1 :
たっちゃんBOY :
モー娘。のおすすめ小説について言い合おう。
エロ系でも感動系でもなんでもいいよ。
2 :
名無し娘。 : 2001/03/25(日) 23:35 ID:73dFo.ac
3 :
名無し娘。 : 2001/03/30(金) 22:08 ID:RekKjqxM
ここに小説を書くべ。
某所で書いてた小説の焼き直しだべ。
4 :
名無し娘。 : 2001/03/30(金) 22:10 ID:RekKjqxM
【モーニングコーヒー】
200X年 モーニング娘。は解散し、メンバーはそれぞれ自分の夢に向かって進んでいった。
『ヤッスー、カオピン、ぐっさん、りかさん、よっすぃん、ごっぴん、ののぽん、あいっぴ』
のメンバーは芸能界に残ったが、なっちだけは芸能界から身を引いた。ある事情があって……。
ブヒン、とベルが鳴り、なっちは顔を下げる。やっぱり上げる。
ガラス張りの扉を開けて、誰かが入ってきた。
「なんだべ、つんくさんだべか」
「なんだべってお前なあ。俺、つんくやねんぞ」
と、つんくはうそぶいた。
「コーヒー1杯で100時間居座るような奴は客として認めてないだべよ」
そういうのは他でやってべ、と、豚息混じりに言いながら、なっちは読みかけの本に視線を戻す。
「何読んでんねん?」
慣れた腰つきでカウンターの席に腰を下ろしたつんくが、カウンター越しに問いかけない。
「誰と話してるんだべ?今、店には、なっちとつんくさんしかいないべ」
と、なっちは本を片手に抑揚のない口調で言った。抑揚のない口調で言った。
「なあ〜、もう一度聞くけど何読んでんねん?」
「豚汁小説」
「ふーん」
そこから会話が続いたり、続かなかったり。
なっちは再び読書に戻り、つんくは空想に耽る(どうして俺はつんくなんやろう?)
などと考えたり、考えなかったり。
5 :
名無し娘。 : 2001/03/30(金) 22:11 ID:RekKjqxM
そのまま静かに時間が過ぎたり、過ぎなかったり……。
つんくが店に入ってきた頃には、真上にあった東から昇った太陽が、西に沈む頃になって
つんくは思い出したように口を開く。
「あのなあ〜」
「なんだべ?」
なっちが読んでいる豚汁小説も、終盤に差し掛かっていた。ブヒりとも視線を上げないで、
邪険に問う。つんくもまだ完全に、壊れかけた幻想から抜け出せないまま、
「俺、まだなんも注文してないんやけど」
「……ブヒ」
6 :
名無し娘。 : 2001/03/30(金) 22:13 ID:RekKjqxM
喫茶『タモリ』は、3年ほど前になっちの父が、娘の収入でトキオシティに開いた店だ。昨年、
その父が盲腸で亡くなって以来、兄のたかしが代わりに経営していたが、今年になって、「飽きた」
と、言って店を跳び出したため、モー娘。を卒業したばかりのなっちが一人で切り盛りしている。
とはいっても、1日に豚の頭脳で数えられるほどの客しか来ないような店なのだから、本を
読むか、あるいは豚寝入りをするくらいしかやることがないのが現状なのだが。
(こんなに豚らしい看板娘がいるってのにね)
インスタントコーヒーの粉を適当にカップに流し込みながら、心中で毒づく。ちなみにコーヒーの
サイフォンなんて、なっちはここ数ヶ月、一度も使っていない。それが客の来ない原因でもあるが。
「あのさあ〜」
「なんだべ?」
「普通な、客の前であからさまにそういうことやるか?」
「そういうことって?」
「いや、その、インスタント」
「ああ、これ。別に良いべ。どうせコーヒーの味なんて分かんないべ?」
某印マイコン沸とうVE真空電動ポット『パオー』から直接お湯を注ぎ込み、角砂糖を放り込んで、
はい出来上がり。
なぜなっちは『パオー』を購入したかというと、高真空の二重構造に惹かれ、なおかつお知らせ
メロディー機能が付いていたからである。しかも元芸能人というプライドからか、スペックは
最上位モデルの4.0リットルだ。なっちにとっては高性能すぎるという理由から『オーバー
