1 :
ブラインド・ウォッチメイカー:
いちごま小説です。
「ねー、市井ちゃん、私と二人きりでドキドキしないですか?」
「ん、別に」
軽くうけながすと、ふてくされたようにぽりぽりと頭をかいた。
「あーそーですか…」
後藤には一ヶ月ほど前に告白されて、思いっ切り驚かされた。
師弟関係ということで、妙になついてくるようにはなってい
たが、まさかそれが恋にまで発展していたとは思いも寄らな
いことだった。
相手は女、告白などすればたちまち気味悪がれるのではないか、
しかし、収まりのつかない気持ちは他にどうすればいいのか、
と長いジレンマに陥っていた私の気持ちも知らず、あまりにも
あっけらかんと「好きなんです」と言われて、面食らった。
「私、女だけど?」
そう言ってみると、そんなことは関係ない、と強く断言しての
けた。
後藤は、自分はまだ若いから、他の何も目に入らなくなること
があるのだと、そのようなことを言った。
そのひたむきさを、恥じることなどない、というように。
「私と寝たいの?」
それを聞くと、ひどく狼狽し、顔を赤くした。
「そーゆーつもりじゃないです」
というのが彼女の返事だった。
じゃあいったいどーゆーつもりなんだ、私に好きだと告白して、
それからどうしたいんだ、と聞いた。
後藤自身もどうしたいのかわかっていないみたいだった。
しばらく考え込み、困ったように私に聞いた。
「私、どーしたいのかな?」
「私に聞くなよ…」
呆れてものが言えなかった。
「なんか、ただ一緒にいたいです」
次の日、一晩中考えたのか、寝不足の赤い目でそう告げにきた。
私は、私も後藤が好きだ、とは言えなかった。
私も、告白した後、後藤をどうしたいのかわからなかったから。
本当にどうしたらいいのかわからなかった。
相思相愛とわかったものたちはそれからどうするのだろうか。
どうも、告白するまでが総てなのじゃないかという気さえする。
後は互いの気持ちを終始確かめ合い、体に触れ、多くの時間を共
に過ごすぐらいのことしかすることがないんじゃないか、そんな
ことがしたいのか、と自問したが、そうではないという答えが出
るだけだった。
それはすでに補われている。
暇なときは後藤と遊びに行くようにもなっていたし、教育係と言う
ことで、仕事中はもちろん、待ち時間も一緒にいることは多かった。
また、ダンスの練習でも後藤に触れることが出来るのだ。
後藤には性欲の湧かない私にはそれで充分だった。
他の人は違うのだろうかと思い、圭ちゃんにも恋する者の心境とい
うのを聞いてみた。
好きな人と一緒にいて、幸福感を覚えるのが普通らしいと理解した。
それ以上に相手に何を望むのか、聞いた。
それは難しい質問だと圭ちゃんは答えた。
「私だったら相手を幸福にしてあげたい」
そんなことを言う。
まともすぎて、つまらないと感じた。
5 :
名無し娘。:2001/05/13(日) 12:01 ID:DPAazU7w
ヲタうざい
私はどうなのだろう、と自分のことを考えた。
後藤とお互いの気持ちを確認した後、私は彼女に何を望むのだろ
うか?
答えは出なかった。
ただ、後藤の気持ちを知って、ひどくホッとした。
それだけだった。
その後どうしたらいいのかは、
どうしてもわからなかった。
いつものように後藤をからかったりかわいがったりしていたいだけ
だった。
私も好きだ、と言わなかったのは、たぶん私の気を引こうと懸命に
なっている後藤を見ているのが楽しかったからだと思う。
それはとても気分のいいものだった。
好きになってもらいたい相手に好かれ、まずこちらの気持ちを気にし
てもらえるということが、快感であることを初めて知った。
別れてしまった両親のように、こちらの気持ちを勝手に推し量るよう
なまねは、後藤はしなかった。
彼女はまず言葉で私に何が好きなのか、何が嫌いなのか聞いてくる。
それが気持ちよかった。
8 :
5:2001/05/13(日) 12:05 ID:DPAazU7w
こちらこそごめん
なんかうらやましかったんだ・・
気にせず続けてくれ
9 :
三代目矢口真里:2001/05/13(日) 12:06 ID:Xu5lfT1Q
10 :
名無し娘。:2001/05/13(日) 12:11 ID:q.W.mAt2
>>BW
ふぁいとー。超期待。
11 :
名無し娘。:2001/05/13(日) 12:13 ID:36t8o7qA
ガムバテー続けて
12 :
ポルノ:2001/05/13(日) 12:23 ID:TfKNsDg2
ブラインド・ウォッチメイカーさんだあーー!
メッチャ期待してます!
後藤は、いい返事をしない私を恨むことなく、告白したことを後悔する
こともなく、「諦めない」と私に告げた。
「何を?」
そう、いったい何を諦めないというのだろう、彼女は。
不思議に思って何度か聞いた。
「私にも『あなたが好き』と言ってもらいたいの?」
その言葉を聞くまで諦めないというの?
「いやぁ…」
困ったときのクセで後藤は頭を掻いた。
「なんなのかなー。そーいってもらったらすっごく嬉しいですけど…。
でも私が待っているのはそれじゃないみたい」
後藤自身もわかっていないようだった。
「後藤はなにかを待っているの?」
「そーなんですよね、なんか私、待っているんですよね、なんなんだ
ろうー?」
恋というものは難しいものらしかった。
後藤にそう言われて、私もなにかを待っていることに気がついた。
彼女から「好きです」という言葉をもらって、しかし、欲しいものは
それ以外にまだあるような気がして、それがなんなのか考えたが、や
はりわからなかった。
私も、後藤もわからないものを待っている。
なにやら不毛だ、とため息が出る。
考えても答えのでないものをグルグルと考えて、頭が変になりそうだ。
TVの収録が終わり、後藤が元気いっぱいに、私の方に駆けてきた。
「市井ちゃーん。やっと終わったよー!」
ホント、憎らしくなってしまう。
後藤は私のように自分の気持ちをはかりかねて苛つくということなんて、
ないんだろうか。
練習でもしごかれていたというのに、疲れを感じないのだろうか、こい
つは。
「元気だねぇ」
寄ってきた後藤を捕まえて、その顔をのぞき込んだ。
本当に疲れの「つ」の字も見せていない。
「後藤って、結構勇ましいね」
私に顔をのぞき込まれて、後藤の顔が素直に赤くなる。
「剣とか袴とか似合いそう」
「そ、そーですかー?」
誉められたととったのか、嬉しそうだ。
「そーだよ。ね、剣道やらない?」
「け、剣道ですか…、私?」
「うんうん」
頭を撫でてやると、ちょっとふてくされたように身を引いた。
「なんか、こっちはドキドキしてるのにぃ。私ばかりバカみたいー」
「ん?そう?」
「市井ちゃんってつかみどころないんだから」
「そうかな?」
「とぼけないで下さいよー、私、好きって言ったの本気なんですよ」
「後藤の目って、よく見ると離れてる…」
「もー」
いいですよ、と拗ねる。
「私なんか、私なんか、まともに取り合ってもらえないんだ。それぐ
らいの価値しかないんだ、市井ちゃんにとっては」
「そんなことないよ」
膝を抱えて背を向けた後藤の髪を撫でた。
スン、と泣く振りもかわいらしくて、彼女の髪から手を離せない。
軽く言ってやった。
「私も後藤のこと好きだよ」
「ホントっ!?」
キッ、と私を振り返り、私の微笑を見て、目がトロンとなる。
「じゃあ、キキキ、キス…」
「うわぁ」
なんてことするんだ、こいつは。
やはり侮れなかった。
襲われてしまった。
私としたことが、押し倒されてしまった。
だが、目の前にギュッと目を閉じて唇を突きだしている後藤の顔が
あって、こいつは強引なまねは出来ないやつだということを思い出す。
そうして、私がキスしてくれることを待っている。
「私とキスしたいの?」
「うん」
「キスするとどーなるの?」
「わかんないけど、きっと凄く嬉しい」
「そーかなぁ…」
考え込むふりをして、後藤を途方に暮れさせてやった。
「市井ちゃーん…」
後藤は情けなく顔をゆがめて、ぱふん、と私の胸に額を落とした。
「こんなにスキだらけなのに、私、なにもできないよぉ」
よいしょ、とその彼女を押しのけて立ち上がった。
「さて、帰ろうか」
「ああっ、この人は、もう〜っ、ぜんぜんわかんないーっ!」
後藤は髪を掻き回した。
それから、ハッとしたように私を見上げた。
「わたし、今わかりましたよ。私が何を待っているのか」
「へえ?」
それは興味深い、聞かせてもらおうじゃない。
「私、市井ちゃんが何を考えてるのか知りたいんだよ」
「……」
と一瞬、声が出なかった。
17 :
名無し娘。:2001/05/13(日) 13:20 ID:36t8o7qA
続きを
18 :
名無し娘。:2001/05/13(日) 13:20 ID:36t8o7qA
あげてしまいました。失礼
何を言い出すかと思えば…。
後藤はひとりで納得して、ウンウンと頷いている。
「そーなんだ、私、ずっとそーだったんだ」
「私が考えていることが気になるの?」
それだけで、好きになるの?
