1 :
キス下品:
小説書きます。
全てにおいて初心者+パクリなので
迷惑かけたらごめんなさい。
2 :
キス下品:2001/04/26(木) 00:38 ID:LcxjXMLY
と思ったら本家dat送りになってるのね
3 :
名無し娘。:2001/04/27(金) 00:03 ID:tyJjU/Oo
とりあえず俺が書くか
4 :
名無し娘。:2001/05/03(木) 03:14 ID:tYl.hU7s
誰も書かないの?
5 :
名無し娘。:2001/05/08(火) 04:03 ID:ECu6HHpY
6 :
名無し娘。:2001/05/09(水) 01:08 ID:GunKPqYI
7 :
−0.1−:2001/05/10(木) 04:21 ID:zz0lVIOw
『超能力』。
…いや、まあ、簡単に言ってしまうとね。
いや、偶然っスよ。僕もたまたま気付きましてね。『気』ってわかります?
まあ、あの中国拳法とかマンガとかでいうアレですわな。
要するに、そのアレを増幅させる訓練みたいな?
そういう動きをね、僕も夏も知らないうちに振り付けに取り入れちゃってた
みたいなんですわ。
8 :
し:2001/05/11(金) 01:40 ID:Qu7/WqMk
9 :
名無し娘。:2001/05/11(金) 02:07 ID:h6qIlk8g
晒しage喰らっちまった…鬱だ
10 :
し:2001/05/11(金) 02:44 ID:wVsY1ucA
11 :
名無し娘。:2001/05/12(土) 02:44 ID:D8eMeIgI
sage
12 :
−0.2−:2001/05/12(土) 02:45 ID:mfDjuNGI
…いや、ホンマです。ホンマ偶然ですて!
いやあ、僕最初に見た時は、もうほんとビックリしましてね。
それでちょっと超能力に関する資料、集めてみたんです。
そしたらね、その振り付けとか、練習の時間的バランスとか、もちろん
本人たちの素質とかね。そういう要因がものすごい偶然で重なりあって、
結果としてほぼ全員が超能力に目覚めるという事態になった、と。はい。
…何や口に出すと、えらいバカバカしいねんけどね。
13 :
名無し娘。:2001/05/12(土) 03:51 ID:vjNP/9VA
>>9 気にしな〜い♪ 最近よく見かけるし。
ついに始まりましたな。頑張って下され。
14 :
名無し娘。:2001/05/13(日) 00:32 ID:617Rd/q.
sage
15 :
名無し娘。:2001/05/13(日) 02:33 ID:LBAWTgA6
>>13 ごめん、実は
>>1じゃないです。はっきり言って荒らし(w
ストーリーもその場の思い付きで書いてたりするんで、
どこに着地するのか自分にもまだ全然わかりません。
少しづつ頑張ってみますが、あまり期待しないでください。
16 :
名無し娘。:2001/05/13(日) 02:39 ID:LBAWTgA6
それで調べてるうちにいろいろわかったんやけど、超能力にも
いろんな種類があるんですわ。まあ、それぞれの性格?
うん、それとか、素質とか、精神力。
そんなんに合わせてね、だんだん能力の種類が分化していくと。
まあ、要は基本として一人に一つの能力ってことですわ。ベタなマンガや
ないねんけども。で、それ聞いて、僕、逆にこう考えたんです。
『あ、コレは使えるぞ』って。
…いや、実はこれからがちょっと重大な発表になるんですけどね。
はい。『モーニング娘。』もこうして長いことやって来たワケですけど、
まあ先日の中澤の脱退とかね、そういうのもあって、ここらで一つ、
区切りというかね。そういうのが必要なんじゃないかとちょうど思ってた
矢先なんですわ。僕自身もその、『モーニング娘。』というグループに
対しては、プロデュースなり企画なり、いろいろとやってあげられることは
やりつくしたかな、っていうのがありまして。まあ、いい意味でね。
…つまり、彼女たちの今後を見据えた上で、ここは解散だな、と。
で、その今後のことなんですけどもね、娘の中から一人選んで、
ソロでデビューさせたいなって思てるんですわ。
いや、全員でソロとして頑張っていくのもいいんですけどね、
この業界で今まで人気グループの一メンバーだった、10代やそこらの
女の子が、改めてたった一人で頑張っていくって、メッチャ大変なこと
なんですわ。ええ、よっぽどの精神力がなけりゃ、プレッシャーというか
そういうのでね。正直まあ、僕の予想としては、もうソロで活動してますけど
後藤ね、その他に一人残れるか残れないかってとこちゃうかな〜と。
そう思うんスよね。だから、もうそれやったら、いっそのこと
先に決着つけたほうがいいかな、って。
はい、それで、さっきの超能力が関係してくるワケなんですけどね。
…いや、どうせこれで最後やし、ちょっとハデにね。
彼女たちに、各自の持ってる超能力で勝ち抜き戦をやってもらおう、と。
はい。超能力ってのはほら、さっき話したとおり精神力ですし、
その中でも、人と戦って勝つことが出来る能力を持っているヤツってのは、
やっぱりこれから芸能界で生きていく上でも、かなりアグレッシブに
攻めていけるってことなんじゃないかな〜、ってそう思いましてね。
あ、もちろん後藤にも参加してもらいます。
ある意味ね、この企画を通じて、後藤以上の逸材が出てくるかもしれない、
そこに期待をかけてみたいってのもありまして。
21 :
名無し娘。:2001/05/17(木) 00:23 ID:Tyx1kbjI
毎日2時45分の更新……素晴らしい(w
あ、それと実はですね、辻とか、石川とか、ひょっとしたら
超能力使えないかも…というか、ごく微弱な能力しか持ってないかもしれへん
メンバーがいることも聞いてます。当然そいつらも参加させます。
はい、えーとね、僕的には、『能力がない』っていうことも、
ある意味一つの能力なんじゃないかと。
そういう部分をこう、逆手にとって上に上がっていってほしいというか。
…まあ、でもみんなやっぱりなるべく互角くらいには戦えるようにね、
ハンデっていうわけやないねんけど、とりあえず少し考えてみます。
それともちろん、そいつらも他のヤツらも、本気出して戦わせたら
シャレじゃすまなくなるっていうか、ただの殺し合いになっちゃうんで。
それはさすがにヤバいから、そこもまた僕なりにですけど、
いろいろと考えてますけどね。
え?ああ、僕ですか?ははは、あるように見えます?能力。
…
23 :
:2001/05/18(金) 02:35 ID:j/oMI0Sc
石川「え…冗談…ですよね?解散…とか…えっ……やだ。やだやだやだやだ」
加護「……1人だけ、って……えぇ?何?……何や、わからへん…」
矢口「ちょっ……マジですかぁ?なんでいつもこんなんばっかなの〜?
……もぉ〜っ……やだよぉ…」
辻 「…ぐすっ、…」
(企画書より一部抜粋)
…メンバーにはあらかじめナビゲーションシステムを搭載した
腕時計型のミニコンピューター(資料2−2)を支給し、それを通じて
一戦ごとにこちらの定める対戦会場への誘導を行う。なお会場には、
あらかじめ『仮想空間(資料2−3)』を設置する。
この『仮想空間』内部における体験は、あたかも現実で起こっている事で
あるかのように錯覚するほどリアルなものであるが、実際のメンバーの
肉体にはなんら物理的な被害を及ぼすことはない。また、これには一般人の
介入や第三者への被害を防ぐとともに、対戦による周辺への被害を
最小限度に留める効果もある。…
後藤「あ、なんか地図出てきた。カーナビみたい。……えっ、ゲームが
終わるまでコレとれないんですか?ちょっと、マジで?」
吉澤「あ、でも、ホントにケガとかはしないんですよね?遊びでしょ、コレ?
…っていうか、負けたらどうなるん…です…かね?……は、あはは…
は…」
(再び、企画書より一部抜粋)
…対戦はこちらの定めた会場において、原則的に1対1で行われる。
基本的には各自の超能力どうしでの戦いとなるが、必要であれば
あらゆる武器類の使用が認められる(資料3ー4)。また、急所攻撃などに
よる反則はない。試合が終了となるのは以下の時である。
1.どちらか一方が戦闘不能な状況に陥った場合。
2.その他、これ以上の戦闘の続行が不可能と判断された場合。
なお、対戦の組み合わせは、その時点で勝ち残っているメンバーの中から
コンピューターによってランダムに決定される。…
飯田「…せっかくみんなでここまで頑張ってきて…
でも、ここまで頑張ってきたからこそ、最後の…これが、
モーニングとしての最後の仕事だから?…何ていうか、…ぐすっ…
キチンとしなきゃ…ぐすっ」
安倍「……(無言)」
保田「…別に…メンバー同士の間での競争なんて
昔からしょっちゅうだった…し……負けたくないです。
…絶対勝ちます」
『というワケで、モーニング娘。に史上最悪の大大大問題勃発!
超超超超衝撃的緊急企画がスタートしてしまうんです!!次週乞う御期待!』
…暗転。
29 :
:2001/05/23(水) 02:46 ID:0nFn00O6
30 :
名無し娘。:2001/05/24(木) 02:45 ID:Nz6L7Uc.
読者(推定人数:1人)へのお詫び
…作者取材のため、更新はお休みします(w
31 :
名無し娘。:2001/05/25(金) 02:45 ID:414BwFiM
(0^〜^0)<どうせ誰も見てないと思って 更新休み放題♪
休み放題♪ ヨ〜ロレイッヒ〜♪ アシタガアルサ!
32 :
名無し娘。:2001/05/25(金) 02:51 ID:s3sxLF9M
見てるっちゅーねん。
更新はマッタリでもいいっすけどね。
小説総合スレで紹介してよい?
33 :
名無し娘。:2001/05/26(土) 02:20 ID:yInEykO2
>>32 見てたのかよ(w
独りよがりのオナニーショーみたいなもんなんで、出来れば公にしないで。
これからも、読者の期待を悪い意味で裏切り続けたいと思います。
34 :
:2001/05/26(土) 02:45 ID:yInEykO2
…この辺りかな。
その小さな公園の中ほどまで歩を進めて、吉澤ひとみは足を止めた。
念のため、左手にはめられた腕時計のような
小型のナビゲーションシステムでもう一度位置を確認する。
…間違いない、ここだ。まだ相手は来てないようだけど。
辺りをぐるりと見渡し、そこにあった小さなベンチに静かに腰を下ろすと
その瞬間、周りの空気がピリッと振動したような錯覚におちいった。
…ああ、始まったんだ。
もう、戻れない。ふいに、仲の良かったメンバーの顔が次々と脳裏に
浮かんできた。そのまま、ともすれば最悪の方向に流れて行きそうな
想像を振り払おうと、ひとみは激しく頭を振った。
…ダメだ、落ち着かなくちゃ。しょせんゲームなんだから。
べつに殺し合うとかそういうんじゃないんだから。
企画書にも書いてあったじゃん、『何が起こっても、ケガはない』って!
