テニスの王女様(仮)

このエントリーをはてなブックマークに追加
1Sの住人
狼より引越してきました。
妄想話でございます。
2Sの住人 : 2001/03/25(日) 02:31 ID:iz4fXEK2
1
「50%カット・・・ですか」
予想していたとはいえ、落胆のいろは隠せない。
「しゃーないやろ。部員はあんた一人だけ。廃部にならんかっただけ、良しとせんと」
中澤はそう言うと、梨華の肩をポンとたたいて、
「まあ、あとはあんた次第や。無理に続けんでもええで」
とあっさり言った。中澤にしてみれば、部員一人のテニス部の顧問など、
やめられればそれに越した事はないということだろう。
「わかりました。先生にはご迷惑かけまして・・・失礼します」
そう答えると、梨華は足早に職員室を後にした。

「あーあ、どうしようかな・・・」
放課後。すでに陽は傾き、残る生徒も少ない。
梨華は校舎の窓から、テニスコートのある方を眺めていた。
去年までは2面あったコートも、今年遂に部員が梨華一人になった事もあって、
1面に縮小していた。
自分一人でコートを使っていることについて、既に幾つかの部から、苦情めいた声が
あがっているらしく、練習もしづらい日々が続いている。
「やめちゃおうかな、もう」
ふーっと大きなため息をつくと、梨華は部室へと向かった。
3Sの住人 : 2001/03/25(日) 02:32 ID:iz4fXEK2

「あれ・・・保田先輩」
梨華が部室の前まで来ると、保田が憮然とした表情で立っていた。
「もー、何やってたのー。遅いっ」
「す、すみません。中澤先生と部費の事で相談してて」
あわてて梨華は言い訳した。
「そっか・・・で、どうだったの」
「はい、去年の半額で。廃部にならなかっただけよかったって」
梨華はぽつりと言った。
「うーん、厳しいなあ。去年もきつきつだったのにね」
そう言うと、保田は梨華の頭をなでた。
「でも、よく頑張ってるよ。石川は」
梨華は何も言えなくなった。ついさっき、部活をやめてしまおうかと思ったことも。
嬉しそうに自分を見つめている保田の期待に答えるために、
自分はどうしたらいいんだろう、と梨華は思った。
4Sの住人 : 2001/03/25(日) 02:34 ID:iz4fXEK2

「よし、今日は久々にもんでやるよ」
既にウエアに着替えていた保田は、部室のドアをあけ、
「早く、きがえといで。コートで待ってるから」
「あっ、保田さん。私今日・・・」
ウエア持ってきてないんですという言葉を待たずに、保田はコートの方へ行ってしまった。
「仕方ないなあ・・・」
(保田さんたら、相変わらず人の話を最後まで聞いてくれないなあ)
梨華は肩まで垂らしている髪を後ろに結ぶと、コートへと向かった。

「梨華ちゃんと・・・保田さん」
部活を終え、一人で帰ろうとしていた吉澤の目に入ったのは、
白いウエアがまぶしい保田と、セーラー服でテニスする石川の姿だった。
(ダメだよ、梨華ちゃん・・・そんな格好で)
5Sの住人 : 2001/03/25(日) 02:35 ID:iz4fXEK2

「あっ、よっすぃー」
じっと見つめていた吉澤に気がついた石川が、嬉しそうに手を振っている。
保田はちらりとこちらを見たが、すぐに石川に向かって、
「石川、あと一本、いくよ」
「はい、先輩」
保田は大きく息を吸うと、そのまま、渾身の力で、強烈なフラットサーブを
叩きこんだ。
「きゃっ」
なんとかラケットには当てたものの、勢いよくラケットは飛ばされてしまった。
「まだまだだね・・・それじゃ、ダブルスでは勝てても、シングルスじゃ
地区予選も勝ちぬけないよ」
うっすらとかいた汗を拭いながら、保田はいった。
6Sの住人 : 2001/03/25(日) 02:36 ID:iz4fXEK2

「そっか・・・テニス部も大変だね」
部室前で保田と別れたあと、梨華は吉澤と一緒に帰っていた。
「よっすぃーはどう?バレー部の部長になったんでしょ」
「うん・・・でも、めんどくさい事は副部長にまかせてるから」
「そう。いいなあ・・・一杯部員がいて」
溜息交じりに、梨華はつぶやいた。
そんな梨華の横顔をみていると、何ともいえない気持ちになる吉澤だった。
(梨華ちゃん・・・なんでそんなにかわいいんだよー)
「あっ、桜・・・」
いつの間にか、桜並木の下を歩いている二人。
「綺麗だねー。ねえ、よっすぃ、今度の日曜、お花見しない?」
「えっ」
いきなりそう言われて、吉澤はドキッとした。
もし石川が言わなければ、自分から誘うつもりだったからだ。
「う、うん。いいよ」
7Sの住人 : 2001/03/25(日) 02:37 ID:iz4fXEK2

「保田さんと・・・あと、誰誘おうか」
そんな梨華の言葉に、てっきり二人っきりでと思っただけに、
少し落ち込んだ吉澤だったが、気をとりなおして言った。
「あっ・・・そ、そーだね。ごっちんなんてどう?日曜はヒマしてるみたいだし」
「あー、いいねー。最近会ってないし」
ごっちんこと、後藤は、同じ中学に通っている、女子弓道部の部長だった。
「やっぱ、部長になってから、大変みたい」
「いい息抜きになるかも」
二人はやがて桜並木を抜け、緩やかな下り坂にさしかかった。
「乗ってく?」
自転車を引きながら歩いていた吉澤は、ニヤニヤしながら言った。
「えー・・・よっすぃ飛ばすからなあ・・・」
「大丈夫大丈夫だって。今日は疲れてるからさ、そんなに飛ばせないよ」
「ほんとー?」
梨華はおそるおそる吉澤の後ろに乗った。
「しっかりつかまってなよー」
8はんぺら : 2001/03/25(日) 02:38 ID:eepkoB9E
ん?
読んだことある気がする、この小説。
9Sの住人 : 2001/03/25(日) 02:38 ID:iz4fXEK2

そう言うと、吉澤は勢いよくペダルを漕ぎ出した。
「いやーっ。よっすぃーのうそつきー」
梨華はそう叫びながら吉澤の背中にしがみつく。
(ふふふ・・・かわいい。梨華ちゃん)
吉澤はスピードをあげながら、弓道場の方へ向かった。
弓道場は校舎から1kmほど離れた所にある。
「ごっちん・・・いるかなあ」

「ごとーさん」
「何?つじちゃん」
練習を終え、帰り支度をしていた後藤の目の前に、
ニコニコしながら辻が現れた。
「実は・・・相談があるんですけどぉ」
舌ったらずな口調で、辻が言った。
「弓道部を見学したいって人がいるんですけど・・・明日連れてきてもいいですか」
「別にいいけど・・・つじちゃんの友達?」
「はい。加護亜依ちゃんっていうんですけど」
嬉しそうに辻は言った。
「まだ部活決めてなくて・・・なんか、色々見てみたいってゆーんです」
「ふーん、そーなんだ。いいよ、明日連れてくれば」
「はい。ありがとうございます」
ぺこりとお辞儀すると、辻は走りさった。
「加護ちゃんかー。でも・・・これ以上部員増えるのもなー」
10Sの住人 : 2001/03/25(日) 02:40 ID:iz4fXEK2

部員全員が帰った後、道場の鍵をかけ管理室に向かう途中、
「あっ、ごっちーん」
と後藤を呼ぶ声がした。振り返ると、汗だくになって自転車を漕ぐ吉澤と、
その背中にしっかりとしがみつく石川の姿があった。
「あれー、よっすぃー。どーしたの」
「いやー、ここまで二人乗りでくるの大変だわ、やっぱ」
後藤の側まで来ると、吉澤は自転車から降りた。
「梨華ちゃんが離してくれなくてさー」
「だってよっすぃーがウソつくからだよ。もー」
そう言ってツンとすましている石川を見ながら、
(梨華ちゃんって女の子だよなー。なんで私はああなれないんだろう)
と後藤は思った。そういう意味では、石川は気になる存在だった。
(私だって、充分女らしいと思うんだけど)
「ごっちん・・・どうしたの」
梨華は不思議そうに首を傾げた。
「いや、何でもない何でも・・・ところで二人とも、何しに来たの?」
「あ、そうそう、今週の日曜なんだけど、お花見でもどうかなって」
「梨華ちゃんの提案なんだけど・・・どーかな」
気がつくと、あたりはすっかり暗くなっている。
「いいねー。じゃあ、みんなそれぞれお弁当つくってさ・・・」
「OK。じゃ、詳しい話は明日学校で」
「お弁当かあ・・・出来るかなあ・・・」
一人不安そうな梨華。以前、梨華の手料理を食べた事のある吉澤は
「大丈夫だって。見た目より味だよ、梨華ちゃん」
「ほんとかなあ・・・」
梨華は、いくらか、ほっとした表情を浮かべた。
11Sの住人 : 2001/03/25(日) 02:41 ID:iz4fXEK2