スペック』の問題が起きなければ良いが。
7 :
名無し娘。 : 2001/03/30(金) 22:17 ID:RekKjqxM
あとはカウンターにコーヒーを置くだけ。
「はい、どうぞ『深く、濃い、カフェの味』が特徴のヨーロピアンタイプ インスタントコーヒー
だべ」
「……ま、良いけどやな」
差し出されたコーヒーを、諦め混じりのモードで受け取りながら、つんくは嘆息する。
一口含んで、インスタント特有の味わいを(かなり好意的な表現だが)楽しみながら、独り言
のように言う。独り言のように言う。
「なあ」
「なんだべ。もう少しで読み終わるからちょっと待ってけろ」
「誰か、待ってるんか」
返事は無い。ただ、驚きに小さい目を精一杯見開いて、慌ててこちらを向くなっちの顔が
答えを物語っていた。イソップ物語。
8 :
名無し娘。 : 2001/03/30(金) 22:18 ID:RekKjqxM
「当たりやろ」
「……なにそれ、プロデューサーの勘ってヤツ?」
冷静な風を装ってはいるものの、なっちの声は普段より100オクターブ高い。誰の目から見ても、
動揺しているのは明らかだった。明らかだった。明らかだった。
「うん、まあ、そんなもんやな」
「根拠とか、あったりするべか?」
「A、お前、誰もいない時って、ずっとカウンターの隅の席を見てるやろ。そこになんか
思い出があるんやないか?」
「…………」
なっちは答えない。答えない。
その様子を、大して面白くもなさそうに見つめながら、つんくはまた一口コーヒーをすすり、
話を続ける。
「B、俺が入ってくると、いっつも落胆した顔をする。ハズレを掴まされたみたいにな」
「だってつんくさんってハズレだべ。どう考えても」
「さりげなく非道いこと言うなあ。俺以外の客でも一緒なんやろ?入ってくるなり店員に
がっかりした顔されて、しかもインスタントコーヒーなんて飲まされた日にゃあ、もう
二度と来たくなくなるわな。この店」
「うるさいべ!」
言い捨てながら、なっちは拗ねたように90度、横を向く。ゴメソ、85度だ。
その白豚のような横顔を追いかけて、つんくの言葉は続く。続く。
「C、こないだ俺が来たとき、お前居眠りしてたよな。カウンターにだらしなく寝そべって、
よだれ垂らして」
その時のなっちを真似て、大袈裟な仕草で突っ伏してみせる。
なっちは赤面。結構恥ずかしい記憶らしい。
「そん時な、寝言を聞いちまったんよ。なんやったっけ、確か『まなぶ』やったかなあ」
そこまで言って、つんくは不意に口を閉じた。ゆっくりと起きあがって、何故だか姿勢を正す。
なっちの目から、突然見慣れないものが流れ落ちた。
9 :
名無し娘。 : 2001/03/30(金) 22:20 ID:RekKjqxM
涙ぽろり。ぽろり。
次々にこぼれだすそれを拭おうともせず、なっちはただ、野良豚のような表情で、つんくを
睨み付ける。
「──なんだべ」
なっちは、ぽつりと呟いたり。呟かなかったり。
「え?」
「なんだべ、豚の首取ったみたいに講釈ぶって!」
「あ、いや、その」
「帰ってけろ!」
「あ、ああ。ほんじゃ、お代を……」
「いらないべ! さっさと帰って!」
叫び声に気圧されるようにして、つんくは店を出た。「また来るよ」なんて、言える雰囲気では
なかった。
そして、なっち一人。
誰もいなくなった店内で、なっちはただ立ち尽くし、涙を流したり。流さなかったり。
豚の涙が止まるには、しばらく時間がかかりそうだったり。かかりそうでなかったり……。
10 :
名無し娘。 : 2001/03/30(金) 22:21 ID:RekKjqxM
押尾学はバカだった。
少なくとも、なっちの知る人間の中では二番目に大馬鹿者だった。
大人になっても、女の子のスカートをめくって歩いたり、
ピンポンダッシュに興じてみたり、
近所の小学生と一緒になって、河原に秘密基地を作ってみたり、
カウンターの隅の席に座って、大して好きでもないコーヒーを、一度に723杯も飲んだり。
