螳牙阪↑縺､縺ｿ
1 ：螳牙阪↑縺､縺ｿ：
繧ｨ繝ｭ
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2 ：ななし氏：2001/05/05(土) 18:52 ID:9K14iNrQ
( ´ⅴ｀)ﾉ あいぼーん！！文字化けしてるよん!
ななし氏って変なヤツ、かまうの好きだね～～～
4 ：名無し娘。：2001/05/05(土) 19:41 ID:UCRpezjg
5 ：ななし氏：2001/05/05(土) 19:45 ID:9K14iNrQ
え？ホントに文字化けしてるんじゃないの?
それなら削除依頼出すまでだけど･･･｡
それなら削除依頼出すまでだけど･･･｡
6 ：やっぱりここでやり直そう：2001/05/06(日) 22:47 ID:RdiuDg5M
幕末 波浪組血風録
＝発端＝
浦賀に鉄の軍船を率いたダニエルが来航し、
幕府が鈴木あみという役人を押し立ててアメリカ始め諸外国と通商条約を結んで以来
日本の内部は風雲急を告げていたが、
まだそれには関係なく己の剣の腕を磨く者達があつまる道場があった。
゛試衛館゛己の腕が生かせる時を待つ者達が、切磋琢磨している
…はずである天然波浪流の道場だ。
「あ、前田さん稽古ですか！？」
「分かっているなら君も何かしたらよいだろう」
道場に向かう前田有紀に声を掛けたのは市井紗耶香だった。
近辺では誰も敵うものがいないほどの剣の腕を持ちながらも、
時折練習を抜けて犬と遊んだり子供と遊んだりするのが好きだった。
「腕を磨くのは手間のかかることだが、錆びるのはあっという間と言うぞ」
「あはは、そうですよね」
市井の透き通るような笑顔を見て、柄にも無く説教のようなものをしてしまった前田は、
「だったら、練習すればいいのに」
苦笑しながらそう言って道場に足を踏み入れた。
市井とは、そういう言葉を掛けさせずにはいられない何かを持った少女だった。
前田有紀は口数は少ないが、酒が入ると聞きなれない゛演歌゛という歌を歌って
場を盛り上げてくれることがしばしばあった。
とても真面目な女だ。
幕府が鈴木あみという役人を押し立ててアメリカ始め諸外国と通商条約を結んで以来
日本の内部は風雲急を告げていたが、
まだそれには関係なく己の剣の腕を磨く者達があつまる道場があった。
゛試衛館゛己の腕が生かせる時を待つ者達が、切磋琢磨している
…はずである天然波浪流の道場だ。
「あ、前田さん稽古ですか！？」
「分かっているなら君も何かしたらよいだろう」
道場に向かう前田有紀に声を掛けたのは市井紗耶香だった。
近辺では誰も敵うものがいないほどの剣の腕を持ちながらも、
時折練習を抜けて犬と遊んだり子供と遊んだりするのが好きだった。
「腕を磨くのは手間のかかることだが、錆びるのはあっという間と言うぞ」
「あはは、そうですよね」
市井の透き通るような笑顔を見て、柄にも無く説教のようなものをしてしまった前田は、
「だったら、練習すればいいのに」
苦笑しながらそう言って道場に足を踏み入れた。
市井とは、そういう言葉を掛けさせずにはいられない何かを持った少女だった。
前田有紀は口数は少ないが、酒が入ると聞きなれない゛演歌゛という歌を歌って
場を盛り上げてくれることがしばしばあった。
とても真面目な女だ。
「相変わらず早いな、前田さん」
道場に入った前田に最初に声を掛けたのは、道場長である中澤裕子だった。
前田は自分の門下生であり歳も下なのだが、なぜか中澤はさん付けで呼んでいた。
中澤はやんちゃだった幼い頃から精神修行の為に剣を習い、
その才能を見込まれて地元の名門の中澤家へ養子としてもらわれ、
道場を任された身である。元は武士ではなかった。
道場では門下生に一本取られることもしばしばであったが、誰に聞いても
「真剣でやったら、中澤さんには絶対勝てない」
そう言わしめる何かを持っている。
また、酒が入ると前田の゛演歌゛の真似をして歌を披露することがあるが、
これはあまり上手くない。
「声は悪くないんだが…」
前田はそうとしか言わない。
「中澤君ほどではないさ」
そう言って前田が道具を取り出して練習を始めて大分経って、
「すみませ～ん」
「遅れました！」
道場にやってきたのはりんねとあさみの二人、二人とも天然波浪流ではないが、
数ヶ月前から食客として道場に顔を出している。
あさみは市井にも匹敵する剣の才能の持ち主だったし、りんねは槍の名手だった。
道場に入った前田に最初に声を掛けたのは、道場長である中澤裕子だった。
前田は自分の門下生であり歳も下なのだが、なぜか中澤はさん付けで呼んでいた。
中澤はやんちゃだった幼い頃から精神修行の為に剣を習い、
その才能を見込まれて地元の名門の中澤家へ養子としてもらわれ、
道場を任された身である。元は武士ではなかった。
道場では門下生に一本取られることもしばしばであったが、誰に聞いても
「真剣でやったら、中澤さんには絶対勝てない」
そう言わしめる何かを持っている。
また、酒が入ると前田の゛演歌゛の真似をして歌を披露することがあるが、
これはあまり上手くない。
「声は悪くないんだが…」
前田はそうとしか言わない。
「中澤君ほどではないさ」
そう言って前田が道具を取り出して練習を始めて大分経って、
「すみませ～ん」
「遅れました！」
道場にやってきたのはりんねとあさみの二人、二人とも天然波浪流ではないが、
数ヶ月前から食客として道場に顔を出している。
あさみは市井にも匹敵する剣の才能の持ち主だったし、りんねは槍の名手だった。
「2分15秒の遅刻だぜ、二人とも」
そう言ったのは北上アミ、゛試衛館゛きっての文武両道の士だった。
広範な知識と、確かな剣の腕を持ち気性も柔らかく門下生達からの信望も厚い。
実は彼女も天然波浪流ではない。地元の道場で師範代を務めていたが、
この゛試衛館゛で中澤と立ち会い、なすすべなく敗れ、この道場にいつくようになった。
飴と鞭の関係性で言えば彼女は明らかに道場内で゛飴゛の役割を担っていた。
「に…2分15秒って…なんだ？」
「さ…さぁ…いんてりげんちゃは言うことが違うな」
「いんてりげんちゃってのもどうかと思うが…」
「ふん…」
この3人のやり取りを横目で睨みながら中澤に目配せしている平家みちよこそ、
飴と鞭の関係性における鞭の役割を担う者だった。
平家の漂わせる空気を察したりんねとあさみはそそくさと稽古の支度に入った。
二人とも、平家のことは苦手であった。
そう言ったのは北上アミ、゛試衛館゛きっての文武両道の士だった。
広範な知識と、確かな剣の腕を持ち気性も柔らかく門下生達からの信望も厚い。
実は彼女も天然波浪流ではない。地元の道場で師範代を務めていたが、
この゛試衛館゛で中澤と立ち会い、なすすべなく敗れ、この道場にいつくようになった。
飴と鞭の関係性で言えば彼女は明らかに道場内で゛飴゛の役割を担っていた。
「に…2分15秒って…なんだ？」
「さ…さぁ…いんてりげんちゃは言うことが違うな」
「いんてりげんちゃってのもどうかと思うが…」
「ふん…」
この3人のやり取りを横目で睨みながら中澤に目配せしている平家みちよこそ、
飴と鞭の関係性における鞭の役割を担う者だった。
平家の漂わせる空気を察したりんねとあさみはそそくさと稽古の支度に入った。
二人とも、平家のことは苦手であった。
沖田もようやく道場で稽古を再開し、珍しく主要な者が揃ったこの日の昼過ぎ、
「大谷雅恵でーっす！」
片手に饅頭の包みを持ってきた彼女は、この道場に時々来ては市井やりんね、
あさみ辺りをからかったり、稽古をつけてもらったりしていく北波一刀流の名手だった。
皮肉屋で、あさみあたりは本気で苦手に思っている。
すらりとした体型でなかなかの美丈夫だ。
「大谷君も来てくれたか…」
「中澤さん、丁度揃ったようだ」
「うむ…」
みやげに饅頭を持った大谷がやってきたところで、
「休憩して、茶にするか」
そして、近藤は重大な話を門弟達に対して始めた。
「大谷雅恵でーっす！」
片手に饅頭の包みを持ってきた彼女は、この道場に時々来ては市井やりんね、
あさみ辺りをからかったり、稽古をつけてもらったりしていく北波一刀流の名手だった。
皮肉屋で、あさみあたりは本気で苦手に思っている。
すらりとした体型でなかなかの美丈夫だ。
「大谷君も来てくれたか…」
「中澤さん、丁度揃ったようだ」
「うむ…」
みやげに饅頭を持った大谷がやってきたところで、
「休憩して、茶にするか」
そして、近藤は重大な話を門弟達に対して始めた。
「福田明日香という者が、浪士を募集しているらしい。
任務は江戸から京都までの将軍様の先供行。おれはこれに応じようと考えている」
当然のようにざわつく門下生達。
「なんで私が来ている時にそんな話をするんです！？」
大谷が尋ねると、
「君は学もあるし剣の腕もたつ。ぜひ仲間にほしいと考えていたところなのだよ」
そう言われて大谷も悪い気はしなかった。
「あさみさん、あんたはどうするね！？」
「ああ、もちろん応じるつもりだが、おふくろの説得がたいへんそうだよ」
「いよいよ、我々にも将軍様の為に働ける機会が回ってきたのだ…」
平家の一言で場内は引き締まった。
この2日後、道場主中澤を始めとした10数名がそれぞれ故郷を発った。
任務は江戸から京都までの将軍様の先供行。おれはこれに応じようと考えている」
当然のようにざわつく門下生達。
「なんで私が来ている時にそんな話をするんです！？」
大谷が尋ねると、
「君は学もあるし剣の腕もたつ。ぜひ仲間にほしいと考えていたところなのだよ」
そう言われて大谷も悪い気はしなかった。
「あさみさん、あんたはどうするね！？」
「ああ、もちろん応じるつもりだが、おふくろの説得がたいへんそうだよ」
「いよいよ、我々にも将軍様の為に働ける機会が回ってきたのだ…」
平家の一言で場内は引き締まった。
この2日後、道場主中澤を始めとした10数名がそれぞれ故郷を発った。
あさみが愚痴をこぼす。
「納得いかないね、やっとのことでおふくろを説得してきたってのに…
この扱いじゃあな」
福田明日香のもとに参じた中澤一行だったが、仮にも一道場の道場主である
中澤に与えられたのは平隊士の身分だった。
200数十名の浪士が集まった中で、中澤は小隊長の身分にすらなれなかった。
福田明日香は田舎から出てきた志士で、それだけに舐められないよう
自分を理論で完全武装している女で、論戦になったら、
江戸中探しても彼女に応戦出来る者など片手で数えられるほどではないかと
思われるほどだった。
剣の腕もかなりのもので、北波一刀流の免許皆伝であるらしい。
それだけに、自分の待遇についての不満など
学の無いあさみやりんねは口に出来なかった。
「納得いかないね、やっとのことでおふくろを説得してきたってのに…
この扱いじゃあな」
福田明日香のもとに参じた中澤一行だったが、仮にも一道場の道場主である
中澤に与えられたのは平隊士の身分だった。
200数十名の浪士が集まった中で、中澤は小隊長の身分にすらなれなかった。
福田明日香は田舎から出てきた志士で、それだけに舐められないよう
自分を理論で完全武装している女で、論戦になったら、
江戸中探しても彼女に応戦出来る者など片手で数えられるほどではないかと
思われるほどだった。
剣の腕もかなりのもので、北波一刀流の免許皆伝であるらしい。
それだけに、自分の待遇についての不満など
学の無いあさみやりんねは口に出来なかった。
「まあいい、気にすることは無い実力を示せば待遇も変わる…
諸君らも決して気の緩んだところは見せてくれるなよ」
この中澤の言葉に、
「ちぇ…」
中澤嫌いのりんねなどは密かに舌を打った。
「中澤君、私の副官に付いてくれないか！？」
この稲葉貴子という、水戸藩から来たという女の言葉にあっさり従ったからだ。
諸君らも決して気の緩んだところは見せてくれるなよ」
この中澤の言葉に、
「ちぇ…」
中澤嫌いのりんねなどは密かに舌を打った。
「中澤君、私の副官に付いてくれないか！？」
この稲葉貴子という、水戸藩から来たという女の言葉にあっさり従ったからだ。
「不満があるならば今すぐ引き返すがいい。今ならばいくらでも後戻りできる」
平家の言葉は、逆に門弟達の自尊心を刺激し引き返そうとする足を止めさせた。
「まぁ、京都につくまでの辛抱さ」
゛先駆け先生゛の異名を持つ大谷雅恵は何の心配も無いようだった。
後に戦場では誰よりも早く突貫し、戦端を開く役目を担うようになる。
生来、楽観的な性格をしていたらしい。
そしてその楽観的な考えが誤りであった事に気づいたのは、
全員が京都についてからのことだった。
平家の言葉は、逆に門弟達の自尊心を刺激し引き返そうとする足を止めさせた。
「まぁ、京都につくまでの辛抱さ」
゛先駆け先生゛の異名を持つ大谷雅恵は何の心配も無いようだった。
後に戦場では誰よりも早く突貫し、戦端を開く役目を担うようになる。
生来、楽観的な性格をしていたらしい。
そしてその楽観的な考えが誤りであった事に気づいたのは、
全員が京都についてからのことだった。
「へぇ…」
京について始めて聞いた福田明日香の言葉に無感動でいられたのは、
この市井紗耶香ただ一人だけだった。
「これから、この人数で征夷大将軍を襲撃する」
福田は純粋に思想家であったために、常にやることが極端だった。
この言葉を浪士全員に発表したのは京に到着した翌朝の集会においてだった。
「…そういうことか」
平家は小さくうめいた。
福田という女に胡散臭さは感じてはいたものの、まさか将軍を襲撃しようなどと
考えているとまでは思っていなかった。
「中澤さん、どうする！？」
もともと、中澤に思想などはない。
ただ、生まれついての武士ではない為、それだけに武士というものへの憧れが強く、
そういう事情もあって幕府への忠誠心が人一倍強かった。
「北上さん、おれの考えていることは分かるな！？」
「無論です」
中澤は参謀格の北上に一応確認すると、
「おれは、行かん」
大声で、そう言い放った。
数百の瞳が平隊士である中澤に向き返ったが、中澤はたじろぎもしなかった。
「なんだと！？」
顔面を蒼白にした福田が言ったが、中澤の前に今度は平家が立ちふさがった。
京について始めて聞いた福田明日香の言葉に無感動でいられたのは、
この市井紗耶香ただ一人だけだった。
「これから、この人数で征夷大将軍を襲撃する」
福田は純粋に思想家であったために、常にやることが極端だった。
この言葉を浪士全員に発表したのは京に到着した翌朝の集会においてだった。
「…そういうことか」
平家は小さくうめいた。
福田という女に胡散臭さは感じてはいたものの、まさか将軍を襲撃しようなどと
考えているとまでは思っていなかった。
「中澤さん、どうする！？」
もともと、中澤に思想などはない。
ただ、生まれついての武士ではない為、それだけに武士というものへの憧れが強く、
そういう事情もあって幕府への忠誠心が人一倍強かった。
「北上さん、おれの考えていることは分かるな！？」
「無論です」
中澤は参謀格の北上に一応確認すると、
「おれは、行かん」
大声で、そう言い放った。
数百の瞳が平隊士である中澤に向き返ったが、中澤はたじろぎもしなかった。
「なんだと！？」
顔面を蒼白にした福田が言ったが、中澤の前に今度は平家が立ちふさがった。
「今日まで我々が生きてこられたのは何のためだ！？幕府のお陰であろう！
その幕府に弓を引こうなどと、我々に出来ようことか！」
「くっ…」
一瞬馬鹿につける薬は無い…という表情を浮かべそうになった福田だったが
なんとかそれをかき消すと、
「百姓風情が、幕府に恩義もあるまい…」
福田ははっとして口を押さえたが、遅かった。
この台詞を聞いた浪士たちはどこか心が冷えていくのを感じた。
ここが、福田と安倍、飯田、矢口、保田、後藤らの差であったのかもしれない。
とにかく、福田には人徳というものが欠けていた。
その幕府に弓を引こうなどと、我々に出来ようことか！」
「くっ…」
一瞬馬鹿につける薬は無い…という表情を浮かべそうになった福田だったが
なんとかそれをかき消すと、
「百姓風情が、幕府に恩義もあるまい…」
福田ははっとして口を押さえたが、遅かった。
この台詞を聞いた浪士たちはどこか心が冷えていくのを感じた。
ここが、福田と安倍、飯田、矢口、保田、後藤らの差であったのかもしれない。
とにかく、福田には人徳というものが欠けていた。
この騒ぎで浪士が多数離れ、そのせいで福田は江戸に帰り、
体勢を立て直さざるを得なくなった。
そして、しばらくして彼女は知人に欺かれ暗殺される。
典型的秀才のあっけない最期だった。
「いい風ですね、中澤さん、平家さん」
市井の声が透き通った風と一緒になって流れた。
文久3年2月23日、波浪組の原型とでもいうべきものが
発足した日である。
体勢を立て直さざるを得なくなった。
そして、しばらくして彼女は知人に欺かれ暗殺される。
典型的秀才のあっけない最期だった。
「いい風ですね、中澤さん、平家さん」
市井の声が透き通った風と一緒になって流れた。
文久3年2月23日、波浪組の原型とでもいうべきものが
発足した日である。
当時の情勢はごく簡単に言うと、
反幕 … 幕府を打ち倒し、天皇中心の世の中へ
左幕 … 幕府を守りつつ、天皇も敬う
この二つに分かれていた。
どちらも天皇を敬う気持ちには変わりは無かったのに、
ただ現行の政権を認めるか認めないか、
それだけの為に多くの人々が殺しあった
反幕に属するのは主に水戸藩、長州藩、薩摩藩、土佐藩の志士など。
ただしこの頃の水戸藩は既に幕府により両腕をもぎ取られた状況だったし、
薩摩藩は世渡りが上手く、柔軟な姿勢を取っており、土佐藩は藩主が頑固な左幕派だった。
この時期、長州藩の志士たちが最も先鋭的であったと言える。
左幕がこの頃は主流であり、こちらに中澤らは属する。
登場する格藩の主な志士は
長州藩 … 石黒彩 矢口真里 保田圭
薩摩藩 … 安倍なつみ 飯田圭織
土佐藩 … 後藤真希 吉澤ひとみ 加護亜依
反幕 … 幕府を打ち倒し、天皇中心の世の中へ
左幕 … 幕府を守りつつ、天皇も敬う
この二つに分かれていた。
どちらも天皇を敬う気持ちには変わりは無かったのに、
ただ現行の政権を認めるか認めないか、
それだけの為に多くの人々が殺しあった
反幕に属するのは主に水戸藩、長州藩、薩摩藩、土佐藩の志士など。
ただしこの頃の水戸藩は既に幕府により両腕をもぎ取られた状況だったし、
薩摩藩は世渡りが上手く、柔軟な姿勢を取っており、土佐藩は藩主が頑固な左幕派だった。
この時期、長州藩の志士たちが最も先鋭的であったと言える。
左幕がこの頃は主流であり、こちらに中澤らは属する。
登場する格藩の主な志士は
長州藩 … 石黒彩 矢口真里 保田圭
薩摩藩 … 安倍なつみ 飯田圭織
土佐藩 … 後藤真希 吉澤ひとみ 加護亜依
＝稲葉貴子＝
「いやあ、君は立派な士だ！」
福田と決別し、京都に残留する事になったのは中澤一行だけではなかった。
稲葉貴子一行も、そうだった。
というのも、この江戸から京都までの道中、中澤は稲葉の副官につき、
宿場の部屋割りなどの雑用を文句一つ無く務めてきたという経緯があって、
稲葉のほうも中澤には恩義を感じていたからだ。
「誰にでもできることでは無い」
稲葉の白々しい言葉を聞きながらも、中澤と平家は微笑を崩さなかった。
「そういえばまだきちんとした自己紹介はしておりませんでしたな」
「拙者は天然波浪流の中澤裕子と申します」
…
中澤一行の自己紹介が一通り済むと、稲葉一行の自己紹介が始まった。
ついでに、この頃一人の剣客が中澤一行に加わっている。
村田めぐみ、天然波浪流の免許皆伝だという。
細身の体ながら、下段からの強烈な突き上げを得意としている。
「拙者は波浪無念流の稲葉貴子と申す。こちらは信田組の組長、信田美帆殿、
そしてその隣が拙者の同門の三佳千夏、そしてRuRuと申す者でござる」
「るる…！？」
「変わった名前ですな…」
中澤も平家も狐につままれたような顔をしているのを見て稲葉は豪快に笑い、
「まぁ、細かい事は気になさらず、早速親睦を深めようではないか」
今風に言えば、
「飲みに行こう」
ということだった。
福田と決別し、京都に残留する事になったのは中澤一行だけではなかった。
稲葉貴子一行も、そうだった。
というのも、この江戸から京都までの道中、中澤は稲葉の副官につき、
宿場の部屋割りなどの雑用を文句一つ無く務めてきたという経緯があって、
稲葉のほうも中澤には恩義を感じていたからだ。
「誰にでもできることでは無い」
稲葉の白々しい言葉を聞きながらも、中澤と平家は微笑を崩さなかった。
「そういえばまだきちんとした自己紹介はしておりませんでしたな」
「拙者は天然波浪流の中澤裕子と申します」
…
中澤一行の自己紹介が一通り済むと、稲葉一行の自己紹介が始まった。
ついでに、この頃一人の剣客が中澤一行に加わっている。
村田めぐみ、天然波浪流の免許皆伝だという。
細身の体ながら、下段からの強烈な突き上げを得意としている。
「拙者は波浪無念流の稲葉貴子と申す。こちらは信田組の組長、信田美帆殿、
そしてその隣が拙者の同門の三佳千夏、そしてRuRuと申す者でござる」
「るる…！？」
「変わった名前ですな…」
中澤も平家も狐につままれたような顔をしているのを見て稲葉は豪快に笑い、
「まぁ、細かい事は気になさらず、早速親睦を深めようではないか」
今風に言えば、
「飲みに行こう」
ということだった。
「中澤さんは本気であんな奴らと組むつもりなのかね…」
酒を酌み交わしながらりんねはあさみに問うた。
「どうかな…私には悪い人には見えないが」
「おいおい、うちらが道中使い走りに使われたのを忘れたか？」
あさみは答えなかった。
上座のほうを見るとそこには稲葉と信田、中澤と平家が腰を掛け、
互いに世間話も一段落したのか、それぞれの陣容に分かれて話をしているらしい。
平家はいつもの通り、黙々と自分のペースで飲んでいるらしいが、
酒豪で通っている中澤もどうやらペースが遅い。
陽気に盛り上がっている稲葉陣営とは対照的だった。
酒を酌み交わしながらりんねはあさみに問うた。
「どうかな…私には悪い人には見えないが」
「おいおい、うちらが道中使い走りに使われたのを忘れたか？」
あさみは答えなかった。
上座のほうを見るとそこには稲葉と信田、中澤と平家が腰を掛け、
互いに世間話も一段落したのか、それぞれの陣容に分かれて話をしているらしい。
平家はいつもの通り、黙々と自分のペースで飲んでいるらしいが、
酒豪で通っている中澤もどうやらペースが遅い。
陽気に盛り上がっている稲葉陣営とは対照的だった。
「稲葉さんらは酒癖が悪いからな。素面の誰かが止めてやる必要があるのさ」
怪訝な表情を察したのか、隣にいた大谷が説明した。
「そうなのか…」
そう言った刹那、
「おい！おかみ！」
稲葉の大声が響いた。
「なんやこの魚の焼き方は！？折角の油が台無しやろが！」
方言を丸出しにした罵声は聞き苦しかったが、
「おお、この焼き加減は素晴らしい。これが京の焼き魚ですな。
しかし、稲葉殿のお好みには添わなかったらしい。
もう一皿運んで来て頂けないものかな」
北上の機転でその場は収まったように見えたが、
稲葉が完全に酔ってしまっている状況には変わりが無い。
怪訝な表情を察したのか、隣にいた大谷が説明した。
「そうなのか…」
そう言った刹那、
「おい！おかみ！」
稲葉の大声が響いた。
「なんやこの魚の焼き方は！？折角の油が台無しやろが！」
方言を丸出しにした罵声は聞き苦しかったが、
「おお、この焼き加減は素晴らしい。これが京の焼き魚ですな。
しかし、稲葉殿のお好みには添わなかったらしい。
もう一皿運んで来て頂けないものかな」
北上の機転でその場は収まったように見えたが、
稲葉が完全に酔ってしまっている状況には変わりが無い。
モーニング娘。板名作集の方であげさせていただきます。
「君！こっちに来て一緒に飲まないかね」
その稲葉の声であさみとりんねと大谷と村田が一緒に顔を上げたが、
「その丸顔君だよ」
RuRuが捕捉の説明をしたのであさみ以外の他の三人は頭を下げた。
「直々のご指名とはね。うらやましいぜ。モテモテじゃないか」
りんねの冷やかしにも、
「あさみ君は母性本能を刺激する顔をしているからなぁ…」
などと言って残念そうな顔をしてみせる大谷にも耳を貸さず、
あさみは一度中澤に目配せをした。
すると中澤が
（行ってやり給え）
という視線を返した為、
「おい、本当に行くのかよ」
というりんねの声を背中で聞きながらあさみは席を立った。
その稲葉の声であさみとりんねと大谷と村田が一緒に顔を上げたが、
「その丸顔君だよ」
RuRuが捕捉の説明をしたのであさみ以外の他の三人は頭を下げた。
「直々のご指名とはね。うらやましいぜ。モテモテじゃないか」
りんねの冷やかしにも、
「あさみ君は母性本能を刺激する顔をしているからなぁ…」
などと言って残念そうな顔をしてみせる大谷にも耳を貸さず、
あさみは一度中澤に目配せをした。
すると中澤が
（行ってやり給え）
という視線を返した為、
「おい、本当に行くのかよ」
というりんねの声を背中で聞きながらあさみは席を立った。
「君は歳はいくつかね！？」
「16ですが」
「若いな…俺とは一回り違う」
信田の声を片耳で聞きながら、あさみは片頬に稲葉の視線を感じていた。
しかし、何も言えずにいると、たまりかねたのか三佳が口を開いた。
「稲葉さんはずっと君のことを話してたんだよ」
「君が自分の弟に似てるってね」
「お…弟！？」
あさみの言葉の調子には抗議の色が含まれているようにも感じられたが、
酒で満たされた稲葉達の頭には響かなかった。
（どう見ても女でしょ私は…）
「ばらすなばらすな！恥かしいやろ！」
酒気を帯びて赤くなっていた稲葉の頬が更に赤くなった。
（…こういう人なのか…）
稲葉に対して好意を感じ始めたあさみが聞いた。
「弟さんは、いくつになられるんです？」
「死んだよ…まだたった10年しか生きていなかったのにな…」
「16ですが」
「若いな…俺とは一回り違う」
信田の声を片耳で聞きながら、あさみは片頬に稲葉の視線を感じていた。
しかし、何も言えずにいると、たまりかねたのか三佳が口を開いた。
「稲葉さんはずっと君のことを話してたんだよ」
「君が自分の弟に似てるってね」
「お…弟！？」
あさみの言葉の調子には抗議の色が含まれているようにも感じられたが、
酒で満たされた稲葉達の頭には響かなかった。
（どう見ても女でしょ私は…）
「ばらすなばらすな！恥かしいやろ！」
酒気を帯びて赤くなっていた稲葉の頬が更に赤くなった。
（…こういう人なのか…）
稲葉に対して好意を感じ始めたあさみが聞いた。
「弟さんは、いくつになられるんです？」
「死んだよ…まだたった10年しか生きていなかったのにな…」
あさみは言葉を失った。
「酔いつぶれるとね、いつも寝言で弟の名前を呼ぶのさ」
「新五郎…新五郎…ってね」
「今でも忘れられんよ…あいつの死に顔は…」
稲葉が酒を飲んでは暴れるという訳が、なんとなく分かったような気がした。
「稲葉さんは…弟さんが好きだったんですね」
あさみの言葉に、稲葉は優しい笑顔を作ると
「あさみ君、我々と一緒に働いてくれるな！？」
そう言った。
翌日の編成であさみがなぜか新参の村田めぐみと共に稲葉陣営に配置された。
中澤の心遣いだったらしい。
「酔いつぶれるとね、いつも寝言で弟の名前を呼ぶのさ」
「新五郎…新五郎…ってね」
「今でも忘れられんよ…あいつの死に顔は…」
稲葉が酒を飲んでは暴れるという訳が、なんとなく分かったような気がした。
「稲葉さんは…弟さんが好きだったんですね」
あさみの言葉に、稲葉は優しい笑顔を作ると
「あさみ君、我々と一緒に働いてくれるな！？」
そう言った。
翌日の編成であさみがなぜか新参の村田めぐみと共に稲葉陣営に配置された。
中澤の心遣いだったらしい。
この日の編成で、波浪組の前身であるこの浪士隊は、三局長制を取ることになった。
稲葉貴子、信田美帆、中澤裕子の3人である。
実質上信田美帆は稲葉派である為、この浪士隊の実権は稲葉が握ることとなった訳である。
上辺はこれで一応は上手くいっているように見えた。
酒が入っていない昼間、
稲葉は紙に落書きをして中澤に見せに行って、
二人で笑いあったりすることがあった。
中澤もそういった戯れごとは嫌いでは無かったからだ。
しかし、その反面、中澤は平家を通してあさみに
「稲葉とはあまり密接になるな」
という指示も与えていたのである。
しかし、あさみは稲葉について既に深いところまで知ってしまっていた。
稲葉貴子、信田美帆、中澤裕子の3人である。
実質上信田美帆は稲葉派である為、この浪士隊の実権は稲葉が握ることとなった訳である。
上辺はこれで一応は上手くいっているように見えた。
酒が入っていない昼間、
稲葉は紙に落書きをして中澤に見せに行って、
二人で笑いあったりすることがあった。
中澤もそういった戯れごとは嫌いでは無かったからだ。
しかし、その反面、中澤は平家を通してあさみに
「稲葉とはあまり密接になるな」
という指示も与えていたのである。
しかし、あさみは稲葉について既に深いところまで知ってしまっていた。
ところが、稲葉の夜の悪行はエスカレートしていく。
酒場のつけを踏み倒すなどというのは序の口で、
酔って刀を振り回すようなことも増えていた。
信田美帆も稲葉に劣らず酒乱だったので更にたちが悪かった
あさみが、
「お体に障ります。飲酒はもっと控えて下さい」
と注進すると、
「そうか、…そうだな、そうしよう」
とその場は大人しくうなずく稲葉だが、また数日すると、悪行は再開された。
あさみも稲葉についてやればいいのだが、
京の見廻りという隊務もあれば、隊士に稽古をつける仕事もあるため、
それもままならない。
しかも、最近あさみは背中に鋭い視線を感じることが多くなった。
（村田さんか…）
自分と同時に村田も稲葉陣営に配置した中澤の心がようやくにして理解出来た。
つまり、村田はあさみの監視役だったのである。
そんなある日、稲葉達にも、あさみにも、激震を走らせる出来事が起きた。
信田美帆が詰め腹を切らされて、死亡したのである。
酒場のつけを踏み倒すなどというのは序の口で、
酔って刀を振り回すようなことも増えていた。
信田美帆も稲葉に劣らず酒乱だったので更にたちが悪かった
あさみが、
「お体に障ります。飲酒はもっと控えて下さい」
と注進すると、
「そうか、…そうだな、そうしよう」
とその場は大人しくうなずく稲葉だが、また数日すると、悪行は再開された。
あさみも稲葉についてやればいいのだが、
京の見廻りという隊務もあれば、隊士に稽古をつける仕事もあるため、
それもままならない。
しかも、最近あさみは背中に鋭い視線を感じることが多くなった。
（村田さんか…）
自分と同時に村田も稲葉陣営に配置した中澤の心がようやくにして理解出来た。
つまり、村田はあさみの監視役だったのである。
そんなある日、稲葉達にも、あさみにも、激震を走らせる出来事が起きた。
信田美帆が詰め腹を切らされて、死亡したのである。
理由は、隊の金を遊蕩費に使い過ぎたということだった。
常に稲葉と行動を共にしていた信田が一人で宿に滞在していたところを見計らって
中澤と平家がおしかけ、半ばむりやりに、
あっという間に腹を切らせてしまったのである。
このことをきっかけに、稲葉の隊内での権勢は一気に衰えた。
しかし、衰える権勢に反比例するかのように、
稲葉の悪行はさらに、更にエスカレートしていったのである。
常に稲葉と行動を共にしていた信田が一人で宿に滞在していたところを見計らって
中澤と平家がおしかけ、半ばむりやりに、
あっという間に腹を切らせてしまったのである。
このことをきっかけに、稲葉の隊内での権勢は一気に衰えた。
しかし、衰える権勢に反比例するかのように、
稲葉の悪行はさらに、更にエスカレートしていったのである。
この頃になると、既に流石にあさみも稲葉に命の危険が
迫っていることを察していた。
現に、中澤、平家もそれとなく稲葉に逃亡を促している。
しかし、何かに導かれるように稲葉は夜になると盛り場に足を運び、
悪行を繰り返した。
「つけを払えと五月蝿いんじゃ」
という理由である酒場に大砲を打ち込み、その店の主人の妻の
小湊美和という女を人質に取るという暴挙に到って、
あさみはついに、
「稲葉さん、私と一緒に逃げましょう！三佳さんもるるさんも…
このままじゃ、命が危ない！いつ信田さんのようになるか…」
「一緒に逃げてくれるか…」
「はい！」
「嬉しいことよ…しかし、それは出来ん」
「な…なぜ！？」
「ようやくにも掴んだ仕官の道や…逃げて、弟に苦しい生活はさせとうない」
「い…稲葉さん…」
三佳とRuRuも肩をすくめて、
（稲葉さんがそう言うんだ、しょうがないだろう）
という表情を見せた。
迫っていることを察していた。
現に、中澤、平家もそれとなく稲葉に逃亡を促している。
しかし、何かに導かれるように稲葉は夜になると盛り場に足を運び、
悪行を繰り返した。
「つけを払えと五月蝿いんじゃ」
という理由である酒場に大砲を打ち込み、その店の主人の妻の
小湊美和という女を人質に取るという暴挙に到って、
あさみはついに、
「稲葉さん、私と一緒に逃げましょう！三佳さんもるるさんも…
このままじゃ、命が危ない！いつ信田さんのようになるか…」
「一緒に逃げてくれるか…」
「はい！」
「嬉しいことよ…しかし、それは出来ん」
「な…なぜ！？」
「ようやくにも掴んだ仕官の道や…逃げて、弟に苦しい生活はさせとうない」
「い…稲葉さん…」
三佳とRuRuも肩をすくめて、
（稲葉さんがそう言うんだ、しょうがないだろう）
という表情を見せた。
――浪士隊屯所、中澤局長室
「あさみさんが、稲葉に完全に情を移してしまっています」
「中澤さん…もう、限界だ」
平家の言葉を受けて、中澤は静かに肯いた。
「うむ…」
「稲葉一行と一緒には行けない」
「うむ…」
「斬ろう、中澤さん」
ここでようやく、平家の双眸が鋭く光った。
「…う…うむ…」
「斬るしか無い」
「分かっている！少し考えさせろ」
中澤の言葉を受けて、平家が報告に来た者に対して言葉を掛ける。
「村田君、辛い任務だったな。加入早々に済まなかった」
平家の珍しいねぎらいの言葉に村田は口もとをわずかに歪めると、
「気にしないで頂きたい…おれにとって、正義は一つですから」
そう言って、暗い局長室を後にした。
「あさみさんが、稲葉に完全に情を移してしまっています」
「中澤さん…もう、限界だ」
平家の言葉を受けて、中澤は静かに肯いた。
「うむ…」
「稲葉一行と一緒には行けない」
「うむ…」
「斬ろう、中澤さん」
ここでようやく、平家の双眸が鋭く光った。
「…う…うむ…」
「斬るしか無い」
「分かっている！少し考えさせろ」
中澤の言葉を受けて、平家が報告に来た者に対して言葉を掛ける。
「村田君、辛い任務だったな。加入早々に済まなかった」
平家の珍しいねぎらいの言葉に村田は口もとをわずかに歪めると、
「気にしないで頂きたい…おれにとって、正義は一つですから」
そう言って、暗い局長室を後にした。
幹部クラスを集めて酒宴が開かれたのはこの日の夜だった。
日々の隊務で疲労した体を休めるという名目である。
「稲葉さん、今日はどうか押さえて下さいね」
「ああ、分かっている」
酒宴が始まって早々、
「あさみ君、こちらに来たまえ」
中澤の呼びかけがあった。
あさみが稲葉に目配せすると、
「中澤君が呼んでいるぞ」
そう言ったので、あさみは中澤の側に座った。
「どうかね？最近調子のほうは」
「え、ええ、稲葉さん達もよくしてくれますので」
「そうかそうか、それはよかった」
そう言いながらも中澤はあさみの杯へと、
休み無く酒を注いでさかんに勧めた。
「なにか不都合があったならばすぐおれたちに相談し給えよ」
日々の隊務で疲労した体を休めるという名目である。
「稲葉さん、今日はどうか押さえて下さいね」
「ああ、分かっている」
酒宴が始まって早々、
「あさみ君、こちらに来たまえ」
中澤の呼びかけがあった。
あさみが稲葉に目配せすると、
「中澤君が呼んでいるぞ」
そう言ったので、あさみは中澤の側に座った。
「どうかね？最近調子のほうは」
「え、ええ、稲葉さん達もよくしてくれますので」
「そうかそうか、それはよかった」
そう言いながらも中澤はあさみの杯へと、
休み無く酒を注いでさかんに勧めた。
「なにか不都合があったならばすぐおれたちに相談し給えよ」
えー、レス書いてもいいのかな。
新撰組モノですよね。今後の展開が楽しみです。
中澤→近藤勇
平家→土方歳三
市井→沖田総司
てのはなんとなくわかるけど、後がよくわかんね･･･
「燃えよ剣」読み直すか。
新撰組モノですよね。今後の展開が楽しみです。
中澤→近藤勇
平家→土方歳三
市井→沖田総司
てのはなんとなくわかるけど、後がよくわかんね･･･
「燃えよ剣」読み直すか。
モーニング娘。板名作集の方であげさせていただきます。
36 ：リ･ベンジ：2001/05/10(木) 16:56 ID:IsBMOg06
KAMPFERでるぞっ！！
あさみも酒には弱いほうではないが、流石に酔ってきたらしい。
視界がぼやけてきた。
「あさみ君、こちらに来たまえ！」
稲葉のものらしい声が聞こえる。しかし、もはや腰が立たなかった。
これ以降はあさみの記憶は飛んでしまった。
何も覚えていないが、しかし、記憶の底に、
「面白くない！先に寝かせてもらう！」
という稲葉の声と、
「稲葉を刈って、米にしちゃいましょうよ」
という市井の無邪気な声が残っていた。
視界がぼやけてきた。
「あさみ君、こちらに来たまえ！」
稲葉のものらしい声が聞こえる。しかし、もはや腰が立たなかった。
これ以降はあさみの記憶は飛んでしまった。
何も覚えていないが、しかし、記憶の底に、
「面白くない！先に寝かせてもらう！」
という稲葉の声と、
「稲葉を刈って、米にしちゃいましょうよ」
という市井の無邪気な声が残っていた。
・
・
・
「うぅ…まだ頭が痛い…」
目を覚ましたばかりのあさみの部屋を訪ねて来たものがいた。
「あさみさん、昨日、ちょっとした事件があってな」
大谷雅恵だった。
口元に、微かに皮肉な微笑を浮かべている。
「ちょっとした事件…一体何です？」
「稲葉貴子さんが殺された」
・
・
「うぅ…まだ頭が痛い…」
目を覚ましたばかりのあさみの部屋を訪ねて来たものがいた。
「あさみさん、昨日、ちょっとした事件があってな」
大谷雅恵だった。
口元に、微かに皮肉な微笑を浮かべている。
「ちょっとした事件…一体何です？」
「稲葉貴子さんが殺された」
「な…なんだって！？いつ？誰がやった？」
「昨日の晩、やったのは強盗らしいぜ」
「…嘘だ…」
大谷を突き飛ばしながらあさみは急いで稲葉の泊まっている宿場に向かった。
「よう、あさみさん」
途中でりんねと出会った。
「…聞いたかい？」
稲葉のことだろう。
「聞いた」
「やったのは、強盗らしいな」
「違う」
「…それが分かっているなら、それでいいじゃないか」
自分の横を駆け抜けようとしたあさみの腕を掴むりんね。
「君は、平家さんに睨まれてる」
「知ったことか！！」
りんねの腕を振り払って稲葉の宿場についたあさみは、
首の無い、血まみれになった稲葉の体を見た。
「昨日の晩、やったのは強盗らしいぜ」
「…嘘だ…」
大谷を突き飛ばしながらあさみは急いで稲葉の泊まっている宿場に向かった。
「よう、あさみさん」
途中でりんねと出会った。
「…聞いたかい？」
稲葉のことだろう。
「聞いた」
「やったのは、強盗らしいな」
「違う」
「…それが分かっているなら、それでいいじゃないか」
自分の横を駆け抜けようとしたあさみの腕を掴むりんね。
「君は、平家さんに睨まれてる」
「知ったことか！！」
りんねの腕を振り払って稲葉の宿場についたあさみは、
首の無い、血まみれになった稲葉の体を見た。
稲葉貴子は寝込みを襲われ即死。
人質として取られ、一緒に寝ていた小湊美和も巻き添えになって即死だった。
三佳千夏も応戦空しく死亡。RuRuただ一人難を逃れた。
RuRuはその後満州に渡りソロアルバムをリリースしたという言い伝えがあるものの、
実際の行方は知られていない。
稲葉一行を襲ったのは中澤、平家、市井、りんねらだったというが、
あさみには決して知らされることが無かった。
稲葉の葬儀は盛大に行われた。
あさみは粛々と弔辞を読み上げる中澤の横顔を睨み続けたが、
中澤は一度も目を合わせてはくれなかった。
そして、葬儀も終わり中澤は未だに会場を去ろうとしないあさみの肩に手を置くと、
ようやくあさみに目を合わせ、ゆっくりとうなずいた。
（お前には済まないことをしたかもしれない…だが、奴らのことは
すぐに忘れたほうがいい。そうしないと、これから先生き残ることは出来ん）
そんな中澤の無言の優しさが込められていたのだろう。
人質として取られ、一緒に寝ていた小湊美和も巻き添えになって即死だった。
三佳千夏も応戦空しく死亡。RuRuただ一人難を逃れた。
RuRuはその後満州に渡りソロアルバムをリリースしたという言い伝えがあるものの、
実際の行方は知られていない。
稲葉一行を襲ったのは中澤、平家、市井、りんねらだったというが、
あさみには決して知らされることが無かった。
稲葉の葬儀は盛大に行われた。
あさみは粛々と弔辞を読み上げる中澤の横顔を睨み続けたが、
中澤は一度も目を合わせてはくれなかった。
そして、葬儀も終わり中澤は未だに会場を去ろうとしないあさみの肩に手を置くと、
ようやくあさみに目を合わせ、ゆっくりとうなずいた。
（お前には済まないことをしたかもしれない…だが、奴らのことは
すぐに忘れたほうがいい。そうしないと、これから先生き残ることは出来ん）
そんな中澤の無言の優しさが込められていたのだろう。
この日を境に飴と鞭の関係性で鞭だった平家は鬼へと進化した。
組織の秩序を維持する為に…
文久3年9月20日、あさみの内面を反映するかのように、
夜通しの雨が血塗られた京の街を濡らした。
組織の秩序を維持する為に…
文久3年9月20日、あさみの内面を反映するかのように、
夜通しの雨が血塗られた京の街を濡らした。
>>34
まあその3人は゛日本人なら誰でも知ってる゛クラスですからね。
稲葉の芹沢鴨と信田の新見錦福田の清川八郎あたりはそのままだと思いますけど、
あとの人達は主観も入ってますしあえて史実とは違う話にしてますから、
言わないことにします。
次の章は柴田様、並びにメロン記念日のメンバーみなさんに捧げます
まあその3人は゛日本人なら誰でも知ってる゛クラスですからね。
稲葉の芹沢鴨と信田の新見錦福田の清川八郎あたりはそのままだと思いますけど、
あとの人達は主観も入ってますしあえて史実とは違う話にしてますから、
言わないことにします。
次の章は柴田様、並びにメロン記念日のメンバーみなさんに捧げます
＝笛吹き柴田＝
稲葉ら水戸派一行を粛正し、隊士が大幅に減少してしまった浪士隊はこの頃、
正式に会津藩あずかりの身分となり、波浪組とその名を改めた。
それと同時に隊士の募集を行い、この時期多数の剣客が加入している。
その中には波浪組きっての巨漢隊士の大木衣吹や、
後に探索方として重要なポストにつくことになる斎藤瞳、
10年間和式の軍法を学んできたという末永真己らがいた。
その中の一人、柴田あゆみについての話を、ここですることにする。
正式に会津藩あずかりの身分となり、波浪組とその名を改めた。
それと同時に隊士の募集を行い、この時期多数の剣客が加入している。
その中には波浪組きっての巨漢隊士の大木衣吹や、
後に探索方として重要なポストにつくことになる斎藤瞳、
10年間和式の軍法を学んできたという末永真己らがいた。
その中の一人、柴田あゆみについての話を、ここですることにする。
45 ：し：2001/05/11(金) 02:13 ID:Qu7/WqMk
46 ：し：2001/05/11(金) 02:47 ID:0BPY5NJY
「武士道とは何と心得る！？」
波浪組加入試験において、最初にされる質問がこれであった。
この頃局中法度と呼ばれる隊規が中澤裕子によって施行された。
その内容は一言で言えば゛士道に背くべからず゛即ち、゛武士道に反した行動を禁ずる゛
ということだった。
具体的には脱隊の禁止、金策の禁止、訴訟の禁止、私闘の禁止である。
これに背いた者に与えられる罰則はなんと、例外無く゛死゛であった。
最低でも゛死゛最高でも゛死゛
この法度書きによって主に市井の介錯をもって多くの隊士が命を散らした。
波浪組加入試験において、最初にされる質問がこれであった。
この頃局中法度と呼ばれる隊規が中澤裕子によって施行された。
その内容は一言で言えば゛士道に背くべからず゛即ち、゛武士道に反した行動を禁ずる゛
ということだった。
具体的には脱隊の禁止、金策の禁止、訴訟の禁止、私闘の禁止である。
これに背いた者に与えられる罰則はなんと、例外無く゛死゛であった。
最低でも゛死゛最高でも゛死゛
この法度書きによって主に市井の介錯をもって多くの隊士が命を散らした。
「゛臨死゛の精神です」
入隊希望の、透き通るように色の白いその少女は答えた。
゛常に死ねること゛死も生も、自然界においては差が無い。
どちらも同価値である。そう考えなければ、いざという時に死ねない。
゛死゛に美学を持ってはならないのである。
…少なくとも、柴田はそう答えた。
「゛臨死゛か…よく言った！」
それでは次は立ち会いの試験だが…
そう言って中澤は一通り周りを見渡し、
「斉藤君、君が相手をして差し上げたまえ」
そう言った。
「わ…私ですか？」
斎藤瞳。確かな剣の腕を持ち、またバイタリティーにあふれるところを評価され、
また関西出身ということで地元言葉も堪能な為に重用され、
入隊して早々中澤、北上、平家に次ぐ助勤の地位を与えられた幹部の一員である。
入隊希望の、透き通るように色の白いその少女は答えた。
゛常に死ねること゛死も生も、自然界においては差が無い。
どちらも同価値である。そう考えなければ、いざという時に死ねない。
゛死゛に美学を持ってはならないのである。
…少なくとも、柴田はそう答えた。
「゛臨死゛か…よく言った！」
それでは次は立ち会いの試験だが…
そう言って中澤は一通り周りを見渡し、
「斉藤君、君が相手をして差し上げたまえ」
そう言った。
「わ…私ですか？」
斎藤瞳。確かな剣の腕を持ち、またバイタリティーにあふれるところを評価され、
また関西出身ということで地元言葉も堪能な為に重用され、
入隊して早々中澤、北上、平家に次ぐ助勤の地位を与えられた幹部の一員である。
「分かりました…」
素早く防具を装備すると、斎藤は竹刀を構えた。
柴田は中段に構えたまま動かない。
正統派の剣の使い手であるということが察せられる。
（中澤さんや、平家さん、市井さんらのような半自己流とは全く違う…）
防具で陰になった中からも柴田の瞳の輝きは充分に見える。
透き通るような、どこか冷え切ったような瞳をしている。
（す…吸い込まれるようだ）
つ…
ふと、柴田が動いたかと思うと、脳天に強烈な衝撃を受けた斎藤は昏倒した。
素早く防具を装備すると、斎藤は竹刀を構えた。
柴田は中段に構えたまま動かない。
正統派の剣の使い手であるということが察せられる。
（中澤さんや、平家さん、市井さんらのような半自己流とは全く違う…）
防具で陰になった中からも柴田の瞳の輝きは充分に見える。
透き通るような、どこか冷え切ったような瞳をしている。
（す…吸い込まれるようだ）
つ…
ふと、柴田が動いたかと思うと、脳天に強烈な衝撃を受けた斎藤は昏倒した。
「大丈夫かね…斎藤さん」
斎藤が目を覚まして最初に見たのは大谷雅恵の顔だった。
「だ…大丈夫。それより、一体あれは何だったんだ？
相手が動いたかと思うと次の瞬間には打ち込まれていた…」
「分からんな…ただ、市井君の3度の踏み込みが余りの早さのために
一つの音に聞こえるという…あれに匹敵する早さだった」
「市井さんに匹敵…か。ならば私じゃ逆立ちをしても勝てないわけだ」
「そうだな」
「ハハ…」
はっきり言う大谷に対して斎藤は怒らない。
大谷の皮肉屋な性分は短い付き合いとはいえよく理解しているからだ。
「…で、彼女は合格かね！？」
「文句無く、な。俺の隊に配属されることになったよ。
自分より弱い相手が上につくんじゃ納得いかないだろうってことでね」
「違いない」
そう言うと、斉藤は大谷と声を合わせて笑った。
斎藤が目を覚まして最初に見たのは大谷雅恵の顔だった。
「だ…大丈夫。それより、一体あれは何だったんだ？
相手が動いたかと思うと次の瞬間には打ち込まれていた…」
「分からんな…ただ、市井君の3度の踏み込みが余りの早さのために
一つの音に聞こえるという…あれに匹敵する早さだった」
「市井さんに匹敵…か。ならば私じゃ逆立ちをしても勝てないわけだ」
「そうだな」
「ハハ…」
はっきり言う大谷に対して斎藤は怒らない。
大谷の皮肉屋な性分は短い付き合いとはいえよく理解しているからだ。
「…で、彼女は合格かね！？」
「文句無く、な。俺の隊に配属されることになったよ。
自分より弱い相手が上につくんじゃ納得いかないだろうってことでね」
「違いない」
そう言うと、斉藤は大谷と声を合わせて笑った。
51 ：名無し娘。：2001/05/11(金) 21:14 ID:KosABFkM
――数日後
「臭いな…」
「どうしたね！？村田さん」
如才無い大谷は、近寄りがたい村田とも仲が悪くない。
「あの柴田とかいう女…」
「柴田さんが！？あのな、村田さん、
いくら柴田さんがかわいいからって妬んだらいかんぜ」
「ふん…ならばあいつが毎朝早く屯所を出て行っていることをどう説明する！？」
大谷は、全くの初耳だった。
波浪組の隊員には屯所での寝泊まりが義務づけられているが、
幹部クラスはその限りではない。
その為大谷は毎日自宅から出勤しているが、
村田はあえて屯所で寝泊まりしている。
「おれには家族なんてものはもとから無いのでな…」
それが村田の説明だった。
「それは本当の話か！？村田さん」
「自分の部下のことくらい全て把握しておけ。目を掛けている奴なら尚更だ。
もし、はっきりあいつが裏切り者だと分かったらおれはお前にも断わり無く
斬るつもりだった」
「…感謝するぜ、村田さん」
「気にするな。おれはおれ自身の正義に従っているまでだ」
「臭いな…」
「どうしたね！？村田さん」
如才無い大谷は、近寄りがたい村田とも仲が悪くない。
「あの柴田とかいう女…」
「柴田さんが！？あのな、村田さん、
いくら柴田さんがかわいいからって妬んだらいかんぜ」
「ふん…ならばあいつが毎朝早く屯所を出て行っていることをどう説明する！？」
大谷は、全くの初耳だった。
波浪組の隊員には屯所での寝泊まりが義務づけられているが、
幹部クラスはその限りではない。
その為大谷は毎日自宅から出勤しているが、
村田はあえて屯所で寝泊まりしている。
「おれには家族なんてものはもとから無いのでな…」
それが村田の説明だった。
「それは本当の話か！？村田さん」
「自分の部下のことくらい全て把握しておけ。目を掛けている奴なら尚更だ。
もし、はっきりあいつが裏切り者だと分かったらおれはお前にも断わり無く
斬るつもりだった」
「…感謝するぜ、村田さん」
「気にするな。おれはおれ自身の正義に従っているまでだ」
その翌朝、大谷は早く起きて柴田が寝泊まりしている部屋を張り込んだ。
かた…
軽い音がして引き戸が開いた。
（ち…本当だったか）
正直、その目で確かめるまでは信じたくはなかった。
だが、こっそり引き戸を開いて、部屋から顔を出したのは確かに柴田あゆみだったのだ。
あたりはまだ薄暗い。
柴田は草履を履くと屯所の門をくぐって出て行った。
（頼む…バカなことはしていてくれるなよ）
祈るような気持ちで後をつけた大谷だったが、
結局、腰を砕かれるような結果に終わった。
柴田は深い緑の森に入っていくと、手ごろな岩に腰を掛けて笛を吹き始めたのだ。
（な…なんだ？笛を吹くだけ？）
しかし、いつしか大谷はその笛の音に聞き入っている自分に気付いた。
郷愁を誘う音色だった。
（石川さんはどうしてるかな…）
大谷がそう思い始めた頃、笛の音色が止んだ。
かた…
軽い音がして引き戸が開いた。
（ち…本当だったか）
正直、その目で確かめるまでは信じたくはなかった。
だが、こっそり引き戸を開いて、部屋から顔を出したのは確かに柴田あゆみだったのだ。
あたりはまだ薄暗い。
柴田は草履を履くと屯所の門をくぐって出て行った。
（頼む…バカなことはしていてくれるなよ）
祈るような気持ちで後をつけた大谷だったが、
結局、腰を砕かれるような結果に終わった。
柴田は深い緑の森に入っていくと、手ごろな岩に腰を掛けて笛を吹き始めたのだ。
（な…なんだ？笛を吹くだけ？）
しかし、いつしか大谷はその笛の音に聞き入っている自分に気付いた。
郷愁を誘う音色だった。
（石川さんはどうしてるかな…）
大谷がそう思い始めた頃、笛の音色が止んだ。
「大谷さんですよね！？」
（げ…）
柴田の声に一瞬あたふたとしかけた大谷だったが、
（なんだ、俺がこそこそする必要なんか無いじゃないか）
そう思い直して物陰から姿を現した。
「よ…よく分かったもんだな。完璧な尾行だったはずなんだが…」
「屯所を出る頃からずっといつ声をかけようか迷ってたんですが…」
……
「…と、とにかく、だ。君は一体ここで毎朝何をしているのかね？」
「見ての通り…笛を吹いてるだけですが」
「毎朝こうなのかね？」
「今日はいつもと少し違います…どうやら、
大谷さんの気配を察して出てこないようですね」
柴田は周囲を見渡して何かを探すようなそぶりを見せる。
「小鳥か何かか？」
「いえ…ののちゃーーん！！出ておいで。このおばちゃんは私の友達だよ」
「おば…！？」
（げ…）
柴田の声に一瞬あたふたとしかけた大谷だったが、
（なんだ、俺がこそこそする必要なんか無いじゃないか）
そう思い直して物陰から姿を現した。
「よ…よく分かったもんだな。完璧な尾行だったはずなんだが…」
「屯所を出る頃からずっといつ声をかけようか迷ってたんですが…」
……
「…と、とにかく、だ。君は一体ここで毎朝何をしているのかね？」
「見ての通り…笛を吹いてるだけですが」
「毎朝こうなのかね？」
「今日はいつもと少し違います…どうやら、
大谷さんの気配を察して出てこないようですね」
柴田は周囲を見渡して何かを探すようなそぶりを見せる。
「小鳥か何かか？」
「いえ…ののちゃーーん！！出ておいで。このおばちゃんは私の友達だよ」
「おば…！？」
ガサッ…
大谷の背後の茂みが揺れる。
刀の柄に手を掛けて振り返ったその先には、
まだ10歳になるかならないか程度の汚れた服を着た
子供が立っていた。
見るからに、みなしごであると見て取れる。
「よう、柴田おねえちゃん、こいつが友達なのか？
友達は選んだほうがいいぜ。後で泣きたくなかったらな」
「こ…この餓鬼…」
流石の皮肉屋も平常心というわけにはいかなかった。
まだ19歳の自分がおばちゃん呼ばわりされた上に
10歳程度の子供に゛こいつ゛呼ばわりである。
大谷の背後の茂みが揺れる。
刀の柄に手を掛けて振り返ったその先には、
まだ10歳になるかならないか程度の汚れた服を着た
子供が立っていた。
見るからに、みなしごであると見て取れる。
「よう、柴田おねえちゃん、こいつが友達なのか？
友達は選んだほうがいいぜ。後で泣きたくなかったらな」
「こ…この餓鬼…」
流石の皮肉屋も平常心というわけにはいかなかった。
まだ19歳の自分がおばちゃん呼ばわりされた上に
10歳程度の子供に゛こいつ゛呼ばわりである。
「それに俺が見るところ、こいつはまだケツが青い」
「な…殴っていいかね？柴田さん」
「勘弁してあげて下さい。まだ子供なんですから」
「そ、そうか…そうだな。まだ子供だ、確かにそうだな、うん」
「おばちゃん許してくれるって。よかったね、ののちゃん」
「おい、俺にちゃん付けはやめろって言っただろ。何度言ったら分かる」
大谷の鉄拳が二人に同時に落ちたのはこの頃だった。
「…とにかく…朝に出歩くのは隊規違反なんだ。
もう止めておいたほうがいいな」
「年寄りはすぐ規則を持ち出すから閉口するよな」
「……」
なんとか押さえると大谷は続けた。
「俺以外の奴に見つかったらまさか切腹ってことはないだろうが、
謹慎くらいの処分は覚悟しなきゃならない」
「そうですね」
「そこでだ…この子を屯所に連れていったらどうだ？」
「な…殴っていいかね？柴田さん」
「勘弁してあげて下さい。まだ子供なんですから」
「そ、そうか…そうだな。まだ子供だ、確かにそうだな、うん」
「おばちゃん許してくれるって。よかったね、ののちゃん」
「おい、俺にちゃん付けはやめろって言っただろ。何度言ったら分かる」
大谷の鉄拳が二人に同時に落ちたのはこの頃だった。
「…とにかく…朝に出歩くのは隊規違反なんだ。
もう止めておいたほうがいいな」
「年寄りはすぐ規則を持ち出すから閉口するよな」
「……」
なんとか押さえると大谷は続けた。
「俺以外の奴に見つかったらまさか切腹ってことはないだろうが、
謹慎くらいの処分は覚悟しなきゃならない」
「そうですね」
「そこでだ…この子を屯所に連れていったらどうだ？」
「なんだ？俺を誘拐しても身の代金は出ないぞ。出す親がいないからな」
「…だから連れていってやるって言ってるんだろうが」
「屯所で世話をするってことですか？」
「俺は誰からも世話をしてもらうつもりなんかねえ」
子供のことは無視して話を続ける二人。
「屯所で世話ってのは無理だ…あそこは子供の教育によくない。
そこでだ…この子は俺の自宅で世話をして、柴田さんは毎朝俺の家に来て
この子に顔を見せてやりながらこれまでのようにここで笛を吹く…と。
心配するな。俺は中澤さんらから信用されてる」
庶民が1両2分もあれば1年間は普通に暮らせるという時代のこの頃、
波浪組幹部、大谷クラスの一ヶ月の給金は月に15両であった。
家政婦のようなものを雇う余裕はいくらでもある。
「そ…そこまでして頂くわけにはまいりません…」
「気にするなよ。…なんでだろうな…君と出遭ったのにはなにか、
運命の導きのようなものを感じているんだ」
「運命だと？顔に似合わず気色悪いことを言う奴だ」
「…だから連れていってやるって言ってるんだろうが」
「屯所で世話をするってことですか？」
「俺は誰からも世話をしてもらうつもりなんかねえ」
子供のことは無視して話を続ける二人。
「屯所で世話ってのは無理だ…あそこは子供の教育によくない。
そこでだ…この子は俺の自宅で世話をして、柴田さんは毎朝俺の家に来て
この子に顔を見せてやりながらこれまでのようにここで笛を吹く…と。
心配するな。俺は中澤さんらから信用されてる」
庶民が1両2分もあれば1年間は普通に暮らせるという時代のこの頃、
波浪組幹部、大谷クラスの一ヶ月の給金は月に15両であった。
家政婦のようなものを雇う余裕はいくらでもある。
「そ…そこまでして頂くわけにはまいりません…」
「気にするなよ。…なんでだろうな…君と出遭ったのにはなにか、
運命の導きのようなものを感じているんだ」
「運命だと？顔に似合わず気色悪いことを言う奴だ」
57 ：名無し娘。：2001/05/12(土) 21:11 ID:aUW2Zss.