「ただいまー」
梨華が家に帰ると
「梨華、届いてるわよ。新しいラケット」
と母親がキッチンから顔をのぞかせた。
「部屋に置いておいたから」
「うん、ありがと」
梨華はテーブルの上の果物をひょいとつまむと、2階の自分の部屋に向かった。
部屋に入ると、ベットの上に、真新しいラケットが置かれている。
(せっかく買ったのにな・・・)
壁に貼られた、伊達公子のポスターを見ながら、梨華は溜息をついた。
(一人じゃシングルスにしかエントリー出来ない。でも、私は・・・)
梨華は中一、中二と、二年続けて地区予選を突破していた。ただしダブルスで。
もともと、自分はダブルス向きの選手だと梨華は思っていた。
もちろん、シングルスの選手としても出場してはいたが、
やはりここぞという所でポイントをとれないあたりが、保田をして
「石川には押しがたりないよね」
と言わせる所以なのだろう。
(あ、そうだ。保田さんに電話しないと)
梨華は保田の携帯に電話した。留守電になっていたので、花見の事を言って切った。
(やっぱり、相談しなきゃ・・・これからの事)
もし、自分の代でテニス部が無くなるとすれば、それはそれで大問題だ。
しかも今年は受験の年だ。いつまで部活を続けられるかもわからない。
(誰か・・・いないかな)
梨華は、コートの外から、練習している自分を見つめている新入生達の顔を思い返した。
ほとんどが興味無さそうな感じだったが、そういえば一人、気になる子がいた。
12Sの住人 : 2001/03/25(日) 02:41 ID:iz4fXEK2
10
「もしもしー、あいちゃーん」
「なんや、ののか。どうしたん」
加護は宿題の手をやすめた。辻からの電話だった。
「あのねー、今日後藤さんに話したらねー、いいって言ってたよー」
「そっか・・・ありがとな。でも、まだ弓道やるかわからへんよ」
「えー、一緒にやろーよ。面白いよー、弓道」
「うん、考えとくわ。じゃ、明日な」
「じゃーねー」
電話を切ると、加護はベットにあお向けに寝そべった。
「はー、どーしよ。なんか燃えるもんがないとなあぁ」
その時ふと、テニスコートで一人、黙々とボールを打ちつづけている
少女の姿が頭に浮かんだ。
(なんや綺麗な人やったけど・・・他に部員はおらへんのかなあ)
小学生の時、バトミントンをやっていた加護は、テニスに興味がないわけではなかった。
「亜依ー、ご飯やでー」
母親の呼ぶ声がする。
「わかったー」
カレーの匂いをくんくんと嗅ぎながら、加護は思った。
(まあ、ええか。弓道も面白そうやし)
13Sの住人 : 2001/03/25(日) 02:42 ID:iz4fXEK2
11
「そっか・・・まあ、普通に考えれば、部員一人のテニス部ってのもねえ」
保田の声は落ち着いている。
「はい。私もやめたくはないんですけど」
あれからしばらくして、保田から電話がかかってきた。
言うんなら、早い方がいい。梨華はそう心に決めていた。
「どうかな、石川さえよかったら、うちの高校にきて練習するって手もあるんだけど」
「え、でも、私なんかが行って、迷惑じゃ」
梨華は紅茶に口をつけた。アールグレイの香りが心地よい。
「ばかだね。ほんとに迷惑なら、こんな事言わないよ」
保田らしい答えだ。梨華は胸が熱くなるのを感じた。
「ありがとうございます。でも、もう少し頑張ってみます」
「無理しちゃダメだよ。待ってるから」
「はい。じゃあ、日曜に」
「うん、楽しみにしてる。じゃあね」
梨華は紅茶を飲み干すと、窓をあけて、夜空を眺めた。
雲一つない空に、ぽっかりと三日月が浮かんでいる。
梨華は、少し悩みが軽くなった気がした。
(そうだ・・・あの子、探してみよう。もしかしたら、テニスに興味あるかも)
14Sの住人 : 2001/03/25(日) 02:43 ID:iz4fXEK2
−12−
次の日。梨華は休み時間の間、1年のクラスを見て回った。
しかし、それらしき子の姿を見つけることはできなかった。
(小さくてかわいい子だったからなあ・・・見ればわかるんだけど)
しかたなく、梨華は部室へ向かった。
一人になってしまったとはいえ、昨日までの憂鬱な気分はどこかに吹き飛んで
しまったようで、練習する姿を、不思議そうに見られるのも、
あまり気にならなくなっていた。
(あれ・・・あの子・・・)
一息ついて、ふと正面グラウンドの方を眺めると、
見覚えのある女生徒が二人並んで歩いていた。
(右の子は・・・弓道部の子だよね。左の子は・・・あの子)
梨華はあわててコートを飛び出して、二人の後を追った。