「わたしー、いっちゃうと、オフの時に市井ちゃんのこと見かけたんです」
「それは初耳だね」
収録も終わったことだし、私はそろそろ帰ることにした。
着替えのために楽屋に歩いていくと、後藤もついてくる。
「オフの時たまたま稽古場よったんですよ。その時練習している市井
ちゃんを見たんです。ひとりで練習してたでしょう」
そういえば、そんなこともあったか。
確かに私は、オフで誰もない稽古場で、体を動かしていないと落ち着か
なくて、ひとりでダンスの練習をしていた。
「初めて見たとき、かっこいいなーって思って、なんだかひとりで黙々
と稽古しているのって偉いなあって思って。私、その頃まだ、プロ意識
とかあんまりなかったから、市井ちゃんの姿に感動したんですよ」
「そうだったの?」
「私、ちょっと馬鹿にしてたんです、その頃。ダンスなんて、みんなで
練習している時にその場で覚えればいいやって。でも、市井ちゃんがひ
とりで練習しているのを見たとき、楽しいだけでやってるんじゃないよ
なあって思って。じゃあ、なんでやってるんだろうって考えて」
私服に着替えながら、後藤は喋っていた。
私の方を見ないようにして。
「この人は自分と戦っているんだなって思ったんです」
「そう?」
「なんか、ガーンと来て、楽しそうだという理由だけで娘。に入った自分
が恥ずかしくなって。それから、長いこと、あの人はああやって練習しな
がら何を考えているんだろって考えたんです。でもわからなかった」
「たいしたこと考えてないよ。ひとりでやっている時ってたいてい夕御飯
何にしようかとか、そんなことが頭に浮かぶ」
「えっ!そうなんですか?」
後藤は本当にびっくりしたように私を見た。
「なんかこう、もっと立派な目標とか…」
「いいえ?」
「ああぅぅ…」
後藤はがっくりとロッカーに手をついた。
「私、夢みてたのかな…?」
「そう見たいね。夢壊して悪いけど」
「でも、あの時の市井ちゃんって、立ち入りがたい世界をつくってたんで
すよ〜。なんかこう、神聖な、っていうか。誰にも踏み込ませまいとする
ような何かがあって…」
「それは後藤の思い込みだよ」
「え〜、そーなんですかぁ〜。あんな真剣な顔で食べ物のこと考えてたん
ですかぁ〜」
後藤ははなはだ情けなく声を上げた。
私は嘘をついている。
確かにどうでもいいくだらないことを考えていることもあるが、あの頃は
違うことを考えていた。
忘れたいことがあって、それなのにどうしても忘れることができなくて、
それから逃げたいがために、がむしゃらに練習をしていた。
もう何年もそれを続けていた。
自分と戦っているのではなく、私は自分から逃避するために練習をしてい
たのだ。
神聖な、などととんでもない。
「理想像くずれた?」
「くずれましたよ、もう〜」
「もう私のこと好きじゃなくなった?」
それを聞くと、首を横に振る。
「いーえ、もう好きになっちゃったから」
それでね、と私の腕をつかんで、まだ話が終わっていないことを告げる。
「私、まだ市井ちゃんの心の中ってのが見えないんです」
「見えたでしょう、夕御飯が」
「そうじゃなくって〜」
後藤はもどかしげに地団駄を踏んだ。
言いたいことが言葉にならなくてはがゆくてならないようだ。
「市井ちゃんみたいに考えていることさっぱりわかんない人っていないで
すよぉ。いつもなんかクールで、私が告白したってノラリクラリと話を逸
らしてばかりで、つかめないんです。私はつかみたいんです。あなたとい
う人を」
「先輩に向かって、あなたって…」
「あっ!ごめんなさい!ってまた話をそらしてるー!」
後藤は私を睨み、それからため息をついた。
「なんか市井ちゃんってはかなげで、つかんでないと消えてしまいそう」
「ふーん?ヘンなことを思いこんでるんだねえ」
「ちゃんと聞いて下さいよー。一ヶ月前につかめそうな予感がしたんです。
ご両親が別れてしまったって話をしてくれた時」
私は自分の表情がわずかに強張るのを感じた。
しかし、後藤に背を向け、その顔を見せることはしなかった。
「私のお父さんの話をしていた時に『泣かないの?』って聞かれたけど、
市井ちゃんの方が悲しそうな顔をしてた。その時、なにかが見えそうだっ
たんです。私は見たいんです。これが市井ちゃんなんだって思える何かを」
私は急に後藤が鬱陶しくなった。
冷めた声が出た。
「私はあんたのそんな思い込みに付き合わなくちゃいけないの?」
「え?」
私の冷めた声に反応して、後藤は驚いたように私を見る。
「そーゆーのって、迷惑なんだけど」
「わ、私は別に市井ちゃんに迷惑かけるつもりは…」
私の胸の中に、どす黒いなにかが広がっていく。
私の心が知りたいという後藤を、傷つけたくてたまらなくなった。
私は、その衝動を押さえきれなくなっていた。
後藤の眼前に顔を寄せ、彼女の鼻に、フッ、と息を吹きかけた。
後藤はビクンと体を震わせ、目をきつく閉じた。
「キスしたいならしてあげるよ。でもそれ以上はごめんだよ。私はあんたの
バカバカしい考えにはつきあえない」
「え…?」
後藤が目を開いたその瞬間、彼女の唇に口づけた。
「あっ…」
後藤のファーストキスの思い出を、甘いものになんかしてやるもんか。
後藤の唇を何度も噛むように吸い上げた。
顎をつかんで口を開かせ、彼女の口内で怯えている舌を探り当てて絡
ませる。
「うっ…ぅ」
抗おうとする後藤の手を封じ込めた。
その間、私はじっと後藤の表情を観察していた。
後藤の体が震えている。
息が乱れて苦しそうだった。
それでも舌は素直に私に絡みとられて、口の中でうごめている。
「ん、んっ…」
耐えられないというように後藤は顔を強引に離した。
怯えたように、信じられないものを見るように私を凝視し、目に涙を
溜めていた。
その唇から滴った唾液を指で拭ってやると、再び体を硬直させる。
後藤を傷つけた。
胸に痛みが走った。
いつもそうだ。
私はいつも同時に二つ以上の思いが胸に湧く。
後藤を愛おしいと思う。
憎らしいとも思う。
そばにいたいと願い、同時にそばに寄られることを拒絶する。
後藤が私から逃げ出してくれることを望み、しかし、嫌われることを恐れ
ている。
彼女を傷つけたいと思い、傷つけて悲しくなる。
心は乱れていくばかり。
後藤はしばし私を凝視していた。
やがて、その目に涙が盛り上がり、こぼれ落ちる前に手の甲で拭った。
ひどく悔しそうに顔を歪め、私を睨みつけてきた。
「からかったんですか?」
その声はかすかに震えている。
「だって、キスして欲しかったんでしょう?」
「からかったんですね?」
「嬉しくないの?」
「こんなキス、いらないっ!」
後藤の怒りを受け止める自信など私にはない。
そのままきびすを返し、楽屋を出ていこうとしたが、後藤はそれを許して
くれなかった。
「ヘタクソッ!!」
なにいっ!?
ムカッとして振り返ってしまった。
「ヘタなのはあんたでしょう!」
「ちがうよ、キスってのはもっとこう、いいムードになって、気持ちよく
って…」
「私のキスに文句いうわけ!?」
「だって、そーぞーしてたのと全然ちがうもん…」
なにか胸に押し寄せてくるものがあるらしく、涙が止まらないようだった。
お子様には少々強烈すぎたらしい。
「もっと、なんか、甘酸っぱい気持ちになって…」
「……」
「唇の先っちょでチュッってやるのが理想だったのに…」
このガキは!
嫌われてはいないようだった。
後藤はひどく動揺しているだけらしい。
なんだか力が抜ける。
胸に湧いていた黒いものは跡形もなく消えてしまった。
だから、後藤にはかなわないのかもしれない…。
まったく認めたくはないのだけど。
「市井ちゃん、市井ちゃん」
ウルウルした瞳で名前を呼ばれ、私は深いため息をついた。
「まったく…、私の方が泣きたいよ」
途方にくれ、額に手をやる。
後藤は私の心中などかまわず、まだ泣いていた。
今時キスひとつで泣くやつがいるか。
「みじめだよ、私、本気なのに、市井ちゃんはちっとも真面目
に聞いてくれないんだから…」
「泣くなよ…」
「だって…」
「ああもう、よしよし、いい子だから泣くのはおやめ」
私は降参して後藤の頭を撫でてやった。
「また、子供扱いして…」
うーん…。
もう一度、己の額に手をやる。
「ねえ?いったい私にどうして欲しいわけ?」
「いいですよ、もう、私なんか…」
後藤はすっかりいじけてしまっていた。
「さあ、もう機嫌なおして、帰ろう、ね」
後藤の背を押して楽屋を出て、TV局を後にする。
夕焼けがまぶしく私の目に飛び込むと同時に、ひとりの人物が目に入
ってくる。
28 :
名無し娘。:2001/05/13(日) 22:19 ID:VC7ReyjE
あああっ!!前からいちごま書いてほしかったです。
うれすぃー。マジデ
「あ、紗耶香」
圭ちゃんがいた。
そこで、私を待っていたようだ。
私の顔を見て顔をほころばせ、次に後藤を見て目を丸くした。
「ちょっと、後藤、泣いてるの?」
「あっ、圭ちゃん…」
後藤は乱暴に涙を拭いて体裁を取り繕うが、赤い目は隠しようがなか
った。
「紗耶香ぁ、なに泣かせてるんだよ」
「えー、私のせい?」
口を尖らせて圭ちゃんを見る。
「市井ちゃんのせいじゃないです…」
圭ちゃんは、私をかばう後藤を見て目をすがめ、なにがあったか聞きた
い様子で私に目を向けたが、私が黙っているので、諦めたようだ。
「なんだかわからないけど、大丈夫なの?」
「はい、平気です。全然なんともないです」
「それならいいけど…」
かわいい後輩の涙に当惑したのか、圭ちゃんはしばしばどうしたらいいも
のかわからなかったようだ。
私と圭ちゃんは帰る方向が同じだが、後藤は逆方向なので、ここで別れ
を告げる。
「本当に平気?帰ってもいい?」
圭ちゃんは律儀にもそんなことを聞き、後藤が頷くのを見て、歩き出し
た。
「じゃあね、後藤、また明日」
私が手を振った時、後藤は疲れたような顔つきで私達の姿を眺めていた。
「紗耶香、後藤、どうしたの?」
帰り道、圭ちゃんが聞くもので、
「ん、キスしてあげたら泣いちゃった」
素直に答えると、圭ちゃんは足をつまずいて転びそうになってしまった。
「ええぇっ?」
「冗談だよ、ウブだなぁ」
すごい剣幕で振り返る圭ちゃんに、そう言ってやると、彼女はまじめな
顔をして聞き返してきた。
「本当に冗談なの?」
「いやだな、私がそんなことするわけないでしょ」
「いーや、あんたは何をするかわからない…。あんまり波風立てるような
ことしないでよ?」
ぶつくさ言いながら、再び歩き出す圭ちゃんの後ろで、私はいつもと変わ
らず微笑していた。
後で圭ちゃんにもう一度、何があったのかを聞かれたので、キスのことは
省いて説明した。
後藤が、私が真面目に相手にしてくれないことで少し感情が高ぶったよう
だ、と言うと、圭ちゃんは困ったように頭を掻いた。
「待つとか、がまんするとか、そういうことが出来ないのかなぁ、後藤は」
そう呟くのを聞いて、待ってもがまんしても無駄なのにと思った。
今日はここまでです。明日は更新できません。
続きは明後日アップできたらいいなぁ、という感じで。
34 :
名無し娘。:2001/05/14(月) 00:26 ID:oySNdhfQ
age
35 :
名無し娘。:2001/05/14(月) 00:34 ID:dDqg4e.I
マターリつづけてね
36 :
名無し娘。:2001/05/15(火) 10:23 ID:CTecD1o6
保全
37 :
名無し娘。:2001/05/15(火) 14:58 ID:XeGAoUtI