……
とにかく、この通りのことを大谷は中澤らに提案し、
それは認められた。
（この子は、血で汚れた俺達と平和な世間を繋いでくれる架け橋だ）
とにかく、この通りのことを大谷は中澤らに提案し、
それは認められた。
（この子は、血で汚れた俺達と平和な世間を繋いでくれる架け橋だ）
――大谷が去った波浪組屯所局長室
「中澤さん、いいのか？あんなことを認めてしまって」
「大谷君は特別頼んで同行してもらった最初からの同志だ。
多少の融通は利かせてやらんとな」
大物ぶりを見せようとする中澤に、平家は内心で舌を打った。
ただでさえ最近末永真己という学者が隊に入って以来、
中澤は学問への傾倒を見せている。
いつのまにか一武将並みの身分になっていた中澤は、
自分に学が無いということをコンプレックスとして感じるようになっていたからだ。
（学問は悪いことでは無い…だが、中澤さんに学問が向いているとはとても思えんよ）
直接言えばいいことだが、恐らく中澤は聞く耳を持つまい。
ほぼ諦めていた。
（大きな間違いを犯してからでは遅いのだよ、中澤さん）
平家自身、
「学問など、自分の名前さえ書ければそれで充分だ」
表向きそう言って、ほとんど勉強らしい勉強をしたことがない。
「中澤さん、いいのか？あんなことを認めてしまって」
「大谷君は特別頼んで同行してもらった最初からの同志だ。
多少の融通は利かせてやらんとな」
大物ぶりを見せようとする中澤に、平家は内心で舌を打った。
ただでさえ最近末永真己という学者が隊に入って以来、
中澤は学問への傾倒を見せている。
いつのまにか一武将並みの身分になっていた中澤は、
自分に学が無いということをコンプレックスとして感じるようになっていたからだ。
（学問は悪いことでは無い…だが、中澤さんに学問が向いているとはとても思えんよ）
直接言えばいいことだが、恐らく中澤は聞く耳を持つまい。
ほぼ諦めていた。
（大きな間違いを犯してからでは遅いのだよ、中澤さん）
平家自身、
「学問など、自分の名前さえ書ければそれで充分だ」
表向きそう言って、ほとんど勉強らしい勉強をしたことがない。
「大谷」
「うわっ！…な、なんだ村田さんか、珍しいな。そっちから話し掛けてくるなんて」
「最近、柴田に目を掛けてやっているらしいな」
「そうだが…それが何か？」
いつも思わせぶりな話し方をする村田。
雑談をする時にそうならば楽しいだけだが、
柴田の話をしている時にまでそうだと、なぜか腹が立った。
「あいつは入隊試験の時、゛士道とは臨死である゛と答えたらしい」
「ああ、知っているとも」
「ならば、いい」
「そ…それだけか！？」
これだけ言って去った村田の細長い背中を見ながら、
なぜか大谷は胸騒ぎを感じていた。
「うわっ！…な、なんだ村田さんか、珍しいな。そっちから話し掛けてくるなんて」
「最近、柴田に目を掛けてやっているらしいな」
「そうだが…それが何か？」
いつも思わせぶりな話し方をする村田。
雑談をする時にそうならば楽しいだけだが、
柴田の話をしている時にまでそうだと、なぜか腹が立った。
「あいつは入隊試験の時、゛士道とは臨死である゛と答えたらしい」
「ああ、知っているとも」
「ならば、いい」
「そ…それだけか！？」
これだけ言って去った村田の細長い背中を見ながら、
なぜか大谷は胸騒ぎを感じていた。
この頃、一つの騒ぎがあった。
長州藩の志士が、何食わぬ顔をして波浪組の入隊試験を受け、
中澤はそのまま正体に気付かず入隊させてしまったのである。
無論、彼女らの目的は諜報活動だった。
最終的には内部から波浪組を突き崩すつもりである。
しかし、この計画は諜報方の斉藤瞳によって見破られた。
長州藩の志士はChee'sと呼ばれる上田愛美、藤岡麻美ら3人組で、
大谷を飲みに誘い、したたかに酔わせたところでこれを斬殺しようと考えた。
しかし、大谷が酔って、3人が不審な動きを見せたところを見計らって
柴田、斉藤、村田らが合流し、逆に3人に酒を勧めて泥酔させた。
この日は何ごとも無かったが、
翌日、この3人はそれぞれの場所で斬り捨てられた。
しかし、問題があったのは上田愛美を狙った大谷、柴田の2人組だ。
まず、大谷が柴田に上田を斬るように命じたものの、
柴田は上田の気迫の前に逃げ腰になり上田に押し迫られ、斬られそうになってしまう。
危ないところを大谷が救出したが、
「どうしたんだ？柴田君…君らしくもない」
「いえ…少し疲れているようです」
大谷ははっとした。
長州藩の志士が、何食わぬ顔をして波浪組の入隊試験を受け、
中澤はそのまま正体に気付かず入隊させてしまったのである。
無論、彼女らの目的は諜報活動だった。
最終的には内部から波浪組を突き崩すつもりである。
しかし、この計画は諜報方の斉藤瞳によって見破られた。
長州藩の志士はChee'sと呼ばれる上田愛美、藤岡麻美ら3人組で、
大谷を飲みに誘い、したたかに酔わせたところでこれを斬殺しようと考えた。
しかし、大谷が酔って、3人が不審な動きを見せたところを見計らって
柴田、斉藤、村田らが合流し、逆に3人に酒を勧めて泥酔させた。
この日は何ごとも無かったが、
翌日、この3人はそれぞれの場所で斬り捨てられた。
しかし、問題があったのは上田愛美を狙った大谷、柴田の2人組だ。
まず、大谷が柴田に上田を斬るように命じたものの、
柴田は上田の気迫の前に逃げ腰になり上田に押し迫られ、斬られそうになってしまう。
危ないところを大谷が救出したが、
「どうしたんだ？柴田君…君らしくもない」
「いえ…少し疲れているようです」
大谷ははっとした。
（まさか村田さんが言っていたのは…）
子供という大事なものが出来たせいで、この世への未練が出来てしまったのか。
柴田は命が惜しくなってしまったのではないか。
（いや、まさか柴田さんに限って…）
自らにそう思わせることで忘れようとする大谷だったが、
村田の自分を見据える両目が脳裏から消えなかった。
゛士道に背いた者は切腹゛
勿論敵前逃亡は即切腹である。
大谷もそれを忘れてはいない。
数日後、事件は起こった。
子供という大事なものが出来たせいで、この世への未練が出来てしまったのか。
柴田は命が惜しくなってしまったのではないか。
（いや、まさか柴田さんに限って…）
自らにそう思わせることで忘れようとする大谷だったが、
村田の自分を見据える両目が脳裏から消えなかった。
゛士道に背いた者は切腹゛
勿論敵前逃亡は即切腹である。
大谷もそれを忘れてはいない。
数日後、事件は起こった。
その夜大谷、柴田を始めとした一団が京の街を巡回していると、
物陰から斬りつけてきた一団があった。
「何者だ！我々が波浪組と知ってのことか！」
そう言いながらも゛先駆け先生゛の異名を持つ大谷は素早く刀を抜くと、
闇に向かって斬りつけた。
次第に暗闇に目もなれ、周囲の状況が分かってきた。
「柴田さん！大丈夫か！」
「ええ！無事です！」
どうやら、黒い布を顔に巻きつけた女が敵の頭目であるらしい。
「貴様は何者だ！名を名乗れ！」
「貴様らに名乗る名は無い！私は貴様らに殺されたChee'sの従姉だ！」
「長州の賊！私が相手になるぞ！」
頭目の前に汚名返上とばかりに立ち塞がったのは、柴田あゆみだった。
「柴田！どけ！そいつの相手は私だ！」
「このあいだの汚名を返上させて下さい！」
しかし、言葉とは裏腹に柴田は逃げ腰になっている。
気迫のこもった頭目の激しい打ち込みに次第に劣勢になった柴田は、
ついに相手に背中を見せて逃げ出した。
しかも悪いことに、柴田は背中を斬りつけられた。
致命傷では無かったものの、背中を薄く切られたこの傷は敵前逃亡をはかったという、
何よりの証拠だった。
程無く、すさまじい気迫と共に頭目は大谷によって一刀のもとに斬って捨てられた。
覆面を取ると、その頭目は下川みくにという長州藩の志士だった。
物陰から斬りつけてきた一団があった。
「何者だ！我々が波浪組と知ってのことか！」
そう言いながらも゛先駆け先生゛の異名を持つ大谷は素早く刀を抜くと、
闇に向かって斬りつけた。
次第に暗闇に目もなれ、周囲の状況が分かってきた。
「柴田さん！大丈夫か！」
「ええ！無事です！」
どうやら、黒い布を顔に巻きつけた女が敵の頭目であるらしい。
「貴様は何者だ！名を名乗れ！」
「貴様らに名乗る名は無い！私は貴様らに殺されたChee'sの従姉だ！」
「長州の賊！私が相手になるぞ！」
頭目の前に汚名返上とばかりに立ち塞がったのは、柴田あゆみだった。
「柴田！どけ！そいつの相手は私だ！」
「このあいだの汚名を返上させて下さい！」
しかし、言葉とは裏腹に柴田は逃げ腰になっている。
気迫のこもった頭目の激しい打ち込みに次第に劣勢になった柴田は、
ついに相手に背中を見せて逃げ出した。
しかも悪いことに、柴田は背中を斬りつけられた。
致命傷では無かったものの、背中を薄く切られたこの傷は敵前逃亡をはかったという、
何よりの証拠だった。
程無く、すさまじい気迫と共に頭目は大谷によって一刀のもとに斬って捨てられた。
覆面を取ると、その頭目は下川みくにという長州藩の志士だった。
――帰還後、波浪組屯所局長室
「大谷君…分かっているね」
「士道不心得は、死だ」
「ええ…分かっていますよ。分かってます」
ほとんど自暴自棄に大谷は答えた。
「執行の一切は、君に任せる」
「……助かります……」
そうだけ言って部屋を出ようとした大谷の背中に、
「情をかけて逃がしてやろうとしても無駄だぞ。必ず追跡して…殺す」
という平家の言葉が刺さった。
「！！」
大谷は答えず、部屋を出て行った。
「…中澤さん、あの時確かに私は言ったはずだ…本当に認めていいのか！？と…」
平家の声が震えている。
この頃の平家はまだ仲間の血が流れるということに慣れてはいなかった…
本当は、最期まで慣れることは無かったのかもしれない。
「す…」
（すまん）
と言いかけた中澤を、平家は制した。
「謝るのは、最期が来たときでいい」
「大谷君…分かっているね」
「士道不心得は、死だ」
「ええ…分かっていますよ。分かってます」
ほとんど自暴自棄に大谷は答えた。
「執行の一切は、君に任せる」
「……助かります……」
そうだけ言って部屋を出ようとした大谷の背中に、
「情をかけて逃がしてやろうとしても無駄だぞ。必ず追跡して…殺す」
という平家の言葉が刺さった。
「！！」
大谷は答えず、部屋を出て行った。
「…中澤さん、あの時確かに私は言ったはずだ…本当に認めていいのか！？と…」
平家の声が震えている。
この頃の平家はまだ仲間の血が流れるということに慣れてはいなかった…
本当は、最期まで慣れることは無かったのかもしれない。
「す…」
（すまん）
と言いかけた中澤を、平家は制した。
「謝るのは、最期が来たときでいい」
翌朝、いつものように柴田は大谷の家を訪ねた。
「よう、柴田おねえちゃん、今日も早いな」
柴田は笑っていつものように出迎えてくれた子供の頭を撫でると、
「ののちゃん、今日は大谷さんとふたりっきりでお話があるの。
だから、ののちゃんはこの部屋でちゃんと待ってるんだよ」
「柴田さん…」
子供の頭に乗せられた柴田の手が震えている。
子供もそれに気付いていないはずは無いだろう。
「分かったよ。しょうがねえな、どうせ明日また来るんだろ！？」
柴田に背を向けた子供だったが、逆に大谷の方を向く格好になっている。
しかし、下を向いていてその表情は伺えない。
「明日また来るんだろ！」
そう言った時、子供の目から光るものがこぼれたように見えた。
流石の柴田も、子供の勘をあざむくことは出来なかった。
しかし柴田は答えず、大谷とともに無言で、
始めて3人が一緒になった森に向かった。
あの時のように岩に腰を掛け、笛を吹き始める柴田。
とても美しく、そして楽しい音色だった。
それが止むと白刃が閃き、笛は音も無く土の上に落ちた。
そして、二度と美しい音色を奏でることはなかった。
文久3年11月2日、雲一つない青空が広がっていた。
「よう、柴田おねえちゃん、今日も早いな」
柴田は笑っていつものように出迎えてくれた子供の頭を撫でると、
「ののちゃん、今日は大谷さんとふたりっきりでお話があるの。
だから、ののちゃんはこの部屋でちゃんと待ってるんだよ」
「柴田さん…」
子供の頭に乗せられた柴田の手が震えている。
子供もそれに気付いていないはずは無いだろう。
「分かったよ。しょうがねえな、どうせ明日また来るんだろ！？」
柴田に背を向けた子供だったが、逆に大谷の方を向く格好になっている。
しかし、下を向いていてその表情は伺えない。
「明日また来るんだろ！」
そう言った時、子供の目から光るものがこぼれたように見えた。
流石の柴田も、子供の勘をあざむくことは出来なかった。
しかし柴田は答えず、大谷とともに無言で、
始めて3人が一緒になった森に向かった。
あの時のように岩に腰を掛け、笛を吹き始める柴田。
とても美しく、そして楽しい音色だった。
それが止むと白刃が閃き、笛は音も無く土の上に落ちた。
そして、二度と美しい音色を奏でることはなかった。
文久3年11月2日、雲一つない青空が広がっていた。
この当時の波浪組役員表
【局長】
稲葉貴子●
中澤裕子
信田美帆●
【副長】
北上アミ
平家みちよ
【助勤】
市井紗耶香
あさみ
りんね
大谷雅恵
前田有紀
三佳千夏●
RuRu●
村田めぐみ
斎藤瞳
等
【調役並監察】
大木衣吹
等
まだ後に出来る一番隊、二番隊といった組織は出来ていない。
また、この役員表は末永真己が加入する少し前に作成されたものであるため
彼女の名は無い。
●は既に死亡、または脱隊している者
【局長】
稲葉貴子●
中澤裕子
信田美帆●
【副長】
北上アミ
平家みちよ
【助勤】
市井紗耶香
あさみ
りんね
大谷雅恵
前田有紀
三佳千夏●
RuRu●
村田めぐみ
斎藤瞳
等
【調役並監察】
大木衣吹
等
まだ後に出来る一番隊、二番隊といった組織は出来ていない。
また、この役員表は末永真己が加入する少し前に作成されたものであるため
彼女の名は無い。
●は既に死亡、または脱隊している者
66 ：宣伝１：2001/05/13(日) 01:52 ID:oZj.LpTU
＝池田屋事件（前編）＝
68 ：のの≦りか：2001/05/13(日) 02:11 ID:hRcUbdaM
( ＾▽＾）＜ここは「安倍なつみ」のエロというスレですよ、みなさん♪
結構このスレ好きなんだが・・・
゛禁門の政変゛以来、京都の街を牛耳っていた長州藩士が一掃されてからというもの
波浪組の仕事も以前と比較して減少してきてはいたが、
完全に長州勢を虱潰しという訳には行かず、
波浪組は有事に備え日々稽古漬けの毎日を送っていた。
中でも、市井のしごきはすさまじい。
「そうじゃない！！もっとぎゅっと握って、こうだ！！」
天才にありがちなことだが、市井は教え方が下手だった。
それに加えて短気と来ているものだから、始末におえない。
一部の隊士の間では、平家以上に恐れられる存在ですらあった。
練習を抜け出して子供と遊んでいる市井とは、
とてもではないが同一人物には見えない。
「げほっ…げほっ……」
そして唐突に咳が止まらなくなっては、一休みする。
「市井君、休んだ方がよさそうだ」
北上に促されて道場の端に腰を下ろす市井だったが、
その時間がもったいなくてしようがない。
「外に出てきます」
波浪組の仕事も以前と比較して減少してきてはいたが、
完全に長州勢を虱潰しという訳には行かず、
波浪組は有事に備え日々稽古漬けの毎日を送っていた。
中でも、市井のしごきはすさまじい。
「そうじゃない！！もっとぎゅっと握って、こうだ！！」
天才にありがちなことだが、市井は教え方が下手だった。
それに加えて短気と来ているものだから、始末におえない。
一部の隊士の間では、平家以上に恐れられる存在ですらあった。
練習を抜け出して子供と遊んでいる市井とは、
とてもではないが同一人物には見えない。
「げほっ…げほっ……」
そして唐突に咳が止まらなくなっては、一休みする。
「市井君、休んだ方がよさそうだ」
北上に促されて道場の端に腰を下ろす市井だったが、
その時間がもったいなくてしようがない。
「外に出てきます」
「またか…」
前田などは息をこぼすが、他の隊士にとってはもういつもの光景だった。
「子供と遊びに行かれたんだな」
市井の行動には、常に主体性というものが無い。
中澤らとともに京に登ってきたのも中澤達が行くからという理由だったし、
言われるがまま、これまで何人もの人を斬った。
子供と遊ぶ時ですら、子供と遊んであげているというより、
子供に遊んでもらっているといった調子だった。
前田などは息をこぼすが、他の隊士にとってはもういつもの光景だった。
「子供と遊びに行かれたんだな」
市井の行動には、常に主体性というものが無い。
中澤らとともに京に登ってきたのも中澤達が行くからという理由だったし、
言われるがまま、これまで何人もの人を斬った。
子供と遊ぶ時ですら、子供と遊んであげているというより、
子供に遊んでもらっているといった調子だった。
そんな相変わらずの調子で子供と戯れている市井を遠巻きに眺めている者がいた。
はたけ
中澤や平家、市井らとは旧知の間柄である。
「市井君ではないか！？」
「あ、はたけさんじゃないですか。どうしたんです？
いつ京都にいらしたんですか？」
子供とちゃんばら遊びをしていた市井がはたけに視線を移す。
「あいた！」
隙を突かれて打ち込まれた市井を見て苦笑しながらも
はたけは話し始めた。
「ふむ…波浪組という浪士隊が京都で勇名を馳せているという。
そしてその局長の名が中澤裕子と言うではないか…
同姓同名かと疑ったが、足を運んでみて正解だったようだ」
「いたたた…それで、中澤さんに御用なんですか？」
「いや、余り私には時間が無い。そうだ、あの蕎麦屋でどうかね？」
「あ、いいですね」
子供たちに、
「また遊んでね」
そう言うと市井ははたけと並んで歩き出した。
はたけ
中澤や平家、市井らとは旧知の間柄である。
「市井君ではないか！？」
「あ、はたけさんじゃないですか。どうしたんです？
いつ京都にいらしたんですか？」
子供とちゃんばら遊びをしていた市井がはたけに視線を移す。
「あいた！」
隙を突かれて打ち込まれた市井を見て苦笑しながらも
はたけは話し始めた。
「ふむ…波浪組という浪士隊が京都で勇名を馳せているという。
そしてその局長の名が中澤裕子と言うではないか…
同姓同名かと疑ったが、足を運んでみて正解だったようだ」
「いたたた…それで、中澤さんに御用なんですか？」
「いや、余り私には時間が無い。そうだ、あの蕎麦屋でどうかね？」
「あ、いいですね」
子供たちに、
「また遊んでね」
そう言うと市井ははたけと並んで歩き出した。
暖簾をくぐると、はたけは深刻な顔を見せた。
「最近、京に多数の長州藩士が潜入している」
「え！？またですか？斬っても斬っても出てくるなぁ
まるで竹の子みたいだ」
市井の喩えに苦笑すると、はたけは運ばれてきた蕎麦をすすりながら言った。
「くれぐれも、俺が言ったということにはしてくれるなよ」
「え？なぜ？」
「睨まれたくないんだよ。俺は君らのように強くないのでね」
「分かりました。情報のことは中澤さんたちと話し合ってみますよ」
はたけは代金を置いて席を立つと、そそくさと店を出て行った。
そして、二度と市井らと再会することはなかったのである。
「なるほどな…はたけさんの言うことならば信用出来るだろう」
平家の言葉を受けて中澤も肯いた。
「忌々しいことですなぁ…全く、斬ろうが捕まえようが際限無く現われる。
薩摩や土佐がかわいく見えますよ」
最近中澤に重用されている末永真己が言った。
「探索方に探らせましょう」
末永の提案に中澤も平家も肯いた。
「最近、京に多数の長州藩士が潜入している」
「え！？またですか？斬っても斬っても出てくるなぁ
まるで竹の子みたいだ」
市井の喩えに苦笑すると、はたけは運ばれてきた蕎麦をすすりながら言った。
「くれぐれも、俺が言ったということにはしてくれるなよ」
「え？なぜ？」
「睨まれたくないんだよ。俺は君らのように強くないのでね」
「分かりました。情報のことは中澤さんたちと話し合ってみますよ」
はたけは代金を置いて席を立つと、そそくさと店を出て行った。
そして、二度と市井らと再会することはなかったのである。
「なるほどな…はたけさんの言うことならば信用出来るだろう」
平家の言葉を受けて中澤も肯いた。
「忌々しいことですなぁ…全く、斬ろうが捕まえようが際限無く現われる。
薩摩や土佐がかわいく見えますよ」
最近中澤に重用されている末永真己が言った。
「探索方に探らせましょう」
末永の提案に中澤も平家も肯いた。
探索方とは斎藤瞳や大木衣吹らのことで、諜報活動を主な任務としている。
「任せて下さい」
そう言って屯所を出て行ってわずか2日後には、長州藩士の潜伏先を突きとめた。
この時期の波浪組の諜報機関はかなり優秀だったと言ってよい。
そしてその中心となる人物が、斎藤瞳であった。
諸士取締役兼監察役というポストに就いている。
武器商人の坂下知里子が怪しいという。
数人の長州藩士らしき人物の出入りを確認したとのことだった。
その日のうちに、近藤らは坂下の武器屋に踏み込んだ。
そして長州藩から運び込んだと見られる膨大な量の刀や槍、
弾薬を発見した為、坂下を捕縛して屯所に連れ帰った。
「任せて下さい」
そう言って屯所を出て行ってわずか2日後には、長州藩士の潜伏先を突きとめた。
この時期の波浪組の諜報機関はかなり優秀だったと言ってよい。
そしてその中心となる人物が、斎藤瞳であった。
諸士取締役兼監察役というポストに就いている。
武器商人の坂下知里子が怪しいという。
数人の長州藩士らしき人物の出入りを確認したとのことだった。
その日のうちに、近藤らは坂下の武器屋に踏み込んだ。
そして長州藩から運び込んだと見られる膨大な量の刀や槍、
弾薬を発見した為、坂下を捕縛して屯所に連れ帰った。
坂下はよく拷問に耐えた。
最初に拷問を担当したりんねなどは、坂下が吐く前に根を上げてしまったほどだった。
「駄目だ、あの坂下って人、何をやっても吐きそうにないぜ
あさみさん、代わってくれよ」
「私には向いてないよ、そういうの」
2人の背後から声がした。
「吐かないのは、責めが生ぬるいからだ」
平家だった。
「拷問とはこうやるものだ。よく見ておくがいい」
そう言うと、平家はりんねとあさみが見学している前で坂下の
バッチリ チリ足に五寸釘を打ち込んだ。
一本だけではない。休み無く連続して4本打ち込んでみせた。
「うわあぁぁぁぁあ…・・！！」
坂下が苦悶の表情を浮かべるのにも構わず、
続いて平家は打ち込んだ釘に沿って高熱のロウを流し込んだ。
「ぐぁああ……こ…殺せ！」
それでも吐こうとはしなかった坂下だったが、
もともと体が強い方ではない。
ついに意識が朦朧とした坂下は、無意識の内に口走っていた。
「池田屋で長州藩士らの決起集会がある」
「…とまあこの通りだ、分かったな、りんね君、あさみ君」
平然とした顔を向ける平家を、化け物を見るような表情で見つめる2人だった。
坂下は牢獄で数日中に一気に衰弱し、そのまま死んだ。
最初に拷問を担当したりんねなどは、坂下が吐く前に根を上げてしまったほどだった。
「駄目だ、あの坂下って人、何をやっても吐きそうにないぜ
あさみさん、代わってくれよ」
「私には向いてないよ、そういうの」
2人の背後から声がした。
「吐かないのは、責めが生ぬるいからだ」
平家だった。
「拷問とはこうやるものだ。よく見ておくがいい」
そう言うと、平家はりんねとあさみが見学している前で坂下の
バッチリ チリ足に五寸釘を打ち込んだ。
一本だけではない。休み無く連続して4本打ち込んでみせた。
「うわあぁぁぁぁあ…・・！！」
坂下が苦悶の表情を浮かべるのにも構わず、
続いて平家は打ち込んだ釘に沿って高熱のロウを流し込んだ。
「ぐぁああ……こ…殺せ！」
それでも吐こうとはしなかった坂下だったが、
もともと体が強い方ではない。
ついに意識が朦朧とした坂下は、無意識の内に口走っていた。
「池田屋で長州藩士らの決起集会がある」
「…とまあこの通りだ、分かったな、りんね君、あさみ君」
平然とした顔を向ける平家を、化け物を見るような表情で見つめる2人だった。
坂下は牢獄で数日中に一気に衰弱し、そのまま死んだ。
早速、斎藤は薬屋に化けて大阪に飛んだ。
薬の行商のために旅館゛池田屋゛に長期滞在するという旨の推薦状を、
大阪の船問屋から貰う為だ。
かくして一点の疑いも無く薬屋に化けた斎藤は、
池田屋への潜伏を始めた。
「長州藩士の潜伏を確認しました」
斎藤から中澤に連絡があったのは元治元年6月4日のことである。
薬の行商のために旅館゛池田屋゛に長期滞在するという旨の推薦状を、
大阪の船問屋から貰う為だ。
かくして一点の疑いも無く薬屋に化けた斎藤は、
池田屋への潜伏を始めた。
「長州藩士の潜伏を確認しました」
斎藤から中澤に連絡があったのは元治元年6月4日のことである。
天然波浪流とは、自分達の土地は自分で守ろうという気概を持った
農民の間に広まった田舎剣術の一派である。
洗練された武家の剣術と比較して゛芋剣術゛などと揶揄されることもあるが、
その反面様式美に染まりきった武家の剣術とは違い、
質実剛健、実力第一主義の剣だった。
登場する主な流派
天然波浪流
中澤裕子、平家みちよ、市井紗耶香、村田めぐみなど
北波一刀流
大谷雅恵、北上アミ、石川梨華（未登場）、後藤真希（未登場）、福田明日香など
波浪無念流
稲葉貴子、あさみなど
波浪院流槍術
りんねなど
農民の間に広まった田舎剣術の一派である。
洗練された武家の剣術と比較して゛芋剣術゛などと揶揄されることもあるが、
その反面様式美に染まりきった武家の剣術とは違い、
質実剛健、実力第一主義の剣だった。
登場する主な流派
天然波浪流
中澤裕子、平家みちよ、市井紗耶香、村田めぐみなど
北波一刀流
大谷雅恵、北上アミ、石川梨華（未登場）、後藤真希（未登場）、福田明日香など
波浪無念流
稲葉貴子、あさみなど
波浪院流槍術
りんねなど
78 ：宣伝2：2001/05/13(日) 21:29 ID:MRqqjFeI
次章は池田屋事件後編となります
なぜ前編後編に分けたかといえば
それは私の気分によるところが大きいと言うことが出来ます
後編に出演予定のモーニング娘。メンバーは、
石黒彩、後藤真希、矢口真里、加護亜依となっております
これからの流れ
＝池田屋事件（後編）＝
＝禁門の乱＝
＝北上アミ＝
＝末永真己＝
＝石川梨華＝
＝後藤真希、そして吉澤ひとみ＝
＝油小路に石川梨華（尊王攘夷。）＝
＝波浪＝
これ以降の予定は未定です
なぜ前編後編に分けたかといえば
それは私の気分によるところが大きいと言うことが出来ます
後編に出演予定のモーニング娘。メンバーは、
石黒彩、後藤真希、矢口真里、加護亜依となっております
これからの流れ
＝池田屋事件（後編）＝
＝禁門の乱＝
＝北上アミ＝
＝末永真己＝
＝石川梨華＝
＝後藤真希、そして吉澤ひとみ＝
＝油小路に石川梨華（尊王攘夷。）＝
＝波浪＝
これ以降の予定は未定です
＝池田屋騒動（後編）＝
「流石斉藤さんだな。剣はいまいちだが隠密をやらせたら誰も敵わん」
正直に誉めることをしない大谷の言葉を片耳で聞きながら、
あさみは胸の高鳴りを必死で堪えていた。
（初めての本格的な討ち入りだ）
長州の決起集会はこの日、夕方日が暮れてから行われることになっている。
そして、その集会に参加する長州藩士の代表格は石黒彩。
矢口真里、保田圭と並び長州藩志士三傑の一人と称され、
若いながらも多いにその才を嘱望された人物であった。
維新後、数少ない長州藩志士の生き残りの一人は、
「長州藩士の中で、最も傑出していた人物を一人選ぶとすれば誰か」
という質問に対し、
「石黒彩」
そう即答したという。その長州藩士は更に続けた。
「もし明治政府に石黒がいたら、彼女は不動の総理大臣になっていただろう。
矢口は万事に優れ、保田には奇智がある」
そう言わしめた秀才である。
正直に誉めることをしない大谷の言葉を片耳で聞きながら、
あさみは胸の高鳴りを必死で堪えていた。
（初めての本格的な討ち入りだ）
長州の決起集会はこの日、夕方日が暮れてから行われることになっている。
そして、その集会に参加する長州藩士の代表格は石黒彩。
矢口真里、保田圭と並び長州藩志士三傑の一人と称され、
若いながらも多いにその才を嘱望された人物であった。
維新後、数少ない長州藩志士の生き残りの一人は、
「長州藩士の中で、最も傑出していた人物を一人選ぶとすれば誰か」
という質問に対し、
「石黒彩」
そう即答したという。その長州藩士は更に続けた。
「もし明治政府に石黒がいたら、彼女は不動の総理大臣になっていただろう。
矢口は万事に優れ、保田には奇智がある」
そう言わしめた秀才である。
「む…またか…」
石黒の髪を結う紐が再び切れた。
これでこの日3度目であった。
「縁起でもない…集会は延期にしたほうが良いのではないか！？」
「ははは…君らしくもない。運命なんてものは、自分で切り開くものさ…
それより君、今日を境に日本は変わるぞ。いや、この僕が変えてみせる」
まるで子供のように目を輝かせる石黒。
彼女の目前には、確かに維新後の日本というものが見えていたのかもしれない。
石黒の髪を結う紐が再び切れた。
これでこの日3度目であった。
「縁起でもない…集会は延期にしたほうが良いのではないか！？」
「ははは…君らしくもない。運命なんてものは、自分で切り開くものさ…
それより君、今日を境に日本は変わるぞ。いや、この僕が変えてみせる」
まるで子供のように目を輝かせる石黒。
彼女の目前には、確かに維新後の日本というものが見えていたのかもしれない。
「どうしはったんどす？」
斉藤は、長州藩士の集会会場の正面の部屋に宿泊していた。
まだ集会の時間には早いはずであるのに、会場を覗きに来た者がいた。
その者に、京言葉で話かける斉藤。
「いや、今日ここで何か集会があると聞いたものですから」
「始まるのは夕方あたりかららしいどすえ」
「そ、そうですか。では時を改めて」
出直すといって帰って行くその小さな背中を鋭い瞳で見つめてから、
斉藤は仲良くなっておいた女中に訪ねた。
「今の人は誰か？」
「矢口真里はんとかいって、なんやら有名人らしいですよ」
（矢口真里…！長州の超大物ではないか…奴も出席するとはな）
「石黒さん…今は駄目だ…今日の集会は完全に嗅ぎ付けられている」
矢口は、この日の石黒の決起をどうにか止めようと奔走していた最中である。
斉藤は、長州藩士の集会会場の正面の部屋に宿泊していた。
まだ集会の時間には早いはずであるのに、会場を覗きに来た者がいた。
その者に、京言葉で話かける斉藤。
「いや、今日ここで何か集会があると聞いたものですから」
「始まるのは夕方あたりかららしいどすえ」
「そ、そうですか。では時を改めて」
出直すといって帰って行くその小さな背中を鋭い瞳で見つめてから、
斉藤は仲良くなっておいた女中に訪ねた。
「今の人は誰か？」
「矢口真里はんとかいって、なんやら有名人らしいですよ」
（矢口真里…！長州の超大物ではないか…奴も出席するとはな）
「石黒さん…今は駄目だ…今日の集会は完全に嗅ぎ付けられている」
矢口は、この日の石黒の決起をどうにか止めようと奔走していた最中である。
矢口の願いも空しく、池田屋には日も暮れる前から長州藩士らがぽつぽつと集まって来た。
（あれが、石黒彩か…）
人相書きで見たままの顔をしていた。
右の小鼻に、銀色の点がある。
人が集まると同時に、女中が膳を運び始めた。
「私にも手伝わせてえな」
何気なく女中の手伝いを始める斉藤。そしてふと、
「こんな長いものがあったら邪魔でかないまへんわ」
そう言って長州藩士らから刀を取り上げると3～4本づつ紐でひと括りにしては
隣の部屋に運び、入れ替わるように膳を運び入れた。
（上手くいったものだ）
長州藩士には警戒心が欠けていたと言わざるを得ない。
このことが彼女らの明暗を分けた。
「お晩でーっす！」
土佐藩士の加護亜依がやってきた頃、すでに人数は整っていた。
さほど広くない会場に30名ほどの志士が、一堂に会した。
（上手くいく）
斉藤はそう思っていた。
（あれが、石黒彩か…）
人相書きで見たままの顔をしていた。
右の小鼻に、銀色の点がある。
人が集まると同時に、女中が膳を運び始めた。
「私にも手伝わせてえな」
何気なく女中の手伝いを始める斉藤。そしてふと、
「こんな長いものがあったら邪魔でかないまへんわ」
そう言って長州藩士らから刀を取り上げると3～4本づつ紐でひと括りにしては
隣の部屋に運び、入れ替わるように膳を運び入れた。
（上手くいったものだ）
長州藩士には警戒心が欠けていたと言わざるを得ない。
このことが彼女らの明暗を分けた。
「お晩でーっす！」
土佐藩士の加護亜依がやってきた頃、すでに人数は整っていた。
さほど広くない会場に30名ほどの志士が、一堂に会した。
（上手くいく）
斉藤はそう思っていた。
「そ、そろそろ、酒宴は始まった頃かな」
「だろうなぁ」
意外に冷静なりんねを理解出来ないあさみ。
「なんでそんなに冷静でいられる？」
「まさか、天才剣士あさみさんともあろうものが緊張しているのか？」
「…当然だろう…いくら酔っているとはいえ、今回は剣の修行もした
立派な志士が相手なんだ。これまでのような浪人相手とは訳が違う」
この時、不思議な情報が波浪組陣営に流れた。
「集会の会場が四国屋に変更された」
池田屋とは全くの別方向にある旅篭である。
「な…なんだと？」
「くそ…まさか池田屋が擬態か！？小癪な真似をしてくれる…
斉藤君からの新たな報告は届いていないか！？」
「いえ…ありません！」
「末永さん、あんたはどう考える！？」
このところ、中澤は末永を重用するようになっている。
「もはや両方を確かめる時間はありません。戦力を二手に分けてそれぞれ池田屋、
四国屋に向かわせ、擬態だった方は全速力をもって引き返し、
集まっているほうに合流することにしましょう」
「うむ…この戦力を二分するのは厳しいが…それしかなさそうだな、北上さん」
「…そうですね」
北上の同意も受け、
「よし！決まった！」
池田屋には中澤、市井、あさみ、大谷、゛祐ちゃんの子供゛
と呼ばれる若手隊士のわずか5人が向かうこととなり、
残りの戦力30名ほどを四国屋に向かわせることに決定した。
「だろうなぁ」
意外に冷静なりんねを理解出来ないあさみ。
「なんでそんなに冷静でいられる？」
「まさか、天才剣士あさみさんともあろうものが緊張しているのか？」
「…当然だろう…いくら酔っているとはいえ、今回は剣の修行もした
立派な志士が相手なんだ。これまでのような浪人相手とは訳が違う」
この時、不思議な情報が波浪組陣営に流れた。
「集会の会場が四国屋に変更された」
池田屋とは全くの別方向にある旅篭である。
「な…なんだと？」
「くそ…まさか池田屋が擬態か！？小癪な真似をしてくれる…
斉藤君からの新たな報告は届いていないか！？」
「いえ…ありません！」
「末永さん、あんたはどう考える！？」
このところ、中澤は末永を重用するようになっている。
「もはや両方を確かめる時間はありません。戦力を二手に分けてそれぞれ池田屋、
四国屋に向かわせ、擬態だった方は全速力をもって引き返し、
集まっているほうに合流することにしましょう」
「うむ…この戦力を二分するのは厳しいが…それしかなさそうだな、北上さん」
「…そうですね」
北上の同意も受け、
「よし！決まった！」
池田屋には中澤、市井、あさみ、大谷、゛祐ちゃんの子供゛
と呼ばれる若手隊士のわずか5人が向かうこととなり、
残りの戦力30名ほどを四国屋に向かわせることに決定した。
この頃、池田屋の会場では各藩の人物評が話題になっていた。
「薩摩では、誰だ！？」
「安倍なつみでしょうな」
「いや、飯田圭織でしょう」
「安倍はああ見えて常に腹に一物を抱えている。
逆に飯田のような人物のほうが裏表がないものです」
「……薩摩に人物などおらぬ！」
「……」
「……薩奸の話は止めましょうや」
この時期、薩摩と長州の仲は最悪になっている。
薩摩藩が幕府に擦り寄るような姿勢を取り、
一緒になって長州を迫害しているからだ。
無論薩摩も盲目的に幕府のいいなりになっている訳ではないが、
そんなことは迫害される側の長州には関係が無かった。
「…そうですな…」
「では、土佐では誰でしょう？」
「ズバリ！後藤真希先生でしょう！」
真っ先にとびきり元気な声で答えたのは土佐藩脱藩浪士加護亜依だった。
「薩摩では、誰だ！？」
「安倍なつみでしょうな」
「いや、飯田圭織でしょう」
「安倍はああ見えて常に腹に一物を抱えている。
逆に飯田のような人物のほうが裏表がないものです」
「……薩摩に人物などおらぬ！」
「……」
「……薩奸の話は止めましょうや」
この時期、薩摩と長州の仲は最悪になっている。
薩摩藩が幕府に擦り寄るような姿勢を取り、
一緒になって長州を迫害しているからだ。
無論薩摩も盲目的に幕府のいいなりになっている訳ではないが、
そんなことは迫害される側の長州には関係が無かった。
「…そうですな…」
「では、土佐では誰でしょう？」
「ズバリ！後藤真希先生でしょう！」
真っ先にとびきり元気な声で答えたのは土佐藩脱藩浪士加護亜依だった。
彼女は後藤に゛加護天狗゛と呼ばれて特別可愛がられた若手の志士で、
少し前後藤の勧めで蝦夷地の計量に向かっていたが寒さと退屈に絶えられず
京に戻ってきたばかりであった。
「そう言えば、後藤さんは今回来ておられないようですな」
「来る予定だったんですが…何か用事があるとかで…」
「それは残念…」
「ふむ…」
ついに石黒が口を開いた。
「今回、この決起で我々は死ぬでしょう」
あたりが一斉に静まり返った。石黒は更に続ける。
「しかし、まだ後藤さんのような人が死ぬ時ではない。
まず我々が死んで、その次にも誰かが死んで…そして最後まで生き残って、
世の中をまとめていくのが後藤さんのような人なのです！
我々は先陣に立ち、維新の礎となって死ぬのです！！」
石黒は完全に酔いしれていた。
この石黒の高揚が他の志士にも乗り移り、
酒宴に参加した皆が涙をこぼしながら次々と杯を乾した。
皆、酔っていた。
（来たな…）
窓を開け、外をうかがっていた斉藤が、外からの合図に気付いたのはこの頃であった。
あらかじめ入り口の鍵を開けておいた斉藤は合図を返し、
ここに血祭りの幕が開いた。
少し前後藤の勧めで蝦夷地の計量に向かっていたが寒さと退屈に絶えられず
京に戻ってきたばかりであった。
「そう言えば、後藤さんは今回来ておられないようですな」
「来る予定だったんですが…何か用事があるとかで…」
「それは残念…」
「ふむ…」
ついに石黒が口を開いた。
「今回、この決起で我々は死ぬでしょう」
あたりが一斉に静まり返った。石黒は更に続ける。
「しかし、まだ後藤さんのような人が死ぬ時ではない。
まず我々が死んで、その次にも誰かが死んで…そして最後まで生き残って、
世の中をまとめていくのが後藤さんのような人なのです！
我々は先陣に立ち、維新の礎となって死ぬのです！！」
石黒は完全に酔いしれていた。
この石黒の高揚が他の志士にも乗り移り、
酒宴に参加した皆が涙をこぼしながら次々と杯を乾した。
皆、酔っていた。
（来たな…）
窓を開け、外をうかがっていた斉藤が、外からの合図に気付いたのはこの頃であった。
あらかじめ入り口の鍵を開けておいた斉藤は合図を返し、
ここに血祭りの幕が開いた。
こりゃ面白い。
配役がいいですね。
と言うことはあれとあれの絡みがあるわけですね
楽しみ～
配役がいいですね。
と言うことはあれとあれの絡みがあるわけですね
楽しみ～
「あれ？たった5人？」
5人と入れ替わるように池田屋を出た斉藤は怪訝な表情を見せた。
「会津藩が加勢してくれる予定だったんだが…到着が遅いのでね」
「む…無茶だ…会津の加勢を待った方がいい」
斉藤の言葉にも構わず、
「疲れたでしょう。ここは我々に任せて斉藤さんは休んでいて下さい」
という市井の言葉が終わるか終わらないかのタイミングで
「池田屋！御用改めである！」
この中澤の言葉が終わるか終わらないかのタイミングで今度は5人が一斉に踏み込んだ。
会場のある2階に踏み込んだのは中澤と、゛先駆け先生゛の異名を持つ大谷雅恵の2人、
あさみは昇降の為の階段を、市井と゛祐ちゃんの子供゛の2人が
表口、裏口をそれぞれ固めた。
二階に踏み込むと同時に中澤は一人の志士を叩き斬った。
「覚悟しろ！！賊ども！」
刀を持たない志士は、次々と中澤と大谷の刀の錆になった。
5人と入れ替わるように池田屋を出た斉藤は怪訝な表情を見せた。
「会津藩が加勢してくれる予定だったんだが…到着が遅いのでね」
「む…無茶だ…会津の加勢を待った方がいい」
斉藤の言葉にも構わず、
「疲れたでしょう。ここは我々に任せて斉藤さんは休んでいて下さい」
という市井の言葉が終わるか終わらないかのタイミングで
「池田屋！御用改めである！」
この中澤の言葉が終わるか終わらないかのタイミングで今度は5人が一斉に踏み込んだ。
会場のある2階に踏み込んだのは中澤と、゛先駆け先生゛の異名を持つ大谷雅恵の2人、
あさみは昇降の為の階段を、市井と゛祐ちゃんの子供゛の2人が
表口、裏口をそれぞれ固めた。
二階に踏み込むと同時に中澤は一人の志士を叩き斬った。
「覚悟しろ！！賊ども！」
刀を持たない志士は、次々と中澤と大谷の刀の錆になった。
――一方、四国屋
「どうだ？」
旅館内を隊士に見廻らせた平家が訪ねる。
「こ…こちらでは無いようです！」
「く…四国屋が擬態だったか…！！国賊めが小癪な真似を…
急げ！大至急引き返し、池田屋に向かう！！」
この平家らの様子を物陰から見ていたのは矢口真里だった。
「な…なんてことだ…手後れだ…石黒さん……
これで…維新は1年は遅れる…波浪組…国賊は貴様らのほうだ…」
矢口は池田屋にではなく、まず長州藩邸に急いだ。
「今、薩奸や幕府とことを構えては藩が取り潰される…
駄目だ…絶対に池田屋に救出に向かってはならないぞ！」
そう言って到着したばかりの長州藩邸から出て行こうとする矢口。
「矢口さん！どちらに行かれるのです！？」
「池田屋に向かう！！私も池田屋で石黒さんと共に死ぬ！」
「だ…駄目です！！何を言っているんですか！！石黒さんだけでなく
あなたまで死んでしまったら長州は…！！」
「私が死んでも保田君がいる！！松浦のような若手も育っているだろう！！」
しかし、矢口の願いは聞き入れられなかった。
小柄な矢口は柱に縛り付けられ、騒動が終わるまで放置された。
「どうだ？」
旅館内を隊士に見廻らせた平家が訪ねる。
「こ…こちらでは無いようです！」
「く…四国屋が擬態だったか…！！国賊めが小癪な真似を…
急げ！大至急引き返し、池田屋に向かう！！」
この平家らの様子を物陰から見ていたのは矢口真里だった。
「な…なんてことだ…手後れだ…石黒さん……
これで…維新は1年は遅れる…波浪組…国賊は貴様らのほうだ…」
矢口は池田屋にではなく、まず長州藩邸に急いだ。
「今、薩奸や幕府とことを構えては藩が取り潰される…
駄目だ…絶対に池田屋に救出に向かってはならないぞ！」
そう言って到着したばかりの長州藩邸から出て行こうとする矢口。
「矢口さん！どちらに行かれるのです！？」
「池田屋に向かう！！私も池田屋で石黒さんと共に死ぬ！」
「だ…駄目です！！何を言っているんですか！！石黒さんだけでなく
あなたまで死んでしまったら長州は…！！」
「私が死んでも保田君がいる！！松浦のような若手も育っているだろう！！」
しかし、矢口の願いは聞き入れられなかった。
小柄な矢口は柱に縛り付けられ、騒動が終わるまで放置された。
――池田屋
「石黒君！！やはり君はまだ死んではならん！！」
そう言って石黒を持ち上げ、二階から外に放り投げた者がいた。
言い伝えによると真矢という巨漢の長州藩士であった。
巨体に似合わず太鼓が堪能であったらしい。
放り投げられた石黒がなんとか上体を起こすと、
そこには裏口を固めていた゛祐ちゃんの子供゛がいた。
「くっ…」
刀を抜いて応戦しようとする石黒。
しかし、酔った体では力が入らない。
（だ…駄目だ）
覚悟を決めた時、
「うわぁぁぁーーー！！」
゛祐ちゃんの子供゛は逃げ出した。
「なんだ？」
しかし、敵のことなど気にしている暇はあるはずが無い。
石黒はわき目もふらず長州藩邸に駆け出した。
「石黒君！！やはり君はまだ死んではならん！！」
そう言って石黒を持ち上げ、二階から外に放り投げた者がいた。
言い伝えによると真矢という巨漢の長州藩士であった。
巨体に似合わず太鼓が堪能であったらしい。
放り投げられた石黒がなんとか上体を起こすと、
そこには裏口を固めていた゛祐ちゃんの子供゛がいた。
「くっ…」
刀を抜いて応戦しようとする石黒。
しかし、酔った体では力が入らない。
（だ…駄目だ）
覚悟を決めた時、
「うわぁぁぁーーー！！」
゛祐ちゃんの子供゛は逃げ出した。
「なんだ？」
しかし、敵のことなど気にしている暇はあるはずが無い。
石黒はわき目もふらず長州藩邸に駆け出した。
「おみゃーん！」
土佐藩独特の掛け声を上げながら奮戦していたのは土佐藩士、
加護亜依だった。
この頃はすでに平家らも合流しており、
池田屋内は混戦の度合いを増していた。
その中でもこの日の加護の戦い振りは格別だったと言っていいだろう。
「おみゃーん！」
この珍妙な掛け声とともに怯んだ敵の懐に入り、相手を突き飛ばす。
それを繰り返し、ついに加護は出口にまで辿り着いた。
しかしそこに立ち塞がっていたのは市井紗耶香であった。
波浪組でも随一の使い手である。
土佐藩独特の掛け声を上げながら奮戦していたのは土佐藩士、
加護亜依だった。
この頃はすでに平家らも合流しており、
池田屋内は混戦の度合いを増していた。
その中でもこの日の加護の戦い振りは格別だったと言っていいだろう。
「おみゃーん！」
この珍妙な掛け声とともに怯んだ敵の懐に入り、相手を突き飛ばす。
それを繰り返し、ついに加護は出口にまで辿り着いた。
しかしそこに立ち塞がっていたのは市井紗耶香であった。
波浪組でも随一の使い手である。
（後藤さんにもう一度会いたい…こんなところで死ぬのはいやだよ…）
「おみゃーん！」
そう言って前転し、加護は市井の脇を摺り抜けようとした。
「なんと…！」
虚を突かれた市井だったが、冷静に前転する加護の脇腹を斬った。
「うわっ…」
自分の白い脇腹から止めど無く流れる血を、加護は見た。
かなり深く斬られている。しかしそれでも立ち上がり、
「後藤さん…」
そう言いながら逃げ出した。
「ま…待って…！！うっ…げほっ！！げほっ…」
加護に止めを刺そうとした市井は急に咳き込むとそのまま昏倒し、
騒動が終わるまで立ち上がることが出来ず、結果的に加護の逃亡を助けた。
「おみゃーん！」
そう言って前転し、加護は市井の脇を摺り抜けようとした。
「なんと…！」
虚を突かれた市井だったが、冷静に前転する加護の脇腹を斬った。
「うわっ…」
自分の白い脇腹から止めど無く流れる血を、加護は見た。
かなり深く斬られている。しかしそれでも立ち上がり、
「後藤さん…」
そう言いながら逃げ出した。
「ま…待って…！！うっ…げほっ！！げほっ…」
加護に止めを刺そうとした市井は急に咳き込むとそのまま昏倒し、
騒動が終わるまで立ち上がることが出来ず、結果的に加護の逃亡を助けた。
「えいやぁ！！」
（5人目…）
初めての本格的な実戦ながら、あさみは冷静に斬った相手の数を数えていた。
着物は返り血でもはや真っ赤になっている。
（これが実戦か…なんとかやれる…）
新選組の稽古は超実戦的であるということで知られる。
それに自分で思っている以上に、あさみの剣の腕は上がっていたのだろう。
そんな時、
「うわあっ…！！」
聞きなれた仲間の悲鳴が聞こえた。
その方向には額からおびただしい血を流して倒れ、
今にも複数の志士から斬りつけられようとしている大谷の姿があった。
「大谷さん！！」
急いで駆けつけ、大谷を救出するあさみ。
斬りつけようとしていた志士を屠り、大谷の肩を持つ。
「す…すまんあさみさん…俺としたことが少し調子に乗り過ぎたらしい」
珍しく自省的なところを見せる大谷。
「調子に乗らない大谷さんなんて、゛先駆け先生゛じゃ無いさ」
「ハハハ…ち…違いない！」
この様な状況でも笑って冗談を言い合えるのが波浪組隊士という
若者たちだった。
（5人目…）
初めての本格的な実戦ながら、あさみは冷静に斬った相手の数を数えていた。
着物は返り血でもはや真っ赤になっている。
（これが実戦か…なんとかやれる…）
新選組の稽古は超実戦的であるということで知られる。
それに自分で思っている以上に、あさみの剣の腕は上がっていたのだろう。
そんな時、
「うわあっ…！！」
聞きなれた仲間の悲鳴が聞こえた。
その方向には額からおびただしい血を流して倒れ、
今にも複数の志士から斬りつけられようとしている大谷の姿があった。
「大谷さん！！」
急いで駆けつけ、大谷を救出するあさみ。
斬りつけようとしていた志士を屠り、大谷の肩を持つ。
「す…すまんあさみさん…俺としたことが少し調子に乗り過ぎたらしい」
珍しく自省的なところを見せる大谷。
「調子に乗らない大谷さんなんて、゛先駆け先生゛じゃ無いさ」
「ハハハ…ち…違いない！」
この様な状況でも笑って冗談を言い合えるのが波浪組隊士という
若者たちだった。
94 ：名無し娘。：2001/05/15(火) 07:44 ID:HYfmBmL2
――長州藩邸
「石黒です！！池田屋が波浪組に襲撃された！！至急援軍を頼みます！！
石黒です！！池田屋が波浪組に襲撃された！！至急援軍を頼みます！！」
門を激しく叩く音と共に邸内に石黒の声が響いた。
「い…石黒さん…！！無事だったのか！」
「し…しかし援軍は矢口さんが…」
邸内でもたつく門番にいらついた矢口が大声を出した。
「バカ！なにをしている！！早く石黒さんを邸内に入れないか！！」
「あ、そ…そうか！」
しかし、門番たちが門を開けるとそこには既に石黒はいなかった。
援軍を頼むとすぐに、その足で池田屋に引き返したのである。
石黒は、長州藩から゛屠勇取建方引受゛という役職に任命されている。
゛屠勇゛とは、゛勇気ある被差別民゛のことである。
『農民から徴兵すると農業に支障が出る。それを防ぐため被差別民からも
徴兵し、そのことによって被差別民の社会的地位も保証しよう』
という、石黒の提案が藩に高く評価されたためだ。
この時代に被差別民の開放という発想をしていた石黒の先見は特筆に価する。
もとより、弱い立場の人間を見捨てておくことが出来ない、
優しい人柄をしていたのだろう。
そんな石黒には、池田屋の同志を見捨て自分だけが助かるなどということは、
出来るはずが無かった。
「い…石黒さん…やはりあなたは今日死ぬつもりなのか」
「石黒です！！池田屋が波浪組に襲撃された！！至急援軍を頼みます！！
石黒です！！池田屋が波浪組に襲撃された！！至急援軍を頼みます！！」
門を激しく叩く音と共に邸内に石黒の声が響いた。
「い…石黒さん…！！無事だったのか！」
「し…しかし援軍は矢口さんが…」
邸内でもたつく門番にいらついた矢口が大声を出した。
「バカ！なにをしている！！早く石黒さんを邸内に入れないか！！」
「あ、そ…そうか！」
しかし、門番たちが門を開けるとそこには既に石黒はいなかった。
援軍を頼むとすぐに、その足で池田屋に引き返したのである。
石黒は、長州藩から゛屠勇取建方引受゛という役職に任命されている。
゛屠勇゛とは、゛勇気ある被差別民゛のことである。
『農民から徴兵すると農業に支障が出る。それを防ぐため被差別民からも
徴兵し、そのことによって被差別民の社会的地位も保証しよう』
という、石黒の提案が藩に高く評価されたためだ。
この時代に被差別民の開放という発想をしていた石黒の先見は特筆に価する。
もとより、弱い立場の人間を見捨てておくことが出来ない、
優しい人柄をしていたのだろう。
そんな石黒には、池田屋の同志を見捨て自分だけが助かるなどということは、
出来るはずが無かった。
「い…石黒さん…やはりあなたは今日死ぬつもりなのか」
――池田屋
「はぁっ…はぁっ……なんてことだ…」
長州藩邸から戻った石黒は、絶望的な光景を見た。
あの時はまだ5人しかいなかった波浪組の隊員が数十名に増えているのである。
その石黒の前に一人の隊士が立ち塞がった。
北上アミ
波浪組副長だった。
中澤と平家の間、ナンバー2の地位にあるもののこのところ
中澤は末永と近しく、どこか軽視されてきている存在である。
しかも、国学を学んだ北上はもともと長州藩の志士達に近い思想を持っており、
自分のしていることに疑問を感じ始めてもいる。
「…君達波浪組も勤王の志士だろう！！なのになぜ…
なのになぜ僕らが血を流し合わなければならないんだ！！」
そう言いながら上段に振りかぶり突撃してきた石黒を軽くいなすと、
北上はそれを横薙ぎに斬る。
優しすぎた秀才の短い人生が、終わった。
「勤王の志士…か…」
北上は開ききった石黒の両目を閉じさせてやると、軽い黙とうを捧げた。
「はぁっ…はぁっ……なんてことだ…」
長州藩邸から戻った石黒は、絶望的な光景を見た。
あの時はまだ5人しかいなかった波浪組の隊員が数十名に増えているのである。
その石黒の前に一人の隊士が立ち塞がった。
北上アミ
波浪組副長だった。
中澤と平家の間、ナンバー2の地位にあるもののこのところ
中澤は末永と近しく、どこか軽視されてきている存在である。
しかも、国学を学んだ北上はもともと長州藩の志士達に近い思想を持っており、
自分のしていることに疑問を感じ始めてもいる。
「…君達波浪組も勤王の志士だろう！！なのになぜ…
なのになぜ僕らが血を流し合わなければならないんだ！！」
そう言いながら上段に振りかぶり突撃してきた石黒を軽くいなすと、
北上はそれを横薙ぎに斬る。
優しすぎた秀才の短い人生が、終わった。
「勤王の志士…か…」
北上は開ききった石黒の両目を閉じさせてやると、軽い黙とうを捧げた。
市井に脇腹を斬られた加護は、この頃池田屋から程近い路地をさまよっていた。
「はぁ…はぁ…なんでだろう…寒いよ…やっと京都に帰ってきたのに…」
加護は、先生と仰ぐ後藤真希から
『お前は落ち着きが無いよ。だから、蝦夷地に行って計量をして来てくれないか？
そうすれば少しは我慢っていうものを覚えられるはずだ。
これは、俺がやろうとしている貿易の仕事にも必要不可欠な仕事だし、
きっとお前の忍耐力を鍛える修行にもなるよ。うん、やっぱり
計量はお前に任せたい。俺はお前の教育係だからさ』
そう蝦夷地の測量を任せられた。危険な京から加護を遠ざける意味もあった。
しかし、結局加護はそれを投げ出して京に戻ってきたのである。
退屈だったということもある。
北の大地が寒かったということもある。
しかし、最も大きな理由は、
「蝦夷地にいたら後藤さんに会えないよ…」
加護はまだ若すぎた。誰かに甘えたいという年齢から来る欲求…
…それを後藤は忘れていた。そして、加護は人一倍その欲求が強かった。
そして、いざ戻って来て後藤に会えそうな場所に来てみたら、
このような事態に巻き込まれた。
「後藤さん…もう一度…逢いたかったよ…」
深手を負った加護は、池田屋から少し離れた路地で木に寄り掛かると、
泣きながら自らの心臓を一突きにし天に昇った。
…こうして池田屋騒動の幕は降りた。
「はぁ…はぁ…なんでだろう…寒いよ…やっと京都に帰ってきたのに…」
加護は、先生と仰ぐ後藤真希から
『お前は落ち着きが無いよ。だから、蝦夷地に行って計量をして来てくれないか？
そうすれば少しは我慢っていうものを覚えられるはずだ。
これは、俺がやろうとしている貿易の仕事にも必要不可欠な仕事だし、
きっとお前の忍耐力を鍛える修行にもなるよ。うん、やっぱり