「で、後藤さんって、どんな人なん?」
「うーんとねー、すごく優しい先輩だよ。お菓子とかくれるし」
「お菓子って・・・のの、もう中学生やんか」
「えー、亜依ちゃんだって、お菓子好きなくせにー」
「いや、そうでなくて・・・」
加護は今だ辻を判りかねていた。こうして話していると、
まるでお子様なのだが、たまにびっくりするほど大人びた表情を見せる事もある。
(面白い子やなー。見ててあきんわ)
15Sの住人 : 2001/03/25(日) 02:44 ID:iz4fXEK2
−13−
「あの・・・ごめんなさい。ちょっといいかな」
加護が振り返ると、そこには息を切らしながら一人の少女が立っていた。
(あっ、この人・・・)
テニスウエアを着ているので一目瞭然ではあったが、
「私、テニス部の部長やってるんですけど・・・あなた、テニスに興味ないかしら」
辻は突然の出来事に、あっけにとられている。
「そんな事急に言われてもなあ・・・すいませんけど、お名前は」
「あっ、ごめんね。私、3年の石川梨華っていいます。あの・・・」
「加護亜依いいます。奈良から引っ越したばっかりなんで・・・失礼な言い方やったらすんません」
梨華は、加護の、思ったよりしっかりした物言いに戸惑ったが、すぐに気をとりなおして
「ううん、全然。それより、どうかな。前に練習してるの見てたでしょ。どうだった?」
(よく覚えてるな・・・そんなこと。なんか変なことしたんやろか)
加護は、自分ではごく平凡な顔付きだと思っていたので、梨華のこの言葉は意外であった。
「どおって・・・いや、面白そうかなとは思いましたけど」
「本当?よかったー」
ぱっと明るくなった梨華の顔を見て、加護はしまったと思った。
辻の方をみると、ぷーっと頬をふくらませている。
「先輩。亜依ちゃんは弓道部にはいるんです。ね、亜依ちゃん」
そう言うと、辻は組んでいた腕をぐいと引いた。
「さ、行こ。ごとーさんも待ってるし」
「あ、すんません。今日はちょっと・・・また、今度」
何いいわけしてるんやろと思いながらも、
梨華の悲しそうな瞳を見ると、口に出さずにはいられなかった。
(なんでやろ。なんであの人の事、気になるんやろ)
梨華の寂しそうな背中を見つめながら、加護は深いため息をついた。
16Sの住人 : 2001/03/25(日) 02:44 ID:iz4fXEK2
−14−
「加護亜依です。今日は見学させてもらって、ありがとうございます」
「いいよー、そんな畏まらなくても。私、部長の後藤真希。よろしくね」
ざっくばらんな言い方に、加護は好感をもった。なるほど、辻が気にいるわけだ。
「とりあえず、大会が近いんで、見ててもらうだけみたいな感じになるけど。
わかんない事とかは、辻ちゃんに聞いてね。」
「まかせてください。てへへ」
辻は嬉しそうだ。後藤は辻の肩をぽんとたたくと、控え室の方に姿を消した。
「ええひとみたいやなー」
「でしょでしょ。でね、弓引いてる時が、すごくカッコイイんだよ」
「ののはどうなん。もう弓ひけるん?」
「もー、まだに決まってるでしょー。これで練習するの」
辻が見せたのは、20センチ程の棒に、太めのゴムがついたものだった。
「このゴム弓で型の練習するの。ほんとの弓ひけるのはそれからだよ」
「ふーん、大変なんやなあ」
目の前では、羽織袴を身につけた先輩部員達が、真剣な表情で的に向かっている。
矢が的に当たるたびに「パン」と響く音が心地よい。
しばらくそうやって練習風景を眺めていた加護だったが、石川との出会いが頭から離れなかった。
(石川・・・梨華さんか・・・どうしとるやろ)
(なんや泣きそうな顔しとったなあ・・・)
(やっぱり他に部員がおらんのかなあ・・・どうしよ)
「・・いちゃん?」
「へ?」
「もー、亜依ちゃーん、人の話聞いてるー?」
うすうす感づいているのか、辻の顔は不機嫌だ。
「ごめん、ごめんな・・・あれ、のの、後藤さんやで」
加護は辻の視線をそらすように、控え室の方を指差した。
そこには、羽織袴に着替え終わった後藤の姿があった。
17Sの住人,sage ,2001/03/25(日) 02:46,−15−
「うわー、ごとーさん、ステキですう」
辻は憧れの眼差しで後藤をみつめている。
「ありがと。でも、辻ちゃんもそのうち着れるようになるよ」
すこし照れたように後藤は言った。
加護が周りを見まわすと、皆、同じような視線を送っている。
(へー、人気もんなんや、後藤さん。まあ、わかるけどな)
「加護さん、どう?弓道は」
突然の後藤の問いに、加護はあわてて
「え、えっと・・・面白そうです」
「ふふ。ゆっくり見ていってね」
後藤はそういってほほえんだ。加護もつられて笑った。
しかし、なんだか落ち着かない気分だった。
「どーしたの、亜依ちゃん。変だよ」
後藤が的に向かい、礼をしたところで、辻は加護の顔をのぞきこんだ。
さっきから、加護がそわそわとしているからだ。
「のの、ごめん。ちょっと用思い出してな・・・帰るわ」
そう言って、加護は立ちあがると、後藤にぺこりと頭を下げ、
道場からそそくさと出ていった。
「あ、亜依ちゃーん」
あわてて辻は後を追ったが、あっという間に加護の姿は見えなくなってしまった。
辻が道場に戻ってくると、後藤が怪訝な表情で
「どーしたの、辻ちゃん。加護さんは」
「ごめんなさい。なんか、用を思い出したらしくて・・・」
そう答えるのが精一杯だった。
「そう。後で電話してみたら?」
後藤はポケットからキャンディをとりだすと、辻の手に握らせた。
ほのかに、ミントの香りがする。辻がなめると、それは少し苦い味がした。,
18Sの住人 : 2001/03/25(日) 02:53 ID:iz4fXEK2
−15−
「うわー、ごとーさん、ステキですう」
辻は憧れの眼差しで後藤をみつめている。
「ありがと。でも、辻ちゃんもそのうち着れるようになるよ」
すこし照れたように後藤は言った。
加護が周りを見まわすと、皆、同じような視線を送っている。
(へー、人気もんなんや、後藤さん。まあ、わかるけどな)
「加護さん、どう?弓道は」
突然の後藤の問いに、加護はあわてて
「え、えっと・・・面白そうです」
「ふふ。ゆっくり見ていってね」
後藤はそういってほほえんだ。加護もつられて笑った。
しかし、なんだか落ち着かない気分だった。
「どーしたの、亜依ちゃん。変だよ」
後藤が的に向かい、礼をしたところで、辻は加護の顔をのぞきこんだ。
さっきから、加護がそわそわとしているからだ。
「のの、ごめん。ちょっと用思い出してな・・・帰るわ」
そう言って、加護は立ちあがると、後藤にぺこりと頭を下げ、
道場からそそくさと出ていった。
「あ、亜依ちゃーん」
あわてて辻は後を追ったが、あっという間に加護の姿は見えなくなってしまった。
辻が道場に戻ってくると、後藤が怪訝な表情で
「どーしたの、辻ちゃん。加護さんは」
「ごめんなさい。なんか、用を思い出したらしくて・・・」
そう答えるのが精一杯だった。
「そう。後で電話してみたら?」
後藤はポケットからキャンディをとりだすと、辻の手に握らせた。
ほのかに、ミントの香りがする。辻がなめると、それは少し苦い味がした。
19Sの住人 : 2001/03/25(日) 02:54 ID:iz4fXEK2
−16−
「ちょっとー、石川ー、少し手加減してやー」
中澤は息を切らしながら言った。
「すみませーん」
梨華は立ち止まると、額の汗をぬぐう。
加護と別れたあと、梨華は顧問の中澤と練習を始めた。
中澤は、産休中の石黒の代理で、テニス部の顧問になっていた。
選ばれたのは、教師の中で、石黒以外に唯一のテニス経験者だったからだが、
実際、なかなかの腕前の持ち主ではあった。ただ、如何せん、持久力に欠けていたのだが。
その点が、梨華が残念に思う事だったのだが、無論、口に出すことはない。