あらためて喉がカラカラに乾いている自分に気がつく。
ギュッと固く拳を作っていた手のひらも、嫌な汗でジットリと湿っている。
何気なく前方に転じた視界の隅に、ジュースの自販機が飛び込んできたのはちょうどその時だった。
…そうだ、ジュースでも飲もう。それが気分転換するのに今一番いい手段だ。
そう考えてひとみはベンチを立ち上がった。
…そして、実にこのわずかな一瞬のタイミングが明暗を分けることになった。
ゴィィィィィィィン!!
突然、ひとみのすぐ背後に、なにか固いものを打ち下ろしたような音が
響き渡った。
「ひゃあっ」
瞬間的にひとみはその場から弾かれるように飛び退いた。
音のしたほうを確認すると、コンクリートで出来たベンチの、まさに
今の今まで座っていた場所の部分が小さく欠けて、白い粉状に崩れていた。
「あ…」
小さくうめいたのはひとみではない。一瞬だけ影のようなものが
その場に浮かび上がると、すぐに幻であったかのようにまた空気と同化し、
かき消えた。しかし、それは相手が誰なのかを認識させるには
十分すぎる間であった。
37 :
名無し娘。 :2001/05/27(日) 05:30 ID:Pk4yToC.
38 :
名無し娘。:2001/05/28(月) 02:20 ID:AncOkeyQ
>>37 ホントだ。おめでとうございます。
つうか、もうここ、本家とか分家とかじゃなくて全然違う話だよな(w
>>1の人はどういう話を作るつもりだったんだろう…
39 :
:2001/05/28(月) 02:45 ID:AncOkeyQ
「や……や…」
その人物の名を呼ぼうとして、ひとみの声はかすれた。
透明な空気が少しだけ震えて何かがゆっくりと動くような気配がしたが、
そこでこの姿を透明にする能力を維持させるだけの気力を
使い果たしたのだろうか、切れかかった電灯のように幾度かの明滅を
繰り返したあと、やがてその場に小柄な少女の姿が浮かび上がった。
「ご…ごめん…ごめんね、よっすぃ…」
泣き出しそうな顔で荒い呼気を弾ませながら、こちらを悲しげに見つめる
その人物はまぎれも無く、ひとみが先程、最悪中の最悪の事態として
想定していた幾人かの相手のうちのひとりであった。
「…矢口…さん…?」
【第一戦 矢口真里VS吉澤ひとみ/スタート】
「ごめん、ごめんね…」
一瞬の沈黙のあと、再び真里は独り言のようにつぶやきながら、
ゆっくりとベンチに突き立っていた鉄パイプを両手で構え直した。
そのザラリとした表面は光をかすかに跳ね返して、
凶悪な殺意そのもののように鈍く輝いた。
「な、な、な…あっ、だっ、な」
何か言いたいのに、言葉が何も見つからない。
呂律のまわらない舌からは意味不明な単語の切れ端が
意思とは無関係にいくつも飛び出て来た。
今一瞬何かが違っていれば、自分は夏の浜辺のスイカみたいに、
まっ二つに脳天をかち割られていただろう。
「大丈夫だよ…大丈夫だよ…」
うわごとのようにブツブツとつぶやきつつ眼前まで迫ってくる
真里の姿を確認しながら、ひとみはただ魚のように
口をパクパクさせるだけでその場から一歩も動こうとしなかった。
いや、正確には、「動くことが出来なかった」のである。
「ふっっ!」
真里の気合いのような叫び声とともに、鉄パイプがひゅん、と空を薙いだ。
そこで初めてひとみの体は反射的に後ろへと下がった。
よけようとして動いた、というより、相手の気迫に押されて思わずよろけた、
と言ったほうが正しいかもしれない。それによって、鈍色の残像は
ひとみの額をわずかにかすめ、あとはただむなしく空を切って、
向かって右側の空間へと流れていった。
瞬間、ジリッと焦げ付くような痛みを額に感じたかと思うと、
鈍い衝撃がジワリとそこからひろがった。
「とっ、とととっ」
と、同時に真里は体勢をくずして2、3歩つんのめった。
もともと小柄で非力な真里のこと、遠心力のついた鉄パイプを
自力で完全には制御しきれなかったのだろう。
ひとみはそのまま、その場にペタンと尻餅をついてしまっていた。
…ウ、ソ、でしょ…?だって…矢口…さん…いつも明るくて、楽しくて、
おしゃべりで、みんなのムードメーカーで…それで…それで…私にとって、
誰より頼りになる先輩の…
未だ現状を把握しきれていない頭の中で、真里とのいろんな思いでが
グルグルと駆け巡り、渦を巻いて消えていく。だが、それらの情報は
現状に何らの変化をもたらすものでもなかった。
「なんで!」
「ひっ」
突然の叫び声に思わず悲鳴をもらして、ひとみは反射的に顔を上げた。
そこには、記憶の中での顔とは別人のような表情になった真里が、
まるで許されざる罪を犯した罪人を咎めるかのように、
こちらを強く睨み付けていた。
「何でよけたのっ!せっかく恐くないようにイッパツで決めてあげようと思ったのに!」
「な、な、なな、」
不意に涙で視界が霞んできた。
悪い熱病にでも罹ったかのように体の震えが止まらない。
息が喉にからみ、舌はしびれ切ってうまく言葉を出すことができない。
「何、で…」
震える声でようやくそれだけを口にしたひとみが見たものは、
真っ青な顔で目にいっぱいの涙を浮かべた真里が、
再び鉄パイプをきつく握り直す場面であった。
「ごめん…ごめんっ…あたし、どうしてもソロでやってきたいんだ……だからぁっ」
その言葉を聞くか聞かないかのところで、ひとみは突然
何かに弾かれるかのように素早くその場から立ち上がっていた。
それはもはや彼女自身の意思ではなく、何かもっと大きなものに
突き動かされているような感覚だった。
そのまま自分でも呆れるほどのスピードで、逆の方向へとターンして
走り出す。すぐ背後から、鉄パイプが地面を叩くボコンという鈍い音と、
「よしざわぁぁぁ!」
という真里の半ばヒステリーじみた金切り声が響き渡った。
…な、何コレ?何だっけ。何で私たち、こんなことしてるんだっけ?
…呼んでる、矢口さんが呼んでる。
…ああ、でも走らなきゃ。急がなきゃ間にあわんDAY。だってそうっす、そんな気がするっす。「急がばまわれ」と言うけれど…
…走る?どこへ?どこまで行けばゴールなの?
様々な思いがひとみの脳をかすめていったが、それらとは無関係に
彼女の手足はカクカクと全速力で猛ダッシュを続けた。
ひとみの中にはすでに、これが実際にはケガのない
ただのゲームであるという意識はなかった。
追い付かれたらきっと殺される。
逃げなければ…とにかくこの場から早く逃げ出さなくては。
「…白、黒、白、白、」
不意に引きつった口から、自分自身にすらよく意味のわからない
うわごとのようなつぶやきが漏れてきた。
もはや、自分が今どこをどのくらいの間走っているのかもわからない…
すでに彼女の頭には時間や空間などという概念は存在しなかった。
歩を進めるごとに自身が右足で踏んでいく地面のタイルの色。
それが、今のひとみが認識できる外界の情報の全てだった。
…白、白、黒、…ここは砂場で……地面の緑。
と、その時突然、片目の視界が何かネットリした生暖かいものによって
ふさがれた。それは、先程の鉄パイプの打撃によって切られた傷から
にじみ出した血だったのだが、当然、正気を失っているひとみに
そんなことがわかろうはずもない。
「あっ」
短い叫びとともにバランスを崩して大きく前のめりになった体は、
しかし空中で壁のようなものにぶつかり、支えられるかのような
奇妙なポーズで静止した。何もないはずの前方の空間を
パントマイムのようになで回してみると、確かに…奇妙な表現だが、
そこを区切りにして目の前に透明な壁が立ちふさがっているようだ。
…なぜ?
と思うよりも早く、彼女は激しい恐怖の虜になっていた。
…じょ、冗談じゃないよっ、早く、ここから逃げないとなのに!
「だ、だ、誰かぁっ!」
ひとみは透明な壁にカエルのようなポーズで貼り付いたまま、
壁の外に向かってありったけの声を振り絞った。
そこには廃墟のごとくに何の人影もない、茫洋たる街の光景が
広がっているのみだったが、それでももう、彼女にとっての救いは
その空間にしかなかった。
「た、たすっ、助け…」
「無理だよ」
決死の叫びを途中で冷たくさえぎられ、後ろを振り返ったひとみは
顔を血と涙と汗でグシャグシャに濡らしたまま、表情を凍り付かせた。
そこには、あるべきはずの誰の姿も見えなかったのだ。
…物質の、透明化。
改めて真里の能力を思い出したひとみの背中を氷塊が滑り落ちた。
46 :
名無し娘。:2001/06/03(日) 03:11 ID:5naG6ZOU
おもしろいっす。毎日チェックしてます。
がんばれ、よっすぃ〜
47 :
名無し娘。:2001/06/04(月) 02:45 ID:mbbY40vE
>>46 (0^〜^0) <ありがとう。頑張るっす
そういや全体のタイトルつけなきゃな…じゃ、「アウト・ブルーズ」で。
48 :
:2001/06/04(月) 02:46 ID:mbbY40vE
「…その壁はあたしの能力じゃない。たぶん、『仮想空間』ってヤツの境界なんだと思うよ」
声は静かに続いていたが、その声を出しているはずの
真里の姿はどこにも確認出来ない。
…ものを透明にする能力。
ひとみは何度か、真里がマジックよろしく小物を消して
遊んだりしていたのを目撃したことがあった。
しかし、その能力がまさか自分に向けて、
ここまでの悪意をもって放射されるとは思いもしなかった。
相手に気付かれずに必殺の一撃を振るう…
たしかにその目的においては、この能力は十全たる威力を発揮するだろう。
しかし、小物ならまだしも、自分自身を着衣や武器ごと消し去るには、
それこそ莫大なパワーを必要とするに違いない。
それだけの精神力を人に向けての殺意へと転換できる心…
まして、相手は自分と最も親しかった後輩なのだ…というのは
一体どういうものなのだろう?
ひとみには今の今まで、どうしてもそのような『心』の存在を
信じることが出来なかった。
しかし、現実の本質とはそもそも非情なものだ。
いくら逃げたところで、真里がその『心』をもって
自分を『殺そう』としていることに変わりはない…。
「企画書読んだでしょ?『仮想空間』の中は外部の現実世界とは一切遮断されるって…助けなんて来ないよ…。だから…だからもう、いいかげんあきらめな…?」
…ああ…もう、ここまでだ。
陰々と響く声を耳にしながらひとみはそう思った。
と同時に、まるで熱にうかされるかのように、ある種の感情が
自分の中からムクムクと頭をもたげてくるのを感じた。
…こうなったら…こうなったらもう…
「もう覚悟しなよ…お願い…絶対痛くないようにするからさ…」
…そう、『覚悟』だ。…『覚悟』を決めなきゃ…矢口さんがどうしてもやる気だっていうんなら…
それは半ば開き直りに似た感情なのかも知れなかった。
このまま、ただこうしてやがて訪れる『死』を待つよりは…。
ゆっくりと、しかし確実にこちらへと迫りつつある
真里の微かに震えた声を聞きながら、ひとみは乱暴に片目の血をぬぐうと、
前方を強くにらみつけた。…その方向のどのあたりに真里がいるのかは、
相変わらずとして全くわからなかったが。
…こうなったらもう使うしかない。私の『能力』を。
…自分に与えられたこの『能力』を使えば、おそらくわずかであるとは言え、
真里に直接的に傷を負わせることになってしまう。
ひとみが今まで躊躇していたのには、あるいは無意識にそういう思いが
頭の中にあったためなのかもしれなかった。しかし、絶望の崖っぷちまで
追い込まれたことによって、もはやその能力を封印していた罪悪感にも似た
心理的なタガは外れてしまっていた。
…そう、やられる前にやる。たったそれだけのことなんだ。何が悪い?正当防衛じゃん!