計量はお前に任せたい。俺はお前の教育係だからさ』
そう蝦夷地の測量を任せられた。危険な京から加護を遠ざける意味もあった。
しかし、結局加護はそれを投げ出して京に戻ってきたのである。
退屈だったということもある。
北の大地が寒かったということもある。
しかし、最も大きな理由は、
「蝦夷地にいたら後藤さんに会えないよ…」
加護はまだ若すぎた。誰かに甘えたいという年齢から来る欲求…
…それを後藤は忘れていた。そして、加護は人一倍その欲求が強かった。
そして、いざ戻って来て後藤に会えそうな場所に来てみたら、
このような事態に巻き込まれた。
「後藤さん…もう一度…逢いたかったよ…」
深手を負った加護は、池田屋から少し離れた路地で木に寄り掛かると、
泣きながら自らの心臓を一突きにし天に昇った。
…こうして池田屋騒動の幕は降りた。
…こうして池田屋騒動の幕は降りた。
2時間半にも渡る激戦であった。
最初に踏み込んだ波浪組の5人のうち最後まで戦い続けていたのは、
中澤裕子とあさみの2人だけである。
大谷雅恵は額を割られて重傷、市井紗耶香は労咳が発病し昏倒、
゛祐ちゃんの子供゛に到っては行方しれずだった。
最後まで戦い続けていた2人のうちあさみは肩に軽傷、
刀は折れ曲がり、鞘に収まらない状態だった。
そして驚くべきことに、中澤は全くの無傷である。
検死の為に死体を店外に運ぶ作業をしているところに、
一人の土佐藩士が現われた。
「まさか貴様、後藤真希ではないだろうな！？」
人相書きで見たことがある顔だった。
「だったらどうした…ばかやろうが…」
すごみのある平家の詰問にこのような返事が出来る者などそういるものではない。
2時間半にも渡る激戦であった。
最初に踏み込んだ波浪組の5人のうち最後まで戦い続けていたのは、
中澤裕子とあさみの2人だけである。
大谷雅恵は額を割られて重傷、市井紗耶香は労咳が発病し昏倒、
゛祐ちゃんの子供゛に到っては行方しれずだった。
最後まで戦い続けていた2人のうちあさみは肩に軽傷、
刀は折れ曲がり、鞘に収まらない状態だった。
そして驚くべきことに、中澤は全くの無傷である。
検死の為に死体を店外に運ぶ作業をしているところに、
一人の土佐藩士が現われた。
「まさか貴様、後藤真希ではないだろうな！？」
人相書きで見たことがある顔だった。
「だったらどうした…ばかやろうが…」
すごみのある平家の詰問にこのような返事が出来る者などそういるものではない。
「土佐の犬っぽが何をしに来た…今は死体検分の最中である！下がれ！」
「なんでだ…なんでこんな…酷いことをした…」
後藤の低い静かな声に、興奮覚めやらぬ波浪組隊士も静まり返る。
「…この加護はまだ13歳だぞ…斬られて、止めを刺してもらえず、
傷口から止めど無く血が流れ、やがて自分がもう生きられないと
分かって絶望し、たった一人で胸を突いて自刃するまでの時間
…痛かったろう…寂しかっただろう……悲しかっただろう…
わずか13の子供にこんな…貴様ら…人間じゃねえ…」
哀しみを押し殺した低い声を絞り出す後藤。
「こいつらが悪い奴等だからだ！！悪い奴を斬って何が悪い！！」
間髪入れすあさみが反駁した。
元気のいいあさみの声に驚いたのか、発言の内容に驚いたのか、
後藤は目を丸くした。
しかし、すぐに悲しげな表情を浮かべると、運ばれて来ていた
加護の死体をおぶさって立ち上がった。
「もう…命を奪ったんだ…それで充分だろう…
命だけでは飽き足らず…死体まで奪おうというのかおのれらは！！！」
波浪組の隊士達は誰も動けなかった。
中澤も、平家も、ただ後藤の背中を見送った。
元治元年6月5日。すでに日付は6日に変わろうとしていた。
「なんでだ…なんでこんな…酷いことをした…」
後藤の低い静かな声に、興奮覚めやらぬ波浪組隊士も静まり返る。
「…この加護はまだ13歳だぞ…斬られて、止めを刺してもらえず、
傷口から止めど無く血が流れ、やがて自分がもう生きられないと
分かって絶望し、たった一人で胸を突いて自刃するまでの時間
…痛かったろう…寂しかっただろう……悲しかっただろう…
わずか13の子供にこんな…貴様ら…人間じゃねえ…」
哀しみを押し殺した低い声を絞り出す後藤。
「こいつらが悪い奴等だからだ！！悪い奴を斬って何が悪い！！」
間髪入れすあさみが反駁した。
元気のいいあさみの声に驚いたのか、発言の内容に驚いたのか、
後藤は目を丸くした。
しかし、すぐに悲しげな表情を浮かべると、運ばれて来ていた
加護の死体をおぶさって立ち上がった。
「もう…命を奪ったんだ…それで充分だろう…
命だけでは飽き足らず…死体まで奪おうというのかおのれらは！！！」
波浪組の隊士達は誰も動けなかった。
中澤も、平家も、ただ後藤の背中を見送った。
元治元年6月5日。すでに日付は6日に変わろうとしていた。
この話において未だ登場しておらず、尚且つ今後も出番の少ない
モーニング娘。のメンバー達。
安倍なつみ… 現在でも゛上野の安倍どん゛と言えば日本国民のほとんどが ああ、
あれかと犬を連れた銅像を思い浮かべる（はずの）有名な
薩摩藩士である。おだやかな人というパブリックイメージが強い
のであろうが、実際には好戦的な人物であったようである。
薩長同盟の中心人物。維新後、西南戦争で没。
飯田圭織… 安倍なつみとは同郷の親友であったらしい。誕生日が僅か3日違いで
産婆も一緒であったという。常にボーっとしているように見られるが、
実際は策謀家でもある。維新後、西南戦争において親友の安倍と
戦うことになる。暗殺に会い没する。
波浪組が真に斬るべきだったのはこの人物であったかもしれない。
保田圭… 石黒彩、矢口真里、松浦亜弥などと同じ師を持つ。
長州藩の政権を転覆させ、奇兵隊を設立したのは余りにも有名。
後藤真希が木よりも森を重要視したのに対し、森よりも木を大事にした。
エビを食べてはジンマシンを起こすなど豪胆な気質とは裏腹に病弱で、
維新を待たず病没。現在も残る直筆の絵画にも彼女の゛奇人゛ぶりは伺える。
モーニング娘。のメンバー達。
安倍なつみ… 現在でも゛上野の安倍どん゛と言えば日本国民のほとんどが ああ、
あれかと犬を連れた銅像を思い浮かべる（はずの）有名な
薩摩藩士である。おだやかな人というパブリックイメージが強い
のであろうが、実際には好戦的な人物であったようである。
薩長同盟の中心人物。維新後、西南戦争で没。
飯田圭織… 安倍なつみとは同郷の親友であったらしい。誕生日が僅か3日違いで
産婆も一緒であったという。常にボーっとしているように見られるが、
実際は策謀家でもある。維新後、西南戦争において親友の安倍と
戦うことになる。暗殺に会い没する。
波浪組が真に斬るべきだったのはこの人物であったかもしれない。
保田圭… 石黒彩、矢口真里、松浦亜弥などと同じ師を持つ。
長州藩の政権を転覆させ、奇兵隊を設立したのは余りにも有名。
後藤真希が木よりも森を重要視したのに対し、森よりも木を大事にした。
エビを食べてはジンマシンを起こすなど豪胆な気質とは裏腹に病弱で、
維新を待たず病没。現在も残る直筆の絵画にも彼女の゛奇人゛ぶりは伺える。
100 ：宣伝3：2001/05/16(水) 00:11 ID:ix1ly8.U
出来るだけ多くの人に見ていただいて
意見も聞かせてもらいたいと思いますが
るろうに剣心を読んで本気で怒るような人だけは見ないで下さい
意見も聞かせてもらいたいと思いますが
るろうに剣心を読んで本気で怒るような人だけは見ないで下さい
私は新撰組の小説を読んだことはないのですが、坂本竜馬の小説をつい最近読んだばかりで､
大体の話の筋がわかるのですが、配役が憎いですね。沖田くんとかまだ出てない人とか･･･
お～い竜馬と言う､マンガで死後の高杉を竜馬と高杉の妾が偲ぶのですが
そのシーンが非常に印象的でした。
おーい竜馬では新撰組はひたすら竜馬の後塵を拝するだけの役どころに近かったのですが､
中澤局長率いる新撰組がどういう活躍をしてくれるのかとても楽しみです。
ネタばれにならないよう注意はしたつもりですが､不都合でありましたらおとなしく
完結までじっとしています。
高杉のエピソードについては私のささやかな求めを表してるのですが､おわかりになりますよね。
無論主役が新撰組なので無理な話なのですが､
＞尚且つ今後も出番の少ない･･･の件をみてちょこっとばかし悲しいような気がほんのり湧いてきたもので･･･
それでは頑張ってください。あなたが思ってるより多くの人が見てると思います。
大体の話の筋がわかるのですが、配役が憎いですね。沖田くんとかまだ出てない人とか･･･
お～い竜馬と言う､マンガで死後の高杉を竜馬と高杉の妾が偲ぶのですが
そのシーンが非常に印象的でした。
おーい竜馬では新撰組はひたすら竜馬の後塵を拝するだけの役どころに近かったのですが､
中澤局長率いる新撰組がどういう活躍をしてくれるのかとても楽しみです。
ネタばれにならないよう注意はしたつもりですが､不都合でありましたらおとなしく
完結までじっとしています。
高杉のエピソードについては私のささやかな求めを表してるのですが､おわかりになりますよね。
無論主役が新撰組なので無理な話なのですが､
＞尚且つ今後も出番の少ない･･･の件をみてちょこっとばかし悲しいような気がほんのり湧いてきたもので･･･
それでは頑張ってください。あなたが思ってるより多くの人が見てると思います。
>101
波浪組でしたね。鬱だ･･･氏脳
波浪組でしたね。鬱だ･･･氏脳
103 ：レス2：2001/05/17(木) 20:19 ID:v9nD.GdU
＞お～い竜馬と言う､マンガで死後の高杉を竜馬と高杉の妾が偲ぶのですが
おうのですよね。妾の人は。
あの人も面白い人なんですけど、結局高杉って長州藩の中での
活動がほとんどなので絡むことがほとんど無いです
別に史実にこだわるつもりじゃなく、無理に出しても役割が…
あと出番が少ないとは言っても死ぬ時はさすがに出ます（多分）
これからも意見とか聞かせてもらえたら嬉しいです
おうのですよね。妾の人は。
あの人も面白い人なんですけど、結局高杉って長州藩の中での
活動がほとんどなので絡むことがほとんど無いです
別に史実にこだわるつもりじゃなく、無理に出しても役割が…
あと出番が少ないとは言っても死ぬ時はさすがに出ます（多分）
これからも意見とか聞かせてもらえたら嬉しいです
＝禁門の乱＝
池田屋騒動により新選組の威光は京中に響き渡り、
入隊希望の剣客も急増し波浪組はいつしか、隊士100人を超える大所帯となっていた。
この頃の波浪組は長州藩という゛好敵手゛を迎え、
絶頂期を迎えようとしていた。
その頃に行われた慰労宴でのことである。
酒も入り、上機嫌になっていた中澤が珍しく長い演説を行った。
「諸君、池田屋での働き、まことにご苦労であった。
この中澤裕子、局長として心から感謝する」
そう言ってまず深々と頭を下げる。
「諸君の将来はこの中澤裕子が引きうける。
この中澤を信じ、どこまでもついて来てもらいたい」
もし大谷雅恵が池田屋で大怪我をしておらずこの席にいたら、
笑いを堪えきれず爆笑し顰蹙を買っていたことだろう。
それだけこの日の中澤は芝居がかっていた。
しかし、中澤の両隣に座する平家と北上は、あくまで真顔である。
しかしながらこの2人の内面に去来しているものがまるで違っていたことは、
これから数ヶ月後に分かることになる。
「おれは諸君を率いて、徳川幕府の起死回生の源となり、
陣頭に立って進むつもりである！」
中澤は珍しく興奮を露骨にしている。
入隊希望の剣客も急増し波浪組はいつしか、隊士100人を超える大所帯となっていた。
この頃の波浪組は長州藩という゛好敵手゛を迎え、
絶頂期を迎えようとしていた。
その頃に行われた慰労宴でのことである。
酒も入り、上機嫌になっていた中澤が珍しく長い演説を行った。
「諸君、池田屋での働き、まことにご苦労であった。
この中澤裕子、局長として心から感謝する」
そう言ってまず深々と頭を下げる。
「諸君の将来はこの中澤裕子が引きうける。
この中澤を信じ、どこまでもついて来てもらいたい」
もし大谷雅恵が池田屋で大怪我をしておらずこの席にいたら、
笑いを堪えきれず爆笑し顰蹙を買っていたことだろう。
それだけこの日の中澤は芝居がかっていた。
しかし、中澤の両隣に座する平家と北上は、あくまで真顔である。
しかしながらこの2人の内面に去来しているものがまるで違っていたことは、
これから数ヶ月後に分かることになる。
「おれは諸君を率いて、徳川幕府の起死回生の源となり、
陣頭に立って進むつもりである！」
中澤は珍しく興奮を露骨にしている。
「なぁ、りんねさん…今日の中澤さん…なんか変じゃないか！？」
「゛諸君を率いて゛とか言ったようだな、中澤さんは」
あさみは肯いた。
「まあ池田屋の報奨も幕府から出たし、浮かれているところもあるんだろう」
「ああ、あさみさん、それは分かってるよ。でもな、゛諸君゛ってのに、
うちや君、平家さんや市井君たちまで含んでるつもりなのかな？」
「ああ、多分そうだろう」
杯に残った酒を、りんねは一気に流し込んでみせた。
「うちらは、京に登ってから入隊してきたやつらとは違う…
うちらはどこまでも同志のはずだぜ。うちらだけは中澤さんの家来じゃない」
珍しいりんねの愚痴にあさみは苦笑した。
「そうだろう？あさみさん」
「うん…私もここまで来て波浪組が変なものに変わっていくってのは…
…なんか嫌だな」
りんねもあさみも思想のようなものとは無縁の存在で、
それだけに幕府や中澤のためなら命も惜しまぬつもりであったのに、
中澤のあたかも、゛俺についてくれば甘い汁を吸わせてやるぞ゛
的な言い草は気に入らなかったのである。
「せめて、゛諸君らと共に゛とでも言ってほしかったよ」
いつもはさっぱりした性格のりんねも、このことにはくどくどとこだわった。
中澤の演説はまだ続いている。
「゛諸君を率いて゛とか言ったようだな、中澤さんは」
あさみは肯いた。
「まあ池田屋の報奨も幕府から出たし、浮かれているところもあるんだろう」
「ああ、あさみさん、それは分かってるよ。でもな、゛諸君゛ってのに、
うちや君、平家さんや市井君たちまで含んでるつもりなのかな？」
「ああ、多分そうだろう」
杯に残った酒を、りんねは一気に流し込んでみせた。
「うちらは、京に登ってから入隊してきたやつらとは違う…
うちらはどこまでも同志のはずだぜ。うちらだけは中澤さんの家来じゃない」
珍しいりんねの愚痴にあさみは苦笑した。
「そうだろう？あさみさん」
「うん…私もここまで来て波浪組が変なものに変わっていくってのは…
…なんか嫌だな」
りんねもあさみも思想のようなものとは無縁の存在で、
それだけに幕府や中澤のためなら命も惜しまぬつもりであったのに、
中澤のあたかも、゛俺についてくれば甘い汁を吸わせてやるぞ゛
的な言い草は気に入らなかったのである。
「せめて、゛諸君らと共に゛とでも言ってほしかったよ」
いつもはさっぱりした性格のりんねも、このことにはくどくどとこだわった。
中澤の演説はまだ続いている。
絶頂期を迎えようとしていた波浪組とは対照的に、
窮地に追い込まれていたのは長州藩である。
長州藩の中核的な志士が池田屋騒動で多数死亡し、
また幕臣である波浪組に彼女らが討たれたという事実が、
長州藩に゛賊゛の汚名を着せてしまったのである。
「だめだ…もう我慢ならない！！」
長州の怒りは爆発寸前だったが、その中心にいたのは矢口真里だった。
「薩奸会賊から、天皇様を救い出す」
矢口を中心とした長州藩過激派は皇居から天皇を引きずり出そうと言う、
いわばやけっぱちの手段を取ろうとしているのである。
皇居の前で戦を起こすなど、切腹必至の大罪である。
それを、彼女らは、
「天皇様をたぶらかし、毛唐どもに売り渡そうとしている
薩奸会賊から取り戻す」
という無理矢理な理屈で正当化しようとしている。
（ちなみに薩奸会賊とは、幕府の走狗と成り果てた薩摩藩と会津藩を
罵るのに長州藩士がしばしば使った言葉である）
しかし、土台無理な話であった。
「保田君！！君はどうする！？」
矢口になかば詰め寄られるような格好になった保田だったが、
「急ぎ過ぎるな矢口…感情に流されてはいかん。まずは
長州の内部をどうにかせにゃあ、どうにもならんぜ」
そう言って同行を断わった。
窮地に追い込まれていたのは長州藩である。
長州藩の中核的な志士が池田屋騒動で多数死亡し、
また幕臣である波浪組に彼女らが討たれたという事実が、
長州藩に゛賊゛の汚名を着せてしまったのである。
「だめだ…もう我慢ならない！！」
長州の怒りは爆発寸前だったが、その中心にいたのは矢口真里だった。
「薩奸会賊から、天皇様を救い出す」
矢口を中心とした長州藩過激派は皇居から天皇を引きずり出そうと言う、
いわばやけっぱちの手段を取ろうとしているのである。
皇居の前で戦を起こすなど、切腹必至の大罪である。
それを、彼女らは、
「天皇様をたぶらかし、毛唐どもに売り渡そうとしている
薩奸会賊から取り戻す」
という無理矢理な理屈で正当化しようとしている。
（ちなみに薩奸会賊とは、幕府の走狗と成り果てた薩摩藩と会津藩を
罵るのに長州藩士がしばしば使った言葉である）
しかし、土台無理な話であった。
「保田君！！君はどうする！？」
矢口になかば詰め寄られるような格好になった保田だったが、
「急ぎ過ぎるな矢口…感情に流されてはいかん。まずは
長州の内部をどうにかせにゃあ、どうにもならんぜ」
そう言って同行を断わった。
結局、決起に参加したのは老いた猛将江角マキコ、老思想家の岩下志麻らだった。
誰を取っても、思想の為に殉ずることが出来る者達である。
しかし、その思想の実践に際し彼女らは余りにも無邪気だった。
老いた猛将江角などが、夜京の酒場に繰り出しては、
「池田屋の仇討ちをするぞ」
などと言いふらしてまわったのである。
計画は、完全に筒抜けだった。
…かくして元治元年7月18日、開戦前から半分勝敗の決した戦が勃発した。
誰を取っても、思想の為に殉ずることが出来る者達である。
しかし、その思想の実践に際し彼女らは余りにも無邪気だった。
老いた猛将江角などが、夜京の酒場に繰り出しては、
「池田屋の仇討ちをするぞ」
などと言いふらしてまわったのである。
計画は、完全に筒抜けだった。
…かくして元治元年7月18日、開戦前から半分勝敗の決した戦が勃発した。
「村田さん、胴は付けないのかい！？」
「ああ、あんなものは邪魔なだけだ。鎖帷子だけでことたりる」
「そう…か。流石だな」
待機中の波浪組陣営では、緊張をほぐそうと辺り中で雑談が発生している。
「末永さん、あんたはなぜ戦う？なぜ波浪組に入ろうと思ったんです？」
こんな時国学を10年間学んだという末永真己に質問をぶつけたのは
波浪組副長、北上アミだった。
「もうすぐ出陣ですよ。無駄な話は…」
「無駄な話なんかじゃない。聞きたいんです。戦の前の今だからこそ」
2人のやり取りを横目で眺めているのは大木衣吹である。
「…これまで学んできたことを行かせるから。
まあ、もっとはっきり言えばここに来ればいい暮らしが出来るから…ですかな」
「！！…本当に…それだけ…なのか？その為に、
日本人同士が殺しあうということに疑問を感じたことはないのですか？」
北上の言葉に末永は目を丸くした。
日本人同士が殺しあう波浪組という部隊に設立当初から在籍しているのは、
北上のほうではないか。
「俺は学が無いし、よく分からないが…」
2人のやりとりを見ていた大木が口を出した。
「俺が波浪組に入ったのも最初は生活の為さ…でも、今は違う。
俺は、今は日本を外敵から守る為に戦ってるんだって信じてる」
「…そうか…そうだな。じゃあおれも…
…外敵から日本を守る為に戦うことにします。
突然こんな話をして申し訳ありませんでしたね。末永さん、大木君」
「戦う理由など、人それぞれ。それでいいのではないですかな」
「うん…そうだな」
末永も、大木も、まだこの時北上の言葉の意味に気付くことはなかった。
「ああ、あんなものは邪魔なだけだ。鎖帷子だけでことたりる」
「そう…か。流石だな」
待機中の波浪組陣営では、緊張をほぐそうと辺り中で雑談が発生している。
「末永さん、あんたはなぜ戦う？なぜ波浪組に入ろうと思ったんです？」
こんな時国学を10年間学んだという末永真己に質問をぶつけたのは
波浪組副長、北上アミだった。
「もうすぐ出陣ですよ。無駄な話は…」
「無駄な話なんかじゃない。聞きたいんです。戦の前の今だからこそ」
2人のやり取りを横目で眺めているのは大木衣吹である。
「…これまで学んできたことを行かせるから。
まあ、もっとはっきり言えばここに来ればいい暮らしが出来るから…ですかな」
「！！…本当に…それだけ…なのか？その為に、
日本人同士が殺しあうということに疑問を感じたことはないのですか？」
北上の言葉に末永は目を丸くした。
日本人同士が殺しあう波浪組という部隊に設立当初から在籍しているのは、
北上のほうではないか。
「俺は学が無いし、よく分からないが…」
2人のやりとりを見ていた大木が口を出した。
「俺が波浪組に入ったのも最初は生活の為さ…でも、今は違う。
俺は、今は日本を外敵から守る為に戦ってるんだって信じてる」
「…そうか…そうだな。じゃあおれも…
…外敵から日本を守る為に戦うことにします。
突然こんな話をして申し訳ありませんでしたね。末永さん、大木君」
「戦う理由など、人それぞれ。それでいいのではないですかな」
「うん…そうだな」
末永も、大木も、まだこの時北上の言葉の意味に気付くことはなかった。
「中澤さん、会津はなかなか動きませんね」
「うむ…」
会津が動き出すのを合図に、全軍が前進するという作戦だったが、
開戦からいつまで経っても会津は動こうとしない。
「多分池田屋の時同様会津は怖じ気づいている…我々だけで動きましょう」
「うむ…」
「あれ！？あっちで彦根がおかしいですよ」
労咳が落ち着いたためこの戦に参加している市井が
異常に気付いた。こちらが動き出す前に、味方の先鋒である彦根藩が総崩れに
なってしまっているらしいのである。
「中澤さん、どうやら、完全に出遅れたらしいな…」
「どうやら、そうらしい…波浪組！！突撃する！！彦根藩を救出するぞ！！」
「ハハハ！！斬れ斬れ斬れ～♪」
待たされたせいか完全に興奮状態になったりんねと、
怪我の後遺症のせいかりんねに出遅れた゛先駆け先生゛大谷を先頭に、
波浪組は彦根軍と戦闘中の会津軍と激突した。
この時のりんねの槍の間合いを詰め斬りつけようとする者には例外なく
死が与えられた。
りんねの槍は、目にも留まらぬ早さで回転したかと思うと、
周囲にいた敵を消し去ってしまっている。
そして馬上の敵にその槍を投げると刀を抜く。
縦横無尽の戦い振りだった。京の見廻りなどよりも戦場の方が好きだった。
「馬で戦場を駆け巡りたいよ」
それが口癖だった。愛馬は、実家に置いて来ている。
りんねの奮戦には理由があった。
小奇麗な服を着て一大名にでもなったかのように見えた中澤が、
戦場に出てみれば一個の戦士に戻ってくれたのが嬉しかったのだ。
その中澤はじめ他の隊士も奮闘を見せているが、
実は長州藩の主戦力は他の場所にいた。
主な戦力は既に、皇居の入り口前まで迫っていたのである。
「うむ…」
会津が動き出すのを合図に、全軍が前進するという作戦だったが、
開戦からいつまで経っても会津は動こうとしない。
「多分池田屋の時同様会津は怖じ気づいている…我々だけで動きましょう」
「うむ…」
「あれ！？あっちで彦根がおかしいですよ」
労咳が落ち着いたためこの戦に参加している市井が
異常に気付いた。こちらが動き出す前に、味方の先鋒である彦根藩が総崩れに
なってしまっているらしいのである。
「中澤さん、どうやら、完全に出遅れたらしいな…」
「どうやら、そうらしい…波浪組！！突撃する！！彦根藩を救出するぞ！！」
「ハハハ！！斬れ斬れ斬れ～♪」
待たされたせいか完全に興奮状態になったりんねと、
怪我の後遺症のせいかりんねに出遅れた゛先駆け先生゛大谷を先頭に、
波浪組は彦根軍と戦闘中の会津軍と激突した。
この時のりんねの槍の間合いを詰め斬りつけようとする者には例外なく
死が与えられた。
りんねの槍は、目にも留まらぬ早さで回転したかと思うと、
周囲にいた敵を消し去ってしまっている。
そして馬上の敵にその槍を投げると刀を抜く。
縦横無尽の戦い振りだった。京の見廻りなどよりも戦場の方が好きだった。
「馬で戦場を駆け巡りたいよ」
それが口癖だった。愛馬は、実家に置いて来ている。
りんねの奮戦には理由があった。
小奇麗な服を着て一大名にでもなったかのように見えた中澤が、
戦場に出てみれば一個の戦士に戻ってくれたのが嬉しかったのだ。
その中澤はじめ他の隊士も奮闘を見せているが、
実は長州藩の主戦力は他の場所にいた。
主な戦力は既に、皇居の入り口前まで迫っていたのである。
薩摩藩はずるかった。
幕府側について長州と戦いながらもその実思想としては反幕であるため、
正面切って長州とは戦いたくないという姿勢を取っていた。
そのため、「ここまで攻め込まれはしないだろう」という読みのもとに
皇居の入り口を固めていたのだが、皮肉にも薩摩は長州の主戦力と戦うこととなった。
薩摩の総大将は、安倍なつみである。
「戦いたくは無いけれど、かかる火の粉ははらわにゃならん～♪」
そう歌って巨体を馬に運ばせながら薩軍の指揮を取っている。
安倍の歌声には周囲にいる人の気持ちを落ち着ける効果でもあるのか、
皇居の目の前まで攻め込まれているにも関わらず薩軍には焦りがなかった。
いきり立つ長州軍に冷静に応戦している。
「お、おのれ…薩奸めら…」
老いた猛将、江角マキコが体中に銃弾を受けて戦死したのをきっかけに、
ついに長州軍は敗走した。
幕府側について長州と戦いながらもその実思想としては反幕であるため、
正面切って長州とは戦いたくないという姿勢を取っていた。
そのため、「ここまで攻め込まれはしないだろう」という読みのもとに
皇居の入り口を固めていたのだが、皮肉にも薩摩は長州の主戦力と戦うこととなった。
薩摩の総大将は、安倍なつみである。
「戦いたくは無いけれど、かかる火の粉ははらわにゃならん～♪」
そう歌って巨体を馬に運ばせながら薩軍の指揮を取っている。
安倍の歌声には周囲にいる人の気持ちを落ち着ける効果でもあるのか、
皇居の目の前まで攻め込まれているにも関わらず薩軍には焦りがなかった。
いきり立つ長州軍に冷静に応戦している。
「お、おのれ…薩奸めら…」
老いた猛将、江角マキコが体中に銃弾を受けて戦死したのをきっかけに、
ついに長州軍は敗走した。
「…俺達は、負けたんだな」
戦場から微妙に離れた場所で、
長州藩の総大将矢口真里は椛田早紀という同志と共に
何も敷かず地面に腰を掛けていた。
「負けた。天皇様の、お膝元で負けた」
「我々は、賊というわけだ」
「ああ、飛びきりの、賊だ」
「もう、生きてはおれんな」
「ああ、生きてはおれん」
矢口は、着物の前をはだけた。
「待て、矢口」
「なんだ？」
「髪が、乱れている」
「そうか、それは問題だな」
「ああ、大問題だとも」
矢口の髪に櫛をかける椛田も、矢口も、涙が止まらなかった。
「これなら、恥かしくない」
「そうか。ありがとう」
「いやいや、気にするな」
「さて、そろそろ逝くとするか」
「そうだな」
「……保田…松浦…みんな…後は頼んだぞ……」
遠くで、砲弾が炸裂する音がした。
元治元年7月21日、岩下志麻の自決をもって禁門の乱は幕を降ろした。
戦場から微妙に離れた場所で、
長州藩の総大将矢口真里は椛田早紀という同志と共に
何も敷かず地面に腰を掛けていた。
「負けた。天皇様の、お膝元で負けた」
「我々は、賊というわけだ」
「ああ、飛びきりの、賊だ」
「もう、生きてはおれんな」
「ああ、生きてはおれん」
矢口は、着物の前をはだけた。
「待て、矢口」
「なんだ？」
「髪が、乱れている」
「そうか、それは問題だな」
「ああ、大問題だとも」
矢口の髪に櫛をかける椛田も、矢口も、涙が止まらなかった。
「これなら、恥かしくない」
「そうか。ありがとう」
「いやいや、気にするな」
「さて、そろそろ逝くとするか」
「そうだな」
「……保田…松浦…みんな…後は頼んだぞ……」
遠くで、砲弾が炸裂する音がした。
元治元年7月21日、岩下志麻の自決をもって禁門の乱は幕を降ろした。
子母澤寛の新撰組始末記とか読みまくってたから懐かしいね。
ただ今は、名前を置き換えただけの印象があるから
もう少しキャラの個性を出して欲しい。
なんか昔読んだ気がするって感じがしてきて・・・
ただ今は、名前を置き換えただけの印象があるから
もう少しキャラの個性を出して欲しい。
なんか昔読んだ気がするって感じがしてきて・・・
>>113
申し訳ないです。
モーニング娘。のキャラの個性は2の次です。
出すつもりがあったら中澤とか平家には関西弁喋らせますからね。
自分が思ってるこの時代の人達のキャラを優先しています。
近い人を選んで当てはめてるつもりですので…
近いかどうかは人それぞれで違うのは当たり前ですけど
申し訳ないです。
モーニング娘。のキャラの個性は2の次です。
出すつもりがあったら中澤とか平家には関西弁喋らせますからね。
自分が思ってるこの時代の人達のキャラを優先しています。
近い人を選んで当てはめてるつもりですので…
近いかどうかは人それぞれで違うのは当たり前ですけど
＝北上アミ＝
禁門の乱終結後、ますますその名を高めた中澤裕子率いる波浪組は、
隊士募集の為に江戸へと旅立った。
中澤に同行したのは末永真己、大谷雅恵、りんね、あさみ、村田めぐみらである。
江戸に向かう船上、大谷はしきりに一人の志士を中澤に推薦した。
「私や北上さんと同じ流派で、石川梨華氏という人がいるのですが、
彼女は学もあり、剣の腕も相当のものがあります。加入させられれば、
必ず波浪組の心強い力となってくれることでしょう」
「君ほどの者がそこまで手放しで褒め称えるとは…かなりの人物なのであろうな」
中澤も肯き、最初に石川の勧誘を行うことに決定した。
隊士募集の為に江戸へと旅立った。
中澤に同行したのは末永真己、大谷雅恵、りんね、あさみ、村田めぐみらである。
江戸に向かう船上、大谷はしきりに一人の志士を中澤に推薦した。
「私や北上さんと同じ流派で、石川梨華氏という人がいるのですが、
彼女は学もあり、剣の腕も相当のものがあります。加入させられれば、
必ず波浪組の心強い力となってくれることでしょう」
「君ほどの者がそこまで手放しで褒め称えるとは…かなりの人物なのであろうな」
中澤も肯き、最初に石川の勧誘を行うことに決定した。
「なぁ、あさみさん、今日の大谷さんはなんだかおかしかったな」
確かに、石川のことを中澤に勧める大谷の目の輝きは尋常ではなかった。
「そういえば、そうだった」
「北波一刀流は最近どうかしてるんじゃないか」
北波一刀流は大谷雅恵や北上アミ、それに既に死亡している福田明日香、
あるいは後藤真希らも所属する全国に4000人近い門下生を持つ由緒ある流派である。
「そういえば、北上さんも最近おかしいな」
「だろう！？池田屋事件以来、いや既に稲葉暗殺の頃から…あ、これはまずいな」
稲葉暗殺時のいきさつはあさみには未だ伝えられていない。
「…もう済んだことさ」
あさみの言葉を受けて、りんねが続けた。
「思えば、あの頃から北上さんはおかしい」
実は、学問の徒でもある北上は、元から尊王攘夷の思想を持っていた。
だからこそ、波浪組副長として外敵から日本国を守る為に売国奴と戦う気持ちでいた。
なのに、実際に自分がしていることと言えば
毎晩京の街を見廻り、怪しいものを引っ立てたり、斬ったりすることだけ。
これが、本当に日本を外敵から守ることになっているのだろうか…
その疑問が稲葉暗殺の頃から、大木のように単純になれない北上を
憂鬱の底に落とし込んでいた。
入隊してきた医学と国学と和式の兵学を修めたという末永の人物に
絶望したということもあっただろう。
池田屋事件の際の石黒彩や後藤真希の言葉も胸に響いた。
石川加入のいきさつは後に語ることにする。
…とにかく、中澤一行が石川梨華一行を伴ない京へ帰還したのは、
元治元年10月27日のことである。
確かに、石川のことを中澤に勧める大谷の目の輝きは尋常ではなかった。
「そういえば、そうだった」
「北波一刀流は最近どうかしてるんじゃないか」
北波一刀流は大谷雅恵や北上アミ、それに既に死亡している福田明日香、
あるいは後藤真希らも所属する全国に4000人近い門下生を持つ由緒ある流派である。
「そういえば、北上さんも最近おかしいな」
「だろう！？池田屋事件以来、いや既に稲葉暗殺の頃から…あ、これはまずいな」
稲葉暗殺時のいきさつはあさみには未だ伝えられていない。
「…もう済んだことさ」
あさみの言葉を受けて、りんねが続けた。
「思えば、あの頃から北上さんはおかしい」
実は、学問の徒でもある北上は、元から尊王攘夷の思想を持っていた。
だからこそ、波浪組副長として外敵から日本国を守る為に売国奴と戦う気持ちでいた。
なのに、実際に自分がしていることと言えば
毎晩京の街を見廻り、怪しいものを引っ立てたり、斬ったりすることだけ。
これが、本当に日本を外敵から守ることになっているのだろうか…
その疑問が稲葉暗殺の頃から、大木のように単純になれない北上を
憂鬱の底に落とし込んでいた。
入隊してきた医学と国学と和式の兵学を修めたという末永の人物に
絶望したということもあっただろう。
池田屋事件の際の石黒彩や後藤真希の言葉も胸に響いた。
石川加入のいきさつは後に語ることにする。
…とにかく、中澤一行が石川梨華一行を伴ない京へ帰還したのは、
元治元年10月27日のことである。
この頃、新しい編成表が発表された。
【総長】
中澤裕子
【副長】
平家みちよ
【参謀】
石川梨華
【組長】
一番隊 市井紗耶香
二番隊 あさみ
三番隊 村田めぐみ
四番隊 …（゛今弁慶゛の異名を持つ猛者）
五番隊 末永真己
六番隊 前田有紀
七番隊 …（池田屋事件で逃亡した゛祐ちゃんの子供゛の実兄）
八番隊 大谷雅恵
九番隊 …（石川梨華の実妹）
十番隊 りんね
【諸士取扱役兼監察】
斎藤瞳
等
【勘定役】
…
【伍長】
大木衣吹
等
これだけを見ても、新参の石川梨華がどれだけ中澤に気に入られたかが分かる。
…しかし、ここで見るべきは北上アミの名がどこにも見当たらないという、
その一点である。
【総長】
中澤裕子
【副長】
平家みちよ
【参謀】
石川梨華
【組長】
一番隊 市井紗耶香
二番隊 あさみ
三番隊 村田めぐみ
四番隊 …（゛今弁慶゛の異名を持つ猛者）
五番隊 末永真己
六番隊 前田有紀
七番隊 …（池田屋事件で逃亡した゛祐ちゃんの子供゛の実兄）
八番隊 大谷雅恵
九番隊 …（石川梨華の実妹）
十番隊 りんね
【諸士取扱役兼監察】
斎藤瞳
等
【勘定役】
…
【伍長】
大木衣吹
等
これだけを見ても、新参の石川梨華がどれだけ中澤に気に入られたかが分かる。
…しかし、ここで見るべきは北上アミの名がどこにも見当たらないという、
その一点である。
発足当時からの参加者であり、常にナンバー2の地位にあった
北上の名が無いのはなぜか…
中澤はナンバー2である北上よりもナンバー3であるはずの平家に近しい。
それも北上が軽んじられる理由のひとつではあっただろう。
それに加えて多数の学者が入り込み、
隊内での居場所が無くなってきたということもあっただろう。
しかし、最も大きな理由と言えば、
これから数週間前に、波浪組がただの暗殺者集団に成り果てていく、
そのことに耐え切れなくなった北上が、
幕府に対し波浪組解散の申し入れをしたということであった。
しかしながら幕府が゛便利な道具゛である波浪組の解散などを
認めるはずが無く、あえなくその申し入れは却下された。
そしてこのことは中澤の知るところともなり、
北上は完全に居場所を失ったのである。
しかし北上は゛試衛館゛以来の同志であり、
役員からは漏れたものの、待遇は以前とほぼ変わらなかった。
同じ流派であり旧知の仲でもあった石川が加入し、
共に時勢を語り合ったりもしただろう。
石川とて、北上と近い思想を持っている。
しかし、それすらも慰みにはならなかった。
…北上は、脱走した。
元治2年2月22日、奇しくも2が4つならんだ晴天の日のことである。
北上の名が無いのはなぜか…
中澤はナンバー2である北上よりもナンバー3であるはずの平家に近しい。
それも北上が軽んじられる理由のひとつではあっただろう。
それに加えて多数の学者が入り込み、
隊内での居場所が無くなってきたということもあっただろう。
しかし、最も大きな理由と言えば、
これから数週間前に、波浪組がただの暗殺者集団に成り果てていく、
そのことに耐え切れなくなった北上が、
幕府に対し波浪組解散の申し入れをしたということであった。
しかしながら幕府が゛便利な道具゛である波浪組の解散などを
認めるはずが無く、あえなくその申し入れは却下された。
そしてこのことは中澤の知るところともなり、
北上は完全に居場所を失ったのである。
しかし北上は゛試衛館゛以来の同志であり、
役員からは漏れたものの、待遇は以前とほぼ変わらなかった。
同じ流派であり旧知の仲でもあった石川が加入し、
共に時勢を語り合ったりもしただろう。
石川とて、北上と近い思想を持っている。
しかし、それすらも慰みにはならなかった。
…北上は、脱走した。
元治2年2月22日、奇しくも2が4つならんだ晴天の日のことである。
「追え！」
市井紗耶香に追跡を命じた中澤だったが、
その心中は複雑だった。
北上が最近おかしいということに気付いていながらも、
それを止めることが出来なかったのである。
「この脱走には、おれにも責任の一端がある」
中澤の自白に近い言葉に、しかし平家は
「いや、中澤さんに責任はない…全責任は、北上にある」
そう答えた。
「なんとか、寛大な処分は出来ないものか？」
「中澤さん…総長自ら隊の規律を乱すつもりか！？」
中澤は答えることが出来ず、ただ、
（北上さんよ…なんとか逃げ切ってくれ）
そう祈るのみだった。
平家の瞳は、あくまで冷厳に光っている。
市井紗耶香に追跡を命じた中澤だったが、
その心中は複雑だった。
北上が最近おかしいということに気付いていながらも、
それを止めることが出来なかったのである。
「この脱走には、おれにも責任の一端がある」
中澤の自白に近い言葉に、しかし平家は
「いや、中澤さんに責任はない…全責任は、北上にある」
そう答えた。
「なんとか、寛大な処分は出来ないものか？」
「中澤さん…総長自ら隊の規律を乱すつもりか！？」
中澤は答えることが出来ず、ただ、
（北上さんよ…なんとか逃げ切ってくれ）
そう祈るのみだった。
平家の瞳は、あくまで冷厳に光っている。
中澤の願い空しく、北上はあっけなく見つかった。
波浪組屯所から程近い宿屋の一室で、まるで市井が追ってくるのを
待っていたかのようにくつろいでいたのである。
思えば、北上は置き手紙の一つも残していなかった。
本当に、突発的に、これまで堪えてきていたものがふいに切れてしまったのだろう。
しかし行動してからすぐに、逃げることは何の解決にもならないと気付いた。
「よう、市井君、待っていたよ」
「北上さん…」
「さて、行こうか」
帰還後、北上は屯所内の謹慎室に閉じ込められ、
程無く切腹の判決が下された。
大多数であった擁護派を強引に押し切っての、平家の一存であった。
波浪組屯所から程近い宿屋の一室で、まるで市井が追ってくるのを
待っていたかのようにくつろいでいたのである。
思えば、北上は置き手紙の一つも残していなかった。
本当に、突発的に、これまで堪えてきていたものがふいに切れてしまったのだろう。
しかし行動してからすぐに、逃げることは何の解決にもならないと気付いた。
「よう、市井君、待っていたよ」
「北上さん…」
「さて、行こうか」
帰還後、北上は屯所内の謹慎室に閉じ込められ、
程無く切腹の判決が下された。
大多数であった擁護派を強引に押し切っての、平家の一存であった。
北上の謹慎室に最初に訪ねてきたのは平家だった。
「どうかね？北上さん、具合のほうは」
「おかげさまで、悪くはないな」
「そうか、それはよかった」
…しばし沈黙があった。
「それだけかね！？」
北上にうながされ、平家が口を開いた。
「なぜだ…なぜあなたほどの賢明な人がこんな無茶な真似をした」
「ふと…嫌になったんだよ。何もかもがね」
平家は首を横に振った。
「違う！そうではないはずだ」
「君の様に剣一本だけで生きていく覚悟の人には話しても分からんよ」
「なぜだ…あなたはいつもそうだ…学の無い私になど何を話しても分からないとでも
思っているのだろう…だが、私は話してほしかった…あなたの悩みを知りたかった」
平家の両目に浮かぶ涙を見て北上は目を丸くした。
「どうかね？北上さん、具合のほうは」
「おかげさまで、悪くはないな」
「そうか、それはよかった」
…しばし沈黙があった。
「それだけかね！？」
北上にうながされ、平家が口を開いた。
「なぜだ…なぜあなたほどの賢明な人がこんな無茶な真似をした」
「ふと…嫌になったんだよ。何もかもがね」
平家は首を横に振った。
「違う！そうではないはずだ」
「君の様に剣一本だけで生きていく覚悟の人には話しても分からんよ」
「なぜだ…あなたはいつもそうだ…学の無い私になど何を話しても分からないとでも
思っているのだろう…だが、私は話してほしかった…あなたの悩みを知りたかった」
平家の両目に浮かぶ涙を見て北上は目を丸くした。
門弟らからは鬼と呼ばれ、嫌われこそすれ好かれることなどほとんど無かった
平家が、自分の為に目に涙を浮かべている。
（鬼の目にも涙か…）
そんな冗談を思い付いた北上だったが、口から笑いがこぼれる代わりに
目から涙がこぼれた。
「うかつだな、平家さん…その涙は隊士に見せてはならんぜ…君は波浪組副長で
あり続ける限り人前で泣いてはならん…君はそういう役目なのだから」
「……」
平家は無言で涙を拭くと、立ちあがった。
「北上さん、脱走は切腹だ…分かっているな」
「フフフ…そうだ。君はそうでなけりゃならん」
口ではそう言いながらも、
（やはり、君には分からんよ）
心中でそう言う北上だった。
平家が、自分の為に目に涙を浮かべている。
（鬼の目にも涙か…）
そんな冗談を思い付いた北上だったが、口から笑いがこぼれる代わりに
目から涙がこぼれた。
「うかつだな、平家さん…その涙は隊士に見せてはならんぜ…君は波浪組副長で
あり続ける限り人前で泣いてはならん…君はそういう役目なのだから」
「……」
平家は無言で涙を拭くと、立ちあがった。
「北上さん、脱走は切腹だ…分かっているな」
「フフフ…そうだ。君はそうでなけりゃならん」
口ではそう言いながらも、
（やはり、君には分からんよ）
心中でそう言う北上だった。
次に訪ねてきたのは五番隊組長、末永真己である。
「ようやく、今になってあの時のあなたの言葉の意味が理解できました。
…しかし、いささか遅すぎたようですな」
「禁門の戦の時でしたか…あの時はおれも少し興奮していたようです」
末永は苦笑すると、
「しかしあなたの話は興味深かった…私は学問とは、立身出世の為に
使うべきものだと信じきっていたのです…
心身を投げ出し、日本国の為に学問を生かす…新たな発見でしたよ」
「しかし、その考えは波浪組内では危険な思想です。
私の二の舞にもなりかねないものです」
末永は普段見せたことも無いような不敵な笑みを見せると、
「私は…上手くやってみせますよ…」
そう言い、
「そうですか…期待しています」
「では、ご達者で…」
末永は北上の言葉を受けてそう言うと謹慎室を出て行った。
「ようやく、今になってあの時のあなたの言葉の意味が理解できました。
…しかし、いささか遅すぎたようですな」
「禁門の戦の時でしたか…あの時はおれも少し興奮していたようです」
末永は苦笑すると、
「しかしあなたの話は興味深かった…私は学問とは、立身出世の為に
使うべきものだと信じきっていたのです…
心身を投げ出し、日本国の為に学問を生かす…新たな発見でしたよ」
「しかし、その考えは波浪組内では危険な思想です。
私の二の舞にもなりかねないものです」
末永は普段見せたことも無いような不敵な笑みを見せると、
「私は…上手くやってみせますよ…」
そう言い、
「そうですか…期待しています」
「では、ご達者で…」
末永は北上の言葉を受けてそう言うと謹慎室を出て行った。
あさみ、りんね、大谷、石川らが次々と訪ねて来てようやく最後に訪ねてきたのは
波浪組伍長、大木衣吹だった。
「なんとなく…本当になんとなくだが、いつかこうなるような気がしていた」
「そうかね…」
波浪組きっての巨漢隊士である大木だが、その外見によらず身が軽く、
加えて不思議に勘も働くために隠密の任務を帯びることがあった。
その大木が言うだけに説得力がある。
「しかしなぜだ？北上さんもあの時、日本国を守るために戦うと言ったではないか」
「戦う理由が人それぞれであるように…戦い方も人それぞれ…そういうことだよ」
大木は首をかしげた。
大木衣吹は生来実直な性格をしており、
維新後まで生き残る彼女は死ぬまで再三の維新政府からの招聘を
「敵方の政府の招聘に応じる義理など無いわ」
と言って拒み続け、とある神社の守衛として天寿を全うした。
懐には常に平家みちよ直筆という名札を忍ばせていたという。
死ぬまで、波浪組の隊士であり続けた。
「ならば、俺は、俺の戦い方を貫こう」
「それでいい」
大木も出て行った謹慎室は静寂に包まれた。
波浪組伍長、大木衣吹だった。
「なんとなく…本当になんとなくだが、いつかこうなるような気がしていた」
「そうかね…」
波浪組きっての巨漢隊士である大木だが、その外見によらず身が軽く、
加えて不思議に勘も働くために隠密の任務を帯びることがあった。
その大木が言うだけに説得力がある。
「しかしなぜだ？北上さんもあの時、日本国を守るために戦うと言ったではないか」
「戦う理由が人それぞれであるように…戦い方も人それぞれ…そういうことだよ」
大木は首をかしげた。
大木衣吹は生来実直な性格をしており、
維新後まで生き残る彼女は死ぬまで再三の維新政府からの招聘を
「敵方の政府の招聘に応じる義理など無いわ」
と言って拒み続け、とある神社の守衛として天寿を全うした。
懐には常に平家みちよ直筆という名札を忍ばせていたという。
死ぬまで、波浪組の隊士であり続けた。
「ならば、俺は、俺の戦い方を貫こう」
「それでいい」
大木も出て行った謹慎室は静寂に包まれた。
最初に北上の介錯役に指名されたのはあさみだった。
「嫌だなぁ…北上さんは最初からの同志だし、人柄も好きだ。
どうにか他の人にやってもらえないものかな…」
そう言いながら自分の方を見るあさみにりんねは気付かないふりをする。
「うっ…」
不覚にもあさみと目が合ってしまった大谷だったが、
「悪いが俺にゃ北上さんは斬れんよ。北上さんはね」
意味深な断り方をした。
「村田さ～ん…」
しかし村田も、
「おれは意味の無い人斬りはせん。この切腹には意味など無いからな」
そう言って辞した。
「私がやりますよ」
あさみの後背から声がしたのはこの時だった。
「い…市井さん」
市井紗耶香ももともとあさみらにとっては得体の知れない若者ではあったが、
労咳を発病しある程度人生の先が見えるようになって以来、
その得体の知れなさは更に増している。
「し…しかし、君は北上さんとは試衛館からの…」
「誰かがやらねばならないことです」
市井はそうとだけ答えた。
「…そうだな…君がやるならば北上さんも喜んでくれるだろう」
「嫌だなぁ…北上さんは最初からの同志だし、人柄も好きだ。
どうにか他の人にやってもらえないものかな…」
そう言いながら自分の方を見るあさみにりんねは気付かないふりをする。
「うっ…」
不覚にもあさみと目が合ってしまった大谷だったが、
「悪いが俺にゃ北上さんは斬れんよ。北上さんはね」
意味深な断り方をした。
「村田さ～ん…」
しかし村田も、
「おれは意味の無い人斬りはせん。この切腹には意味など無いからな」
そう言って辞した。
「私がやりますよ」
あさみの後背から声がしたのはこの時だった。
「い…市井さん」
市井紗耶香ももともとあさみらにとっては得体の知れない若者ではあったが、
労咳を発病しある程度人生の先が見えるようになって以来、
その得体の知れなさは更に増している。
「し…しかし、君は北上さんとは試衛館からの…」
「誰かがやらねばならないことです」
市井はそうとだけ答えた。
「…そうだな…君がやるならば北上さんも喜んでくれるだろう」
切腹は翌朝屯所西側の一室で行われた。
次々に見届け人席に人が集まってくる中、
平家みちよがようやく最後になって到着した。
「やっと来たか、狐面」
北上の言葉にも眉一つ動かさず席につく平家。
「介錯は市井君か。君がやってくれるならば安心して逝けるよ」
次に北上は側にきた市井に視線を移してそう言った。
市井は目を伏せて礼に代える。
これまで何度も隊士の介錯を務めてきた市井は慣れたものだ。
北上は平家を睨み付けると、
「おれは君を哀れむぞ…九尾の狐め！」
そう言って刀を腹に突き立て、掻き斬った。
平家はこの時も眉一つ動かさなかった。
隊内で潤滑油の役割を果たしていた北上の死により、
これを前後して隊内の治安が多いに乱れた。
彼女の人柄が隊内でどれほど愛されていたかの裏返しであろう。
元治2年2月23日、まだ日は高かった。
次々に見届け人席に人が集まってくる中、
平家みちよがようやく最後になって到着した。
「やっと来たか、狐面」
北上の言葉にも眉一つ動かさず席につく平家。
「介錯は市井君か。君がやってくれるならば安心して逝けるよ」
次に北上は側にきた市井に視線を移してそう言った。
市井は目を伏せて礼に代える。
これまで何度も隊士の介錯を務めてきた市井は慣れたものだ。
北上は平家を睨み付けると、
「おれは君を哀れむぞ…九尾の狐め！」
そう言って刀を腹に突き立て、掻き斬った。
平家はこの時も眉一つ動かさなかった。
隊内で潤滑油の役割を果たしていた北上の死により、
これを前後して隊内の治安が多いに乱れた。
彼女の人柄が隊内でどれほど愛されていたかの裏返しであろう。
元治2年2月23日、まだ日は高かった。
128 ：蛇足5：2001/05/19(土) 16:22 ID:.Xkja8VM
出番の終了している面々の紹介
ダニエル=デラウニー（生年不詳～1859）
黒船を率い浦賀に来航し、通商条約を締結させた。アメリカ東インド会社艦隊提督。
日本人とは余りにも違う顔付き体つきは当時の幕臣を恐れさせた。
学業に専念のため帰国するが後病没。
気が短かったとされる。
アヤカ=キムラ（生年不詳～1860）
ダニエルと共に来日した通訳。暗殺に会い没する。
実は日本人だったのではないかとする説が現在では有力である。
日本人に英語を教えることが趣味だったらしい。日本人に近い顔つきをしていたという。
※本編未登場
福田明日香（弘化4年〈1847〉～文久3年〈1863〉）
出羽藩出身の志士。波浪組結成のきっかけを作った。
その死には幕府からの働きかけが大きかったとも言われる。
趣味が社会学という勤勉な人物だった。
身長が低いことをコンプレックスにしていた。
信田美帆（生年不詳～文久3年〈1863〉）
死亡当時波浪組局長でありながら現存する資料が余りにも少ない。
稲葉貴子らとともに波浪組に合流したとされる。
詰め腹を切らされ死亡とされるが…
酒癖は悪かったものの剣術には卓越したものがあったいう。
稲葉貴子（生年不詳～文久3年〈1863〉）
水戸藩天狗党の出身とあるが、水戸藩天狗党の党員名簿にその名は無い。
信田と同じく現存する資料が少ないが、
その死には福田と同じく幕府の働きかけがあったとされる。
剣術はかなりのものであった。
三佳千夏（生年不詳～文久3年〈1863〉）
稲葉の同門。稲葉と運命を共にした。
姿形の美しい両脚の持ち主であったという。
水戸藩天狗党からリストラされていたのではないかという説がある。
RuRu（生没年不詳）
謎に包まれている存在。稲葉襲撃の際唯一難を逃れ、
後に満州でソロアルバムをリリースしたという言い伝えがあるものの、
実は台湾であったとする説も…
日本人では無かったという説がある。
ダニエル=デラウニー（生年不詳～1859）
黒船を率い浦賀に来航し、通商条約を締結させた。アメリカ東インド会社艦隊提督。
日本人とは余りにも違う顔付き体つきは当時の幕臣を恐れさせた。
学業に専念のため帰国するが後病没。
気が短かったとされる。
アヤカ=キムラ（生年不詳～1860）
ダニエルと共に来日した通訳。暗殺に会い没する。
実は日本人だったのではないかとする説が現在では有力である。
日本人に英語を教えることが趣味だったらしい。日本人に近い顔つきをしていたという。
※本編未登場
福田明日香（弘化4年〈1847〉～文久3年〈1863〉）
出羽藩出身の志士。波浪組結成のきっかけを作った。
その死には幕府からの働きかけが大きかったとも言われる。
趣味が社会学という勤勉な人物だった。
身長が低いことをコンプレックスにしていた。
信田美帆（生年不詳～文久3年〈1863〉）
死亡当時波浪組局長でありながら現存する資料が余りにも少ない。
稲葉貴子らとともに波浪組に合流したとされる。
詰め腹を切らされ死亡とされるが…
酒癖は悪かったものの剣術には卓越したものがあったいう。
稲葉貴子（生年不詳～文久3年〈1863〉）
水戸藩天狗党の出身とあるが、水戸藩天狗党の党員名簿にその名は無い。
信田と同じく現存する資料が少ないが、
その死には福田と同じく幕府の働きかけがあったとされる。
剣術はかなりのものであった。
三佳千夏（生年不詳～文久3年〈1863〉）
稲葉の同門。稲葉と運命を共にした。
姿形の美しい両脚の持ち主であったという。
水戸藩天狗党からリストラされていたのではないかという説がある。
RuRu（生没年不詳）
謎に包まれている存在。稲葉襲撃の際唯一難を逃れ、
後に満州でソロアルバムをリリースしたという言い伝えがあるものの、
実は台湾であったとする説も…
日本人では無かったという説がある。
＝末永真己＝
「平家は本当の鬼だ」
「奴の体には冷たい血が流れているに違いない」
北上の死以来、そんな評判が隊内に流れた。
北上が死んだ日、中澤は一人居室に篭り北上の為に一日中経をあげ続けていたという。
その日一日、隊の運営は副長たる平家が代行した。
北上の死など無かったかの様に指示を出す平家を隊士達は、
化け物を見るような目で見ていたものだ。
「案外、鬼と言うより桃太郎のほうかもしれんぜ。
俺達が鬼で、それを成敗するのが平家さんってね」
などと大谷などが皮肉な冗談を言ったりしているのを聞いて、
密かに策謀を巡らせていたのは末永真己だった。
（隊内の規律が乱れている今ならば…）
「奴の体には冷たい血が流れているに違いない」
北上の死以来、そんな評判が隊内に流れた。
北上が死んだ日、中澤は一人居室に篭り北上の為に一日中経をあげ続けていたという。
その日一日、隊の運営は副長たる平家が代行した。
北上の死など無かったかの様に指示を出す平家を隊士達は、
化け物を見るような目で見ていたものだ。
「案外、鬼と言うより桃太郎のほうかもしれんぜ。
俺達が鬼で、それを成敗するのが平家さんってね」
などと大谷などが皮肉な冗談を言ったりしているのを聞いて、
密かに策謀を巡らせていたのは末永真己だった。
（隊内の規律が乱れている今ならば…）
10年間和式の兵学、国学、医学を学び、学者として入隊した
現波浪組五番隊組長である。波浪組文学師範も兼務している。
剣の腕も、決して他に劣るものではない。
そんな彼女が新参である石川に参謀の地位を先取りされたのは、