既に陽は傾き、グラウンドでは、後かたずけを始めている部活もある。
「今日はこれくらいにしとこーか」
中澤はスポーツドリンク片手にコート脇の椅子に腰掛けた。
「はい」
梨華は落ちているボールを拾い始めた。
(やっぱりテニスって楽しい・・・やめたくないな)
梨華は目をつぶると、大きく伸びをした。
風が心地よい。微かに、桜の匂いがする。
「はい、これ・・・落ちてました」
突然、梨華の目の前に、ボールを差し出したのは加護だった。
「加護さん・・・どうしてここに」
「いやー、テニス部がどんな練習してるのか、見てみたいなー思って・・・」
「えっ。本当に?」
梨華の嬉しそうな顔を見て、加護は胸がどきどきするのを感じた。
(なんでやねん。何ときめいてるねん)
「石川ー、なにしてんねん。早くかたずけんと、暗くなるでー」
一息ついた中澤が、せかす様に言う。
「はーい」
梨華は加護からボールを受け取ると、
「ごめんね、今日はもう練習終わっちゃったの。明日、もう一度来てくれるかな・・・」
「いいですよ。別に用もないし」
さばさばと加護は答えた。そう言われるだろうと思ったからだ。
「ありがと。ねえ、もうすぐでかたずけ終わるから、一緒に帰らない?」
「えっ・・・は、はい」
予想もしなかった梨華の問いかけに、加護はあせった。
(び、びっくりした・・・でも、なんか嬉しいかも)
20Sの住人 : 2001/03/25(日) 02:55 ID:iz4fXEK2
−17−
「おまたせ」
制服に着替え終え、部室から出てきた梨華を、加護はまじまじと見つめた。
(いやー、やっぱ綺麗な人やなー。お嬢様って感じや・・・)
「どうしたの?私、顔に何かついてる?」
「い、いえ・・・別に」
加護は想いを見透かされた気がして、思わずうつむいてしまった。
「変なの。でも、加護さんって、凄くかわいい」
「えっ」
梨華は無邪気な笑顔を浮かべている。
加護は、顔が火照ってくるのを感じた。
「さ、帰りましょ。加護さんって、どこに住んでるの」
「あ、駅前の方です」
「ほんと?じゃあ、方向一緒だね」
「はい」
そんな他愛もない会話を、加護は心から嬉しく感じていた。
今日初めてまともに話した、それも二年も先輩の人といるのが、
どうしてこんなに楽しいんだろう。それは、加護自身にも説明の出来ない事だった。
二人は、お互いの自己紹介をしながら、ゆっくりと歩き始めた。
話がはずむにつれ、加護は梨華の口から、色々な事を聞く事ができた。
テニスを始めたきっかけ、初めての大会での失敗談、産休中の石黒先生の事、
そして、今は部員が自分一人で、ダブルス出場もままならない事・・・。
「大変なんですね・・・」
「そうでもないよ。私、テニス好きだし。それに・・・」
「それに?」
加護が聞き返すと、梨華はふっと空を見ながら
「加護さんが入部してくれたら、また、ダブルスが組めるなあって・・・」
「組みたいです、私。石川先輩と」
そう言った瞬間、加護は思った。
そうか、私は石川先輩の事が好きなんだ、と。
「えっ」
梨華は驚いて横に振り向いた。
そこには、真剣な眼差しをした加護の顔があった。
「本当に?でも、どうして」
「何かわかんないですけど・・・やってみたくなったんです。テニス」
もちろん、嘘だ。やりたい理由ははっきりしている。でも、今は言えない。
「よかった・・・ありがと」
そう言って、梨華は加護の手をギュッと握り締めた。
ところどころ豆のある、それでいて綺麗な手だ。
加護は、心の中でそっと、神様に感謝した。
21Sの住人 : 2001/03/25(日) 02:57 ID:iz4fXEK2
−18−
「それじゃ・・・あの、家ここだから」
そう言って、梨華が玄関のドアを開け、もう一度振り返って
「バイバイ、また明日ね」
と言うのを、加護は顔を真っ赤にしながら、手を振って見送った。
梨華と別れた後も、加護のココロはフワフワと宙を浮いていた。
(これが恋ってもんなんかなあ・・・女が女に恋するって変なんやろな)
(でも好きなもんはしょーがないねん)
(とりあえずテニス頑張らんと)
一人小さくガッツポーズをとると、加護は家のそばの本屋に向かった。
テニス関係の雑誌を何冊か買い、本屋を後にする。
(ラケットとかも買わんとなあ・・・梨華先輩に頼んでみるとか・・・へへ)
ニヤニヤ思い出し笑いをしながら、ふと前を見ると
(げっ、のの)
家の前で、辻がむすっとした顔でうろうろしている。
(やば・・・今は逃げんと)
しかし、あっさり目と目があう二人。
「あっ、亜衣ちゃん」
「おお、のの、どうしたん。もう部活終わったんか」
あわてて買ったばかりの雑誌を背中に隠すが、辻の目は誤魔化せない。
「何?何隠したのー」
「あっ、こら、なにすんねん」
加護から雑誌を奪い取ると、辻はそれを見て頬を膨らませた。
「やっぱりー。テニス部行ってたんだ。テニス部に入るつもりなんだー」
そう言いながら、辻は目をうるうるとさせている。加護はあわてて、
「いや、これには色々訳があってな、石川先輩が・・・」
「亜衣ちゃんのバカ。もー知らない」
手に持っていた雑誌を投げつけると、辻は走り去っていった。
「のの、待ってーな」
加護の声がむなしく響く。雑誌を拾うと、加護は深い溜息をついた。
22Sの住人 : 2001/03/25(日) 02:59 ID:iz4fXEK2
−19−
結局、辻の携帯に電話しても出てもらえず、加護はもやもやとした気持ちのまま朝を迎えた。
窓を開けると、心とはうらはらに、気持ちいいくらい晴れ渡った空が目に映る。
(はー、どないしょ。ののとは仲直りしたいしなあ・・・でも)
知り合って間も無いとはいえ、辻の、見た目によらない頑固な性格に気づいているだけに、
どうやって話を切り出したものか、加護は悩んでいた。
(やっぱ弓道部に入るって言わんとあかんのかなあ)
その時、玄関のベルが鳴り
「ごめんください」
と、大人しそうな声がした。
「はーい」
加護が返事して見に行くと、そこにいたのは、まぎれもなく梨華だった。
「えっ・・・石川先輩」
「ゴメンなさい。早く起きちゃったから、寄ってみたんだけど・・・」
「いえ、あ、あの、もう出るところだったんで。ちょっと待っててください」
あわてて加護はリビングに戻ると、飲みかけのオレンジジュースを一気に飲み干し、
カバンに昨日買った雑誌をつめこんで、
「お待たせしました」
と梨華と一緒に家を出た。
23Sの住人 : 2001/03/25(日) 02:59 ID:iz4fXEK2
−20−
まだ春先で、朝の空気は少し冷たい。
その冷たさが、加護には心地よかった。
隣を歩く梨華を見上げると、凛とした横顔が眩しく感じられる。
「そういえば、加護さんはテニスの道具って、持ってるの?」
突然、梨華が口にしたのは、加護が待っていたセリフだった。
「い、いえ・・・まだなんにも。何買ったらいいのかもわかんないです」
「そっか・・・。じゃあ、今日は土曜日だし、午後から空いてるんだったら、道具見に行かない?」
「はい。喜んで」
力んで答えると、梨華はニコニコしながら、
「よかったー。加護さんの気が変わらないでくれて」
「あのー、加護さんって、堅苦しいんで、別の呼び方で呼んで欲しいんですけど」
加護はドキドキしながら言った。知り合って間も無い先輩に対して、失礼かもしれないとは思ったけれど。
「えっ・・・いいけど、じゃあ、何て呼んだらいい?」
「あのー、奈良にいた頃は、友達に『あいぼん』って呼ばれてたんですけど・・・」
「あいぼん」
梨華の口からそう呼ばれた瞬間、加護は胸が熱くなった。
「いいねー、あいぼん。じゃあ、私の事も、石川先輩とかじゃなくて、名前で呼んでほしいな」
そう言って、梨華はじっと加護を見つめた。
「梨華・・・ちゃん?」
「合格!よろしくね、あいぼん」
そう言って梨華は加護をぎゅっと抱きしめた。
加護は真っ赤になりながら、梨華を抱き返した。
梨華の髪が、加護の鼻の辺りをくすぐる。いい匂いがした。
24Sの住人 : 2001/03/25(日) 03:00 ID:iz4fXEK2
−21−
「おはよー」
「おはよー、あれ、亜依なんかご機嫌じゃん。なんかあったの」
「べ、別にー」
梨華と別れて教室に入り、クラスメイトと挨拶しながらも、
加護の頭の中は、放課後の事で一杯だった。
(どこがええかな・・・駅前の店だとすぐだし・・・電車乗って遠出なんていいかも)
「亜依ちゃん」
(そーだ、おいしいクレープの店があった。梨華ちゃんたぶん知らないだろーな・・・)
「・・・亜依ちゃん!」
大声でふと我に返った加護が振り返ると、そこには辻が立っていた。
「の、のの」
いきなり話かけられ、なんと返すか悩む加護に、
「昨日はゴメンね」
と言って、頭をペコリと下げる辻。
「ど、どうしたん、のの」
「えっ、だって、亜依ちゃんがそんなにテニスやりたいなんて知らなくて、
無理やり弓道部に誘っちゃったから・・・」
どうやら、辻は加護の本心(あるいは下心)までは見ぬいていないらしく、しゅんとしている。
「いや、昨日はうちが悪いねん。せっかく誘ってもらったのに、途中で帰ったりして・・・」