一瞬だけ目を閉じて、精神を集中させる。
フワッと周りの空気がわずかに動く気配がした。
…よし、いける。
とはいえ、状況の全てを考慮して『能力』をふるうことができる回数は、
わずかにこの1回のみであろう。それゆえ、この攻撃はどうしても
成功させなければならなかった。
これが致命傷にならなくても…極端に言ってしまえば、
全くケガを負わせることができなくても、相手に動揺を与えられれば
それでいい。先程考えたとおり、真里の『自分をも透明にする能力』には
おそらく莫大な精神力と集中力が必要なのだろう。それをほんの一瞬でも
解除することさえできれば…素の状況で、気を張って面と向き合えば、
あのおぼつかない鉄パイプの一撃や二撃くらい、何とかうまくかわせるかも
しれない。その隙にふところに潜りこんで…
ひとみの希望はそこにあった。というより、もう「そこにしかなかった」と
言うほうが正しいだろう。祈るような気持ちで静かに目を開くと、
前の地面に横たわる砂場に向けて意識を集中させる。
どこから来るにしろ、自分の側まで近付くにはこの砂場の上を渡ることが
必要だ。そして、姿が透明になっていようといまいと…
ひとみが待ち望んでいたものがやって来たのはまさにその瞬間だった。
シャリ、というほんの微かな音とともに砂地が小さくくぼむ。
…そう、空を浮いてくるのでもないかぎり、この柔らかい砂の上を通る際、
どうしても残さざるを得ないもの…足跡。
ひとみはまさに絶妙のタイミングで、その空間目掛けて、全神経をキリキリと引き絞るような緊張とともに、己の『能力』を一気に開放した。
51 :
名無し娘。:2001/06/05(火) 23:15 ID:FIfSqvOw
すみません。
>>33に気付かずに小説総合スレッドで紹介してしまいました。
(小説総合スレッドの者です。32さんとは別人です。)
52 :
名無し娘。:2001/06/06(水) 02:41 ID:hNeQGCXE
>>51 あ、別に気にしないでください。
更新情報とかもそのまま載せ続けてもらって構わないです。
…とはいえ、いまだキチンと着地するのかどうかも決まってませんが。
53 :
:2001/06/06(水) 02:45 ID:hNeQGCXE
瞬間、その場の空気がキィン、と金属をかみあわせたような音を立て、
激しく渦を巻いた。砂場の砂はいっせいにその場に吹き上げられ、
小さなトルネードになって荒れ狂った。
いや、厳密に言うなら吹き上げられたのではなく、
その場に発生したわずかな真空のスキマに吸い上げられたのだが。
と同時に、空気の刃がいっせいに猛烈な勢いで、そこにあった物体に
襲い掛かった。…俗に言う「カマイタチ」現象。
これがひとみの『能力』によって発生する副次的な攻撃の正体である。
自分自身で「致命傷を与えるには至らない」と評価するくらいの
威力しかないにせよ、その空間内にいるものにとってこの被害を避ける術は
皆無に等しいだろう。現にボコン、と凄まじい音を立てて、
何かがその砂ボコリの中に跳ね上がる気配があった。
「ああっ」
音と同時に上がった小さなうめき声は、しかし真里のものではなかった。
攻撃は…失敗した。
ひとみは、余りの集中にともすれば遠のいてしまいそうになる意識を
必死でこらえながら、わずかに唇をかみしめた。
全て一瞬の出来事であった。
アリジゴクの巣のようにすり鉢状に窪んだ砂地と、その中心にゴロンと
横たわる、ズタズタに引き裂かれ砂まみれになった真里の厚底ブーツ。
…『足跡を読む』作戦は、完全に読まれてた。ブーツを脱いで砂の上に投げ、
足跡をつけることによってわざと砂場に入ったフリをしたんだ。
その場に残されたものを呆然と見つめるひとみの耳に、
突然かすかに小さな笑い声が聞こえてきたような気がした。
ビクリ、と反応し顔を振り上げた彼女に、
もはや2発目の『能力』を使えるだけの猶予は残っていなかった。
55 :
51:2001/06/06(水) 23:18 ID:YBzCTvWw
>>52 ありがとうございます。それでは更新情報を掲載させていただきます。
56 :
名無し娘。:2001/06/07(木) 02:45 ID:4KKaA4T.
>>55 はい。よろしくお願いします。
それにしてもテンポ悪ぃな…
今日の更新は明日の分とまとめて読むとちょうどいいかも。
57 :
:2001/06/07(木) 02:47 ID:4KKaA4T.
…実際、真里はわずかに笑っていた。
思わず小さく声が漏れていることに気付き、あわてて口を押さえるが
顔のゆるみはこらえようもない。
…これでまずは一勝、と。
『透明化』の能力は未だに持続している。相手の無防備な脳天めがけて
鉄パイプを思いきり叩き込むだけの時間には十分だ。
静かに砂場を迂回して、ゆっくり側まで近付いていくと、
ひとみはまだ呆然としたようにその場に立ちすくんでいた。
そんな元自分の教え子だった後輩の姿を見て、真里の心は一瞬だけ
チクリと痛んだ。
…ごめんね、よっすぃ。でもね、『娘。』は馴れ合いの仲間なんかじゃなくって、最初からずっと敵同士なんだよ。だから…さよなら。
しかし、鉄パイプを振り上げようとしたその手は次の瞬間ピタリと止まった。ひとみが不意に顔を真直ぐこちらに振り向けたのである。
…え?
思いがけない出来事だった。まるで予想もしなかっただけに、
真里は少しその事態にうろたえた。
「攻撃は」
ひとみはそんな真里を真正面から見据えるかのように視線を一点に
固定させながら、やがてつぶやくように口を開いた。
「たしかに失敗でした。でも能力を使った『効果』はありました。…狙っていた『効果』は」
…何?何言ってんの?
まだ『透明化』の効力は続いている。確認するまでもなく自分自身で
よくわかっていることだ。…ということは可能性は一つ。
…その手にはひっかかんないよ。
真里は、すかさず鉄パイプを弓なりにふりかぶった。
と、ひとみは急に顔に緊張を走らせ、キョロキョロと落ち着かなく
左右を見渡し始めた。
…やっぱ、ハッタリじゃん。
こちらの位置がバレているなどということはありえない。
真里はホッとしたように安堵の笑みを浮かべ、次の瞬間、
ひとみの脳天めがけて狙いあやまたず、必殺の一撃を振り下ろした。
…今度こそ、ばいばい。よっすぃ。
ブゥン、と空を薙ぐその音がひとみの耳に
聞こえただろうか、それは真里にはわからない。
しかし、その刹那、不意に視界からひとみの姿が消え去った。
当然、鉄パイプはまたも何もない空間に振り下ろされ、
再びむなしく地面を叩いた。
「なっ、」
…よけられた!?
そう感じる間もなく、次の瞬間ズシン、と鈍い衝撃が真里の体を貫いた。
「ぎゃっ」
ひとたまりもなく、小さな叫び声とともに真里は地面に横倒しに転がった。
と、同時にズシリと重いものが上にのしかかってくる。
「てめぇっ、よし、ざわっ、」
目を開けてすぐ視界いっぱいに、今にも泣きだしそうに歪んだ
ひとみの顔を発見した真里は、喉の奥から切れ切れにうめき声を絞り出した。
「どうやって、」
…あたしの位置を?
そう聞こうとした視界の隅に、ふと、ひとみの体をはねのけようともがく
自分の腕が目に入った。瞬間、真里の体からさっと血の気が引いた。
…砂?
いまだ透明であるはずのその部位には、服のシワの間に付着した砂によって
うっすらと白いマダラ模様が描き出されていた。
いや、腕だけではないだろう。きっと肩や頭にも砂は積もっていて、
かすかに上半身の輪郭を浮かび上がらせているに違いない。
…まさか、あの『能力』を砂場に向けて使ったのは、最初からこうして砂を舞い上げて、あたしの体を浮き上がらせるために?
「ち、くしょうっ」
真里は死にもの狂いに手足をバタつかせた。
そのはずみで鉄パイプははるか向うへとカラカラ音を立てて
転がっていったが、もうそんなことに構っている余裕はなかった。
…何か方法があるに違いない。吉澤が砂を利用してあたしの能力を破ったみたいに、何かこの状況を逆転する方法が。
この状況から取ることの出来るいくつもの行動のうちのたった一つ。
それは確かに存在するのだろうが、すぐに見つけだすには
あまりに状況は切迫しすぎていた。
しかしそのとき、地面に伸ばした手にコツンと何かが触れた。
…これだ!これしかない!神様はまだあたしの味方だ!いける!