押し寄せる欧化の波に乗ってやってきた洋式兵学を波浪組が採用し、
その為に末永の専門であった和式の兵学の必要性が薄れたせいであった。
（もはや時勢は変わった。和式の兵学は無用の長物となろうな…
だが、私には国学と医学がある。これを使えば、日本国の為に働くことも出来よう）
しかし、波浪組の一組長である限り国学は必要無い。
波浪組以外でとなれば長州藩か薩摩藩か…
長州藩は池田屋騒動や禁門の乱のことがあり、波浪組のことを激しく憎んでいる。
（ならば、薩摩か…）
始め、末永は顔の広い石川に近づこうとした。
しかし、石川はまだ機は熟していないとだけ言って、
動いてはくれなかった。
末永は石川よりは古いということもあって、
それ以上無理に頼むことはプライドが許さなかった。
現波浪組五番隊組長である。波浪組文学師範も兼務している。
剣の腕も、決して他に劣るものではない。
そんな彼女が新参である石川に参謀の地位を先取りされたのは、
押し寄せる欧化の波に乗ってやってきた洋式兵学を波浪組が採用し、
その為に末永の専門であった和式の兵学の必要性が薄れたせいであった。
（もはや時勢は変わった。和式の兵学は無用の長物となろうな…
だが、私には国学と医学がある。これを使えば、日本国の為に働くことも出来よう）
しかし、波浪組の一組長である限り国学は必要無い。
波浪組以外でとなれば長州藩か薩摩藩か…
長州藩は池田屋騒動や禁門の乱のことがあり、波浪組のことを激しく憎んでいる。
（ならば、薩摩か…）
始め、末永は顔の広い石川に近づこうとした。
しかし、石川はまだ機は熟していないとだけ言って、
動いてはくれなかった。
末永は石川よりは古いということもあって、
それ以上無理に頼むことはプライドが許さなかった。
末永は、しかたなく信頼に足る部下を呼んだ。
「薩摩藩の人物と言えば、誰か！？」
「安倍なつみと、飯田圭織と言ったところでしょうか」
「どちらが信頼に足ると考えるね？」
その部下は、
「安倍なつみは、おだやかな気性の持ち主であるそうです。
安倍ならば、我々にも協力的な姿勢を取ってくれるのではないでしょうか」
交渉の相手が、決まった。
しかし、この人選がそもそもの間違いだったのである。
国学、医学の知識を売り物とし、
末永は何度も極秘で安倍に会談を求める使者を送った。
しかし、その度に
「今はあいにく外出中です」
「人と会っているようです」
しまいには
「食事中です」
などという理由で断わられ、面会すら出来ない状態だった。
おだやかそうに見えて好戦的な人物として知られる安倍だが、
その反面彼女は゛暗殺゛という暗い行為を悪鬼のように嫌う。
その権化とも言える波浪組など、安倍にとっては嫌っても嫌いきれない存在だった。
「く…これ以上平家に隠れて使者を出すのは限界だ…」
ついに、末永は安倍を諦め、飯田圭織との面会を求めることにした。
そして、それはたった一度の使者で認められたのである。
「薩摩藩の人物と言えば、誰か！？」
「安倍なつみと、飯田圭織と言ったところでしょうか」
「どちらが信頼に足ると考えるね？」
その部下は、
「安倍なつみは、おだやかな気性の持ち主であるそうです。
安倍ならば、我々にも協力的な姿勢を取ってくれるのではないでしょうか」
交渉の相手が、決まった。
しかし、この人選がそもそもの間違いだったのである。
国学、医学の知識を売り物とし、
末永は何度も極秘で安倍に会談を求める使者を送った。
しかし、その度に
「今はあいにく外出中です」
「人と会っているようです」
しまいには
「食事中です」
などという理由で断わられ、面会すら出来ない状態だった。
おだやかそうに見えて好戦的な人物として知られる安倍だが、
その反面彼女は゛暗殺゛という暗い行為を悪鬼のように嫌う。
その権化とも言える波浪組など、安倍にとっては嫌っても嫌いきれない存在だった。
「く…これ以上平家に隠れて使者を出すのは限界だ…」
ついに、末永は安倍を諦め、飯田圭織との面会を求めることにした。
そして、それはたった一度の使者で認められたのである。
「私はあなたのように不器用な真似はせんよ、北上さん」
冥土の同志に話し掛ける末永。
「始めまして。波浪組の幹部の…杖長さんですね？」
初めての面会での飯田の第一声が、これだった。
「杖長ではなく…末永です」
「これは失敬いたしましたこのみ」
「…」
これから数度2人は密会を重ね、時勢について議論を交わし、
ようやく薩摩藩での末永真己受け入れに漕ぎ着けた。
勿論、波浪組には極秘裏に、である。
冥土の同志に話し掛ける末永。
「始めまして。波浪組の幹部の…杖長さんですね？」
初めての面会での飯田の第一声が、これだった。
「杖長ではなく…末永です」
「これは失敬いたしましたこのみ」
「…」
これから数度2人は密会を重ね、時勢について議論を交わし、
ようやく薩摩藩での末永真己受け入れに漕ぎ着けた。
勿論、波浪組には極秘裏に、である。
波浪組で酒宴が行われることとなったのは、
薩摩藩の末永真己受け入れが決定したその日である。
「末永さん…酒宴にご出席なさるのですか？」
「無論だ…欠席したりすれば逆に怪しまれよう。堂々と出席して間違い無い」
部下の心配をよそに、末永は堂々と酒宴への出席を決めた。
酒宴の会場に足を踏み入れた末永は、大勢の隊士の笑顔を見ることになった。
「みんな待ってましたよ、末永様」
「おめでとうございます！」
訳も分からず、
「か…かたじけない…！？」
礼を言って奥の席に進もうとするうち末永はそこにあるものを確認し
顔色を変えた。
上座に、゛末永真己様お別れ会゛などという垂れ幕が掛かっていたのである。
末永の行動は、既に斎藤ら隠密方の手により波浪組に筒抜けの状態だった。
末永は、安倍との交渉の段階で手間取り過ぎた。
「な…なんと…」
愕然とする末永の背中を、
「水臭いではないですか末永様！このような吉報を我々に黙っておられるとは！！」
馬鹿でかい声を上げながら叩いたのは平家みちよだった。
その顔には笑顔がはりついてはいるものの、目は笑っていない。
薩摩藩の末永真己受け入れが決定したその日である。
「末永さん…酒宴にご出席なさるのですか？」
「無論だ…欠席したりすれば逆に怪しまれよう。堂々と出席して間違い無い」
部下の心配をよそに、末永は堂々と酒宴への出席を決めた。
酒宴の会場に足を踏み入れた末永は、大勢の隊士の笑顔を見ることになった。
「みんな待ってましたよ、末永様」
「おめでとうございます！」
訳も分からず、
「か…かたじけない…！？」
礼を言って奥の席に進もうとするうち末永はそこにあるものを確認し
顔色を変えた。
上座に、゛末永真己様お別れ会゛などという垂れ幕が掛かっていたのである。
末永の行動は、既に斎藤ら隠密方の手により波浪組に筒抜けの状態だった。
末永は、安倍との交渉の段階で手間取り過ぎた。
「な…なんと…」
愕然とする末永の背中を、
「水臭いではないですか末永様！このような吉報を我々に黙っておられるとは！！」
馬鹿でかい声を上げながら叩いたのは平家みちよだった。
その顔には笑顔がはりついてはいるものの、目は笑っていない。
「い…いや、あえて報告するほどのことでも無かろうと思ったものでね…」
なんとか絞り出すように言った末永だったが、
平家は聞く耳を持たず末永を上座の中心につかせると酒を勧めた。
「い…いや、私は余り飲めんのです」
構わずかぶせられるように飲まされた末永は、あっという間に泥酔した。
酔った勢いで、
「早く薩摩藩邸に行かせてくれ！」
などと末永が口走ると、
「村田君、大木君、末永様が薩摩藩邸にお帰りだ。
送って行って差し上げたまえ。失礼の無いようにな」
「了解しました」
村田はそう言って末永の片腕を掴むと、強引に立ち上がらせた。
「大木君、行こうか」
言われるままに大木はもう一方の肩を抱き、
末永を外に連れ出した。
「末永さん…大丈夫か！？」
店から出た直後の末永は大木の呼びかけにも反応が無かった。
なんとか絞り出すように言った末永だったが、
平家は聞く耳を持たず末永を上座の中心につかせると酒を勧めた。
「い…いや、私は余り飲めんのです」
構わずかぶせられるように飲まされた末永は、あっという間に泥酔した。
酔った勢いで、
「早く薩摩藩邸に行かせてくれ！」
などと末永が口走ると、
「村田君、大木君、末永様が薩摩藩邸にお帰りだ。
送って行って差し上げたまえ。失礼の無いようにな」
「了解しました」
村田はそう言って末永の片腕を掴むと、強引に立ち上がらせた。
「大木君、行こうか」
言われるままに大木はもう一方の肩を抱き、
末永を外に連れ出した。
「末永さん…大丈夫か！？」
店から出た直後の末永は大木の呼びかけにも反応が無かった。
（…なんだ？）
暫く外を歩かされるうち、
末永の意識も戻ってきた。
（なぜこんな所を歩いているんだ私は…）
どうやら、両肩を抱かれて歩いているらしい。
隣を見ると、
（な…なんということだ…）
村田めぐみ。市井紗耶香、あさみと並び称される波浪組三大剣豪の一人だ。
もう片一方には大木衣吹がついていた。
常に死にもの狂いの彼女の剣は、幹部クラスにも一目置かれている。
橋の側に差し掛かったところで、
「村田さん大木さん、お手数お掛けしたようですな…どうやら、
意識が飛ぶまで飲んでしまったらしい。こんなことは久しぶりだ」
冷や汗で背中をずぶ濡れにした末永はそう言って村田から距離を取り、
「一人で歩けますよ」
と言ったが、
「いやいや、責任持ってお送りします」
そう言う村田の放つ殺気に圧倒され、大木は口を開くことすら出来なかった。
末永を先頭に二等辺三角形の並びで歩き橋の半ばまで差し掛かった時、
「いやいや、もうこの辺で」
そう言って振り返った末永の片手が
「残念だが…」
刀の柄に掛かっていることに、
「…最期まで送らせてもらう！」
村田の下段からの突き上げで末永の体が一瞬宙に浮き、
そのまま地面に叩き付けられてピクリとも動かなくなってから、
大木は気付いた。
翌日薩摩藩邸には
゛波浪組五番隊組長兼文学師範末永真己士道不心得につき切腹゛
の知らせが届けられた。
慶応3年6月23日、早朝のことである。
暫く外を歩かされるうち、
末永の意識も戻ってきた。
（なぜこんな所を歩いているんだ私は…）
どうやら、両肩を抱かれて歩いているらしい。
隣を見ると、
（な…なんということだ…）
村田めぐみ。市井紗耶香、あさみと並び称される波浪組三大剣豪の一人だ。
もう片一方には大木衣吹がついていた。
常に死にもの狂いの彼女の剣は、幹部クラスにも一目置かれている。
橋の側に差し掛かったところで、
「村田さん大木さん、お手数お掛けしたようですな…どうやら、
意識が飛ぶまで飲んでしまったらしい。こんなことは久しぶりだ」
冷や汗で背中をずぶ濡れにした末永はそう言って村田から距離を取り、
「一人で歩けますよ」
と言ったが、
「いやいや、責任持ってお送りします」
そう言う村田の放つ殺気に圧倒され、大木は口を開くことすら出来なかった。
末永を先頭に二等辺三角形の並びで歩き橋の半ばまで差し掛かった時、
「いやいや、もうこの辺で」
そう言って振り返った末永の片手が
「残念だが…」
刀の柄に掛かっていることに、
「…最期まで送らせてもらう！」
村田の下段からの突き上げで末永の体が一瞬宙に浮き、
そのまま地面に叩き付けられてピクリとも動かなくなってから、
大木は気付いた。
翌日薩摩藩邸には
゛波浪組五番隊組長兼文学師範末永真己士道不心得につき切腹゛
の知らせが届けられた。
慶応3年6月23日、早朝のことである。
h
138 ：レス4：2001/05/21(月) 23:34 ID:rFtLTHgg
すみません。 >>114 を書いた時実は少し酔ってました。
今読み返すと文章が変です。
>>113
確かにそうですね。
今までは正邪をはっきりさせないでけれん味を重視しないようにしてましたけど、
これからは少し考えます。
今読み返すと文章が変です。
>>113
確かにそうですね。
今までは正邪をはっきりさせないでけれん味を重視しないようにしてましたけど、
これからは少し考えます。
＝石川梨華＝
話は、大幅に前後する。
禁門の乱により勇名を馳せた波浪組総長中澤裕子、末永真己、大谷雅恵、
あさみ、りんね、村田めぐみらが二度目の隊士募集のため江戸に到着したのは
元治元年9月9日のことである。
「石川梨華さん…だったな！？大谷君ご推薦の志士は」
「はい」
しかしながら既に大名並みの扱いとなっている中澤は、
ただ隊士の勧誘だけをしていられるような悠長な身分ではない。
江戸への滞在期間はほぼ一ヶ月半。
その間、中澤は方々で用向きをこなさなければならなかった。
「では大谷君、悪いがその石川さんとの会見の席の準備を頼む」
この日から大谷は、ほうぼうを走り回って準備を付けるのに奔走した。
「おれは、なにをしたらいいんです？おれに出来る様なことなど無さそうだ」
そう言う村田は、中澤の護衛の任務に就いた。
中澤にかわいがられている末永は常に中澤の側についている。
「久しぶりの江戸だ…」
「そうだなぁ、久しぶりにうちも実家に帰ろうかな」
この江戸への出張時、あさみは飼い犬と今生の別れというものを経験している。
浪士隊参加の際脱藩し、それ以来合っていなかった飼い犬が、この頃老衰で
衰弱が激しいということを両親からの手紙を読んで知っていたのだ。
中澤はそれを知っていたからこそあさみを江戸に同行させもしたのである。
「中澤さんも、粋なはからいをしてくれたものだ」
「まあ…そうかねぇ」
中澤嫌いのりんねも、それには渋々同意した。
そして、ようやく大谷が石川梨華と中澤の会見の準備を整えたのは、
中澤が江戸を発とうという、そのわずか3日前だった。
禁門の乱により勇名を馳せた波浪組総長中澤裕子、末永真己、大谷雅恵、
あさみ、りんね、村田めぐみらが二度目の隊士募集のため江戸に到着したのは
元治元年9月9日のことである。
「石川梨華さん…だったな！？大谷君ご推薦の志士は」
「はい」
しかしながら既に大名並みの扱いとなっている中澤は、
ただ隊士の勧誘だけをしていられるような悠長な身分ではない。
江戸への滞在期間はほぼ一ヶ月半。
その間、中澤は方々で用向きをこなさなければならなかった。
「では大谷君、悪いがその石川さんとの会見の席の準備を頼む」
この日から大谷は、ほうぼうを走り回って準備を付けるのに奔走した。
「おれは、なにをしたらいいんです？おれに出来る様なことなど無さそうだ」
そう言う村田は、中澤の護衛の任務に就いた。
中澤にかわいがられている末永は常に中澤の側についている。
「久しぶりの江戸だ…」
「そうだなぁ、久しぶりにうちも実家に帰ろうかな」
この江戸への出張時、あさみは飼い犬と今生の別れというものを経験している。
浪士隊参加の際脱藩し、それ以来合っていなかった飼い犬が、この頃老衰で
衰弱が激しいということを両親からの手紙を読んで知っていたのだ。
中澤はそれを知っていたからこそあさみを江戸に同行させもしたのである。
「中澤さんも、粋なはからいをしてくれたものだ」
「まあ…そうかねぇ」
中澤嫌いのりんねも、それには渋々同意した。
そして、ようやく大谷が石川梨華と中澤の会見の準備を整えたのは、
中澤が江戸を発とうという、そのわずか3日前だった。
「中澤さん、石川氏がお目にかかれるそうです」
「おお、ありがたい」
その日の晩の中澤と石川、2人での会見は成功に終わった。
というよりも上機嫌であさみ、大谷ら同行隊士を江戸の自宅に招き、
家庭料理を振る舞う中澤の様子を見ればまさに大成功と言えそうだった。
「いやあ、石川さんは大した人物だ」
大喜びで石川のことを話す中澤に、大谷も満足そうだ。
「とにかく、弁舌が達者で、言うことが全て大きい。剣客と言うよりも学者だな。
最初から目の青い毛唐に日本を踏みにじらせるべからずということで意見が
一致してな。まさに意気投合、入隊も即快諾して下さったよ。
゛前から波浪組に入隊したいと思っておりました゛などとおっしゃってな」
りんねが露骨に退屈そうな顔をするのを気にしながら、
あさみは適当なところで相づちを打つのに専念した。
「そうでしょうとも。石川氏は立派な勤王の志士です。
必ず波浪組の頼もしき新戦力になってくれることでしょう」
「うむ。ああいう人物が我が波浪組の幹部として共に働いてくれることを、
わしはかねてより望んでいたのだよ」
（なにが゛わし゛だよ偉そうに）
決して口には出さないが、りんねの内面はあさみにはすぐ想像出来た。
このところの中澤は屯所の廊下で隊士と擦れ違う際、挨拶する隊士に対して
「うむ…」
などと言って挨拶を返す代わりに胸をのけぞらせるようになっている。
威厳を示そうとしているのだろうが、以前の部下に対しても気さくに
挨拶を返してくれていた頃の中澤を知っているあさみとしては、
その態度の変化にやはり寂しさを感じていたからだ。
ただりんねの内面は容易に察することが出来るあさみも、
同じくらい付き合いのある大谷の内面は、今は理解出来なかった。
「おお、ありがたい」
その日の晩の中澤と石川、2人での会見は成功に終わった。
というよりも上機嫌であさみ、大谷ら同行隊士を江戸の自宅に招き、
家庭料理を振る舞う中澤の様子を見ればまさに大成功と言えそうだった。
「いやあ、石川さんは大した人物だ」
大喜びで石川のことを話す中澤に、大谷も満足そうだ。
「とにかく、弁舌が達者で、言うことが全て大きい。剣客と言うよりも学者だな。
最初から目の青い毛唐に日本を踏みにじらせるべからずということで意見が
一致してな。まさに意気投合、入隊も即快諾して下さったよ。
゛前から波浪組に入隊したいと思っておりました゛などとおっしゃってな」
りんねが露骨に退屈そうな顔をするのを気にしながら、
あさみは適当なところで相づちを打つのに専念した。
「そうでしょうとも。石川氏は立派な勤王の志士です。
必ず波浪組の頼もしき新戦力になってくれることでしょう」
「うむ。ああいう人物が我が波浪組の幹部として共に働いてくれることを、
わしはかねてより望んでいたのだよ」
（なにが゛わし゛だよ偉そうに）
決して口には出さないが、りんねの内面はあさみにはすぐ想像出来た。
このところの中澤は屯所の廊下で隊士と擦れ違う際、挨拶する隊士に対して
「うむ…」
などと言って挨拶を返す代わりに胸をのけぞらせるようになっている。
威厳を示そうとしているのだろうが、以前の部下に対しても気さくに
挨拶を返してくれていた頃の中澤を知っているあさみとしては、
その態度の変化にやはり寂しさを感じていたからだ。
ただりんねの内面は容易に察することが出来るあさみも、
同じくらい付き合いのある大谷の内面は、今は理解出来なかった。
その大谷が、この日は寝床を村田と共にした。
「村田さん…今日この日から波浪組は大きく変わるぜ」
大谷が中澤に劣らず興奮を露わにしている。
「変わる…どう変わるね？」
「よくなる」
「ふん…抽象的すぎる」
こういう時、いつもの大谷ならば何か皮肉の一つでも言っていただろうが、
この時は、ただ笑うだけだった。
「波浪組がおれの正義と違う方向に進むならば、おれが矯正するまでだ」
「村田さんは相変わらずだな…」
大谷は苦笑すると、
「波浪組はもっと立派になる。石川氏が入隊を快諾して下さったことは愉快だ。
こんな嬉しいことはないよ」
そう言って村田の手を取った。
「村田さん、これからも俺達は手を取り合って、
どこまでも一緒に進んでいこうではないか」
「……」
そう言ってはしゃぐ大谷についていけない村田は
適当に相づちを打って大谷から手を放すと眠りに入った。
「村田さん…今日この日から波浪組は大きく変わるぜ」
大谷が中澤に劣らず興奮を露わにしている。
「変わる…どう変わるね？」
「よくなる」
「ふん…抽象的すぎる」
こういう時、いつもの大谷ならば何か皮肉の一つでも言っていただろうが、
この時は、ただ笑うだけだった。
「波浪組がおれの正義と違う方向に進むならば、おれが矯正するまでだ」
「村田さんは相変わらずだな…」
大谷は苦笑すると、
「波浪組はもっと立派になる。石川氏が入隊を快諾して下さったことは愉快だ。
こんな嬉しいことはないよ」
そう言って村田の手を取った。
「村田さん、これからも俺達は手を取り合って、
どこまでも一緒に進んでいこうではないか」
「……」
そう言ってはしゃぐ大谷についていけない村田は
適当に相づちを打って大谷から手を放すと眠りに入った。
中澤が石川一行を伴ない京に着いたのは元治元年10月27日のことである。
それ以降、石川は中澤の側について助言を与える、参謀としての隊務の他に
夜はしばしば隊士たちと会談の席を持った。
その中でも、最初に意気投合した相手は北上アミだった。
もとより、剣の流派が同じなためかつて何度か会ったことがあり、
既に面識があったということもある。
「波浪組の勤王とは、真に天皇に仕えるという意味の勤王ですわね？」
「無論、そうです」
しかし、実際波浪組の勤王と、石川の勤王は全く違う。
勿論波浪組も幕府も、天皇に対する敬意は長州や薩摩の志士達にも劣らない。
しかし、石川の勤王は、幕府を倒した上での勤王である。
波浪組の、幕府を押し立てつつ天皇を敬うという考えとは全く違っている。
そして、北上の考えも、実は石川のそれに近い。
しかし2人ともそれをよく分かっていながら、決して口に出すことはしない。
側にはあさみや村田も同席していたからだ。
今はまだ、下手なことは言えない。
「北上さん、あなたとは仲良くやっていきたいと思うわ」
「ええ、こちらこそ」
そんな2人を大谷は嬉しそうに眺めていたものだ。
ナンバー2の北上と組めば、石川の発言力は増すだろう。
だがこの頃の北上が時折見せる憂鬱な影には、大谷も、石川も気付かなかった。
それ以降、石川は中澤の側について助言を与える、参謀としての隊務の他に
夜はしばしば隊士たちと会談の席を持った。
その中でも、最初に意気投合した相手は北上アミだった。
もとより、剣の流派が同じなためかつて何度か会ったことがあり、
既に面識があったということもある。
「波浪組の勤王とは、真に天皇に仕えるという意味の勤王ですわね？」
「無論、そうです」
しかし、実際波浪組の勤王と、石川の勤王は全く違う。
勿論波浪組も幕府も、天皇に対する敬意は長州や薩摩の志士達にも劣らない。
しかし、石川の勤王は、幕府を倒した上での勤王である。
波浪組の、幕府を押し立てつつ天皇を敬うという考えとは全く違っている。
そして、北上の考えも、実は石川のそれに近い。
しかし2人ともそれをよく分かっていながら、決して口に出すことはしない。
側にはあさみや村田も同席していたからだ。
今はまだ、下手なことは言えない。
「北上さん、あなたとは仲良くやっていきたいと思うわ」
「ええ、こちらこそ」
そんな2人を大谷は嬉しそうに眺めていたものだ。
ナンバー2の北上と組めば、石川の発言力は増すだろう。
だがこの頃の北上が時折見せる憂鬱な影には、大谷も、石川も気付かなかった。
隊士たちに
「北上先生、北上先生」
と呼び慕われ、石川とも親交の深かった北上が脱走し、
切腹の処分を受けたのはそれから暫くしてのことである。
「なぜ、たった一度の脱走だけで北上さんが切腹の処分を
受けなければならないのか、わたくし理解に苦しみますわ」
「ほう、石川さんは局中法度をご存知無いのですかな？」
石川の助命嘆願に、しかし平家は冷静に言葉を返した。
「北上さんは、波浪組発足当時からの幹部と聞き及んでおります。
その様に功績のある北上さんに対してもその様な冷酷な処分を下しては、
隊規が多いに乱れると、わたくしそう思いますの」
「幹部だからこそ、この処分なのですよ。幹部だからと特別扱いでは、
それこそ隊規が乱れる。これまで死んでいった隊士たちも浮かばれない」
あくまでも決定を曲げない平家に
「平家さんは鬼なんですの？あなたも波浪組副長である前に、一人の人間でしょう！？
人間ならば、お友達に掛ける情愛というものくらい、絶対にあるはずですわ！」
つい語尾を荒げた石川だったものの、
「私は、人間である前に武士であります。局中法度がそう定めています」
氷のように不動な平家の前に、ついに屈した。
北上の助命は得られなかったものの、しかし石川は北上が持っていた
人望を引き継ぐことになったのである。
石川はまだ若く、一見冷酷に聞こえる平家の冷たい言葉の影に潜む
深い悲しみには決して気付くことはない。
「北上先生、北上先生」
と呼び慕われ、石川とも親交の深かった北上が脱走し、
切腹の処分を受けたのはそれから暫くしてのことである。
「なぜ、たった一度の脱走だけで北上さんが切腹の処分を
受けなければならないのか、わたくし理解に苦しみますわ」
「ほう、石川さんは局中法度をご存知無いのですかな？」
石川の助命嘆願に、しかし平家は冷静に言葉を返した。
「北上さんは、波浪組発足当時からの幹部と聞き及んでおります。
その様に功績のある北上さんに対してもその様な冷酷な処分を下しては、
隊規が多いに乱れると、わたくしそう思いますの」
「幹部だからこそ、この処分なのですよ。幹部だからと特別扱いでは、
それこそ隊規が乱れる。これまで死んでいった隊士たちも浮かばれない」
あくまでも決定を曲げない平家に
「平家さんは鬼なんですの？あなたも波浪組副長である前に、一人の人間でしょう！？
人間ならば、お友達に掛ける情愛というものくらい、絶対にあるはずですわ！」
つい語尾を荒げた石川だったものの、
「私は、人間である前に武士であります。局中法度がそう定めています」
氷のように不動な平家の前に、ついに屈した。
北上の助命は得られなかったものの、しかし石川は北上が持っていた
人望を引き継ぐことになったのである。
石川はまだ若く、一見冷酷に聞こえる平家の冷たい言葉の影に潜む
深い悲しみには決して気付くことはない。
このことをきっかけに隊内が石川派、平家派の二つに割れ、
隊内の規律が多いに乱れた。
長州藩はすっかり力を失い、薩摩は表向き幕府に恭順する姿勢を見せているために
手を出すことは出来ない。
このかりそめの京の平穏も手伝い隊内での権謀術数が盛んになったのである。
「今回のことだけは我慢ならん！！なんでだ…なんであの北上さんが
死ななきゃならなかった！？なぁ、あさみさんなんでだ！？」
りんねは北上が死に、その直後の平家の振る舞いを見て改めて怒りが
込み上げてきたらしい。親友のあさみにそれをぶつける。
「そうだよな…疲れてふと、一時的に波浪組から距離を取りたくなった…
そういうことって、私にだってある。私が北上さんになってた可能性だってあるしさ」
あさみの言葉にりんねは多いに肯き、
「そうだよ！第一、毎日あの優柔不断の中澤と鬼の平家の間にいるんだぜ！？
北上さんじゃなかったら絶対に2日と持たずに逃げ出してるところだ！」
「そ…そこまでは…」
直情なりんねの言葉にあさみは苦笑したが、
波浪組がおかしな方向に進んでいるような気がして、寂しかった。
石川の入隊から2年ほどが経過した頃になると、
その勢力は隊内でかなりのウェートを占めるようになっていた。
幹部の中で石川派と言えるのは大谷の他に村田がいる。
そして、浮動的な存在であったあさみとりんねの2人も、
この頃になると石川派に移動しようとしていた。
隊内の規律が多いに乱れた。
長州藩はすっかり力を失い、薩摩は表向き幕府に恭順する姿勢を見せているために
手を出すことは出来ない。
このかりそめの京の平穏も手伝い隊内での権謀術数が盛んになったのである。
「今回のことだけは我慢ならん！！なんでだ…なんであの北上さんが
死ななきゃならなかった！？なぁ、あさみさんなんでだ！？」
りんねは北上が死に、その直後の平家の振る舞いを見て改めて怒りが
込み上げてきたらしい。親友のあさみにそれをぶつける。
「そうだよな…疲れてふと、一時的に波浪組から距離を取りたくなった…
そういうことって、私にだってある。私が北上さんになってた可能性だってあるしさ」
あさみの言葉にりんねは多いに肯き、
「そうだよ！第一、毎日あの優柔不断の中澤と鬼の平家の間にいるんだぜ！？
北上さんじゃなかったら絶対に2日と持たずに逃げ出してるところだ！」
「そ…そこまでは…」
直情なりんねの言葉にあさみは苦笑したが、
波浪組がおかしな方向に進んでいるような気がして、寂しかった。
石川の入隊から2年ほどが経過した頃になると、
その勢力は隊内でかなりのウェートを占めるようになっていた。
幹部の中で石川派と言えるのは大谷の他に村田がいる。
そして、浮動的な存在であったあさみとりんねの2人も、
この頃になると石川派に移動しようとしていた。
そんなある日、石川派主催による酒宴でのこと…
酒宴がある程度進んだところで石川が口を開く。
「あさみさんりんねさん、あなた達は、勤皇の志士…ですわね！？」
（はぁ！？）
酒も入り、露骨に表情を変えるりんね。
そのようなことは聞くまでも無いことだ。
「はい、そうですよ」
あさみが答える。
「それが分かれば、いいですわ」
石川はそう言って笑う。
「あさみ君りんね君、深く考えることはないぜ」
村田と共に石川の近くに座ってりんねとあさみの2人にそう言い、
意味ありげな笑いを浮かべる大谷。最近微妙に2人とは疎遠になっている。
（なんか変だな…）
りんねはそう感じていたが、それ以上の思考は酒気によって阻まれた。
宴がたけなわになった頃、あさみが立ち上がる。
「そろそろ、門限の時間ですよ。もう戻らないと間に合わない」
「あさみさん、お座りなさい」
石川が言った。
「なんだって？」
石川の思わぬ言葉に耳を疑った。
あさみだけではない。大谷も、りんねも同様に石川の表情を凝視していた。
「今日は、朝まで飲み明かしましょうよ」
酒宴がある程度進んだところで石川が口を開く。
「あさみさんりんねさん、あなた達は、勤皇の志士…ですわね！？」
（はぁ！？）
酒も入り、露骨に表情を変えるりんね。
そのようなことは聞くまでも無いことだ。
「はい、そうですよ」
あさみが答える。
「それが分かれば、いいですわ」
石川はそう言って笑う。
「あさみ君りんね君、深く考えることはないぜ」
村田と共に石川の近くに座ってりんねとあさみの2人にそう言い、
意味ありげな笑いを浮かべる大谷。最近微妙に2人とは疎遠になっている。
（なんか変だな…）
りんねはそう感じていたが、それ以上の思考は酒気によって阻まれた。
宴がたけなわになった頃、あさみが立ち上がる。
「そろそろ、門限の時間ですよ。もう戻らないと間に合わない」
「あさみさん、お座りなさい」
石川が言った。
「なんだって？」
石川の思わぬ言葉に耳を疑った。
あさみだけではない。大谷も、りんねも同様に石川の表情を凝視していた。
「今日は、朝まで飲み明かしましょうよ」
「し、しかし、門限に遅れたら」
「お切腹でしょう？」
肯くあさみを見て石川は楽しいものを見るように笑うと続けた。
「平家さんなら、今ここにいる40人ほどの隊士全員を切腹処分になさるかしら？」
一瞬静まり返る場内。
「…ハ…ハハハハ！！」
その静寂を破ったのは、以外にも村田の笑い声だった。
「今晩は飲むぞぉ！！」
そんなことまで言っている。
こんな村田を見るのはあさみ達も始めてだった。
「ハハハハ…面白い！うちら全員切腹処分！鬼の平家！
出来るものならやってみろってんだ！」
続いてりんねも乗った。
「それとも、このまま波浪組から独立しちまおうかね！？」
大谷は勢いでそんなことまで言っている。
…
かくして、石川一行、約40名が屯所へと帰還したのはその翌日、
昼前のことだった。
石川を気に入っている中澤も、さすがに渋い顔をしている。
「お切腹でしょう？」
肯くあさみを見て石川は楽しいものを見るように笑うと続けた。
「平家さんなら、今ここにいる40人ほどの隊士全員を切腹処分になさるかしら？」
一瞬静まり返る場内。
「…ハ…ハハハハ！！」
その静寂を破ったのは、以外にも村田の笑い声だった。
「今晩は飲むぞぉ！！」
そんなことまで言っている。
こんな村田を見るのはあさみ達も始めてだった。
「ハハハハ…面白い！うちら全員切腹処分！鬼の平家！
出来るものならやってみろってんだ！」
続いてりんねも乗った。
「それとも、このまま波浪組から独立しちまおうかね！？」
大谷は勢いでそんなことまで言っている。
…
かくして、石川一行、約40名が屯所へと帰還したのはその翌日、
昼前のことだった。
石川を気に入っている中澤も、さすがに渋い顔をしている。
「少し帰りが遅れたようですわね。ごめんあそばせ」
「なぜですかな？一体何をしておられたと言うのです」
冷静を装う中澤に、
「何をと言われましても、お店でお酒を飲んでいた…それだけのことですわ」
そう答える石川。
中澤の眉が大きく引きつるのが離れていても分かった。
「…まあ、いいでしょう…追って沙汰します」
全員に居室での謹慎を命じると、中澤は平家を呼んだ。
「平家…どうする…全員切腹という訳にはいくまい…」
「よくもやってくれたものだ…中澤さん、あれは完全に確信犯だぜ」
平家も迷っているらしい。
「どうだ…あさみとりんねだけに切腹をさせるというのは」
中澤は大谷はともかく、最初からの同志であるあさみとりんねの造反には
腹がたったらしい。
しかし、
「いい考えだが…それは不可能だ。誰かに命じて誰かに命じないというのでは
それこそ隊士全体の戦意に関わる」
どういう経緯か、この時の中澤の提案は後にあさみとりんねの耳に入ることとなる。
それが2人の波浪組に対する愛着を萎えさせる要因の一つになったのは確実だろう。
「ならばやはり」
「…全員に謹慎を命じよう…それしかない…くそっ！！」
さすがの平家も怒りを隠せなかったが、
結局全員に数日の謹慎が命じられ、隊内の分裂が顕在化することとなった。
慶応3年1月4日、正月気分がまだ抜けない寒い日のことである。
「なぜですかな？一体何をしておられたと言うのです」
冷静を装う中澤に、
「何をと言われましても、お店でお酒を飲んでいた…それだけのことですわ」
そう答える石川。
中澤の眉が大きく引きつるのが離れていても分かった。
「…まあ、いいでしょう…追って沙汰します」
全員に居室での謹慎を命じると、中澤は平家を呼んだ。
「平家…どうする…全員切腹という訳にはいくまい…」
「よくもやってくれたものだ…中澤さん、あれは完全に確信犯だぜ」
平家も迷っているらしい。
「どうだ…あさみとりんねだけに切腹をさせるというのは」
中澤は大谷はともかく、最初からの同志であるあさみとりんねの造反には
腹がたったらしい。
しかし、
「いい考えだが…それは不可能だ。誰かに命じて誰かに命じないというのでは
それこそ隊士全体の戦意に関わる」
どういう経緯か、この時の中澤の提案は後にあさみとりんねの耳に入ることとなる。
それが2人の波浪組に対する愛着を萎えさせる要因の一つになったのは確実だろう。
「ならばやはり」
「…全員に謹慎を命じよう…それしかない…くそっ！！」
さすがの平家も怒りを隠せなかったが、
結局全員に数日の謹慎が命じられ、隊内の分裂が顕在化することとなった。
慶応3年1月4日、正月気分がまだ抜けない寒い日のことである。
149 ：蛇足6：2001/05/23(水) 02:02 ID:0ISUABdI
小湊美和（生年不詳～文久3年〈1863〉）
稲葉いきつけの京の酒場の主人の妻であったとされる。
稲葉に人質として取られていたところを襲撃され即死。
民謡の名手であり、その死を惜しんだ映画監督が主題歌に採用したという
エピソードが残るものの、それは創作であったという見方が一般的。
柴田あゆみ（生年不詳～文久3年？〈1863〉）
稲葉ら一行粛正後の第一次隊士募集に応じてきた隊士の一人。
卓越した剣の腕の持ち主であったとされているがその役職は平隊士に過ぎなかった。
入隊の動機は謎に包まれている。長州藩が送り込んだ間者であったする説もある。
大谷雅恵の手により刑死したとされるが、実際には死んでいなかったとする資料もある。
謎の多い人物。
眉目秀麗、才色兼備であったとされるが、
実際は人間ではなく「小猫」だったという説もある。
加護亜依（弘化9年〈1852〉～元治元年〈1865〉）
土佐藩出身。後藤真希に兄事。
蝦夷地出張からの帰還直後池田屋事件に遭い没する。
わずか13歳だった。
他人を笑わせるのが好きで、また雪のように白い肌を持っていたという。
石黒彩（天保12年〈1841〉～元治元年〈1864〉）
長州藩の下級武士の子として生まれた。
池田屋において、宮廷に火を掛けてクーデターを起こすための決起を行ったが、
その際波浪組からの襲撃を受けあえなく没した。夭折が惜しまれる。
外交官として優れた手腕を発揮した。
右の小鼻に銀色の点があったという。
矢口真里（弘化4年〈1847〉～元治元年〈1864〉）
長州藩の下級武士の子として生まれた。
池田屋事件当時は長州藩の政務要員として長州藩邸に詰めていた。
その直後ほぼ実行段階にまで準備が整っていた禁門の乱を総大将として戦うが敗れ、
没する。
年齢よりも幼く見られることが多かったという。身長は145cmにもみたなかった。
稲葉いきつけの京の酒場の主人の妻であったとされる。
稲葉に人質として取られていたところを襲撃され即死。
民謡の名手であり、その死を惜しんだ映画監督が主題歌に採用したという
エピソードが残るものの、それは創作であったという見方が一般的。
柴田あゆみ（生年不詳～文久3年？〈1863〉）
稲葉ら一行粛正後の第一次隊士募集に応じてきた隊士の一人。
卓越した剣の腕の持ち主であったとされているがその役職は平隊士に過ぎなかった。
入隊の動機は謎に包まれている。長州藩が送り込んだ間者であったする説もある。
大谷雅恵の手により刑死したとされるが、実際には死んでいなかったとする資料もある。
謎の多い人物。
眉目秀麗、才色兼備であったとされるが、
実際は人間ではなく「小猫」だったという説もある。
加護亜依（弘化9年〈1852〉～元治元年〈1865〉）
土佐藩出身。後藤真希に兄事。
蝦夷地出張からの帰還直後池田屋事件に遭い没する。
わずか13歳だった。
他人を笑わせるのが好きで、また雪のように白い肌を持っていたという。
石黒彩（天保12年〈1841〉～元治元年〈1864〉）
長州藩の下級武士の子として生まれた。
池田屋において、宮廷に火を掛けてクーデターを起こすための決起を行ったが、
その際波浪組からの襲撃を受けあえなく没した。夭折が惜しまれる。
外交官として優れた手腕を発揮した。
右の小鼻に銀色の点があったという。
矢口真里（弘化4年〈1847〉～元治元年〈1864〉）
長州藩の下級武士の子として生まれた。
池田屋事件当時は長州藩の政務要員として長州藩邸に詰めていた。
その直後ほぼ実行段階にまで準備が整っていた禁門の乱を総大将として戦うが敗れ、
没する。
年齢よりも幼く見られることが多かったという。身長は145cmにもみたなかった。
＝後藤真希、吉澤ひとみ＝
「なぁ、あさみさん、退屈がこんなに厄介な物だったとは知らなかったよ」
最近、りんねはこんな愚痴をこぼすことが多くなった。
慶応2年1月21日に土佐藩士吉澤ひとみの奔走と、同じく土佐藩士の後藤真希の
仲介が結実した形で薩長同盟が締結されて以来、
時流は既に波浪組の剣だけでどうにかなるような状態では無くなってしまっていた。
そのため波浪組が京でしていることといえば、隊内での粛正、
京をうろつくごろつきと区別のつかないような志士を捕らえたりすること、
或いは、石川梨華が中心となって引き起こした隊内での醜い権謀術数くらいのものである。
池田屋事件や禁門の乱のような華々しい働きをする機会からは、
かなり遠いところにいる。
もともと中澤が何のために京に登ってきたかと言えば、
幕府の為に命を捨てて働く為であって、この様に無為に日々を過ごすためではない。
こんな状況に、中澤も、平家も当然焦りを覚えてはいたが、
それよりも多くの焦燥を感じていたのはりんねだった。
りんねは、生まれついての戦好きだったのである。
最近、りんねはこんな愚痴をこぼすことが多くなった。
慶応2年1月21日に土佐藩士吉澤ひとみの奔走と、同じく土佐藩士の後藤真希の
仲介が結実した形で薩長同盟が締結されて以来、
時流は既に波浪組の剣だけでどうにかなるような状態では無くなってしまっていた。
そのため波浪組が京でしていることといえば、隊内での粛正、
京をうろつくごろつきと区別のつかないような志士を捕らえたりすること、
或いは、石川梨華が中心となって引き起こした隊内での醜い権謀術数くらいのものである。
池田屋事件や禁門の乱のような華々しい働きをする機会からは、
かなり遠いところにいる。
もともと中澤が何のために京に登ってきたかと言えば、
幕府の為に命を捨てて働く為であって、この様に無為に日々を過ごすためではない。
こんな状況に、中澤も、平家も当然焦りを覚えてはいたが、
それよりも多くの焦燥を感じていたのはりんねだった。
りんねは、生まれついての戦好きだったのである。
「平和は、いいことじゃないのかな」
「こんなの本当の平和じゃないだろう。現に、幕府は政権を朝廷に渡しちまったんだ。
そんな時にうちらはなんのためにまだこんなところでじっとしてるんだ？
なんでこんなところでじっとしてなくちゃならなくなったんだよ」
徳川幕府が大政奉還を行ったのは慶応3年10月14日のことである。
そして、その大政奉還が行われるまでに裏で動いたのも
土佐藩士の後藤真希、そして吉澤ひとみらであった。
「あいつらなんだよな…あいつらが土佐藩脱藩の浪人の分際で
ウロチョロ動き回るからうちらは…」
りんねは自分も同じような身分であることを忘れて口走る。
「後藤真希は、池田屋の時に見たよな」
「ああ、見た」
後藤真希は池田屋騒動の死体検分の場に突如現われ、
土佐藩脱藩浪士加護亜依の遺体を連れ帰ったのである。
「あの時、斬っておくべきだった」
「今更言っても遅いよ、りんねさん」
この頃あさみは石川の話す勤王に傾きかけている。
石川の勤王のもとでは、後藤真希は同志である。敵ではない。
現に、最近の石川は堂々と我が物顔で吉澤と会見したりしているのだ。
しかし、りんねは石川の思想に染まってはいない。
染まっていないというよりも、石川などが染める余地も無いほど、
りんねが持っている布は、既に染まりきっていたのかもしれない。
…゛戦好き゛という色に。
そこには思想などが入り込む余地は無かった。
むしろ、そのようなものは邪魔ですらある。
「いや、何ごとも遅すぎるってことは無いさ」
「ハハハ…冗談きついぜ、りんねさん」
あさみは、この時のりんねの言葉は完全に冗談として受け取った。
「こんなの本当の平和じゃないだろう。現に、幕府は政権を朝廷に渡しちまったんだ。
そんな時にうちらはなんのためにまだこんなところでじっとしてるんだ？
なんでこんなところでじっとしてなくちゃならなくなったんだよ」
徳川幕府が大政奉還を行ったのは慶応3年10月14日のことである。
そして、その大政奉還が行われるまでに裏で動いたのも
土佐藩士の後藤真希、そして吉澤ひとみらであった。
「あいつらなんだよな…あいつらが土佐藩脱藩の浪人の分際で
ウロチョロ動き回るからうちらは…」
りんねは自分も同じような身分であることを忘れて口走る。
「後藤真希は、池田屋の時に見たよな」
「ああ、見た」
後藤真希は池田屋騒動の死体検分の場に突如現われ、
土佐藩脱藩浪士加護亜依の遺体を連れ帰ったのである。
「あの時、斬っておくべきだった」
「今更言っても遅いよ、りんねさん」
この頃あさみは石川の話す勤王に傾きかけている。
石川の勤王のもとでは、後藤真希は同志である。敵ではない。
現に、最近の石川は堂々と我が物顔で吉澤と会見したりしているのだ。
しかし、りんねは石川の思想に染まってはいない。
染まっていないというよりも、石川などが染める余地も無いほど、
りんねが持っている布は、既に染まりきっていたのかもしれない。
…゛戦好き゛という色に。
そこには思想などが入り込む余地は無かった。
むしろ、そのようなものは邪魔ですらある。
「いや、何ごとも遅すぎるってことは無いさ」
「ハハハ…冗談きついぜ、りんねさん」
あさみは、この時のりんねの言葉は完全に冗談として受け取った。
「長かったなぁ…よっすぃー」
「よっすぃーか…そう呼ばれたのも、久しぶりだよ」
土佐藩陸援隊隊長、吉澤ひとみはそう言って笑うと、杯を傾けた。
共に杯を重ねているのは、土佐藩海援隊隊長、後藤真希である。
「うん、こうしてよっすぃーと一緒にのんびり飲むのも、久しぶりだな」
「維新が成るのも目前だ。維新が完成すれば、
こうやって楽しく飲む機会も少しは増えるよ」
゛維新が完成する゛この短い言葉の中には、数多くの同志の犠牲がある。
単純な一言ではなかった。
（加護天狗よ…もうすぐ、お前の待ってた時代が来るぜ）
ふとしんみりしかけた席をしかし
「いやぁ、どうかな。維新が成れば俺は魚山社中を再建し、
どでかい蒸気船を何隻も買って世界中を飛び回るつもりだ。
日本だけにじっとしてるつもりなんか無いぜ。忙しくなる。今以上に」
そう言って湿気を飛ばしてみせた。
「ハハハ…そうだったな…ごっつぁんは維新政府に参ずるつもりは無いんだったな」
海援隊、別名魚山社中。
表向き海軍を装ったそれは、日本初の海外向け貿易会社だった。
しかし、後藤はこれまでに高価な船を数回沈没で失い、巨額の金と、
貴重な同志も大勢失っている。しかし、後藤はめげない。
「それにしても、おしいなぁ…維新政府にはごっつぁんのような人こそ必要なんだよ。
僕に出来るのは約束を取り付けるためにほうぼうを走り回ることくらいだ。
そんなのは維新政府には余り必要なことではないからなぁ」
「謙遜しなさんなよよっすぃー、君には確かな情勢を分析する眼がある。
それは得ようと思って誰でも得られるものじゃないさ。それに、
薩摩の安倍さんもいる、飯田さんもいる、保田さん…あ、そうか保田さんは…」
後藤は何かに気付いて押し黙った。
「うん…保田さんは残念だった」
「よっすぃーか…そう呼ばれたのも、久しぶりだよ」
土佐藩陸援隊隊長、吉澤ひとみはそう言って笑うと、杯を傾けた。
共に杯を重ねているのは、土佐藩海援隊隊長、後藤真希である。
「うん、こうしてよっすぃーと一緒にのんびり飲むのも、久しぶりだな」
「維新が成るのも目前だ。維新が完成すれば、
こうやって楽しく飲む機会も少しは増えるよ」
゛維新が完成する゛この短い言葉の中には、数多くの同志の犠牲がある。
単純な一言ではなかった。
（加護天狗よ…もうすぐ、お前の待ってた時代が来るぜ）
ふとしんみりしかけた席をしかし
「いやぁ、どうかな。維新が成れば俺は魚山社中を再建し、
どでかい蒸気船を何隻も買って世界中を飛び回るつもりだ。
日本だけにじっとしてるつもりなんか無いぜ。忙しくなる。今以上に」
そう言って湿気を飛ばしてみせた。
「ハハハ…そうだったな…ごっつぁんは維新政府に参ずるつもりは無いんだったな」
海援隊、別名魚山社中。
表向き海軍を装ったそれは、日本初の海外向け貿易会社だった。
しかし、後藤はこれまでに高価な船を数回沈没で失い、巨額の金と、
貴重な同志も大勢失っている。しかし、後藤はめげない。
「それにしても、おしいなぁ…維新政府にはごっつぁんのような人こそ必要なんだよ。
僕に出来るのは約束を取り付けるためにほうぼうを走り回ることくらいだ。
そんなのは維新政府には余り必要なことではないからなぁ」
「謙遜しなさんなよよっすぃー、君には確かな情勢を分析する眼がある。
それは得ようと思って誰でも得られるものじゃないさ。それに、
薩摩の安倍さんもいる、飯田さんもいる、保田さん…あ、そうか保田さんは…」
後藤は何かに気付いて押し黙った。
「うん…保田さんは残念だった」
長州藩の政権をひっくり返し奇兵隊を設立し、積極的に幕府と交戦していた
保田だったが、その頃持病の肺病が悪化し亡くなっている。
慶応3年4月14日のことであった。
『おもしろくない世ならおもしろくすればいいのよ！』
5･7･5の形すら取っていないこの辞世の句こそ、
保田の破天荒な人柄を最もよく表していると言えた。
「ごっつぁんや、保田さんのような人こそ必要なんだよ…
古いものを壊して、新しいものを創り上げるときにはね…」
…
この時、しばしの沈黙があった。
「ふふふ…鬼が笑うぜ、よっすぃー」
後藤の笑い声がそれを打破した。
次の年のことを話すと鬼が笑うという。
維新は、来年にでも完了する。そんな意味もこもっていた。
「そうだね…あと少し…まだ気を緩めるのは早いか」
維新は、目前に迫っていた。
保田だったが、その頃持病の肺病が悪化し亡くなっている。
慶応3年4月14日のことであった。
『おもしろくない世ならおもしろくすればいいのよ！』
5･7･5の形すら取っていないこの辞世の句こそ、
保田の破天荒な人柄を最もよく表していると言えた。
「ごっつぁんや、保田さんのような人こそ必要なんだよ…
古いものを壊して、新しいものを創り上げるときにはね…」
…
この時、しばしの沈黙があった。
「ふふふ…鬼が笑うぜ、よっすぃー」
後藤の笑い声がそれを打破した。
次の年のことを話すと鬼が笑うという。
維新は、来年にでも完了する。そんな意味もこもっていた。
「そうだね…あと少し…まだ気を緩めるのは早いか」
維新は、目前に迫っていた。
一方この頃、りんねは大木衣吹と2人、不穏な動きを見せるようになっている。
「なぁ、りんねさんって前から大木さんと親しかったか？」
「いや…わからん」
りんねは、親友のあさみにも何をしているかは話さなかったのである。
「大木さん…どうだった！？」
「近江屋とかいう旅篭だ…間違いない」
人気の無い屯所裏で、りんねの問いに対し大木衣吹が答えた。
大木衣吹は隠密の仕事もこなす巨漢隊士である。
関取→関取る→シェキドルなどという洋風のあだ名で呼ばれることもあったらしい。
実直で、一本気な性格をしている。口が堅い。幕府への無意識な崇拝心が人一倍強い。
まさに、りんねが欲しい人物にピッタリだった。
「これは、幕府の為になる仕事だ」
そう言われたら大木には断わることが出来ない。
大木がりんねに頼まれた仕事は後藤真希の宿泊先の探索である。
「恩に着るぜ、大木さん。この埋め合わせは必ずする。…生きて返れたらな」
（やはり）
まさかと思っていた大木だったが、ようやくそれが確信に変わった。
「後藤を、殺るつもりなのか？」
「さすが、勘が鋭いな」
気付かない方がおかしい。
「俺も、一緒に行く」
「駄目だ。これは完全にうちの独断だ。うちは切腹だって覚悟してる。
大木君を巻き込むことは出来ない」
「なぁ、りんねさんって前から大木さんと親しかったか？」
「いや…わからん」
りんねは、親友のあさみにも何をしているかは話さなかったのである。
「大木さん…どうだった！？」
「近江屋とかいう旅篭だ…間違いない」
人気の無い屯所裏で、りんねの問いに対し大木衣吹が答えた。
大木衣吹は隠密の仕事もこなす巨漢隊士である。
関取→関取る→シェキドルなどという洋風のあだ名で呼ばれることもあったらしい。
実直で、一本気な性格をしている。口が堅い。幕府への無意識な崇拝心が人一倍強い。
まさに、りんねが欲しい人物にピッタリだった。
「これは、幕府の為になる仕事だ」
そう言われたら大木には断わることが出来ない。
大木がりんねに頼まれた仕事は後藤真希の宿泊先の探索である。
「恩に着るぜ、大木さん。この埋め合わせは必ずする。…生きて返れたらな」
（やはり）
まさかと思っていた大木だったが、ようやくそれが確信に変わった。
「後藤を、殺るつもりなのか？」
「さすが、勘が鋭いな」
気付かない方がおかしい。
「俺も、一緒に行く」
「駄目だ。これは完全にうちの独断だ。うちは切腹だって覚悟してる。
大木君を巻き込むことは出来ない」
しかし、大木は曲がらなかった。
「埋め合わせはするって、言ったよな！？」
「おい、まさか…」
「りんねさんが1人で行って死んだら、埋め合わせもしてもらえなくなるからな」
りんねは肩をすくめて堪忍した様子を見せながら、
「敵わんな…大木君には」
結局2人での決行が決まった…
「おーい」
「うわぁっ！！」
りんねと大木の叫び声が重なった。
「さ…斉藤さんじゃないか…」
いつのまにか隠密方のトップである斉藤瞳が2人の側にまで迫って来ていたのだ。
「甘いなぁ、大木君。他の人にはともかく、私には筒抜けだったよ」
大木は絶望したような顔をすると、
「なんてことだ…」
そう言ったが、斉藤の態度は大木が考えていたものとは
まるで逆のものだった。
「りんねさん、大木君、私をのけものにはするまいね！？」
「さ…斉藤さんも協力してくれるのか？」
「今の波浪組には大きな手柄が必要だとは、私も感じていたよ」
かくして、3人での決行が改めて決定されたのである。
「埋め合わせはするって、言ったよな！？」
「おい、まさか…」
「りんねさんが1人で行って死んだら、埋め合わせもしてもらえなくなるからな」
りんねは肩をすくめて堪忍した様子を見せながら、
「敵わんな…大木君には」
結局2人での決行が決まった…
「おーい」
「うわぁっ！！」
りんねと大木の叫び声が重なった。
「さ…斉藤さんじゃないか…」
いつのまにか隠密方のトップである斉藤瞳が2人の側にまで迫って来ていたのだ。
「甘いなぁ、大木君。他の人にはともかく、私には筒抜けだったよ」
大木は絶望したような顔をすると、
「なんてことだ…」
そう言ったが、斉藤の態度は大木が考えていたものとは
まるで逆のものだった。
「りんねさん、大木君、私をのけものにはするまいね！？」
「さ…斉藤さんも協力してくれるのか？」
「今の波浪組には大きな手柄が必要だとは、私も感じていたよ」
かくして、3人での決行が改めて決定されたのである。
りんねの動向を探っていたのは斉藤だけでない。
波浪組参謀石川梨華の下にも、優秀な隠密はいる。既にりんねの計画はほぼ把握していた。
実質上石川の側近の立場になっている大谷もそうである。
この頃になると、石川派の屯所と中澤派の屯所は
別敷地の別棟となっており、石川派は既に中澤派から完全に独立した
命令系統を持つようになっている。薩摩藩や土佐藩との繋がりも密接になっていた。
「駄目だ…りんねさんに馬鹿な真似はさせられない。止めましょう、石川さん」
しかし、石川は首を横に振った。
「りんねさんったら、本当に野蛮な人よね…あの人ったら
実家で馬とか飼ったりしてるんですって。馬なんて乗るもので、
飼ったりするものじゃないわよねぇ…」
「い…石川さん！？どういうことです？止めんのですか？」
ふいに、石川の瞳が冷えた。
「ああいう風情のない人は、ここで消えてもらいましょうよ、ねえ、大谷さん！？」
波浪組参謀石川梨華の下にも、優秀な隠密はいる。既にりんねの計画はほぼ把握していた。
実質上石川の側近の立場になっている大谷もそうである。
この頃になると、石川派の屯所と中澤派の屯所は
別敷地の別棟となっており、石川派は既に中澤派から完全に独立した
命令系統を持つようになっている。薩摩藩や土佐藩との繋がりも密接になっていた。
「駄目だ…りんねさんに馬鹿な真似はさせられない。止めましょう、石川さん」
しかし、石川は首を横に振った。
「りんねさんったら、本当に野蛮な人よね…あの人ったら
実家で馬とか飼ったりしてるんですって。馬なんて乗るもので、
飼ったりするものじゃないわよねぇ…」
「い…石川さん！？どういうことです？止めんのですか？」
ふいに、石川の瞳が冷えた。
「ああいう風情のない人は、ここで消えてもらいましょうよ、ねえ、大谷さん！？」
石川が後藤や吉澤、安倍や飯田、保田や矢口、石黒福田らと違っていたのは、
妥協というものをよく知っていたということだった。
だからこそ、名を売るために維新志士達とは敵方の波浪組に入隊もしたのである。
しかし、大谷は違う。
皮肉屋として知られた彼女は、実は内面に人一倍熱いものを持った若者だった。