翌日、後藤は私に話しかけてこなかった。
彼女は怒っているようだった。
休憩時間に楽屋で私の方から声をかけたが、黙したまま一礼をして
去っていった。
稽古場でも、私にアドバイスを求めてくることはなかった。
昨日のことを根に持って無視する気か、と思ったが、気をつけて観察
してみると、私に気づかれないよう、昨日よりはるかに真剣な眼差し
で、私を見ている。
私が後藤の方に目を向けると、即座に視線をそらす。
私はイライラしていた。
今までは、後藤が私を見ていることに気がつくと快感を覚えていたも
のだが、その彼女の眼差しが今は違うのだ。
後藤は私の核となるものを見定めようとしているようだった。
帰り際、廊下で後藤に呼び止められた。
「市井ちゃん」
何か決心したような、なにがしかの意志を感じさせる口調だった。
うんざりして、無視して行ってしまおうかと思ったが、後藤がどう
出てくるか興味がわいて、立ち止まった。
「なに?」
微笑で答えると、後藤は鋭い眼差しで私を見た。
いつも無邪気な笑みを浮かべている彼女が、今日はその笑顔を見せ
ていないことに気がついた。
「私、決心しましたから」
今まで、マジだマジだと言っていたが、今度こそ後藤を本気にさせ
てしまったようだ。
しまった、と思った。
こいつは本気になったらしつこそうだ、と。
今までのようにノラリクラリと話をそらすようなまねは許してくれ
そうにない。
溜息が出た。
私は後藤につきあって、真面目な表情を繕った。
「迷惑だよ。私はあんたの思いには答えられない」
「キスして欲しいなんて、私、もういいませんよ」
「もちろん、私ももうする気ないよ」
一瞬傷ついたような表情を見せた後藤だったが、それでくじけた様子
ではなかった。
「いいですよ。私が欲しいのはそんなものじゃないもん」
「まだ、私をつかみたいなんて言うつもり?」
「そーですよ」
「いい加減にしてくれない?」
「私、わかったから。市井ちゃんは、人と根っこのところでつき合
うことの出来ない臆病な人だって」
カチンときた。
圭ちゃんに言われるならともかく、このおバカな後藤に言われるの
は我慢ならなかった。
私はひどく冷酷な顔つきになっているのがわかった。
侮蔑するように後藤を見た。
「もしそうだとしても、後藤には関係ないんじゃない?」
こいつを言葉で打ちのめしてしまいたかったが、効果的な言葉が見
つからない。
案の定、後藤は引き下がらなかった。
「そーやって人を切り捨てるんですか?ずーっとそうしてきたん
ですか?」
「なにを言っているのかわからないね」
「ほら、そーやってまたとぼけるんだから」
「あんたはなに?自分を正義の味方とでも思ってんの?私が誤った
道を歩いていて、それを更生させてくれるとでもいうの?」
「正しいとか正しくないとか、そんなこと言ってるんじゃないです。
私はイヤなものはイヤだって言ってるだけです」
「イヤなら私のことは無視すればいいでしょう」
「できません」
「じゃあ、言わせてもらうけど、私はあんたのそーゆー態度はたまら
なくイヤだね。やめてくれない?」
「……」
後藤は言葉を失って黙り込んだ。
これ以上言うこともないと判断し、私は後藤を後にして立ち去ろう
とした。
その後ろから、
「私のこと嫌いなんですか?」
悲しげな彼女の声がした。
「あんたが他の誰かに夢中になってくれて、私のことなんか眼中に
なくなったら、また好きになると思うよ」
これでとどめになればいいが、と案じながら、冷たく一言、言い放
った。
後藤は唇をかみしめながら私を見ていた。
なにかに耐えているような顔だった。
悲しみか、怒りか、わからないが、必死にこらえているようだった。
後藤は苦しそうだった。
胸が痛んだ。
後藤のこんな顔は見たくないと思っている私が、後藤から笑顔を
奪い、代わりに彼女の心を痛めつけている。
だが、私を臆病だとそしった後藤を許したくはなかった。
私はひどい女だ。
泣きたくなったが、涙なんて出てこない。
今度こそ私はその場を立ち去った。
苦痛に顔をゆがませる後藤を置き去りにして。
私は一体なにを求めているのだろうか。
そのことが急に恐ろしくなった。
私は自分の望んでいるのとはまったく逆の方向に歩んでいるのが
わかっていて、それを止めることが出来ない。
今すぐ引き返し、後藤に「言い過ぎた、ごめん」と言えば、彼女
の心を取り戻すことができるだろうが、どうしてもそうすること
ができなかった。
身が引き裂かれるようだった。
引き返したいと思いつつ、もう一方で後藤から逃げたくてたまらな
かった。
そして、いつも逃げる道を選んでいる。
そう。
私は逃げねばならないのだ。
後藤が私の本性を知ったら、結局私たちの関係は終わってしまう
だろう。
後藤は私から遠ざかっていくに決まっている。
そうならないよう、その前に私が後藤から逃げなければならなか
った。
私は、傷つくことが怖くてたまらなかった。
私を捨てた両親のように、後藤もまた私を捨てていくのではない
のか。
今度愛する人に見捨てられたら、きっともう立ち直れない。
彼女はもうそれだけ私の中で大きな存在となっている。
苦しい。
そうして、私は一生なにもつかめないのだ。
家に帰り、自分の部屋に引きこもって、その場に崩れ込み両手で
顔を覆った。
私はこんなにも醜い。
違うのに。
私に後藤を愛する資格などないのに。
たまたま後藤の近くにいたという、ただそれだけの理由しかない。
誰に愛されなくても、後藤にさえ愛してもらえれば私は救われるの
だ、と勘違いをしていた。
私は、愛など求めていないと、ずっと自分をごまかしていたのだ。
私が待っていたのは、ただ愛だったのに。
私を愛して欲しかった。
わかっているのに、わからないふりをしていた。
だから自分の中にどんな思いがあるのか、見えなくなっていた。
なんということだろう。
私は心の奥底で夢を見ていたのだ。
かなわない夢だった。
いつかは現実に突き落とされる、はかない夢だった。
そんな脆いものに私はすがろうとしていた。
後藤という夢に―
あのキスの時、後藤以上に胸を震わせていたのは私の方ではなかっ
たのか?
私は顔をひと撫でした。
私は今、どんな顔をしている?
ひどく情けない顔をしてはいないか?
なんて様だろう、この私が、後藤に振り回されて、己の弱さを晒
しているだなんて。
ここに誰もないのが幸いか。
この顔は誰にも見せないと誓ってある。
私は深く息を吸い、乱れた息を整えた。
もう一度、息をつく。
すると、すーっと心が冷めていく。
この夢は今日限り捨てなければならない。
もっと強く、弱さを晒さぬように。
もう夢など見ることのないように。
更新です。続きは今夜書く予定。
46 :
名無し娘。:2001/05/15(火) 23:44 ID:qaTK6ivU
小説総合スレッドに更新情報を掲載してもいいですか?
48 :
ブラインド・ウォッチメイカー:2001/05/16(水) 02:45 ID:Iw.jVMmA
翌日は、私の方が後藤を距離をとっていた。
後藤の方は昨日のような態度をとってはだめだと判断したか、それともあの
強烈なキスの怒りが冷めたのか、以前のように私に接してきた。
私の昨日の言葉に傷ついていないのか、拒絶されるかもしれないという懸念
はないのか、勇気のある少女だとも思う。
「おはようございます!市井ちゃん」
稽古場に行くと、すでに練習しており、私に気がついて元気に挨拶してきた。
どうして笑えるというのだ、あんたにひどいことを言った私に対して。
そこまであんたはバカなのか?
「おはよう、後藤、早いね」
私も笑顔で挨拶を返した。
後藤は私の笑顔を見て、いぶかしむように目をすがめた。
「それ、どーゆー意味ですか?以前のただの先輩と後輩ってだけの関係に戻
りたいってことですか?」
私の笑顔に文句をつけてくるので、面食らったが、顔には出さない。
顔には微笑の仮面が張り付いている。
「そうだよ」
同じ笑顔でそう返した。
49 :
ブラインド・ウォッチメイカー:2001/05/16(水) 02:48 ID:Iw.jVMmA
「市井ちゃんがひとりでそう決めても、私の気持ちは変わらないですから」
一礼して、練習を再開する。
あんたの気持ちが変わらなくても、私はもうそう決めたから。
恋なんていらない。
「ひたむきだね。かわいそうに、早く諦めて違う誰かを好きにならないと、
青春が無駄に終わっちゃうよ」
後藤の背中に語りかけると、彼女は振り返らずに、こう言った。
「私、無理意地はしないって決めましたから」
嫌みでない口調で、どうぞ、ご安心をというように。
なにかを吹っ切ったかのように私には聞こえた。
後藤は何を吹っ切ったというのだろう。
いつまでも待つということを決意したとでもいうのだろうか。
それでもかまわない。
どうぞ、ご自由に、というように手を振った。
後藤は見ていなかったが。
待ちたいなら、気が済むまで待つといい。
私はあんたの気持ちに応えないというだけだ。
後藤はやりたいようにやって、気が済んだら、私のことなど忘れるといい。
50 :
名無新:2001/05/16(水) 05:00 ID:ot2udVfA
スゲーよ。
51 :
名無し娘。:2001/05/16(水) 11:31 ID:A.1HCYDE
面白い。
稽古場をみわたしてみると、誰もいないと思ったそこに圭ちゃんがスト
レッチをしていた。
「あれ、圭ちゃん早いんだね。おはよう」
「おー、紗耶香もずいぶんと早いじゃない」
私を見て眉を上げた。
私は、誰もいない場所でひとりで練習するつもりで、予定より一時間早く
家を出たのだが、私と同じ事を考えていた者が二人もいたことに少々驚い
た。
「圭ちゃんは、いつもこんなに早いの?」
「私はまあ、付き合いだよ」
圭ちゃんは、親指で後藤を指し示した。
「後藤の付き合いですか?」
どうやら毎日、後藤はこんな早くから練習をしていたらしい。
初めて知った。
どうりで上達が早いはずだ。
圭ちゃんと一緒に練習をしていれば、無理もない。
圭ちゃんが後藤を憎からず思っていることはわかっていたが、朝の練習に
付き合うほど仲が良いとは知らなかった。
「圭ちゃんが、そんなに付き合いのいい人だとは知らなかったよ」
圭ちゃんは困ったように耳の後ろを掻いた。
「この前なんとなく早く目が覚めてね、することないから練習でもしよう
と思って、来てみたら後藤が一人で練習していて…。それからだなぁ、
なんとなく来るようになったんだ」
なるほど、そういういきさつか。
「なんか、思い詰めているみたいでほっとけなくてね」
「思い詰める?後藤が?」
私のことで?ずっと前から?
「聞いても何も言わないから、余計ね。紗耶香は知らない?」
「さあ、ぜんぜん心当たりないけど」
私はしらを切った。
あの後藤が、思い詰めている顔を圭ちゃんにはみせたのか。
私の前ではそんなそぶりもみせなかったのに。
ちょっと嫉妬が湧いたが、もう私には関係ないこと、と心を静める。
「若いから色々あるんでしょう」
「クールだねぇ」
圭ちゃんはひとつうなり、
「そういえば、紗耶香も入った頃は激しかったもんね」
そんなことを言う。
「え?」
「がむしゃらに練習してたじゃないか。まるで自分を痛めつけている
みたいで、あぶなかしくて私や矢口はもちろん、メンバー全員心配し
てたんだぞ。いまだらか言うけど」
「私って、そんなんだった?」
私は自分の内面を表に出して、皆を心配させていたというのか?
