座っている。
「まぁ、そこに座ってくれ。」
オーナーに席に座るように言われる。吉澤は言われるままに座る。
「背番号の話だが・・・。」
「変えろ・・・ですか?」
吉澤が考えていた事が的中した。
「あぁ。背番号は検討した結果、これをつけて欲しい。」
と、持っていたユニフォームを広げて背番号を見せた。
「これは・・・14番ですか。」
「8番は松浦君にきてもらうので、この空番がいいと思ってね。」
14番・・・格下げか・・・。吉澤はそう思った。
「どうして・・・14番なんですか?」
「私ハ前年マデオランダニイタ。ダカラ期待シテイル選手ニハ14ヲツケテホシインダヨ。」
そこまで言われて、断れるほど、吉澤は勇気が無かった。
「わかりました。頑張ります。」
格下げと思っていた背番号が、期待の現れ・・・。吉澤はこれからその期待を一身に負うこととなる。
開幕戦が、次の日に迫っていた。
吉澤の背番号14をお披露目する時が迫っていたのだ。
「いよいよ明日、開幕だ。そこで、開幕オーダーを発表する。」
コーチがネロ監督に渡されたメモを読み上げる。
「GK・・・。DF・・・・・・・・・。MF、トップ下松浦、WB・・・・・・、ボランチ中澤、・・・。FW吉澤・・・。これでとりあえず、開幕カードの青森と戦う。気を引き締めて行こう!」
「ハイ!」
チーム全員で気合の返事をした。
その日の夕方、吉澤は中澤に呼ばれて練習場に出た。
中澤は練習場の観客席にいた。空は赤色。綺麗な夕暮れである。
グラウンドでは奈良ユースが練習していた。
吉澤が中澤をグラウンドのまわりにあるトラックから見つけた。
「中澤さん、何の用事ですか?」
吉澤が下から声をかける。それに気付く中澤。
「ちょ、こっちに登っておいで。」
手招きしながら中澤が言った。その顔に、いつものような元気さは無かった。
吉澤は上に上がると、中澤の招くまま、隣の席に座った。
「ゴメンな。今日、明日に備えてゆっくり休まなあかんのに。」
いつものように怖い顔ではなく、むしろかわいらしい顔で
「いえ・・・。で、なんの用事ですか?」
「吉澤・・・あんた、明日の試合楽しみか?」
中澤はグラウンドの楽しそうにサッカーしているユース生を見ながら言った。
「そりゃ・・・親友の梨華ちゃんともサッカーできるし、新しいポジションだし・・・。」
吉澤は中澤を見た。中澤の視線はグラウンドの一点を見ていた。
「・・・そうか。・・・若いっていいな・・・。」
中澤がため息混じりに言った。
「うちはな、その新しいポジションが不安で不安で落ちつかへんねや・・・。」
「中澤さん・・・。」
「28にもなって、新しいポジションやろ?ボランチなんて、高校生の時以来やねん。そやから、みんなに迷惑かけるんちゃうかと思うと、不安で・・・。」
中澤が不安を口にする姿を、吉澤は初めてみた。
「・・・あんたは若いから、まだ成長の可能性がある。でもうちは今、ピークが過ぎた所や。スタミナ落ちてきてるのも自分でわかってる。それにもし、新しいポジションで失敗したら、うちはベテランやから、クビの可能性だってある。それ考えたら・・・・。」
「そんな事考えちゃダメですよ。」
吉澤は立ち上がり、中澤を見下ろす感じになった。
「そんな事考えてプレーしちゃダメですよ。それに、ボランチって言っても、攻撃的なボランチだっているじゃないですか!