「し…しかし！りんねさんは俺達の同志のはずです！」
「私はあんな人、一度も同志なんて思ったことは無いわ。第一、あの人ったら
あさみさんについて来てるだけでわたくしの話なんてさっぱり聞いて無いじゃない。
ちゃんと聞いたって理解出来るだけの脳があるとも思えないけど」
「……な………で、ですが、後藤真希さんと吉澤ひとみさんは
維新後の日本にとって大事な人でしょう！今死なせるわけには…」
一時りんねのことは置いて後藤らを持ち出したが、
「あの人達は維新が成ったら必要が無くなる人達…維新後にジャマになるだけよ。
今のうちに消えてもらって、もしりんねさんたちが首尾よく成功したとしても
私達が証言すれば一発よ。りんねさんたちは斬刑になるわ」
「……な…本気なのかあんた…い…石川さん、あなたにこんなことを
言うのは始めてだ…だが、言わせてもらう、今のあんたは間違っている！！
昔北上さんが切腹の処分を受けた時に徹底的に平家さんに詰め寄ったあなたは
一体何処へ行ったというのだ！？」
しかし、石川は眉一つ動かさない。
「゛大義゛の為よ…私こそ維新後の日本に大事な人間なの…波浪組に入ったのだって
攘夷派の人達に名前を売る為よ。最初から中澤さんのいいなりになるつもりなんか
無かったんだから。…そしてあなたは、そんな私に依存するかのように
これまで私と一緒にやってきた…今更いい子ちゃんぶっても遅いのよ！」
妥協というものをよく知っていたということだった。
だからこそ、名を売るために維新志士達とは敵方の波浪組に入隊もしたのである。
しかし、大谷は違う。
皮肉屋として知られた彼女は、実は内面に人一倍熱いものを持った若者だった。
「し…しかし！りんねさんは俺達の同志のはずです！」
「私はあんな人、一度も同志なんて思ったことは無いわ。第一、あの人ったら
あさみさんについて来てるだけでわたくしの話なんてさっぱり聞いて無いじゃない。
ちゃんと聞いたって理解出来るだけの脳があるとも思えないけど」
「……な………で、ですが、後藤真希さんと吉澤ひとみさんは
維新後の日本にとって大事な人でしょう！今死なせるわけには…」
一時りんねのことは置いて後藤らを持ち出したが、
「あの人達は維新が成ったら必要が無くなる人達…維新後にジャマになるだけよ。
今のうちに消えてもらって、もしりんねさんたちが首尾よく成功したとしても
私達が証言すれば一発よ。りんねさんたちは斬刑になるわ」
「……な…本気なのかあんた…い…石川さん、あなたにこんなことを
言うのは始めてだ…だが、言わせてもらう、今のあんたは間違っている！！
昔北上さんが切腹の処分を受けた時に徹底的に平家さんに詰め寄ったあなたは
一体何処へ行ったというのだ！？」
しかし、石川は眉一つ動かさない。
「゛大義゛の為よ…私こそ維新後の日本に大事な人間なの…波浪組に入ったのだって
攘夷派の人達に名前を売る為よ。最初から中澤さんのいいなりになるつもりなんか
無かったんだから。…そしてあなたは、そんな私に依存するかのように
これまで私と一緒にやってきた…今更いい子ちゃんぶっても遅いのよ！」
「さ…最初から…利用するつもりだった…俺達を…」
これを言われて、大谷はもはや何も言い返せなかった。
石川は黙り込む大谷の肩に手を置くと、言った。
「これまで死んできた数え切れない不必要な人達…そこに、何人かが加わるだけよ」
大谷は、もはや何も出来なかった。ただ、体中の力が抜けてその場に座り込んだ。
（あの時北上さんの助命嘆願をしたりしたのも計算ずくのことだったとでも
言うのか！？…石川さん…俺はただ…毛唐からこの国を…）
一方中澤、平家一派は、この計画のことを全く知らない。
隠密役のリーダーである斉藤がりんねに肩入れしているのである。
致し方の無いことだっただろう。
これを言われて、大谷はもはや何も言い返せなかった。
石川は黙り込む大谷の肩に手を置くと、言った。
「これまで死んできた数え切れない不必要な人達…そこに、何人かが加わるだけよ」
大谷は、もはや何も出来なかった。ただ、体中の力が抜けてその場に座り込んだ。
（あの時北上さんの助命嘆願をしたりしたのも計算ずくのことだったとでも
言うのか！？…石川さん…俺はただ…毛唐からこの国を…）
一方中澤、平家一派は、この計画のことを全く知らない。
隠密役のリーダーである斉藤がりんねに肩入れしているのである。
致し方の無いことだっただろう。
――決行の日午前
後藤は、行きつけの茶屋の老婆に土産を持って会いに行っている。
「やぁおばあさん、いい魚が手に入ったんだ。焼いてくれんかね」
その老婆はやれやれといった顔を浮かべ、
「魚くらい、自分で焼いたらよかろうに」
そう言いながらも後藤から魚を受け取ると、
それを火鉢で焼き始めた。
「いやー、いい匂いだねえ…魚ってなぜか他人の気がしなくってさぁ、
自分で焼くとなんか変な気分になるんだ」
「そういや、あんた魚に似とるのぉ」
あははは、と無邪気に笑う後藤。
決して、偉ぶらない。庶民と普通に話している自分と、薩長同盟の仲介をした自分。
（本当に、同じ自分だろうか）
そう思うことがあった。自分でそう思うのだから、
周りの人はそれに輪を掛けてそう思っていたことだろう。
「ありがとね。あ、そうだその饅頭、何個か包んでもらおうかな」
「はいはい、甘いものばっかり食べて太らんようにね」
「あはは、この饅頭と魚は今晩の酒の友だよ。よっすぃーも喜んでくれるといいがね」
そう言って帰ろうとする後藤の後ろ姿を何気なく眺めながら
ふと気になった老婆は、
「ちょっとお待ち」
そう言って呼び止めた。
「何かね？」
振り返った後藤の表情は、いつものように透き通るような笑顔だった。
「体には、重々気を付けるんだよ」
「ははは、おばあさんに言われるとは、俺も歳を取ったかな」
2人は、別れた。
後藤は、行きつけの茶屋の老婆に土産を持って会いに行っている。
「やぁおばあさん、いい魚が手に入ったんだ。焼いてくれんかね」
その老婆はやれやれといった顔を浮かべ、
「魚くらい、自分で焼いたらよかろうに」
そう言いながらも後藤から魚を受け取ると、
それを火鉢で焼き始めた。
「いやー、いい匂いだねえ…魚ってなぜか他人の気がしなくってさぁ、
自分で焼くとなんか変な気分になるんだ」
「そういや、あんた魚に似とるのぉ」
あははは、と無邪気に笑う後藤。
決して、偉ぶらない。庶民と普通に話している自分と、薩長同盟の仲介をした自分。
（本当に、同じ自分だろうか）
そう思うことがあった。自分でそう思うのだから、
周りの人はそれに輪を掛けてそう思っていたことだろう。
「ありがとね。あ、そうだその饅頭、何個か包んでもらおうかな」
「はいはい、甘いものばっかり食べて太らんようにね」
「あはは、この饅頭と魚は今晩の酒の友だよ。よっすぃーも喜んでくれるといいがね」
そう言って帰ろうとする後藤の後ろ姿を何気なく眺めながら
ふと気になった老婆は、
「ちょっとお待ち」
そう言って呼び止めた。
「何かね？」
振り返った後藤の表情は、いつものように透き通るような笑顔だった。
「体には、重々気を付けるんだよ」
「ははは、おばあさんに言われるとは、俺も歳を取ったかな」
2人は、別れた。
「あ、おかえりなさい後藤さん」
゛近江屋゛に戻ると色々と細かいことをしてくれる旅篭の従業員、
゛なっち山゛が出迎えてくれた。
゛なっち山゛は元力士であるという。
「あんた、見れば見るほど薩摩の安倍なつみさんに瓜二つだよ」
後藤から顔を合わせるたびにそう言われ、最近では自分でもその気になっている。
吉澤や後藤に色々質問をぶつけたりしていて、情勢にも詳しくなってきている。
また戯れで相撲を取ることもあったが、後藤や吉澤の方がよく勝った。
あまり強くはないらしい。
しかし、後藤は親しくなった゛なっち山゛に一つ強く言っていたことがある。
「尊王攘夷運動に参加してはならん」
危険なのである。
命の危険が大きい。大事な人には、後藤は必ずそう言っている。
そう言って北波一刀流の同門だったソニンや実弟のユウキなどは土佐に留まらせた。
「よっすぃーはまだ来てない？」
「まだ、来てません」
「…そうかね」
一人階段を登り、宿泊している部屋に戻った。
吉澤が訪れたのは、日も暮れてからである。
゛近江屋゛に戻ると色々と細かいことをしてくれる旅篭の従業員、
゛なっち山゛が出迎えてくれた。
゛なっち山゛は元力士であるという。
「あんた、見れば見るほど薩摩の安倍なつみさんに瓜二つだよ」
後藤から顔を合わせるたびにそう言われ、最近では自分でもその気になっている。
吉澤や後藤に色々質問をぶつけたりしていて、情勢にも詳しくなってきている。
また戯れで相撲を取ることもあったが、後藤や吉澤の方がよく勝った。
あまり強くはないらしい。
しかし、後藤は親しくなった゛なっち山゛に一つ強く言っていたことがある。
「尊王攘夷運動に参加してはならん」
危険なのである。
命の危険が大きい。大事な人には、後藤は必ずそう言っている。
そう言って北波一刀流の同門だったソニンや実弟のユウキなどは土佐に留まらせた。
「よっすぃーはまだ来てない？」
「まだ、来てません」
「…そうかね」
一人階段を登り、宿泊している部屋に戻った。
吉澤が訪れたのは、日も暮れてからである。
この頃、波浪組の3人は動き出した。
りんねと大木はありふれた侍風のいでたち、斉藤は薬屋に化けている。
「あれが、近江屋だな」
「ああ、看板も出ている」
そんなところまで、3人は迫って来ていた。
りんねと大木はありふれた侍風のいでたち、斉藤は薬屋に化けている。
「あれが、近江屋だな」
「ああ、看板も出ている」
そんなところまで、3人は迫って来ていた。
「ほう、いい魚だね」
「でしょ？」
しかし、まだそれを食べることはしない。2人には日本を動かす仕事がある。
床に書類を広げ、2人でそれに目を通す。
「でしょ？」
しかし、まだそれを食べることはしない。2人には日本を動かす仕事がある。
床に書類を広げ、2人でそれに目を通す。
まず斉藤が先行し入り口の前にある長椅子に腰を掛けた。
見張りの役目である。
「後藤と吉澤は北波一刀流の達人だ。正面きってやったら危ない。
ふすまを開けたら、すかさず斬りかかるんだ」
「ああ、打ち合わせ通りだろう」
りんねと大木の2人は斉藤の脇を通り、゛近江屋゛内に入る。
「いらっしゃい」
2人を出迎えたのは゛なっち山゛だった。
見張りの役目である。
「後藤と吉澤は北波一刀流の達人だ。正面きってやったら危ない。
ふすまを開けたら、すかさず斬りかかるんだ」
「ああ、打ち合わせ通りだろう」
りんねと大木の2人は斉藤の脇を通り、゛近江屋゛内に入る。
「いらっしゃい」
2人を出迎えたのは゛なっち山゛だった。
「ふむ…王政復古の大号令かぁ…なんかものものしいな…」
「うん…でも、やっとここまで来た…ちょっと！」
後藤が、横目でちらちらと、魚の方を見ている。
ふふふ…
吉澤は苦笑すると、
「食べながらにしちゃおうか」
後藤も肯いた。
「うん…でも、やっとここまで来た…ちょっと！」
後藤が、横目でちらちらと、魚の方を見ている。
ふふふ…
吉澤は苦笑すると、
「食べながらにしちゃおうか」
後藤も肯いた。
「松前藩の者です。後藤真希先生に火急の用がある」
りんねの言葉に、
「あぁ、後藤先生に御用ですね。それではご案内します」
゛なっち山゛を先頭に、階段を登る3人。
「後藤先生のお部屋はどちらかな？」
「ここを真っ直ぐ行って、一番奥になります」
人懐こい゛なっち山゛が振り返り笑顔でそう言った。
「ご苦労だった」
りんねはそう言いながら゛なっち山゛の口を押さえ、
次に大木がその腹部に深々と刀を突き刺し、手首を返した。
気を失った゛なっち山゛が、階段から転がり落ちる。
「ち…もう少し静かに降りられないのか」
「…斉藤さんが上手くやってくれる…急ごう」
りんねの言葉に、
「あぁ、後藤先生に御用ですね。それではご案内します」
゛なっち山゛を先頭に、階段を登る3人。
「後藤先生のお部屋はどちらかな？」
「ここを真っ直ぐ行って、一番奥になります」
人懐こい゛なっち山゛が振り返り笑顔でそう言った。
「ご苦労だった」
りんねはそう言いながら゛なっち山゛の口を押さえ、
次に大木がその腹部に深々と刀を突き刺し、手首を返した。
気を失った゛なっち山゛が、階段から転がり落ちる。
「ち…もう少し静かに降りられないのか」
「…斉藤さんが上手くやってくれる…急ごう」
この頃斉藤も近江屋内に入り、
他の従業員達に薬の行商をしてその気を引いている。
その時、奥の方で゛なっち山゛が階段から転がり落ちる音がした。
「あれ？何か物音が…ちょっと待っててもらえるかな」
しかし斉藤は確認の為に席を外そうとする従業員を、
「ああっと、今ならなんと半額以下でお分けしますよ！
なにぶん将軍様御用達の丸薬なのでこの機会を逃せばいつ手に入ることやら…」
などと言って引き止めた。
斉藤の弁舌の巧みさが無かったら、これまでの波浪組の作戦活動の
成功率は半分以下に下がっていたことだろう。
他の従業員達に薬の行商をしてその気を引いている。
その時、奥の方で゛なっち山゛が階段から転がり落ちる音がした。
「あれ？何か物音が…ちょっと待っててもらえるかな」
しかし斉藤は確認の為に席を外そうとする従業員を、
「ああっと、今ならなんと半額以下でお分けしますよ！
なにぶん将軍様御用達の丸薬なのでこの機会を逃せばいつ手に入ることやら…」
などと言って引き止めた。
斉藤の弁舌の巧みさが無かったら、これまでの波浪組の作戦活動の
成功率は半分以下に下がっていたことだろう。
゛なっち山゛が階段から転がり落ちる音は、後藤らにも聞こえた。
「うるさい！！」
後藤が注意すると、物音はしなくなった。
゛なっち山゛が階下まで落ちて止まったからである。
「なんだったんだろう？」
「゛なっち山゛が相撲でも取ってたんじゃないかね」
そう言って、2人は再び魚を頬張りながら書類に目を落とした。
2人の部屋のふすまが静かに開いたのは、そんな時だった。
「うるさい！！」
後藤が注意すると、物音はしなくなった。
゛なっち山゛が階下まで落ちて止まったからである。
「なんだったんだろう？」
「゛なっち山゛が相撲でも取ってたんじゃないかね」
そう言って、2人は再び魚を頬張りながら書類に目を落とした。
2人の部屋のふすまが静かに開いたのは、そんな時だった。
「土佐藩の後藤真希先生と、吉澤ひとみ先生ですね？」
後藤と吉澤は同時に、剣客の本能で何かを察したのだろう。
2人は一斉に振り返り、床の間に置いていた刀に手を伸ばした。
後藤は、いつも腰に大小両方は下げず、短い脇差しだけを下げていた。
「刀を下げるのなんて、もう時代遅れだ」
そう言って懐に拳銃を忍ばせていたのだが、あいにくそれは既に故障してしまっていた。
しかし、屋内で長刀は柱などに引っかかる。短い脇差しでも決して不利とは言い切れない。
まず、ふすま戸に近い方に座っていた吉澤の後頭部に向け
隊内随一の怪力をもって刀を右に払ったのは、大木である。
完全な手応えで、傷は脳にまで達しているだろうと思われた。
その一撃で気を失い、床の間に倒れこむ吉澤。
一方の後藤も、刀を取りに行っている背中を切りつけられた。
しかしそれでも刀を取り振り返ると、りんねの振り下ろした刀を、
鞘をつけたままの刀で受け止める。
後藤は、土佐を脱藩して以来、゛直接手を下しては゛一人の人も殺していない。
これは当時の倫理観からすると非常に珍しいことだ。
吉澤も、安倍も、飯田も保田も矢口も、
後に日本初の総理大臣の地位に着くことになる松浦亜弥も、
皆人を殺している。それは戦場でのことであったりもしたし、
そうでない場合もあった。
後藤は、常に「～が可哀相だ」という感情で動く人だったのである。
こんな時だというのに、後藤はやはり鞘を抜かなかった。
鞘のままりんねの刀を受け止める後藤。しかしりんねの剣は
鞘を削りながら後藤に迫り、その額を深々と斬った。
背中と額を斬られ、そのまま倒される後藤。
死亡確認の意味も込めてか、りんねは後藤の腹に駄目押しの一刀を突き刺した。
「さて、完了だ…帰ろう」
「そうだな」
後藤と吉澤は同時に、剣客の本能で何かを察したのだろう。
2人は一斉に振り返り、床の間に置いていた刀に手を伸ばした。
後藤は、いつも腰に大小両方は下げず、短い脇差しだけを下げていた。
「刀を下げるのなんて、もう時代遅れだ」
そう言って懐に拳銃を忍ばせていたのだが、あいにくそれは既に故障してしまっていた。
しかし、屋内で長刀は柱などに引っかかる。短い脇差しでも決して不利とは言い切れない。
まず、ふすま戸に近い方に座っていた吉澤の後頭部に向け
隊内随一の怪力をもって刀を右に払ったのは、大木である。
完全な手応えで、傷は脳にまで達しているだろうと思われた。
その一撃で気を失い、床の間に倒れこむ吉澤。
一方の後藤も、刀を取りに行っている背中を切りつけられた。
しかしそれでも刀を取り振り返ると、りんねの振り下ろした刀を、
鞘をつけたままの刀で受け止める。
後藤は、土佐を脱藩して以来、゛直接手を下しては゛一人の人も殺していない。
これは当時の倫理観からすると非常に珍しいことだ。
吉澤も、安倍も、飯田も保田も矢口も、
後に日本初の総理大臣の地位に着くことになる松浦亜弥も、
皆人を殺している。それは戦場でのことであったりもしたし、
そうでない場合もあった。
後藤は、常に「～が可哀相だ」という感情で動く人だったのである。
こんな時だというのに、後藤はやはり鞘を抜かなかった。
鞘のままりんねの刀を受け止める後藤。しかしりんねの剣は
鞘を削りながら後藤に迫り、その額を深々と斬った。
背中と額を斬られ、そのまま倒される後藤。
死亡確認の意味も込めてか、りんねは後藤の腹に駄目押しの一刀を突き刺した。
「さて、完了だ…帰ろう」
「そうだな」
決してお互いの名を呼ぶこと無く部屋を出、
そのまま何気なく近江屋の出口もくぐる2人。
その時まだ薬の行商をしていた斉藤は従業員がりんねと大木の顔を見ないよう、
立ち位置を巧みに移動した。
2人が近江屋の中にいたのは、ほぼ5分程度のことである。
2人が出て行ったのを確認して暫くして斉藤も薬の行商を終え、
「まいどあり～これからもどうぞご贔屓に…」
従業員達に笑顔を見せながら近江屋を出た。
そのまま何気なく近江屋の出口もくぐる2人。
その時まだ薬の行商をしていた斉藤は従業員がりんねと大木の顔を見ないよう、
立ち位置を巧みに移動した。
2人が近江屋の中にいたのは、ほぼ5分程度のことである。
2人が出て行ったのを確認して暫くして斉藤も薬の行商を終え、
「まいどあり～これからもどうぞご贔屓に…」
従業員達に笑顔を見せながら近江屋を出た。
―――
「…よ…よっすぃー…大丈夫かね…」
後藤が声を絞り出す。
「う…うん、大丈夫…お陰で食欲は無くなったけどね…」
吉澤の様子を見て、後藤が目を丸くする。
「よ、よっすぃー、どうした、血だらけじゃないか」
「…！？…」
後藤は、錯乱している。
額の傷から脳漿がこぼれている。
もう、助からない。
「よっすぃー、い、医者を呼んで来る」
「だ…駄目だ、ごっちん…動かないほうがいい」
「な…何を言ってるんだ…こんなときに…あ…あれ？」
後藤が自分の額に手を当てる。
「これはいけない…あ…汗かと思ったら…脳漿がこぼれてる…
…し…死ぬのか…おれ…も…」
そのまま気を失い、あっけなく息をひきとった。
時代を動かした最も偉大な浪人の、余りにもあっけない最期である。
吉澤も気を失ったが、しばらくして発見され、病院に搬送された。
「…よ…よっすぃー…大丈夫かね…」
後藤が声を絞り出す。
「う…うん、大丈夫…お陰で食欲は無くなったけどね…」
吉澤の様子を見て、後藤が目を丸くする。
「よ、よっすぃー、どうした、血だらけじゃないか」
「…！？…」
後藤は、錯乱している。
額の傷から脳漿がこぼれている。
もう、助からない。
「よっすぃー、い、医者を呼んで来る」
「だ…駄目だ、ごっちん…動かないほうがいい」
「な…何を言ってるんだ…こんなときに…あ…あれ？」
後藤が自分の額に手を当てる。
「これはいけない…あ…汗かと思ったら…脳漿がこぼれてる…
…し…死ぬのか…おれ…も…」
そのまま気を失い、あっけなく息をひきとった。
時代を動かした最も偉大な浪人の、余りにもあっけない最期である。
吉澤も気を失ったが、しばらくして発見され、病院に搬送された。
「よう…りんねさん、どこに行ってたんだ？」
「あ、あさみさんか。いや、別に。いつもの様に退屈な見廻りさ」
「ふぅん…」
りんねはたった今後藤を殺してきたことなど、おくびにも出さない。
しかしりんねの着物からただよう、血の臭気に気付かないあさみでもない。
「人を…斬って来たな？」
「血の匂いが染み付いてるのか…この服も」
そう言ってごまかすりんねを見て、あさみはそれ以上の追求はしなかった。
（あさみさん、これでまた戦が始まるぜ）
「あ、あさみさんか。いや、別に。いつもの様に退屈な見廻りさ」
「ふぅん…」
りんねはたった今後藤を殺してきたことなど、おくびにも出さない。
しかしりんねの着物からただよう、血の臭気に気付かないあさみでもない。
「人を…斬って来たな？」
「血の匂いが染み付いてるのか…この服も」
そう言ってごまかすりんねを見て、あさみはそれ以上の追求はしなかった。
（あさみさん、これでまた戦が始まるぜ）
この日、石川は自分の配下の隠密に、あるものを後藤らの殺害現場に
置いてこさせている。
それは、りんねの刀と同形の刀の鞘である。
しかし、りんねは鞘を持っている。しかも、珍しい刀でも無かった為に、
その物的証拠は重要視されはしなかった。
しかし、りんねが後藤暗殺の容疑者であることには違いない。
それでもりんねが犯人として逮捕されなかったのは、
維新後大木がりんねのアリバイを証明したからだし、
後日取り調べを受けた中澤も、「全く知らん」そう答えたからだ。
「犯人はりんねさんですわ」
そう証言したのは石川梨華ただ一人であった。
しかし、誰一人問題にはしなかった。後藤真希に恨みを持っている者など
他にいくらでもいる。りんねには動機らしい動機は無かったからだ。
それに、余り喋り過ぎると石川自身まで疑われることになってしまう。
これは、如才無い石川らしからぬ失敗だったと言える。
計算が、外れた。初めてと言っていいだろう。
あさみが石川に対し失望を覚えたのはこの時だった。
置いてこさせている。
それは、りんねの刀と同形の刀の鞘である。
しかし、りんねは鞘を持っている。しかも、珍しい刀でも無かった為に、
その物的証拠は重要視されはしなかった。
しかし、りんねが後藤暗殺の容疑者であることには違いない。
それでもりんねが犯人として逮捕されなかったのは、
維新後大木がりんねのアリバイを証明したからだし、
後日取り調べを受けた中澤も、「全く知らん」そう答えたからだ。
「犯人はりんねさんですわ」
そう証言したのは石川梨華ただ一人であった。
しかし、誰一人問題にはしなかった。後藤真希に恨みを持っている者など
他にいくらでもいる。りんねには動機らしい動機は無かったからだ。
それに、余り喋り過ぎると石川自身まで疑われることになってしまう。
これは、如才無い石川らしからぬ失敗だったと言える。
計算が、外れた。初めてと言っていいだろう。
あさみが石川に対し失望を覚えたのはこの時だった。
後頭部を斬られ、病院に運ばれた吉澤は1昼夜半眠り続けた。
後頭部の傷は、大木が手応えを感じた通り致命傷であると思われた。
「そろそろ葬式を挙げる用意でもしたらどうか」
などと同志の誰かが言い始めていた頃、吉澤は唐突に目を覚ました。
「おなかが空いた。べーグル持って来てくれないかな」
目が覚めての第一声がこれであった。
「食欲があるというのはいい傾向だ。誰か、ベーグルを持って来てく…
…べーぐる！？なんだねそれは一体？」
そう医者が言うと、
「なんだ、ベーグルも無いのか。じゃあ、ゆで卵でいいや」
「…？…まあいい、ゆで卵か…用意できるかね？」
この時の吉澤は高価なゆで卵を5つも食べた。
そして、生々しい事件当時の状況を詳しく証言し終えると、
「食べ過ぎた。少し眠い」
そう言って再び眠りに入った。
そしてその晩、再び吉澤は目覚めると、
気分が悪いと言って食べたゆで卵を全て吐き出し、
その翌朝、役目は終えたと言わんばかりに眠るように逝った。
重体だった゛なっち山゛はこの前日意識を取り戻すこと無く逝っている。
慶応3年11月17日、石川梨華にも大いなる運命が降りかかる、
その前日のことであった。
後頭部の傷は、大木が手応えを感じた通り致命傷であると思われた。
「そろそろ葬式を挙げる用意でもしたらどうか」
などと同志の誰かが言い始めていた頃、吉澤は唐突に目を覚ました。
「おなかが空いた。べーグル持って来てくれないかな」
目が覚めての第一声がこれであった。
「食欲があるというのはいい傾向だ。誰か、ベーグルを持って来てく…
…べーぐる！？なんだねそれは一体？」
そう医者が言うと、
「なんだ、ベーグルも無いのか。じゃあ、ゆで卵でいいや」
「…？…まあいい、ゆで卵か…用意できるかね？」
この時の吉澤は高価なゆで卵を5つも食べた。
そして、生々しい事件当時の状況を詳しく証言し終えると、
「食べ過ぎた。少し眠い」
そう言って再び眠りに入った。
そしてその晩、再び吉澤は目覚めると、
気分が悪いと言って食べたゆで卵を全て吐き出し、
その翌朝、役目は終えたと言わんばかりに眠るように逝った。
重体だった゛なっち山゛はこの前日意識を取り戻すこと無く逝っている。
慶応3年11月17日、石川梨華にも大いなる運命が降りかかる、
その前日のことであった。
175 ：名無し娘。：2001/05/23(水) 23:44 ID:GFOActhI
ふーんおもしろい話だね。みんなに見てもらおう！
あげ！
あげ！
176 ：蛇足7：2001/05/24(木) 22:19 ID:gGoaS/U6
北上アミ（弘化2年〈1845〉～元治2年〈1865〉）
波浪組副長。北波一刀流免許皆伝。波浪組にはその発足当初から参加している。
しかし当初から尊王攘夷の思想を持っており、石川梨華加入後はそれが顕在化する。
そしてやがて脱走事件を起こしその咎で切腹して果てる。
波浪組当初には少なかった文武両道の士であった。
稲葉貴子暗殺から切腹までの期間一切行軍録にその名が記されていないため、
゛領毛あゆみ゛という隊士と同一人物ではないかとする説がある。
末永真己（生年不詳～慶応3年〈1867〉）
波浪組五番隊組長。柴田あゆみと同じく一次募集での入隊者。
長沼流軍法や医学、国学などを10年間学び、それを買われたとされる。
しかし、隊の洋式化の為に次第に取り残され、薩摩と通じたために切腹処分となる。
プライドが高く、またそれに見合うだけの働きをしていた。
余談ながら同性愛者であったという疑いがある。
後藤真希（弘化9年〈1852〉～慶応3年〈1867〉）
土佐藩の郷士の家庭に生まれる。土佐藩海援隊隊長。北波一刀流免許皆伝。
土佐藩を脱藩し動乱のさなかにその身を投じた。
薩摩藩と長州藩の間に入り薩長同盟の仲介をしたとされる。
近江屋に宿泊していたところを襲撃され、没する。
もはや説明の必要すらない維新史における最大のヒーローの一人と言える。
吉澤ひとみ（弘化9年〈1852〉～慶応3年〈1867〉）
土佐藩の大庄屋の家に生まれる。土佐藩陸援隊隊長。
現在の高知県には海を挟んで後藤真希のそれと向き合うように銅像が建てられている。
維新までの貢献度においては後藤真希を凌ぐとも言われる。
近江屋に宿泊していたところを後藤真希とともに襲撃されその2日後没する。
犯人は見廻り組とも、波浪組隊士ともされるが、真相は今もって不明である。
波浪組副長。北波一刀流免許皆伝。波浪組にはその発足当初から参加している。
しかし当初から尊王攘夷の思想を持っており、石川梨華加入後はそれが顕在化する。
そしてやがて脱走事件を起こしその咎で切腹して果てる。
波浪組当初には少なかった文武両道の士であった。
稲葉貴子暗殺から切腹までの期間一切行軍録にその名が記されていないため、
゛領毛あゆみ゛という隊士と同一人物ではないかとする説がある。
末永真己（生年不詳～慶応3年〈1867〉）
波浪組五番隊組長。柴田あゆみと同じく一次募集での入隊者。
長沼流軍法や医学、国学などを10年間学び、それを買われたとされる。
しかし、隊の洋式化の為に次第に取り残され、薩摩と通じたために切腹処分となる。
プライドが高く、またそれに見合うだけの働きをしていた。
余談ながら同性愛者であったという疑いがある。
後藤真希（弘化9年〈1852〉～慶応3年〈1867〉）
土佐藩の郷士の家庭に生まれる。土佐藩海援隊隊長。北波一刀流免許皆伝。
土佐藩を脱藩し動乱のさなかにその身を投じた。
薩摩藩と長州藩の間に入り薩長同盟の仲介をしたとされる。
近江屋に宿泊していたところを襲撃され、没する。
もはや説明の必要すらない維新史における最大のヒーローの一人と言える。
吉澤ひとみ（弘化9年〈1852〉～慶応3年〈1867〉）
土佐藩の大庄屋の家に生まれる。土佐藩陸援隊隊長。
現在の高知県には海を挟んで後藤真希のそれと向き合うように銅像が建てられている。
維新までの貢献度においては後藤真希を凌ぐとも言われる。
近江屋に宿泊していたところを後藤真希とともに襲撃されその2日後没する。
犯人は見廻り組とも、波浪組隊士ともされるが、真相は今もって不明である。
177 ：名無し娘。：2001/05/26(土) 01:59 ID:ZJhzMD8c
＝七条油小路に石川梨華（尊王攘夷。）＝
再度、少し話は前後する。
「のう石川さん、最近どうですかね。゛そちらのほう゛は」
「ええ、可も無く、不可も無くと言ったところですわ」
石川派のリーダーである波浪組参謀石川梨華と
波浪組総長である中澤裕子が一堂に会するのは久しぶりのことだった。
かなり疎遠になってしまっている。
（可も無く不可も無くだと…女狐め）
狐面の平家は内心でそう思っている。
石川が我が物顔で土佐藩邸や、薩摩藩邸に出入りしていることは知っている。
それによって石川が尊王攘夷派内での立場を確立化させていることも。
これは、波浪組に対する完全な裏切りである。なのに、
「時流も変わりましたわ」
中澤は石川のこの言葉に弱い。
学が無い為に時流を読むのに鈍感であると思われたくない中澤は、
「そうですな…」
そう言って石川の行動を咎められないでいる。
「もはや、我々は波浪組という組織にこだわる必要も
無いのではないかと思っておるのです」
「なんだと！？」
唐突な大谷の言葉に、平家は耳を疑った。
完全な局中法度違反発言である。
「のう石川さん、最近どうですかね。゛そちらのほう゛は」
「ええ、可も無く、不可も無くと言ったところですわ」
石川派のリーダーである波浪組参謀石川梨華と
波浪組総長である中澤裕子が一堂に会するのは久しぶりのことだった。
かなり疎遠になってしまっている。
（可も無く不可も無くだと…女狐め）
狐面の平家は内心でそう思っている。
石川が我が物顔で土佐藩邸や、薩摩藩邸に出入りしていることは知っている。
それによって石川が尊王攘夷派内での立場を確立化させていることも。
これは、波浪組に対する完全な裏切りである。なのに、
「時流も変わりましたわ」
中澤は石川のこの言葉に弱い。
学が無い為に時流を読むのに鈍感であると思われたくない中澤は、
「そうですな…」
そう言って石川の行動を咎められないでいる。
「もはや、我々は波浪組という組織にこだわる必要も
無いのではないかと思っておるのです」
「なんだと！？」
唐突な大谷の言葉に、平家は耳を疑った。
完全な局中法度違反発言である。
「大谷さん、ちょっとそれは語弊がありますわね」
落ち着いて石川が捕捉の説明をした。
「やはり、゛波浪組゛という名前があっては、薩摩藩士も、土佐藩士も、長州藩士も
同志と思っては下さらないんですの。そこで、信頼してもらうために一時的に
゛波浪組゛という名を返上して、尊王攘夷派の内部にもっと深く入り込む。
情報は、波浪組に定期的にお流しさせていただきますわ」
「…石川さんが薩摩などと通じておられるのは、間諜として働くため…
ということなのですな！？」
石川は、自然に驚いたような表情を作り、
「当然ですわ！当たり前ではないですか！わたくしが本気で薩摩なんかと
通じるだなんて、そんなお馬鹿な話、ありえませんわ。プンプン」
そう言った。
無論、大嘘である。
石川は、完全に波浪組から縁を切ろうとしている。
（中澤さん…嘘だ。石川は嘘を言っている）
平家は必死で目で訴えたが、中澤がそれに気付くことはなかった。
「やはり石川さんだ。我々などが思いもつかぬようなことを考えておられる」
（馬鹿…）
しかし、平家は中澤のこういった愚かなところも含めて愛していた。
そうでなければ、ここまで一緒にやってくることは出来なかったであろう。
「それでは、わたくしたちはこのへんで」
石川一行は席を立った。
波浪組離脱を認めてもらえた石川一行の大谷は満足そうだ。
りんねとあさみ、村田も一緒に帰って行った。
落ち着いて石川が捕捉の説明をした。
「やはり、゛波浪組゛という名前があっては、薩摩藩士も、土佐藩士も、長州藩士も
同志と思っては下さらないんですの。そこで、信頼してもらうために一時的に
゛波浪組゛という名を返上して、尊王攘夷派の内部にもっと深く入り込む。
情報は、波浪組に定期的にお流しさせていただきますわ」
「…石川さんが薩摩などと通じておられるのは、間諜として働くため…
ということなのですな！？」
石川は、自然に驚いたような表情を作り、
「当然ですわ！当たり前ではないですか！わたくしが本気で薩摩なんかと
通じるだなんて、そんなお馬鹿な話、ありえませんわ。プンプン」
そう言った。
無論、大嘘である。
石川は、完全に波浪組から縁を切ろうとしている。
（中澤さん…嘘だ。石川は嘘を言っている）
平家は必死で目で訴えたが、中澤がそれに気付くことはなかった。
「やはり石川さんだ。我々などが思いもつかぬようなことを考えておられる」
（馬鹿…）
しかし、平家は中澤のこういった愚かなところも含めて愛していた。
そうでなければ、ここまで一緒にやってくることは出来なかったであろう。
「それでは、わたくしたちはこのへんで」
石川一行は席を立った。
波浪組離脱を認めてもらえた石川一行の大谷は満足そうだ。
りんねとあさみ、村田も一緒に帰って行った。
会場には、中澤一行でも古参で、゛試衛館゛からの仲間である
中澤、平家、市井、前田だけが残った。
他の面々は先に帰らせた。真に信用に足る面々だけを残したのである。
「中澤さん…本当に石川一行の脱隊を認めるつもりなのか！？」
中澤はうなずいた。
「聞いていなかったのか？石川さんは時流を読んで、攘夷派に擦り寄る振りをして、
その実間諜になってくれると言っていたではないか」
「あれは、嘘でしょうね」
ふと、白い顔をした市井が言った。
肺病はこの時期小康状態を保っている。
「紗耶香、お前になにが分かる…」
「いや、市井の言う通りだろう」
平家が中澤の叱責を制した。
「なんで、嘘だと分かる？」
「だって、嘘吐きの顔じゃないですか。石川さんって」
…
「前田さんは、どう思うね？」
この寡黙な古参隊士は、意見を求められない限り発言することは無い。
決して目立つことをしない。粛正の嵐の吹き荒れる中でこの振る舞いは賢明と言えたが、
これは前田の生来の気質である。
「私も…あれは嘘だと思う」
完全に、意見が偏った。
「しかしな、嘘では無かったらどうする」
「嘘だろうが何だろうが脱隊は、例外無く切腹だ…そう決めたのは中澤さんだろう」
中澤は、顔色を変えた。
「斬るのか…！？石川さんを」
平家は、ゆっくりと肯く。
「もしも、本気で脱隊すると持ち掛けてきたら、その時は斬ろう」
前田も、市井も肯いた。
中澤もどうやら観念したらしいが、
「しかし…石川さんは惜しい」
そう言った。
中澤、平家、市井、前田だけが残った。
他の面々は先に帰らせた。真に信用に足る面々だけを残したのである。
「中澤さん…本当に石川一行の脱隊を認めるつもりなのか！？」
中澤はうなずいた。
「聞いていなかったのか？石川さんは時流を読んで、攘夷派に擦り寄る振りをして、
その実間諜になってくれると言っていたではないか」
「あれは、嘘でしょうね」
ふと、白い顔をした市井が言った。
肺病はこの時期小康状態を保っている。
「紗耶香、お前になにが分かる…」
「いや、市井の言う通りだろう」
平家が中澤の叱責を制した。
「なんで、嘘だと分かる？」
「だって、嘘吐きの顔じゃないですか。石川さんって」
…
「前田さんは、どう思うね？」
この寡黙な古参隊士は、意見を求められない限り発言することは無い。
決して目立つことをしない。粛正の嵐の吹き荒れる中でこの振る舞いは賢明と言えたが、
これは前田の生来の気質である。
「私も…あれは嘘だと思う」
完全に、意見が偏った。
「しかしな、嘘では無かったらどうする」
「嘘だろうが何だろうが脱隊は、例外無く切腹だ…そう決めたのは中澤さんだろう」
中澤は、顔色を変えた。
「斬るのか…！？石川さんを」
平家は、ゆっくりと肯く。
「もしも、本気で脱隊すると持ち掛けてきたら、その時は斬ろう」
前田も、市井も肯いた。
中澤もどうやら観念したらしいが、
「しかし…石川さんは惜しい」
そう言った。
「ふー、何か冷たいものを持って来て下さらないかしら」
この日も石川は攘夷派の誰かと会ってきたのだろう。
大谷、りんね、あさみ、村田らが迎える。
「今日は誰と会ってこられたんです？」
「飯田圭織さんよ。全く…下らないお冗談をたくさん聞かされたわ
゛貴公の話を聞こう゛って一体なんなのかしら」
石川はうんざりといった顔で言った。
「い…飯田圭織さんだって？す…すごい、薩摩の超大物じゃないか」
「昨日は確か土佐の吉澤ひとみと会ってきたとか…」
あさみと大谷は興奮している。
りんねも一応驚きを浮かべているが、
ただ一人冷たい表情を崩さないのは村田だった。
「む…村田さんどうした？具合でも悪いのかね？」
「…おれは、騒がしいのが苦手だ…それだけだ…」
村田の声がいつにも増して沈んでいる。
「そ…そうだな、村田さんは、そうだった」
大谷は慌ててフォローの姿勢を取る。
しかし、いつもとはまた違うこの日の村田めぐみではあった。
村田はそのまま、自分の居室に帰って行く。
「大谷雅恵…お前は正しいのか……！？」
一人、居室で呟く村田だった。
この日も石川は攘夷派の誰かと会ってきたのだろう。
大谷、りんね、あさみ、村田らが迎える。
「今日は誰と会ってこられたんです？」
「飯田圭織さんよ。全く…下らないお冗談をたくさん聞かされたわ
゛貴公の話を聞こう゛って一体なんなのかしら」
石川はうんざりといった顔で言った。
「い…飯田圭織さんだって？す…すごい、薩摩の超大物じゃないか」
「昨日は確か土佐の吉澤ひとみと会ってきたとか…」
あさみと大谷は興奮している。
りんねも一応驚きを浮かべているが、
ただ一人冷たい表情を崩さないのは村田だった。
「む…村田さんどうした？具合でも悪いのかね？」
「…おれは、騒がしいのが苦手だ…それだけだ…」
村田の声がいつにも増して沈んでいる。
「そ…そうだな、村田さんは、そうだった」
大谷は慌ててフォローの姿勢を取る。
しかし、いつもとはまた違うこの日の村田めぐみではあった。
村田はそのまま、自分の居室に帰って行く。
「大谷雅恵…お前は正しいのか……！？」
一人、居室で呟く村田だった。
土佐藩士の後藤真希と吉澤ひとみが暗殺されたのは、これから数ヶ月後、
慶応3年11月15日のことである。
そしてなぜか、その日りんねが中澤派に帰参し、
翌日石川派が波浪組離脱の申し出を持ってきた。
そして、それと同時に今度はあさみも中澤派に帰参したのである。
このりんねとあさみについてのいきさつは、前章で述べた。
「急ですな…1週間後にでも屯所を出ていかれるのですか…」
「時流とは、刻一刻と変わっていくものですわ」
また、中澤の苦手な゛時流゛という言葉が出た。
しかし、この時の中澤はもう惑わされなかった。
ここで、中澤が石川の隣につく大谷の異変に気付く。
「どうした？大谷君、元気が無さそうだが」
大谷ははっとしたように顔を上げ
「あ、はは、なんでも無いです」
そうとだけ言うと、また頭を下げた。
（大谷君…君は生かしてやりたいが…）
中澤は、心中でそう言った。
慶応3年11月15日のことである。
そしてなぜか、その日りんねが中澤派に帰参し、
翌日石川派が波浪組離脱の申し出を持ってきた。
そして、それと同時に今度はあさみも中澤派に帰参したのである。
このりんねとあさみについてのいきさつは、前章で述べた。
「急ですな…1週間後にでも屯所を出ていかれるのですか…」
「時流とは、刻一刻と変わっていくものですわ」
また、中澤の苦手な゛時流゛という言葉が出た。
しかし、この時の中澤はもう惑わされなかった。
ここで、中澤が石川の隣につく大谷の異変に気付く。
「どうした？大谷君、元気が無さそうだが」
大谷ははっとしたように顔を上げ
「あ、はは、なんでも無いです」
そうとだけ言うと、また頭を下げた。
（大谷君…君は生かしてやりたいが…）
中澤は、心中でそう言った。
石川壮行の名目で酒宴が中澤派主催により開催されたのは、
その明後日のことである。中澤派は石川梨華、村田めぐみの2人を招待してきた。
「石川さん、危険ではないでしょうか？もしものことがあれば…」
石川派の誰かが言った。
過去に稲葉貴子、末永真己らが酒宴の帰りに斬殺されている。
しかし石川はそれを笑い飛ばすと、
「大丈夫よ。中澤さんだって仮にも波浪組を率いるだけの人物なんだから、
一応しっかり筋を通して離脱する私を、どうこうするわけがないわ。
それに…もしものことがあっても頼りになる用心棒さんだっているんだから」
隣にいる村田を見ながらそう言った。
「そうだな、村田さんがいれば心配無いか」
村田は波浪組内でも5本の指に入るであろう剣豪である。
石川にしても、北波一刀流の達人だった。
「村田さん…石川さんのこと…頼んだぜ」
石川の周りの人だかりの影から聞こえてきた゛先駆け先生゛の声に、
「あぁ、分かっている」
村田はそう答えた。
その明後日のことである。中澤派は石川梨華、村田めぐみの2人を招待してきた。
「石川さん、危険ではないでしょうか？もしものことがあれば…」
石川派の誰かが言った。
過去に稲葉貴子、末永真己らが酒宴の帰りに斬殺されている。
しかし石川はそれを笑い飛ばすと、
「大丈夫よ。中澤さんだって仮にも波浪組を率いるだけの人物なんだから、
一応しっかり筋を通して離脱する私を、どうこうするわけがないわ。
それに…もしものことがあっても頼りになる用心棒さんだっているんだから」
隣にいる村田を見ながらそう言った。
「そうだな、村田さんがいれば心配無いか」
村田は波浪組内でも5本の指に入るであろう剣豪である。
石川にしても、北波一刀流の達人だった。
「村田さん…石川さんのこと…頼んだぜ」
石川の周りの人だかりの影から聞こえてきた゛先駆け先生゛の声に、
「あぁ、分かっている」
村田はそう答えた。
「ようこそ、いらっしゃった」
中澤の出迎えは、ごく自然だった。
「す…すごい料理ですわね」
全ての膳に、山海の珍味がちりばめられている。
「我々からの、心尽くしですよ」
平家も、珍しく穏やかな表情を見せている。
石川は入隊以来平家とは対立関係にあり、
この時のような平家の穏やかな表情は記憶に無い。
（これまでのわだかまりも水に流すっていうことね。
こういう時、お馬鹿さん相手は楽でいいわ）
石川はそう思いながら席についた。
「やぁ石川さん、今晩は多いに旧知を温めましょう！」
人当たりのいい斉藤などが石川の近くの席についた。
この日は皆上機嫌で、前田の゛演歌゛も久しぶりに飛び出し、
それに続いて中澤も゛演歌゛を披露したりした。
不評のうちにそれが終了する頃になると、石川の酔いはかなり進んでいた。
「あれれ…村田さんがいないみたいだけど…」
「あぁ、村田さんなら酔ったと言って先に帰られたそうです」
「あ、そうなの」
既に泥酔と言っていい状態である。
異変に気付かない。
「わ、わたくしもそろそろ帰らせてもらおうかしら」
ふらふらと立ち上がる石川。
「だれか、石川さんに駕籠を呼んで差し上げるように」
しかし、
「いいえ、わたくし歩いて帰って酔いを醒ますことに致しますわ」
そう辞して歩いて石川派屯所に帰っていく石川の背中を見ながら、
「上手くいったな…村田君」
そう言う平家の隣に、先に帰ったはずの村田がいたのである。
中澤の出迎えは、ごく自然だった。
「す…すごい料理ですわね」
全ての膳に、山海の珍味がちりばめられている。
「我々からの、心尽くしですよ」
平家も、珍しく穏やかな表情を見せている。
石川は入隊以来平家とは対立関係にあり、
この時のような平家の穏やかな表情は記憶に無い。
（これまでのわだかまりも水に流すっていうことね。
こういう時、お馬鹿さん相手は楽でいいわ）
石川はそう思いながら席についた。
「やぁ石川さん、今晩は多いに旧知を温めましょう！」
人当たりのいい斉藤などが石川の近くの席についた。
この日は皆上機嫌で、前田の゛演歌゛も久しぶりに飛び出し、
それに続いて中澤も゛演歌゛を披露したりした。
不評のうちにそれが終了する頃になると、石川の酔いはかなり進んでいた。
「あれれ…村田さんがいないみたいだけど…」
「あぁ、村田さんなら酔ったと言って先に帰られたそうです」
「あ、そうなの」
既に泥酔と言っていい状態である。
異変に気付かない。
「わ、わたくしもそろそろ帰らせてもらおうかしら」
ふらふらと立ち上がる石川。
「だれか、石川さんに駕籠を呼んで差し上げるように」
しかし、
「いいえ、わたくし歩いて帰って酔いを醒ますことに致しますわ」
そう辞して歩いて石川派屯所に帰っていく石川の背中を見ながら、
「上手くいったな…村田君」
そう言う平家の隣に、先に帰ったはずの村田がいたのである。
最初から、村田は平家からの密命のもとで石川一派を監視していた。
これには石川も、あさみもりんねも、大谷も気付かなかった。
それも致し方ないことではあったのかもしれない。
村田は、何度も平家と大谷の間で揺れ動いた。
大谷が、村田にとって仲間という関係を超え、始めての友人と呼べる存在に
なりつつあったからだ。だが、最後は
「色々あったが世話になった会津藩を裏切ることは出来ん…
…俺の正義はやはり幕府と共にある」
そう決意した。
「あ～あ～～男のひ～と～って～い～く～つも～愛をもって～いるのね～」
泥酔した石川が訳の分からない鼻歌を歌いながら七条油小路に差し掛かった時だった。
ドスッ…
物陰から唐突に突き出された槍に、石川は肩を貫かれた。
その槍は肩を貫通して、喉にまで突き刺さっている。
致命傷だった。
しかし、それでもなんとか槍が突き出された方向に視線を移すと、
そこにいたのは酒宴に参加していなかった波浪組十番隊長、りんねだった。
「へへ、これでおあいこだな、石川さんよ…
…現場に鞘を置いてくるなんてよくやってくれたものだぜ」
「い…田舎者の、野蛮人のくせに！！」
石川は断末魔のようにそう叫ぶと口から血を吹き出し、
あっけなく絶命した。
これには石川も、あさみもりんねも、大谷も気付かなかった。
それも致し方ないことではあったのかもしれない。
村田は、何度も平家と大谷の間で揺れ動いた。
大谷が、村田にとって仲間という関係を超え、始めての友人と呼べる存在に
なりつつあったからだ。だが、最後は
「色々あったが世話になった会津藩を裏切ることは出来ん…
…俺の正義はやはり幕府と共にある」
そう決意した。
「あ～あ～～男のひ～と～って～い～く～つも～愛をもって～いるのね～」
泥酔した石川が訳の分からない鼻歌を歌いながら七条油小路に差し掛かった時だった。
ドスッ…
物陰から唐突に突き出された槍に、石川は肩を貫かれた。
その槍は肩を貫通して、喉にまで突き刺さっている。
致命傷だった。
しかし、それでもなんとか槍が突き出された方向に視線を移すと、
そこにいたのは酒宴に参加していなかった波浪組十番隊長、りんねだった。
「へへ、これでおあいこだな、石川さんよ…
…現場に鞘を置いてくるなんてよくやってくれたものだぜ」
「い…田舎者の、野蛮人のくせに！！」
石川は断末魔のようにそう叫ぶと口から血を吹き出し、
あっけなく絶命した。
「い…石川さんが…殺された！！」
程無く石川派屯所にその報告は届いた。
届けたのは、村田の手のものであったという。
「な…なんだと？」
大谷は耳を疑った。
「石川梨華さんが、中澤一派に暗殺されたんだ！！」
もはや聞き間違いでないのは明らかである。
しかし、
「うそだ…村田さんが一緒にいたはずじゃないか…」
呆然とする大谷を、
「大谷さん！中澤一派からせめて遺体を取り返そう！！仇討ちはそれからだ！！」
石川の実妹らが鼓舞した。
遺体奪還の為、油小路に直行する石川一派。
石川の体は、道が交差した見通しのよい場所に月の光を浴びて転がっている。
程無く石川派屯所にその報告は届いた。
届けたのは、村田の手のものであったという。
「な…なんだと？」
大谷は耳を疑った。
「石川梨華さんが、中澤一派に暗殺されたんだ！！」
もはや聞き間違いでないのは明らかである。
しかし、
「うそだ…村田さんが一緒にいたはずじゃないか…」
呆然とする大谷を、
「大谷さん！中澤一派からせめて遺体を取り返そう！！仇討ちはそれからだ！！」
石川の実妹らが鼓舞した。
遺体奪還の為、油小路に直行する石川一派。
石川の体は、道が交差した見通しのよい場所に月の光を浴びて転がっている。
「本当に死んでるのか？」
判断しかねるくらいの、微妙な距離だった。
「罠かも知れん…迂闊に近づかないほうがいい」
「駄目だ！まだ生きていたらどうする！手遅れになる前に連れ帰るんだ！」
石川一派はそう言って石川の遺体に近づくと、
何人かでそれを抱えあげた。その時、
「かかれ！石川一派の賊を根絶やしにするんだ！」
そんな声と共に大勢の波浪組隊士が躍り掛かった。
躍り掛かった数十名の波浪組隊士の中には、りんね、あさみ、そして村田らがいた。
しかし石川一派とて、ただ大人しく斬られる訳が無い。
「石川さん！石川さんの遺体は絶対に連れて帰ってくれ！！」
紛らわしいことを叫ぶのは内山理名という石川派隊士だった。
波浪組内でも勝てる者はいないであろうとも言われた猛者である。
石川の実妹を逃がすために、必死の奮戦をしている。
両手に刀を持ち、上体を回転させながら四方に斬りつけている。
「な…なんという剣術だあれは？」
始めにりんねが斬りつけようとしたが、逆に右肩を斬られた。
「や…やるじゃないか内山さんよ」
その破天荒な内山の戦い振りは、後に
「まるで保田のようだった」
と伝えられることになる。
判断しかねるくらいの、微妙な距離だった。
「罠かも知れん…迂闊に近づかないほうがいい」
「駄目だ！まだ生きていたらどうする！手遅れになる前に連れ帰るんだ！」
石川一派はそう言って石川の遺体に近づくと、
何人かでそれを抱えあげた。その時、
「かかれ！石川一派の賊を根絶やしにするんだ！」
そんな声と共に大勢の波浪組隊士が躍り掛かった。
躍り掛かった数十名の波浪組隊士の中には、りんね、あさみ、そして村田らがいた。
しかし石川一派とて、ただ大人しく斬られる訳が無い。
「石川さん！石川さんの遺体は絶対に連れて帰ってくれ！！」
紛らわしいことを叫ぶのは内山理名という石川派隊士だった。
波浪組内でも勝てる者はいないであろうとも言われた猛者である。
石川の実妹を逃がすために、必死の奮戦をしている。
両手に刀を持ち、上体を回転させながら四方に斬りつけている。
「な…なんという剣術だあれは？」
始めにりんねが斬りつけようとしたが、逆に右肩を斬られた。
「や…やるじゃないか内山さんよ」
その破天荒な内山の戦い振りは、後に
「まるで保田のようだった」
と伝えられることになる。
「あ…あんたは？」
大谷に斬りかかってきた者がいる。
信じたくなかった。しかし、それはどう見ても村田めぐみだったのである。
「……」
村田はひたすら無言で打ち込んでくる。
「なんでだ…なんで裏切ったんだよ村田さん」
「最初から…こうなる運命だった」
絶句する大谷。
「…そうかい…あんた…俺を利用してたのか…」
村田は言い訳はしなかった。ただ、
「逃げろ」
そう言った。
村田は打ち合っているように見せながら、
戦場の中心から巧みに遠ざかっていたのである。
「逃げて…お前の正義を貫いてみせろ…今度は誰にも依存せずにな」
しかし、大谷は逃げようとしない。
「俺の正義…分からんよ…そんなもの…石川さんに裏切られ…
村田さんにも裏切られた俺は…もう、何も分からん…」
「…大谷…」
「だぁっ！！」
その時、脇から大谷に斬りつけたのは若手隊士だった。
「くっ…」
「ま…待て…」
村田が止めたがしかし、遅かった。
力無く倒れた大谷はそのまま若手隊士らに取り囲まれ、
滅多切りにされ絶命した。
波浪組発足からの隊士であり、幹部。
゛先駆け先生゛の異名も持ち、軽やかな人柄は多くの隊士に好かれていた。
「顔は斬るな！顔が分からなくなったら見せしめの意味が無くなる！」
そんな若い隊士の言葉が聞こえた。
時をほぼ同じくして、獅子奮迅の働きで中澤派にも多少の犠牲を払わせ、
数人の石川派の逃亡を成功させた内山も力尽き、七条油小路に静寂が戻った。
大谷に斬りかかってきた者がいる。
信じたくなかった。しかし、それはどう見ても村田めぐみだったのである。
「……」
村田はひたすら無言で打ち込んでくる。
「なんでだ…なんで裏切ったんだよ村田さん」
「最初から…こうなる運命だった」
絶句する大谷。
「…そうかい…あんた…俺を利用してたのか…」
村田は言い訳はしなかった。ただ、
「逃げろ」
そう言った。
村田は打ち合っているように見せながら、
戦場の中心から巧みに遠ざかっていたのである。
「逃げて…お前の正義を貫いてみせろ…今度は誰にも依存せずにな」
しかし、大谷は逃げようとしない。
「俺の正義…分からんよ…そんなもの…石川さんに裏切られ…
村田さんにも裏切られた俺は…もう、何も分からん…」
「…大谷…」
「だぁっ！！」
その時、脇から大谷に斬りつけたのは若手隊士だった。
「くっ…」
「ま…待て…」
村田が止めたがしかし、遅かった。
力無く倒れた大谷はそのまま若手隊士らに取り囲まれ、
滅多切りにされ絶命した。
波浪組発足からの隊士であり、幹部。
゛先駆け先生゛の異名も持ち、軽やかな人柄は多くの隊士に好かれていた。
「顔は斬るな！顔が分からなくなったら見せしめの意味が無くなる！」
そんな若い隊士の言葉が聞こえた。
時をほぼ同じくして、獅子奮迅の働きで中澤派にも多少の犠牲を払わせ、
数人の石川派の逃亡を成功させた内山も力尽き、七条油小路に静寂が戻った。
―――
「…大谷さんは…逃がしてやりたかったな…」
あさみが沈んだ顔を見せる。
実は彼女も、中澤から密かに
「大谷君は、なんとか命だけは助けてやってくれ」
そう言われていたのだ。
袂を分かったとは言え、最初からの同志であるという過去は消えなかった。
「…そうだな…」
りんねとあさみは2人で大谷に黙祷を捧げると、帰って行った。
しかし、若手隊士の中には
「裏切り者め！」
そう言って大谷の顔に唾を吐きかけて行った者もいた。
村田は一人最後まで残り、大谷の顔を懐紙で綺麗に拭いてやると、言った。
「大谷…お前は中途半端に利口すぎた…俺はそうはなれん」
村田めぐみ。
波浪組三番隊組長兼撃剣師範。
謎の多い人物である。
月の光を端正な顔に浴びて、大谷雅恵は二度と目覚めることはない。
慶応3年11月、既に日付は19日へと変わっている。
「…大谷さんは…逃がしてやりたかったな…」
あさみが沈んだ顔を見せる。
実は彼女も、中澤から密かに
「大谷君は、なんとか命だけは助けてやってくれ」