ショックを受けた。
自分はもっと強い人間だと思っていた。
しかし、言われてみれば、その通りだ。
私は毎日取りつかれたように練習をして、怪我をすることもしばしば
あった。
もうひとつのことにもショックを覚えていた。
皆が私を心配していたと聞き、驚いていた。
圭ちゃんは口に出してそれを言うこともあったが、他のメンバーまで
私のことを考えてくれていたことは知らなかった。
誰も私のことなど眼中にないと思っていた。
そういえば、無理をするな、と何人かにいわれたが、いつもほっといて
くれ、と思うだけだった。
彼女たちの気持ちなど考えたことはない。
みんな、自分のことで手一杯で他人のことなど考える余裕などあるわけ
がないと思っていた。
しかも、私のような奴のことを、誰が―と。
圭ちゃんはとぼけたように、破顔してみせた。
「どうしてなのか、みんな知りたがっていたけど、怖くて聞けなかった」
「怖い?私が?」
「あんたって、怒っているときもなんだかクールだったからね」
「私、別に怒ってなんかいなかったよ」
「近寄りがたいって思われてたよ」
「まさか?メンバー達が?」
「あんた、メンバーの中で一番怖がられてたよ。なんか、鬼気迫ってたよ」
「そうなの…」
毎日、一緒にいる者にはわかるのか。
わずかにゾッとした。
「着替えてくる」
私は圭ちゃんを後にして更衣室に向かった。
心が乱れる。
もっと厚い鎧で心を覆ってしまわなければ。
動きやすい格好に着替え、稽古場に出る。
後藤は体が温まったとみえ、圭ちゅんと一緒に練習をしていた。
動きの一つ一つにに、切れが見える。
彼女の上達が早いのは、練習の量だけでなく、筋の良さも手伝っている
ようだ。
集中しているときの後藤は、何かオーラを放っていた。
ただ言われたとおりのことを練習していた後藤の姿はもうそこにはない。
彼女は動きの一つ一つに神経を使い、ダンスを見せるということを覚えた。
ズキン、と胸に痛みが走った。
後藤のことは胸から閉め出すと決めたのではなかったか。
彼女の眼差しが、私の心を揺さぶる。
あの真剣な眼差しが私に向けられた時、私はそれを平然と受け止めること
ができるのか。
彼女をただの後輩と、ただのメンバーの一人としてみることが、私にはで
きるのか。
こわばった顔をひと撫でし、後藤から視線を逸らした。
そのまま練習を始める。
前を見つめ、深く息をついた。
もっと強くならなければならない。
何も求めずにすむぐらい、強くならなければならない。
心が動くことのなくなるように。
強く―
私は体を動かし始めた。
そういえば―
ひとつのことを思い出す。
以前、圭ちゃんと話したことがある。
娘。に入ったばかりの頃、私が無茶な練習をしていたときのことだった。
圭ちゃんは私を心配して、なにが私をそうさせるのか尋ねてきた。
私は答えることが出来ず、黙っていた。
その時は、圭ちゃんが本気で私を心配していることがわかったので、
ちゃんと答えようとしたのだが、何をどう言っていいのかがわからなかっ
た。
気持ちを伝えるということが、私にはうまくできなかった。
考えた末にこう言った。
「圭ちゃん。私、心がなくなってしまえばいいと思って」
なくなってしまえばいいと思っていた。
そうすれば、何も考えず、何も苦しまずに済むと思っていた。
心を固く凍らせてしまいたかった。
それができずに、もがいていた。
圭ちゃんは眉を寄せ、私の頭を少し乱暴に撫でた。
それから私の瞳を覗き込んで、静かに言った。
「紗耶香、それじゃ人間でなくなっちゃうよ」
そう。
私は人間でなくなってしまいたかったのだ。
後藤という夢から覚めて、私はそれを思いだした。
私は夢中になって練習を続けた。
この日は体の切れが悪かった。
その時、昔の悪い癖が出て、足を痛めた。
60 :
あ名無し娘。:2001/05/16(水) 21:07 ID:eHGBOHac
いつもながらいいっすね・・・
がんばってくらさい
その晩、圭ちゃんが私の部屋を訪れた。
圭ちゃんはよくこの部屋に訪れる。
「紗耶香、足の具合はどう?」
この日もケーキをもってやってきた。
「少しひねったかな。たいしたことないけどね」
「明日は練習休みなよ。マネージャーにも言っておいたから」
「言われなくとも、無理はしないよ」
圭ちゃんは私の前に座り、のんびりと笑った。
「いやに素直で気持ち悪いわね」
「私は昔から素直でしょう」
「いーや、口では素直に頷きながら、私の言う事なんか聞きゃーし
なかった。ついこの前までたちの悪い子供だったよ、紗耶香は」
「もう怪我をひどくして踊れなくなるのはこりたよ」
体を動かしていないと、イライラした末にたまらない気持ちになる。
もうそんなことになるのはごめんだ。
「今日はまた荒れていたんじゃないの?」
「荒れる?私が?荒れてなんかいないよ」
圭ちゃんは、ニヤリと意地悪そうに笑った。
「その上、荒れていることを隠すから始末が悪いんだよ」
「……」
「なにかあったの?」
「…お見通しかぁ、圭ちゃんは怖いね、圭ちゃんには何も隠せない」
「何言ってんの。何もかも隠しっぱなしのくせに。私はいまだに紗耶香
のことがわからないよ」
「ちょっと、ね。自分に嫌気がさしていたんだ。娘。に入ってから少し
は人間的に成長したかなと思ったけど、まだまだだよ」
「17やそこらで、いうセリフか」
「17じゃダメなのかな、まだ時間かけないと、自分を律するようにはな
れないのかな?」
「そんなことになったら、かわいげがなくなるじゃない」
「私にかわいげなんて求めないでくれる?」
圭ちゃんは声を立てて笑った。
「私も勝手かな、荒れてればハラハラするし、ハラハラさせてくれな
ければ、かわいげがないと文句を言う」
「うん、勝手だ。それじゃ私はどうしようもないよ」
「私好みの女になるつもりなんてないくせに、よく言うよ」
「圭ちゃん好みの女?」
その発言は、ちょっと問題ありではないか、と笑った。
圭ちゃんといると、しばしでも嫌なことを忘れられる。
圭ちゃんを好きになれたら良かったのに。
そんなことを考えたら、吹き出してしまった。
自分が圭ちゃんに恋い焦がれている姿を想像したのだ。
それはどうにも滑稽な感じがした。
「私も勝手かな、荒れてればハラハラするし、ハラハラさせてくれな
ければ、かわいげがないと文句を言う」
「うん、勝手だ。それじゃ私はどうしようもないよ」
「私好みの女になるつもりなんてないくせに、よく言うよ」
「圭ちゃん好みの女?」
その発言は、ちょっと問題ありではないか、と笑った。
圭ちゃんといると、しばしでも嫌なことを忘れられる。
圭ちゃんを好きになれたら良かったのに。
そんなことを考えたら、吹き出してしまった。
自分が圭ちゃんに恋い焦がれている姿を想像したのだ。
それはどうにも滑稽な感じがした。
「そういえば、後藤も今日は様子が違っていたわね」
私のことは置いといて、圭ちゃんは世間話でもするかのような口調で言
った。
「そう?どう違ってた?」
その結果、私は平静を取り繕わなければならなくなった。
「今日は態度が真剣だったね。目標でもできたかな」
「後藤は筋がいいから、真面目にやれば上達早いと思うよ」
「いつもは不真面目ってんじゃないけど、どうしても遊び心が出てきてし
まうみたいだからね」
圭ちゃんが探るような目で私を見た。
「師匠の影響かな?」
「うん。崇拝する師匠のようになりたいとでも思ったのかもね」
私がとぼけてそんなことをいうと、圭ちゃんは諦めたように息をつき、聞
こえるか聞こえないかぐらいの声で呟いた。
「私も荒れちゃおうかな…」
「え?」
「さてと、そろそろ帰ろうかな。明日も早いし」
いきなり立ち上がった。
「もう帰るの?」
「帰る帰る」
圭ちゃんは持ってきたケーキを口にせず、帰る際にこれだけ言った。
「後藤と仲直りしなよ」
「ケンカなんてしていないよ」
答えたときには、ドアは閉められていた。
ドアの向こうから、圭ちゃんの笑い声が聞こえた。
「じゃあ、いじめないでよ」
「いじめてないってっ!」
私の抗議の声を、圭ちゃんが聞いていたかどうかはさだかではなかった。
更新です。
>>62の後半と、
>>63の前半の内容がかぶってしまいました。
読みにくくなってすいません。これから気をつけます。
66 :
名無し:2001/05/17(木) 14:19 ID:pEEuwWIE
ドンマイドンマイ!
67 :
名無し娘。:2001/05/18(金) 17:36 ID:mLnnFy4o
hozen
心は静まらなかった。
後藤を求めないと誓ってから、今度は喪失感に悩まされることになった。
失いたくない。
彼女のことを。
自分の気持ちを自分で自由にできなくて、私は自己嫌悪に陥っていた。
番組の収録中も、気がつけば後藤のことばかりを考えている。
あの時の、後藤の真剣な眼差しが目に焼き付いて離れなかった。
どうしてだろう。
なぜ、気持ちは私の望みとは逆の方向に動こうとするのだろう。
もどかしくてたまらなかった。
ここまで私の気持ちを乱してくれる後藤が、憎らしく思えてきた。
いっそ、この世からいなくなってしまえばいいのに。
そんなことを考えて、今度は悲しくなるのだ。
私はどうかしている…。
69 :
名無し娘。:2001/05/20(日) 14:46 ID:6.0kk1a6
70 :
名無し娘。:2001/05/20(日) 14:52 ID:y91cAdSg
>>いいねぇ 絵になるね
昼休み、ひとりになりたくて楽屋裏に引っ込んでいる時、後藤と会った。
後藤は私が隅っこに座っているのを見て目を丸くした。
「あれ、市井ちゃん、どーしたんですか?」
「ちょっと一休みしていただけだよ」
動揺を顔に出さず、私は後藤に笑いかけた。
「足、大丈夫ですか?」
「うん、平気」
私は湿布を貼られ、包帯で大げさにグルグル巻きにされた左足を見せた。
「包帯、ほどけてますよ」
「あ、本当だ」
見ると包帯はほどけかけていた。
「私、やります」
後藤が私のそばにしゃがみ込んで巻き直してくれる。
私は後藤の頭を眺めていた。
あまりそばによってほしくなかった。
そばにこられるとまた気持ちが揺らぐ。
「ねぇ、市井ちゃん」
こんな近くで喋ってほしくなかった。
息が私の足に触れるから。
「足、小さいですね」
「私、市井ちゃんのこと、好きですよ」
「痛みませんか?」
「そういうふうに、無視されるのが一番つらいんです」
「暑いですね、今日は」
「市井ちゃん、私のこと見えてます?」
「ものすごく暑い…」
「私の声、聞こえてますか?」
「市井ちゃん、なんか言ってください…」
私は後藤の肩を押しのけ、立ち上がった。
冷たい声が出た。
「知らないよ、あんたなんか」
そんな言葉で、また、後藤を傷つける。
そうして、自分自信も傷つけた。
「どうして…?」
立ち去る私の背後から、後藤の声がした。
怒りと悲しみの混じった声だった。
それを無視して言ってしまおうとした時、後藤は大声を出して私をギョッ
とさせた。
「ヘタクソって言ったからですかぁ〜!!」
思わずコケそうになり、キッと後藤を睨み付ける。
「このおバカ!大声でそんなこと言うんじゃないよ」
本当にバカ!