それでいいんですよ!中澤は攻撃的なボランチだな、って言わせればいいんですよ。失敗なんかしないですよ!私の知ってる中澤さんは、いつもみんなを叱ってるじゃないですか!それでいいんですよ!ポジションが変わっても、中澤裕子は変わらないでください!」
吉澤は、大声で中澤に向かって言った。
「あ、すみません・・・えらそうでしたね・・・。」
そう言ってすまなさそうに吉澤が座る。
「・・・あんたの言う通りや。『怒る闘将』と呼ばれたうちが、弱さなんか似合わへんな。」
そう言って中澤は立ち上がった。
「オッシャー!うちはいつもどおりプレーするでー!!!」
「その意気です!」
吉澤も立ち上がる。
「ところで吉澤!今年の目標はなんや?」
「決まってるじゃないですか。」
「2人で大声で言おか。」
「ハイ。」
それから2人は深呼吸して、大声で、寮の一室にも聞こえるぐらいの大声で言った。
≪絶対優勝するぞ−−−−!!!≫
145 :
二人暮氏:2001/08/16(木) 00:36 ID:eEFPVT8U
中澤に第2のドゥンガを期待。
146 :
TONBA:2001/08/16(木) 22:28 ID:QAo8U5PQ
自分は、ドゥンガのプレー、見たことないです・・・・・。
次の日、各地でデイゲーム1試合、ナイトゲーム3試合の開幕戦が開かれた。
その開幕戦デイゲーム、奈良は前年3位の青森とホームで試合する事になった。
ポジションに変更は無い。司令塔にはネロ監督の秘蔵っ子と言われ始めた松浦が入る。
先日おこなった紅白戦では、吉澤とまあまあ息のあったプレイを見せていたので、ネロ監督は安心して松浦を指令とで起用した。
「・・・相手ハ青森ダ・・・・慎重ニイケ・・・・・。」
ネロ監督はそう言うと、すぐにベンチへと向かった。
細かい作戦はコーチが聞いていたらしく、それを一人一人説明していく。
時間一杯となった。廊下で石川とすれ違った。親友とはいえ、敵チームの石川と吉澤。
笑いながら手を振ったが、すぐに表情を変えた。それはむこうも同じだった。
そうして2人は気合を入れた。
選手紹介で、奈良メンバーがビックリする事がおこっていた。
なんと敵チームの長野のGKが昨年最多アシストに輝いた安倍なつみだった。
どう言う事情があったのかわからないが、GKのユニフォームを着て、キーパー手袋をはめている。
背中には「1」ではなく「8」がつけられていた。
149 :
メンバー表:2001/08/16(木) 23:48 ID:QAo8U5PQ
(奈良) (青森)
吉澤 FW FW FW
松浦 石川
WB WB WB WB
中澤 MF MF MF
DF DF DF DF
DF DF
GK 安倍
150 :
背番号8:2001/08/16(木) 23:50 ID:QAo8U5PQ
試合が始まった。
ボールは相手から始められたが、吉澤が簡単にボールを奪う。
それに真正面からチェックに来たのが石川。
ここは通さないよ。と言った顔で吉澤を見てくる。
いいのかな?そんなことしてて。敵は私だけじゃないよ。
吉澤はボールをアウトサイドで、強く横に弾く。
そこには、中澤が走りこんでいた。フリーで、しかも前向きでボールをもらったボランチが目をつけたのは、中央を駆け上がる背番号「8」。
そいつの足の速さに合わせるように、GKとDFにタイミングよくスルーパスを上げる。
それを胸でトラップして、前を向き、シュートを放とうとしたその時だった。
目の前に青いユニフォームが。「8」と「8」が接触する。
結果、「8」はこけて、ボールが足元に無く、「8」の胸にボールが大事そうに抱えられていた。
そう、安倍が滑り込み、ボールを取ったのである。そしてそれをロングキックで前線へ。
151 :
背番号8A:2001/08/16(木) 23:51 ID:QAo8U5PQ
安倍がゴールキーパーをするようになったのは、A杯終了後すぐだった。
青森の試合終了後、失点が多すぎるとの理由で、GKがサテライトに落とされた。
不在となった正GKの穴を、誰で埋めようかと考えていた岡村監督は面白い事を探してグラウンドを歩いていた。
その目に飛び込んできたのは、GKをしている安倍。
安倍はチームの日本代表レプリカのキーパーユニフォームをきて、遊んでいた。
(安倍がキーパーも面白いかもしれへんな。)
そう思いながら、その遊びを見ていた。
すると、安倍は凄い上手い。これを見た岡村は即行安倍の登録をGKにすることを自分の中で決めた。
152 :
背番号8B:2001/08/16(木) 23:51 ID:QAo8U5PQ
そして次の日、岡村は安倍をオーナー室に呼んだ。
安倍をソファーに座らせ、机を挟んで向かい合うように座る2人と横に座るオーナー。
「安倍、今シーズンからGkやってくれへんか?」
その言葉に驚きの表情を隠せない安倍。
「え?え?それってどう言うことですか?」
「そう言うことや!」
岡村は大きい声で言った。
「そう言うことやから。背番号も変更してもらうで。」
安倍は「え?」と声を出す。
「え?やないで。キーパーは1番って決まってるやないか。」
「そうですね・・・・。」
安倍はうなだれて、机を見ながら言った。机はガラスだったので、安倍の表情を岡村は見る事ができた。
「・・・・それだけや。帰っていいで。」
他にもいうことがあったが、その表情を見ると、何もいえなくなった。
帰り際、安倍がドアを開けながら呟いた。
「岡村さん、キーパーが背番号「1」なんて、普通ですね・・・。」
153 :
背番号8C:2001/08/16(木) 23:52 ID:QAo8U5PQ
岡村はその言葉に少しむかついた。
(お前をGKにする事だけでもおもろいねん!)