そう言われていたのだ。
袂を分かったとは言え、最初からの同志であるという過去は消えなかった。
「…そうだな…」
りんねとあさみは2人で大谷に黙祷を捧げると、帰って行った。
しかし、若手隊士の中には
「裏切り者め！」
そう言って大谷の顔に唾を吐きかけて行った者もいた。
村田は一人最後まで残り、大谷の顔を懐紙で綺麗に拭いてやると、言った。
「大谷…お前は中途半端に利口すぎた…俺はそうはなれん」
村田めぐみ。
波浪組三番隊組長兼撃剣師範。
謎の多い人物である。
月の光を端正な顔に浴びて、大谷雅恵は二度と目覚めることはない。
慶応3年11月、既に日付は19日へと変わっている。
190 ：蛇足8：2001/05/26(土) 23:15 ID:jzE4bHqY
石川梨華（弘化8年〈1851〉～慶応3年〈1867〉）
2次募集からの参画者。北波一刀流免許皆伝。波浪組参謀。
その広範な知識と爽やかな弁舌が評価され、あっという間に隊内での勢力を増大させた。
副長平家みちよとは入隊当初からそりが合わなかったとされる。
波浪組脱隊の咎で、また二重スパイの疑いも掛けられ波浪組に討たれる。
肌が黒く、またウンコをしなかったとする説がある。
大谷雅恵（弘化5年〈1848〉～慶応3年〈1867〉）
波浪組発足当初からの参画者。北波一刀流師範。波浪組八番隊組長。
剣の腕は勿論、学問もあり当初から尊王攘夷に対する関心が高かった。
池田屋事件では額を割る重傷を負った。石川梨華勧誘を中澤裕子に強く勧めた。
その戦場での戦い振りから゛先駆け先生゛の異名を持つ。
最期は七条油小路で石川が討たれたことを聞き駆けつけたところを返り討ちにされた。
逞しい下半身の持ち主であったとされる。
2次募集からの参画者。北波一刀流免許皆伝。波浪組参謀。
その広範な知識と爽やかな弁舌が評価され、あっという間に隊内での勢力を増大させた。
副長平家みちよとは入隊当初からそりが合わなかったとされる。
波浪組脱隊の咎で、また二重スパイの疑いも掛けられ波浪組に討たれる。
肌が黒く、またウンコをしなかったとする説がある。
大谷雅恵（弘化5年〈1848〉～慶応3年〈1867〉）
波浪組発足当初からの参画者。北波一刀流師範。波浪組八番隊組長。
剣の腕は勿論、学問もあり当初から尊王攘夷に対する関心が高かった。
池田屋事件では額を割る重傷を負った。石川梨華勧誘を中澤裕子に強く勧めた。
その戦場での戦い振りから゛先駆け先生゛の異名を持つ。
最期は七条油小路で石川が討たれたことを聞き駆けつけたところを返り討ちにされた。
逞しい下半身の持ち主であったとされる。
191 ：名無し娘。：2001/05/28(月) 03:48 ID:rxONkj6E
＝―波浪―鳥羽伏見の戦い（前編）＝
明治維新を目前に控え゛時流゛は、石川梨華の死も些末なことのように押し流し、
波浪組を動乱の最中へと流しこんでいる。
波浪組ごとき、その中では皮肉にも波浪の中で翻弄される木の葉程度のものだった。
その発端は、慶応3年12月7日に起きた天満屋事件である。
紀州藩士の警護に当たっていた波浪組が土佐藩士に襲撃され、
波浪組隊士であった中澤の従妹が死亡した。
この事件の引き金は、後藤真希暗殺である。
後藤は暗殺される少し前、船長を務めていた蒸気船゛ぷっち丸゛を、
紀州藩の船との衝突による沈没で失っている。
この時後藤は紀州藩から8万3千両という高額の賠償金を取った。
しかし、実際は゛ぷっち丸゛の蒸気釜は既にかなり老朽化しており、
7～6万両程度が妥当であったとされ、しかも専門家が見れば衝突には
紀州藩の方よりも土佐藩の方に非があった。
後藤の゛ぷっち丸゛の操船は慣れない若手志士が担当していたともいう。
しかし、それら多くの不利な条件を一転し土佐藩が賠償金を得たのは、
後藤真希の卓越した交渉手腕があったからだ。
この時交渉に当たった紀州藩側の老中は、人知れず割腹して果てている。
こういったいきさつがあり、紀州藩士達は後藤真希を激しく怨んでいた。
こういった理由で、土佐藩士は後藤真希暗殺の犯人として、
数人の紀州藩士を真っ先に疑った。
疑われた紀州藩士が護衛を波浪組に依頼し、護衛に当たっていた
波浪組が土佐藩士に襲撃され波浪組、土佐藩双方に死者が出たのである。
この時警護に当たっていたのは村田めぐみ率いる波浪組三番隊であった。
しかし、村田めぐみらしからぬ戦いぶりで味方に一人の戦死者を出した。
あさみやりんねが駆けつけた頃、既に土佐藩勢は逃げた後だった。
この事件が波浪組の京都における最後の仕事となった。
将軍が大政を奉還した以上京に留まっていることは出来ないと
二条城から大阪城へと移ったために波浪組もそれにつき暮らし慣れた京を離れ、
大坂、伏見へと屯所を移したのである。
波浪組を動乱の最中へと流しこんでいる。
波浪組ごとき、その中では皮肉にも波浪の中で翻弄される木の葉程度のものだった。
その発端は、慶応3年12月7日に起きた天満屋事件である。
紀州藩士の警護に当たっていた波浪組が土佐藩士に襲撃され、
波浪組隊士であった中澤の従妹が死亡した。
この事件の引き金は、後藤真希暗殺である。
後藤は暗殺される少し前、船長を務めていた蒸気船゛ぷっち丸゛を、
紀州藩の船との衝突による沈没で失っている。
この時後藤は紀州藩から8万3千両という高額の賠償金を取った。
しかし、実際は゛ぷっち丸゛の蒸気釜は既にかなり老朽化しており、
7～6万両程度が妥当であったとされ、しかも専門家が見れば衝突には
紀州藩の方よりも土佐藩の方に非があった。
後藤の゛ぷっち丸゛の操船は慣れない若手志士が担当していたともいう。
しかし、それら多くの不利な条件を一転し土佐藩が賠償金を得たのは、
後藤真希の卓越した交渉手腕があったからだ。
この時交渉に当たった紀州藩側の老中は、人知れず割腹して果てている。
こういったいきさつがあり、紀州藩士達は後藤真希を激しく怨んでいた。
こういった理由で、土佐藩士は後藤真希暗殺の犯人として、
数人の紀州藩士を真っ先に疑った。
疑われた紀州藩士が護衛を波浪組に依頼し、護衛に当たっていた
波浪組が土佐藩士に襲撃され波浪組、土佐藩双方に死者が出たのである。
この時警護に当たっていたのは村田めぐみ率いる波浪組三番隊であった。
しかし、村田めぐみらしからぬ戦いぶりで味方に一人の戦死者を出した。
あさみやりんねが駆けつけた頃、既に土佐藩勢は逃げた後だった。
この事件が波浪組の京都における最後の仕事となった。
将軍が大政を奉還した以上京に留まっていることは出来ないと
二条城から大阪城へと移ったために波浪組もそれにつき暮らし慣れた京を離れ、
大坂、伏見へと屯所を移したのである。
――波浪組が屯所を移動させた二日後…慶応3年12月18日
既に敵の手に落ちたと言っていい京の二条城での会議に出席した中澤は、
20名程の警護の隊士らとともに大阪への帰還の路の途上にあった。
「中澤さん、また戦が始まるんですか？」
馬丁が中澤に訊ねる。
以前大谷雅恵と柴田あゆみが拾って来てその2人の死後中澤が引き取り、
可愛がっている辻希美という少女だった。
この頃になると、昔は乱暴だった言葉遣いもすっかり直っている。
「うむ…時流は既に我々の前進に逆らう方向に流れているらしい…
だが、将軍様はまだまだ我々には期待していると言って下さった。
しかし…次の戦こそ起死回生の最後の機会となるかもしれんそうだ」
「じゃあ…もし次の戦に負けたら…」
「こらっ！」
警護の隊士が辻の出過ぎた真似を咎めたが中澤は
「よいのだ」
とそれを制すると、辻の目を見て言った。
「おれにはこれがある…この将軍様に頂いた銘刀゛虎徹゛
この刀を持って戦場に出て以来、おれは一度も負けていない」
「これまではそうだったけど…」
沈んだ表情を浮かべる辻。
「これからも…そうだ」
しかし中澤は辻を鼓舞するかのように正面に視線を据えてそう言った。
既に敵の手に落ちたと言っていい京の二条城での会議に出席した中澤は、
20名程の警護の隊士らとともに大阪への帰還の路の途上にあった。
「中澤さん、また戦が始まるんですか？」
馬丁が中澤に訊ねる。
以前大谷雅恵と柴田あゆみが拾って来てその2人の死後中澤が引き取り、
可愛がっている辻希美という少女だった。
この頃になると、昔は乱暴だった言葉遣いもすっかり直っている。
「うむ…時流は既に我々の前進に逆らう方向に流れているらしい…
だが、将軍様はまだまだ我々には期待していると言って下さった。
しかし…次の戦こそ起死回生の最後の機会となるかもしれんそうだ」
「じゃあ…もし次の戦に負けたら…」
「こらっ！」
警護の隊士が辻の出過ぎた真似を咎めたが中澤は
「よいのだ」
とそれを制すると、辻の目を見て言った。
「おれにはこれがある…この将軍様に頂いた銘刀゛虎徹゛
この刀を持って戦場に出て以来、おれは一度も負けていない」
「これまではそうだったけど…」
沈んだ表情を浮かべる辻。
「これからも…そうだ」
しかし中澤は辻を鼓舞するかのように正面に視線を据えてそう言った。
「そ…そうだよね…中澤さんは死なないよね…中澤さんは…強いから…」
そう言いながら辻は視線を中澤が見ているのと同じ方向に向けた。
そんな辻を、中澤はいとおしい瞳でみつめていた。
「…！！」
辻が何かに気付いた様な瞳をしたのはその時である。
「危ない中澤さん！！」
生まれ持った跳躍力を最大限に使い、馬に飛び乗り中澤の目前に立った辻の体に、
その瞬間いくつもの血の華が咲いた。
「つ…辻！？」
辻が力無く預けてきた体を中澤は無意識に受け止めた。
何が起こったのかを理解するまでに、中澤は一瞬以上の時間を要した。
「な…中澤さん…」
なぜか、辻がうつろな目で自分を見つめている。
どうした、しっかりしろ。
そう言おうとしたが声が出なかった。喉の奥から鳴咽だけがこぼれた。
「もう私…これで…悲しい思いをしなくて…済むのかな…」
辻はそれだけ言うと中澤から視線を外してあさっての方を向き、
それっきり動かなくなった。
美しいつぼみは、花を咲かせる前に摘み取られた。13歳だった。
「銃声はあの木の影からだ！！絶対に逃すな！！」
「な…中澤さん！！早くお逃げ下さい！！！」
周りから騒がしい声が聞こえる。
（大谷君…北上さん……なぜだ…なぜこうなる…おれは…）
バッ！！
「うおっ！！」
その時中澤の右肩を銃弾が貫き、ようやく中澤は意識を現世に戻した。
「だ…大丈夫ですか！！」
中澤を受け止めようと馬の下へ殺到する隊士達。
しかし、中澤は落馬しなかった。
「おのれ…」
そう言って襲撃犯を追おうとする中澤を、隊士達が引き止める。
それを振り払おうとした中澤をようやく
「命を捨ててあなたを守った辻の気持ちを無駄にするのですか！！」
というある隊士の言葉が説得し、中澤は辻の体を抱いたまま伏見の屯所へと馬を走らせた。
そう言いながら辻は視線を中澤が見ているのと同じ方向に向けた。
そんな辻を、中澤はいとおしい瞳でみつめていた。
「…！！」
辻が何かに気付いた様な瞳をしたのはその時である。
「危ない中澤さん！！」
生まれ持った跳躍力を最大限に使い、馬に飛び乗り中澤の目前に立った辻の体に、
その瞬間いくつもの血の華が咲いた。
「つ…辻！？」
辻が力無く預けてきた体を中澤は無意識に受け止めた。
何が起こったのかを理解するまでに、中澤は一瞬以上の時間を要した。
「な…中澤さん…」
なぜか、辻がうつろな目で自分を見つめている。
どうした、しっかりしろ。
そう言おうとしたが声が出なかった。喉の奥から鳴咽だけがこぼれた。
「もう私…これで…悲しい思いをしなくて…済むのかな…」
辻はそれだけ言うと中澤から視線を外してあさっての方を向き、
それっきり動かなくなった。
美しいつぼみは、花を咲かせる前に摘み取られた。13歳だった。
「銃声はあの木の影からだ！！絶対に逃すな！！」
「な…中澤さん！！早くお逃げ下さい！！！」
周りから騒がしい声が聞こえる。
（大谷君…北上さん……なぜだ…なぜこうなる…おれは…）
バッ！！
「うおっ！！」
その時中澤の右肩を銃弾が貫き、ようやく中澤は意識を現世に戻した。
「だ…大丈夫ですか！！」
中澤を受け止めようと馬の下へ殺到する隊士達。
しかし、中澤は落馬しなかった。
「おのれ…」
そう言って襲撃犯を追おうとする中澤を、隊士達が引き止める。
それを振り払おうとした中澤をようやく
「命を捨ててあなたを守った辻の気持ちを無駄にするのですか！！」
というある隊士の言葉が説得し、中澤は辻の体を抱いたまま伏見の屯所へと馬を走らせた。
襲撃犯人を捕らえることは敵わなかった。
しかし、後に犯人は少し前に暗殺された石川の実妹ら、
裏で糸を引いていたのは飯田圭織だったということが分かっている。
「すごいな…どんなに殿様みたいになってもやはり、この人は根っからの侍だよ」
銃撃されながらも落馬せず、辻の遺体を抱いて伏見の屯所まで帰ってきた中澤を
りんねは珍しく誉めた。
しかし、後に犯人は少し前に暗殺された石川の実妹ら、
裏で糸を引いていたのは飯田圭織だったということが分かっている。
「すごいな…どんなに殿様みたいになってもやはり、この人は根っからの侍だよ」
銃撃されながらも落馬せず、辻の遺体を抱いて伏見の屯所まで帰ってきた中澤を
りんねは珍しく誉めた。
この頃、越前藩、尾張両藩主からある使者が、
大阪城に引き上げた将軍のもとに訪れている。
ことづけの内容は
「征夷大将軍の地位と、領地を朝廷に返上して下さい」
というものである。
家臣は顔色を変えた。
この使者を送ってきた越前、尾張の藩主はいずれも将軍の親類である。
「なぜ天皇様直々でなく親類の口を通す！？」
将軍はそれに従おうとした。しかし、それより先に家臣達が激昂した。
親類の口を通してこのようなことを伝えておいて、
速やかに天皇側についた薩摩藩、長州藩などが次々と何食わぬ顔で
威嚇するかのように大阪へ軍隊を差し向けてきたのである。
海軍などは港を占領し、何気なく貿易の便を奪ったりしている。
「も…もう我慢ならぬ！」
薩摩、長州の策謀にまんまと引っ掛かった形である。
薩摩藩の指導者である安倍なつみは徹底的な主戦派であり、
どうしても幕府を戦で二度と立ち直れなくなるまで叩き潰したかった。
しかし、こちらから仕掛けるわけにはいかない。
幕府のほうが先に仕掛けてくるよう仕向けたのである。
徹底反戦の後藤真希が存命だったら、こうはなっていなかったかもしれない。
ともあれここに、鳥羽伏見の戦いは幕を開けた。
慶応4年1月3日のことである。
大阪城に引き上げた将軍のもとに訪れている。
ことづけの内容は
「征夷大将軍の地位と、領地を朝廷に返上して下さい」
というものである。
家臣は顔色を変えた。
この使者を送ってきた越前、尾張の藩主はいずれも将軍の親類である。
「なぜ天皇様直々でなく親類の口を通す！？」
将軍はそれに従おうとした。しかし、それより先に家臣達が激昂した。
親類の口を通してこのようなことを伝えておいて、
速やかに天皇側についた薩摩藩、長州藩などが次々と何食わぬ顔で
威嚇するかのように大阪へ軍隊を差し向けてきたのである。
海軍などは港を占領し、何気なく貿易の便を奪ったりしている。
「も…もう我慢ならぬ！」
薩摩、長州の策謀にまんまと引っ掛かった形である。
薩摩藩の指導者である安倍なつみは徹底的な主戦派であり、
どうしても幕府を戦で二度と立ち直れなくなるまで叩き潰したかった。
しかし、こちらから仕掛けるわけにはいかない。
幕府のほうが先に仕掛けてくるよう仕向けたのである。
徹底反戦の後藤真希が存命だったら、こうはなっていなかったかもしれない。
ともあれここに、鳥羽伏見の戦いは幕を開けた。
慶応4年1月3日のことである。
197 ：読者レーダースイッチON：2001/05/28(月) 04:21 ID:rxONkj6E
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師匠「近藤！ 向かって来い！」
番長「コンドーム買って来い！
番長「コンドーム買って来い！
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204 ：蛇足9-1：2001/05/30(水) 07:00 ID:pwj8WeQ2
波浪組の剣術は゛孟攻剣゛と呼ばれる集団の剣術だった。
3人程度で隊列を作り、順番に一人に斬りつけていく。
そうすると次第に相手は疲労し必ず斬られてしまう。
これはテレビアニメ「機動戦士ガンダム」の黒い三連星などに応用が見られる。
波浪組で誰が一番強かったかという話はよく議論されるが、
局長の中澤、副長の平家は別格として波浪組一、二、三番隊長の市井、あさみ、村田の
三人に絞られるだろう。
中澤裕子は局長であるため実戦の記録が少ないが、池田屋事件の目撃者によると
中澤は常に下段に構え、相手が振り下ろした刀を跳ね上げると次の瞬間は袈裟斬りに
斬って落としていたという。振り下ろされた軽からぬ重量のある刀を振り上げた刀で
跳ね上げるなどということは並の腕力で出来ることではない。
加えてこの時池田屋で中澤は無傷だったというのだから弱かった筈はないだろう。
平家みちよも副長であるため実戦の記録は少ない。しかし珍しく平家が京の見廻りを
して浪士と戦ったのを目撃した町人の談話が残っている。
その時平家は斬りかかってきた刀を避けると石ころを拾いそれを投げつけ、
相手が怯んだところで自らの着物の帯を外しそれで相手を締め落としてしまったという。
平家は本格的に剣術を学んだ期間が短いため道場剣術では中澤や市井には及ばなかった
かもしれない。しかし実戦になるといわゆる゛喧嘩剣術゛で、負けることはなかったらしい。
市井紗耶香は「や、や、や」という三段突きの時、余りの速さのため床を蹴る音が一つに
聞こえたという゛幻の三段突き゛が有名だが、実戦では専ら抜打ちを用いていたらしい。
相手が刀を振り下ろして来た手首を抜打ちで切り落とし、振り返りざま袈裟斬りにする。
決して相手より先に剣を抜くことはしなかったらしい。
抜打ちにした次の瞬間は振り返り斬り下ろしていたというから達人であったことは間違い無い。
3人程度で隊列を作り、順番に一人に斬りつけていく。
そうすると次第に相手は疲労し必ず斬られてしまう。
これはテレビアニメ「機動戦士ガンダム」の黒い三連星などに応用が見られる。
波浪組で誰が一番強かったかという話はよく議論されるが、
局長の中澤、副長の平家は別格として波浪組一、二、三番隊長の市井、あさみ、村田の
三人に絞られるだろう。
中澤裕子は局長であるため実戦の記録が少ないが、池田屋事件の目撃者によると
中澤は常に下段に構え、相手が振り下ろした刀を跳ね上げると次の瞬間は袈裟斬りに
斬って落としていたという。振り下ろされた軽からぬ重量のある刀を振り上げた刀で
跳ね上げるなどということは並の腕力で出来ることではない。
加えてこの時池田屋で中澤は無傷だったというのだから弱かった筈はないだろう。
平家みちよも副長であるため実戦の記録は少ない。しかし珍しく平家が京の見廻りを
して浪士と戦ったのを目撃した町人の談話が残っている。
その時平家は斬りかかってきた刀を避けると石ころを拾いそれを投げつけ、
相手が怯んだところで自らの着物の帯を外しそれで相手を締め落としてしまったという。
平家は本格的に剣術を学んだ期間が短いため道場剣術では中澤や市井には及ばなかった
かもしれない。しかし実戦になるといわゆる゛喧嘩剣術゛で、負けることはなかったらしい。
市井紗耶香は「や、や、や」という三段突きの時、余りの速さのため床を蹴る音が一つに
聞こえたという゛幻の三段突き゛が有名だが、実戦では専ら抜打ちを用いていたらしい。
相手が刀を振り下ろして来た手首を抜打ちで切り落とし、振り返りざま袈裟斬りにする。
決して相手より先に剣を抜くことはしなかったらしい。
抜打ちにした次の瞬間は振り返り斬り下ろしていたというから達人であったことは間違い無い。
205 ：蛇足9-2：2001/05/30(水) 07:01 ID:pwj8WeQ2
あさみは道場では決して華やかな使い手では無かったが16歳で免許皆伝という天才の
市井と立ち会っても戦績は5分5分であったというから道場剣術もかなりのもの
だったろう。実戦では常に危険な作戦に志願し、尚且つ波浪組晩期まで生き残っている
のだから強かったという証明には充分だと言える。
これは彼女の親友だったりんねに関しても同じことが言えるかもしれない。
村田めぐみは剣の流派も分かっていないというほど謎の多い人物だが、
得意技は゛左片手一本突き゛で、実戦でもよく用いたという。
突きは強力ではあるものの避けられた時の隙が余りにも大きい。
しかしそれを好んで使い尚且つ戦で大きな怪我をすることも無かったというのだから
弱かった筈はない。
作者は剣道経験絶無なのでなんのことやら誰が強いのかなどさっぱり分かりません。
市井と立ち会っても戦績は5分5分であったというから道場剣術もかなりのもの
だったろう。実戦では常に危険な作戦に志願し、尚且つ波浪組晩期まで生き残っている
のだから強かったという証明には充分だと言える。
これは彼女の親友だったりんねに関しても同じことが言えるかもしれない。
村田めぐみは剣の流派も分かっていないというほど謎の多い人物だが、
得意技は゛左片手一本突き゛で、実戦でもよく用いたという。
突きは強力ではあるものの避けられた時の隙が余りにも大きい。
しかしそれを好んで使い尚且つ戦で大きな怪我をすることも無かったというのだから
弱かった筈はない。
作者は剣道経験絶無なのでなんのことやら誰が強いのかなどさっぱり分かりません。
＝―波浪―鳥羽伏見の戦い（後編）＝
「情けないことだ…紗耶香の分も戦わねばならぬ時にこのざまとはな…」
中澤は先日銃撃された傷の療養の為大阪城に収容されている。
そこに平家が訪ねてきたのは、開戦前日のことであった。
「気にしなくていい…中澤さんは、ここでゆっくり傷を治してくれ。
おそらく、まだまだ戦いは終わらん。この戦に勝とうが、負けようがな」
「…うむ」
この頃波浪組は隊士を急募し、また幕府から補充兵を給わったこともあり、
150名程の部隊になっている。
しかし、昔日の少数精鋭の剣客集団という面影は薄く、質より量の部隊に
なってしまっていることは否めない。
「紗耶香の具合はどうだ？」
中澤が訊ねる。
「…大丈夫。顔色は悪くない。いつも中澤さん、あんたの心配ばかりしてるよ。
…自分の体のことはよく分かっているはずなのにな…」
「…そうか…しかし、しっかり見張っておいてやってくれよ。
目を離すとすぐに外に出てどこかに遊びに行ってしまうからなあいつは」
この頃、市井は病状が悪化し寝込んでいる。
「ああ、分かっている。しかし、もうあいつは故郷に
帰らせてやった方がいいかもしれんな…」
「忘れたのか平家、帰る家なぞ無いんだよ。あいつには」
「……ああ…そうだったな」
平家は肯いた。市井は幼少の頃両親と生き別れている。
中澤と平家、前田らとはその頃からの知り合いだった。
「中澤さん、そろそろ私は行かなけりゃならん…なにかみんなに伝えることはないか？」
「…薩摩には容赦するな…そう伝えてくれ」
薩摩藩に辻希美を殺されたも同然である。
そして、そのような私怨だけではなく、薩摩は幕府について長州藩と戦っていた頃から
密かに赤地の錦に日月を金の糸で刺繍した旗を用意していた。
これは、天皇の側に立って賊を打ち倒す時に官軍が掲げる旗である。
そして、その旗を今薩摩陣営に翻させている。
「我々に仇なす幕府軍は賊だ」
そう言っているわけである。
「虫酸が走る」
この利口なやりかたは、中澤や平家のような一直線に生きる人間にとって
最も好ましくないやりかただった。
「分かった…じゃあな」
戦端が開かれるのは翌日夕刻のことである。
中澤は先日銃撃された傷の療養の為大阪城に収容されている。
そこに平家が訪ねてきたのは、開戦前日のことであった。
「気にしなくていい…中澤さんは、ここでゆっくり傷を治してくれ。
おそらく、まだまだ戦いは終わらん。この戦に勝とうが、負けようがな」
「…うむ」
この頃波浪組は隊士を急募し、また幕府から補充兵を給わったこともあり、
150名程の部隊になっている。
しかし、昔日の少数精鋭の剣客集団という面影は薄く、質より量の部隊に
なってしまっていることは否めない。
「紗耶香の具合はどうだ？」
中澤が訊ねる。
「…大丈夫。顔色は悪くない。いつも中澤さん、あんたの心配ばかりしてるよ。
…自分の体のことはよく分かっているはずなのにな…」
「…そうか…しかし、しっかり見張っておいてやってくれよ。
目を離すとすぐに外に出てどこかに遊びに行ってしまうからなあいつは」
この頃、市井は病状が悪化し寝込んでいる。
「ああ、分かっている。しかし、もうあいつは故郷に
帰らせてやった方がいいかもしれんな…」
「忘れたのか平家、帰る家なぞ無いんだよ。あいつには」
「……ああ…そうだったな」
平家は肯いた。市井は幼少の頃両親と生き別れている。
中澤と平家、前田らとはその頃からの知り合いだった。
「中澤さん、そろそろ私は行かなけりゃならん…なにかみんなに伝えることはないか？」
「…薩摩には容赦するな…そう伝えてくれ」
薩摩藩に辻希美を殺されたも同然である。
そして、そのような私怨だけではなく、薩摩は幕府について長州藩と戦っていた頃から
密かに赤地の錦に日月を金の糸で刺繍した旗を用意していた。
これは、天皇の側に立って賊を打ち倒す時に官軍が掲げる旗である。
そして、その旗を今薩摩陣営に翻させている。
「我々に仇なす幕府軍は賊だ」
そう言っているわけである。
「虫酸が走る」
この利口なやりかたは、中澤や平家のような一直線に生きる人間にとって
最も好ましくないやりかただった。
「分かった…じゃあな」
戦端が開かれるのは翌日夕刻のことである。
「なぁあさみさん、うちらはいつから賊軍になったんだ？」
「さぁなあ…薩長に官軍の旗が翻ってるってことは、
やっぱり今じゃ私らのほうが賊軍になってるってことなのかな」
「難しいことは分からんよ…でもな、薩長を潰せば、また賊官は
ひっくり返るんだろ！？」
「多分そうだ。だから、私達は出来るだけ敵を斬らにゃならん。
怪我をしている中澤さんの分もな」
「…中澤さんのぶんも…ねえ…」
あさみとりんねは冷酒を酌み交わしながら開戦の時を待っている。
「ふぅ…」
戦闘を前にして呼吸を整えているのは斉藤瞳、波浪組の優秀な隠密方である。
波取流棒術の名手でもあった。
「斉藤、無理はするなよ」
その斉藤に声を掛けたのは波浪組三番隊組長、村田めぐみである。
「あ、村田さんか…珍しいな」
斉藤はそう苦笑すると表情を引き締め、
「ありがとう。少し気が楽になったよ…でも、私だって剣を持っても
やれるっていうところを少しは若い隊士に見せておきたいものさ」
中澤はかつて隊士たちの前で
「斉藤君だけは死んでもらっては困る」
などと口を滑らせたことがあった。無論その時多くの隊士達は
「斉藤さんだけが隊士じゃない」
と嫉妬に近い反感を覚えたが、次の瞬間斉藤の隠密としての見事な働きを思い出し、
それを引っ込めた。人当たりもよく、中澤や平家らとの連携は完璧だった。
「戦闘で死ぬべきなのはおれ達のような剣しか使えない不器用な人間だ…
…利口な奴は死んではならん…お前や…あいつのような」
「あいつ…！？」
斉藤の頭にも死んだ大谷雅恵の顔は浮かんでいただろうか。
ともあれ、
「分かった。無理はしないよ」
（無茶はするかもしれんがね）
心の中でそう言った。
「さぁなあ…薩長に官軍の旗が翻ってるってことは、
やっぱり今じゃ私らのほうが賊軍になってるってことなのかな」
「難しいことは分からんよ…でもな、薩長を潰せば、また賊官は
ひっくり返るんだろ！？」
「多分そうだ。だから、私達は出来るだけ敵を斬らにゃならん。
怪我をしている中澤さんの分もな」
「…中澤さんのぶんも…ねえ…」
あさみとりんねは冷酒を酌み交わしながら開戦の時を待っている。
「ふぅ…」
戦闘を前にして呼吸を整えているのは斉藤瞳、波浪組の優秀な隠密方である。
波取流棒術の名手でもあった。
「斉藤、無理はするなよ」
その斉藤に声を掛けたのは波浪組三番隊組長、村田めぐみである。
「あ、村田さんか…珍しいな」
斉藤はそう苦笑すると表情を引き締め、
「ありがとう。少し気が楽になったよ…でも、私だって剣を持っても
やれるっていうところを少しは若い隊士に見せておきたいものさ」
中澤はかつて隊士たちの前で
「斉藤君だけは死んでもらっては困る」
などと口を滑らせたことがあった。無論その時多くの隊士達は
「斉藤さんだけが隊士じゃない」
と嫉妬に近い反感を覚えたが、次の瞬間斉藤の隠密としての見事な働きを思い出し、
それを引っ込めた。人当たりもよく、中澤や平家らとの連携は完璧だった。
「戦闘で死ぬべきなのはおれ達のような剣しか使えない不器用な人間だ…
…利口な奴は死んではならん…お前や…あいつのような」
「あいつ…！？」
斉藤の頭にも死んだ大谷雅恵の顔は浮かんでいただろうか。
ともあれ、
「分かった。無理はしないよ」
（無茶はするかもしれんがね）
心の中でそう言った。
「勤王軍は、総勢約5000だそうです」
「…そうか」
大木の報告を受け、平家は肯いた。
「我々の軍勢は2万4千です。約五倍の戦力です。勝てる…勝てる戦ですね平家さん！」
「……」
しかし、平家は答えない。不安になり露骨に表情を変える大木。
巨体に似合わぬ身の軽さと、勘の鋭さが買われ、
波浪組伍長の役職に就いている彼女は、中澤や市井、前田ら同門を除けば
波浪組内で最高の平家の信奉者と言えた。
彼女の鋭い本能的な勘は、平家の鬼の表情の影に潜む優しい表情にも気付いていた
のかもしれない。
「ど…どうしてですか平家さん…どうして答えて下さらないのです？」
「…勝てるのではない…勝つ…勝たねばならん！」
大木の心は打ち震えた。
「そうか…勝つ…勝てるのではなく、勝つのですね！！」
――砲撃が聞こえた。
鳥羽街道、下鳥羽村の近くで勤王軍と幕軍が衝突したのである。
戦闘の火蓋がこの時、切られた。
「…そうか」
大木の報告を受け、平家は肯いた。
「我々の軍勢は2万4千です。約五倍の戦力です。勝てる…勝てる戦ですね平家さん！」
「……」
しかし、平家は答えない。不安になり露骨に表情を変える大木。
巨体に似合わぬ身の軽さと、勘の鋭さが買われ、
波浪組伍長の役職に就いている彼女は、中澤や市井、前田ら同門を除けば
波浪組内で最高の平家の信奉者と言えた。
彼女の鋭い本能的な勘は、平家の鬼の表情の影に潜む優しい表情にも気付いていた
のかもしれない。
「ど…どうしてですか平家さん…どうして答えて下さらないのです？」
「…勝てるのではない…勝つ…勝たねばならん！」
大木の心は打ち震えた。
「そうか…勝つ…勝てるのではなく、勝つのですね！！」
――砲撃が聞こえた。
鳥羽街道、下鳥羽村の近くで勤王軍と幕軍が衝突したのである。
戦闘の火蓋がこの時、切られた。
――数時間後
「くそ…これはいかん」
平家は歯軋りをした。
夜になると薩長軍は外国製の火砲で幕府軍の陣営に火をかけ、
そこがまるで昼間のような明るさにしたうえで、
そこを砲弾や銃弾で狙い撃ちにしてきたのだ。
隊内教育の一環として砲術を学びそれもある程度はこなせるものの、
結局のところ剣術を頼みとしている波浪組には手立てが無かった。
しかも150人の軍勢の波浪組が持つ大砲は、わずか一門である。
（どうやら、剣だけで戦がやれる時代は終わったようだぜ、中澤さん）
「だめだ！みんな諦めるな！」
漂い始めた諦観の空気を払拭したのは、相変わらず元気なあさみの声だった。
卓越した剣の腕は勿論、その元気さでも常に仲間の戦意を鼓舞してくれる。
「しかしな、これだけの火力で攻められたら、うちらじゃどうにもならんぜ」
「少数で決死隊を組み、斬り込むんだ」
危険な作戦である。しかし
「面白そうだ」
そう最初に言ったのは斉藤瞳だった。
「そうだな…よし、俺も決死隊に志願する」
大木衣吹も乗った。
「斉藤、お前は駄目だ。ここにいろ」
村田が言ったが、
「心配してくれるのはありがたいが、私もここらで剣を振るっておきたいんだよ。
フフフ…無駄死にはせんさ」
斉藤も同行することになった。
あさみ、斉藤、大木を始めとした15人で決死隊が組まれた。
「くそ…これはいかん」
平家は歯軋りをした。
夜になると薩長軍は外国製の火砲で幕府軍の陣営に火をかけ、
そこがまるで昼間のような明るさにしたうえで、
そこを砲弾や銃弾で狙い撃ちにしてきたのだ。
隊内教育の一環として砲術を学びそれもある程度はこなせるものの、
結局のところ剣術を頼みとしている波浪組には手立てが無かった。
しかも150人の軍勢の波浪組が持つ大砲は、わずか一門である。
（どうやら、剣だけで戦がやれる時代は終わったようだぜ、中澤さん）
「だめだ！みんな諦めるな！」
漂い始めた諦観の空気を払拭したのは、相変わらず元気なあさみの声だった。
卓越した剣の腕は勿論、その元気さでも常に仲間の戦意を鼓舞してくれる。
「しかしな、これだけの火力で攻められたら、うちらじゃどうにもならんぜ」
「少数で決死隊を組み、斬り込むんだ」
危険な作戦である。しかし
「面白そうだ」
そう最初に言ったのは斉藤瞳だった。
「そうだな…よし、俺も決死隊に志願する」
大木衣吹も乗った。
「斉藤、お前は駄目だ。ここにいろ」
村田が言ったが、
「心配してくれるのはありがたいが、私もここらで剣を振るっておきたいんだよ。
フフフ…無駄死にはせんさ」
斉藤も同行することになった。
あさみ、斉藤、大木を始めとした15人で決死隊が組まれた。
「あさみさん、気を付けろよ」
りんねが声を掛け、
「あさみ、行きまーす！」
15人が一斉に駆け出した。
15人が左右に身を躍らせながら敵弾をかわし敵陣に踏み込むと、
敵陣は一気に崩れた。接近戦になれば人的資源の量の差もあって薩長軍は
波浪組に敵わない。
「くたばれ！卑怯者！」
敵の刀を鎬で受け、そこで相手の剣筋をずらしておいて相手の顔面に斬りつける。
あさみの得意技だった。
斉藤も大木も奮戦を見せている。
「攘夷などと言いながら毛唐の武器に頼る卑劣漢！恥を知れ！」
斉藤の叫び声が響いた。
「い…いかん！引け！」
ついに、薩長軍は退却した。
「はぁ、はぁ…あさみさん、無事か？」
息を切らせた大木が寄ってきた。
「ああ、大丈夫だ。斬られてない。斉藤さんはどうだった？」
「なんともないよ。だが、こっちは若い隊士が4人斬られた」
「そうか…口惜しいが…これ以上追うのは無理だな」
「うん。よし、退却だ！」
退却しようと全員が背中を向けた時、
「撃て！」
逃げ出したかに見えた薩長軍が、一斉射撃を行ってきたのである。
「し…しまった…みんな！散らばって逃げるぞ！」
あさみの声が響いた時一人が銃弾を受け、倒れた。
大木と、あさみが一緒に逃げた。
途中で塀に囲まれたが、大木は刀を塀に立て掛けるとその鍔に足を掛けて
上手く塀を乗り越え、その後紐で刀を引き上げる。手慣れている。
「さすが隠密…」
あさみも真似ようとしたが、出来ない。
身長が足りなかったらしい。
「手を！」
大木が手を差し出しあさみの手を取ると、それを腕一本で引き上げた。
大木は隊内随一の怪力の持ち主でもあった。
このような助け合いもあって2人はなんとか逃げ切った。
りんねが声を掛け、
「あさみ、行きまーす！」
15人が一斉に駆け出した。
15人が左右に身を躍らせながら敵弾をかわし敵陣に踏み込むと、
敵陣は一気に崩れた。接近戦になれば人的資源の量の差もあって薩長軍は
波浪組に敵わない。
「くたばれ！卑怯者！」
敵の刀を鎬で受け、そこで相手の剣筋をずらしておいて相手の顔面に斬りつける。
あさみの得意技だった。
斉藤も大木も奮戦を見せている。
「攘夷などと言いながら毛唐の武器に頼る卑劣漢！恥を知れ！」
斉藤の叫び声が響いた。
「い…いかん！引け！」
ついに、薩長軍は退却した。
「はぁ、はぁ…あさみさん、無事か？」
息を切らせた大木が寄ってきた。
「ああ、大丈夫だ。斬られてない。斉藤さんはどうだった？」
「なんともないよ。だが、こっちは若い隊士が4人斬られた」
「そうか…口惜しいが…これ以上追うのは無理だな」
「うん。よし、退却だ！」
退却しようと全員が背中を向けた時、
「撃て！」
逃げ出したかに見えた薩長軍が、一斉射撃を行ってきたのである。
「し…しまった…みんな！散らばって逃げるぞ！」
あさみの声が響いた時一人が銃弾を受け、倒れた。
大木と、あさみが一緒に逃げた。
途中で塀に囲まれたが、大木は刀を塀に立て掛けるとその鍔に足を掛けて
上手く塀を乗り越え、その後紐で刀を引き上げる。手慣れている。
「さすが隠密…」
あさみも真似ようとしたが、出来ない。
身長が足りなかったらしい。
「手を！」
大木が手を差し出しあさみの手を取ると、それを腕一本で引き上げた。
大木は隊内随一の怪力の持ち主でもあった。
このような助け合いもあって2人はなんとか逃げ切った。
「無事だったか！」
波浪組陣営に辿り着いたあさみに声を掛けてきたのは平家みちよである。
「え…ええ」
あさみは珍しく嬉しそうな表情を浮かべる平家に戸惑った。
「君が死んだと聞いたのでな…よかった。生きて返って来てくれて」
その表情には感動の色すら浮かんでいた。
更にはあさみの手を取り、きつく握っている。
（…平家さんもやはり人の子なんだな…鬼であり続けるのも、辛いんだろう）
そんな時、斉藤も帰還した。
「あ、斉藤さんも戻ってきたみたいだ」
「おお、あさみさんも、大木君も無事だったか。よかっ…た」
「！？」
最後まで言い終えたところで、斉藤が崩れ落ちたのである。
「さ…斉藤さん！！」
慌てて平家が体を支えたが、斉藤の息は大きく乱れている。
「…よ…よかった…2人が無事で」
「こんな時に何を言っている！！」
斉藤は、背中に5発の銃弾を受けていた。
あさみと大木が無事で斉藤が撃たれたという違いは、
運があったか無かったかの違いが全てだった。
それでもなんとか波浪組陣営にまで辿り着いた斉藤だが、
大木とあさみの無事を確認したところで気が緩んだのだろう。
そこで体を支えることが出来なくなった。
「…私は大丈夫だ…心配はいらんよ」
斉藤は笑ってみせると、気を失った。
更にこの翌日早朝、一つの砲弾が波浪組陣営に飛び込んだ。
それが炸裂したすぐ側で戦場に咲いた花を眺めていたのは、
波浪組六番隊組長前田有紀である。
波浪組内随一の゛演歌゛の歌い手は、最期まで風情を忘れなかった。
波浪組陣営に辿り着いたあさみに声を掛けてきたのは平家みちよである。
「え…ええ」
あさみは珍しく嬉しそうな表情を浮かべる平家に戸惑った。
「君が死んだと聞いたのでな…よかった。生きて返って来てくれて」
その表情には感動の色すら浮かんでいた。
更にはあさみの手を取り、きつく握っている。
（…平家さんもやはり人の子なんだな…鬼であり続けるのも、辛いんだろう）
そんな時、斉藤も帰還した。
「あ、斉藤さんも戻ってきたみたいだ」
「おお、あさみさんも、大木君も無事だったか。よかっ…た」
「！？」
最後まで言い終えたところで、斉藤が崩れ落ちたのである。
「さ…斉藤さん！！」
慌てて平家が体を支えたが、斉藤の息は大きく乱れている。
「…よ…よかった…2人が無事で」
「こんな時に何を言っている！！」
斉藤は、背中に5発の銃弾を受けていた。
あさみと大木が無事で斉藤が撃たれたという違いは、
運があったか無かったかの違いが全てだった。
それでもなんとか波浪組陣営にまで辿り着いた斉藤だが、
大木とあさみの無事を確認したところで気が緩んだのだろう。
そこで体を支えることが出来なくなった。
「…私は大丈夫だ…心配はいらんよ」
斉藤は笑ってみせると、気を失った。
更にこの翌日早朝、一つの砲弾が波浪組陣営に飛び込んだ。
それが炸裂したすぐ側で戦場に咲いた花を眺めていたのは、
波浪組六番隊組長前田有紀である。
波浪組内随一の゛演歌゛の歌い手は、最期まで風情を忘れなかった。
波浪組が2人の幹部を戦線から失ったのをきっかけとするように、
1月5日、相手の5倍の戦力があった幕府軍は薩長の圧倒的な火力の前に、
ついに敗走した。
薩長軍の西洋化の波に、古い幕府軍の軍備が敵わなかったということだろう。
それ以前に将軍が大阪城を抜け出し、逃げ出したのだ。
このことは中澤にとってもショックだったろう。
敗残の波浪組隊士は、江戸へ退却する為に船上の人々となった。
傷もほぼ回復した中澤が、労咳でほとんど寝たきり同然になっている
市井の収容されている船室を訪ねた。
「ねえ中澤さん私ね、大坂で寝込んでた時友達が出来たんです」
訪問が嬉しいのだろう。楽しそうに話を始める市井。
そんな市井に、沈んだ中澤の心も救われた。
肌は透き通るように白く、素のままの唇が濃い紅を引いたように赤かった。
労咳患者に見られる典型的な症状である。
「ほう…それはよかったなぁ男か？女か？」
「それがよく分からないんです…」
「分からない？それは変な話だな」
「中澤さん、紹介しますから確かめてもらえますか？」
「なんだ？ここに来ているのか」
市井は嬉しそうにうなずき、
「はい」
そう言って差し出した掌には、黒々とした羽と長い触覚、六本の足を持つ、
゛市井の友達゛が乗っていた。
「ぎゃあああーーーー！！！」
中澤の絶叫が、船中に響いた。
1月5日、相手の5倍の戦力があった幕府軍は薩長の圧倒的な火力の前に、
ついに敗走した。
薩長軍の西洋化の波に、古い幕府軍の軍備が敵わなかったということだろう。
それ以前に将軍が大阪城を抜け出し、逃げ出したのだ。
このことは中澤にとってもショックだったろう。
敗残の波浪組隊士は、江戸へ退却する為に船上の人々となった。
傷もほぼ回復した中澤が、労咳でほとんど寝たきり同然になっている
市井の収容されている船室を訪ねた。
「ねえ中澤さん私ね、大坂で寝込んでた時友達が出来たんです」
訪問が嬉しいのだろう。楽しそうに話を始める市井。
そんな市井に、沈んだ中澤の心も救われた。
肌は透き通るように白く、素のままの唇が濃い紅を引いたように赤かった。
労咳患者に見られる典型的な症状である。
「ほう…それはよかったなぁ男か？女か？」
「それがよく分からないんです…」
「分からない？それは変な話だな」
「中澤さん、紹介しますから確かめてもらえますか？」
「なんだ？ここに来ているのか」
市井は嬉しそうにうなずき、
「はい」
そう言って差し出した掌には、黒々とした羽と長い触覚、六本の足を持つ、
゛市井の友達゛が乗っていた。
「ぎゃあああーーーー！！！」
中澤の絶叫が、船中に響いた。
中澤には、この世に怖いものが2つだけあった。
幽霊と、ゴキブリである。
「あはははははは！！もう大丈夫。隠しましたよ」
「本当だろうな！」
掃除用具入れの中の中澤は念を押すと、ようやく出てきた。
「全くお前というやつは…」
「あははははは…」
市井はまだ無邪気に笑っていたが、ふと何かに気付いた様な表情をして、言った。
「笑い過ぎると、後で咳が止まらなくなるから閉口しますね」
中澤の胸が詰まった。
「…中澤さん…いかん…」
中澤と同じく市井とは長いつきあいの平家も部屋に来たのはそんな時だった。
「どうした？そっちでもゴキブリが出たか！？」
「……斉藤君が……死んだ」
「……そうか…」
「斉藤さんが…」
戦闘で背中に5発の銃弾を受けた斉藤の容体は悪化する一方だったが、
ついにこの日最期の時が来た。
「斉藤君には悪いが…彼女の遺体は海に流そう」
斉藤の遺体は布団に包まれ、多くの隊士がその死を悲しむ中水葬にされた。
斉藤だけでなく、多くの負傷した隊士がこの船上で世を去った。
船上は、血の匂いで満たされていた。
村田めぐみの長い髪を、潮風が揺らしている。
「利口な奴から死んでいく…北上氏…大谷…斉藤…おれは…死ねないのか」
潮風は、悲しみまでは吹き流してくれない。
慶応4年1月14日、一向は横浜へ到着した。
幽霊と、ゴキブリである。
「あはははははは！！もう大丈夫。隠しましたよ」
「本当だろうな！」
掃除用具入れの中の中澤は念を押すと、ようやく出てきた。
「全くお前というやつは…」
「あははははは…」
市井はまだ無邪気に笑っていたが、ふと何かに気付いた様な表情をして、言った。
「笑い過ぎると、後で咳が止まらなくなるから閉口しますね」
中澤の胸が詰まった。
「…中澤さん…いかん…」
中澤と同じく市井とは長いつきあいの平家も部屋に来たのはそんな時だった。
「どうした？そっちでもゴキブリが出たか！？」
「……斉藤君が……死んだ」
「……そうか…」
「斉藤さんが…」
戦闘で背中に5発の銃弾を受けた斉藤の容体は悪化する一方だったが、
ついにこの日最期の時が来た。
「斉藤君には悪いが…彼女の遺体は海に流そう」
斉藤の遺体は布団に包まれ、多くの隊士がその死を悲しむ中水葬にされた。
斉藤だけでなく、多くの負傷した隊士がこの船上で世を去った。
船上は、血の匂いで満たされていた。
村田めぐみの長い髪を、潮風が揺らしている。
「利口な奴から死んでいく…北上氏…大谷…斉藤…おれは…死ねないのか」
潮風は、悲しみまでは吹き流してくれない。
慶応4年1月14日、一向は横浜へ到着した。
215 ：蛇足10：2001/06/01(金) 00:12 ID:3RT.pHFQ
辻希美（生年不詳～慶応3年？〈1867〉）
大谷雅恵が拾い育てた孤児であるとされる。
ただ、実在には疑いの目が向けられることも多い。
現在は波浪組の悲劇性を演出する為に創作された人物であるとする見方が主流である。
死亡時には中澤裕子の馬丁を務めていたとされている。
前田有紀（生年不詳～慶応4年〈1868〉）
波浪組にはその発足当初から参加している。波浪組六番隊長。天然波浪流師範。
中澤裕子や平家みちよよりも下の立場でありながら一目おかれる存在であり続けたのは
その親戚に゛五木ひろし゛という影の実力者がいたからともされる。
鳥羽伏見の戦いで戦死。波浪組では一二を争う歌唱力の持ち主であったという。
温厚な人柄で、人望は厚かったらしい。
斉藤瞳（生年不詳～慶応4年〈1868〉）
一次隊士募集からの参画者。波浪組諸士取扱役兼監察。波取流棒術の名手。
優秀な探索方であったことから多くの逸話を持つ人物。
池田屋事件の際は池田屋に潜入する中澤らの為に鍵を外していたとされる。
鳥羽伏見の戦いで銃弾を受け、江戸への引き揚げの船上で没する。
遺体は水葬にされたという。大木衣吹の記録によると常に体重を気にしていたらしい。
大谷雅恵が拾い育てた孤児であるとされる。
ただ、実在には疑いの目が向けられることも多い。
現在は波浪組の悲劇性を演出する為に創作された人物であるとする見方が主流である。
死亡時には中澤裕子の馬丁を務めていたとされている。
前田有紀（生年不詳～慶応4年〈1868〉）
波浪組にはその発足当初から参加している。波浪組六番隊長。天然波浪流師範。
中澤裕子や平家みちよよりも下の立場でありながら一目おかれる存在であり続けたのは
その親戚に゛五木ひろし゛という影の実力者がいたからともされる。
鳥羽伏見の戦いで戦死。波浪組では一二を争う歌唱力の持ち主であったという。
温厚な人柄で、人望は厚かったらしい。
斉藤瞳（生年不詳～慶応4年〈1868〉）
一次隊士募集からの参画者。波浪組諸士取扱役兼監察。波取流棒術の名手。
優秀な探索方であったことから多くの逸話を持つ人物。
池田屋事件の際は池田屋に潜入する中澤らの為に鍵を外していたとされる。
鳥羽伏見の戦いで銃弾を受け、江戸への引き揚げの船上で没する。
遺体は水葬にされたという。大木衣吹の記録によると常に体重を気にしていたらしい。
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「久しぶりの江戸だなぁ…」
あさみは珍しく感傷的になっているりんねの横顔を見た。
一方のあさみも感傷的にはならざるを得ない。
前回江戸に来た時は波浪組が全盛期だった頃で、
中澤や村田、そして既にこの世にいない末永や大谷とともに
隊士募集の為に訪れ、石川梨華という強力な戦力を得た。
その石川も既にこの世にはいないのである。
「どうしたんだよ…そんな顔をして」
いつのまにか、りんねの両目には涙までもが浮かんでいる。
「おっと…うかつだったな」
そう言って涙を拭いて上を向くと、口を開いた。
「あさみさん、知ってるよな？うちの実家で飼ってる馬さ…」
「ああ、見事なやつだよな」
「うん…江戸に帰ってきたらあいつの顔思い出してさ…つい気が緩んだよ」
「……」
あさみは馬鹿にしなかった。
「私も…前江戸に来た時飼ってた犬が死んで…悲しかったよ…」
2人とも、涙もろくなっている。
敗残して故郷に帰ってきたという、後ろめたさもあったのだろう。
あさみは珍しく感傷的になっているりんねの横顔を見た。
一方のあさみも感傷的にはならざるを得ない。
前回江戸に来た時は波浪組が全盛期だった頃で、
中澤や村田、そして既にこの世にいない末永や大谷とともに
隊士募集の為に訪れ、石川梨華という強力な戦力を得た。
その石川も既にこの世にはいないのである。
「どうしたんだよ…そんな顔をして」
いつのまにか、りんねの両目には涙までもが浮かんでいる。
「おっと…うかつだったな」
そう言って涙を拭いて上を向くと、口を開いた。
「あさみさん、知ってるよな？うちの実家で飼ってる馬さ…」
「ああ、見事なやつだよな」
「うん…江戸に帰ってきたらあいつの顔思い出してさ…つい気が緩んだよ」
「……」
あさみは馬鹿にしなかった。
「私も…前江戸に来た時飼ってた犬が死んで…悲しかったよ…」
2人とも、涙もろくなっている。
敗残して故郷に帰ってきたという、後ろめたさもあったのだろう。
この頃隊内では「旧幕府軍と合流し会津で戦う」か、「波浪組独自の戦いをする」
どちらを選択するかで、中澤と平家の2人だけで毎日密議が行われていた。
「いつになったら決まるんだ？早く薩長を叩こうじゃないか」
などとりんねあたりが不平をこぼす頃になってようやく、
゛薩長軍が甲州街道を通って北に登って来ている。
そこで甲府城を占領し、薩長軍を食い止めよう゛
ということに決定した。
「甲府城がおれたちの手に帰したあかつきには隊長は10万石、副長は5万石、
副長助勤はおのおの3万石、調役には1万石を与えようと、
将軍様がおれに確約して下さったのだ」
中澤はそんなことを言って浮かれているように見える。
（10万石といえば若年寄格だが…まだ占領に成功したわけじゃないのにな）
大木衣吹のような単純な者は他の隊士と一緒に歓声をあげているが、
あさみはそこまで楽観的にはなれなかった。
どちらを選択するかで、中澤と平家の2人だけで毎日密議が行われていた。
「いつになったら決まるんだ？早く薩長を叩こうじゃないか」
などとりんねあたりが不平をこぼす頃になってようやく、
゛薩長軍が甲州街道を通って北に登って来ている。
そこで甲府城を占領し、薩長軍を食い止めよう゛
ということに決定した。
「甲府城がおれたちの手に帰したあかつきには隊長は10万石、副長は5万石、
副長助勤はおのおの3万石、調役には1万石を与えようと、
将軍様がおれに確約して下さったのだ」
中澤はそんなことを言って浮かれているように見える。
（10万石といえば若年寄格だが…まだ占領に成功したわけじゃないのにな）
大木衣吹のような単純な者は他の隊士と一緒に歓声をあげているが、
あさみはそこまで楽観的にはなれなかった。
この頃、新しい役員表が作成された。
【隊長】
中澤裕子
【副長】
平家みちよ
【副長助勤】
市井紗耶香
あさみ
りんね
村田めぐみ
【浪士調役】
…
【伍長】
大木衣吹
…
隊士は僅か44名となっている。
副長助勤の筆頭を中澤が訪ねたのは、甲州出立前日のことである。
今生の別れのつもりであった。
【隊長】
中澤裕子
【副長】
平家みちよ
【副長助勤】
市井紗耶香
あさみ
りんね
村田めぐみ
【浪士調役】
…
【伍長】
大木衣吹
…
隊士は僅か44名となっている。
副長助勤の筆頭を中澤が訪ねたのは、甲州出立前日のことである。
今生の別れのつもりであった。
「あ、中澤さん。来てくれたんですね」
中澤が療養所を訪れてくれたことを知った市井は表情を明るくした。
「……」
中澤も笑顔を作ろうとしたが、それは余りにも困難なことだった。
市井の顔は、もはや骨と皮だけになってしまっている。
一気に病状が悪化したのだろう。
口を開けば涙がこぼれてしまいそうだった。
「中澤さん、そんなところに立ってないで、座って下さいよ」
「そ…そうか、そうだな…」
かろうじて返事をし、市井の側に腰を掛ける中澤。
「…済まなかったな…こんなになるまで…」
「あはは、やだなあ、気にするはず無いじゃないですか」
市井は相変わらず笑ったままだ。
「お前ぐらいの若さならば、色々遊びたい時もあっただろう…
本来ならば恋のひとつくらいしても良かっただろうに…」
「そう言えば中澤さん私ね、こないだ゛恋゛っていう字を辞書で引いてみたんです」
「……」
「゛ある対象に憧れ、慕う気持ち゛なんですって。すぐに中澤さんや、平家さん
前田さんや北上さんや…゛家族゛の顔が浮かんできましたよ…ずっと、
゛家族゛と一緒にいられた私は幸せだったんだなぁ…
…中澤さん達一緒じゃなかったら、私はずっと一人だった…」
笑顔の市井の頬を涙が伝った。
「紗耶香…今は…今だけは昔の様に祐ちゃんと呼んでくれないか…」
もはや、中澤にも涙を堪える理由は無かった。
日が暮れるまで2人は泣き、別れた。
そして、二度と再会することはなかった。
中澤が療養所を訪れてくれたことを知った市井は表情を明るくした。
「……」
中澤も笑顔を作ろうとしたが、それは余りにも困難なことだった。
市井の顔は、もはや骨と皮だけになってしまっている。
一気に病状が悪化したのだろう。
口を開けば涙がこぼれてしまいそうだった。
「中澤さん、そんなところに立ってないで、座って下さいよ」
「そ…そうか、そうだな…」
かろうじて返事をし、市井の側に腰を掛ける中澤。
「…済まなかったな…こんなになるまで…」
「あはは、やだなあ、気にするはず無いじゃないですか」
市井は相変わらず笑ったままだ。
「お前ぐらいの若さならば、色々遊びたい時もあっただろう…
本来ならば恋のひとつくらいしても良かっただろうに…」
「そう言えば中澤さん私ね、こないだ゛恋゛っていう字を辞書で引いてみたんです」
「……」
「゛ある対象に憧れ、慕う気持ち゛なんですって。すぐに中澤さんや、平家さん
前田さんや北上さんや…゛家族゛の顔が浮かんできましたよ…ずっと、
゛家族゛と一緒にいられた私は幸せだったんだなぁ…
…中澤さん達一緒じゃなかったら、私はずっと一人だった…」
笑顔の市井の頬を涙が伝った。
「紗耶香…今は…今だけは昔の様に祐ちゃんと呼んでくれないか…」
もはや、中澤にも涙を堪える理由は無かった。
日が暮れるまで2人は泣き、別れた。
そして、二度と再会することはなかった。
甲府城のある甲州に波浪組が到着したのは慶応4年3月1日のことである。
甲州は中澤や平家らの故郷でもあった。
ここで波浪組は隊士を募り、その数を増やした。
しかしその多くは百姓だったり、食い詰めた浪人だった。
医者である平家の兄が陣営を訪ねて来て自家製の打ち身骨折の薬である゛石田散薬゛
を差し入れてくれるなどの嬉しい出来事もあったが、
りんねやあさみには不満がつのった。
「なにもあんな露骨な数合わせなんかしなくていいだろうになぁ…」
「中澤さんが大変なのは分かるが、確かにあれはな…戦力にはなるまい…」
もはや、雑兵部隊もどきである。
――甲府城奪還戦は、5日ほど続いたものの結局敗退に終わった。
手も足も出なかったと言っていいだろう。
平家はほうぼうに援軍を頼んでいた。
なのに、どこも動いてはくれなかった。将軍に逃げられたことに続いて出会った
゛裏切り゛である。