私はそんなことであんたを避けているんじゃないってことぐらいわかって
なかったのか。
「だってぇ…」
後藤は目に涙を溜めて私を見ていた。
「あの日から市井ちゃん、ヘンなんだもん…」
「私は、あんたの気持ちを押しつけられるのが迷惑だって言ったでしょう」
「私、押しつけてないもん」
「私のこと知りたいって言ってたじゃない。そーゆーのがイヤだって、
私言ったでしょう」
「私、無理強いしないっていったもん」
「女同士で好きだの嫌いだの、不毛だと思わないの?」
「ぜんぜん思わないもん」
「イヤなの!私は!」
「じゃあ、もし私が男だったら?」
「想像できないよっ」
「じゃあ、どーすればいいんですか?私、どーしたらいいの?」
「知らないよ、そんなこと。私だってどうしたらいいのかわからないのに」
「市井ちゃんもなんですか?」
ハッ、と口を押さえたが、もう言葉は口から出てしまっていた。
私が自分の内心を口走ってしまうなんて…。
私の動揺に気がつかず、後藤はグスンと鼻をすすった。
「ごめんなさい、私、市井ちゃんを悩ませてたんですね」
「悩んでなんか…」
「やっぱり、あのキスが原因ですか?後になって気持ち悪くなったんで
すか?」
ちがうって…。
私は目眩を感じ、額に手をやった。
今まで、グルグルといろんなことを思い悩んでいた自分がイヤになる。
後藤が私のことをつかめる日は永遠にこないだろう。
このはなはだしい思考の違いからいって、それは明らかだ。
無駄に思い悩んでしまった。
私はバカみたいだ…。
「そうだよ…。気持ち悪くなったんだよ」
そんな言葉で後藤を追い払おうとしたが、彼女は行ってくれなかった。
それどころか、私のもとに走ってきて、ウルウルとした瞳で告げるのだ。
「もうキスなんて二度としないって決めようよ。それであのことは忘れ
ようよう。ね、そうしようっ」
「バカ、そんな暗示に私がかかるか」
「なかったことにして最初からやり直しましょうよ〜」
「この、おバカーっ!!」
「うう、ひっくぅ、市井ちゃ〜ん」
私の胸にくっついてこようとする後藤の額を押しやると、後藤は思いっ切
りのけぞり、顔をグシャグシャに歪めた。
うわぁ、なんて泣き方をするんだこいつは。
「もう、汚いなぁ、鼻を拭きなさい」
「あぅあ〜…」
「ホントにバカなんだから…」
ハンカチを取り出し、鼻を拭いてやろうとして、ハッ、とした。
どうして私がこんなことをしてあげなきゃならないんだ。
私は乱暴にハンカチを後藤の顔に押しつけて、その場から立ち去った。
「市井ちゃ〜ん、ハンカチ、洗って返します〜」
「いらないよ!」
私は怒っていた。
まったく、こっちの気も知らないで。
ズンズンと大股で後藤から遠ざかりながら、だが、私は彼女のグシャ
グシャの顔を思い出して笑みをこぼしていた。
それに気がついて、ギクリとする。
今度こそ、徹底的に自己嫌悪に陥っていた。
後藤を求めないと誓ったはずなのに、またあいつといることに心地よさを
感じてしまった。
そんな資格はないと、自分に言い聞かせたはずなのに。
どうして後藤はこんなにも私を振り回すのか。
これだけ私を振り回しておきながら、きっと後藤は、自分の方が振り回さ
れていると思っているだろう。
なんだか、しゃくにさわる。
後藤はバカなのだ。
お子様なのだ。
自分の思い通りにならないものが、この世にあるのだということを知らない
のだ。
私の身が汚れていることを知らないのだ。
だから「好き」なんて言う。
黒い羽を持ったこの私に、無邪気にも。
後藤のことを考えはじめると、一番苦しいところにたどり着き、そこで行き
詰まる。
私はキリキリと痛みはじめた胸を押さえ、仕事に戻っていった。
更新です。
>>69 画像いいっすね。(・∀・)イイのがあったらまた貼って下さい。
78 :
名無し娘。:2001/05/21(月) 00:45 ID:7S3MfMWE
一度age
79 :
名無し娘。:2001/05/22(火) 00:52 ID:oE5ZKFRY
面白くない。
80 :
名無し娘。:2001/05/22(火) 00:58 ID:c7NgDFkw
面白いです。
ヤッパ、苺魔は、いい!
81 :
名無し娘。:2001/05/23(水) 02:22 ID:GqyhL0lw
著しく保全。
収録中に後藤に話しかけられることもなく、仕事を終え、着替えを
すませて、このまま知らん顔をして帰ってしまおうとTV局を出た
とき、後藤が私を呼び止めた。
「まってくださ〜い、市井ちゃ〜ん」
私のもとに駆け寄ってくる。
うんざりした顔を作って言ってやった。
「ちょっと、しつこくない?」
「あ、あの、そうじゃなくて、圭ちゃんがちょっと待ってて欲しいって。
一緒にチャーシューメンを食べに行こうって」
圭ちゃんか…。
私は気が抜けて吐息した。
「なんでチャーシューメンに限定するかなぁ…」
「あははっ、おかしいですよね」
後藤が屈託なく笑うもので、ついつい笑いそうになり、顔を引き締める。
「じゃあ市井ちゃん、また明日」
後藤は私の表情など気にもせず、手を振った。
「帰るの?後藤」
「はい。ハンカチ明日返します」
「いらないってば」
「大丈夫ですよ、きれーに洗うから」
元気に駆け去っていく。
バカ…。
一時はあんたの鼻水のついたハンカチを私に使えというの?
バカなんだから、バカなんだから…。
ボーッとして後藤の後ろ姿を眺めていると、圭ちゃんがいつのまに来たの
か、私の肩に手を置いた。
「おまたせ、行こうよ」
「あ、圭ちゃん…、何でチャーシューメンなの?」
「なんかチャーシューメンって気分なんだよね、今日は」
「それってさぁ、どういう気分なの?」
「さあ?収録中に思いついたら頭から離れなくなっちゃった。食べるまで
私はチャーシューメンが忘れられないのよ」
「食べたら忘れるの?」
「うん」
呆れる私の腕をつかんで圭ちゃんが歩いていくので、しかたなく付き合う
ことにした。
TV局近くのラーメン屋に入り、くだらない話をしながらお腹を満足させ
てやると、来るまでチャーシューメン、チャーシューメンと口走っていた
口からは、もうチャーシューメンの名は出なくなっていた。
チャーシューメンは忘れ去られたらしい。
「圭ちゃんってさ、食べ物には妥協しないよね」
「そうかな?」
「食べたいものを食べるまで満足しないんだから」
「それが普通だと思っていたけど?」
そんなことはない、いーやそーゆーもんだ、とつまらないことを口論しな
がら帰る途中、圭ちゃんは突然声をひそめて、私の腕をつかんだ。
「あ、見て、あれ」
「え?」
圭ちゃんの指す方向に目をやって、私は目を丸くした。
後藤が女の子と一緒にいるのを見たのだ。
人のいなくなった夕暮れ時の公園で仲睦まじそうに何事か話していた。
「後藤の友達かな、あれ?」
「みたいだね」
なにを話しているのだろう。
後藤は愉快そうに笑っていた。
女の子の顔はこの角度からでは見えない。
「どんな子なんだろう」
圭ちゃんが女の子の顔を見ようと移動するので、私も後を追っていた。
「へ〜かわいい子じゃない」
圭ちゃんの言うとおり、顔立ちの整ったかわいい子だった。
口元に手をやっておかしそうに笑っている。
じゃれるように後藤の肩を叩いている所をみると、昨日今日の付き合いでは
なさそうだ。
なにか、心の中にいやなものが芽生えた。
私は無性に苛立っていた。
「なに?あの子に会うために圭ちゃんの誘いを断ったの?」
私と一緒にいるよりも、その子に会いたかったとでもいうの?
「まぁいいじゃない。後藤にだって、プライベートはあるんだから」
そんなことを言っている圭ちゃんが憎らしくなって、我知らず彼女の腕を
つねって彼女の眉をひそめさせた。
「痛いよ、紗耶香」
「え…、ああ、ごめん」
「ここのところ後藤の態度が妙だったのは、彼女も関係してるのかな?」
ちがう、私のせいだ。
「そうかもね…」
後藤のやつは、楽しそうだった。
悩み事なんかこれっぽちもないような顔ではじけるように笑っていた。
「何を話してるんだろう…」
彼女たちのそばに寄ろうとして、圭ちゃんに腕をつかまれた。
「ちょ、ちょっと、やめなよ」
それから圭ちゃんはキョトンとしたような顔で私を見た。
「紗耶香らしくないよ。もしかして妬いてるの?」
「妬く?私が?誰に?」
「それもそうね」
圭ちゃんは笑っていたが、私の胸中はおだやかではなかった。
こんな激しい嫉妬を覚えるのは初めてだ。
あの彼女に一瞬殺意が湧いた。
私の後藤に近づくなと言ってやりたかった。
後藤も後藤だ、どういうつもりなんだ。
あんな仲の良さそうな友達がいるなんて、これぽっちも聞いていない。
デレデレしてるんじゃないよ、おバカのくせに。
「ちょっと、あんまり覗くもんじゃないって、紗耶香」
「何言ってるの。圭ちゃんが最初に覗いたくせに」
圭ちゃんに突っかかってしまって、自分を押さえる。
私は一体どうしたというんだ。
後藤に仲のいい友達がいて、それで彼女とうまくいって、私のことを忘れ
てくれれば、すべてが丸く収まるはずではなかったのか。
そうなってくれと後藤に言ったのではなかったか。
私はどうにかしている。
押さえきれないほどひとつの気持ちが盛り上がってきていた。
後藤を誰にも取られたくない。
メチャクチャだ。
あの和やかな場に飛び込んでいって、彼女の顔をひっかいて泣かせてやり
たい。
なんて醜いんだ私は。
体中が嫉妬で煮えくり返って熱を持っているかのようだった。
いやだ。
いやだ…。
私は圭ちゃんの腕を掴んだ。
「帰ろうよ」
後藤のあんな顔、見たくない。
あの彼女も見たくない。
私は自分がどうなってしまったのか、よくわからなかった。
家に帰り、部屋に引きこもって気持ちを整理しようとしたが、どうしても
できなかった。
私は、後藤から離れると誓ったくせに、後藤を誰かに取られるのだけは我
慢できないのだ。
「やだよ…」
ふと、あんな彼女、明日交通事故にでもあって死んでしまえばいい。
そんなことを考えて、膝を抱えた。
「私は…っ」
変わろうとしたのに。
だから娘。に入ったのに。
ちっとも昔と変わっていない。
私の心は歪んでいる。
生まれたときから歪んだままだ。
その場にあった雑誌を壁に投げつけた。
その晩ほとんど眠れずに、私は子供の頃のことを思い出していた。
更新です。
91 :
名無し娘。:2001/05/23(水) 19:07 ID:Mwjd.KVI
・・・市井。
BWさん、続きかんばってください。
92 :
名無し娘。:2001/05/24(木) 04:41 ID:FnkgyKb6
こういうの好きだ。
93 :
名無し娘。:2001/05/26(土) 02:52 ID:BbCmw/6E
ヽ^∀^ノ<hozen
94 :
名無し娘。:2001/05/27(日) 10:10 ID:BAofPvhU
( ´ Д `)<ほぜん
95 :
名無し娘。:2001/05/29(火) 04:02 ID:zqiIM4vw
(゚д゚)保全。
96 :
名無し娘。:2001/05/31(木) 00:44 ID:HvG/hxp2
ヽ^∀^ノ( ´ Д `)<ほぜ〜ん
97 :
名無し:2001/06/02(土) 00:12 ID:Gk3osU72
保全
98 :
名無し娘。:2001/06/03(日) 14:18 ID:oMZsoarg
保全
99 :
名無し娘。:2001/06/04(月) 18:28 ID:YdHs4l6k
100 :
名無し娘。:2001/06/05(火) 16:23 ID:FIfSqvOw
続き祈願保全
101 :
名無し娘。:2001/06/07(木) 12:12 ID:M3GZKQqM
保全
102 :
名無し娘。:2001/06/09(土) 00:46 ID:FgXY4n.I
保全
103 :
名無し娘。:2001/06/10(日) 22:48 ID:JomkxlHQ
もうだめなんですか・・・?保全
104 :
名無し娘。:2001/06/11(月) 22:15 ID:e2sjnfKY
気付くのが遅かったか・・・
105 :
名無し娘。:2001/06/11(月) 22:19 ID:Tg7pW5Qk
別スレの小説は続いているが…
106 :
名無し娘。:2001/06/12(火) 20:24 ID:0UCNDXJ2
それは知ってるんだが、こちらも物凄く気になる
気になるというか続きが読みたくて仕方ない。
とても面白いからね。BWのいちごま、イイッ!