そして、道路に飛び出したカエルを捕まえようとして、車に轢かれて死んでみたり。
まさしく、馬鹿としか形容の出来ない人物だった。
ただ、そんなまなぶよりももっと馬鹿なのは、
「そんな馬鹿に惚れちゃってた私よねー」
夕暮れの色に染まる店内で、なっちは一人うそぶいた。
誰も聞く者はいない。自分自身の他には。
だらりとカウンターに寝そべっていた体を起こし、つんくが出ていった扉を見る。
「悪いことしちゃったべか……」
何も喚くことは無かった。にっこり微笑みながら、「やめて」。そう言うだけで、つんくはもう
なにも言わなかっただろう。子供っぽいところのある彼も、そういうところではしっかりと大人
をしていた。
つまりは、自分が大人げなかったということか。
「だって、まだなっち子供だもん」
と、またなっちは一人うそぶいた。
誰も聞く者はいない。自分自身の他には。
11 :
名無し娘。 : 2001/03/30(金) 22:23 ID:RekKjqxM
なんとなく認めたくない結論にぶち当たって、なっちは大きな豚息を漏らした。漏らした。
――しょうがない、今度来たら、コーヒーの一杯でもおごってやるべ。
そんな事を考えて、ふと、つんくがいつもの「また来るよ」という台詞を吐かなかったことに気づく。
「まさかもう来ないなんてこと、無いべ」
口に出して、呟く。
断言は出来なかった。元プロデューサーではあったが、所詮は赤の他人。なっちのダイエットの
ように簡単に壊れそうな関係であったにも関わらず、知らず知らずの内に、つんくに依存してい
た自分にビックリ、ビックリ。
確かに、ほとんど誰も来ない喫茶店の中、唯一の常連客である彼の存在は大きかった。
金銭的にも、心理的にも。
――それだけ、かな?
違うような気がする。もっとなにか、店とは切り離した、自分自身との関わりがあるような。
「まさかこれって……恋?」
一瞬の間。
それが通り過ぎたのち、なっちは爆笑した。そりゃあもう、腹がよじれるくらいに。
12 :
名無し娘。 : 2001/03/30(金) 22:26 ID:RekKjqxM
つんくは、店内に戻るチャンスを、いまいち掴めないでいた。
今戻ったらまた怒鳴られないだろうか、とか、
無視されたらどうしよう、とか、
さっきまでは泣いてたくせに、なんで突然笑い出すんだ。気味が悪いぞ、とか。
様々な思いが、彼の足を引き留めていた。
「ん?」
突然、笑い声が止んだ。
何事だろうかと、生け垣の陰から店内をのぞき込む。ガラス張りの扉と壁は、こんな時に便利だ。
「――あぅ」
奇妙な音が、つんくの喉から漏れた。
覗き込んだつんくの視線と、たまたま外に目をやったなっちの視線が、もろにぶつかったのだ。
そしてあろうことか、店内のなっちはつんくに向かって、
苦く微笑んだ。
「ええと……」
その表情に同じような苦い笑みを送り返しながら、とりあえずつんくは謝る覚悟を決めて、
再び『タモリ』の扉をくぐった。
13 :
名無し娘。 : 2001/03/30(金) 22:27 ID:RekKjqxM
「いらっしゃい」
気まずそうな笑顔を顔に張り付かせて入ってきたつんくに向かい、声が飛びます。飛びます。
「あー、その、なんや」
いつもの席に座りながら、むにゃむにゃと口ごもる。
なんとなく、ちゃんとした言葉が出てこない。
謝ろうという気持ちはあるのだが、それよりも強い、ある感情がつんくの心にわき上がって
きていた。それは好奇心と、つんく自身にも理解できない感情の入り交じった、何か。
本当は別に何もないが……。
「なあ」
「なんだべ?」
対するなっちは、豚顔だ。何故か、怖い。
一瞬ひるんだつんくだが、なんとか堪え、真剣な顔を作って尋ねる。
「そのまなぶって奴は、また来るのか?」
「何でそんなこと聞くんだべ?」
その問い返しには答えず、
「もう来ないんやろ? そうだって知ってるんやろ?」
羊たちの沈黙が、二人を包む。羊たちの沈黙が、二人を包む。
14 :