「ううん、いーの。じゃあ、仲直りのしるしに、これ」
そう言って、辻が目の前に出したのは、
「テ、テニスラケット」
「うん。お姉ちゃんのお古なんだけど、結構高いんだって。亜依ちゃん、持ってないでしょ。使って」
「う、うん・・・」
ニコニコと嬉しそうな辻から、加護はラケットを受け取った。
ずしりと重みが伝わってくる。
(はー。神様って公平なんか不公平なんか判らんなあ・・・)
25Sの住人 : 2001/03/25(日) 03:01 ID:iz4fXEK2
−22−
「梨華ちゃん、なんか良いことあったの?今日、朝からずっとニコニコしてる」
「うん。テニス部にね、新入部員が入るの」
「えっ?」
休み時間。吉澤は梨華と一緒に、渡り廊下の自販機の前にいた。
吉澤はいつもの様にコーヒーを、梨華はいちご牛乳を飲んでいる。
「加護亜依ちゃんっていってね。ちっちゃくて、カワイイの」
「かわいい・・・」
嬉しそうに話す梨華を見ながら、吉澤は内心、穏やかではなかった。
多分下級生なんだろうが、なぜ部員一人のテニス部に入ろうというのか、
それを考えると、ひょっとしたらという妄想が頭をよぎる。
(私みたいに、梨華ちゃんの事が好きだったりして・・・まさかね)
一方梨華は、そんな吉澤の気持ちにはまったく気づいてはいないのだが。
「今日の放課後、一緒にラケットを見に行くんだけど」
梨華の言葉に、吉澤はあわてた。
「あ、あたしも行っていい?」
「えっ・・・いいけど、よっすぃー、部活は?」
「ああ、今日は休みなんだ。ちょうど」
もちろん嘘だ。部長失格かも、と吉澤は心の中で部員達に手をあわせた。
「ついでにお昼、一緒に食べようよ。その、加護さんも一緒に」
「いいねー。じゃあ、あいぼんにも言っておくね」
「あ、あいぼん?」
「あ、加護ちゃんのあだ名なの。そう呼んで欲しいって言われたから」
「ふーん・・・」
あやしい、と吉澤は思った。会ってそんなに経っていない先輩に対しての接し方とは思えない。
もちろん、梨華の人辺りの良さがそうさせているのかもしれないが。
(加護亜依か・・・要注意だな)
26Sの住人 : 2001/03/25(日) 03:02 ID:iz4fXEK2
−23−
放課後。
梨華は、吉澤、加護と一緒に、駅前のイタリアンレストランにいた。
加護が辻にラケットをもらったため、店に見に行く話は無くなったが、
せっかくだし、一緒に食事でもしようという話になったのだった。
料理が運ばれてくるのを待つ間、話はもっぱら梨華と加護の間ではずみ、
吉澤は聞き役にまわっていた。
吉澤からみて、加護の第一印象は、そう悪くはなかった。
たしかに、「かわいい」という形容詞がぴったりはまる。
(なんかムカつくな。後輩に嫉妬してるの?私)
時々、吉澤の視線を気にしてか、加護が様子をうかがうようにこちらを見るのも、
癪にさわる感じだった。
(どうかしてる。加護ちゃんは、梨華ちゃんのかわいい後輩。それだけなんだから)
「どうしたの、よっすぃー?黙り込んじゃって」
梨華が急に顔を近づけてきたので、吉澤は思わず
「うわっ、り、梨華ちゃん」
と叫んでしまった。
きょとんとする梨華。加護は、じっと吉澤を見ている。
「なんでもない。なんでもないって・・・それより、料理まだかなあ」
「うん、お昼時だしね・・・あ、ちょっと行ってくるね」
梨華はポーチをもって、化粧室の方へ向かった。
テーブルは、吉澤と加護、二人きりになってしまった。
(困ったなあ・・・何話せばいいんだろ)
吉澤の困惑をよそに、加護は
「あの・・・私、吉澤先輩になんか変な事言いました?」
と、ズバっと聞いてきた。
「えっ・・・なんで」
「え、だって、さっきからずっと私の方睨んでる感じがしたんで」
普通は、そう思っても、初対面の先輩にはそんな事聞かないよな、と吉澤は思った。
と同時に、正直な子だとも思った。変に誤魔化してもしょうがないと思うと、
吉澤は急に気が楽になった。
「ゴメン。私、梨華ちゃんの事が好きなんだ。だから、梨華ちゃんが加護ちゃんとばっかり話すから、
ちょっとムカついたんだ」
27Sの住人 : 2001/03/25(日) 03:03 ID:iz4fXEK2
−24−
(あーあ、言っちゃった・・・)
胸の中のもやもやがすっきりとはしたものの、やはり加護の反応が気になる吉澤だった。
みると、加護は目を大きく見開いたまま、硬直している。
(やっぱ変な事言っちゃったのかな・・・好きだなんて)
「かっこいい」
「へ?」
予想だにしない加護の一言。
「だって・・・普通言えないですよ、そんなにはっきり」
加護の吉澤を見る目が、明らかに変わっている。
「そ、そう・・・?」
「いいなあ。うちもそんなん言えたらええんやけどなあ」
今まで押さえていた関西弁が出てくるほど、加護は吉澤に親近感を抱いた。
恋に先輩も後輩もないというところか。
吉澤もまた、加護の、一直線っぷりが気にいった。
たぶん、この子は誰に対してもそうなんだろうと吉澤は思った。
「言ってみれば?梨華ちゃんは、真剣に答えてくれると思うよ」
「じゃあ、なんで先輩は言わないんですか」
「うーん・・・そう言われるとなあ」
二人は互いに見つめあい、そして笑った。
「いいねえ、加護ちゃん」
「先輩も。梨華ちゃんの次に好きかも」
「じゃあ、先輩じゃなくて、よっすぃーでいいよ。加護ちゃんには特別にゆるす」
吉澤がそう言うと、加護は急にあらたまったように、「よっすぃー」とつぶやいた。
吉澤がOKサインを出したところで、梨華が化粧室から戻ってきた。
「あっ、なんか話してたでしょ。何?」
「えー、梨華ちゃんには秘密の話。ね、加護ちゃん?」
「ねー、よっすぃー」
そう言ってニヤニヤする二人。
「えー、なんでー。教えてほしい」
ぷーっと頬を膨らませる梨華。もちろん、吉澤、加護にとっては最高のシチュエーションだ。
「ほら、梨華ちゃん、機嫌なおして。ご飯来たよ」
「もー、そんなんじゃ誤魔化されないんだから」
そう言いつつも、梨華の視線は、テーブルに置かれたパスタに移っている。
吉澤と加護は、互いに目配せをし合った。
(さーて、恋のライバル出現か・・・なんかワクワクするかも)
(こーゆー時、年下って不利やな。頑張らんと)
二人の腹づもりなど知ることなく、梨華はパスタに感動していた。
「おいしー、このパスタ」
28Sの住人 : 2001/03/25(日) 03:05 ID:iz4fXEK2
−25−
昼食をすませ、店をでる頃には、吉澤と加護はすっかり仲良くなっているようだった。
そんな二人を、梨華は嬉しそうに眺めていた。
(よかった。よっすぃとあいぼん、気が合うみたいで)
「あ、梨華ちゃん、私、先に部活行くね。みんな待たせてるし」
「よっすぃー、またねー」
加護の一言に、吉澤は手を振って答えると、裏通りの方へ走り去った。
「あれ、学校と違う方向だ」
「あ、あいぼんは知らないんだよね。よっすぃーの行ったほうから、体育館裏に出られるんだよ」
そう言いながら、梨華は正門前へ向かって歩いていた。
この季節、桜並木を通るのは、梨華の楽しみでもあったからだ。
「綺麗だねー、桜」
ほぼ満開というところか。独特の香りが、手を繋いで歩く二人をつつむ。
(えー、梨華ちゃんの方が綺麗さ・・・なんちゃって)
冗談っぽくでもそう言えない自分は、まだまだだなと加護は思った。
「そうだ、明日、よっすぃーとかごっちんと、お花見するんだけど、あいぼんもこない?」
思い出したように梨華が言った。
「えっ、行く行くー・・・って・・・ごっちんって?」
「ああ、弓道部の後藤さん。見学に行って、会ったよね」
加護は、袴姿も凛々しい後藤の姿を思い出した。
(うーん・・・なんか気まずいけどな。でも、梨華ちゃんと花見・・・)
悩める加護だったが、その時ふと、辻の顔が頭に浮かんだ。
「えっと、辻ちゃんも誘っていいですか」
「いいよ、もちろん。いっぱいいる方が楽しいし」
頭の上の桜の花びらを払いながら、梨華は答えた。
(よかった・・・ののに後藤さんの相手してもらえれば、少しは楽かも)
「お弁当もいっぱいつくんないとね。あいぼんも、何かつくってきてくれる?」
梨華の期待に満ちた眼差しに、加護はこう答えるしかなかった。
「もっちろん。まーかせて」
(どーしよ。うちの得意料理っつたら、あれしかないもんな・・・)
29Sの住人 : 2001/03/25(日) 03:06 ID:iz4fXEK2
−26−
「じゃじゃーん。さあ、入って」
「し、失礼しますー」
梨華に押されるようにして、加護はテニス部室に入った。
プレハブで建てられた部室長屋の一角で、部屋の造り自体は、
今まで見学に行った各部とさして変わらない。
壁には、過去の大会で得た賞状や、先輩部員達の写真が飾られている。
「ごめんねー。何にもないでしょ。他の部は、冷蔵庫とか持ってるんだけど・・・」
申し訳なさそうに梨華は言った。
「ううん、気にしなくていいよ。それより・・・」
そう言うと、加護は壁の写真の一枚を指差した。
「これ、梨華ちゃん?」
「あっ、それ?そう、去年の都大会の時の写真」
コートをバックに、顧問の中澤と梨華、そして保田が写っている。
「隣にいるのが保田先輩。今でも時々コーチに来てくれるの。