そう思いながらも、安倍の言葉が思い出される。
「普通ですよ・・・・。」
これは岡村が言われて嫌な言葉の1つである。
(・・・でもそれだけやったら確かに普通やな。それやったら・・・・。)
岡村は背番号「1」のユニフォームを引き裂いた。
「な、何をしてるんだ、岡村君!」
オーナーがそれを見てビックリした。すると岡村が、オーナーに頼んだ。
「オーナー、キーパーユニフォームがなくなったから、新しいの作ってください、背番号は「8」で。」
背番号「8」を継続させることが、面白いかもしれないと思った岡村がとった、らしい行動だった。
154 :
背番号8D:2001/08/16(木) 23:53 ID:QAo8U5PQ
背番号「8」は、パスの天才がつける番号である。
「安倍にぴったりの背番号だな。」
去年、アシスト王を決めた時、褒め言葉として安倍に言った言葉だった。
その安倍をキーパーにポジションチェンジするのには、もう1つ考えがあった。
それは岡村の切り札・・・。とてもリスクの大きい作戦である。
成功すれば、勝ち点が。失敗すれば失点が入る。
岡村はそんな作戦を使うために安倍をキーパーにした。そしてその作戦の時、安倍は背番号「8」の役割を発揮する。
155 :
名無し娘。:2001/08/17(金) 04:00 ID:qtVzaYn2
保全
156 :
名無し娘。:2001/08/17(金) 13:18 ID:r/iyX8ZY
hozen
安倍の的確な指示でDFは吉澤の動きを封殺する。
もちろん、安倍の考えではボールの起点は吉澤と、奈良の試合のビデオを見てインプットしていた。
間違いではない。間違えではないが、その資料はもはや古いものだった。
松浦がフリーでボールをもらう事が多くなった。
それは吉澤に2人マークがつくため、松浦、中澤まで手が回らなかったのだ。
中澤がボールを受け取る。そのマークされている吉澤の頭にボールをあわせる。
吉澤は2人に競り勝ち、頭でボールを地面に落とす。そのボールに詰める松浦。ルックアップし、周りを見る。
そして誰もいない左サイドのスペースにボールをほりこむ。
誰も取れないと思い、足を止めるDF。そのDFに安倍が叫んだ。
「後ろ!後ろ!」
後ろから中澤がフルスピードで上がってくる。DFは中澤を止める事が出来なかった。
ボールをスライディングでライン際に残す。すぐに立ち上がり、詰めてきたDFをかろやかに抜き、センタリング。
ゴール前には吉澤とDF2枚がいた。
頭でバックパスする吉澤。そのボールにゴールエリア外でこぼれ球を狙っていた松浦が低いシュートを放つ。
安倍が弾く。その弾いたボールに詰める吉澤。しかし、今回は競り負け、ボールは外に。
ルーズボールを待っていたかのように中澤がダイレクトで逆サイドへ。
バイシクルシュート。松浦が観客を沸かせる。さらに客が沸くのに時間はかからなかった。
そのボールはまっすぐゴールに向かう。
松浦がAZのユースに入団したのは、中学1年生の時。
国内の中学サッカーのレベルの低さにあきれて、そろそろサッカーをやめようかと思っていた時期に、ネロ監督が日本の中学生を視察にきていた。
(ユース以外デハ、マッタク話ニナラナイナ・・・。)
中学生の素質のある選手を連れ帰り、5年間育成して、スター選手にしようと思っていたネロ監督は、そう思い、ホテルに帰る道の途中だった。サッカーの練習をしている中学校を見つけた。
今までまったく気にならなかったが、ネロ監督は1人の選手の放つオーラに目がいった。
(ン?コノオーラハ誰ノモノダ?)
そう思ってサッカー部の練習を柵越しに見ていた。
そんな事に気付かない松浦はシュート練習に入る。
他の選手がしょぼいだけに、ネロ監督は勘違いかと思い始めた
(私ノ勘違イカ・・・・。)
そんな事、まったく認知していない松浦は全力でキックした。
「うわ!」
GKはその速すぎるシュートをいつもよけていた。
それを見たネロ監督は大喜び。
(日本ニキタカイガアッタ!)