名無し娘。 : 2001/03/30(金) 22:28 ID:RekKjqxM
なっちがまた泣き出したりしないか、少し心配だったり。心配でなかったり。
それでも、聞きたかった。何故だかは分からないが。本当は何も分からないが。
「……来ないよ。来れないの」
やがて、なっちが口を開いた。その表情は硬いが、しかし、涙を堪えているような性質のもの
ではない。
――出荷する直前の豚みたいな顔やな。
心の中だけで、かなり不謹慎な感想を抱く。
そして、また羊たちの沈黙。
時の歩みは遅くなり、世界は気まずい色に染まる。
この状況でなにかをしゃべり始めるには、かなりの勇気が必要だろう。
だけど。いや、今度はハンニバル。沈黙は、つんくによって破られるのだ。
それでもつんくは口を開かなければならなかった。それは彼が自分自身に課した義務であり、
そして、目の前でうつむく豚に対しての思いやりでもあった。
――自分でやったことの責任は、自分でとらなきゃな。
15 :
名無し娘。 : 2001/03/30(金) 22:30 ID:RekKjqxM
「なあ」
「……うん」
「もし、もしも、な」
「うん」
「俺がその、カウンターの隅の席に座ってコーヒーを飲みたいって言ったら、どないする?」
「……意味がよく分からないべ」
「じゃあ、俺が、その、あの、アレや」
「はっきり言ってけろ」
眉根を寄せて、なっちが言う。言う。
その言葉に腹が立ったという気持ちもあるし、逆に、励まされたという思いもある。
どちらにせよ、つんくは、人生の中で初めて口にする言葉を、無理矢理吐き出そうと
していた。
「俺がっ!」
「うわっ! ちょ、急に大声出さないでけろ」
「俺が、その、まなぶの代わりになってやるっていったら、どないする?」
言ってしまってから、少し後悔する。ホント、ホント。
自分はなんで、こんな台詞を吐いてしまったんやろう、と。
だが、もう遅い。遅い。
16 :
名無し娘。 : 2001/03/30(金) 22:31 ID:RekKjqxM
つんくの言葉に目を丸くしていたなっちが、ゆっくりと瞳を閉じて、そして、
「爆笑するべ」
「へ?」
「つんくさんがそんな事言ったら、多分わたし、死ぬほど笑うと思う」
「ああ、そうかぁ……って、おい! 人が真面目に――」
「だから、ね」
閉じられていた瞳が開き、つんくを見つめる。今まで意識して見たことの無かった彼女の瞳は、
豚色に輝いていた。ホント、ホント。
「そんなこと言わないでけろ。誰かの代わりになるとか、そんなの」
言いながら、なっちは微笑む。微笑む。
女神の微笑などではない、普通の豚の微笑み。
何故だかそれが妙に眩しくて、
「分かった。もう言わへんから、だから」
「だから?」
「コーヒー1杯おごれ」
「なんじゃそりゃ」
結局、茶化しながら目をそらすことしか出来ない。
そんな自分が何故か可笑しかった。
17 :
名無し娘。 : 2001/03/30(金) 22:32 ID:RekKjqxM
目の前で微笑むつんくを見て、なっちは自分が『それだけじゃない』と思った理由を知った。
それは多分、つんくの笑顔が――。
「つんくさんってさ、笑うと上沼恵美子にそっくりだね」
「やかましいわ」
笑顔があまりにも優しくて、引き込まれそうだから。だなんて、言えるわけが無かった。
そんな自分が何故か可笑しくて、なっちは一人でくすくすと笑いながら、
『まなぶ』がいなくなってから、一度も使っていなかったサイフォンに触れた。
インスタントではないコーヒーを入れるために。
今日からは、なんとなくそうしても良いような気がしたから。
「ねえ、モーニングコーヒー飲もうよ、二人で」
<おしまい>
18 :
名無し娘。 : 2001/03/30(金) 22:49 ID:RekKjqxM
さよならだべ
19 :
名無し娘。 : 2001/04/01(日) 00:26 ID:IFJ2zPcE
押尾の死因が笑えた。
なっちの描写がどうして豚だけなのか疑問。
作者さんはなっち嫌いなの?