もう何も考えられなかった。真里はそれを必死にたぐり寄せると、
ひとみの頭目掛けて力いっぱい横殴りに叩き付けた。
その場に転がっていたもの…それは、砂場で脱ぎ捨てた
ズタズタになった厚底ブーツだった。材質こそラバーであるとはいえ、
名前のとおりただの靴ではない、厚味25センチほどもある
鈍器に等しい物体だ。
それは見事にひとみの側頭部に命中し、その体勢を一瞬グラリと崩した。
と同時に、真里を押さえ付ける力がわずかに弛んだ。
…今だ!このスキに抜け出して、今度は体に付着した砂ごと『透明化』っ…
しかしその瞬間、ひとみの手が棒のように伸びて、
ガッシリと真理の咽に食い込んだ。
それはひとみ自身も認識しえないような半ば反射的な行動だった。
「ぐうぅっ」
真里の咽の奥からむせるような呻きが洩れた。
と同時に『透明化』の能力は効果を失い、スーッとその場に
苦悶の表情を浮かべた彼女の姿を浮かび上がらせた。
「く、そぉっ」
見上げると、ひとみの目には狂ったような炎がゆらめいている。
額にはびっしょりと脂汗が浮き出し、さっきのブーツでの打撃のせい
だろうか、額の傷が再びパックリと口を開け、顔の半分を血で染めていた。
実際、ひとみには何かを考える余裕はなかった。自分の手が相手の首を
締め付けているという意識すら、どこか感覚の遠くに飛び去っていた。
…手を離したら逃げられる。
もはやその思いのみが彼女を支え、その腕にまるで別人のような
すさまじい力を与えていた。咽にかかった手がキリキリと引き絞られる。
狂ったように振り回される真里の手が顔や腕にいくつもの引っ掻き傷を
作ったが、そんな必死の抵抗もものともしなかった。
「…ち、くしょうっ、てめえっ、よしざわっ、」
次第に抵抗の弱々しくなっていく真里の口から、切れ切れに咽にゴロゴロと
絡むようなくぐもった声が絞り出された。その顔は紫色に膨れ上がって、
以前の可愛らしい面影は微塵も残っていなかった。
「てめえみてぇな、何の個性も、ねえヤツがよぉっ…ソ、ソロでなんか、やってける、ワケ…」
そこまで呻いたところで、彼女の言葉はふっつりと途切れた。
しばらくして、その小さな体に1、2度だけ大きな痙攣が走ると、
それきりさっきまでのもがきも、水を引くようにどこかへ消えていった。
【第一戦 終了/勝者:吉澤ひとみ】
それでも、ひとみは手の力を抜かなかった。
それが生き延びるための唯一の手段であるかのように。
…ようやく、自分の手が真里の咽にかかっていることに気付き、
石のように硬直した指を一本一本はがすようにしてほどいたのは、
一体どれほど後だっただろう。もはや、彼女は時間の感覚さえ失っていた。
「…矢口、さん?」
ややあって、ひとみは震える声で相手の名を呼んだ。しかし、その真里の
表情は奇妙に弛緩したまま凍り付き、カッと見開いたままの目からは、
もう意識の輝きを見てとることは出来なかった。
「やぐ、」
かすれた声でもう一度そこまで口にした瞬間、ひとみの背骨に
何か貫かれるような衝撃が走った。とたんに全身を悪寒が這い回り、
彼女の全存在を揺るがすかのような震えが体の奥からわき上がってきた。
…死ん、でる。
…殺した。私は、殺した。人を。矢口さんを。私の『教育係』を。私の大事な…
弾かれるようにその場を立ち上がったひとみは、しかし、まるで
この世から重力が失われたかのような圧倒的なめまいに襲われ、
すぐさままたその場にへたり込んだ。
と同時に、すさまじい勢いで咽の奥から胃液が逆流してきた。
たまらずその場に手をつく。と同時に、目の前が真っ暗になった。
…いっそのこと、内臓全てを命とともに外に吐き出してしまえればいい。そしたら、どんなにか楽になれるだろう。
吐き出せるものが全てなくなり、なおもわき上がる嘔吐感にむせ返りながら、
ひとみは思考も感情も欠落した、寒々とした意識だけでぼんやりそんなことを
考えていた。
…ピピピピ、と鳴り響く電子音。
何の音?
どこから?
ふと、左手の小型ナビの画面が淡く点滅しているのに気付いたひとみは
ノロノロと体を起こして、不意に目を見開いた。
ない。
目の前にあったはずの真里の体が跡形もなく消え去っている。
呆然とした頭の中に次に飛び込んで来たのは、いまだ電子音を発し続けている
小型ナビの液晶に浮かんだ、『You win!!』の文字だった。
これは一体何だというのだろう。その状況を理解しようとして、
ひとみはさらに長い時間をその場で費やした。
…そうだ、これはゲームだったんだっけ。
…ゲーム?っていうか、こんなゲーム、アリ?
ふと、自分の額に手を当ててみる。
…ケガしてない。そうだ、『仮想空間』の中では仮に死んだとしても現実は何もないって…
…え、でも、矢口さんはどこに…
…
再び緩やかに回転し始めた意識の片隅で、額から下ろした自分の震える手が
ゆっくりとナビのボタンを押すのを、彼女はまるで他人事のように
眺めていた。
その操作でナビの電子音は止まり、またどこか違う場所を示した地図が
表示される。ひとみはそれを一瞥するとゆっくりと立ち上がり、
フラフラと地図にそった方向へと歩き始めた。
そう、おそらく世界の大部分は大掛かりな嘘で出来ているのだ。
先程まで自分に向けられていた鈍色に輝く殺意も、今も強張る自分の手に
微かに残った真里の咽のやわらかい感触さえも。
だとしたら、もし今、自分を辛うじて世界とつなぎとめるものがあると
するならば、それは見も知らぬ方向に向かって確かに踏み出す自身の足…
ただそれだけなのだろう。
「ふ、ふ、ふふ」
不意にひとみの口から断続的に息が漏れた。
そこで初めて彼女は自分の顔が奇妙な具合にひきつっていることに気付いた。
笑ってる。
…私、今、笑ってる。だって、笑うしかない。そうでしょ?
不意に何かに足をとられ、ひとみはその場に転倒しそうになった。
泥のような疲労にくるまれながら、それでも彼女の足はその歩みを
止めようとはしなかった。
63 :
名無し娘。:2001/06/12(火) 01:43 ID:SAUXwRVI
おや、2回更新されてる
64 :
名無し娘。:2001/06/12(火) 02:47 ID:dKBgW6Oc
>>63 今日はちょっとお休みで。
次回「星くずのひとつの気分はこんな感じ」
65 :
:2001/06/13(水) 02:45 ID:zh0dk4Pk
ブゥゥゥゥン、という機械音が微かにその部屋の空気を震わせていた。
沢山のモニターと、その前を行き交うスタッフ達。
それをぼんやりと眺めながら、少女は所在なげに薄暗い部屋の隅で
立ち尽くしていた。
モニターの中には人影はなく、ただ街角や公園、川べりなどの
日常の一コマが様々な角度から静かに映し出されているにすぎない。
しかしその光景は、カメラやモニタを通じてもはっきりわかるほどの、
ヒリヒリとした緊張感に包まれている。
それはきっと、あと数時間もしないうちに、この穏やかな風景の全てが
余す所なく血なまぐさい戦場と化すことになる、という事実と
無関係ではないのだろう。
そして…どのくらい後かはわからないが…自分自身も確実にこの中の
光景のひとつに身を投じるはめになるのだ。
少女は少しだけ身を震わせると、モニターからうつむくようにして
目をそらした。
と、おもむろに隣の部屋と繋がるドアが開き、スタッフの一人が、
少女の名前を呼びながらこちらへと近付いてきた。
「…お待たせしました。じゃ、まず、これがメンバー全員のわかってる分だけの能力の一覧表、で、こっちが対戦予定表です」
少女は差し出された書類を無言で受け取り、素早く目を走らせる。
「公式発表ではランダムに当たる、ということになってますけど、実際はこのトーナメント表通りに試合が運ばれることになります」
その表の中に自分の名を見つけた彼女は、自分と当たる可能性のある
幾人かのメンバーの顔を思い出し、ふと一瞬だけ顔を曇らせた。
そんな彼女の様子をどう解釈したのだろう、その若いスタッフは
なだめるような笑みを浮かべると、早口で説明を続けた。
「あ、別に心配はありません。どういう結果が出て、誰に当たることになろうと、あなたが確実に有利に試合を運べるよう、そのへんの『能力』差等はちゃんと調整されてますんで。…それとあと、これは対戦予定地…というか、『仮想空間』設置場所の地図ですね。どこでどの試合が行われる予定なのか記されてますんで、いちおう参考にしてください。…あ、当然、これ全部スタッフ用の極秘資料なんで、扱いには十分気をつけてくださいね」
「…わかりました」
説明を聞き終えた少女が小さくうなずくと、今度は別のスタッフが
彼女の目の前に割り込んできて、
「それと、これを」
と靴箱ほどの大きさの黒い箱を差し出した。
「つんくさんからのプレゼントです」
少女はそれをしばらく見つめたあと、やがて静かに手を伸ばし受け取った。
瞬間、ズシリ、と重い感触が手のひらに伝わってくる。
「あなたの『能力』があれば大丈夫とは思いますが、諸事情を考慮しまして…まあ、念のためということで」
スタッフの言葉にただ沈黙で応えながら、少女は自分の手の中にある
黒い箱をもう一度ゆっくりと見つめ直した。
モニタを光源とした淡い光に照らし出されたその端正な顔には、
妙に冷え冷えとした表情が浮かんでいた。
次回「あげぱん、らいすっき」
68 :
:2001/06/15(金) 02:44 ID:fNCE8tsc
「…ん?」
ふと横から注がれる熱い視線に気付き、
飯田圭織は隣に座るその小さな少女の方へと顔を向けた。
「どうした、辻?揚げパンもう一個ほしいの?」
その大きな瞳に射竦められた少女…辻希美はサッと目を伏せると、
両手で持ったパンを潰れるくらい強く握りしめながら、
ほんのりと頬を染め、すごい勢いでふるふると首を横に振った。
「じゃ、何だよぉ〜」
拳を緩く握って軽く小突くような真似をしてやると、ややあって、小さく
「…だって…いいらさんの目、とってもキラキラしてて…キレイだなぁ、って思って」
と、恥ずかしそうなつぶやき声が聞こえてきた。圭織が何度注意しても
ちっとも直らない、いつもどおりの舌ったらずな発音だった。
「…何だよ、こいつぅ〜」
思わず頬が弛んでくるのを感じ、首に手を回して引き倒すように
抱き寄せると、希美は『てへてへ』とでも形容するのがピッタリの
笑みを浮かべて、こっちにしなだれかかって来る。
そのまま嬉しそうに甘えてくる彼女を腕の中に抱え込みながら、
圭織は陽光を反射してキラキラと輝く川を穏やかな微笑みとともに
見つめていた。
誰もいない川べりのベンチの上で楽しそうにじゃれあうこの二人を、
知らない人が遠くから見たなら、きっとピクニックに来た仲の良い姉妹の
ように見えることだろう。
しかし、実はこの場所に2人がこうして一緒にいるというそのこと自体、
果てしなく悲しく、また大きな意味を持つ暗示となっているのだ…
まあ、果たしてそのことに本人達自身も気付いているのかどうか、
疑わしいところだが。
ともあれ今は雲ひとつない青空の下、ポカポカと暖かい初夏の陽気が
2人の体を柔らかく包みこんでいた。
そんな中、圭織は急にふと目を細めると、すぐ横に置いてあった
自分の手提げバッグをおもむろにたぐり寄せた。
中には、希美にあげたのと同じ揚げパンがもう一個と、