そうして、松浦の帰りを待ち、声をかけた。
松浦はその話を聞いたときまったく信用してなかったが、よく顔を見ると、興味のあったオランダリーグAZの監督だと言う事に気づいた。
そして、その話を松浦自信は快く承諾した。
しかし、問題は父親だった。松浦の父親はその話に強く反対した。
ネロ監督が同席して話をしても、まったく聞き入れようとしない。
「行かせてよ。お願い。」
「ダメだ!そんな馬鹿げた事に賛成できるか!それにサッカーなら国内でもできるだろう!」
「国内のサッカーじゃレベルが低すぎるのよ!お願い!オランダに行かせて!」
「・・・ダメだ!」
そう言うと、松浦の父親は2階へと上がっていく。
そのような話し合いばかりで、いっこうに前に進まない。
しかし、裏では徐々に松浦の海外留学の手続きが進んでいた。
出発の日。
ついに両親を説得しきれなかったので、しょんぼりする松浦に、ネロ監督の代理の人が言った。
「ご両親も口ではそういいながら、応援してくれてますよ。」
それでもしょんぼりしている松浦にさらに代理の人が言った。
「じゃあ、オランダについたら、観光案内してあげるよ。」
それで松浦は作り笑いをその代理の人に見せて「楽しみ〜。」と、心にも無い事を言った。
松浦の頭の中には父親の事だけで、母親の了解だけでオランダに行くのは少し寂しかった。
「亜弥!」
後ろから声がした。母親だった。父親の姿は・・・周りを探すが見当たらない。
「ほら、これ忘れてたよ。」
紙袋を渡す。
「おかあさん、今日来れないって・・・・。」
「子供の旅立ちの時に見送りに来ない親がいますか。」
「おとうさんは?」
「・・・・来ないって。じゃあ、元気に行ってらっしゃい。頑張ってね。」
「うん!」
笑顔で手を振り、母親と別れる。
161 :
TONBA:2001/08/18(土) 00:20 ID:5C5nyt9s
保全、お願いします
162 :
名無し娘。:2001/08/18(土) 06:53 ID:D4EZw1Eg
163 :
4126:2001/08/18(土) 14:23 ID:/0K6GtnM
ほぜ。
164 :
二人暮氏:2001/08/18(土) 19:06 ID:Q4kUdK..
保全。
「こんな紙袋、用意してたかな?」
母親から忘れ物と渡された紙袋を機内の席で見る松浦。
チェックは通して、危険物では無いと判った紙袋の中身を松浦はまだ見ていない。
紙袋はセロハンテープで封をしてあるため、中が見えない。
松浦はどうしても気になったので、紙袋を開けてみた。
中には真新しい芝用のスパイクとレガースとストッキングと・・・・。
「あれ?まだある。」
そうして取り出したものを見て、松浦は目に涙をため、口を抑えた。
「よかったんですか?見送らなくて・・・。」
母親が空港の屋上で父親に向かって言った。
「いいんだよ。」
「照れ屋さんなんだから。」
母親が父親に向かって言う。二人とも、目線は子供の乗っている飛行機に注がれている。
「あの子の留学を一番に喜んでいたのはあなたじゃないですか。それなのに・・・。」
父親は頭を掻く。
「なんか娘を嫁にやるような気分になっちまってな・・・素直に賛成できなかったんだ・・・。」
母親がクスッと笑う。
「それにしてもあのプレゼント、少しキザじゃありませんか?」
「そうかな?」
父親はまた頭を掻く。
「亜弥があの色紙を見たら、きっと泣くわよ。」
「・・・一生の宝になってくれたらいいな。」
2人は子供の乗った飛行機が離陸するのを見て、家に帰って行った。
その色紙は寮に飾ってある。
AZ時代、ホームシックになってく帰りたくなった時、それを見て我慢した。
上手くいかなくて、くじけそうになったときもその色紙を見てがんばった。
オランダの学校がなじまなかった時も、それを見てがむしゃらに勉強した。
ネロ監督が辞めて、風当たりが強くなった時、それを見て泣かなかった。
日本に戻って来いといわれたとき、複雑な気持ちになったが、それを受け入れた。
父親に会いたかったから。感謝の言葉を伝えたかったから。
日本に戻り、久しぶりに家に戻った。
「ただいま〜!」
母親は笑顔で迎えてくれた。父親は松浦を見ようともしない。
「お父さん・・・・あのね・・・。」
笑いかけて話そうとするがそれを大声でさえぎられる。
「オランダでサッカーするんじゃないのか?」
反論が出来ない。
「勝手に日本をでてったと思ったら、勝手に帰ってきやがって・・・・。さっさと用事を済ませてオランダに戻れ!」
そういわれると、松浦は荷物を持って家を飛び出した。
「亜弥!・・・あなた!どうしてそう心にも無い事を!」
「・・・あいつのためだ。わかってくれ・・・・。」
それから2人は黙った。松浦は忘れ物を取りに玄関先まで戻っていた。
涙が出てくる。悲しいのではない。嬉しいから泣くのだ。
松浦は玄関先にデビュー戦のチケットを置いて、その場から立ち去った。