20 :
名無し娘。 : 2001/04/02(月) 08:19 ID:GxJrRXHE
作者のなっちに対する深い愛情を感じる。
21 :
名無し娘。 : 2001/04/02(月) 11:55 ID:raebrZCA
二回繰り返すとこで笑いました。
なっちの豚扱いにも。
22 :
名無し娘。 : 2001/04/02(月) 13:27 ID:SVI/ncXY
おもろ
23 :
名無し娘。 : 2001/04/02(月) 13:29 ID:dqQQjWGk
>>18 で既に完結してる所がカコイイ♪
超オナニースレ。
このスレの今後は・・・・?
24 :
名無し娘。 : 2001/04/02(月) 14:10 ID:/6oMOymk
>>23 まあ、1の遺志を受け継ごうか?
羊限定?
25 :
名無し娘。 : 2001/04/05(木) 11:42 ID:vcCiRx4E
26 :
名無し娘。 : 2001/04/05(木) 13:31 ID:l.Oub7/2
age
27 :
名無し娘。 : 2001/04/05(木) 14:49 ID:FVzsO4Cw
かなりワラタ。
腹痛ぇ。
28 :
名無し娘。 : 2001/04/05(木) 14:59 ID:vcCiRx4E
27はよく見るコピペだな
もし手書きで書いてるなら27はよほどの馬鹿だ
29 :
名無し娘。 : 2001/04/09(月) 17:28 ID:4IGQZtwQ
30 :
MICK : 2001/04/10(火) 05:24 ID:B0Nmv6Kg
俺もここに短編を書きます。
タイトル【ラストステージ】
31 :
MICK : 2001/04/10(火) 05:25 ID:B0Nmv6Kg
桜も散る頃、俺は大学に講義要項を取りに行った帰りにCDを買うため、
渋谷へとやって来た。駅を出た交差点で、その年齢には似つかわしくない
くらいの大柄な老婆と隣り合わせた。大柄とは言っても、腰が大きく前に
曲がり、背中に背負った大きな風呂敷きに押しつぶされそうになっている。
いったい何がこの中に入っているんだろう、と思いながら見ていると信号
が青に変わり、彼女は歩き出す。そしてよく前が見えないのか、走ってくる
サラリーマンと激突した。サラリーマンは一回振り返ると、気遣う様子も
なく何事もなかったかのように走り去った。
倒れた彼女の風呂敷きからたくさんのみかんがこぼれ出している。道ゆく
人たちは見てみぬフリをしている。俺は彼女の元に駆け寄り、
みかんを掻き集めた。そして安全な道路の端まで彼女を避難させた。
「いやあ、おにいちゃん、わるいねえ」
へたり込んだまま、か細い声で彼女は俺に微笑みかける。
「いえいえ、あの、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です。ほんとにすみませんねえ」
「お怪我はありませんか?」
「ええ、ほんとにありません。ありがとねえ」
「あの、本当に痛いところとかありませんか?」
「ええ、ほんとにありません」
そう言うと、彼女はゆっくりと立ち上がった。
32 :
MICK : 2001/04/10(火) 05:25 ID:B0Nmv6Kg
その様子を見ると、本当に大丈夫そうだったので俺はホッとした。
彼女の顔をよく見ると、白髪交じりの後ろで一本に束ねた長い髪に
大きな瞳が印象に残り、若い頃はきっと美人だったんだろうなと思われた。
俺は彼女の風呂敷きを地面に敷き、拾い集めたみかんを包んで手渡した。
「ほんとにありがとう。あんた優しいねえ。なんてお礼を言ったらいいのか」
曲った腰をさらに深く曲げ、お辞儀をしながら彼女は言った。
「いえいえ、お礼なんて要りませんよ。困っている人がいたら助ける。
当たり前のことですよ」
「でも、何もしないんじゃあアタシの気が済まない。ほれ、このみかんを