厳しいけど、優しい、素敵な先輩なんだ」
(保田先輩って、どんな人なんやろ・・・。でも、梨華ちゃんがここまで言うんやから、
きっと凄い人なんやろな)
加護は、写真のなかの保田の顔をまじまじと見直した。
その時、急に部室のドアが開き、
「いやー、歩くとやっぱ結構かかるねー」
という声とともに、保田が姿を見せた。保田は、加護と目を合わせ、
一瞬怪訝な表情を浮かべたが、すぐに
「石川ー、この子は?もしかして新入部員?」
と加護を指差しながら言った。
「あっ、判りました?そうなんですよ。今日から入ってもらった、加護さんです」
加護はあわてて、ぺこりとお辞儀した。
保田は、そんな加護を値踏みするように見ている。
(うわー。なんか苦手な感じやわ・・・この人)
そんな加護の想いを見透かしたかのように、保田は笑みを浮かべた。
「そっか・・・じゃ、軽く相手してもらおうかな。入部テストもかねて」
「えっ?」
あわてて、自分が初心者であると告げようとした瞬間、加護は保田の視線が、
自分の手にしているラケットに注がれている事に気がついた。
(そっか・・・このせいで・・・)
辻をうらめしく思いつつ、保田の後をついて、加護はコートに向かった。
30Sの住人 : 2001/03/25(日) 03:08 ID:iz4fXEK2
−27−
「とりあえず、かるーく打つから。出来るだけラインの中にいれるよーに」
「は、はいっ」
なるようになると思いつつ、ふと横に目をやると、梨華が心配そうにこちらを見ている。
(梨華ちゃん・・・大丈夫やで。これくらいで、うちはへこまんさかい)
加護はあらためて気合をいれなおす。保田は軽く笑みをもらすと、サーブを放った。
『パン!』
加護が打ち返したボールが、逆サイドのラインぎりぎりの処に決まる。
「あいぼん凄ーい」
思わず梨華の口から漏れた一言が、保田のハートに火をつけた。
「ふーん。まったくの初心者でもないみたいだね・・・じゃ、ちょっと力入れるよ」
何度かボールをはずませ、軽く息をすうと、
「ふっ」
と掛け声とともに、保田のフラットサーブがコートのセンターサービスラインぎりぎりの処につきささった。
『パシッ!』
再び、逆サイドに、リターンが決まる。
(何やろ。まぐれにしてはえらい上手いとこに決まるなあ・・・って、保田さん、顔険しなっとるで)
「ふふ・・・やるね。じゃ、そろそろエンジンかけてみるかな」
保田の目が真剣になっている。梨華はドキドキしながら二人を見ていた。
(あいぼん・・・本当に初心者なのかな。手首も使えてるし、落ち着いてる)
加護も、自分が驚くほど落ち着いているのを実感していた。
そして、ボールを打ち返すたびに、何ともいえない感覚が体の中を走るのを感じた。
31Sの住人 : 2001/03/25(日) 03:10 ID:iz4fXEK2
「いくよ」
保田は深く息をすうと、今度はサイドラインぎりぎりを狙って、スライスサーブを打ちこんだ。
さすがに、今度は追いつくのが精一杯で、加護はラケットを弾かれ、そのまま転んだ。
「大丈夫、あいぼん」
あわてて梨華が駆け寄ってくる。保田も、我に返ったのか、走り寄ってきた。
「大丈夫や、梨華ちゃん。ちょっと転んだだけや」
「ごめん。なんかマジになっちゃって。ほんとゴメン」
済まなそうに言う保田を見て、加護は何だか照れくさい気持ちになった。
「いいですよ。全然気にしないで下さい。それに、何かワクワクしたし」
呆気にとられた表情の保田。それを見て、思わず梨華は吹きだしてしまった。
「何?石川ー。なんかおかしい?」
「い、いえ・・・あいぼんって、大物だなあって思ったんです」
きょとんとしている加護を見ながら、保田もうなずいた。
(凄い子が入ってきたわね・・・)
保田は、加護を立たせると、服の汚れを払ってやった。
「石川。この子、しっかり教えるんだよ。素質充分みたいだし」
驚いて、加護は保田の顔を見た。こちらを振り向くと、保田はニッと笑った。
「あんたも、入ったからには最後まで根性入れてやってよ。石川の言う事聞いてね」
「は、はい」
「じゃ、今日はもう帰るわ。明日は楽しみにしてるから。加護も連れてきたら?」
何気ない一言ではあったが、加護にとっては嬉しい一言だった。
「あ、ありがとうございます」
「うん。じゃ、頑張って練習しなよ」
保田は、梨華からスポーツドリンクを受け取ると、部室の方へ向かった。
「ね、いい先輩でしょ」
梨華がそう言うと、加護はこくりとうなずいた。
32Sの住人 : 2001/03/25(日) 03:11 ID:iz4fXEK2
−28−
保田が帰った後、梨華は、あらためてテニスというスポーツについての説明を始めた。
ルールや、基本的なボールの打ち方などを、実際にやってみせる。
加護の真摯な眼差しは、梨華にとって心強く感じられた。
(こんなに一生懸命聞いてくれるんだもん。私も頑張らないと)
加護は加護で、自分一人しか居ないとはいえ、これだけ一生懸命教えてくれる梨華に、
ますます惹かれていくのを感じた。
(梨華ちゃん・・・)
やがて日も暮れかけた頃、校舎の方から、顧問の中澤が姿をみせた。
「石川ー、遅くなってすまんなーって、その子、誰や?」
「あ、先生。実は、新しく部員が入ってくれたんですよー。一年の加護さんです」
「加護亜依っていいます。未経験者ですけど・・・よろしくお願いします」
「ふーん・・・よろしくな。とりあえず、石川の言う事聞いて、しっかりやるんやで」
そう言う中澤は、ほっとしたような表情を浮かべていた。
これで練習に付き合う量も多少減らせるというのが、正直な想いなのだろうが。
「はい。頑張ります」
加護はそう答えると、梨華の方を向いて、Vサインをした。
梨華は思わず吹きだしてしまったが、すぐにVサインをし返した。
「ナニしとんねん・・・そろそろ日も暮れるし、今日はもう帰りぃ」
「はい。先生」
声をそろえる二人。
33Sの住人 : 2001/03/25(日) 03:12 ID:iz4fXEK2
「じゃ明日、ね」
「うん。バイバイ、梨華ちゃん」
梨華と別れると、加護は家に急いで向かった。
(あれ作るんには材料そろえんとな・・・道具も・・・)
心は、すでに明日の花見の事で一杯だ。
(そや、ののに連絡せんと。もしあれやったら一緒に買い物してもええし)
加護は、辻の携帯に電話した。
「もしもし、のの」
「あ、亜依ちゃん。何?」
電話口の辻の声が、何だかウキウキしている。
「うん・・・のの、明日ヒマ?」
「あっ、お花見でしょ。ごとーさんに聞いたよ」
そう聞くと、加護は気が楽になった。
「そっか。じゃあ、もう弁当の材料とか買った?」
「うん。亜依ちゃんは?」
「これからやねん。ま、楽しみにしててな」
「わかったー。じゃーねー」
電話を終えると、加護は素早く腕時計をみた。
(やば、早くスーパー行かんと)
加護の心はますます燃えている。空を見上げると、雲一つない。
(明日晴れんかったら、神様、ゆるさんでー)
34Sの住人 : 2001/03/25(日) 03:13 ID:iz4fXEK2
−29−
加護の念が通じたのか、絶好の花見日和となった日曜日。
早くから場所取りに来ていた辻と加護に加えて、梨華、吉澤、保田、
そして、後藤が眠そうに眼をこすりながら現れた。
「ごっちん相変わらず朝弱そーだね」
吉澤はにやにやしながら、後藤の肩をゆする。
「うん・・・なんかこの季節は特にねー」
「それより、加護、その格好なに?お祭り気分なのは判るけどさ・・・」
保田が皆の気持ちを代弁したかの様に尋ねた。
頭に鉢巻、ハッピ姿の加護は、得意げに鼻をこすりながら
「これがうちが得意料理作るときの正装ですねん」
ときっぱり答える。そして、目の前に広げていた風呂敷をさっととるや
「じゃじゃーん。本場仕込みの味、食べてもらいますー」
そこには使いこまれたたこ焼き機一式が、春の麗らかな光を浴びて、燦然と輝いていた。
おもわず、呆気にとられた顔の保田、吉澤、後藤。梨華は一人、凄いを連発している。
「辻も手伝います」
つかみはOKとばかりに、ガッツポーズの二人。
「つじちゃーん、私の分つくってー」
そう言うと、後藤は辻の側に腰をおろした。
梨華は興味しんしんといった感じで、加護に寄り添っている。
(ちっ、加護ちゃん、やるな)
すっかり出遅れたと感じた吉澤だったが、負けじと持参のバスケットを開ける。
35Sの住人 : 2001/03/25(日) 03:14 ID:iz4fXEK2
「梨華ちゃーん、ゆで卵あるよー」
「あっ、食べたーい」
すかさず反応する梨華。吉澤のゆで卵は天下一品であった。
「よっすぃ、私もー」
「吉澤、私の分はー」
後藤、保田も手をのばす。
(急いで作らんと)
加護はちらりと吉澤をみた。吉澤は、梨華のために卵の殻を剥いてやっている。
(くそー、よっすぃ、やるなー)
「はい、梨華ちゃん。あーんして」
「あーん」
吉澤の持っているゆで卵に、梨華はかぶりついた。
「おいしー、よっすぃ、さっすがー」
そういって梨華は吉澤に抱きついた。
「あっ、ダメだよ梨華ちゃーん」
そう言いながらも吉澤の顔はおもいっきりニヤケている。