169 :
先制点:2001/08/18(土) 22:19 ID:.xW/2Vu6
安倍が左手で弾こうとするが、そのボールは少し軌道をそらすだけ。
ネットを揺らす。
松浦はどうだ!といった顔で安倍を見る。
この2万人の観客のどれかにきっと両親がきていると思うと、格好悪い所は見せられない。
松浦の実力は十二分に発揮されていた。
そんな松浦を見ながら、安倍は左手を握りしめ、そして開く。
(・・・・いいシュート打つなぁ・・・・。)
安倍はしびれる左手でボールを拾うと、前線にボールを返した。
170 :
名無し娘。:2001/08/18(土) 22:20 ID:.xW/2Vu6
前半、松浦を起点にボール回しが行われる。
吉澤のボールタッチは数えるほど。
それでも攻めれるのは中澤の良いポジショニングと、松浦のセンスのおかげであった。
それをあらかじめ予測して、的確に指示を飛ばす安倍。
点を取られたとはいえ、前半の功労者は一点に抑えた安倍と言っても過言ではない。
171 :
TONBA:2001/08/18(土) 22:23 ID:.xW/2Vu6
>4126さんへ
御脱稿おめでとうございます。
そして保全ありがとうございます。
>二人暮氏さんへ
保全ありがとうございます。
172 :
TONBA:2001/08/18(土) 23:06 ID:.xW/2Vu6
俺のネタがしぼられていく・・・・。
173 :
名無し娘。:2001/08/19(日) 07:48 ID:35MU79iQ
174 :
名無し娘。:2001/08/19(日) 16:41 ID:wvyvuBjI
あげます
175 :
TONBA:2001/08/19(日) 23:10 ID:D8jrQyyE
ロッカールームもにぎやかになる。
勝っている時はにぎやかなロッカールーム。作戦もぴったりはまる。
「私、全然見せ場が無いんですけど・・・・。」
吉澤が少し不満を漏らす。それを中澤がなだめる。
「あんたが敵をひきつけてるから、うちらが動き回れるんねんで。」
「そんな事言っても・・・・・。」
松浦が吉澤に近寄っていく。
「後半はきっと前半の動きから見て、私と中澤さんのマークがきつくなると思うんです。だから、後半は暴れてくださいよ。」
松浦が言う事には前半はA杯までの奈良のイメージで試合をしていたが、松浦や中澤の動きを見て、吉澤がフリーになる時間帯が多くなると言う。
「だから、後半に2点入れて、派手にこの試合を決めてくださいね。」
後半開始の時間が迫っていたので、チームはピッチへと向かった。
176 :
TONBA:2001/08/19(日) 23:25 ID:D8jrQyyE
今日は、平家との握手の思い出に浸りたいので、一話だけ。
あぁ・・・みっちゃん・・・。(うっとり)
177 :
名無し娘。:2001/08/20(月) 12:00 ID:IoEmSxQE
hozen
178 :
TONBA:2001/08/20(月) 23:38 ID:m14ucz0E
後半は奈良ボールで開始された。
松浦の予想通りに中澤、松浦の近くに必ず相手チームの選手がつくようになった。
それに引き換え、吉澤に対するマークが少し甘くなった。自然、吉澤にボールが集まる。
中澤、松浦のマーカーがたまらず吉澤の方へと寄る。再び2人が自由に動ける。
そうすると、2人の才能が上手くマッチし、するすると前線へ。ゴールに迫る。
中澤が左サイドにボールを出す。スペースに飛び込んだのは松浦。
そしてファーポスト目掛けてクロスを上げる。安倍がパンチングで外に弾く。
そのボールにまず触ったのは石川。しかし、そのボールはクリアされる事無く、吉澤の足元に。
簡単にボールを取られてしまった石川がボールを奪おうと体を入れようとするが、軽くよける。
シュートコースを探す。その間もしつこく2人のDFがボールを奪おうと体を寄せてくる。
シュートコースを見つけた。だが、それはとても狭く、外す可能性大。
それでも勝負に出ないではいられない。ボールを囲んでいる2人のDFの外へと、浮かし、囲まれてる外へ出す。
ゴールに背を向けている吉澤はそのまま横に出ると、ボールのタイミングに合わせて振り返り、その回転の勢いを利用して左足でシュート。
179 :
名無し娘。:2001/08/20(月) 23:39 ID:m14ucz0E
吉澤の高い身体能力が可能にするすばらしいプレーが、観客、相手チームの目を釘付けにする。
安倍もつい見とれてしまった。そのリプレイに。
(あんなプレイ、今まで見た事ないべ。)
失点したGKがするような事ではない。しかし、あの場合、吉澤を褒めるしかないのだ。
安倍のコーチングが悪かったわけではない。ポジショニングが悪かったのではない。
ただ吉澤がその上をいっただけ。
180 :
TONBA:2001/08/20(月) 23:40 ID:m14ucz0E
1行がなげえ!!