一つ持っていって下され」
そう言いながら、彼女は俺に先程のみかんを一つ手渡してくる。
別に欲しくはなかったけれど、彼女の気持ちを考慮して受け取った。
「それじゃあ、アタシはこれで」
そう言うと、彼女はもう一度深々と頭を下げた。
「じゃあ、お気をつけて」
俺も同じ様にお辞儀をした。
踵を返し、ゆっくりと歩き出す彼女の後ろ姿を俺はじっと見つめていた。
やがて彼女は都会の喧騒の中、人の波へと飲み込まれていった。
33 :
MICK : 2001/04/10(火) 05:26 ID:B0Nmv6Kg
その日の夕方、下宿先のワンルームマンションで俺はテレビを見ながら
レンジで解凍したクソまずい冷凍ピラフを一人寂しく食べた。
憂鬱な食事を終えると一応満腹になり、ベッドに大の字になってみる。
がらんとした部屋。テレビ、冷蔵庫、ベッド、ゲーム機、クローゼット、
ステレオ、パソコン、あるのはそれぐらいだ。女の子の影は全くない。
「寂しいなあ、俺にも彼女がいたらなあ……」そう呟いてみる。
しかし、その声は虚しく部屋に響くだけだった。
しばらくして俺は今日買ったCDを聴こうと思い、カバンの中に手を入れた。
すると、最初に手に触れたのはあの時老婆にもらったみかんだった。
ちょうどデザートが食べたかったので、そのみかんを取り出してみる。
見かけはどこにでもある普通の大きさのみかんだった。
早速俺は皮を丁寧に剥き、一房をちぎって口に入れてみる。
ムシャムシャと噛み締めて味を確認すると、至って普通の味だった。
でもみかんなんて食べるのは久しぶりで、素朴な味が心に染みた。
残りのみかんも一気に食べた。すると、なぜだか急に眠くなってきた。
(あれ?なんだかカラダがおかしいな……)
フラフラしながらベッドに倒れこむと、俺はそのまま意識を失った。
34 :
MICK : 2001/04/10(火) 05:27 ID:B0Nmv6Kg
……ガバッ!!
鼻をくすぐる焦げ臭い匂いに、俺は驚き身を起こす。
どうやら俺は眠ってしまったようだ。いや、それどころじゃない。
匂いのする方向、キッチンを見ると、誰か人が立っている。
誰だ?目を凝らしてよく見ると、どうやら長髪の女のようだ。
「おい!オマエ誰だよ、どうやってここに入った」
まだ朦朧とする意識の中、俺はその女に向かって叫んだ。
「アタシ?アタシはね、カヲリ、カヲリだよ」
その女はこちらの方を向いて応えた。
「カヲリ?そんなヤツ知らねえぞ」
「昨日アタシを助けてくれたでしょ?覚えてない?」
助けた?俺が昨日助けた女と言えば、あの老婆しかいない。
でも、目の前にいるのは若い女。いったいどういうことだ?
もしや、彼女が昨日の婆さんなのか?そんなことってあるのか?
俺は頭を思いっきり壁に打ちつけてみる。
「イテェ!!」
たんこぶができ、目の前が白く霞む。これは夢ではない。
「ねえ、何馬鹿なことしてんの?今ねえ、アンタに足りないビタミンを
補給させるために、カヲリはサンマを焼いているのよ」
こちらに向かって2、3歩進んで、カヲリと名乗る女は言った。
35 :
MICK : 2001/04/10(火) 05:28 ID:B0Nmv6Kg
俺はおそるおそる彼女に近づいてみる。美しい長い黒髪に、キラキラと輝く
大きな瞳、セクシーな口元、長身でファッションモデルのような完璧な肢体。
あの時俺が想像した、老婆の若い頃の姿そのままではないか。
でも信じられない、こんなことが実際にあるわけがない、と疑惑の念が
頭の中を駆け巡る。が、女に慣れていない俺は目の前の美しい彼女に
見とれてしまい、そんなことはすぐにどうでもよくなってしまった。
「あ、あのさ、じゃあ、キミは何のためにここにいるの?」
「うん、昨日助けてくれたお礼に何かしたいって思って」
「お礼?それでサンマを焼いてくれているの?」
「うん、アンタにはビタミンBが足りないからね」