107 :
名無し娘。:2001/06/13(水) 22:04 ID:GNctt6UI
続き書いてくれないのか?
108 :
名無し娘。:2001/06/14(木) 21:25 ID:.5AwQcPo
今年いっぱいは待ってみると今決意した!
109 :
名無し娘。:2001/06/16(土) 05:45 ID:dV2Z6kEM
細々と・・・
110 :
名無し娘。:2001/06/16(土) 22:51 ID:6ngU2pfg
やっていこうかと・・・
111 :
名無し娘。:2001/06/17(日) 22:06 ID:CAllZtps
思ったり・・・
112 :
名無し娘。:2001/06/17(日) 22:17 ID:qu.qmm4s
続き、書きます。
113 :
名無しさん:2001/06/18(月) 00:45 ID:zFMWBxLA
静かに期待しています。
114 :
名無し娘。:2001/06/18(月) 23:09 ID:7ndatbuI
マジッスか!?なんと嬉しい事だ・・・
待ちつづけてよかった・・・
115 :
名無し娘。:2001/06/19(火) 22:33 ID:D1HubFoI
苦しい事の後にはイイ事がある・・・
116 :
名無し娘。:2001/06/20(水) 00:58 ID:TVgdkNIw
情の薄い子。
小さい頃から、親にそう言われていた。
確かに心を動かされることは少なかった。
でも、全く感情というものを持ち合わせていないわけでもなかった。
ただ親が「愛情」と称して、押しつけてくるものを、嬉しいと思えなか
っただけなのだ。
「おまえのためだ」と言われて、何かを強制されることも、してもらうこ
とも好きではなかった。
愛情をもらうことが、そんなにも我慢を強いられることなら、いっそいら
ないと思っていた。
だから私は、親が笑って欲しいと望んだときに笑うことが出来ない子供に
なっていた。
愛情とか、友情とか、とにかく「情」とつくものすべてが煩わしかった。
それは私の手足を縛ってがんじがらめにし、私を窒息させるだけのもので
しかなかったのだ。
117 :
名無し娘。:2001/06/20(水) 00:59 ID:TVgdkNIw
いくら親でも、そんな子供を可愛いと思うはずがない。
両親はいつも私のことで口論がたえなかった。
どうしてこんな子に育ってしまったのか。
両親はいつも罪のなすりあいをしていた。
そんな両親の姿を見て、私は自分が望まれない子であることを自覚した。
私は誰からも必要とされていない。
私の居場所はどこにもない。
自業自得とはいえ、まだ幼く何の力も持っていなかった私には、それは重た
すぎる「現実」であった。
私は自分を守るために、誰にも心を開かず、誰も自分の中に立ち入らせるこ
となく生きていくしかなかった。
118 :
名無し娘。:2001/06/20(水) 01:00 ID:TVgdkNIw
私は恋なんてしないと思っていた。
そんなものは一時の気の迷いで、振り回されて一喜一憂するなんて、愚かし
いことだと思っていた。
自分で自分のことをコントロールできなくなるなんて、そんなことなどある
わけがないと信じていた。
誰かを好きになって浮かれている者、失恋して泣いている者、そんな人間は
周りに大勢いたが、彼女らの気持ちなどまるでわからなかったし、わかろう
ともしなかった。
そこまで誰かにすがらなければ生きていけないのか、相手に嫌われまいと自
分を装う行為を、恥ずかしいことだとは思わないのか、そんなふうに考えて
いた。
私は恋などしたことがなかったから。
119 :
名無し娘。:2001/06/20(水) 01:03 ID:TVgdkNIw
そんな私が人に恋をしてここまで気持ちを乱しているなんて、信じられない
ことだった。
誰からも必要とされていなかった私が、誰をも必要としていなかった私が、
今自分以外の人間をこれほど必要としている。
しかも相手は女だ。
なにもかも顔に出てしまう嘘のつけないかわいい少女。
後藤への思い。
それは生まれて初めて感じる幸福だった。
情というものを拒否し続けていた私が初めて味わった幸福だった。
しかし、
幸福というものが同時に不幸の源であることも私は知った。
私は歓喜に震えながら、後藤への思いに身を浸し、周囲を光の世界に変え
ようとした。
それすら可能だと錯覚した。
だが現実は、この感情がどこまでも私につきまとう悪夢となり、耐え難い
思いをしなければならなくなっただけだった。
後藤は私のことが知りたいといった。
しかし私はわかっているのだ。
私のことを知ったら、後藤は私を拒絶するだろうということを。
120 :
名無し娘。:2001/06/20(水) 01:06 ID:TVgdkNIw
そんなことを考えていたら、私はいつの間にかうとうととし、いつしか眠りに
ついてた。
何か夢を見た気がする。
醜い化け物が、後藤や後藤の周囲の親しい人々を攻撃し、後藤のまだ小さな
世界を踏みにじり、破壊する。
たしかそんな夢だった。
重苦しい夢の名ごりに包まれながら、朝眼を覚ます。
ぼんやりとした頭。
無邪気な夢の続き。
後藤の横にすわり、その手をとってキスをする。
さらに、頬を、唇をキスぜめにする。
そして後藤の肩を抱いて、、、
まだ眠りから覚めず、後藤を探り求めて、ハッと正気に返る。
私の身体はさびしいベッドの上に横たわっているのだ。
後藤はいない。
苦しい胸の中からとめどもなく涙が流れた。
どんなに泣いたって未来にはなんの慰めも望みもありはしないのに。
121 :
名無し娘。:2001/06/20(水) 01:07 ID:TVgdkNIw
更新です。
122 :
名無し娘。:2001/06/20(水) 03:22 ID:38yu9Qf6
は、始まったでぇ〜っ!!
123 :
名無し娘。:2001/06/20(水) 16:23 ID:ttZvv/iI
BWさん?BWさんなのか?
124 :
名無し娘。:2001/06/20(水) 20:52 ID:xpqLRuGE
ありがとう・・・
125 :
名無し娘:2001/06/21(木) 00:51 ID:Gjl6rYqI
やっと始まった〜〜〜〜。更新してくださいねー
126 :
名無し娘。:2001/06/21(木) 22:38 ID:Vy1T26VU
天国と地獄を味わった・・・
127 :
名無し娘。:2001/06/22(金) 17:52 ID:mIdeStjI
(-.-)石川先生も・・・ボソッ
128 :
名無し娘。:2001/06/24(日) 00:43 ID:Ts0FYClw
朝、私は早めに家を出た。
今日も仕事の前に後藤が練習をしているのだと思うと、じっとしていられ
なかった。
心の中は、乱れたままで、後藤と会ったら自分が何を言うかわからな
かったが、それでも体は勝手に動いて、彼女のもとへ行こうとするのだ。
今、後藤と会うのは危険だとわかっていながら、自分を止められなかっ
た。
しかし、稽古場に後藤はいなかった。
圭ちゃんの気配もない。
いくら何でも時間が早すぎたようだ。
気分を落ち着かせるために、練習でもしようと更衣室へ行くと、そこに
後藤がいた。
ドクン、と心臓がうなりを上げた。
私は、自分が今どんな顔をしているのかもわからなかった。
129 :
名無し娘。:2001/06/24(日) 00:45 ID:Ts0FYClw
「あ、市井ちゃん、おはよーございます」
後藤は着替えの途中だった。
シャツの前をはだけさせたまま、私を見て破顔した。
私は、カッと体が熱くなるのを感じた。
一瞬頭の中がまっ白になった。
何も考えられなくなり、挨拶を返すことすら出来なかった。
私はただじっと後藤を見ていた。
「市井ちゃん早いですね〜。そーだ、私、ハンカチ洗ってきました」
彼女がバッグの中から、ごそごそとハンカチを取り出す。
「ちゃんとアイロンも掛けておきましたよ」
はい、と私にハンカチを差し出してきた。
私は半ば無意識にそのハンカチを後藤の手からむしり取った。
「え…っ?」
後藤が驚いたような顔をしている。
私はいったいどんな顔をしているのだ。
「いらない、こんなもの!」
ハンカチを丸めて、そこにあったゴミ箱に投げ捨てた。
130 :
名無し娘。:2001/06/24(日) 00:47 ID:Ts0FYClw
「あ…」
後藤はゴミ箱を見、次ぎに私を見た。
そこから再びゴミ箱を見た。
捨てられたハンカチがそこにあった。
ややあって、もう一度今度はコワゴワと私を見て、小さな声で呟いた。
「そんなに私のこと、嫌いなんですか…?」
「……」
私は何をどう言っていいのかわからなかった。
自分のしたことに驚いてもいた。
胸の中がぐつぐつと煮え立っているようで、それを押さえるのに精一
杯だった。
後藤の瞳がくもる。
それを隠すように目をふせた。
「嫌いなんですね…」
「あんたなんか…」
私の声は自分でもわかるほど震えていた。
「あんたなんか、いなくなってしまえばいい!!」
吐き捨てるように、そんなことを言ってしまった。
後藤を傷つけた。
そして自分自身も傷つけた。
にもかかわらず、私は自分を止められなかった。
腕が、指先が震えていた。
131 :
名無し娘。:2001/06/24(日) 00:49 ID:Ts0FYClw
自分の中にあるなにかが、今にも爆発しそうで、それが急に怖くなり後藤
から目をそらす。
そのまま更衣室を出ていこうとした時、後藤は私の背中に抱きついてきた。
「ちょっと…!?」
驚いて、乱暴に彼女の腕をもぎはなした。
「市井ちゃん、待って…!」
後藤は目に涙を溜め、すがるように私の目を見ていた。
なんでそんな目で私を見るの?