この敗退は、中澤が直接経験する最初の敗戦であった。
鳥羽伏見の戦いには怪我の為に参戦しておらず、
精神的ダメージはさほど深くは無かった。
「この゛虎徹゛さえあれば負けはない」
という神話が崩れることも無かったのだ。
しかし、今回は違う。
前線に立って戦い、散々に負けた。故郷で、初めての直接的な敗戦を喫したのである。
甲州は中澤や平家らの故郷でもあった。
ここで波浪組は隊士を募り、その数を増やした。
しかしその多くは百姓だったり、食い詰めた浪人だった。
医者である平家の兄が陣営を訪ねて来て自家製の打ち身骨折の薬である゛石田散薬゛
を差し入れてくれるなどの嬉しい出来事もあったが、
りんねやあさみには不満がつのった。
「なにもあんな露骨な数合わせなんかしなくていいだろうになぁ…」
「中澤さんが大変なのは分かるが、確かにあれはな…戦力にはなるまい…」
もはや、雑兵部隊もどきである。
――甲府城奪還戦は、5日ほど続いたものの結局敗退に終わった。
手も足も出なかったと言っていいだろう。
平家はほうぼうに援軍を頼んでいた。
なのに、どこも動いてはくれなかった。将軍に逃げられたことに続いて出会った
゛裏切り゛である。
この敗退は、中澤が直接経験する最初の敗戦であった。
鳥羽伏見の戦いには怪我の為に参戦しておらず、
精神的ダメージはさほど深くは無かった。
「この゛虎徹゛さえあれば負けはない」
という神話が崩れることも無かったのだ。
しかし、今回は違う。
前線に立って戦い、散々に負けた。故郷で、初めての直接的な敗戦を喫したのである。
「中澤さんにはやっぱり衝撃が大きかったろうな、今回の敗戦は」
「だろうな。しかし、うちらはまだ終わっちゃいない。
参られたら困る。すぐに幕軍が交戦している会津に向かった方がいいな」
「そうだな。中澤さんと平家さんに報告してこよう」
この時顔をつきあわせていたのはりんね、あさみ、村田、大木らの幹部である。
もはや決断を迷っている時間は彼女らには無い。
「中澤さん、我々はこれから会津に向かうことに決まりました」
そう言ったのはりんねである。
しかし、中澤は黙りこくっていた。平家も同様である。
「中澤さん、事態は一刻を争います」
「…波浪組の局長は誰だ？」
ようやく口を開いたものの、中澤が言ったのはそんなことだった。
「…中澤さんです」
りんねは答えた。
「だったら、隊士はおれの言葉を信じて、おれに着いてくればいい」
「…」
りんねは愕然とした表情を平家に向けた。
しかし、平家は目を伏せたまま黙っている。
「…それは、゛局長のおれに対して家来が出過ぎた真似をするな゛ってことですかね？」
「お前たちはこれからもおれの言葉に従うのならば、一緒に着いてきてもいい」
りんねはここに到って完全に絶望した。
「だろうな。しかし、うちらはまだ終わっちゃいない。
参られたら困る。すぐに幕軍が交戦している会津に向かった方がいいな」
「そうだな。中澤さんと平家さんに報告してこよう」
この時顔をつきあわせていたのはりんね、あさみ、村田、大木らの幹部である。
もはや決断を迷っている時間は彼女らには無い。
「中澤さん、我々はこれから会津に向かうことに決まりました」
そう言ったのはりんねである。
しかし、中澤は黙りこくっていた。平家も同様である。
「中澤さん、事態は一刻を争います」
「…波浪組の局長は誰だ？」
ようやく口を開いたものの、中澤が言ったのはそんなことだった。
「…中澤さんです」
りんねは答えた。
「だったら、隊士はおれの言葉を信じて、おれに着いてくればいい」
「…」
りんねは愕然とした表情を平家に向けた。
しかし、平家は目を伏せたまま黙っている。
「…それは、゛局長のおれに対して家来が出過ぎた真似をするな゛ってことですかね？」
「お前たちはこれからもおれの言葉に従うのならば、一緒に着いてきてもいい」
りんねはここに到って完全に絶望した。
（中澤さんは虚勢を張ることしかできなくなったのか…
…こんなことになって、仕方の無いことかもしれないが…）
人のいいあさみはそう思ったが、りんねは違う。
「うちらは、中澤さんの家来じゃない…うちらはなんだかんだ言っても
中澤さんらが好きだった。ずっと中澤さんの同志のつもりだった。
だからこそ、中澤さんの為に命を捨てることも惜しまなかったんだ。
でも、今の中澤さんはうちらを同志と思ってくれてはいない。家来だと思っている。
そんな中澤さんに、もうついてはいけない。うちは、ここまでです」
「なんだと？」
中澤が威厳を示すかのように胸を反らして言った。
平家は、まだ目を伏せ、沈黙を守っている。
（もう駄目だ…）
「中澤さん、私もです。…村田さん、大木さん、2人はどうする？」
「おれは、元から同志だったつもりなど無い」
「俺は、どこまでも中澤さんと平家さんについていくよ…」
「勝手にしろ！」
そんな中澤の声を背中で聞きながら、りんねとあさみは出ていった。
そして、2人は二度と波浪組に合流するつもりは無かった。
…こんなことになって、仕方の無いことかもしれないが…）
人のいいあさみはそう思ったが、りんねは違う。
「うちらは、中澤さんの家来じゃない…うちらはなんだかんだ言っても
中澤さんらが好きだった。ずっと中澤さんの同志のつもりだった。
だからこそ、中澤さんの為に命を捨てることも惜しまなかったんだ。
でも、今の中澤さんはうちらを同志と思ってくれてはいない。家来だと思っている。
そんな中澤さんに、もうついてはいけない。うちは、ここまでです」
「なんだと？」
中澤が威厳を示すかのように胸を反らして言った。
平家は、まだ目を伏せ、沈黙を守っている。
（もう駄目だ…）
「中澤さん、私もです。…村田さん、大木さん、2人はどうする？」
「おれは、元から同志だったつもりなど無い」
「俺は、どこまでも中澤さんと平家さんについていくよ…」
「勝手にしろ！」
そんな中澤の声を背中で聞きながら、りんねとあさみは出ていった。
そして、2人は二度と波浪組に合流するつもりは無かった。
陣営を出ていこうとする2人を追ってきた者がいる。
波浪組副長、平家みちよだった。
「なんです？まさかこんな時にも脱隊は処刑とか言うんじゃないでしょうね？」
局中法度は、もはや機能を失っている。
「りんね君、あさみ君、これまで、本当にご苦労だった…」
平家の思いがけない言葉に、顔を見合わせる2人。
平家は優しげな微笑まで浮かべている。
「私は、私だけは中澤さんにどこまでもついていってやりたい。
中澤さんとは姉妹も同然だからな…ここからはもう君達
に同行を強制することはしないよ」
「…平家さん、ありがとう。これまで本当に色んなことはあったが…
あなたがいたからうちは道を誤らずに済んだと思ってる。あなた達が
嫌いだから別れるんじゃない…それは分かって欲しいんだ」
りんねが思いがけないことを言った。
（りんねさんが平家さんをそんな風に…）
平家も苦笑すると、
「道を誤らずに済んだかどうかはともかく…そう思ってもらえたことは嬉しい。
私だって、君達のことを本気で憎いなどと思ったことは無い…あの様に振る舞う
必要があったんだ…組織の秩序を維持する為にな」
「分かってましたよ…途中からですけどね……じゃあ平家さん、とにかく頑張って下さい。
私達も、私達のやり方で戦いますから」
「ああ、頼むよ。それから、これを受け取ってくれ」
受け取った金包みには15両が入っていた。
「ありがたく、いただきます」
「それじゃ私達はもう行きます」
背を向ける2人に平家は、
「いずれ、冥土で会おう」
そう言った。
この後りんねとあさみは2人が中心となって゛燗兵隊゛を結成するが
りんねはすぐに離脱する。実家で飼っていた馬に会う為に抜け出したとも言われている。
「よし…中澤さん、とりあえずは江戸に戻って体勢を立て直し、
その後で会津に向かおう…それしかない」
戻ってきた平家の言葉に、ようやく落ち着いた中澤は肯いた。
慶応4年3月11日、試衛館以来の同志2人と波浪組局長、永遠の別れの日だった。
波浪組副長、平家みちよだった。
「なんです？まさかこんな時にも脱隊は処刑とか言うんじゃないでしょうね？」
局中法度は、もはや機能を失っている。
「りんね君、あさみ君、これまで、本当にご苦労だった…」
平家の思いがけない言葉に、顔を見合わせる2人。
平家は優しげな微笑まで浮かべている。
「私は、私だけは中澤さんにどこまでもついていってやりたい。
中澤さんとは姉妹も同然だからな…ここからはもう君達
に同行を強制することはしないよ」
「…平家さん、ありがとう。これまで本当に色んなことはあったが…
あなたがいたからうちは道を誤らずに済んだと思ってる。あなた達が
嫌いだから別れるんじゃない…それは分かって欲しいんだ」
りんねが思いがけないことを言った。
（りんねさんが平家さんをそんな風に…）
平家も苦笑すると、
「道を誤らずに済んだかどうかはともかく…そう思ってもらえたことは嬉しい。
私だって、君達のことを本気で憎いなどと思ったことは無い…あの様に振る舞う
必要があったんだ…組織の秩序を維持する為にな」
「分かってましたよ…途中からですけどね……じゃあ平家さん、とにかく頑張って下さい。
私達も、私達のやり方で戦いますから」
「ああ、頼むよ。それから、これを受け取ってくれ」
受け取った金包みには15両が入っていた。
「ありがたく、いただきます」
「それじゃ私達はもう行きます」
背を向ける2人に平家は、
「いずれ、冥土で会おう」
そう言った。
この後りんねとあさみは2人が中心となって゛燗兵隊゛を結成するが
りんねはすぐに離脱する。実家で飼っていた馬に会う為に抜け出したとも言われている。
「よし…中澤さん、とりあえずは江戸に戻って体勢を立て直し、
その後で会津に向かおう…それしかない」
戻ってきた平家の言葉に、ようやく落ち着いた中澤は肯いた。
慶応4年3月11日、試衛館以来の同志2人と波浪組局長、永遠の別れの日だった。
使ってもらえませんでしたか……。
＝波浪組局長＝
鳥羽伏見、甲州での2連敗を経て、中澤裕子、平家みちよの2人は変わった。
受動的に変えられた者と、能動的に変わった者というニュアンスの違いはあったが、
確かに以前までの2人ではなくなった。
「なぁ村田さん、中澤さんは抜け殻のようになってしまったな」
「知らんな。今は他人のことなどを気に掛けている事態ではない」
「゛他人゛って村田さん、あんたなぁ…」
中澤は甲州での敗戦以来、大木衣吹の言う通り゛抜け殻゛の様になってしまった。
これまで上り詰めてきたところを、一気に転がり落ちた心境なのだろう。
しかし、仮にも中澤は波浪組の局長である。それを、村田は゛他人゛と言ってのけた。
この時期の村田の心は、゛これまで世話になった会津に恩を返そう゛
という一点に集中されている。
もはや、何ごとにも執着はなかった。
例えそれを゛会津の飼い犬゛と罵る者がいたとしても、
それだけがこの時期の村田にとっては゛正義゛と呼べることだった。
「平家さんにしても、驚くほど変わったな。鬼では無くなった」
「…そうだな」
今度は正直に肯く村田。
「しかし、なんでだろうな」
「他人の心など分かることは出来んし、分かろうとも思わん。
自分にとって正しいか、正しくないか…それだけだ。そしてそれはすぐに分かる」
「…それはそうだ…」
平家は鬼では無くなった…
それは隊士の全員が感じていたことではあった。
しかし、中澤とは違い抜け殻になったわけではない。戦意はますます盛んであった。
2人がこんなことを話している間も江戸で集めた200人近い新しい隊士達を
訓練するのに全力を注いでいる。
訓練中は鬼の片鱗を見せもするが、休憩の時などは新参の隊士に対し、
「大丈夫か？疲れたらすぐに言うんだぞ。こんなところで体力を使いきることはない」
などと気さくに声を掛けるようになっているのである。
末永真己や石川梨華などの曲者が加入してきた時、
厳しい表情を見せ決して馴れ合わなかった平家とはまるで別人である。
受動的に変えられた者と、能動的に変わった者というニュアンスの違いはあったが、
確かに以前までの2人ではなくなった。
「なぁ村田さん、中澤さんは抜け殻のようになってしまったな」
「知らんな。今は他人のことなどを気に掛けている事態ではない」
「゛他人゛って村田さん、あんたなぁ…」
中澤は甲州での敗戦以来、大木衣吹の言う通り゛抜け殻゛の様になってしまった。
これまで上り詰めてきたところを、一気に転がり落ちた心境なのだろう。
しかし、仮にも中澤は波浪組の局長である。それを、村田は゛他人゛と言ってのけた。
この時期の村田の心は、゛これまで世話になった会津に恩を返そう゛
という一点に集中されている。
もはや、何ごとにも執着はなかった。
例えそれを゛会津の飼い犬゛と罵る者がいたとしても、
それだけがこの時期の村田にとっては゛正義゛と呼べることだった。
「平家さんにしても、驚くほど変わったな。鬼では無くなった」
「…そうだな」
今度は正直に肯く村田。
「しかし、なんでだろうな」
「他人の心など分かることは出来んし、分かろうとも思わん。
自分にとって正しいか、正しくないか…それだけだ。そしてそれはすぐに分かる」
「…それはそうだ…」
平家は鬼では無くなった…
それは隊士の全員が感じていたことではあった。
しかし、中澤とは違い抜け殻になったわけではない。戦意はますます盛んであった。
2人がこんなことを話している間も江戸で集めた200人近い新しい隊士達を
訓練するのに全力を注いでいる。
訓練中は鬼の片鱗を見せもするが、休憩の時などは新参の隊士に対し、
「大丈夫か？疲れたらすぐに言うんだぞ。こんなところで体力を使いきることはない」
などと気さくに声を掛けるようになっているのである。
末永真己や石川梨華などの曲者が加入してきた時、
厳しい表情を見せ決して馴れ合わなかった平家とはまるで別人である。
――江戸を発つ前日夜、平家が訪れた中澤局長居室
「なぁ、中澤さん…剣で戦が出来る時代は終わったんだな…」
「そうだな…」
゛剣で戦が出来る時代は終わった゛
そのことが中澤にとっては波浪組の終末を意味し、
平家にとっては新しい始まりを意味していたのだろうか。
「フフフ…私は銃の使い方を勉強してるよ。この歳になっての手習いは正直きついがね。
だが、銃は馬鹿でもすぐに使える道具だということが分かった。それでいて
使いようによっては刀よりも強力だというのだから…
…最早刀の時代ではないと念を押された気分だったよ」
「そうか……それより市井はどうしているんだ……せめて
余生くらいは面白おかしく過ごして欲しいものだが…」
「…中澤さん…」
今や中澤は平家とは違う方向を向いている。それは明らかだった。
しかし平家は中澤のことだけは見捨てられない。
最早、2人の繋がりは血の繋がりよりも濃かった。
「中澤さん…私達はどこまでも一緒だ…たとえこの先何があっても。いいな！？」
「ふふふ…深刻な面をするな」
「゛分かった゛と言え。私だって照れくさいんだ」
「…あぁ、分かったよ」
中澤の態度は完全に満足のいくものではなかったが、
平家はとりあえず翌朝の出立にそなえ自分の居室に戻った。
「なぁ、中澤さん…剣で戦が出来る時代は終わったんだな…」
「そうだな…」
゛剣で戦が出来る時代は終わった゛
そのことが中澤にとっては波浪組の終末を意味し、
平家にとっては新しい始まりを意味していたのだろうか。
「フフフ…私は銃の使い方を勉強してるよ。この歳になっての手習いは正直きついがね。
だが、銃は馬鹿でもすぐに使える道具だということが分かった。それでいて
使いようによっては刀よりも強力だというのだから…
…最早刀の時代ではないと念を押された気分だったよ」
「そうか……それより市井はどうしているんだ……せめて
余生くらいは面白おかしく過ごして欲しいものだが…」
「…中澤さん…」
今や中澤は平家とは違う方向を向いている。それは明らかだった。
しかし平家は中澤のことだけは見捨てられない。
最早、2人の繋がりは血の繋がりよりも濃かった。
「中澤さん…私達はどこまでも一緒だ…たとえこの先何があっても。いいな！？」
「ふふふ…深刻な面をするな」
「゛分かった゛と言え。私だって照れくさいんだ」
「…あぁ、分かったよ」
中澤の態度は完全に満足のいくものではなかったが、
平家はとりあえず翌朝の出立にそなえ自分の居室に戻った。
「中澤さん、平家さん…いかん。まずいことになりました」
大木衣吹からの報告があったのは会津に向け出立して2週間ほどが経過し、
千葉の流山に宿陣していた慶応4年4月3日のことだった。
「官軍に完全に包囲された。官軍は降伏を申し出るよう伝えてきています」
「ち…なんてことだ…会津はまだ先だというのに…旧幕府軍が街道を
通るのを見越して待ち伏せをしていたか…中澤さん、どうする！？」
「後2日早ければエイプリルフールだったのにな…」
「そうだな…エイプリルフールだったら嘘で済んだ…おい！
しっかりしてくれ中澤さん。これは由々しき事態なんだぜ」
しかし、中澤は虚ろな目をして言った。
「…おれの手に゛虎徹゛さえあれば心配いらん…負けはない」
……
報告に来た大木も、平家も言葉を失った。
（中澤さん…心を折っては駄目だ）
「とにかく…大木君、村田君を呼んで来てくれ。方策を話し合う必要がある」
「はい！」
平家に命じられたのが嬉しいのか、大木はすぐに出ていった。
入隊当時に貰った平家直筆の名札を未だに使っている。
他の隊士が新しいものに変えていくなかで、
変色した名札を使い続けているのは大木衣吹ただ一人だった。
大木衣吹からの報告があったのは会津に向け出立して2週間ほどが経過し、
千葉の流山に宿陣していた慶応4年4月3日のことだった。
「官軍に完全に包囲された。官軍は降伏を申し出るよう伝えてきています」
「ち…なんてことだ…会津はまだ先だというのに…旧幕府軍が街道を
通るのを見越して待ち伏せをしていたか…中澤さん、どうする！？」
「後2日早ければエイプリルフールだったのにな…」
「そうだな…エイプリルフールだったら嘘で済んだ…おい！
しっかりしてくれ中澤さん。これは由々しき事態なんだぜ」
しかし、中澤は虚ろな目をして言った。
「…おれの手に゛虎徹゛さえあれば心配いらん…負けはない」
……
報告に来た大木も、平家も言葉を失った。
（中澤さん…心を折っては駄目だ）
「とにかく…大木君、村田君を呼んで来てくれ。方策を話し合う必要がある」
「はい！」
平家に命じられたのが嬉しいのか、大木はすぐに出ていった。
入隊当時に貰った平家直筆の名札を未だに使っている。
他の隊士が新しいものに変えていくなかで、
変色した名札を使い続けているのは大木衣吹ただ一人だった。
ほどなくして大木が村田を連れて戻ってきた。
「村田君、まずいことになった」
平家はかつて村田に対しては稲葉貴子暗殺に際しあさみの監視を命じたり、
石川一行に潜伏させその動向を探るように命じたりしている。
それは無駄な話をしない村田が便利だったからであって決して特別
信頼関係があったからという訳でもない。
村田もそれは同様で、自分と同じ方向を向いていると感じることが出来た
平家の命令に従わない理由は無かったから、従ってきたというだけだった。
「そのようだが…正面突破。それしか無いでしょう」
降伏など考えもしない。
降伏するくらいならば死を選ぶのがここまで残ってきた村田めぐみという
波浪組三番隊長だった。
「そうか。だがしかし、官軍は我々が進んでいるこの街道全体を
包囲しているらしいぞ。勝算はあると思うか？」
「降伏以外の道はこれだけ…迷う理由は無いでしょう」
「相手は最新鋭の火砲や銃で装備を固めている…
…あれの怖さはもう分かっているだろう？」
「おれは、軟弱な官軍の銃弾など受けたところで死ねる自信が無いものでしてね」
「フフフ…それでも相手にはこちらの何倍もの軍勢があるが」
「戦は数でやるものではない…これでやるものだ」
自分の腕を指して言う村田に平家は大きく笑った。
そしてふいに表情を強張らせると、言った。
「もし私が君に゛降伏しよう゛と提案したらどうする？」
「フフフン…仕事に慣れた女中が客に゛お茶゛と゛おっちゃん゛を
間違えて出すくらい有り得んことです」
「フ…ハハハハ…お茶とおっちゃんか…これはいい…村田君、君とは上手くやれそうだ」
「ええ、おれもそう思いますよ」
「村田君、まずいことになった」
平家はかつて村田に対しては稲葉貴子暗殺に際しあさみの監視を命じたり、
石川一行に潜伏させその動向を探るように命じたりしている。
それは無駄な話をしない村田が便利だったからであって決して特別
信頼関係があったからという訳でもない。
村田もそれは同様で、自分と同じ方向を向いていると感じることが出来た
平家の命令に従わない理由は無かったから、従ってきたというだけだった。
「そのようだが…正面突破。それしか無いでしょう」
降伏など考えもしない。
降伏するくらいならば死を選ぶのがここまで残ってきた村田めぐみという
波浪組三番隊長だった。
「そうか。だがしかし、官軍は我々が進んでいるこの街道全体を
包囲しているらしいぞ。勝算はあると思うか？」
「降伏以外の道はこれだけ…迷う理由は無いでしょう」
「相手は最新鋭の火砲や銃で装備を固めている…
…あれの怖さはもう分かっているだろう？」
「おれは、軟弱な官軍の銃弾など受けたところで死ねる自信が無いものでしてね」
「フフフ…それでも相手にはこちらの何倍もの軍勢があるが」
「戦は数でやるものではない…これでやるものだ」
自分の腕を指して言う村田に平家は大きく笑った。
そしてふいに表情を強張らせると、言った。
「もし私が君に゛降伏しよう゛と提案したらどうする？」
「フフフン…仕事に慣れた女中が客に゛お茶゛と゛おっちゃん゛を
間違えて出すくらい有り得んことです」
「フ…ハハハハ…お茶とおっちゃんか…これはいい…村田君、君とは上手くやれそうだ」
「ええ、おれもそう思いますよ」
無論平家の頭の中には最低限の戦略はあった。
だが、そんなものはここに到ってさほど重要なものでは無くなっていた。
最早、現在ある生は死に場所を見つけるためにあるとまで思っていたのかもしれない。
ついに玉砕の時が来たという心境だったろうか。
6年ほど付き合って来ていながらも、平家は隊士たちの性格を完全に把握していなかった。
それはずっと中澤の側だけについていたからだし、そうでなければならなかったからだ。
しかし、鳥羽伏見の戦いで剣で戦が出来る時代は終わったと悟った。
それはこれまでの自分が否定されたのと同じこと…ならば、
思い切って自分を変えてしまうのも一つの方法だろう。
最近の平家の変貌の理由は、それだった。
村田めぐみという隊士がどういう人物なのかすらも、
はっきり理解したのはこの時と言っていい。
「よぉし…やってやる…あれ…中澤さんは？」
部屋の隅にいたはずの中澤が居なくなっている。最初に大木衣吹が気付いた。
「…村田君、大木君、ここにいてくれ。大丈夫だ。
厠にでも行っているのだろう…私が呼んでくるよ」
しかし、部屋を出た平家は胸騒ぎを感じていた。
…厠にはいなかった。
「中澤さんを見なかったか？」
「あ、平家さんが来たらこれを渡す様にと」
訪ねられた見張りの隊士が平家に手紙を渡した。
「…中澤さんは…一人で行かれたのか？」
「ええ、ちょっと出かけてくるとおっしゃって」
呆けた顔で答える門番に怒りを押さえながらも、平家は急いで手紙を開封した。
だが、そんなものはここに到ってさほど重要なものでは無くなっていた。
最早、現在ある生は死に場所を見つけるためにあるとまで思っていたのかもしれない。
ついに玉砕の時が来たという心境だったろうか。
6年ほど付き合って来ていながらも、平家は隊士たちの性格を完全に把握していなかった。
それはずっと中澤の側だけについていたからだし、そうでなければならなかったからだ。
しかし、鳥羽伏見の戦いで剣で戦が出来る時代は終わったと悟った。
それはこれまでの自分が否定されたのと同じこと…ならば、
思い切って自分を変えてしまうのも一つの方法だろう。
最近の平家の変貌の理由は、それだった。
村田めぐみという隊士がどういう人物なのかすらも、
はっきり理解したのはこの時と言っていい。
「よぉし…やってやる…あれ…中澤さんは？」
部屋の隅にいたはずの中澤が居なくなっている。最初に大木衣吹が気付いた。
「…村田君、大木君、ここにいてくれ。大丈夫だ。
厠にでも行っているのだろう…私が呼んでくるよ」
しかし、部屋を出た平家は胸騒ぎを感じていた。
…厠にはいなかった。
「中澤さんを見なかったか？」
「あ、平家さんが来たらこれを渡す様にと」
訪ねられた見張りの隊士が平家に手紙を渡した。
「…中澤さんは…一人で行かれたのか？」
「ええ、ちょっと出かけてくるとおっしゃって」
呆けた顔で答える門番に怒りを押さえながらも、平家は急いで手紙を開封した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
平家、おれは官軍に自首することにした。これでお前たちは無事に逃げられるだろう。
なぁに、こんなところにおれの面を知っている奴はおらんはずだ。
おれが波浪組の局長だなどとばれる心配はない。
うまくごまかしてすぐ戻る。平家、当分の間波浪組はお前に任せる。
おれは暫く休ませてもらうよ。少し疲れた。
追記
紗耶香のことはくれぐれも頼む
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ふ…ふざけるな…勝手なことを…」
読み終わるか終わらないかのタイミングで平家は手紙を引き裂いていた。
「どこまでも一緒に行くと言っただろう…」
「ど…どうなさったんですか？」
相変わらず呆けた顔を浮かべる江戸からの新参隊士だろう、
「大馬鹿野郎！」
それに引き裂いた手紙を投げつけ、
「駄目だ…中澤さん一人を逝かせるわけにはいかん！」
そう言って全軍に江戸への後退を命じた。
尊王攘夷派にも顔の利く幕臣、夏まゆみに対し中澤の助命を願い出る為だ。
ちなみに夏まゆみは、後藤真希の師匠的な存在でもあった人物である。
中澤は顔は割れていないなどと手紙に書いているが、そんなはずはない。
確かに波浪組が活躍したのは主に京でのことであって、
江戸にも名前は知れ渡っていただろうが顔まで知っている者は少ないかもしれない。
だが、波浪組に恨みを持つ長州藩士の数は計り知れないものがある。
それらによって正体を見破られるのは時間の問題だった。
平家、おれは官軍に自首することにした。これでお前たちは無事に逃げられるだろう。
なぁに、こんなところにおれの面を知っている奴はおらんはずだ。
おれが波浪組の局長だなどとばれる心配はない。
うまくごまかしてすぐ戻る。平家、当分の間波浪組はお前に任せる。
おれは暫く休ませてもらうよ。少し疲れた。
追記
紗耶香のことはくれぐれも頼む
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「ふ…ふざけるな…勝手なことを…」
読み終わるか終わらないかのタイミングで平家は手紙を引き裂いていた。
「どこまでも一緒に行くと言っただろう…」
「ど…どうなさったんですか？」
相変わらず呆けた顔を浮かべる江戸からの新参隊士だろう、
「大馬鹿野郎！」
それに引き裂いた手紙を投げつけ、
「駄目だ…中澤さん一人を逝かせるわけにはいかん！」
そう言って全軍に江戸への後退を命じた。
尊王攘夷派にも顔の利く幕臣、夏まゆみに対し中澤の助命を願い出る為だ。
ちなみに夏まゆみは、後藤真希の師匠的な存在でもあった人物である。
中澤は顔は割れていないなどと手紙に書いているが、そんなはずはない。
確かに波浪組が活躍したのは主に京でのことであって、
江戸にも名前は知れ渡っていただろうが顔まで知っている者は少ないかもしれない。
だが、波浪組に恨みを持つ長州藩士の数は計り知れないものがある。
それらによって正体を見破られるのは時間の問題だった。
（だが、中澤さんは官軍にとっては敵かも知れんが幕府にとって一番の忠臣だ…
自分を捨てて戦った人だ。そんな忠義の人をあっさり処刑になどするはずがない。
愚か者の集まりである官軍といえどその様な義に反したことはするまい…）
平家はそう思っていた。
実際、官軍内にはそのような意見は多かった。
だがしかし、結局中澤は平家達の歎願が間に合わないほどの早さで、
処刑されたのである。京での長州藩士らへの行いを見れば致し方無いとも言えるが、
裁判すら行わないというのは、余りもやりすぎだった。
法に基づく処刑という名の報復である。
波浪組局長中澤裕子は処刑に際し鏡を見て
「見苦しい顔だ…少し直させてくれないか」
そう言って頬と唇に薄く紅を引いて、悪びれることもなく
大人しく首を斬られた。京時代の鋭い殺気は無くなり、一人の女に戻っていた。
32歳だった。
慶応4年4月25日のことである。
自分を捨てて戦った人だ。そんな忠義の人をあっさり処刑になどするはずがない。
愚か者の集まりである官軍といえどその様な義に反したことはするまい…）
平家はそう思っていた。
実際、官軍内にはそのような意見は多かった。
だがしかし、結局中澤は平家達の歎願が間に合わないほどの早さで、
処刑されたのである。京での長州藩士らへの行いを見れば致し方無いとも言えるが、
裁判すら行わないというのは、余りもやりすぎだった。
法に基づく処刑という名の報復である。
波浪組局長中澤裕子は処刑に際し鏡を見て
「見苦しい顔だ…少し直させてくれないか」
そう言って頬と唇に薄く紅を引いて、悪びれることもなく
大人しく首を斬られた。京時代の鋭い殺気は無くなり、一人の女に戻っていた。
32歳だった。
慶応4年4月25日のことである。
「……姐さん……」
こう呼ぶのは何年ぶりだったろう。
波浪組を発足してからの6年ほどは余りにも長すぎて
それ以前の日々の記憶を希薄にしてしまったかのように思っていたが、
中澤が死んだという事実を目の当たりにした平家の眼前には今、
まだ少女と呼べる年齢の自分と中澤が無邪気に遊んでいる光景が広がっていた。
「平家さん…あなたが抜け殻になるにはまだ早いです」
隣から聞こえたのは戦況の報告を兼ねて訪れた大木衣吹の声だった。
宇都宮における戦いの最中に中澤の死を知った平家は不覚にも敵弾を受け、
その治療の為に戦線からはなれていた。
その間この会津戦争での波浪組の指揮を取っているのは村田めぐみである。
「ああ、分かっている」
感傷に浸りきるのはまだ早い…平家は気を引き締めた。
「では、俺は行きます。予断を許さない戦況ですから…」
「ああ、そうしてくれ」
大木が去った平家の眼前にある墓の下には、中澤裕子の遺体が眠っている。
首は二度晒し首にされた末行方が分からなくなってしまったという。
平家は、怒りも悲しみも通り越して悟ってしまった。
（官軍は、本当の仁義というものを分からぬ泡沫だ。馬鹿以下だ）
辛うじて遺体だけは役人に金を握らせて取り返したのだった。
「姐さん…市井も死んだよ…最後まであんたのことを心配してたそうだ…
…フフフ…もうそっちで再会しているのかもしれんな」
…
「だが、私はまだそっちには行けない…中澤さん、あんたが正しかったということを、
証明するために戦い続ける。それが出来る前にそっちに行ってしまったら…
その時は謝るよ」
元波浪組一番隊組長市井紗耶香は最期まで周りに
「どうしたんだろう…祐ちゃん…いや中澤さんから手紙は届いてませんか」
そう聞き続けていたという。慶応4年5月25日。
天才剣士と呼ばれた寂しい若者は眠るように逝った。
奇しくも中澤裕子刑死から丁度一ヶ月後のことである。
最期まで中澤の死は知らされなかったという。
こう呼ぶのは何年ぶりだったろう。
波浪組を発足してからの6年ほどは余りにも長すぎて
それ以前の日々の記憶を希薄にしてしまったかのように思っていたが、
中澤が死んだという事実を目の当たりにした平家の眼前には今、
まだ少女と呼べる年齢の自分と中澤が無邪気に遊んでいる光景が広がっていた。
「平家さん…あなたが抜け殻になるにはまだ早いです」
隣から聞こえたのは戦況の報告を兼ねて訪れた大木衣吹の声だった。
宇都宮における戦いの最中に中澤の死を知った平家は不覚にも敵弾を受け、
その治療の為に戦線からはなれていた。
その間この会津戦争での波浪組の指揮を取っているのは村田めぐみである。
「ああ、分かっている」
感傷に浸りきるのはまだ早い…平家は気を引き締めた。
「では、俺は行きます。予断を許さない戦況ですから…」
「ああ、そうしてくれ」
大木が去った平家の眼前にある墓の下には、中澤裕子の遺体が眠っている。
首は二度晒し首にされた末行方が分からなくなってしまったという。
平家は、怒りも悲しみも通り越して悟ってしまった。
（官軍は、本当の仁義というものを分からぬ泡沫だ。馬鹿以下だ）
辛うじて遺体だけは役人に金を握らせて取り返したのだった。
「姐さん…市井も死んだよ…最後まであんたのことを心配してたそうだ…
…フフフ…もうそっちで再会しているのかもしれんな」
…
「だが、私はまだそっちには行けない…中澤さん、あんたが正しかったということを、
証明するために戦い続ける。それが出来る前にそっちに行ってしまったら…
その時は謝るよ」
元波浪組一番隊組長市井紗耶香は最期まで周りに
「どうしたんだろう…祐ちゃん…いや中澤さんから手紙は届いてませんか」
そう聞き続けていたという。慶応4年5月25日。
天才剣士と呼ばれた寂しい若者は眠るように逝った。
奇しくも中澤裕子刑死から丁度一ヶ月後のことである。
最期まで中澤の死は知らされなかったという。
―――数日の戦闘の後
村田局長代理が指揮を取る波浪組は、優秀な指揮官を多数失った旧幕府軍の中では
かなりの善戦を見せたと言っていい。
だが、どれだけ波浪組が局地的に善戦しようとも大局を動かすには至らない。
遂に会津藩は会津城の官軍への明け渡しを決定した。
「なんだと？会津城を明け渡す…」
村田は耳を疑った。
会津藩主のまことという人物は近隣の藩が次々に官軍に恭順していく中で、
あくまでも幕府に対してのみ忠誠を誓ってきた人物である。
会津藩の始祖は家臣に対し次のような「家訓」を定めている。
「将軍様に無二の忠誠を誓いなさい。もし主君（会津藩主）が幕府に対し
謀叛の心を抱いた時はそれに絶対に従ってはなりません」
これほど強烈に将軍への崇拝の感情を剥き出しにした「家訓」を持った藩が
他にあっただろうか。
あの藩主ならば城を明け渡すくらいならば死を選ぶだろう。村田はそう考えていた。
そしてだからこそ、その藩主の為なら命を捨てられる。
そう考えていたのだ。
「会津藩主殿はどうなされたんだ！？」
「…自害なされたらしい…」
「く……そういうことか…」
（あれほどの忠義の人が報われない明治維新などというものが
正しいのか！？本当に維新政府は正しいのか？確かめさせてもらおう…）
「どうされた？村田さん」
「いや、なんでも無い。まだだ。まだおれたちは戦える」
「その為にまずは仙台に向かおう。村田君」
話し合いを続けていた村田めぐみ局長代理と大木衣吹の側から
怪我の為に体を休めていた平家みちよ新局長の声がしたのはこの時だった。
村田局長代理が指揮を取る波浪組は、優秀な指揮官を多数失った旧幕府軍の中では
かなりの善戦を見せたと言っていい。
だが、どれだけ波浪組が局地的に善戦しようとも大局を動かすには至らない。
遂に会津藩は会津城の官軍への明け渡しを決定した。
「なんだと？会津城を明け渡す…」
村田は耳を疑った。
会津藩主のまことという人物は近隣の藩が次々に官軍に恭順していく中で、
あくまでも幕府に対してのみ忠誠を誓ってきた人物である。
会津藩の始祖は家臣に対し次のような「家訓」を定めている。
「将軍様に無二の忠誠を誓いなさい。もし主君（会津藩主）が幕府に対し
謀叛の心を抱いた時はそれに絶対に従ってはなりません」
これほど強烈に将軍への崇拝の感情を剥き出しにした「家訓」を持った藩が
他にあっただろうか。
あの藩主ならば城を明け渡すくらいならば死を選ぶだろう。村田はそう考えていた。
そしてだからこそ、その藩主の為なら命を捨てられる。
そう考えていたのだ。
「会津藩主殿はどうなされたんだ！？」
「…自害なされたらしい…」
「く……そういうことか…」
（あれほどの忠義の人が報われない明治維新などというものが
正しいのか！？本当に維新政府は正しいのか？確かめさせてもらおう…）
「どうされた？村田さん」
「いや、なんでも無い。まだだ。まだおれたちは戦える」
「その為にまずは仙台に向かおう。村田君」
話し合いを続けていた村田めぐみ局長代理と大木衣吹の側から
怪我の為に体を休めていた平家みちよ新局長の声がしたのはこの時だった。
「平家さん、体はもう大丈夫なのか！？」
「ああ、もう心配無い。それより仙台に向かおう。仙台には旧幕軍の艦隊が
集結しているそうだ。そこから蝦夷地に渡り、最後の抵抗を試みる」
「仙台か…もう一度その地は踏みたかった」
村田めぐみの波浪組入隊以前の経歴は謎に包まれている。
ならず者同然の生活をしていたとも噂されている。誤まって人を斬ったこともあるという。
仙台藩の生まれだったのだろうか。しかしそれは今は関係の無い話だ。
「どうした…村田君、行かないのか！？」
「ええ、行けません」
「なぜだ…」
「会津への大恩を、返しきれていない」
「会津藩には池田屋事件の時も、禁門の乱の時も協力してもらえなかっただろう…
始めに召し抱えてもらった恩義を感じるのはいいが、過ぎた真似をする必要はない」
しかし村田は首を横に振った。
「申し訳ない…だがやはりおれはここに留まります…それがおれにとっては一番正しい」
「フフフ…頑固だな。敬意に価するよ…大木君…君は…！？」
その時、大木も居る平家の視界の中に官軍を押しのけて迫ってくる一つの部隊が入った。
「あ…あれは、゛燗兵隊゛！」
平家の表情の変化に気付いて振り返った大木が気付いた。
゛燗兵隊゛とは波浪組から離脱したあさみとりんねが中心となって結成した部隊だ。
その先頭に立って官軍を蹴散らしているのは、洋風の兵装を施してはいるが、
小柄な体ながらその俊敏な身のこなしは見紛うはずも無い。あさみだった。
官軍を蹴散らし、数百の隊士を率いたあさみが合流した。
「あ…あさみ君…なぜ…こんなところに」
「はぁ…はぁ…会うのは冥土でっていう約束でしたけど…」
あさみはりんねと共に゛燗兵隊゛を結成したもののりんねは程無く離脱し、
あさみは一人でその数百の隊士を江戸でフランス式に調練し、
ここまで駆けつけてきたのだった。
「ああ、もう心配無い。それより仙台に向かおう。仙台には旧幕軍の艦隊が
集結しているそうだ。そこから蝦夷地に渡り、最後の抵抗を試みる」
「仙台か…もう一度その地は踏みたかった」
村田めぐみの波浪組入隊以前の経歴は謎に包まれている。
ならず者同然の生活をしていたとも噂されている。誤まって人を斬ったこともあるという。
仙台藩の生まれだったのだろうか。しかしそれは今は関係の無い話だ。
「どうした…村田君、行かないのか！？」
「ええ、行けません」
「なぜだ…」
「会津への大恩を、返しきれていない」
「会津藩には池田屋事件の時も、禁門の乱の時も協力してもらえなかっただろう…
始めに召し抱えてもらった恩義を感じるのはいいが、過ぎた真似をする必要はない」
しかし村田は首を横に振った。
「申し訳ない…だがやはりおれはここに留まります…それがおれにとっては一番正しい」
「フフフ…頑固だな。敬意に価するよ…大木君…君は…！？」
その時、大木も居る平家の視界の中に官軍を押しのけて迫ってくる一つの部隊が入った。
「あ…あれは、゛燗兵隊゛！」
平家の表情の変化に気付いて振り返った大木が気付いた。
゛燗兵隊゛とは波浪組から離脱したあさみとりんねが中心となって結成した部隊だ。
その先頭に立って官軍を蹴散らしているのは、洋風の兵装を施してはいるが、
小柄な体ながらその俊敏な身のこなしは見紛うはずも無い。あさみだった。
官軍を蹴散らし、数百の隊士を率いたあさみが合流した。
「あ…あさみ君…なぜ…こんなところに」
「はぁ…はぁ…会うのは冥土でっていう約束でしたけど…」
あさみはりんねと共に゛燗兵隊゛を結成したもののりんねは程無く離脱し、
あさみは一人でその数百の隊士を江戸でフランス式に調練し、
ここまで駆けつけてきたのだった。
「そうか…その見慣れぬ兵装はふらんす式か」
「はは、背が高くないと似合わないですけどね…フランス人はみんな背が高いですよ。
びっくりしました。背だけじゃなくて鼻まで高いんだからなぁ…」
あさみが表情を緩めたところで、再びこちらに向けて駆けてくる部隊があった。
今度は騎馬部隊である。
「斬れ、斬れーーー！！」
先頭でひときわ目を引く裸馬に乗り叫びながら槍を振るっているのは
「斬れ、斬れ」
が口癖になっているりんねだった。盗賊のようないでたちの部隊を率いている。
奇襲攻撃で官軍の包囲を一点集中突破したりんねの部隊が波浪組に合流する。
「へへへ…あさみさんも来てたなんてな…斉藤さんも大木さんも無事なようで、なによりだ」
馬上で照れ笑いを浮かべながら駆けつけた彼女は燗兵隊を抜け出して実家に戻った後、
愛馬を駆って盗賊のようなことをして日々を過ごそうかとも思ったが、
やはり世間の元波浪組に対する監視の目は厳しく、また戦場の匂いを忘れられず、
仲間を引き連れ戦場になっていると聞いた会津に辿り着いた。
「！？どうしたんだよ…平家さん」
平家は感極まった表情をしている。
「大木君も」
大木も同様だった。既に大木は泣いている。
しかし村田は冷静に戦況を分析していた。
「平家さん、大木君、かつての仲間が訪ねて来てくれて気が緩むのは分からないとは
言わん。だが、戦いが終わったわけじゃない…りんね君、あさみ君、君らは
平家さんと大木君について仙台から蝦夷に向かってくれ。おれはここに留まり、
会津城を枕にして眠るつもりだ」
「はは、背が高くないと似合わないですけどね…フランス人はみんな背が高いですよ。
びっくりしました。背だけじゃなくて鼻まで高いんだからなぁ…」
あさみが表情を緩めたところで、再びこちらに向けて駆けてくる部隊があった。
今度は騎馬部隊である。
「斬れ、斬れーーー！！」
先頭でひときわ目を引く裸馬に乗り叫びながら槍を振るっているのは
「斬れ、斬れ」
が口癖になっているりんねだった。盗賊のようないでたちの部隊を率いている。
奇襲攻撃で官軍の包囲を一点集中突破したりんねの部隊が波浪組に合流する。
「へへへ…あさみさんも来てたなんてな…斉藤さんも大木さんも無事なようで、なによりだ」
馬上で照れ笑いを浮かべながら駆けつけた彼女は燗兵隊を抜け出して実家に戻った後、
愛馬を駆って盗賊のようなことをして日々を過ごそうかとも思ったが、
やはり世間の元波浪組に対する監視の目は厳しく、また戦場の匂いを忘れられず、
仲間を引き連れ戦場になっていると聞いた会津に辿り着いた。
「！？どうしたんだよ…平家さん」
平家は感極まった表情をしている。
「大木君も」
大木も同様だった。既に大木は泣いている。
しかし村田は冷静に戦況を分析していた。
「平家さん、大木君、かつての仲間が訪ねて来てくれて気が緩むのは分からないとは
言わん。だが、戦いが終わったわけじゃない…りんね君、あさみ君、君らは
平家さんと大木君について仙台から蝦夷に向かってくれ。おれはここに留まり、
会津城を枕にして眠るつもりだ」
暫く会わない内に口数の多くなった村田にりんねとあさみは同様に驚いた表情を見せる。
だが、りんねはすぐに表情を緩めた。
「村田さん、会津に恩を感じてるのはあんただけじゃないぜ」
「そうさ…今からすぐ仙台に向かう体力なんて残ってないしなぁ」
「相変わらず正直だな、あさみさんは」
「それに、村田さん一人じゃ大変だろう。りんねさんが抜け出してくれたお陰で
私は一人で燗兵隊を率いてきたんだ…一人の辛さは分かっている」
「おっと、これは自爆だったな…勝手に抜け出したのは済まなく思ってるよ」
「ははは…ごめんごめん、そんなつもりじゃなかったんだ。恨んでなんかないよ」
「そちらでも色々あったのだな…」
あさみとりんねの二人のやり取りを見ていた平家が口を開く。
そして4人の幹部と元幹部の顔を一通り見渡して深く肯いた。
「大木君、君はどうするんだ？」
あさみに問われた大木は即答する。
「俺は平家さんと一緒に行く」
「…そうか。だと思ったよ…じゃあ平家さん大木君、最後です」
「ああ、今度こそ再会するのは冥土だな」
（大谷…斉藤…おれは最期まで利口な人間にはなれなかったらしい…
こんな時平家さんと大木君にどんな言葉をかけるべきなのかも分からん）
そう思いながら、村田は平家と大木の背中を見送った。
3人と、2人は別れた。
そしてやはり二度と現世で再会することはない。
明治元年9月11日、元波浪組二番隊組長あさみは決死隊を組んで官軍のさなかに
斬り込んだもののついに取り囲まれ、仲間を逃す為に一人踏みとどまり
奮戦の後ついに精根尽き刀折れそこで散華した。
その2日後波浪組三番隊組長村田めぐみは炎上する会津城に踏みとどまり戦ったが、
ついに終わりが来たと観念し残ろうとする隊士を全て逃がした後炎の中にその身を投げた。
元波浪組十番隊長りんねは更にその一週間後落ち延びた小屋を取り囲まれ
集中砲撃を受けた。死体は跡形も無かったという。
明治元年9月12日、平家とその腹心大木率いる波浪組別隊は仙台に到着する。
会津藩が完全降伏したのはそれから10日後のことだった。
だが、りんねはすぐに表情を緩めた。
「村田さん、会津に恩を感じてるのはあんただけじゃないぜ」
「そうさ…今からすぐ仙台に向かう体力なんて残ってないしなぁ」
「相変わらず正直だな、あさみさんは」
「それに、村田さん一人じゃ大変だろう。りんねさんが抜け出してくれたお陰で
私は一人で燗兵隊を率いてきたんだ…一人の辛さは分かっている」
「おっと、これは自爆だったな…勝手に抜け出したのは済まなく思ってるよ」
「ははは…ごめんごめん、そんなつもりじゃなかったんだ。恨んでなんかないよ」
「そちらでも色々あったのだな…」
あさみとりんねの二人のやり取りを見ていた平家が口を開く。
そして4人の幹部と元幹部の顔を一通り見渡して深く肯いた。
「大木君、君はどうするんだ？」
あさみに問われた大木は即答する。
「俺は平家さんと一緒に行く」
「…そうか。だと思ったよ…じゃあ平家さん大木君、最後です」
「ああ、今度こそ再会するのは冥土だな」
（大谷…斉藤…おれは最期まで利口な人間にはなれなかったらしい…
こんな時平家さんと大木君にどんな言葉をかけるべきなのかも分からん）
そう思いながら、村田は平家と大木の背中を見送った。
3人と、2人は別れた。
そしてやはり二度と現世で再会することはない。
明治元年9月11日、元波浪組二番隊組長あさみは決死隊を組んで官軍のさなかに
斬り込んだもののついに取り囲まれ、仲間を逃す為に一人踏みとどまり
奮戦の後ついに精根尽き刀折れそこで散華した。
その2日後波浪組三番隊組長村田めぐみは炎上する会津城に踏みとどまり戦ったが、
ついに終わりが来たと観念し残ろうとする隊士を全て逃がした後炎の中にその身を投げた。
元波浪組十番隊長りんねは更にその一週間後落ち延びた小屋を取り囲まれ
集中砲撃を受けた。死体は跡形も無かったという。
明治元年9月12日、平家とその腹心大木率いる波浪組別隊は仙台に到着する。
会津藩が完全降伏したのはそれから10日後のことだった。
240 ：レス5：2001/06/06(水) 07:08 ID:G/DLsjiU
新撰組なんてまるで興味なかったのに、今日NHKで
やってた「その時歴史が動いた」観ちゃったよ……（w
やってた「その時歴史が動いた」観ちゃったよ……（w
>>240
二重引用符は「“”」ですよ、「゛゛」は濁点ですよ、ということが言いたかったのです。
分からない振りをされてるだけでしょうけども、言わなきゃわかんないというのは
もっともなご意見です。SMAPも「しようよ」でそう歌ってますしね（w
ほんとにごめんなさい。
今までまるで興味がなかった新撰組に関するテレビ番組を観てみようという気に
させてくれたほどの小説だけに、そういう細かい部分まで気を配ってくれると
もっとうれしいなあ、なんて思った次第です。
二重引用符は「“”」ですよ、「゛゛」は濁点ですよ、ということが言いたかったのです。
分からない振りをされてるだけでしょうけども、言わなきゃわかんないというのは
もっともなご意見です。SMAPも「しようよ」でそう歌ってますしね（w
ほんとにごめんなさい。
今までまるで興味がなかった新撰組に関するテレビ番組を観てみようという気に
させてくれたほどの小説だけに、そういう細かい部分まで気を配ってくれると
もっとうれしいなあ、なんて思った次第です。
245 ：蛇足11-1：2001/06/07(木) 05:42 ID:H0wFH66s
中澤裕子（天保8年〈1836〉～慶応4年〈1868〉）
甲州の貧しい農家に生まれる。波浪組局長。天然波浪流免許皆伝。
波浪組発足当初、対抗勢力であった稲葉貴子一派を暗殺しその全権を掌握した。
池田屋事件においては最初に斬り込んだ者の内で唯一最後まで無傷であった。
最期は慶応4年下総流山で投降、斬首の刑に処された。文字通り波浪組の精神的支柱。
余り上手くはないが歌を歌うのが好きだったらしい。
市井紗耶香（弘化3年〈1846〉～慶応4年〈1868〉）
奥州藩士の家に生まれる。波浪組一番隊組長。撃剣師範。天然波浪流免許皆伝。
試衛館の門に入り、塾頭にまでなる。池田屋事件では持病の発作が出た為に手傷を負った。
中澤が試衛館を市井に任せようとしていたということを証明する手紙が残っている。
剣の腕は卓越していたがその教授のまずさも卓越していたという。労咳を発病し、没する。
剣の形は独特だったという。
甲州の貧しい農家に生まれる。波浪組局長。天然波浪流免許皆伝。
波浪組発足当初、対抗勢力であった稲葉貴子一派を暗殺しその全権を掌握した。
池田屋事件においては最初に斬り込んだ者の内で唯一最後まで無傷であった。
最期は慶応4年下総流山で投降、斬首の刑に処された。文字通り波浪組の精神的支柱。
余り上手くはないが歌を歌うのが好きだったらしい。
市井紗耶香（弘化3年〈1846〉～慶応4年〈1868〉）
奥州藩士の家に生まれる。波浪組一番隊組長。撃剣師範。天然波浪流免許皆伝。
試衛館の門に入り、塾頭にまでなる。池田屋事件では持病の発作が出た為に手傷を負った。
中澤が試衛館を市井に任せようとしていたということを証明する手紙が残っている。
剣の腕は卓越していたがその教授のまずさも卓越していたという。労咳を発病し、没する。
剣の形は独特だったという。
あさみ（生年不詳～慶応4年？〈1868〉）
波浪組発足当初からの参画者。波浪組二番隊組長。撃剣師範。波浪無念流免許皆伝。
小柄ながらも剣の腕前は波浪組の中でも5本の指に入るものを持っていた。
池田屋事件では右肩を斬られる軽傷を負ったものの奮戦を見せた。考え方の違いから
りんねとともに波浪組から離脱し燗兵隊を結成するが、会津戦争において平家みちよ
率いる波浪組に合流する。この戦争で戦死したとされるが、実は捕らえられた後脱走し、
大正時代まで生きたという説もある。本名木村麻美。
村田めぐみ（生年不詳～慶応4年？〈1868〉）
波浪組初期からの参画者。波浪組三番隊組長。撃剣師範。天然波浪流免許皆伝。
波浪組入隊以前から中澤らとは知己があったとされるが定かではない。
実は剣の流派も定かではない。末永真己を斬殺したのは彼女だったとする説がある。
会津戦争において波浪組と決別し、会津城と運命を共にしたとされるが、
維新後の警視庁名簿にある゛村田めぐみ゛という人物と同一であるという説もある。
痩身ながら鋭い剣筋の持ち主であったとされる。
りんね（生年不詳～慶応4年？〈1868〉）
波浪組発足当初からの参画者。波浪組十番隊組長。波浪院流槍術師範。
試衛館入門以前は流れ者のように日々が定まらぬ生活をしていたという。
それを正してくれたのは中澤らだったのだろうが、その恩義の裏返しなのか照れ隠しか
中澤や平家には反抗的な態度を取り続けていたという。
会津戦争で戦死とされるが遺体が見つかっていない為に満州に渡り馬賊になった
などという伝説が残っている。実家では複数の名馬を飼っていたらしい。
波浪組発足当初からの参画者。波浪組二番隊組長。撃剣師範。波浪無念流免許皆伝。
小柄ながらも剣の腕前は波浪組の中でも5本の指に入るものを持っていた。
池田屋事件では右肩を斬られる軽傷を負ったものの奮戦を見せた。考え方の違いから
りんねとともに波浪組から離脱し燗兵隊を結成するが、会津戦争において平家みちよ
率いる波浪組に合流する。この戦争で戦死したとされるが、実は捕らえられた後脱走し、
大正時代まで生きたという説もある。本名木村麻美。
村田めぐみ（生年不詳～慶応4年？〈1868〉）
波浪組初期からの参画者。波浪組三番隊組長。撃剣師範。天然波浪流免許皆伝。
波浪組入隊以前から中澤らとは知己があったとされるが定かではない。
実は剣の流派も定かではない。末永真己を斬殺したのは彼女だったとする説がある。
会津戦争において波浪組と決別し、会津城と運命を共にしたとされるが、
維新後の警視庁名簿にある゛村田めぐみ゛という人物と同一であるという説もある。
痩身ながら鋭い剣筋の持ち主であったとされる。
りんね（生年不詳～慶応4年？〈1868〉）
波浪組発足当初からの参画者。波浪組十番隊組長。波浪院流槍術師範。
試衛館入門以前は流れ者のように日々が定まらぬ生活をしていたという。
それを正してくれたのは中澤らだったのだろうが、その恩義の裏返しなのか照れ隠しか
中澤や平家には反抗的な態度を取り続けていたという。
会津戦争で戦死とされるが遺体が見つかっていない為に満州に渡り馬賊になった
などという伝説が残っている。実家では複数の名馬を飼っていたらしい。
>>242
一応録画しましたがまだ見ていません…
あの記号はそういう意味でしたか
なんとなく“”より""のほうがシャープでかっこいい気がしたので…←バカ
うちでは「」を変換しても“”にはなりませんが、“”を変換すると""になります
新選組に興味を持って貰えたら嬉しいですね
そういう私もいくつか参考文献（小説が主だったりしますが）
とか用意して書いていたのですが色々新しい発見があって楽しかったです
図書館に行って調べごとをしたりもしました
実際の歴史はけれん味が無いのであまり生かしていませんが
知っておく必要はあると思ったので
久しぶりのレスありがとございました
>>244
実は次が最終章です
前回で一気に4人もお亡くなりになってしまったのですが
次の章では6人ほど新しい人物が登場します
最後に配役を載せるべきか載せないべきか迷っています…
一応録画しましたがまだ見ていません…
あの記号はそういう意味でしたか
なんとなく“”より""のほうがシャープでかっこいい気がしたので…←バカ
うちでは「」を変換しても“”にはなりませんが、“”を変換すると""になります
新選組に興味を持って貰えたら嬉しいですね
そういう私もいくつか参考文献（小説が主だったりしますが）
とか用意して書いていたのですが色々新しい発見があって楽しかったです
図書館に行って調べごとをしたりもしました
実際の歴史はけれん味が無いのであまり生かしていませんが
知っておく必要はあると思ったので
久しぶりのレスありがとございました
>>244
実は次が最終章です
前回で一気に4人もお亡くなりになってしまったのですが
次の章では6人ほど新しい人物が登場します
最後に配役を載せるべきか載せないべきか迷っています…
> 最後に配役を載せるべきか載せないべきか迷っています…
載せてください。
載せてください。
249 ：レス7：2001/06/08(金) 04:02 ID:sqsGEbK.