「ふーん、そっかー、でもなんでそんなこと知ってるの?」
「うんとね、カヲリはね、何でも知ってるの」
「まあいいや、とりあえずありがとう」
ちょっと意味不明な会話を終えると、俺は洗面所へと向かい、顔を洗った。
水が冷たい。やっぱりこれは夢じゃない。現実なのだ。
洗面所から戻り、洋服を着がえるとテーブルに食事が運ばれてくる。
ご飯と味噌汁、焼いたサンマにほうれん草のごま和えまで。
こんな豪華な手作りの食事は実家にいる時ぐらいしかお目にかかれない。
エプロンを外したカヲリも食卓につく。ジーンズに青のパーカーという
素朴な姿だが、それでもプロポーションの良さからバッチリ決まって見える。
程よく膨らんだカヲリの形良い胸が、俺の目を釘付けにしていた。
36 :
MICK : 2001/04/10(火) 05:29 ID:B0Nmv6Kg
「ねえ、何カヲリのこと見つめてるの?何かついてる?」
俺の視線に気づき、カヲリが訊ねてくる。
「え!?いや、キミがあまりにも綺麗だからさ、……つい見とれてた」
ガラにもなく、俺は歯の浮くような台詞を吐く。
自分でも本当に不思議だった。
「え!?そんな、カヲリ照れちゃうな……」
カヲリは頬をうっすらとピンク色に染めてうつむく。
その姿があまりにもかわいくて、思わず抱き締めたい衝動に
駆られる。しかし、何とか気持ちを落ち着かせて踏みとどまった。
「ねえ、ごはん冷めちゃうからさ、早く食べてよ」
うつむいていた顔を上げると、微笑みながらカヲリは言った。
「う、うん、いただきます」
俺は両手を合わせてあいさつし、食事を始めた。
彼女の作った料理はどれもとてもおいしかった。俺は無言で黙々と
食べ続ける。その様子をカヲリは大きな瞳で嬉しそうに見つめている。
37 :
MICK : 2001/04/10(火) 05:30 ID:B0Nmv6Kg
「ねえ、おいしい?」
俺の顔を覗き込むようにして、カヲリが訊ねる。
「うん、すごくおいしい」
俺は即答した。
「ふふ、よかった、気に入ってもらえて」
「ありがとう、こんなに豪華な食事は久しぶりだよ」
「へへ、カヲリ、料理は得意なんだよ」
カヲリは少し照れくさそうに言った。
「あのさ、話は変わるけど、君はどこから来たの?」
別に俺はそんなことはもうどうでも良かったけれど、何でもいいから
彼女と話がしたくて訊ねた。
「え?カヲリがどこから来たかって?うんとね、それはね、秘密なの」
「ふーん、でも、そんなのどうでもいいや。こんなかわいい子がそばに
いるんだから、それだけでも俺にはありがたいよ」
俺はもうカヲリにすっかりココロを奪われていた。
食事が終わると、俺は彼女が食器を洗うのを手伝った。カヲリが食器を洗い、
俺はそれを拭いて棚にに入れる。側にいると、カヲリの髪のいい匂いが鼻を
くすぐる。その香りに、俺はうっとり夢見ごこちだった。
38 :
MICK : 2001/04/10(火) 05:31 ID:B0Nmv6Kg
「ねえ、カヲリね、お願いがあるんだけど」
「え!?何?」
唐突に話しかけられ、俺はハッとなって我に返る。
「カヲリ、一緒に行きたいトコあるんだけど」
「い、いいよ、どこでもいいよ」
俺はちょっとどもりながら応えた。
「あのね、うんとね、カヲリ、カラオケ行きたいの」
「カラオケ?そんなんでいいの?」
「うん」
「いいよ、じゃあ、かたずけ終わったら行こう」
「やったあ!」
よっぽど嬉しいのか、カヲリは小さな声で歌を歌いながら食器を洗う。
「ラーブ、ラーブ、ラーブマシン、wow wow wow wow ♪」
耳を傾けたが、そんな曲、俺は全く聴いたことがなかった。
カヲリを連れて外に出てみると、外はもう真っ暗だった。
時計をよく見ると、今はもう午後の8時を回っている。
目が覚めてからというもの、俺は混乱していて時間を把握できずにいた。
昨日からいったい俺は何時間眠っていたのだろうか?