ハンカチが1枚入っている。
…もお、しょうがないな〜、辻は。
圭織は心の中でそう呟いて、小さな苦笑いを浮かべながらその両方を
バッグの中からこっそりと取り出した。
「…いいらさん?」
ふと、そんな様子に気付いて顔を上げた希美の手から、
食べかけの揚げパンが転がり落ちたのは次の瞬間だった。
「あっ」
まだ一口二口しか齧られた跡のない丸い揚げパンは、そのままころころと
川べりの斜面を転がっていく。希美があわてて立ち上がった時にはすでに
遅く、パンはポチャン、と小さな音を立てて川の中へと姿を消していた。
「あぁ〜…」
プカプカと浮き沈みしながら、たゆたうように流れていくパンを、
希美はまるで大事な宝物を落としてしまったかのような無念の表情を
浮かべたまま、いつまでも目でじいっと追いつづける。
と、その目の前にすっ、と新しいパンが差し出された。
「い、いいらさぁん…」
そのパンを受け取るや否や、真直ぐ胸の中に飛び込んで来ようとした
希美の口元に、圭織は突然さっきのバッグから取り出したハンカチを
ギュッと押し付けた。
「ほら、口の周り汚れてる…服汚しちゃうでしょ」
そのまま、優しく口元をぬぐってやる。
「全く…ちょっとしかかじってないのに、何でこんなに汚すかな〜」
希美はしばらくされるがままに大人しくしていたが、
ややあって涙まじりの鼻声でポツリとつぶやいた。
「ごめんなさい…これ、いいらさんの分なのに…つじ、自分のパン落としちゃった…」
次回「受信良好」
圭織はそんな希美の顔をしばらくさもおかしげに見つめていたが、
やがてクスクスと笑い出した。
「あ〜あ、なんでこんなことで泣くかなあ、辻は〜?」
「ふぇぇ、らって、らってぇ、いいらさんがせっかくくれたのに、落としちゃったぁ…粗末にしてごめんなさい…ふぇぇん、いいらさんの分が、ふぇぇん」
必死で言葉をつむぎだそうとする希美の目から、涙がいくつもポロポロと
転がり落ちる。圭織はもうこらえきれない、といった様子で思いきり
吹き出すと、幼い子供にするかのように、2、3回ポンポンと軽くその頭を
叩いてやった。
「いいんだよ、もとからそれ、辻の分で持って来たヤツだから…あのね、カオリ、辻が川にパン落としちゃうってわかってたんだ」
「…ふぇ?」
キョトンとした表情でこちらを振り仰いだ希美の頭をそのまま優しく
なでてやる。まだ、何を言っているのかよくわからない、といった表情の
希美に向かって圭織は柔らかな笑みを浮かべてみせた。
「カオリね、『未来』が見えちゃうんだ。特に、辻のことなら何だってわかっちゃうんだよ?…それがカオリの『能力』なんだ…」
すると、先程までの涙はどこへやら、希美の顔はパッと明るくなった。
「えっ、本当れすか?なんで?なんでわかっちゃうんれすか?」
「うーん、何ていうか……電波?みたいのが、こう、宇宙から…来て」
「すごーい!やっぱり、いいらさんはすごいれす!」
自分の腕の中でキャアキャアとはしゃぐ希美を見つめる圭織のその目は、
しかし少し悲しげな光を帯びていた。
…そう、わかってたんだよ辻。最初っから。カオリと辻が当たるってことも…だから、今日はちょっと頑張って、揚げパン作って持って来たんだよ。だって辻、揚げパン大好きだもんね?…
とその時突然、今度は圭織の目の前に半分にちぎられたパンが差し出された。
いきなり思考を中断され、驚いて向けた視線の先には、希美が満面の笑みを
たたえていた。
「はんぶんこしましょ?」
「…いいよ、辻一人で食べて…」
「らめれす!」
その剣幕とはうらはらな希美の寂しげな視線に射竦められて、
彼女はハッとなった。
「いいらさん、かなしそうれした…だから…」
…ああ、そっか…ごめん辻。カオリがこんな顔してちゃ、いけないよね。
ひょっとしたら、希美も同じ能力者なのかも知れない、と圭織は思った。
自分が『予知』の電波で希美のことが何でもわかってしまうみたいに、
希美には自分の心の中を覗くことの出来る『能力』があるのかも知れない、と。
だから、彼女は悲しみを心の一番奥に押し込めると、いつもどおりの笑顔で
精一杯希美に向かって微笑みかけた。
「…わかった。じゃ、またあのベンチに戻って食べよっか?」
「はい!」
希美の顔に太陽のような笑顔が戻るのを見つめながら、
しかし圭織の心の中の悲しみはその大きさを増すばかりだった。
そんな彼女の目に、ふと希美の耳の小さなヘッドホンがとまった。
おそらくウォークマンのものであろうそれは、この場で2人が会った時から
ずっとその耳にかけられていたものだったが、そこからは未だに小さく
シャカシャカと音が洩れているようだ。
「ね、さっきからソレ、何聞いてんの?」
自らの気分を変えるつもりで、またちょっとした好奇心も手伝って、
圭織は何気なくごく自然にそう口走った。しかしその瞬間、
彼女は自分の背筋がサッと凍り付くのを感じた。
…しまった。
圭織の目の前にパッと一瞬先の未来が広がり、次の瞬間、絶望で真っ暗に
なった。もはやすでに時は遅かった。希美の顔が目の前でサッと青ざめる。
…ダメ!答えなくていい!答えなくていいよ、辻!
そう叫ぼうとした圭織の目の前で、希美はゆるゆると口を開いた。
「ご、ごとうさんの…ソロ…れす」
そして、もはや完全に笑顔の消えた寂しそうな顔をうつむけて、
つぶやくように、
「いいらさんは…ソロになりたいれすか?」
と口にした。
「つじは…ソロ、やってみたいれす」
あっという間のことだった。しかし、2人の間に流れていた幸せな空気は
この瞬間で確かに大きな変貌を遂げ、今や全く異質の緊張が場を包み込んで
いた。
【第二戦 飯田圭織VS辻希美/スタート】
次回「あなたがいたから」
「そうれした…もともとつじ達、ここにソロ決める戦いをしに来たんれしたよね…」
何も言うことの出来なくなっている圭織にクルリと背を向け、
希美は独り言のように続けた。
「じゃ、始めましょうか?…つじ、いいらさんには負けませんよぉ」
「…………」
「…何か言ってくらさい…あ、そうだ!」
「…………」
「つじが何の能力も持ってないと思ってバカにしてるれしょ?でも、つじ、つんくさんにお願いして武器もらったんれすよ」
「…………」
「…ちょ、ちょっと待っててくらさいね…えーと、これじゃなくて、これじゃなくて…あった!じゃーん、サインペン!」
「…………」
「…名前書くときに便利れす」
「…………」
「…ま、まだつじのこと、バカにする気れすね?こうなったら実力行使れす!くらえ、ののぱ〜んち!」
叫ぶと同時に、希美はクルリと体を返し、小さな拳を真直ぐ突き出した。
それは、圭織の腹部に一直線に狙いあやまたずコツン、と直撃した。
「あぁっ!」
しかし、その瞬間たまぎるような悲鳴を張り上げたのは希美のほうだった。と、体全体が小刻みにカタカタと震え出し、見る見るうちにその目いっぱいに
涙が浮かんで、大粒の雫となってポロポロと溢れた。
「な、なんでよけ…ごめんなさい!痛かったれすか!?ごめんなさい!ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさ…ふぇぇん、ごめんなさいぃ!」
それは実際、まるで力の入ってない、痛くもかゆくもないような打撃で
あったのだが、瞬間圭織の顔が少し歪んだのを見た希美は、
てっきりそれが自分のパンチのせいであると思い込んでしまったらしい。
そんな彼女の様子を辛そうな表情でじいっと見下ろしていた圭織は、
やがて視線を自分の足元にそらすと、独り言のように苦々しげに
ポツリとつぶやいた。
「…ダメだよ…カオリ、やっぱ辻とは戦えないよ…」
しかし、それを聞いた瞬間、希美はまたも呂律の回らない舌で
必死の叫び声をあげた。
「ダ、ダメれす!ダメれす!いいらさんはつじと戦わないとダメれす!」
「何で…何でそんなこと言うの!」
「らって、らってそうしないと、いいらさん、ソロになれないれす!」
「ソロになんて、なんなくたっていい!」
「いやれす!いやれす!」
「…辻のバカぁ!バカ、バカ、バカぁっ!」
カッとマグマのような感情が圭織の中で生まれた。
フツフツとたまぎるそれを腹の底から吐き出すように彼女は叫んだ。
その瞬間、希美はビクリ、と体を震わせ、おびえたように体を縮めた。
その場をシン、と死んだような静寂が支配する。
「バカれも、いいれす」
ややあって、希美は今までとはうって変わった静かな声で、ポツリと
つぶやいた。
「…つじは…つじはホントは、いいらさんが最初の相手でうれしかったんれす…だって、つじはいいらさんとか他のみんなと違って、何にも超能力持ってないから…どうせ負けちゃうから…それなら、どうせだったら、いいらさんに勝ってほしかった…」
そこまで言うと、希美はゆっくりと顔を上げた。悲しげに微笑んだ
その目からは再び滝のように涙がこぼれ落ちた。
「…つじ、バカれすよね?負けるのうれしいなぁ、って思ってたんれすから…」
みなまで聞かずに、圭織は希美を腕の中に抱き寄せた。
お気に入りだったブラウスが瞬時に希美の涙でグシャグシャに濡れ、
台無しになったが、そんなことは気にもならなかった。
「バカ!バカ、バカ、バカ!」
叫びながら、圭織は自分の目からもいつのまにかポロポロと熱いものが
こぼれているのを感じた。その時になってようやく彼女は、
先程の自分の感情の正体に気付いた。そんな耳に、希美の涙と
しゃっくり交じりの声が追いうちのように響く。
「…つ、つじ、いいらさんにいっぱい、いっぱい、いろんなこと教わりました…そのことだけで、いいらさんに会えたことだけで、ひぐっ、つじ、『モーニング娘。』になってっ、今まで、やってこれて、よかった、れすっ、ひぃんっ…」
「バ…バカ、バカ、バカ、バカ!辻の…辻の大バカ野郎っ!」
「バ、バカれすっ、つじは大バカやろうれすっ、うぇぇぇん」
もう何も考えられなかった。2人はその場できつく抱き合いながら、
幼い子供のように声を張り上げ、涙の枯れるまでワンワンと泣きわめいた。
自分の頬を後から後から伝う涙に不思議な心地良さを感じながら、
圭織の中である決意が生まれたのはその時だった。
「辻ぃ」
希美の嗚咽に一段落つくのを待って、圭織は鼻をすすりながら
希美と同じ目線までしゃがみこみ、強い口調で囁いた。
「やっぱ、もうやめにしよ。…逃げちゃおう、こんなゲーム」
次回「午前10時の脱走計画」
76 :
名無し娘。:2001/06/19(火) 03:24 ID:XGuuKrVg
こんな夜中に涙出てきちゃったよ・・・
泣かせるなぁ、ちくちょー・・・
77 :
名無し娘。:2001/06/21(木) 08:30 ID:IkK2lTO2
保全&つづきに期待
78 :
名無し娘。:2001/06/22(金) 02:45 ID:nc78Q2Hc
>>76-77
ありがとう( ● ´ ー ` ● )
「ふぇ…」
それを聞いて希美はキョトンとしたたように目をまんまるく見開き、
再び何かを叫ぼうとしたが、圭織はそれをさえぎるようにして早口に続けた。
「カオリ、マジですっごいムカついてきた!こんな企画考えついた、
つんくさんとかスタッフの人達にも、その人たちに言われるまま
ノコノコとこんなとこに来て、メンバーと戦う気でいた自分自身にも!