痛い。
苦しい。
胸が切り裂かれてしまいそうだ。
「もう一度だけキスして下さい」
「な…に…?」
「もう一度だけキスしてくれたら、私、市井ちゃんのこと諦めますから。
もう変なこと言って困らせたりしませんから…」
こいつはいきなりなにを言い出すんだ?
キスしてくれ?
そしたら諦めるだって?
「諦める…?私を?」
「はい。市井ちゃんのことすっぱり諦めます。だから、もう一度だけ…」
132 :
名無し娘。:2001/06/24(日) 00:50 ID:Ts0FYClw
私は自分の腕が伸びるのを見た。
そして、その手が、後藤の頬をきつくはたくのを見た。
後藤は頬を押さえ、驚愕に目を見張った。
「好きだって言ったくせに!キスしたら忘れるのか、私のことをっ!?」
「だ、だって、市井ちゃん…!」
「諦めないって言ったくせに!あんたの『好き』って、その程度のものだ
ったの!?私を散々悩ませたくせに、キス一つで忘れるのかよっ!?」
もうむちゃくちゃだ。
自分でもわかってる。
でも許せない。
そんなこと絶対に!
後藤は唇を噛みしめた。
ひどく悔しそうに顔を歪めた。
私を睨みつけ、叫ぶように言った。
「キスぐらいで諦めなんかつくわけないじゃない!!」
それ以上は言葉にならないようだった。
後藤は唇を震わせ、声を押し殺しながら泣いていた。
私もかけるべき言葉が見つからず、下を向いてただ黙っていた。
永遠とも思える沈黙が続いた。
133 :
名無し娘。:2001/06/24(日) 00:53 ID:Ts0FYClw
「おっはよー。おー、二人とも早いね」
重苦しい沈黙を破ったのは、遅れてきた圭ちゃんだった。
しかし、すぐに中の異様な雰囲気に気がついたようだった。
「…どうしたの、なにかあったの?」
圭ちゃんは不安げな様子で、私と後藤を交互に見やった。
「後藤、泣いてるの?」
圭ちゃんが後藤に声をかけた。
すると後藤は無言のまま、手で顔を押さえ駆け足で更衣室から出て
いってしまった。
「ちょっと紗耶香、いったい何があったのさ??」
私と圭ちゃんの二人きりとなった更衣室で、圭ちゃんがそう聞いてきた。
事情を説明するわけにもいかないので、私はとぼけることに決めた。
「別になんでもないよ」
「何でもないってことはないでしょう?ただ事じゃない雰囲気だったし、
後藤も泣いてたじゃない」
この時ばかりは圭ちゃんを鬱陶しく感じていた。
これは私と後藤の問題なんだ。
いくら圭ちゃんだからって、二人の中に入り込むことは許さない。
134 :
名無し娘。:2001/06/24(日) 00:54 ID:Ts0FYClw
「仕事のことでちょっと怒っただけだよ」
私は圭ちゃんが納得しそうな理由をあげて、話を終わらせようとした。
「本当?それにしては様子が…」
「本当だよ。私、先に練習してるから」
それだけ言って、私は更衣室から出た。
「教育係だからって、やりすぎるなよ〜」
背中越しに圭ちゃんの声を聞いた。
私は振り返らずに適当に返事だけをして、そのまま稽古場へと向かった。
私は何をやってるんだ。
自分でもわからない。
何も考えたくない。
私はすべてを忘れるため、ただひたすら練習に打ち込んだ。
135 :
名無し娘。:2001/06/24(日) 00:56 ID:Ts0FYClw
更新です。
>>127 そっちも近いうちに更新しますので…(うぅ
136 :
名無し娘。:2001/06/25(月) 17:18 ID:nRWPRRW.
ほぜん
137 :
名無し娘。:2001/06/25(月) 21:55 ID:18T2U5KQ
葛藤するココロ・・・
138 :
名無し娘。:2001/06/26(火) 04:07 ID:YlJJgz.w
(そっち)の更新もありがとう
139 :
名無し娘。:2001/06/27(水) 01:37 ID:PB1KphNA
とにかくなんとか心を落ち着かせたい。
スケジュールがびっちりあるのが何よりもありがたかった。
仕事を夢中でこなしている最中は余計なことを考えなくてすむ。
今は何も考えたくない。
140 :
名無し娘。:2001/06/27(水) 01:37 ID:PB1KphNA
あれから何日たっただろう。
後藤とは仕事以外の話はしなかった。
私は逃げなければならない。
また心が揺らいでしまわないように。
141 :
名無し娘。:2001/06/27(水) 01:38 ID:PB1KphNA
私のぐらつく決心を固めさせてくれたのは後藤だ。
あれから一週間、後藤は私に話しかけてこなかった。
これでいいんだ。
すべてこれでいいんだ。
142 :
名無し娘。:2001/06/27(水) 01:39 ID:PB1KphNA
あれから二週間。
手のひらを返すように、心境がたちまち一変する。
すべてが私を苛立たせる。
時々嬉しいことや楽しいこともあった。
が、それも一瞬のことにすぎなかった。
ベッドの中で寝ていると、後藤のことをついつい考えてしまう。
そして彼女の幻を追っていく。
でも決して捕まえることは出来ないのだ。
私はただ涙にくれていた。
143 :
名無し娘。:2001/06/27(水) 01:40 ID:PB1KphNA
私と後藤の関係は相変わらずであった。
私の体調は万全とは言えず、調子が落ちていた。
落ち着きのない投げやりな状態に陥り、休むことも出来ず、かといって仕事
にも身が入らなかった。
やる気がわかず、何に対しても無感覚になった。
144 :
名無し娘。:2001/06/27(水) 01:43 ID:PB1KphNA
全国ツアーが始まった。
無気力な状態は幾分回復したが、完治とまではいかなかった。
それでもどうにか自分の役回りをこなす。
ホテルの同室が圭ちゃんというのも、私にはありがたかった。
145 :
名無し娘。:2001/06/27(水) 01:44 ID:PB1KphNA
ツアーも日程の2/3を終えた。
今日は野外コンサートのはずだったが、季節はずれの台風のため中止にな
ってしまった。
疲れを癒やすためには、絶好の休みであったが私の気分は沈んでいた。
ようやく鬱状態を脱し、これから頑張ろうと思った矢先に…。
体を動かしていないと、余計なことを考えてしまう。
かといってホテルの中には練習できる場所もなかった。
他のメンバーはこの嵐の中遊びに出かけたようだ。
私も誘われたが休みたいからと断った。
ひとりでいたかったのだ。
146 :
名無し娘。:2001/06/27(水) 01:45 ID:PB1KphNA
ホテルのベッドに寝そべりながら後藤のことを考えていた。
後藤のことを考えるのは久しぶりのような気がした。
二人の間は相変わらずぎくしゃくしたままだったが、それで構わないと
思った。
「これでいいんだよ。後藤のことなんてもう忘れよう」
言葉に出した途端、私の心は張り裂けそうになった。
私はバカじゃないのかっ!?
私は自分の心を欺こうとしている。
この気違いじみた果てしのない情熱はなんだというのだ。
私の心は後藤以外のなにものにも向けられてはいない。
私の心には後藤以外の誰も姿を現さない。
周囲のいっさいも、ただ後藤との関係でだけ意味を持ってくる。
実際それだけが私の心を動かすのだ。
147 :
名無し娘。:2001/06/27(水) 01:48 ID:PB1KphNA
後藤のそばにいて、彼女の姿、振る舞い、言葉づかいを、喜び楽しみたかった。
でも、彼女に接すると感覚が緊張し、目の前が暗くなり、何事も耳に入ら
なくなって、喉が締め付けられるような思いをしてしまう。
胸苦しいあまりにせめて息を吐こうとすると、心臓が激しくうちだし、
その為かえって気持ちが千々に乱れ―。
私は自分が生きているのか死んでいるのか、それすらもわからなくなって
しまうのだ。
そして、みじめにも後藤の胸の中で泣き喚いてしまいたくなるのだ。
そんなとき、私はいたたまれず外に逃げ出してしまう。
そうなのだ。
後藤にひどい言葉を浴びせたりするのも、すべて私の逃避行動なのだ。
どうしようもない、私の歪んだ心を隠すための。
私はいつまで逃げればいいんだろう。
私はいつまで逃げるつもりなんだろう。
考えても答えは一つしか思い浮かばない。
この悲惨を終わらせるものは、死、以外にはありそうもない。
148 :
名無し娘。:2001/06/27(水) 01:49 ID:PB1KphNA
そんなバカみたいなことを何時間も考えていた。
ホテルの中にいると時間の感覚がなくなる。
今何時ぐらいだろうかと時計を見る。
やはり3時間ほどたっていたようだ。
窓の外を見ると、嵐はやむどころかますますその勢いを強めているようだ
った。
この調子だと、明日のコンサートも中止になるかもしれない。
と、不意に部屋のドアの開く音がした。
圭ちゃんがやっと帰ってきたようだ。
「圭ちゃん、おかえりなさーい」
私はつとめて明るい声で言った。
が、返事は帰ってこなかった。
「圭ちゃんでしょう…?」
私は訝しんで、ドアに近寄った。
「市井ちゃん、話があるの…」
そこに立っていたのは圭ちゃんではなく後藤だった。
149 :
名無し娘。:2001/06/27(水) 01:50 ID:PB1KphNA
更新です。
150 :
名無し娘。:2001/06/27(水) 21:19 ID:dZJAZj62
ココロが痛い・・・
151 :
名無し娘。:2001/06/28(木) 03:47 ID:gC9UfzSM
続きが気になる
152 :
名無し娘。:2001/06/29(金) 01:38 ID:15h4kBGM
次の更新予定を書いてくれると嬉しいな
153 :
名無し娘。:2001/06/29(金) 21:10 ID:dfllEvHo
気長に待とう・・・
というか待つよ・・・
154 :
モー娘。板に名無しさん(羊):2001/07/01(日) 01:11 ID:THZCWuEU
スマソ、保全age
155 :
名無し娘。:2001/07/01(日) 01:12 ID:/9eoVilI
156 :
:2001/07/02(月) 06:21 ID:EXVpy6eg
157 :
:2001/07/03(火) 07:16 ID:V1PqTWpk
158 :
名無し娘。:2001/07/05(木) 01:49 ID:n9ynWyrY
hozen
159 :
名無し娘。:2001/07/07(土) 02:29 ID:mxukPBSY
本日七夕。保全
160 :
名無し娘。:2001/07/09(月) 00:49 ID:FgQOgyqI
今さら、なぜにいちごま?
161 :
名無し娘:2001/07/09(月) 00:55 ID:35w4P4O2
放置長いよ
私が続き書いてもいいでしょうか?
163 :
名無し娘。:2001/07/09(月) 16:53 ID:BtCWqvtA
「どうやってこの部屋に入ったの?鍵は?」
後藤を前にしているのに、自然と言葉が出る。
思ったより冷静な自分に、心底ほっとした。
後藤が答える。
「圭ちゃんが貸してくれました」
圭ちゃんか…。
私と後藤の仲がぎくしゃくしていることに、当然圭ちゃんも気がついていた
はずだ。
わざわざ鍵を貸したということは、圭ちゃんなりに私と後藤の仲を取り持と
うとした結果か。
余計なことを…。
「そんなところに突っ立ってないで、中入れば?」
ここで後藤を追い返すこともできたが、そうはしなかった。
そんなことをしたら、後で圭ちゃんに色々説教くらいそうだったからだ。
……本当にそれが理由なのだろうか?