・・・ちゃんと切ろう・・っと
181 :
TONBA:2001/08/20(月) 23:41 ID:m14ucz0E
保全ありがとうございます。
岡村が時計を見る。
(さて・・・どないしょー。)
岡村は作戦を考える。岡村の作戦の数は、かなりたくさんある。
トランプで例えるとすれば、カードがたくさんあるといった感じ。それに対してネロ監督は何枚あるのかわからない。
カードをハンカチで覆っているといった感じだ。
弱いカードから強いカード、切り札まで何でも揃っている岡村監督。
(観客沸かすには、やっぱ切り札かなぁ・・・・。)
岡村は切り札を使おうとしていた。
岡村の切り札は、威力こそ手数の中で最強のものの、リスクの大きい「諸刃の剣」。
ただ、同点にする前に、一点とっておきたい。
得失点の事を考えると、一点でも多く取っておきたい。
青森の今年の目標は「3位以内」。
そのために、負け試合でも一点でも多く取っておきたい。
それに、あわよくばロスタイムでの同点、そして逆転もあきらめたわけでもない。
まだチャンスはある。岡村はそういう点で、この切り札を出したくなかった。
184 :
深く考える:2001/08/21(火) 09:41 ID:x7w5LRDs
決断の時が迫ってくる。残り6分。
試合は今、奈良が握っている。この流れが青森に来たと思ったときに、切り札を発動させる。
それが岡村の決断だった。安倍、石川を起点にするこの作戦。
成功すれば同点にする自信はある。しかし、失敗すれば、完全に敗戦。
勝負のときがせまってきた。
185 :
作戦決行!:2001/08/21(火) 09:42 ID:x7w5LRDs
腹を決めた岡村が、ライン際まで寄っていく。
そして、叫んだ。
「大阪から来ました岡村隆史、30歳です!好きな言葉は・・・・・ジョーカーです!」
奈良イレブンは何を言ってるのかさっぱりわからなかった。
しかし、そこで青森が動いた。
ボールを持っていた安倍がロングキックして前線へ。
石川がそのボールを持つと、ボールキープ。
松浦の当たりを何とかかわして、中澤と対峙する。
石川がボールをサイドにふる。
そしてダイレクトで再び中にいる石川へ。ワンツーパス。抜かれた中澤はゴール前へ戻る。
石川が前を向く。シュートコースが開いた。
その時、横からDFのスライディングが入る。ボールが完全に流れたと思われたその時、会場がどよめいた。
186 :
名無し娘。:2001/08/21(火) 21:34 ID:ddAn1OJw
保全
そのボールを拾ったのが安倍。
ゴールをがら空きにして安倍を上げるのが岡村の最後の切り札。
右サイドで完全にフリーになった安倍がドリブルで中央へ。
キーパーが飛び出してくる。それを軽くよけて、シュートを放つ。
奈良も勝とうと必死だ。得点させまいと、キーパーと入れ替わりに中澤がゴール前に入っていた。
ゴール前に戻っていた中澤が左足で弾く。
しかし、こぼれ球を詰めてきた安倍が頭で押し込み、ゴールイン。
丸くしたキーパーグローブを突き上げる。
Mリーグで初めてのキーパーのゴールがここに生まれた。
センターサークルから再スタート。
吉澤がボールを松浦に出す。得点を入れられ、少し焦りの出た奈良。
このまま逆転されてしまうんではないかと思うほどの、雰囲気の悪さ。
さらに、逆転してしまおうと意気揚々の青森。
ロスタイムで大胆に攻めない奈良。ボールを最終ラインでまわして、時間を稼いでいる。
(それじゃダメだよ!ボールをちょうだい!)
吉澤が左のスペースに入る。しかし、フリーの吉澤にボールはまわってこない。
ボールはやはり奈良陣内に。
「何してるんだよ!ボールちょうだいよ。」
吉澤がとうとう大声で怒鳴った。
「・・・ダメですよ。彼女たちは完全に負けること、ビビってますから。」
近くにいた松浦が吉澤に小声で言う。
それを遠めに見る石川。そして不適な笑みを浮かべる。
189 :
TONBA:2001/08/22(水) 00:19 ID:u4hBVMM2
・・・・・・僕自身、勝ちなれてないGKだからね・・・。
DF陣に気持ちが移入しているんだ・・・。
190 :
名無し娘。:2001/08/22(水) 07:28 ID:m8Gq5qqI
191 :
TONBA:2001/08/22(水) 19:07 ID:rBWWBNq6
二人の話を完全に聞いていた石川。
DFがビビッてるとしり、前線にプレッシャーをかけに行く。
そうすると、ボールを中澤に渡す。中澤は前線に渡したいが、スイーパーがボールを要求する。
(ちっ・・・・。)
不服だが、とりあえず従う。前には松浦と吉澤しかいないのだから。
ボールをスイーパーに戻す。速いボール。
スイーパーが、ボールを取る。
そのスイーパーが顔を上げたときに、目の前に石川がいた。焦ってスイーパーが横に出す。
正確ではないそのパスをDFがめい一杯足を広げてそのボールを拾う。
ボールが足元からこぼれる。
それをいつのまにか詰めていた石川が拾う。
「何しとんねん!」
中澤が急いで戻る。
松浦も戻る。吉澤も戻ろうとするが、松浦に言われた。
「吉澤さんは、残っといてください。」
そういわれてセンターラインギリギリに位置取る。
(お願い!止めて!)