やっぱ、だってこんなの絶対おかしいよ!…もう、つんくさんに直接
文句言いに行く。それで、こんな企画今すぐやめてもらう!」
「れ、れも…」
まだ何か言いたそうにする希美の手を取り、半ば無理矢理引っ張るようにして
圭織は歩き出した。その目は強い使命感と怒りに燃えていた。
「カオリ、『娘。』のリーダーだもん。だから、これはカオリにしか
出来ない仕事なんだ。…さ、行くよ、辻!」
希美はしばらく小さく首を傾げてそんな圭織の顔をぼうっと見上げていたが、
やがて一つうなずくと、圭織の手を強く握り返した。
…こうして、この2人による、前人未到とも言うべき、史上最大級に大雑把な
作戦はその幕を開けた。
−−−
「カオリ怒った!こんな企画ソッコーやめさせる!」作戦
作戦目的
このソロ決定企画を破壊し、中止させることが本作戦唯一の目的である。
作戦実行者
飯田圭織・辻希美←オマケ程度
作戦概要
至極単純。ただ一つ、ここからテレビ局まで移動し、プロデューサーである
つんくに直接交渉、圭織のリーダーとしての巧みな弁舌および、個性的かつ
独創的な論理によって相手をうまく丸め込み、企画を急きょ中止する方向で
話をつける。
−−−
…完璧な作戦内容であった。少なくとも2人にはそう思えた。
しかし、読者はすでにお気付きのことと思うが、この作戦の前には
実行以前の問題として、まさに文字どおり大きな障害が立ちふさがっていた。
それは…
次回「No way out」
80 :
名無し娘。:2001/06/23(土) 02:46 ID:.Ln2NM/.
き…消えた…ついうっかり…
鬱だ、氏のう…
81 :
名無し娘。:2001/06/23(土) 04:21 ID:fMDO1/U.
ガンバレ! まだ氏んだらアカン!
「あうっ!」
突然、圭織が悲鳴をあげて額を押さえ、その場にうずくまった。
「いいらさん!?」
そう叫んだ希美も次の瞬間、前方にあった何かにぶつかって
思いきり後ろにしりもちをついた。
「きゃん!」
そのポケットから、ガシャンと派手な音を立てて、さっきのサインペンだの、
MDだの、なぜかビー玉だの、粗雑に詰まったいろいろな小物が辺りに
まき散らされる。
「…っつぅ〜……きゃ!?」
ズキズキと痛む額をかばいながら、それでもなんとか立ち上がろうとした
圭織だったが、今度はそれらに足を取られ、もう一度前方の空間に
思いきり頭をぶつけることになった。ガツン、と鈍い音が聞こえてきそうな
強烈な打撃だった。
「…うぅ〜……」
そのまま両手で頭を抱え、再びその場に力無くうずくまる。
希美が心配そうにこっちに駆け寄って来るのを気配で感じながら、
圭織はしばらくの間、激痛のあまり立つことはもちろん、顔を上げることすら
出来なかった。
「だ、だいじょうぶれすか、いいらさん!」
「……つ、辻〜!…も〜、ポケットの中に何でも入れんのやめろって言ったじゃん!…いった〜……」
ようやくそれだけを口にすると、希美はシュンとなった様子で小さく
「ごめんなさい」
とつぶやいた。しかし次の瞬間、パッと笑顔に変わると、
「でも、いいらさんもウォークマンもぶじでよかったれす」
「…ウォークマン〜?」
「お姉ちゃんから借りたMDウォークマン、壊してしまうとこれした。てへてへ」
「……あんたねー…」
と、そこまで叫んで、ふと圭織は何かに気付いたように顔をひそめた。
身を前に乗り出し、手を伸ばして、前方の空間をゆっくりと払うように
してみる。すると、その手は空間のある地点を境に、突然何かに
つっかえるようにして弾き返された。何度試してもそこから先には
全く進ませることが出来ないようだ。
隣で希美が自分を真似て同じように試しているのを横目で見ながら、
圭織はその空間に手をついたまま、無言でゆっくりと立ち上がった。
すぐさま、希美がそれを真似て立ち上がる。そのポーズのまま、
しばらく2人は空間の先をボンヤリと見つめていたが、やがて希美が
不安げな表情で圭織のほうを振り仰いだ。
「…何れすか、コレ?透明な壁があるみたい…」
それでも、圭織は何も答えずただ一点を見つめながらジッと唇を噛んでいる。
そのあまりの真剣さに希美もそれ以上何も言うことができなくなり、
しばらく、凄まじい緊張と静寂がその場の空気を縛り付けた。
が、どのくらい経った頃だろうか、不意に圭織は突然泣きそうに顔を
ゆがめると、
「…チクショーっ…!」
と叫んで、見えない壁を思いきり蹴りつけた。
「……こんなの…こんなのヒドいよ…」
それだけ口にすると、両手で顔を覆い小さく嗚咽を洩らす。
「いいらさん?…いいらさん?」
突然の圭織の異変に、希美は最初、何が起こったのかわからない、という風に
ただオロオロと戸惑うばかりだったが、やがて何か思うところがあったのか、
「…だいじょうぶれす、つじにまかせてくらさい」
と、親の仇でも見るような目で、さきほどの圭織のように前方の空間を
強くにらみつけた。
「つじもそろそろ超能力を使えるようになれる気がします。こんな壁、すぐこわしちゃいますから!」
そう叫ぶと、透明の壁に手をつき、顔を真っ赤にして
「たぁーっ!」
と力みはじめる。はたから見れば笑ってしまうような構図だったが、
希美のその目は果てしなく真剣だった。
「ふーっ!えい!やぁーっ!」
そんな希美の姿をかすんだ視界に映しながら、圭織は再び涙が止めどなく
溢れてくるのをこらえることが出来ず、ただただ首を横に振った。
…違う、ダメだよ。辻、ダメなんだ。どうやってもその壁、カオリたちには破ることが出来ないんだ…。
圭織がさきほど『予知』で確かめた未来…いくつもの可能性に枝別れした
その中には、しかし『2人の脱出』につながるものは一つもなかった。
…ということは、つまり…
作戦、失敗。
…そしてそのことは同時に、どうしても避けては通れない悲しい運命を
2人に再確認させることとなった。
次回「白あげて、あげません」
85 :
名無し娘。:2001/06/27(水) 03:01 ID:wflGSr3I
とうとうその時が来たのか。
86 :
名無し娘。:2001/06/28(木) 03:37 ID:gC9UfzSM
保全
87 :
名無し娘。:2001/06/29(金) 02:48 ID:mnvWTZYI
( ´ Д `)<ふぁ〜、最近眠いよう〜。予定の半分しか書けなかった〜。
でもいちおう更新するね〜〜
まぶしいほどに照り付けていた太陽がふと雲に隠れ、
辺りの明度を1トーンだけ下げた。
先程までさんざん奇声を張り上げていた希美も今は、
その努力が無駄であることをようやく認めたのか、
『壁』に手をつき、うつむいたまま微動だにしなくなった。
「…ごめんなさい……つじ、やっぱり役立たずれす…」
希美の震える声を、圭織は泣きつかれてボンヤリとした頭で
聞くともなしに聞いていたが、突然『予知』によって見えた
希美の次の行動に、ハッとして顔をふりあげた。
いつのまにか希美の手には、小さな折り畳みナイフが握られていた。
パチン、と小さな音とともに、ナイフの刃が開いた。
「ちょっ…何してんの…?」
「でも、やっぱりこれでよかったんれすよ」
圭織を無視して、熱に浮かされたかのように希美は早口でしゃべり続けた。
その瞳はフラフラと危うげに宙をさまよい、何も映してはいなかった。
「つんくさんの言ってたとおり、きっと『超能力』ってのは心の力なんれす…。だから、これだけ一生懸命やっても何の『能力』も出せないつじは、やっぱりどっかで『この勝負に負けるべき』だって、そういう風に自分でも思ってたんれすよ…」
「…辻、わかった。だから、落ち着こ?…ね?…そのナイフを下ろして?」
「だって、もし脱走に成功しちゃったらそれは2人とも失格になっちゃうってことれしょ?…でも、いいらさんには未来が見える能力があるじゃないれすか…それって、芸能界で生きていく上でものすごい素質があるってことだと思うんれす…」
「辻、いいから!まず、ナイフをしまいなさい!危ないでしょ!」
「…やっぱり、そんなのダメれすよ…『娘。』の中でも、最後にソロの舞台に立つのはいいらさんでなきゃいけないんれす。いいらさんの相手がつじなのも、神様がきっとそう決めたからなんれす」
「つ、じ、」
圭織は相手の名前を叫びながら、ひどい目眩を感じていた。
「…つ、つじはずっと、いいらさんのこと応援してます。ソロ…頑張って…くらさい」
目の前がストンと暗くなり、その闇がゆっくりと渦巻いていくような感覚…
この闇は一体何に由来するものなのだろう?もはや希美の表情すら見えない
漆黒の中で、しかし圭織の耳は確かにその言葉を聞いた。
「…さよなら」
瞬間、圭織の体はパッと何かに弾かれるように跳躍した。
その先には、震える手で今にもナイフの切っ先を自分の喉元に
突き立てようとする希美の姿。
そのまま、2人はもつれるように地面に転がりこんだ。
小さく赤い雫が草の上に滴々と散った。
90 :
くそったれ娘、:2001/07/01(日) 01:00 ID:S3LrEHDA
( ´D`)y-~~<晒しage
91 :
名無し娘。:2001/07/03(火) 00:53 ID:o0AAY5so
hozen
92 :
名無し娘。:2001/07/04(水) 04:17 ID:eBx2eGnc
続きがきになる!
作者さんがんばって
93 :
名無し娘。:2001/07/05(木) 02:46 ID:3k9KYAh2
新潟PHASE2DAYS逝ってきた。
ごめん、更新はもうちょっとだけ待ってください。
ブラウザが壊れてブックマークなくしてた…
94 :
名無し娘。:2001/07/05(木) 02:50 ID:D2vTbLEE
おーいえー
待ってるよ〜。
95 :
名無し娘。:2001/07/06(金) 03:19 ID:KfveezJQ
スレ整理されるらしいので保全
右手に走る稲妻のような激痛。
その痛みに背を押されるように圭織はガバッと身を起こした。
掌がナイフによってザックリと割れ、血がドクドクと溢れ出していたが、
そのこと自体は彼女にとって微々たる問題でしかなかった。
…そんなことより!
目をカッと見開いてこちらを見つめている希美の視線を感じ、
あわてて顔を振り上げる。パッと見た感じでは、希美の体には
どこにも傷は見受けられなかった。
「…よかった…」
意図せず、そんな呟きが口から洩れた。と同時に、何か得体の知れない
モヤモヤとした感情が、体の奥底からわき上がってきた。それは、水に
墨汁が広がっていくように、一瞬で圭織の心を真っ黒に染め上げた。
「こ…の、バカぁっ」
叫ぶと同時に手が出ていた。パチィン、と甲高い音がして…
気付くと圭織は、希美の頬をケガをしていない左手で、思いきり
張り飛ばしていた。
「何であんたはっ、すぐそうやって勝手なことばっかっ、カオリの気も知らないでっ」
もう自分では止めることの出来ない感情の奔流を叫びに変え、圭織は
何度も何度も希美の頬を打ち続けた。それは、怒りではなく
むしろ恐怖に近いものだった。
ぶたれ続けながらもこちらから視線を外さない希美のその目は、未だに
昆虫のような無機質な光しか宿していなかったのである。圭織はときどき
そのような目になる希美のことが、ひどく恐かった。その時の希美は
自分の知っている希美とは全く違う、他人よりももっと遠い、
何だかワケの分からない存在であるかのように感じられたので。
しかしその時、希美の視線がスゥッと下のほう…自分のナイフを
握り締めたままの手のほうへと下がった。
「ひ、う、あ、」
その口から数度に区切られた奇声がもれ、目の中にみるみるうちに
おびえと狼狽の感情が広がっていくのを圭織は見た。そこでようやく
彼女はハッとしたように振り上げていた手を下ろした。
「あ、うあ、ああああ〜っ!」
次の瞬間、つんざくような悲鳴をあげた希美を圭織は強く抱きしめた。
希美を叩いた手がピリピリとしびれるように痛い。
…暴力は振るった側にも還っていく。
どこかの小説かマンガで見たことのあるフレーズが、圭織の頭をかすめていった。
だとすれば今、ナイフを握っている希美の痛みはどれほどのものだろう?
