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かつての作者:
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かつての作者:2001/05/13(日) 14:02 ID:8Sv5mpac
そのいくさ、天下分け目のいくさはかつて無い激戦であった。
大老、徳川家康の率いる東軍、関白秀吉の遺志を継ぐ石田光成率いる西軍・・・
両陣営ともその戦力、諜報網をフルに活用した総力戦を展開していた。
勿論、希美達忍びの者もこのいくさに狩り出されたことは言うまでも無い。
この時代、希美の属する火影忍軍はかつての力の殆どを失っていた。
ある者は敵の凶刃に倒れ、又ある者は自ら姿を消し・・・
既に忍びとしての仕事を果たせるのは希美と加護亜依の二人だけとなっていた。
この戦で、火影衆は西軍の忍び達の末席に属することになった。
甲賀の忍びの棟梁、山中正俊が希美と亜依の風評を聞き、是非にと直々に頼み込んで来たのだ。
「うぉおおおおおーーーー!!!雷神皇ーーーーー彗星斬ーーーーーん!!!!」
希美が敵陣を疾風のように駆け抜け、切り裂いていく。
その雷の刃の一薙ぎで数十人の雑兵達が一気に黒焦げになって崩れ落ちる。
希美の特異体質〜電気ウナギのような発電能力は肉体の成長と共に極限までに高まっていた。
その力から希美は今や「火影の雷神」とまで呼ばれ闇の世界で恐れられているのだ。
「今れす!突撃を!」
希美の開いた突破口から西軍、島左近隊が猛然と突撃していく。
この「雷神」と猛将、島左近により、東軍、黒田長政隊はもはや崩壊寸前であった。
「ええぃ!何とかならんのか!」
せっかく大将、徳川家康から先鋒の誉れを貰ったのである。
黒田長政にとってはこの戦は負けられぬ戦なのだ。
何としても九州で怪しい動きを見せる父、如水が落とした信用を取り戻さねばならない。
「あの者が控えておりますが・・・」
長政の側近がこそこそと耳打ちする。
「しかし、あやつは・・・」
その耳打ちを聞いた長政が軽く顔をしかめる。
「忍びには忍びを・・・でございます」
「・・・仕方あるまい」
(その者)の出陣を長政は渋々承知した。
「ハハハハハァ!のの殿とワシが組めば敵など居ないわぁ!」
島左近は自ら乗馬して前線で槍を振るっていた。希美達忍びも怪物だがこの男、島左近も一種の怪物である。
槍の一薙ぎで雑兵数人を軽くバラバラに砕いてしまう・・・
(すごいのれす・・・まるで後藤さんみたいなのれす)
希美は思わずかつての仲間、後藤真希のことを思い出していた。
(強い人れした・・・本当に)
あの日、後藤が里から姿を消した日、全ては狂い始めていたのかも知れない・・・
ガシン!その激しい金属音と馬のいななきで希美は我に返った。
次の瞬間、希美が目にしたのは信じ難い光景・・・あの島左近が負傷して落馬していたのだ。
「さこんさん!」
希美があわてて左近に駆け寄る。
左近の負った傷は尋常ならざるものであった。肩口を鎧ごと斬り裂かれ・・・というよりは引き裂かれている。
しかし、希美はこの異様な傷痕に見覚えがあった。
数年前、希美の師匠・・・大好きだった飯田圭織の命を奪った傷・・・
希美の顔が見る見る紅潮し、鬼の形相に変わっていく。
「生きていたのれすか・・・鈴木あみ!」
希美は硝煙の向こうに揺らめくその影を殺気をはらんだ瞳で睨みつけた。
その「影」はあまりにも異様な姿だった。髪はぼさぼさに伸びきり、服は汚れ悪臭を放っている。
髪に隠された顔の中で獣のような眼光だけがギラギラと輝く。
かつて小室忍軍一の美少女忍びと言われた鈴木あみの面影はもはや無い。完全に別人の態である。
こんな姿ではかつて相まみえた者でもそれとわからないだろう。
しかし希美は島左近を一撃の元に倒したその「敵」・・・目の前の野獣が鈴木あみであるとその右腕を見て確信していた。
忘れもしない、希美の師匠飯田圭織の命を奪った金属製の巨大な鉤爪・・・
目の前の野獣はその鉤爪をその右腕に付けていたのだ。
それはかつて安倍なつみが激闘の末に斬り落としたあみの右腕の替わり・・・金属製の義手であった。
かつては小室忍軍一の手慣れともてはやされた鈴木あみも狂気じみた安倍なつみの執念(外伝1、本編参照)
に追い詰められ、ついには右腕を失い小室忍軍を追放されたのだ。
しかし、それで終わる鈴木あみではなかった。
己の全てを奪われたあみの中にあるのは「復讐」の一念のみであった。
火影忍軍への復讐鬼と化したあみは手段を選ばず無差別に火影の忍びを一人、また一人と葬っていったのだ。