吉澤はそのことだけを祈った。
192 :
振り出し:2001/08/22(水) 19:41 ID:rBWWBNq6
石川がボールを持って、ゴールへとせまっていく。
カバーに来ていたスイーパーが、間合いを取り、抜かせないようにして時間を稼ごうする。
石川がその構えているDFの股下にボールを通す。
それを石川がキープして、キーパーと一対一になる。
シュートを打つ。GKはパンチングでエリアの外まで弾く。
浮いたボールは石川が競りに行く。相手は松浦。
ポジション取りでは、やはり体の強さの違う石川が不利に立たされる。
しかし、肩に手を乗せると言うファールすれすれのプレーで競り勝つ。
ボールを落としたところに走りこんでいたのは、また安倍。
しかし、今度はそのGKをフリーにしない。中澤がぴったりと張りつく。
ボールを左アウトサイドでトラップし、自分の前に出す。
ついてくる中澤を振り払おうと、切り返す。中澤もついてくる。
もう1度切り返す。まだついてくる。しかし、中澤の足は限界だ。少しふらつく。
(もう1度切り返せば、ついてこられない。)
そう思った安倍はもう1度切り返す。思ったとおり、中澤がついてこようとして、こける。
さらにもう1度切り返し、右足でニアーサイドにボールを流す。
それに石川が滑り込む。松浦もすべりこむ。
少し、石川のほうが早かった。押し込んで、ゴール。
試合終了直前、2−2と追いつかれた。
193 :
幕引き:2001/08/22(水) 19:42 ID:rBWWBNq6
リスタート。
急いで攻撃する奈良。負け試合を同点にした、言ってみれば勝ちに等しい引き分けをしようと守ろうとする青森。
中澤が長いボールを吉澤へ。ゴールエリアの近くにいた吉澤はポストになり、松浦に渡す。
松浦が、ボールを持つ。中澤が上がるのを待つため、時間のない中、少し時間稼ぎする。
左に開いた吉澤に松浦がスルーパス。それをライン際までドリブルし、中にあげる。
松浦が、安倍と競る。当然、安倍が勝ち、パンチングでボールを弾く。
そのボールを中澤がダイレクトでボレーシュート。
安倍のいないサイドへ。
(おっしゃあ!!!これで勝ち越しや!)
そう思った。吉澤も。松浦も。
しかし、そのボールを石川が顔面で弾く。鼻血がでる。
それを安倍が拾う。
そこで試合終了のホイッスルがなる。
中澤は、悔しくて、地面を殴る。松浦は天を仰ぐ。吉澤は・・・石川を起こしに行った。
「大丈夫?」
手を差し出す吉澤。その手を使って起き上がる石川。
「鼻血が・・・出ちゃった。」
吉澤に微笑みかける石川。その血のついた顔を見て、吉澤は微笑んだ。
194 :
戦犯処理:2001/08/22(水) 19:44 ID:rBWWBNq6
終了後、ロッカールームでミーティングが行われた。
暗い雰囲気の中、ネロ監督が話し出す。
「今日ノ敗因ハ、負ケヲ怖ガッタカラダ。負ケハ許シマス。デモ、怖ガッテノ負ケハ許セナイ!DF!ソレト中澤!