「亜依ちゃーん、焦げちゃうよぉ」
梨華と吉澤がいちゃついているのを横目に、加護はじっと我慢していた。
「まだひっくりかえさなくていいのー?」
辻が不安そうにこっちを見ている。
「だいじょーぶや、うちを信じぃ」
そう言って、加護はぎゅっと鉢巻を締めなおす。
(みとれよー)
36Sの住人 : 2001/03/25(日) 03:18 ID:iz4fXEK2
−30−
「加護ちゃーん、美味しいよ、これ」
「さっすが奈良出身」
満開の桜の下に漂う、香ばしいたこ焼きの香り。
近くにいる花見客も、なんとなく羨ましそうにこちらを見ている。
「梨華ちゃん、どや?焼き方にコツがあるねん」
「うん。凄く美味しい。あいぼん天才」
ニコニコ顔の梨華をみて、加護はウキウキ気分だ。
ふと隣をみると、辻も後藤に誉められているのか、嬉しそうにしている。
「あいぼん、汗すごいよ」
梨華はポケットからハンカチを取り出すと、加護の額の汗を拭いた。
驚きつつも、嬉しさを隠せない加護だった。
(ハァァ・・・来てよかったなあ)
「加護ちゃん・・・やるじゃん」
いつの間にか隣に来ていた吉澤が、肘でつつく。
「まーねぇ」
鼻を鳴らしながら答える加護。
「くっそー、こいつむかつくー」
吉澤に頭を抱え込まれ、ぽかぽか叩かれながらも、加護は満ち足りた気分だった。
その時、
「おっ、楽しそうやな」
と聞き覚えのある声がした。
37Sの住人 : 2001/03/25(日) 03:19 ID:iz4fXEK2
「あっ、先生」
加護が見るとそこには、顧問の中澤と、その傍らに、どこかであったような女性がいる。
「平家せんせー、何やってるんですかー、こんなところでー」
後藤ののんびりとした問いかけに、
「なんや後藤、先生が花見したらあかんのかぁ」
と関西弁で切り返すのは、弓道部顧問の平家だった。
「自分ら、なんか美味しそうなもん食べとるなあ、よっこらせと」
中澤はあたりまえの様に腰をおろすと、
「ほら、加護、せんせーにもご馳走してや」
と言うと、担いでいた一升瓶の栓を抜いた。
「先生、相変わらずですねー」
呆れたように保田が言ったが、まったく気にならないらしい。
「ほら、みっちゃんも座りぃ。ほんとに先生思いの、ええ子らや」
「ゆうちゃん、ちょっとは遠慮せんと・・・」
そう言いながらも、腰をおろす平家。毎度の事なのか、誰もツッコミを入れようとはしない。
まあ、つっこんでも無駄なのは確かなのだが。
「ほら、保田はOKやろ、一杯いこ、な?」
中澤の執拗な誘いに、日本酒入りのコップをしぶしぶ受け取ると、口を付ける保田。
「他のみんなも、今日は先生、大目にみるからな。欲しかったら言うんやで」
そう言う中澤の頬は、すでにほんのり赤く染まっている。
(一体どうなるんやろ・・・)
たこ焼きを焼きながら、加護の不安はどんどんと大きくなっていった。
38Sの住人 : 2001/03/25(日) 03:21 ID:iz4fXEK2
−31−
一時間後。
陽気に誘われてか、花見客はますます増えている。
たこ焼きも一段落ついて、宴会モードに入った梨華達だった。