その希美の手からまるで魔法が解けたかのように小さなナイフがこぼれ落ちた。
「ごっ、ごめっ、ごめんなさっ、ごめんなっ、ごめっ」
カタカタと震える希美を無言できつく、きつく抱き締め続ける。
しばらくそうやっている内に、圭織は自分の中の黒い感情が安堵の中に
ゆっくりと消え去っていくのを感じた。
…よかった。本当によかった。
それが、希美の自殺を食い止められたことに対する気持ちなのか、
希美の目の中に再び感情が戻ってきたことに対する気持ちなのか、
その両方に対しての気持ちなのか、圭織にはよくわからなかった。
けれども、ただ1つ大きな熱いものが自分の胸の真ん中を支配している
ことだけは感じていた。
…そうだ。
「辻ぃ、わかった。…勝負しよ?」
その言葉をつぶやいた瞬間、希美の体がビクリ、と大きく反応したのが
わかった。痛いほどの視線を下から感じながら、圭織はしかし、それから
逃げるように真直ぐ前を見つめながら言葉を継いだ。
「ただし、じゃんけんで」
希美の顔が、ハァ?とでも言いたげな、困惑と驚愕のブレンドされたような
微妙な表情に変わっていくのがありありと感じられ、圭織は相変わらず
視線をそらしたまま、少しだけ口元に笑みを浮かばせた。
…その表情はまた、どこか悲しげでもあったのだけど。
次回「キミはボクの手の中、OK?」
98 :
名無し娘。:2001/07/11(水) 03:53 ID:f0n2uJGQ
飯田の描き方がうまい!
99 :
名無し娘。:2001/07/12(木) 03:27 ID:ubzax1Rw
保全。
ツボににくる話ばかりで、涙出てくるよ・・・
個人的には連載中のモー娘。系小説では一番好きだ。
飯田の話が済んでいないのに先走るのもなんだが
後藤VS加護のバトルは壮絶な事になるんだろな。
見たいような見たくないような・・・
「じゃ、『じゃんけん』…れすか…?」
「そう、じゃんけんっ」
間髪入れずに即答で返すと、希美は少し不安げな表情で再びおし黙った。
…何でこの人はこんな奇妙なことを次から次へと思い付くんだろう?
そうとでも言いたげな、何とも微妙な表情を浮かべる希美の肩を
強くわしづかみにして、圭織は急に厳粛な顔をつくると、
まっすぐその目を睨み付けるかのように見据えた。
「いいからちょっと聞いて、辻」
その真剣な空気に圧倒されて、希美の顔もつられて引き締まる。
しかし、その次に圭織の口から出た言葉は、
「いい?…カオリもさっき辻が言ったとおりさ、この超能力での決闘ってのは、どっちの『心の力』が強いかを決めるための勝負だと思うのね?だから、それだったら別に超能力で勝負しなくてもいいんじゃないかって思うワケ」
「…は?」
希美の表情がフワリと弛んだが、圭織は気にすることなくまくし立てた。
「要するにどっちの精神力が強いか決めればいいんでしょ?それだったら、絶対超能力なんかで勝負するより、じゃんけんで勝負するほうがストレートな結果が出ると思う。…ほら、じゃんけんってただの運とか確率じゃないでしょ?相手の手の読み合いとか、プレッシャーの掛け合いとかがあって、その精神的な駆け引きをどれだけ上手く利用できるかによって決まるもんじゃん。ね?だからもう絶対、じゃんけんしかないよ!」
101 :
名無し娘。:2001/07/14(土) 02:53 ID:w4gXGNBU
うわ、またうっかり続き消しちゃった…
ていうか、もう100逝ったんだな。
これ、全部書き終わるのかなり長くなりそう…どうするよ、もう。
>>98-99
ありがとう。
後藤VS加護、あまり期待せずにお楽しみに。
…一体何が『もう絶対じゃんけんしかない』のか。
よく考えるまでもなくどこか微妙にズレている理屈だったが、
しかしそれをジッと聞いていた希美の顔には、次第に感動に似た表情が
さざなみのようにひろがって、圭織が一通り熱弁をふるい終えた頃には、
その表情ははちきれんばかりの笑顔になった。
「…そうれす!そのとおりれす!なぁんだ、最初っからそれで決めればよかったんれすね!」
…その方法がもし有効であるならば、一番平和的な手法で『予知能力』を持つ圭織に勝ちを譲ることができる。
希美の笑顔からありありとそんな内心を読み取ることが出来て、
圭織は思わず苦笑した。
…辻、あんた思ったこと顔に出し過ぎ。
しかし、ともあれこれで自分の思惑どおりに事を運ぶことができる。
「3回勝負だからね。…2回勝ったほうが勝ち」
「はいっ」
こっくりとうなずく希美を見つめる圭織の目に、その時、一瞬だけ
罪悪感に似たような感情がよぎった。しかし、すぐにそれは幻であったかの
ように消え去り、代わりに好戦的な笑みがその端正な顔に貼り付くように
広がった。
「よぉし、カオリ、絶対負けないよ〜!」
何か邪念を振り払おうとするかのようにワザと元気良くそう叫ぶと、
ジリジリと数歩後ろに下がっていく。それを目で追い掛ける希美の顔にも
全く同じ、さも今からお菓子の取り合いでも始めるかのような
無邪気な笑みが浮かんできた。
「つじもれす!」
こちらは少しづつ、少しづつ前へと足を進めていく。
そうして2人はしばらくの間、お互い相手を牽制するかのように
ジリジリと間合いを取り合い、やがて1メートル半ほど距離を開けた位置で
ピタリと足を止めた。時間が止まったかのようにシン、と空気の
張り詰める中、それぞれの思いを抱えて師弟は静かに対峙した。
「行くよ、辻!」
「はいっ!」
その視線が火花を散らすように激しく交錯しあった次の瞬間、
「じゃん、」
「けんっ、」
「ぴょんっ!」
同時に声を重ね、2人は拳を前に突き出していた。
圭織の手にはパー。希美の手にはグー。
相手の手に素早く目を走らせた圭織の頬が、微かに…
一見、それとわからないほど、ほんの微かに歪んだ。
(飯田圭織 1−0 辻希美)
次回「『…だまされて、どんな気分?』」
104 :
名無し娘。:2001/07/16(月) 16:54 ID:Dkgo4WRU
>>101 俺的には長くなってくれるとかなりうれしいです。
大変だと思うけどがんばってくれ。
105 :
名無し娘。 :2001/07/18(水) 00:12 ID:Pnqqw8Yk
末長〜くよろしく
106 :
名無し娘。:2001/07/20(金) 16:54 ID:GklG70nU
保全
107 :
名無し娘。:2001/07/22(日) 02:45 ID:Dz10Uq46
保全。
楽しみに待ってま〜す
108 :
名無し娘。:2001/07/23(月) 02:47 ID:cpakaF/6
ようやく課題に一段落つきました。
明日あたりからまたコンスタントに更新…していければいいんだけど。
109 :
名無し娘。:2001/07/25(水) 00:18 ID:scCZMVIU
無理しない程度にがんがれ
110 :
名無し娘。:2001/07/27(金) 19:33 ID:46kWtYQM
111 :
名無し娘。:2001/07/28(土) 02:47 ID:AncOkeyQ
(;´D`)<………あれ?何で書けてないんれしょうか…
もう少し…あともう少しだけ待ってくらさい。てへてへ。
112 :
名無し娘。:2001/07/29(日) 04:14 ID:BGGuWXwU
保全
気長に待ってるよ。
113 :
名無し娘。:2001/07/31(火) 07:12 ID:WnFu0ceg
さりげなくサブタイトルが好き(次回「・・・」の方)
作者さんセンスあるね
114 :
名無し娘。:2001/08/01(水) 02:47 ID:KC2JBp4E
軽くスランプになってました。
いくら書いても日本語にならないからマジでへこんでた(w
若干まだ変かもしれませんけど更新します。
この間いろんな小説がdat逝っちゃったみたいっすね。
改めて保全ありがとう( ● ´ ー ` ● )
…『LIFE IS KICK』好きだったのに…
115 :
:2001/08/01(水) 02:49 ID:KC2JBp4E
…しまった。
自分の表情のわずかな変化に気付かれたかもしれない…そう思って
希美のほうを見たが、彼女は先程までと全く変わらない笑みを浮かべつつ、
手をぶんぶん振り回している。
「どーしましたか〜?2回戦いきましょーよー」
その無邪気な様子に、圭織はホッとするとともに、胸の奥がチリチリと
痛みだすのを感じた。
…ごめんね、ごめんね、辻。カオリほんとは…
「…オッケー!次いくよー!」
内心を押し隠し、わざと何もなかったような笑顔を作ってみせる。
希美は相変わらず満面の笑みでそれに答えた。
「せーのっ」
再び2人の声が重なりあう。
「じゃん、」
「けんっ、…」
しかし、その瞬間、希美の表情がふと何かに気付いたように、
ハッと強張った。その目が何か信じられないものを見たかのように
大きく見開かれる。だがもう振り下ろされる拳の流れは止めようもなかった。
「ぴょんっ」
若干語尾をかすれさせて、パーをくり出した希美の顔に、
ワンテンポ遅れて今度ははっきりと動揺の色がはりついた。
そのパーを迎え撃つ圭織の拳は、グーの形にしっかりと握り締められていた。
「あ…あ、あれっ…?」
ほとんど泣きそうな表情で、自分の手と相手の手を何度も何度も交互に
見比べる希美に、圭織はにこやかな笑顔を崩さぬまま言った。
「これであいこだね」
(飯田圭織 1−1 辻希美)
「…な、何で!」
数秒にも満たない沈黙の後、引きつったような声で希美は叫んだ。
「いいらさん…ひょ、ひょっとしてワザとれすねっ!?」
「え、何が?」
圭織はひょいと首を傾げた。口元をほころばせたまま、眉を少しつりあげ、
意味がわからないという表情をしてみせる。
しかしその声は微かに震えていた。よく注意して眺めれば頬にも
わずかな強張りが貼り付いているのが見て取れた。
「『何が?』じゃないれす!何で『予知』っ…!」
「ああ、アレ?」
そのままゆっくり首をふると、
「だって卑怯じゃん?そんなん使うの」
「ひっ、卑怯って…!」
希美の顔が焦りと苛立ちと微かな怒りにひきつった。
「いいらさんさっき言ったじゃないれすか、『心の力』を総動員して行うからじゃんけんには意義がある、って!」
しかし、そんなことには全くお構い無しと言った風に、圭織はのらりくらりと
希美の言葉を流していく。
「えー、カオリそんなこと言ってないよ?」
「そ、そうかもしれないけどっ、だいたいそんな感じのニュアンスれしたっ」
「あ、『ニュアンス』なんて言葉知ってるんだ。辻、すごおい。頭いいねー」
「ゴマかさないれくらさいっ!」
希美の鋭く尖った視線と、圭織の視線が一瞬かちあう。
「…『予知』、使っていいの?」
ややあって口を開いた圭織は弱々しげに、しかし何故か嬉しそうな表情を
浮かべていた。
「使っていい、っていうんなら使うけど」
「と」
…当然じゃないですか!