＝私は私なの…（前編）＝
仙台藩に到着した平家みちよ率いる波浪組は、たいせー旧幕軍艦隊提督軍と合流した。
時を経ずしてこの時既に官軍への恭順を決めていた仙台藩を見限った波浪組を含む
旧幕軍勢は函館へと向かう船上の人となっていた。
その船室で平家とその腹心大木衣吹が打ち合わせをしていた時、
「平家殿、こちらはフランス軍人のレファ サンボ殿です」
「オ初ニオ目ニカカリマス。レファ サンボデゴザル」
旧幕軍海軍提督のたいせーが数人のフランス人を連れて訪ねてきた。
「青い目をして我々と同じ言葉を使う…」
「彼女らは我々幕府軍に洋式兵学指南として招かれたのだ。皆ある程度は話せる。
中でもこのレファ サンボ殿は漢字も読まれるらしいぞ」
「…ほう、そうですか…」
言葉とは裏腹に無関心な表情をしてレファからの挨拶に応じず、目を反らす平家。
大木が代わりに答えた。
「毛唐に借りを作りたくはない。技術は学ばせて頂いても、
一緒に戦っていただくという義理まではござらん」
「…ふむ。平家殿、あなたはどうお考えになる！？」
「私もこの大木衣吹と同じ考えです。私が中澤と命運を共にしなかったのは命が
惜しかったからではない。私には中澤が正しかったということを戦い続けることで
証明するつとめがあると思ったからです。その為に毛唐の力を借りたのでは本末転倒。
戦いが治まった後でその恩を着せて我が国をフランスの属国にしてやろうとでも
考えているとしか思えん。即刻お引き取り願いたい」
「分カラズ屋！」
平家の言い分を聞いて大声を出したのはレファの側にいた
一段背の低いフランス人の一人だった。
時を経ずしてこの時既に官軍への恭順を決めていた仙台藩を見限った波浪組を含む
旧幕軍勢は函館へと向かう船上の人となっていた。
その船室で平家とその腹心大木衣吹が打ち合わせをしていた時、
「平家殿、こちらはフランス軍人のレファ サンボ殿です」
「オ初ニオ目ニカカリマス。レファ サンボデゴザル」
旧幕軍海軍提督のたいせーが数人のフランス人を連れて訪ねてきた。
「青い目をして我々と同じ言葉を使う…」
「彼女らは我々幕府軍に洋式兵学指南として招かれたのだ。皆ある程度は話せる。
中でもこのレファ サンボ殿は漢字も読まれるらしいぞ」
「…ほう、そうですか…」
言葉とは裏腹に無関心な表情をしてレファからの挨拶に応じず、目を反らす平家。
大木が代わりに答えた。
「毛唐に借りを作りたくはない。技術は学ばせて頂いても、
一緒に戦っていただくという義理まではござらん」
「…ふむ。平家殿、あなたはどうお考えになる！？」
「私もこの大木衣吹と同じ考えです。私が中澤と命運を共にしなかったのは命が
惜しかったからではない。私には中澤が正しかったということを戦い続けることで
証明するつとめがあると思ったからです。その為に毛唐の力を借りたのでは本末転倒。
戦いが治まった後でその恩を着せて我が国をフランスの属国にしてやろうとでも
考えているとしか思えん。即刻お引き取り願いたい」
「分カラズ屋！」
平家の言い分を聞いて大声を出したのはレファの側にいた
一段背の低いフランス人の一人だった。
「…どう違うのですかな？」
平家は無表情のまま訊ねた。
「ワタシ達ハフランス軍ニ辞表ヲ出シテ来タノデス」
「辞表を？…どういうことか…！？まさか我々と共に戦う為に自国の軍を辞したとでも？」
「ソウデス…モウ幕府軍ニハ先ガナイ。ダカラタダチニ本国ヘ帰還セヨト…
ワタシ達ハドウシテモソノ母国カラノ命令ニ従ウコトガ出来ナカッタノデス」
平家は表情を改めた。もはや無表情で通すには相手の表情には熱意がこもり過ぎていた。
「なぜです？その様なことをしてもあなたがたには一分の利も無いどころか、
本国へ帰還してからどのように責められるか…」
軍法会議にかけられることはまず間違い無いだろう。
小柄なフランス人を制し、レファが口を開いた。
「アサミサンカラ聞イタデゴザル…日本ニハ゛武士道精神゛トイウモノガゴザルト」
「…そうか…あさみ君は江戸で燗兵隊をフランス式に調練したと言っていたが、
その指導にあたって下さったのはあなたがただったか…先程は失礼した」
「…ソシテ我々フランス人ニハ゛騎士道精神゛トイウモノガアルデゴザル…
ソレハ我々ニ主君ヘノ忠誠ノ尊サニツイテ教エテクレテイルデゴザル。
ソシテヒタスラ自ラノ利バカリヲ追求スル薩長ノ行動ハ
゛武士道゛ニモ゛騎士道゛ニモ反シテイルト思ウデゴザル」
平家は無表情のまま訊ねた。
「ワタシ達ハフランス軍ニ辞表ヲ出シテ来タノデス」
「辞表を？…どういうことか…！？まさか我々と共に戦う為に自国の軍を辞したとでも？」
「ソウデス…モウ幕府軍ニハ先ガナイ。ダカラタダチニ本国ヘ帰還セヨト…
ワタシ達ハドウシテモソノ母国カラノ命令ニ従ウコトガ出来ナカッタノデス」
平家は表情を改めた。もはや無表情で通すには相手の表情には熱意がこもり過ぎていた。
「なぜです？その様なことをしてもあなたがたには一分の利も無いどころか、
本国へ帰還してからどのように責められるか…」
軍法会議にかけられることはまず間違い無いだろう。
小柄なフランス人を制し、レファが口を開いた。
「アサミサンカラ聞イタデゴザル…日本ニハ゛武士道精神゛トイウモノガゴザルト」
「…そうか…あさみ君は江戸で燗兵隊をフランス式に調練したと言っていたが、
その指導にあたって下さったのはあなたがただったか…先程は失礼した」
「…ソシテ我々フランス人ニハ゛騎士道精神゛トイウモノガアルデゴザル…
ソレハ我々ニ主君ヘノ忠誠ノ尊サニツイテ教エテクレテイルデゴザル。
ソシテヒタスラ自ラノ利バカリヲ追求スル薩長ノ行動ハ
゛武士道゛ニモ゛騎士道゛ニモ反シテイルト思ウデゴザル」
「その為に…俺達と一緒に官軍と戦う為に本国での地位と名誉を
なげうったというのか？」
「…ソウデゴザル」
レファが大木の質問に答えた。
外国人の顔を見慣れていない為になかなか見当がつかないが、
フランス人達はおそらくは大木や平家と変わらぬ歳頃だろう。
やはりまだ若さのために打算というものを知らないのかもしれない。
「どうだ平家殿、これでもレファ殿たちとともに戦うのは嫌かな？」
たいせーが再度平家に訊ねる。
「…いや…先程は失礼なことをした…真に申し訳なかった。こちらから共闘を願い出たい
くらいです…そういえばそちらの小柄な方はまだお名前を伺っておりませんでしたな」
「゛西洋馬術指南゛ノ、ミカ トッドデス」
他に仕官候補の実習生、エイプリルやチェルシーなどといった者たちもいた。
しかし彼女らも辞表を提出してきているので、本国での仕官の道は閉ざされてしまっている。
「ハハハ…大木君、私もまだまだだな。まだなかなか人間の本質というものが分からん」
「平家さんがまだまだというなら、俺なんかまだ生まれてすらいませんよ」
なげうったというのか？」
「…ソウデゴザル」
レファが大木の質問に答えた。
外国人の顔を見慣れていない為になかなか見当がつかないが、
フランス人達はおそらくは大木や平家と変わらぬ歳頃だろう。
やはりまだ若さのために打算というものを知らないのかもしれない。
「どうだ平家殿、これでもレファ殿たちとともに戦うのは嫌かな？」
たいせーが再度平家に訊ねる。
「…いや…先程は失礼なことをした…真に申し訳なかった。こちらから共闘を願い出たい
くらいです…そういえばそちらの小柄な方はまだお名前を伺っておりませんでしたな」
「゛西洋馬術指南゛ノ、ミカ トッドデス」
他に仕官候補の実習生、エイプリルやチェルシーなどといった者たちもいた。
しかし彼女らも辞表を提出してきているので、本国での仕官の道は閉ざされてしまっている。
「ハハハ…大木君、私もまだまだだな。まだなかなか人間の本質というものが分からん」
「平家さんがまだまだというなら、俺なんかまだ生まれてすらいませんよ」
旧幕軍が蝦夷地へ上陸したのは明治元年10月20日のことである。
会津藩の全面降伏と、それにともなう波浪組古参隊士三名の凄絶な末路を平家が知ったのは、
蝦夷地へ上陸してすぐのことだった。
「姐さん…これで試衛館からの同志は私以外全員そちらに行ってしまったよ…」
「アサミサンマデガ逝ッテシマッタデゴザルカ…」
「諸君…余り悲しんでいる時間はないぞ…官軍の手が及ぶ前に素早く蝦夷地を
平定してしまう必要がある。蝦夷地に暫定政府を置いて、官軍を迎え撃つのだ」
たいせーの言葉に、全員が肯いた。
蝦夷地の10月といえば完全な冬が間近である。
春が来れば官軍は本格的な侵攻を開始してくるだろう。
波浪組も所属する旧幕軍首脳はそう読んでいた。それまでに蝦夷地を平定する。
まるきり鬼のいぬ間に洗濯の状況だったが、旧幕軍は今出来ることをするだけである。
まず旧幕軍は西洋式要塞゛五稜郭゛への無血入城を果たした。
明治元年10月26日のことである。
旧幕軍はここを拠点とすることになる。
平家率いる波浪組はその後松前へと進軍し、松前城を攻略した。
ついで江差へも侵攻した波浪組だったが、その時艦砲射撃を行った旧幕幕軍艦隊の
旗艦が座礁してしまう。
このことで制海権を失ってしまった旧幕軍だったが、
この戦いでほぼ蝦夷地を平定した旧幕軍は五稜郭へと凱旋を果たした。
会津藩の全面降伏と、それにともなう波浪組古参隊士三名の凄絶な末路を平家が知ったのは、
蝦夷地へ上陸してすぐのことだった。
「姐さん…これで試衛館からの同志は私以外全員そちらに行ってしまったよ…」
「アサミサンマデガ逝ッテシマッタデゴザルカ…」
「諸君…余り悲しんでいる時間はないぞ…官軍の手が及ぶ前に素早く蝦夷地を
平定してしまう必要がある。蝦夷地に暫定政府を置いて、官軍を迎え撃つのだ」
たいせーの言葉に、全員が肯いた。
蝦夷地の10月といえば完全な冬が間近である。
春が来れば官軍は本格的な侵攻を開始してくるだろう。
波浪組も所属する旧幕軍首脳はそう読んでいた。それまでに蝦夷地を平定する。
まるきり鬼のいぬ間に洗濯の状況だったが、旧幕軍は今出来ることをするだけである。
まず旧幕軍は西洋式要塞゛五稜郭゛への無血入城を果たした。
明治元年10月26日のことである。
旧幕軍はここを拠点とすることになる。
平家率いる波浪組はその後松前へと進軍し、松前城を攻略した。
ついで江差へも侵攻した波浪組だったが、その時艦砲射撃を行った旧幕幕軍艦隊の
旗艦が座礁してしまう。
このことで制海権を失ってしまった旧幕軍だったが、
この戦いでほぼ蝦夷地を平定した旧幕軍は五稜郭へと凱旋を果たした。
平家が入札によって陸軍奉行並に任命されたのはこの頃である。
これは蝦夷地平定に際して平家率いる部隊が連戦連勝だったという軍人としての
功績だけでなく、平家の識見も剣客集団の頭目という次元を超えてたいせーを総裁とする
暫定政府の閣僚に相応しいと評価された証であった。
レファは仏国仕官隊長、ミカは第三烈士満という役職に任命され、
大木には特別な役職は与えられず平家の腹心という役割を引き続いて担うことになった。
「平家さん、陸軍奉行並おめでとうございます」
「こんなもの関係無いさ…しかし入札とは変わったことをするものだ」
蝦夷の暫定政府はいわゆる選挙制度というものの先取りを行ったのだ。
波浪組はこれまでずっとこういった民主的な方法論とは無縁の世界にいた。
「レファさんの知恵なんでしょうか」
「そうかもしれないな」
明治元年12月15日、平家みちよ陸軍奉行並誕生の日だった。
これは蝦夷地平定に際して平家率いる部隊が連戦連勝だったという軍人としての
功績だけでなく、平家の識見も剣客集団の頭目という次元を超えてたいせーを総裁とする
暫定政府の閣僚に相応しいと評価された証であった。
レファは仏国仕官隊長、ミカは第三烈士満という役職に任命され、
大木には特別な役職は与えられず平家の腹心という役割を引き続いて担うことになった。
「平家さん、陸軍奉行並おめでとうございます」
「こんなもの関係無いさ…しかし入札とは変わったことをするものだ」
蝦夷の暫定政府はいわゆる選挙制度というものの先取りを行ったのだ。
波浪組はこれまでずっとこういった民主的な方法論とは無縁の世界にいた。
「レファさんの知恵なんでしょうか」
「そうかもしれないな」
明治元年12月15日、平家みちよ陸軍奉行並誕生の日だった。
256 ：火の鳥：2001/06/08(金) 04:10 ID:0lQRnot2
みんながんばれ
遂に12月に入り、旧幕軍も官軍も寒さと積雪の為動きが取れなくなった。
その間平家はたいせー暫定政府の地盤固めは無論のこと兵の調練にも力を尽くした。
平家にとっては新しい発見の連続だったに違いない。
平家は剣術を本格的に学びだしたのが20歳過ぎと遅く、
そのせいもあってか戦に勝つため波浪組の兵装を完全に西洋式に変更し帯刀を
止めるということすら考えていた。
ただしそれは大木が
「平家さんの言葉といえどそれにだけは承服しかねます。
帯刀に関してだけは絶対に譲れません」
そう固辞したためにそれを汲んで却下した。
その間平家はたいせー暫定政府の地盤固めは無論のこと兵の調練にも力を尽くした。
平家にとっては新しい発見の連続だったに違いない。
平家は剣術を本格的に学びだしたのが20歳過ぎと遅く、
そのせいもあってか戦に勝つため波浪組の兵装を完全に西洋式に変更し帯刀を
止めるということすら考えていた。
ただしそれは大木が
「平家さんの言葉といえどそれにだけは承服しかねます。
帯刀に関してだけは絶対に譲れません」
そう固辞したためにそれを汲んで却下した。
制海権奪還の為、官軍の甲鉄艦奪取作戦を敢行したのは冬も終わったばかりの
3月のことだった。
この戦いには平家も参戦している。
この作戦は夜のうちに旧幕軍艦隊の2隻の老朽艦を官軍の最新鋭艦に横付けしてそれを奪い、
その混乱に乗じて戦艦゛回天゛で他の戦艦を沈めるというものだった。
ところが2隻の老朽艦は作戦決行前に事故で沈没してしまっていた。
そのため戦艦゛回天゛一隻での決行が強行されたのである。
回天に搭乗しているのは、主に波浪組隊士だった。
この作戦が成功するかどうかは波浪組局長である平家の手腕に
かかっていると言ってもよかった。
「わははは、どうですかな？平家さん、戦を前にして気分のほうは」
「悪くはありません」
開戦を待つ平家に声を掛けてきたのは゛回天゛の艦長、和田薫である。
尋常ではない目つきを持つ男だったが、決して悪い人物ではない。平家はそう感じていた。
「今作戦は闇に紛れて米国旗をかかげたまま敵艦に接近し、
敵艦と充分に近づいたら米国旗を下げて素早く日章旗を掲げ、
敵艦に横付けして我々が乗り移り一気にそれを奪う…と、このような手順でしたな？」
「わはは、その通り。我々は敵の甲鉄艦にこの゛回天゛を横付けする役目。
そして平家さんらはその後で敵艦を奪うために戦うのが役目…
…お互い死力を尽くしましょうぞ」
「ええ…それから確か敵艦には゛ガトリング砲゛が搭載されているとか…」
「あぁ、60数える間に180もの銃弾を撃ち出すとかいう、あれですな」
゛ガトリング砲゛は西洋から渡来したばかりの最新兵器である。
平家も、和田もまだ実物を見たことは無い。
「わははは、だがあんなものはこけおどしです。話が尾ひれ背びれを付けて
伝わって来ているに過ぎないでしょう。おそるるにたらん」
笑い飛ばす和田だったが、平家は実際何度も戦場で最新型の兵器の前に
敗れ去っているため楽観的な気分にはどうしてもなれなかった。
いよいよ作戦が開始されたのは、これから数時間後のことである。
3月のことだった。
この戦いには平家も参戦している。
この作戦は夜のうちに旧幕軍艦隊の2隻の老朽艦を官軍の最新鋭艦に横付けしてそれを奪い、
その混乱に乗じて戦艦゛回天゛で他の戦艦を沈めるというものだった。
ところが2隻の老朽艦は作戦決行前に事故で沈没してしまっていた。
そのため戦艦゛回天゛一隻での決行が強行されたのである。
回天に搭乗しているのは、主に波浪組隊士だった。
この作戦が成功するかどうかは波浪組局長である平家の手腕に
かかっていると言ってもよかった。
「わははは、どうですかな？平家さん、戦を前にして気分のほうは」
「悪くはありません」
開戦を待つ平家に声を掛けてきたのは゛回天゛の艦長、和田薫である。
尋常ではない目つきを持つ男だったが、決して悪い人物ではない。平家はそう感じていた。
「今作戦は闇に紛れて米国旗をかかげたまま敵艦に接近し、
敵艦と充分に近づいたら米国旗を下げて素早く日章旗を掲げ、
敵艦に横付けして我々が乗り移り一気にそれを奪う…と、このような手順でしたな？」
「わはは、その通り。我々は敵の甲鉄艦にこの゛回天゛を横付けする役目。
そして平家さんらはその後で敵艦を奪うために戦うのが役目…
…お互い死力を尽くしましょうぞ」
「ええ…それから確か敵艦には゛ガトリング砲゛が搭載されているとか…」
「あぁ、60数える間に180もの銃弾を撃ち出すとかいう、あれですな」
゛ガトリング砲゛は西洋から渡来したばかりの最新兵器である。
平家も、和田もまだ実物を見たことは無い。
「わははは、だがあんなものはこけおどしです。話が尾ひれ背びれを付けて
伝わって来ているに過ぎないでしょう。おそるるにたらん」
笑い飛ばす和田だったが、平家は実際何度も戦場で最新型の兵器の前に
敗れ去っているため楽観的な気分にはどうしてもなれなかった。
いよいよ作戦が開始されたのは、これから数時間後のことである。
「米国旗を下げて日章旗を掲げろ！敵艦に横付けする！」
船上に和田の声が響いた。
「よーし…平家さん、いよいよですね」
「ああ…だが、何か様子がおかしい」
旧幕軍艦隊はまだ蒸気船の扱いに慣れていない。
操船術を修めた者など数えるほどしかいないのが実状だった。
そのせいで、何隻もの戦艦を座礁させてしまっている。
その反面、官軍はいち早くあらゆるものを西洋式に転換していたために
蒸気船の扱いに手間取ることはない。
旧幕軍艦隊はただでさえ慣れない操縦に戦闘中であるという緊張感が加わり、
どうしようもない醜態をさらしていた。
「く…くそ…しっかり操縦しないか！」
「だ…駄目です！敵艦が動き出してしまいました…」
「こ…これ以上は敵も待ってはくれない…し…仕方ない！突っ込め！」
敵も警戒していたのだろう。旧幕軍の奇襲作戦にすぐに対応している。
遂に゛回天゛は横付けするのを断念し、敵艦の側面に突っ込んだ。
2つの戦艦はちょうど片仮名の゛イ゛のような形になっている。
「こ…これはいかん…」
横付けして一気に全軍で敵艦へと雪崩れ込むという作戦だった。
それが不可能になったのは仕方ないとも言えただろう。
だが、それだけではない。゛回天゛の船首が敵艦の側面に
完全に乗り上げてしまっているのである。
敵艦の甲板に移るには゛回天゛の船首から飛び降りなければならない。
高低差は、成人男性の2人分程もあっただろう。
一気に雪崩れ込むどころではない。一人一人順番に飛び降りなければならなくなった。
「面目ない！平家さん！横付けに失敗した！」
和田の声が聞こえた。
「謝られてもどうにもならんな…大木君、行くぞ」
「…はい」
最初に果敢に飛び移ったのは若い新選組隊士だった。
左右に跳ねながら敵兵に接近していったが、股関節を撃たれて前のめりに倒れ、
それでも立ち上がろうとしたところで胸を撃ち抜かれ絶命した。
船上に和田の声が響いた。
「よーし…平家さん、いよいよですね」
「ああ…だが、何か様子がおかしい」
旧幕軍艦隊はまだ蒸気船の扱いに慣れていない。
操船術を修めた者など数えるほどしかいないのが実状だった。
そのせいで、何隻もの戦艦を座礁させてしまっている。
その反面、官軍はいち早くあらゆるものを西洋式に転換していたために
蒸気船の扱いに手間取ることはない。
旧幕軍艦隊はただでさえ慣れない操縦に戦闘中であるという緊張感が加わり、
どうしようもない醜態をさらしていた。
「く…くそ…しっかり操縦しないか！」
「だ…駄目です！敵艦が動き出してしまいました…」
「こ…これ以上は敵も待ってはくれない…し…仕方ない！突っ込め！」
敵も警戒していたのだろう。旧幕軍の奇襲作戦にすぐに対応している。
遂に゛回天゛は横付けするのを断念し、敵艦の側面に突っ込んだ。
2つの戦艦はちょうど片仮名の゛イ゛のような形になっている。
「こ…これはいかん…」
横付けして一気に全軍で敵艦へと雪崩れ込むという作戦だった。
それが不可能になったのは仕方ないとも言えただろう。
だが、それだけではない。゛回天゛の船首が敵艦の側面に
完全に乗り上げてしまっているのである。
敵艦の甲板に移るには゛回天゛の船首から飛び降りなければならない。
高低差は、成人男性の2人分程もあっただろう。
一気に雪崩れ込むどころではない。一人一人順番に飛び降りなければならなくなった。
「面目ない！平家さん！横付けに失敗した！」
和田の声が聞こえた。
「謝られてもどうにもならんな…大木君、行くぞ」
「…はい」
最初に果敢に飛び移ったのは若い新選組隊士だった。
左右に跳ねながら敵兵に接近していったが、股関節を撃たれて前のめりに倒れ、
それでも立ち上がろうとしたところで胸を撃ち抜かれ絶命した。
「官軍はこんな蝦夷地の港にまで連発式の銃を配置しているのか…」
平家は銃についてもある程度詳しくなっている。
旧幕軍にも最近は流石に先込め式の銃は少なくなったが、
それでも元込め式の連発銃となると主力部隊にすら満足に行き渡っていない。
それが…
「続け！敵の銃弾は左右に跳んで避ければ大丈夫だ！ただし高低差がある！
足を挫かないように気を付けろ！！」
平家も飛び降りた。続いて大木も飛び降りる。
「敵が銃を持っているからと言って逃げ腰になるな！
刀の切っ先で敵を斬るのは臆病者がやることだぞ！」
そう言って平家自らも刀を取って警備兵らに突貫した。
平家もこうして刀を振るって戦うのは久しぶりのことだった。
最近は指揮官としての役割が強まって来ている平家だが、
やはり刀を取った時の強さに錆びはついていない。
「ハァ…ハァ…あらかた片付いたか！？」
辺りを見回すと敵兵に混じって波浪組隊士の死体もいくつか転がっている。
「くそ…」
その中には操舵担当の隊士も含まれていたのである。
生き残った警備兵は波浪組の戦いぶりに恐れをなしたのか大きく間合いを取っている。
「平家さん！無事ですか！？」
大木が寄ってきた。
しかし、平家には大木の無事を喜ぶ時間も与えられなかった。
平家は銃についてもある程度詳しくなっている。
旧幕軍にも最近は流石に先込め式の銃は少なくなったが、
それでも元込め式の連発銃となると主力部隊にすら満足に行き渡っていない。
それが…
「続け！敵の銃弾は左右に跳んで避ければ大丈夫だ！ただし高低差がある！
足を挫かないように気を付けろ！！」
平家も飛び降りた。続いて大木も飛び降りる。
「敵が銃を持っているからと言って逃げ腰になるな！
刀の切っ先で敵を斬るのは臆病者がやることだぞ！」
そう言って平家自らも刀を取って警備兵らに突貫した。
平家もこうして刀を振るって戦うのは久しぶりのことだった。
最近は指揮官としての役割が強まって来ている平家だが、
やはり刀を取った時の強さに錆びはついていない。
「ハァ…ハァ…あらかた片付いたか！？」
辺りを見回すと敵兵に混じって波浪組隊士の死体もいくつか転がっている。
「くそ…」
その中には操舵担当の隊士も含まれていたのである。
生き残った警備兵は波浪組の戦いぶりに恐れをなしたのか大きく間合いを取っている。
「平家さん！無事ですか！？」
大木が寄ってきた。
しかし、平家には大木の無事を喜ぶ時間も与えられなかった。
ガラガラガラ…
船室の一つの扉が開いたと思うと、重い音を立てながら鉄の塊が運ばれてきたのである。
円形に並んだいくつもの銃口が、こちらに向いている。
（ま…まさか…あれが…）
「ガ…ガトリング砲か…！？」
ドドド…
腹に響くような低い音がしたかと思うと、二人から離れた場所にいた波浪組の隊士が
大きく吹き飛ばされた。
「だ…大丈夫か…」
慌てて駆け寄った平家だったが、その隊士はもはや顔の判別すらつかない状態になっていた。
「平家さん…あれは危険すぎます…」
平家は歯軋りをした。
「お…おのれ…無念だ…ここまで来たというのに…全軍！退却する！
敵のガトリング砲に気を付けろ！」
ガトリング砲はその強大な火力とともに、故障の多さでも知られていた。
銃弾の装填に手間取っている間に、波浪組は一斉に撤退した。
平家らは隊士が取り残されないよう最後尾に着いて退却した。
゛回天゛の船首が乗り上げている場所に平家らが着くと、そこでは和田薫が待ち受けていた。
「おぉ、平家さん！大木君も無事だったか！」
そう言いながら縄ばしごを上りきった隊士の背中を叩いて労をねぎらっている。
船室の一つの扉が開いたと思うと、重い音を立てながら鉄の塊が運ばれてきたのである。
円形に並んだいくつもの銃口が、こちらに向いている。
（ま…まさか…あれが…）
「ガ…ガトリング砲か…！？」
ドドド…
腹に響くような低い音がしたかと思うと、二人から離れた場所にいた波浪組の隊士が
大きく吹き飛ばされた。
「だ…大丈夫か…」
慌てて駆け寄った平家だったが、その隊士はもはや顔の判別すらつかない状態になっていた。
「平家さん…あれは危険すぎます…」
平家は歯軋りをした。
「お…おのれ…無念だ…ここまで来たというのに…全軍！退却する！
敵のガトリング砲に気を付けろ！」
ガトリング砲はその強大な火力とともに、故障の多さでも知られていた。
銃弾の装填に手間取っている間に、波浪組は一斉に撤退した。
平家らは隊士が取り残されないよう最後尾に着いて退却した。
゛回天゛の船首が乗り上げている場所に平家らが着くと、そこでは和田薫が待ち受けていた。
「おぉ、平家さん！大木君も無事だったか！」
そう言いながら縄ばしごを上りきった隊士の背中を叩いて労をねぎらっている。
「和田さん！そんなところにいては危ない！狙い撃ちにされるぞ！」
「わははは！敵弾も私のことは避けて通るらしい！
心配は要らん！早くこの縄ばしごで！」
「平家さん、俺あの和田って人なんか苦手です」
「フフフ…横付けに失敗したことに責任を感じておられるのだろう…楽しい人ではないか」
平家の敗戦のショックもやわらいだ。
平家に続いて大木も縄ばしごを登りきったところで和田が号令を出す。
「引き揚げは完了した！退却を開始す…」
平家が背中で聞いていた和田の言葉が途中で途切れた。
振り返ると、そこには太股に銃弾を受けて倒れる和田の姿があった。
「わ…和田さん、大丈夫か？だから言わぬことでは無かったのだ」
「わ…わはは…だ…大丈夫…こりゃ帰還したら責任取って坊主だな…」
平家が肩を貸そうとしたが、和田は気丈にも自力で立ち上がろうとした。
しかしその和田の、今度は運悪くこめかみを銃弾が撃ち抜いた。
そのまま力を失い倒れた和田の体は、二度と動かなかった。
「く…くそ…なんということだ…」
この戦いで蝦夷の暫定政府は、海軍戦力のほとんどを失った。
明治2年3月25日のことである。
「わははは！敵弾も私のことは避けて通るらしい！
心配は要らん！早くこの縄ばしごで！」
「平家さん、俺あの和田って人なんか苦手です」
「フフフ…横付けに失敗したことに責任を感じておられるのだろう…楽しい人ではないか」
平家の敗戦のショックもやわらいだ。
平家に続いて大木も縄ばしごを登りきったところで和田が号令を出す。
「引き揚げは完了した！退却を開始す…」
平家が背中で聞いていた和田の言葉が途中で途切れた。
振り返ると、そこには太股に銃弾を受けて倒れる和田の姿があった。
「わ…和田さん、大丈夫か？だから言わぬことでは無かったのだ」
「わ…わはは…だ…大丈夫…こりゃ帰還したら責任取って坊主だな…」
平家が肩を貸そうとしたが、和田は気丈にも自力で立ち上がろうとした。
しかしその和田の、今度は運悪くこめかみを銃弾が撃ち抜いた。
そのまま力を失い倒れた和田の体は、二度と動かなかった。
「く…くそ…なんということだ…」
この戦いで蝦夷の暫定政府は、海軍戦力のほとんどを失った。
明治2年3月25日のことである。
＝私は私なの…（後編）＝
明治2年4月に入ると、官軍はいよいよ本格的に蝦夷地への上陸を開始した。
ここで平家は二股口を守り、連戦して連勝を重ねていた。
別働隊が次々に敗走していく中で、平家率いる波浪組を中心とした部隊だけは
際立った活躍を見せている。
この時期、平家の指揮官としての能力は円熟期に差し掛かっていたと言っていいだろう。
だが、制海権を有する官軍は本州から次々と新しい軍隊を送り込んでくる。
倒しても倒しても新しい敵が現われてくるのだから、
蝦夷地にこもって限りある兵力をもって守ることしかできない旧幕軍が
いずれ押し切られるのは時間の問題だった。
前線で指揮を取っていたミカ トッドが戦闘中に左膝を撃ち抜かれたのは、
いよいよ敗色が濃厚になってきた4月25日のことである。
「別働隊がついに官軍に敗れ去ったらしい…我々の退路も遮断されるおそれがあります
よきところで見切りをつけて撤退するのがよろしいかと…」
「…そうか…大木君、ご苦労だった」
報告に来た大木をねぎらう平家。
だがこの二股口はどうしても死守しなければならなかった。
ここを失えばもはや暫定政府の置かれた五稜郭しか旧幕軍には
残されていないことになるのだ。
平家は負傷した小柄なフランス人に視線を移した。
「もう、これ以上あなたがたに付き合ってもらうわけにはいかぬ」
「ダ…大丈夫…マダ戦エマス」
そう言って起き上がろうとしたミカを、平家は制した。
ここで平家は二股口を守り、連戦して連勝を重ねていた。
別働隊が次々に敗走していく中で、平家率いる波浪組を中心とした部隊だけは
際立った活躍を見せている。
この時期、平家の指揮官としての能力は円熟期に差し掛かっていたと言っていいだろう。
だが、制海権を有する官軍は本州から次々と新しい軍隊を送り込んでくる。
倒しても倒しても新しい敵が現われてくるのだから、
蝦夷地にこもって限りある兵力をもって守ることしかできない旧幕軍が
いずれ押し切られるのは時間の問題だった。
前線で指揮を取っていたミカ トッドが戦闘中に左膝を撃ち抜かれたのは、
いよいよ敗色が濃厚になってきた4月25日のことである。
「別働隊がついに官軍に敗れ去ったらしい…我々の退路も遮断されるおそれがあります
よきところで見切りをつけて撤退するのがよろしいかと…」
「…そうか…大木君、ご苦労だった」
報告に来た大木をねぎらう平家。
だがこの二股口はどうしても死守しなければならなかった。
ここを失えばもはや暫定政府の置かれた五稜郭しか旧幕軍には
残されていないことになるのだ。
平家は負傷した小柄なフランス人に視線を移した。
「もう、これ以上あなたがたに付き合ってもらうわけにはいかぬ」
「ダ…大丈夫…マダ戦エマス」
そう言って起き上がろうとしたミカを、平家は制した。
「もはや、戦いの趨勢は決した…我々は玉砕するでしょう…いや、
少なくとも私は旧幕軍が滅んだ後も生き長らえるつもりはない。
それに際してあなた方他国の人々までをも巻き込んだと言われては幕軍の
指揮官としての名折れ。死んでいった仲間達にあの世で会わせる顔が無くなる。
どうか、我々の為にも自国へお帰り下さい」
「デ…デモ…私達ハココマデ貴方タチト命運ヲ共ニシテ来タンデス。
勝負ハ最後マデ分カラナイッテイウ日本ノ諺、私知ッテマス！」
（それは諺ではないが…）
「承知イタシタデゴザル…」
大木が思った時ミカの抗議を遮ってレファが言った。
「エ！？レ…レファサン！平家サン達ヲ見捨テルノデスカ！」
「見捨てるのではない…我々の名誉を思えばこそのレファ殿の決断です。
…レファ殿、ご理解感謝する」
「…」
「本心ヲ言エバ、コウナッタコトハ非常ニ残念デゴザル…ダガ、
拙者ハ必ズ帰国シタ後デアナタガタノ正当サヲ母国ニ伝エマス」
「それは助かります…」
「ヘ…平家サン…マタ会エマスヨネ？」
平家はただ穏やかな笑みを浮かべるだけだった。
明治2年4月29日、レファ サンボ、ミカ トッドら゛雇われフランス人゛は帰国した。
少なくとも私は旧幕軍が滅んだ後も生き長らえるつもりはない。
それに際してあなた方他国の人々までをも巻き込んだと言われては幕軍の
指揮官としての名折れ。死んでいった仲間達にあの世で会わせる顔が無くなる。
どうか、我々の為にも自国へお帰り下さい」
「デ…デモ…私達ハココマデ貴方タチト命運ヲ共ニシテ来タンデス。
勝負ハ最後マデ分カラナイッテイウ日本ノ諺、私知ッテマス！」
（それは諺ではないが…）
「承知イタシタデゴザル…」
大木が思った時ミカの抗議を遮ってレファが言った。
「エ！？レ…レファサン！平家サン達ヲ見捨テルノデスカ！」
「見捨てるのではない…我々の名誉を思えばこそのレファ殿の決断です。
…レファ殿、ご理解感謝する」
「…」
「本心ヲ言エバ、コウナッタコトハ非常ニ残念デゴザル…ダガ、
拙者ハ必ズ帰国シタ後デアナタガタノ正当サヲ母国ニ伝エマス」
「それは助かります…」
「ヘ…平家サン…マタ会エマスヨネ？」
平家はただ穏やかな笑みを浮かべるだけだった。
明治2年4月29日、レファ サンボ、ミカ トッドら゛雇われフランス人゛は帰国した。
退路を断たれた平家らに包囲の危険が迫り、本陣である五稜郭への撤退を
余儀なくされたのはこれから数日後のことである。
無尽蔵の兵力と国内最新鋭の装備を誇る官軍と、補給戦を断たれ孤立した西洋式要塞。
篭城戦になってしまえばもはや勝敗は決したも同然であった。
――数日の睨み合いの末の明治2年5月11日
ついに運命の日は来た。
「平家さん、もういかん…降伏しよう。降伏しても君ほどの見識や指揮官としての
能力の持ち主ならば維新政府も喜んで迎え入れてくれるはずだ。現に何人もの
旧幕府側の人物が維新政府に召し抱えられている…戦い方は一つじゃあない。
一緒に維新政府に入って、思うようにそれを動かしてやろうじゃないか」
こう言うたいせー自身、自分の言葉に平家が納得してくれるなどとは思っていなかった。
たいせーの目にも、この時の平家は死を含めた全てを超越した何かのように見えていた。
「弁天台場に大木君らが立てこもっている」
平家が短く答えた。
弁天台場とは、箱館湾岸の小高い丘の上にある砦である。
そこに新選組隊士の生き残りなど約250名が立てこもっていた。
もはや旧幕軍には今たいせーら主力がいる五稜郭と、
新選組の生き残りを始めとした部隊が立てこもる弁天台場しか残されていない。
「大丈夫だ…我々が降伏すれば弁天台場の連中もきっとそれに従ってくれる。
局長の中澤さんをあれだけ理不尽なやりかたで処刑にしたんだ。
もうあれで薩長の恨みも消えただろう…心配はいらない」
「あなたは大木君のことを分かっていない…あれは私に似て不器用な人間だ…
私と同じく官軍に降伏するくらいならば死を選ぶ…そんな人間です」
平家はたいせーに目も合わせずそう言いながら部屋を出ていこうとする。
余儀なくされたのはこれから数日後のことである。
無尽蔵の兵力と国内最新鋭の装備を誇る官軍と、補給戦を断たれ孤立した西洋式要塞。
篭城戦になってしまえばもはや勝敗は決したも同然であった。
――数日の睨み合いの末の明治2年5月11日
ついに運命の日は来た。
「平家さん、もういかん…降伏しよう。降伏しても君ほどの見識や指揮官としての
能力の持ち主ならば維新政府も喜んで迎え入れてくれるはずだ。現に何人もの
旧幕府側の人物が維新政府に召し抱えられている…戦い方は一つじゃあない。
一緒に維新政府に入って、思うようにそれを動かしてやろうじゃないか」
こう言うたいせー自身、自分の言葉に平家が納得してくれるなどとは思っていなかった。
たいせーの目にも、この時の平家は死を含めた全てを超越した何かのように見えていた。
「弁天台場に大木君らが立てこもっている」
平家が短く答えた。
弁天台場とは、箱館湾岸の小高い丘の上にある砦である。
そこに新選組隊士の生き残りなど約250名が立てこもっていた。
もはや旧幕軍には今たいせーら主力がいる五稜郭と、
新選組の生き残りを始めとした部隊が立てこもる弁天台場しか残されていない。
「大丈夫だ…我々が降伏すれば弁天台場の連中もきっとそれに従ってくれる。
局長の中澤さんをあれだけ理不尽なやりかたで処刑にしたんだ。
もうあれで薩長の恨みも消えただろう…心配はいらない」
「あなたは大木君のことを分かっていない…あれは私に似て不器用な人間だ…
私と同じく官軍に降伏するくらいならば死を選ぶ…そんな人間です」
平家はたいせーに目も合わせずそう言いながら部屋を出ていこうとする。
「ど…どこに行かれる？」
「大木君を救い出しに弁天台場に行く…彼女は昔からの大切な仲間だ」
「ば…馬鹿なことを言うな！申し訳ないがそんな無茶なことの為に
貴重な兵力はさけない！少し冷静になってくれ！」
しかしそのたいせーの声を掻き消すほどの大きな声で平家が
「私と一緒に行くものはいないか！」
と言うと、3名ほどの隊士が平家の周りに集まった。
「フフフ…3人か…充分だ。ではたいせー殿、行ってまいる」
「な…何か考えでもあるのか？」
しかし平家は何も答えず五稜郭を出た。
平家が部屋を去ったところで蝦夷暫定政府の一人が上ずって甲高い声を張り上げる。
「た…たいせー殿！行かせてよろしいのですか！？もしかすると彼女は
自分だけ助かろうと官軍に交渉しに行ったのかもしれませんぞ！」
いざ目の前にした敗北、その後に待つかもしれない死の恐怖に恐れおののいている
のだろうか。普段はむしろ勇敢なこの閣僚も不安でならないらしい。
「平家君はそのような人間ではない…貴公はこれまで平家君の何を見てきた？」
「し…しかし、奴は所詮人斬り集団の頭目あがりではないですか！」
「…！！馬鹿者！！貴様自分が何を言っているか分かっているのか！」
「…はっ！…も…申し訳ございません！」
たいせーの怒声でこの閣僚もようやく正気を取り戻した。
だが、気が動転している時にこそ本心は出るものだ。
「私に謝るな！謝るならば平家君に直接謝れ！ …それが出来るのならばな」
（平家君…私に出来るのは君の名誉を守ることだけだ…）
一枚岩のように思っていた蝦夷地暫定政府の脆さを目の当たりにしたたいせーは、
報われない平家の誠意を想った。
「大木君を救い出しに弁天台場に行く…彼女は昔からの大切な仲間だ」
「ば…馬鹿なことを言うな！申し訳ないがそんな無茶なことの為に
貴重な兵力はさけない！少し冷静になってくれ！」
しかしそのたいせーの声を掻き消すほどの大きな声で平家が
「私と一緒に行くものはいないか！」
と言うと、3名ほどの隊士が平家の周りに集まった。
「フフフ…3人か…充分だ。ではたいせー殿、行ってまいる」
「な…何か考えでもあるのか？」
しかし平家は何も答えず五稜郭を出た。
平家が部屋を去ったところで蝦夷暫定政府の一人が上ずって甲高い声を張り上げる。
「た…たいせー殿！行かせてよろしいのですか！？もしかすると彼女は
自分だけ助かろうと官軍に交渉しに行ったのかもしれませんぞ！」
いざ目の前にした敗北、その後に待つかもしれない死の恐怖に恐れおののいている
のだろうか。普段はむしろ勇敢なこの閣僚も不安でならないらしい。
「平家君はそのような人間ではない…貴公はこれまで平家君の何を見てきた？」
「し…しかし、奴は所詮人斬り集団の頭目あがりではないですか！」
「…！！馬鹿者！！貴様自分が何を言っているか分かっているのか！」
「…はっ！…も…申し訳ございません！」
たいせーの怒声でこの閣僚もようやく正気を取り戻した。
だが、気が動転している時にこそ本心は出るものだ。
「私に謝るな！謝るならば平家君に直接謝れ！ …それが出来るのならばな」
（平家君…私に出来るのは君の名誉を守ることだけだ…）
一枚岩のように思っていた蝦夷地暫定政府の脆さを目の当たりにしたたいせーは、
報われない平家の誠意を想った。
既に五稜郭は官軍に幾重にも包囲されている。
五稜郭の正門を出た平家は官軍の陣地の先にある弁天台場に視線を据えて
真っ直ぐに馬を歩かせた。
「あ…あれは、平家さんではないか？」
五稜郭の様子を伺っていた弁天台場の見張りの隊士が
そう声を張り上げたのはそんな時だった。
弁天台場は確かに五稜郭を見下ろすことができる場所にはある。
しかし、いかんせん距離がありすぎる。
そこから五稜郭の近くにいる一人の人間を判別するのは困難なはずだった。
「こんな遠くから平家さんを判別出来るはずが…！」
そこから見える平家は小指の第一関節ほどの大きさでしかなかっただろう。
だが、大木もなぜか一目見てそれが平家だと分かった。
「いや…間違いない、平家さんだ…」
大木の目にも、確かに平家がこちらに向かっていることが判別出来ていた。
五稜郭の正門を出た平家は官軍の陣地の先にある弁天台場に視線を据えて
真っ直ぐに馬を歩かせた。
「あ…あれは、平家さんではないか？」
五稜郭の様子を伺っていた弁天台場の見張りの隊士が
そう声を張り上げたのはそんな時だった。
弁天台場は確かに五稜郭を見下ろすことができる場所にはある。
しかし、いかんせん距離がありすぎる。
そこから五稜郭の近くにいる一人の人間を判別するのは困難なはずだった。
「こんな遠くから平家さんを判別出来るはずが…！」
そこから見える平家は小指の第一関節ほどの大きさでしかなかっただろう。
だが、大木もなぜか一目見てそれが平家だと分かった。
「いや…間違いない、平家さんだ…」
大木の目にも、確かに平家がこちらに向かっていることが判別出来ていた。
ついに平家と3名の隊士は官軍の第一関門に到達した。
「待て」
番兵が槍を突き出して平家の歩みを止めようとする。
だが、平家はその槍を掴むとあっさり取り上げて横に放り投げた。
がらん…
という音を立てて転がる槍をよそに平家に見据えられた番兵は呆けた表情をしている。
「貴公らの総大将に会いたい」
呆気に取られかけていた番兵が意識を取り戻す。
「な…なんだと？貴様、何者だ！」
「旧幕軍の者だ」
「な…では、貴君は我々に降伏を伝えに来た使者か？」
「いや…」
「…？では一体誰だ…」
警戒する番兵。
平家の迫力に圧倒されてしまっている。
「私は私…」
「な…何！？愚弄するのか貴様！」
番兵が刀に手を掛けるより早かった。
「私は、波浪組局長平家みちよだ！」
この番兵は一刀のもとに両断された。
「待て」
番兵が槍を突き出して平家の歩みを止めようとする。
だが、平家はその槍を掴むとあっさり取り上げて横に放り投げた。
がらん…
という音を立てて転がる槍をよそに平家に見据えられた番兵は呆けた表情をしている。
「貴公らの総大将に会いたい」
呆気に取られかけていた番兵が意識を取り戻す。
「な…なんだと？貴様、何者だ！」
「旧幕軍の者だ」
「な…では、貴君は我々に降伏を伝えに来た使者か？」
「いや…」
「…？では一体誰だ…」
警戒する番兵。
平家の迫力に圧倒されてしまっている。
「私は私…」
「な…何！？愚弄するのか貴様！」
番兵が刀に手を掛けるより早かった。
「私は、波浪組局長平家みちよだ！」
この番兵は一刀のもとに両断された。
この騒ぎを聞きつけて官軍の兵士が多数集まってきた。
それを不敵な表情で見下す平家。
「は…波浪組の局長がたった4人で…一体なんのつもりだ！！」
「くだらん権益に群がる鼠どもが群れてきたな…ククク…窮鼠が猫を噛むというところを
見せてもらおうか。但し私は狂暴な山猫だ。噛む場所を間違えるなよ」
「！！う…撃て！！」
「だ…駄目です！奴は敵の閣僚です！生かして捕らえなければ…」
「うぅ…くそ…」
実際は追いつめられているのは平家のほうであるはずなのに、
官軍の兵士のほうがうろたえてしまっている。
そんな間も平家は難なく官軍の陣地に足を踏み入れ、
真っ直ぐ大木衣吹らのいる弁天台場の方に向かおうとしている。その時、
「波浪組局長！お待ちなさい！」
突如官軍の陣地内に響いた大きな声に平家は馬を止めた。
声のする方角を見ると、そこには太目で小柄な女と、細身で長身の女が並んで立っていた。
それを不敵な表情で見下す平家。
「は…波浪組の局長がたった4人で…一体なんのつもりだ！！」
「くだらん権益に群がる鼠どもが群れてきたな…ククク…窮鼠が猫を噛むというところを
見せてもらおうか。但し私は狂暴な山猫だ。噛む場所を間違えるなよ」
「！！う…撃て！！」
「だ…駄目です！奴は敵の閣僚です！生かして捕らえなければ…」
「うぅ…くそ…」
実際は追いつめられているのは平家のほうであるはずなのに、
官軍の兵士のほうがうろたえてしまっている。
そんな間も平家は難なく官軍の陣地に足を踏み入れ、
真っ直ぐ大木衣吹らのいる弁天台場の方に向かおうとしている。その時、
「波浪組局長！お待ちなさい！」
突如官軍の陣地内に響いた大きな声に平家は馬を止めた。
声のする方角を見ると、そこには太目で小柄な女と、細身で長身の女が並んで立っていた。
「フフフ…通る声をしている…何者だ！？」
「私は、安倍なつみ」
「ワタシは官軍のイーダーの飯田圭織です」
「…ほう…薩摩の安倍と飯田の揃い踏みとは…」
平家は僅かに眉を動かした。
官軍の総大将といえば前線で兵士を戦わせておいて自分は安全な場所で
適当に指示を出しているような連中ばかりだと思っていたからだ。
平家についてきた3人の隊士は刀に手を掛けた。しかし、平家はそれを目で制する。
「通らせてもらうぞ」
「お待ちなさいとさっき言ったはずですよ」
平家の言葉に、安倍が答えた。
「平家さんももう諦めて、ワタシ達の仲間になってくれればいいのに」
「その通り。我々の維新政府には優秀な人材が余りにも不足しています…
諸外国と対等に付き合うには、我々は力を付けなければならならないのです。
あらゆる分野で優秀な人材を集められるだけ集めたい。
その為にはもはや日本人同士でいがみ合っている場合ではないのです」
安倍は後に自らが中心となって西南戦争を巻き起こし、今隣にいる飯田圭織率いる官軍の
前に敗れ去り切腹するに到る自分の末路をまだ知らない。
「私は、安倍なつみ」
「ワタシは官軍のイーダーの飯田圭織です」
「…ほう…薩摩の安倍と飯田の揃い踏みとは…」
平家は僅かに眉を動かした。
官軍の総大将といえば前線で兵士を戦わせておいて自分は安全な場所で
適当に指示を出しているような連中ばかりだと思っていたからだ。
平家についてきた3人の隊士は刀に手を掛けた。しかし、平家はそれを目で制する。
「通らせてもらうぞ」
「お待ちなさいとさっき言ったはずですよ」
平家の言葉に、安倍が答えた。
「平家さんももう諦めて、ワタシ達の仲間になってくれればいいのに」
「その通り。我々の維新政府には優秀な人材が余りにも不足しています…
諸外国と対等に付き合うには、我々は力を付けなければならならないのです。
あらゆる分野で優秀な人材を集められるだけ集めたい。
その為にはもはや日本人同士でいがみ合っている場合ではないのです」
安倍は後に自らが中心となって西南戦争を巻き起こし、今隣にいる飯田圭織率いる官軍の
前に敗れ去り切腹するに到る自分の末路をまだ知らない。
「フ…ハハハハハッ！！」
安倍の言葉を最後まで黙って聞いていた平家がふいに高笑いした。
「…何がおかしいのです！？」
「…笑わずにはいられんさ…貴様ら薩長は倒幕まで゛尊王攘夷゛゛尊王攘夷゛などと
喚きたてておきながら、いざ倒幕に成功してからは゛諸外国と対等に付き合う゛
だと！？
いつのまに攘夷を引っ込めたんだ？攘夷を信じて死んでいった貴様らの
同志に涅槃でどう説明をつけるつもりだ！？」
「嘘も方言っていうやつだよ…イーダーになったらどうしても色々な顔を
使い分けなければならないの。
気苦労で自慢の黒髪もこんなに茶色くなっちゃったんだから…」
「圭織、一応言っておきますが嘘も方便ですよ」
実際、維新後も情勢が開国に傾く中で攘夷を主張し続け、それを安倍や飯田、
松浦などに迷惑がられて維新政府から追い出されたり、捕らえられたり、
処刑された者すらいるのである。
嘘も方便などという言葉で片付けられるべき軽い問題ではなかった。
安倍の言葉を最後まで黙って聞いていた平家がふいに高笑いした。
「…何がおかしいのです！？」
「…笑わずにはいられんさ…貴様ら薩長は倒幕まで゛尊王攘夷゛゛尊王攘夷゛などと
喚きたてておきながら、いざ倒幕に成功してからは゛諸外国と対等に付き合う゛
だと！？
いつのまに攘夷を引っ込めたんだ？攘夷を信じて死んでいった貴様らの
同志に涅槃でどう説明をつけるつもりだ！？」
「嘘も方言っていうやつだよ…イーダーになったらどうしても色々な顔を
使い分けなければならないの。
気苦労で自慢の黒髪もこんなに茶色くなっちゃったんだから…」
「圭織、一応言っておきますが嘘も方便ですよ」
実際、維新後も情勢が開国に傾く中で攘夷を主張し続け、それを安倍や飯田、
松浦などに迷惑がられて維新政府から追い出されたり、捕らえられたり、
処刑された者すらいるのである。
嘘も方便などという言葉で片付けられるべき軽い問題ではなかった。
「…結局無駄な時間だったな…貴様らとは永遠に分かり合えん。
それを再確認しただけだった…それに…安倍なつみ、貴様はさっき
゛日本人同士でいがみあっている場合ではない゛などとと言ったが、
私は貴様ら官軍が中澤に行った仕打ちを絶対に忘れない。
今も貴様らを叩き斬りたい感情を押さえるのに苦心している」
安倍と飯田の答えは平家の耳には虚言を指摘されて開き直っているだけにしか
聞こえなかった。平家は信念を貫く為に他人を欺くことはしてきたが、
自分に嘘をつくことだけはして来なかったつもりだった。
安倍と飯田は結局平家にとって唾棄すべき存在でしか無かった。
平家は二人に背を向けて馬を歩かせた。
「……行かせるわけにはいかないと言ったはずですよ」
平家は耳を貸さない。安倍はついに
（撃ち殺せ）
兵士達に目でそう命じた。
（し…しかし…）
そんな目をする兵士に、安倍はもう一度合図を送った。
生かして捕らえても平家には信奉者が多すぎる。
平家に恭順の意志が全く無い以上、生かして捕らえるメリットは無い。
後々面倒なことになるくらいならばここで片付けようというのが安倍の考えだった。
平家に向けて銃をかまえる兵士達は次に総大将である飯田に視線を移す。
すると、飯田はゆっくりと同意を示す首肯を行った。
兵士達の次の行動が、決定された。
それを再確認しただけだった…それに…安倍なつみ、貴様はさっき
゛日本人同士でいがみあっている場合ではない゛などとと言ったが、
私は貴様ら官軍が中澤に行った仕打ちを絶対に忘れない。
今も貴様らを叩き斬りたい感情を押さえるのに苦心している」
安倍と飯田の答えは平家の耳には虚言を指摘されて開き直っているだけにしか
聞こえなかった。平家は信念を貫く為に他人を欺くことはしてきたが、
自分に嘘をつくことだけはして来なかったつもりだった。
安倍と飯田は結局平家にとって唾棄すべき存在でしか無かった。
平家は二人に背を向けて馬を歩かせた。
「……行かせるわけにはいかないと言ったはずですよ」
平家は耳を貸さない。安倍はついに
（撃ち殺せ）
兵士達に目でそう命じた。
（し…しかし…）
そんな目をする兵士に、安倍はもう一度合図を送った。
生かして捕らえても平家には信奉者が多すぎる。
平家に恭順の意志が全く無い以上、生かして捕らえるメリットは無い。
後々面倒なことになるくらいならばここで片付けようというのが安倍の考えだった。
平家に向けて銃をかまえる兵士達は次に総大将である飯田に視線を移す。
すると、飯田はゆっくりと同意を示す首肯を行った。
兵士達の次の行動が、決定された。
次の瞬間、馬上の波浪組局長に向けられたいくつもの官軍の銃口が一斉に火を吹いた。
全身で銃弾を受けた平家の体はまるで天の羽衣をまとった天女のように
馬の背中から優雅に舞い上がり、そのままゆっくりと、両足から地上に舞い下りた。
――少なくとも、大木衣吹始め弁天台場から平家の一挙手一投足を見ていた波浪組
生き残りの隊士らにはそう見えた。
「フフ…待たされるのが嫌いだったな…姐さんは」
平家の最後の意識が口の中でそう言い終えると、平家の体は棒のようになって
前のめりに倒れ、その機能の全てを永久に停止した。
「へ…平家さんが…あの平家さんが…死んだのか…？」
弁天台場から一部始終を見ていた隊士が信じられない思いで自答している。
「お…大木さん！我々も玉砕しましょう！！討って出ましょう！」
そう言う隊士の頬は涙で濡れている。
「…駄目だ」
「な…なぜです！？」
「もう…俺達は波浪組隊士ではないからだ…平家さんは、俺達を解き放ってくれたんだよ…
俺達に次の時代を生きさせるために…」
（だが、俺はちっともありがたくないですよ…平家さん）
弁天台場も5月15日に降伏を表明し戊辰戦争は終結、波浪組の歴史も幕を閉じた。
この後新選組は長州藩を差し置いて天皇に背いた逆賊のそしりを受け続けることになる。
再評価を許されるには第二次世界大戦以後まで待たなければならない。
全身で銃弾を受けた平家の体はまるで天の羽衣をまとった天女のように
馬の背中から優雅に舞い上がり、そのままゆっくりと、両足から地上に舞い下りた。
――少なくとも、大木衣吹始め弁天台場から平家の一挙手一投足を見ていた波浪組
生き残りの隊士らにはそう見えた。
「フフ…待たされるのが嫌いだったな…姐さんは」
平家の最後の意識が口の中でそう言い終えると、平家の体は棒のようになって
前のめりに倒れ、その機能の全てを永久に停止した。
「へ…平家さんが…あの平家さんが…死んだのか…？」
弁天台場から一部始終を見ていた隊士が信じられない思いで自答している。
「お…大木さん！我々も玉砕しましょう！！討って出ましょう！」
そう言う隊士の頬は涙で濡れている。
「…駄目だ」
「な…なぜです！？」
「もう…俺達は波浪組隊士ではないからだ…平家さんは、俺達を解き放ってくれたんだよ…
俺達に次の時代を生きさせるために…」
（だが、俺はちっともありがたくないですよ…平家さん）
弁天台場も5月15日に降伏を表明し戊辰戦争は終結、波浪組の歴史も幕を閉じた。
この後新選組は長州藩を差し置いて天皇に背いた逆賊のそしりを受け続けることになる。
再評価を許されるには第二次世界大戦以後まで待たなければならない。
ミカ トッド（生年不詳～明治7年〈1874〉）
箱館戦争に参加した10人の雇われフランス人の一人。洋式馬術指南。
左足を負傷していたためレファらとは同じ船に乗れず、遅れて帰国。
その後再来日している。フランスでの働き口が無かった為に日本に
職を求めてきたようだ。維新に貢献した者として宮内省勤務、後陸軍省勤務。
明治7年に病没し日本の土となった。
半分日本人の血が流れているのではないかと思うほど日本語は達者だったという。
レファ サンボ（生年不詳～1911）
箱館戦争に参加した10人の雇われフランス人の一人。砲兵仕官。
旧幕軍の趨勢が明らかになった時点で帰国している。帰国後フランス政府に日本での
ことを伝え、辞表を出したことを許され普仏戦争に仕官として参戦している。
しかしその戦でナポレオソ3世が捕虜になった際一緒に捕らえられた。釈放の後、
日本政府から3度に渡り勲章を贈られている。外国人で、しかも維新政府の敵方だった者に
このようなことをするのは異例のことである。天寿を全うし、パリ郊外で没する。
怪しげな日本語を話したという。
チェルシー（生年不詳～1870）
箱館戦争に参加した10人の雇われフランス人の一人。
当時は士官学校の実習生だった。帰国後仕官学校への復学を求めたが受け入れられず、
普仏戦争に一兵卒として参戦、あえなく戦死している。
日本語はほとんど話せなかった。
エイプリル（生没年不詳）
箱館戦争に参加した10人の雇われフランス人の一人。
当時は士官学校の実習生だった。帰国後士官学校への復学を求めたが受け入れられず、
普仏戦争に手柄を求めたが得られず、終戦後は商人としての道に入ったという。
それ以降の記録は見つかっていない。チェルシーと同じく日本語は怪しかった。
箱館戦争に参加した10人の雇われフランス人の一人。洋式馬術指南。
左足を負傷していたためレファらとは同じ船に乗れず、遅れて帰国。
その後再来日している。フランスでの働き口が無かった為に日本に
職を求めてきたようだ。維新に貢献した者として宮内省勤務、後陸軍省勤務。
明治7年に病没し日本の土となった。
半分日本人の血が流れているのではないかと思うほど日本語は達者だったという。
レファ サンボ（生年不詳～1911）
箱館戦争に参加した10人の雇われフランス人の一人。砲兵仕官。
旧幕軍の趨勢が明らかになった時点で帰国している。帰国後フランス政府に日本での
ことを伝え、辞表を出したことを許され普仏戦争に仕官として参戦している。
しかしその戦でナポレオソ3世が捕虜になった際一緒に捕らえられた。釈放の後、
日本政府から3度に渡り勲章を贈られている。外国人で、しかも維新政府の敵方だった者に
このようなことをするのは異例のことである。天寿を全うし、パリ郊外で没する。
怪しげな日本語を話したという。
チェルシー（生年不詳～1870）
箱館戦争に参加した10人の雇われフランス人の一人。
当時は士官学校の実習生だった。帰国後仕官学校への復学を求めたが受け入れられず、
普仏戦争に一兵卒として参戦、あえなく戦死している。
日本語はほとんど話せなかった。
エイプリル（生没年不詳）
箱館戦争に参加した10人の雇われフランス人の一人。
当時は士官学校の実習生だった。帰国後士官学校への復学を求めたが受け入れられず、
普仏戦争に手柄を求めたが得られず、終戦後は商人としての道に入ったという。
それ以降の記録は見つかっていない。チェルシーと同じく日本語は怪しかった。
大木衣吹（生年不詳～明治33年〈1900〉）
一次隊士募集時からの参画者。波浪組伍長。波形刀流師範。
波浪組内でも巨漢隊士として知られ怪力の持ち主だったらしい。探索方としても働いた。
池田屋事件、油小路の変、中澤狙撃など、大きな出来事のほとんどに関わっている。
箱館戦争で平家みちよの死を確認した後降伏。
釈放の後は京都のとある寺の守衛を務めた。維新政府から何度も招聘を受けたが拒み続け、
明治33年、勤務中に心臓の発作を起こし倒れ、帰らぬ人となった。
北上や末永と割合仲がよかったとされる。
平家みちよ（天保11年〈1838〉～明治2年〈1869〉）
武州多摩群の富農の家に生まれる。波浪組副長後、局長。天然波浪流師範。
池田屋事件では中澤とは別働隊を率いて四国屋に向かい、後合流した。
波浪組副長としての平家は組織の秩序を維持するために徹底的に悪役であり続けた。
しかし中澤が死んだ前後からは穏やかな面も見せるようになっていたという。
箱館戦争に参加し、降伏をよしとせず戦死を選んだとされている。
最期までいい子である自分を隠し続け、戦士として死んだ。
一次隊士募集時からの参画者。波浪組伍長。波形刀流師範。
波浪組内でも巨漢隊士として知られ怪力の持ち主だったらしい。探索方としても働いた。
池田屋事件、油小路の変、中澤狙撃など、大きな出来事のほとんどに関わっている。
箱館戦争で平家みちよの死を確認した後降伏。
釈放の後は京都のとある寺の守衛を務めた。維新政府から何度も招聘を受けたが拒み続け、
明治33年、勤務中に心臓の発作を起こし倒れ、帰らぬ人となった。
北上や末永と割合仲がよかったとされる。
平家みちよ（天保11年〈1838〉～明治2年〈1869〉）
武州多摩群の富農の家に生まれる。波浪組副長後、局長。天然波浪流師範。
池田屋事件では中澤とは別働隊を率いて四国屋に向かい、後合流した。
波浪組副長としての平家は組織の秩序を維持するために徹底的に悪役であり続けた。
しかし中澤が死んだ前後からは穏やかな面も見せるようになっていたという。
箱館戦争に参加し、降伏をよしとせず戦死を選んだとされている。
最期までいい子である自分を隠し続け、戦士として死んだ。
ソロ
中澤裕子:近藤勇 平家みちよ:土方歳三 稲葉貴子:芹沢鴨 前田有紀:井上源三郎 松浦亜弥:伊藤博文
カントリー娘。に石川梨華（モーニング娘。）
りんね:原田左之助 あさみ:永倉新八 石川梨華:伊東甲子太郎
ココナッツ娘。
アヤカ キムラ:ヒュースケン ミカ トッド:カズヌーヴ レファ サンボ:ブリュネ
メロン記念日
村田めぐみ:斎藤一 斉藤瞳:山崎烝 大谷雅恵:藤堂平助 柴田あゆみ:鹿内薫
シェキドル
北上アミ:山南敬助 大木衣吹:島田魁 末永真己:武田観柳斎
モーニング娘。
飯田圭織:大久保利通 安倍なつみ:西郷隆盛 保田圭:高杉晋作 矢口真里:久坂玄瑞
後藤真希:坂本竜馬 吉澤ひとみ:中岡慎太郎 辻希美:芳介 加護亜依:望月亀弥太
関連の人達
石黒彩:吉田稔麿 市井紗耶香:沖田総司 エイプリル:ホルタン 椛田早紀:入江九市 小湊美和:お梅
信田美帆:新見錦 鈴木あみ:井伊直弼 ソニン:千葉重太郎 たいせー:榎本武揚 ダニエル:ペリー
チェルシー:マルラン 夏まゆみ:勝海舟 はたけ:岸淵兵介 福田明日香:清川八郎 まこと:松平容保
三佳千夏:平山五郎 ユウキ:無し RuRu:平間重助 和田薫:甲賀源吾
その他
新井利佳:楠小十郎 岩下志麻:真木和泉 上田愛美:荒木田左馬之助 内山理名:服部武雄
江角マキ子:来島又兵衛 坂下千里子:桝屋喜右衛門 下川みくに:無し 藤岡麻美:御倉伊勢武
つんく♂
つんく♂:？？？
中には創作の人物もいますし、行動を照らし合わせると出鱈目な人もいます。
あくまでイメージです。配役ではなく、イメージです。
中澤裕子:近藤勇 平家みちよ:土方歳三 稲葉貴子:芹沢鴨 前田有紀:井上源三郎 松浦亜弥:伊藤博文
カントリー娘。に石川梨華（モーニング娘。）
りんね:原田左之助 あさみ:永倉新八 石川梨華:伊東甲子太郎
ココナッツ娘。
アヤカ キムラ:ヒュースケン ミカ トッド:カズヌーヴ レファ サンボ:ブリュネ
メロン記念日
村田めぐみ:斎藤一 斉藤瞳:山崎烝 大谷雅恵:藤堂平助 柴田あゆみ:鹿内薫
シェキドル
北上アミ:山南敬助 大木衣吹:島田魁 末永真己:武田観柳斎
モーニング娘。
飯田圭織:大久保利通 安倍なつみ:西郷隆盛 保田圭:高杉晋作 矢口真里:久坂玄瑞
後藤真希:坂本竜馬 吉澤ひとみ:中岡慎太郎 辻希美:芳介 加護亜依:望月亀弥太
関連の人達
石黒彩:吉田稔麿 市井紗耶香:沖田総司 エイプリル:ホルタン 椛田早紀:入江九市 小湊美和:お梅
信田美帆:新見錦 鈴木あみ:井伊直弼 ソニン:千葉重太郎 たいせー:榎本武揚 ダニエル:ペリー
チェルシー:マルラン 夏まゆみ:勝海舟 はたけ:岸淵兵介 福田明日香:清川八郎 まこと:松平容保
三佳千夏:平山五郎 ユウキ:無し RuRu:平間重助 和田薫:甲賀源吾
その他
新井利佳:楠小十郎 岩下志麻:真木和泉 上田愛美:荒木田左馬之助 内山理名:服部武雄
江角マキ子:来島又兵衛 坂下千里子:桝屋喜右衛門 下川みくに:無し 藤岡麻美:御倉伊勢武
つんく♂
つんく♂:？？？
中には創作の人物もいますし、行動を照らし合わせると出鱈目な人もいます。
あくまでイメージです。配役ではなく、イメージです。
ナポレオソ（w
>>278
実名は一切使わないということです
まぁ、こんなものか
ネタと史実の境界が分かりにくいかもしれないな
西郷隆盛は実際箱館戦争に参加してます
ただし、援軍を率いて箱館についた時は既に決着がついた後でした
最後の方の飯田安倍と平家さんの絡みは現在のモーニング娘。（官軍）と
平家みちよ始めハロプロのメンバー（旧幕軍）の関係を暗示させたつもりでした
と、どうでもいいことを書いておいて
名無し娘。改めマングース西浦
実名は一切使わないということです
まぁ、こんなものか
ネタと史実の境界が分かりにくいかもしれないな
西郷隆盛は実際箱館戦争に参加してます
ただし、援軍を率いて箱館についた時は既に決着がついた後でした
最後の方の飯田安倍と平家さんの絡みは現在のモーニング娘。（官軍）と
平家みちよ始めハロプロのメンバー（旧幕軍）の関係を暗示させたつもりでした
と、どうでもいいことを書いておいて
名無し娘。改めマングース西浦
次回作に期待してます