君達ハ明日ノオフ、取リ上ゲ!練習場デ、ランニング10kmトシャトルラン20本×5セットダ!ワカッタナ!」
ネロ監督が怒鳴り口調でいう。
そしてそれだけ言うと、ロッカールームから荒々しく出て行った。
「・・・ちょっと話し合おうや。」
中澤がみんなを自分のほうに向かせる。
「うちら、今日は勝ってた試合やったんや。それを落としたんは何でやと思う?」
「DFのレベルの低さです。」
松浦がズバッと言う。
「特に左サイドバックが酷かったです。最後のとき、ゴールエリア内にもいませんでしたし。」
左サイドの片瀬のほうを向く。
「それは・・・・。」
「やめたってくれ。那奈は今年サテライトから上がってきて、今日、初めての試合やねん。」
中澤が片瀬をかばう。
「それでも酷すぎますよ。」
松浦は話をやめない。
「それに、一点目の時だって、どこにいたんですか?ゴール内にいないといけないのに
ゴール内には中澤さんがいたじゃないですか。」
「それは・・・。」
若い片瀬は、もっと若い松浦に反論できない。その話がもっともだからである。
「松浦、この子はまだ未完全なんや。今年抜けた矢口の穴を埋めるために、今年、緊急的にサテライトからトップにあげたんや。」
「もっとマシな子はいなかったんですか?」
「・・・・・ネロ監督が目をつけたんや。それでも文句あるか?」
そういわれて、松浦は黙る。自分もネロ監督に目を付けられた1人として、監督を非難できないからだ。
195 :
名無し娘。:2001/08/22(水) 19:45 ID:rBWWBNq6
「やっぱり矢口さんの穴は大きいですね。」
吉澤が口を開く。
去年、スタンドから試合を見ることが多かった吉澤もそれを痛感していた。
「あいつの夢やったからな。Jリーグでプレーするの。」
中澤が遠い目で言う。松浦が首をかしげる。
「すいません、矢口さんって・・・・。」
「あ!亜弥ちゃんは今年から入ったからわかんないよね。」
小声で話し合う二人。それを中澤が聞いていた。
「矢口を知らんのか?横浜F・マリノスのスイーパーやで?」
「・・・・国内の事はちょっとうといんで・・・・。」
「私が教えておきます。」
吉澤がそう言ったので、その話はそこで打ち切りとなり、話の話題は敗戦の原因に戻っていた。
196 :
TONBA:2001/08/22(水) 19:45 ID:rBWWBNq6
寮に帰宅後、自室に松浦を呼び出した。
「・・・矢口さんの話だよね。」
うなずく松浦。吉澤は、本棚に閉まっておいた新聞の切り抜きを取り出す。
それと、ビデオデッキに置いてある横浜F・マリノスのエキシビジョンマッチのビデオを取り出した。
「矢口さんの資料。とりあえず、これ読んで。」
渡された資料を吉澤の部屋で見る松浦。
吉澤はベットの上で、MDウォークマンで音楽を聴きながら、サッカー雑誌を読んでいる。
197 :
TONBA:2001/08/22(水) 19:45 ID:rBWWBNq6
『奈良ディアの矢口真里(18)、横浜F・マリノスへ移籍!』
そう書かれた見出しの記事を読み出す。
そして、それを読み終わってから、ビデオを見る。
全部見終わった後、吉澤を起こす。
「全部見終わったの・・・。」
吉澤はヘッドフォンを外し、雑誌を置く。
「感想が聞きたいな。」
「背、低いです・・・・。」
松浦は一言そう言った。
「でしょう・・・。中澤さんは、ちっちゃくて可愛いって言ってるけどね・・・・。」
吉澤がうなずく。
「それより・・・矢口さんってどんな人だったんですか?」
「・・・知りたいなら今から教えてあげる。」
ベッドから降りて、松浦の目の前に座った。
198 :
TONBA:2001/08/22(水) 19:49 ID:rBWWBNq6
矢口真里。身長145cm。ポジション、スイーパー。
当時、そして今現在でもこれほど背の低いスイーパーが世界にいるだろうか。
「サッカーは身長でやるもんじゃない!」
矢口はそれを口癖にしていた。
そのとおりのプレーを奈良でやって見せた。
身長170cmの選手と競り合っても、簡単に負けない。
体つきのいい選手に当たっていっても、弾かれないどころか、こかす。
しかし、やはり身長が原因で、ユース時代、悩んでいた。
「サッカーは身長でやるものなのかなぁ・・・・。」
日本代表U-18に落ちた後、矢口が吉澤に対して愚痴った言葉。
身長。それが矢口の唯一の弱点であった。
199 :
矢口真里A:
ユース1年目、かなり苦労したらしい。その話を矢口から聞いたのは、退団の前日。
身長が低いし、線も細かった矢口は、スイーパーのポジションを与えてもらえなかった。
ずっとベンチ。紅白戦ででる事はあっても、他の選手に弾き飛ばされる。競り負ける。
トップでやっている中澤と知り合いであったが、1年目は一緒に試合する事が一度も無かった。
その冬、線の細い体を改造するべく、筋トレをメニューに入れた。
それはとても過酷なもので、中澤も驚くメニューだったらしい。
その結果、他のユース生とあたっても負けることは無くなった。
問題は競り合い。跳躍力を伸ばしても、やはり頭1つ分負けてしまう。
それも、改善した。相手より先に飛び、肩に手を乗せるのだ。
この反則すれすれのプレーをマスターした矢口は、夏、トップに昇格し、穴があったDFラインのスタメン入り。
大方の予想を裏切り、DFラインの欠点を完全にカバーした。
その結果が、チーム失点2位。矢口がきてから、一試合平均1.68点。その前までは、2.94点。
これが矢口の残した唯一の成績。得点は無い。
それでもオフ、ネロ監督加入前、矢口は中澤の説得もむなしく、横浜F・マリノスに移籍した。
最低の言葉を残して。