言葉を継ぐようにそう叫ぼうとした希美はその時、思わずハッと息を呑んだ。
目の前に立っている圭織の体が、ユラリ、とゆらめくように
歪んで見えたのである。
まるで夏の強い日ざしに当てられたアスファルトから
陽炎が立ち上るかのように。
…え?
何か見てはいけないものを見てしまったような気がして、
希美はあわてて目をしばたたかせた。しかしその陽炎のようなゆらめきは、
依然として消える事なく圭織の体から立ち昇りつづけている。
胸がほとんどつぶれそうなほどにドキン、と音を立てて高鳴った。
…何、これ…
得体の知れない恐怖と焦燥がジリジリと体をしめつけていく。
相変わらず、目の前の圭織の顔から穏やかな笑みの消える様子はない。
しかし、ふとその白い額に細かな脂汗が浮き出ているのを発見した時、
希美の頭の中からスーッと血の気がひいた。
…おかしい!何だかわかんないけど絶対ヘンだよ!
何か…ただごとではない何かが起ころうとしている。
とてつもなく不吉な何かが。
直感が叫んでいた。
…ダメだ…この勝負、勝っちゃダメだ。絶対に。
何故だかわからないが、このじゃんけんに勝ってしまったら、
それきり圭織とは二度と会えなくなるような…そんな気がした。
「…ねえ、どうしたの?」
その声に、希美はハッと我に返った。
目の前の圭織の顔は、もはや瀕死の重病人のように青ざめて見える。
それはけして太陽の光線の加減などではないのだろう。
「な、なんでもないれす!なんでも」
そう言いながらも、希美の心臓は今にも胸を突き破らんばかりに
どんどん高鳴っていく。激しい寒気。
「…あ、あの、いいらさん」
希美は震える声で思い切って圭織に呼び掛けてみた。
「ちょっと、休憩にしましょう?…いいらさん、その、具合悪そうれすし」
「えー、何で?」
返ってきたその声は、やはりどこか無理をしているように
ごくわずかに震えていた。
「カオリぜんぜん元気だよ?早く続きやろ?」
…嘘だ!
騙された。…何故かそう感じた。
圭織の目に一体どこまでの未来が見えているのか、希美にはわからない。
しかし、この勝負の先にあるものは、明らかに平和的な解決なんかでは
あり得ないのだ。
…こうなったら、もう負けるしかない。
…早く負けて、このじゃんけんを終わらせなきゃ…
もはや、そんな思いだけがグルグルと希美の頭の中を回っていた。
「…いいらさん?」
ふと、嫌な予感を強く感じ、希美は再び圭織の名を呼んだ。
「『予知』…『予知』使ってワザと負けるの、絶対無しれすよ?…絶対、無しれすからね?」
「辻、何言ってんの〜?そんなことするワケ…」
「絶対っ!無しれす!約束してくらさいっ!」
クスクス笑いを含むようなそのセリフをさえぎり、かすれた声で
必死の力を込めてそう叫ぶと、ワンテンポ遅れて、圭織は顔から笑いを消し、
ゆっくりとうなずいた。
「…わかった。カオリ『予知』使ってワザと負けたりなんかしない。約束する」
その言葉を聞き終えた希美の全身から冷や汗がどっと吹き出した。
…やっぱり…何も言わなければそうやってワザと負けるつもりだったんだ、この人は。
危ないところだった。もし、さっきの「『予知』を使っていいのか」という
圭織の質問にそのまま「当然です」などと答えていたら…
だが、ともあれ約束は取り付けた。それが完全に守られるという保証は
どこにもないが、少なくとも彼女は一度かわした約束を破るような人では
ない。
つかの間の安堵に思わず小さなため息をついたその時、
目の前にすっと5本の指を開いたままの右手が突き出された。
「じゃあ、最後の勝負いこっか」
「は…?」
いぶかしげな表情を浮かべる希美に向かって、圭織は見せつけるように
そのパーに形どられた手をヒラヒラさせた。
「あ、カオリもう決めたよ。次の勝負はコレでいくから」
「…え…えぇっ!?」
再び、希美の顔は激しい動揺に凍り付いた。
次回「LoveとPeaceは違うことなのさ」
121 :
名無し娘。:2001/08/01(水) 03:07 ID:8GLPskfA
更新されてる!!うれしー。
やっぱりおもろいですよ。
作者さん応援しとります。
122 :
名無し娘。:2001/08/02(木) 01:08 ID:SC8SSbvE
なんかもう、ただ涙がこぼれてきます。
二人にはぜひとも救いのある結末を・・・
123 :
名無し娘。:2001/08/03(金) 18:58 ID:CrzqApQ.
124 :
名無し娘。:2001/08/05(日) 02:53 ID:0bH/82Zk
保全します
125 :
名無し娘。:2001/08/06(月) 12:06 ID:fTI50anc
ここだけは残ってもらわなくちゃなんねぇよ
126 :
名無し娘。:2001/08/08(水) 01:05 ID:foTn3pEY
保全
127 :
名無し娘。:2001/08/09(木) 02:22 ID:JnuEwu6g
待ちつづけるよ保全
128 :
(0^〜^0)@狼:2001/08/10(金) 14:08 ID:R2oyDks.
?
129 :
名無し娘。:2001/08/11(土) 05:11 ID:rx1Wrx26
保
パーを形作った手を前に伸ばしたまま、圭織は微動だにしない。
その顔には、余裕のような笑みが浮かび上がったままで。
そして、5本の指がピンと開かれたその手を突き付けられ、希美もまた、
『おあずけ』を喰らった犬のように微動たりとも出来なくなっていた。
…罠だ!
瞬時に希美はそう考えた。しかし同時に、この人ならそのままの手を
出しかねない、とも思っていた。考えなければならない。
どっちに転んだとしても最良の一手となる手を。
相手の心を探るように、その手と表情を代わる代わるに見つめながら、
希美の頭はかつてないほどの急速度で回転し始めた。
圭織がそのままパーで来る気なのであれば、グーを出せば簡単に
負けることが出来る。しかしこの場合、それを見越して
手を変えてくることも予想せねばならない。
…そうすると…こっちがグーだと、向うはチョキだから、それを見越して…こっちはパーだ!
となれば、あくまで相手を信じてグーを出すか、
それとも裏をかいてパーを出すか。
いつにない速度で選択肢を2つに絞り込んだ希美の頭は、
すでにその中から一番ベストと思われる1つを抜き出していた。
…よし、これで行く。
希美は自分を納得させるかのように小さくうなずくと、
視線を圭織の表情の上に止めた。2つの視線が一瞬火花を散らすように
かち合う。とその瞬間、圭織の顔がすうっと真顔に戻った。
「…ふぅん…」
呟くような圭織の言葉に、希美の胸は一つ大きくドキンと音を立てた。
…まさか…読まれてる?
希美はごくり、と唾を飲み込んだ。
しかし、その音は意外と大きく響いたように思われ、彼女を戸惑わせた。
…いや、そんなはずはあり得ない。大丈夫だ、大丈夫、いけるっ!
「つ、つじもっ、決め、まし、たっ」
自らを鼓舞するように、そしてさっきの唾を飲み込む音をかき消すように、
わざと大声で叫ぶ。瞬間、痛いくらいの視線が自分に突き刺さるのを感じ、
希美は思わずギュッと目をつぶった。
…言った…言っちゃった。
もう後戻りはできない。
…大丈夫、やれる、大丈夫、やれる!
呪文のようにそれだけを心の中で唱えながら、希美の心臓は今や喉元まで
せり上がらんばかりに激しく高鳴っていた。
長い、長い一瞬だった。それは5分であるようにも10分であるようにも、
また1時間であるかのようにも感じられた。
「…そっかぁ」
やがて聞こえてきたその声に、希美はゆるゆるとまぶたをこじ開けた。
再び視線と視線がからみ合う。目の前の圭織の顔には、ひどく悪魔的に
見えるあの笑みが戻っていた。そして、希美が目を開けるのを
待っていたかのようにその口許がゆっくりと動いて、あくまで
楽しげな口調で、しかし希美の心臓にとっては死の宣告にも等しい言葉を
紡ぎ出した。
「パー出すつもりなんだ?」
一瞬襲って来たあまりにも強い目眩に、希美はその場にふらっと
膝をつきそうになった。
次回「ぐるぐる、せーのっ!」
132 :
名無し娘。:2001/08/12(日) 02:55 ID:AO3pgpNg
正直、こんなちょっとですまん。しかも次回もまた少し間空きそう…
133 :
名無し娘。:2001/08/13(月) 16:40 ID:NCVcbQKQ
気長に待ってるっしょ
134 :
(0^〜^0)@狼 :2001/08/13(月) 22:11 ID:wm0yh.hI
おいら頭いいよ
135 :
名無し娘。:2001/08/14(火) 02:10 ID:fvu/kIh6
保全
136 :
名無し娘。:2001/08/15(水) 02:08 ID:iupObQag
保
137 :
(0^〜^0)@狼:2001/08/15(水) 19:32 ID:vQOAp.ac
おいら頭いいよ
138 :
名無し娘。:2001/08/17(金) 02:20 ID:u0Cn3/TA
全
139 :
名無し娘。:2001/08/17(金) 13:03 ID:XV8VwOek
140 :
名無し娘。:2001/08/17(金) 19:23 ID:yOaPew7I
保
141 :
名無し娘。:2001/08/18(土) 02:54 ID:75QF/0VI
全
142 :
名無し娘。:2001/08/18(土) 18:59 ID:D4EZw1Eg
保
保全。
144 :
名無し娘。:2001/08/19(日) 07:47 ID:35MU79iQ
145 :
名無し娘。:2001/08/19(日) 16:39 ID:wvyvuBjI
保全します
146 :
チヨノフG:2001/08/19(日) 16:40 ID:JUu1ducQ
シュマゴラス辻
147 :
名無し娘。:2001/08/20(月) 00:53 ID:oKMRhSjM
hozen
148 :
名無し娘。:2001/08/20(月) 01:17 ID:cilb1vYY
149 :
名無し娘。:2001/08/20(月) 11:57 ID:IoEmSxQE
150 :
名無し娘。:2001/08/21(火) 07:40 ID:P7bBfwdk
ほぜむ
151 :
名無し娘。:2001/08/22(水) 02:23 ID:6fsOj7to
ほ
152 :
名無し娘。:
ho