本当はただ後藤と一緒にいたかっただけなのではないのか?
その誘惑に勝てなかっただけではないのか?
自問自答してみても答えは出なかった。
164 :
名無し娘。:2001/07/09(月) 16:56 ID:BtCWqvtA
後藤を部屋のソファに座らせ、私は少し離れてベッドの上に腰掛けた。
後藤は緊張のせいかひどく青ざめているように見える。
いつものへらへらとした後藤の姿はなく、ただ苦しそうに俯いていた。
「話ってなに?」
「……」
後藤は黙ってしまった。
私も何も話さなかった。
また沈黙だ…。
しかし、後藤を前にしても、かつてのようなキリキリとした胸の痛みは
感じていなかった。
何だろうこの感覚―。
私はただぼんやりと後藤の様子を眺めていた。
その時、窓ガラスがガタガタッと大きな音を立てた。
後藤はビクッとして身を縮こませる。
「…はあー、後藤ぉ、まさか風の音が怖いんじゃないよね?」
「……」
「子供じゃあるまいし、まさかねぇ?」
「…わ、わたし…」
そこで後藤は息を吸い、吐き出した。
「怖いんです、窓の鳴る音、すごく怖くて…」
声は震えている。
本心から怖がっているようだ。
165 :
名無し娘。:2001/07/09(月) 16:58 ID:BtCWqvtA
後藤は半泣きになりながら続けた。
「お父さんが事故にあったのも、こんな日で…」
後藤のお父さん、確か事故で亡くなったと聞いている。
それはこんな嵐の日のことだったのだろうか。
それがトラウマになって…?
後藤は涙をこぼしそうになっていた。
しかし、嵐の音はますます凄まじくなっていった。
ものすごい勢いでバンバンと窓ガラスを殴りつけてくる。
「寝ちゃったら?」
私の言葉に、後藤はすがりついた。
「そうですよね、眠ってしまえば怖くないですよね」
まだ夕方。
子供だってこんな時間に寝ないが、他にいい方法が思い浮かばない。
とりあえず、後藤を部屋まで送ってやるぐらいのことはしてやろうか。
そう私が思っていると、後藤は椅子から立ち上がり、私の隣のベッド、
圭ちゃんが使用していたベッド、に潜り込んでしまった。
私は一瞬あッ!と思ったが、本気で怯えている後藤に、今更部屋に帰れ
とも言えなかった。
166 :
名無し娘。:2001/07/09(月) 17:00 ID:BtCWqvtA
後藤がベッドに潜り込んでから何時間たっただろう。
私もベッドに横になっていたが、眠りはしなかった。
嵐は一向に止みそうもない。
窓ガラスがガタガタガタと激しく揺れている。
どうやらひどい強風だ。
どこか遠くの方でカランカランと何かが飛ばされていく音までする。
「すごい嵐だね…」
私の呟きに後藤の情けない声が重なった。
「…市井ちゃん、窓ガラス割れそうですね」
息をのみながらしゃべっているような声だ。
「なんだ、後藤起きてたの?」
布団から後藤が顔を出す。
私はその顔を見て、後藤が「起きた」のではなく「起きていた」ことを
察した。
涙でぐちゃぐちゃなのである。
たぶん後藤はずっと布団の中で風の音を耐えていたに違いない。
私は、後藤が涙で目を真っ赤にしているのを見て、かわいそうと思う反面、
腹が立ってしかなかった。
なんで、私の前でそんな顔をするの?
また心が揺らいでしまう…。
167 :
名無し娘。:2001/07/09(月) 17:02 ID:BtCWqvtA
更新遅れて申し訳ありません。
もう少しペース上げていきますので…。
168 :
名無し娘。:2001/07/09(月) 17:22 ID:FoF9yVgk
気にしないでください。
楽しみにしてます
169 :
名無し娘。:2001/07/10(火) 21:57 ID:0t..VBsw
気長に待ってるよ。
170 :
名無し娘。:2001/07/11(水) 00:47 ID:6/9/r6OY
「…窓、割れそう…」
風が窓を叩く音に、ビクビクしながら後藤が言う。
「そんな簡単には割れないよ」
「でも、何か飛んできて、当たったら…」
私はため息をついて言った。
「さあ、もう風の音なんて気にしないでとっとと寝ようよ」
「はい…」
後藤は再びベッドの中に潜り込む。
私は本でも読もうと机に向かったが、どうにも風の音がうるさくて集中で
きない。
仕方ないので自分も寝ようと、明かりを消してベッドに入る。
しかしこの風の中、なかなか寝付くことは出来なかった。
窓ガラスの振動が部屋の中に響きわたり、うるさくてしかたがない。
少しイライラしはじめた頃、後藤の息をのむ声が聞こえた。
「きゃっ…」
外で大きな物音がした直後だった。
「後藤、まだ眠れないの?」
「私…、怖い、市井ちゃん…」
よほど怖いのだろう。
しゃくり上げながら後藤が言う。
怖がるなといっても無駄のようだ。
私ですら本当に窓が割れてしまうのではないかと不安になるほど嵐だ。
171 :
名無し娘。:2001/07/11(水) 00:49 ID:6/9/r6OY
「ひどい風だね」
「…市井ちゃん…、あの…あの…、そっち行ってもいいですか?」
「…なに?ひとりじゃ眠れないの?」
「…私、怖くて…、あの…、お願いです」
私は返事をせず黙っていた。
心臓だけがドックンドックンと早鐘を打つ。
後藤は本当に怖がっていて、そんな気があるわけじゃないのはわかっ
ている。
でも私は…。
後藤を隣に寝かせて、正気でいられる自信がないのだ。
「……」
私が返答に窮していると、後藤はおそるおそる布団から抜け出して、
私のベッドに入り込んできた。
自分の身体が顔がおろしいほど熱くなる。
「…ごめんなさい、私、風の強い日はひとりで眠れなくて」
後藤はベッドに入ると私にしがみついてきた。
しがみつきながら首をまわして窓を見ている。
ガラスが振動するたびに体を硬直させるのがわかる。
私は子供をあやすように後藤の背中をポンポンと叩いてやった。
後藤のあまりの怯えように、少しだけ冷静さを取り戻していた。
172 :
名無し娘。:2001/07/11(水) 00:50 ID:6/9/r6OY
なんだか泣きべそをかきながらしがみついてくる後藤がかわいそうに
思えて、慰めてやりたい気分になっていた。
これを母性とでも呼ぶのかな。
などとくだらないことを考えながら、ぎゅっと抱きしめてやると、
後藤は少しだけ落ち着きを取り戻したようだった。
「…市井ちゃん、少しだけお話ししませんか?」
後藤がそう話しかけてきた。
私は何も言わず、後藤は私を見つめていた。
173 :
名無し娘。:2001/07/11(水) 00:50 ID:6/9/r6OY
更新です。
174 :
名無し娘。:2001/07/12(木) 00:35 ID:7vC4t0vg
後藤かわい。更新うれし。
175 :
名無し娘。:2001/07/12(木) 17:28 ID:ehUxjH1M
続き期待。
176 :
名無し娘。:2001/07/14(土) 21:14 ID:BRL.Nr5k
保全
177 :
名無し娘。:2001/07/16(月) 07:40 ID:U8qB6jgM
ホゼム
178 :
名無し娘。 :2001/07/17(火) 12:42 ID:8qfI8ubM
続き期待サゲ
179 :
名無し娘。 :2001/07/17(火) 13:55 ID:Zt.eCYhk
期待しております
180 :
名無し娘。:2001/07/19(木) 01:36 ID:SFKdgdxo
明後日更新します。
181 :
名無し娘。:2001/07/20(金) 05:43 ID:NpWlrlVI
楽しみ
182 :
名無し娘。:2001/07/20(金) 22:09 ID:l6noaPA6
すいません。更新明日になります。
183 :
名無し娘。:2001/07/22(日) 02:44 ID:U6UmvPDs
うふ?
184 :
名無し娘。:2001/07/22(日) 10:44 ID:OZd8j1gk
まだかな・・・
185 :
名無し娘。:2001/07/23(月) 22:47 ID:sjYfaNvU
ありゃ、もう月曜日だ
186 :
名無し娘。:2001/07/23(月) 22:49 ID:o1Mgxu1I
すいません。書いた分都合により破棄しました。明日更新します。
187 :
名無し娘。:2001/07/25(水) 00:12 ID:gs0aU1ck
「あの日からずっと我慢してきたんです。これ以上つきまとったら、私、
もっと嫌われちゃうと思って。どうしたらいいかわからないんです」
「……」
「私なんか、もうむちゃくちゃなんだ。圭ちゃんには嫉妬するし、心は
ぐちゃぐちゃだし、このままじゃ本当にダメになっちゃいそうで…」
「圭ちゃんに嫉妬…?」
「仲いいじゃないですかぁ。市井ちゃん、私と真面目に話してくれること
ないくせに、圭ちゃんとはいろんなこと話してるみたいだし、ホテルも一
緒の部屋だし、私だって…」
後藤は鼻をすすった。
「私だって市井ちゃんといろんなこと話したいんです。でも、市井ちゃん
は私なんか眼中にないんだ。それどころか困った後輩だと思ってるんだ。
市井ちゃんに好きになってもらいたいのに、このままじゃ私、嫌われちゃ
う。市井ちゃんの嫌がることばかりしちゃう。本当はそんなことしたくな
いのに。だからあの時、もう一度キスしてもらって、忘れようって、そう
決めるしかないんだって。忘れるなんて、そんなことできるわけないけど、
他にどうしようもないじゃないですかぁ」
後藤は、こらえきれずにこぼれ落ちる涙を手の甲で拭った。
私は後藤を泣かせてばかりいる。
188 :
名無し娘。:2001/07/25(水) 00:19 ID:gs0aU1ck
私は後藤を追いつめているのだろうか。
いや違う。
追いつめられているのは私の方だ。
後藤が私に向かって、私たち二人を破滅させる毒を吐いてくるのだ。
「後藤、もしかしてやきもちやいたの?」
そう聞いた私の声は少し震えていた。
「…そうです。妬いたんです。誰にも市井ちゃんをとられたくないと思いま
した」
私は全身が瞬間震えた。
そしてその言葉を心の中で何遍もくり返した。
私を破滅に導く後藤の告白を、私はたまらない心地よさでそれをすすった
のだ。
私は自分の苦痛と歓喜に耐えかねて、気がつくと後藤の唇に自分の唇を重
ねていた。
189 :
名無し娘。:2001/07/25(水) 00:19 ID:gs0aU1ck
更新です。
190 :
名無し娘。:2001/07/25(水) 05:48 ID:Bf7J.mVs
いよいよ…
さーこいっ!さーこいっ!
よくぞやった、市井よ!
192 :
名無し娘。:2001/07/27(金) 06:49 ID:gq2aK2/2
保全
193 :
名無し娘。:
hozen