不思議な感覚に包まれ、カヲリと一緒に駅前のカラオケボックスへと向かう。
39 :
MICK : 2001/04/10(火) 05:33 ID:B0Nmv6Kg
カラオケボックスで俺とカヲリは、ビールやカクテルを飲みながら
流行りのJ−POPや洋楽をかわるがわる楽しく歌った。
カヲリは物凄く歌が上手くてびっくりした。どんな曲でもなにげなく
振りをつけて歌う姿はあまりにも華麗で、見ている俺を釘付けにさせる。
プロなんじゃないだろうか、とまで思った。
そうしてもう4時間も二人だけで歌っただろうか、いい加減俺の喉も
限界に近づいてきた。カヲリはまだまだ大丈夫そうだったけれど。
「ねえ、カヲリ、そろそろ終わりにしない?もう、俺限界だよ」
「うん、わかった。じゃあ、最後にカヲリに一曲歌わせて」
「うん、いいよ」
「ありがとう」
カヲリは大きく深呼吸をすると、マイクを握り締め、小さなステージの
上に上がった。これまた小さな照明が、彼女の全身を照らしていた。
「じゃあ、最後にカヲリが歌います。聴いて下さい『モーニングコーヒー』」
前奏が始まると、カヲリはゆっくりと体を揺すりはじめた。
「ねえ はずかしいわ(ドキドキ) / ねえ うれしいのよ(してる) /
あなたの言葉 / モーニングコーヒー飲もうよ 二人で♪」
40 :
MICK : 2001/04/10(火) 05:37 ID:vlTQ4A8A
俺はその曲を全く知らなかったけれど、カヲリはその曲を絶妙に
歌いこなしている。俺は手拍子をしながらその曲を聴いた。
すると、曲も終盤を迎えた頃だろうか、カヲリは急に涙を流しはじめた。
「ね、ねえ、どうしたの?」
俺は心配になって訊ねる。
「う、うん、何でもない、ゴメンネ」
カヲリは涙をこらえながら、必死になって歌う。
ようやく歌い切ると、へなへなと腰から崩れ落ちそうになる。
俺はカヲリの元へと駆け寄り、支えるように抱き締めた。
カヲリの頬を大粒の涙が伝っていく。
「おい、一体どうしたっていうんだよ?」
俺はカヲリの顔をじっと見つめた。そこにあるのは悲しみを携えた瞳。
カヲリは何も応えようとはしない。
俺はただ、強く抱き締めることしかできなかった。
カラオケボックスを出ると、俺とカヲリは一言も言葉を交わすことなく
家まで手を繋いで帰った。彼女の手は火傷しそうなほど熱かった。
41 :
MICK : 2001/04/10(火) 05:39 ID:vlTQ4A8A
それから俺はカヲリと寝た。俺はそれが初めてだった。
とまどう俺を、カヲリは優しく導いてくれた。
初めてだというのに、一晩で3回もしてしまった。
3回目の絶頂を迎える瞬間、カヲリはうっすらと涙を流し、
聞こえるか聞こえないかわからないくらいの控えめな声を上げた。
その後、燃え盛るようなカヲリのカラダは一気にその温度を失っていった。
結局、眠りに落ちるまで俺とカヲリは言葉を交わすことはなかった。
翌朝、俺が目を覚ますと隣にカヲリはいなかった。
テーブルの上に書き置きが残されていた。
「最後に楽しい思い出をありがとう 飯田圭織」
そう書かれていた。
飯田圭織という人物が、60年程前大人気だったアイドルグループ
『モーニング娘。』のメンバーであったと知るのにそれほど時間は
かからなかった。ネットで検索すると、その情報はいくらでも入った。
モニターの中から、カヲリは永遠の微笑みを俺に向けてくれている。
彼女は間違いなくここにいた。
枕元に何本か抜け落ちた長い黒髪が、それを証明していた。
−終わり−
42 :
名無し娘。 : 2001/04/10(火) 07:56 ID:bTbZ2esY
かおりむ・・・
43 :
名無し娘。 : 2001/04/10(火) 12:45 ID:2mCha2Lo
かおりむ・・・ 。
44 :
名無し娘。 : 2001/04/10(火) 13:18 ID:jt4EIOGM
age・・・
45 :
石熊 : 2001/04/14(土) 21:25 ID:z8WQ7BYY
出だしがすごい引きつける。
テンポもいい。マジ、おもしろい。
46 :
名無し娘。 : 2001/04/14(土) 22:01 ID:9DfozQ8I
ブラボー!個人的には村上春樹の「蛍」を思い出したよ。また、お・ね・が・い
47 :
ティムポ博士 : 2001/04/14(土) 22:13 ID:MU149MZA
この前のなっちモノも良かったが、これも面白かった。
君・・・、やるね!
48 :
名無し娘。 :
あんまり有名じゃない、掘り出し物的な面白い小説を教えて。