「へへへ、りかちゃーん」
顔を真っ赤にしながら、加護が背中から抱きついてくる。
「あ、あいぼん、お酒のんでるー」
梨華の知らないうちに、どうやら中澤に飲まされたらしい。
すっかり出来あがった中澤が、にやにやしながらこちらを見ている。
抱きつきながら、加護は梨華の胸に手をのばしてきた。
「あー、りかちゃんの胸、おっきーい」
「あ、あいぼん、やめてー」
梨華は必死に抵抗するが、それがますます加護を暴走させるらしい。
「りかちゃん、いい匂いするー、何使ってるのかなー」
梨華の首筋に、鼻を近づける加護。男がやれば犯罪ものだが、
相手が加護だけに、強く振り払えない梨華。
「こらっ、なにしてんねん」
そこへ、スパーンという景気のいい音と共に、丸めた新聞紙片手の、吉澤のツッコミが入った。
「あっ、よっすぃー、助けてー」
梨華はすかさず、吉澤の背後にまわりこもうとした。
しかし、その瞬間、正面から吉澤にがっちりと抱きしめられる。
「よ、よっすぃ?」
「梨華ちゃーん、ダメじゃない。いやな時はいやって言わないと」
「う、うん」
「大丈夫?変な事、されてない?」
そう言いながら、吉澤は、ぐんぐんと梨華に顔を近づけてくる。
39Sの住人 : 2001/03/25(日) 03:22 ID:iz4fXEK2
よくよく見ると、どうやら、吉澤もお酒を飲まされたようで、妙に目がすわっている。
「梨華ちゃんの唇は、私のものなんだから」
「よ、よっすぃ、何言って・・・」
すっかり混乱している梨華を無視して、吉澤は強引に迫ってきた。
「ちょっと待ったぁ」
ひゅっと風を切る音と共に、ぺしゃっと音を立てて、さめたたこ焼きが吉澤の頬にはりついた。
「りかちゃんを苛める奴は、この加護様が許さへん」
何時の間にか、ハッピ鉢巻姿に戻っている加護が、してやったりという表情を浮かべている。
「やってくれるじゃなーい」
梨華から体を離すと、頬についたたこ焼きを口に入れながら、吉澤は加護の方に向き直った。
「おっ、何や、勝負か、勝負」
「加護ちゃん、かっこええなあ」
事態をまるっきり面白がっている中澤と平家。後藤と辻は何も知らずに眠っている。
保田は少し前に酔いを覚ましに行ったまま、戻ってこない。
「もー、二人とも、やめてよー」
梨華がそう言うのも聞こえていないのか、お互いの瞳の奥には、闘いの炎が、
めらめらと燃えあがっていた。
40Sの住人 : 2001/03/25(日) 03:23 ID:iz4fXEK2
−32−
「もー、どこ行っちゃったんだろう、保田先輩・・・」
自分独りでは、もうどうしようもないと思った梨華は、
火花を散らす二人を残して、保田を探しに飛び出した。
(大丈夫かな・・・まあ、いざとなったら、先生が何とかしてくれると思うんだけど・・・)
梨華は、酔っ払いモードの中澤の恐さを知らなかった。
知っていれば、間違ってもそんな事は思わなかっただろう。
(それにしても・・・凄い綺麗)
いつの間にか花見見物する人の姿もまばらになってきて、辺りは満開の桜だけだ。
梨華は立ち止まると、大きく息を吸った。
桜の匂い。甘い匂い。春の匂いだ。
梨華は目を閉じると、しばらく桜の香りを楽しんだ。
(んー気持ちいい。春ってやっぱり素敵)
その時、梨華の耳に、聞きなれた音が聞こえてきた。
(あれ・・・これって・・・)
梨華は目を開けると、その音がする方へ向かった。
41Sの住人 : 2001/03/25(日) 03:24 ID:iz4fXEK2
その頃。
残された吉澤と加護は、ひたすらたこ焼きに熱中していた。
きっかけは
「よっすぃには、たこ焼きやったら絶対まけへん」
と云う、加護の一言だったのだが。
勿論、酔っていなければ、吉澤は加護の敵ではなかっただろうが、
具を混ぜる手付きすら怪しくなっている今は、結構いい勝負になるかもしれない。
「どーしたの、加護ちゃーん・・・ぼろぼろじゃなーい」
「そーゆーよっすぃはどうなの?ちゃんと焼けてるのかしらぁ」
平和な勝負になったのがつまらないのか、再び酒を飲み始める中澤と平家。
たこ焼きの匂いに誘われたのか、辻は半分寝ぼけまなこで、鼻をくんくんとさせている。
そこへ、保田が大きく伸びをしながら戻ってきた。
「はー、すっきりした。あれ、石川は?」
「おっ、保田、どこ行っとってん。ほら、飲みぃ」
獲物を見つけたライオンのような素早さで、日本酒を差し出す中澤。
「もー、駄目です。それより、石川は」
「ああ、石川やったら、あんた探しに行くゆうて、さっき出ていったで。会わんかったか」
「いえ。じゃ、あたし、ちょっと見てきます」
引きとめようとする中澤を振り切ると、保田は自分が戻ってきたのとは反対方向へ向かった。
(ったく、世話がやけるんだから)
そう思いつつも、石川が自分を気にしてくれたという事に、
なんとも云えない喜びを感じる保田だった。
42Sの住人 : 2001/03/25(日) 03:25 ID:iz4fXEK2
−33−
(やっぱり・・・ボールを打つ音・・・)
桜並木を抜けた先には、テニスコートがあった。
市営のコートらしいが、梨華が見渡した限りでは、使われているのは奥の方の一面だけの様だ。
ボールの弾む音が、途切れる事なく、リズミカルに続いている。
(誰かな・・・女の子みたいだけど)
梨華は、そのコートの方へ足を向けた。
近づくにつれ、ラリーを続ける少女達の声が、耳に入ってくる。
「粘るねー、明日香ー。現役復帰できるんじゃない」
「紗耶香こそ、全然、腕おちてないよ」
梨華は、紗耶香と呼ばれた少女の方を見た。
Tシャツにジーンズというラフな格好で、髪はショートカット。
一見、男の子と見間違えそうだが、よく見れば、整った顔立ちをした美少女である事がわかる。
その、無駄のない動きと、フォームに、梨華の目は釘付けになった。
(かっこいい・・・年は私とそんなに変わらないみたいだけど)
梨華は記憶の中から、自分が大会などで見てきた選手達の顔を呼びさました。
が、その、紗耶香と呼ばれる少女を見た覚えは無かった。
「あ、危ない」
叫び声と共に、梨華の体を何かがかすめた。
はっと我に返った梨華の方に向かって、その少女が駆け寄って来た。
43Sの住人 : 2001/03/25(日) 03:27 ID:iz4fXEK2
「ゴメンなさい・・・ボール、ぶつからなかった?」
「あ、いえ、大丈夫です」
そう言いながら、梨華は足元に転がっているボールを拾って、紗耶香の方を見た。
心配そうに、こちらを見ている。黒い瞳が印象的だ。
「あの・・・凄い上手ですね」
思わず口に出た言葉だったが、紗耶香は嬉しそうだった。
「ありがと。あなたも、テニスやる人?」
「あ、はい。ダブルス中心なんですけど」
「へえ・・・ねえ、よかったら、ちょっと打ち合いっこしてみない」
そう言うと紗耶香は、明日香と呼ばれた少女の方を向いた。
「ねー、明日香ー。ちょっとこの子と試合したいんだけど、いいかなー」
一瞬、びっくりした表情を浮かべたものの、すぐに、やれやれといった感じで首をすくめて、
明日香はコート脇のベンチに腰掛けた。
「ね、いいでしょ」
梨華は戸惑っていた。どちらかというと人見知りがちなだけに、初対面でいきなり試合を
申し込んでくる紗耶香の真意が判らなかった。
しかし、同時に、やってみたいという気持ちもあった。
基本的に、梨華は負けず嫌いであった。もちろん、本人はそうは思っていないのだが。
「じゃ・・・少しだけ」
44Sの住人 : 2001/03/25(日) 03:28 ID:iz4fXEK2
−34−
「ほんと?よーし」
紗耶香ははずんだ声で言った。
「なーんかドキドキするなあ」
梨華も同じ気持ちだった。少なくとも、昨日までの自分なら、こんな誘いにのる事すら
出来なかった気がする。そう考えると、少しずつでも成長している気がして、嬉しくなった。
「あの・・・あんまり期待しないで下さい。そんなに、上手くないんで」
「大丈夫、あたしだって、見かけ倒しだからさ」
そう言って、紗耶香はニコッと微笑んだ。
(なんだろう・・・なんか、保田先輩に似てるかも)
梨華がぼんやりとそう思っている間に、紗耶香は、すたすたとコートの方へ歩いていく。
明日香は、ベンチから立ち上がって、二人のラケットを準備している。そこへ、
「おーい、市井、福田ー。そろそろ戻るぞー」
という声がした。見ると、コートの脇の小道から、背広姿の男が手招きをしている。
「えー、これからなんですけどー」
紗耶香が不満気に答えた。明日香は、何も言わずに、梨華の方をじっと見つめている。
梨華は、思わずうつむいてしまった。
「おいおい、もう2時間以上ここにいただろ。そろそろ戻らないとまずいんだって」
男は諭すように言った。多分、二人のコーチか何かだろう、と梨華は思った。
「はあ・・・」
紗耶香は、梨華の方に向き直ると
「ごめんねー、私の方から誘っといて・・・」
と、済まなそうに言った。
45Sの住人 : 2001/03/25(日) 03:29 ID:iz4fXEK2
「いえ、いいんです、そんな」
梨華は恐縮したように手をふった。明日香は、既に帰る準備を始めている。
「私、市井紗耶香。あなたの名前は」
「あ、石川梨華っていいます。中3です」
「ホントに?じゃあ、ひょっとしたら、地区予選で合えるかもね」
紗耶香は、手早く荷物をまとめると、梨華の方へ歩み寄って来た。
「もし、地区予選で戦う事になったら、その時はよろしくね」
そう言うと、紗耶香はすっと左手を差し出す。
梨華は、やや汗ばんだ右手を裾で拭くと、紗耶香と握手した。
(サウスポーなのかな・・・市井さん)
「じゃ、またね」
そう言うと、紗耶香は駆け足で、男と明日香の方へ戻っていく。
男と明日香は、梨華に向かって軽く会釈すると、小道の奥の駐車場の方へ向かった。
やがて、三人の姿が梨華の視界から消えた後、
「石川ー、何やってるの、こんなところでー」
と声がした。振り向くと、そこには保田の姿があった。
「あっ、保田先輩・・・」
「もー、探したんだからー」
そう言って、保田は軽く梨華の手をつかむと、ぐっと引き寄せた。
「はい、さっさと戻るよ。もう、吉澤と加護が大変なんだから・・・」
「はあ・・・」
梨華は保田にぐいぐいと引っ張られながら、自分は何か夢でも見ていたのかとも思った。
しかし、それが夢で無い証拠に、梨華の右手には、さっき拾った黄色いテニスボールが
握られていた。よく見ると、そのボールには、緑色の刺繍で「Sayaka」と書かれてあった。
46Sの住人 : 2001/03/25(日) 03:34 ID:7AyNprVk
−35−
「りかちゃーん・・・むにゃむにゃ・・・」
「石川ー、何甘やかしてるのさ」
「だって・・・かわいいんですもん」
時計の針が四時を指し、いよいよ盛り上がるグループもあれば、いそいそと帰り支度を始める
家族連れもいる。
あれから、みんなの元に戻った梨華達だったが、時既に遅く、後藤を除く全員が、
酔いつぶれてしまっていた。
「起きたらみんな寝てるしさ、圭ちゃんと梨華ちゃんはいないしさ。びっくりしたよー」
そう言いながら、吉澤作の、キムチ入りたこ焼きに舌鼓を打つ後藤。
梨華は、そんな後藤に相槌を打ちながら、加護を膝枕で寝かせている。
「あれ・・・そういえば石川、その右手に持ってるのって・・・」
保田は、梨華が右手に持っているものに気づいた。
「ああ、これ、さっきいたコートで拾ったんです」
そう言いながら、梨華はテニスボールを保田に渡した。
保田は受け取って、しばらく手で玩んでいたが、やがて、刺繍された名前に気づいたのか、
はっとした表情になった。
「返そうと思ったんですけど・・・なんか急いでたみたいで、返しそびれちゃいました」
梨華が照れ隠すように言うと、保田は突然、梨華に詰め寄った。
「えっ、石川、紗耶香に合ったの?」
47Sの住人 : 2001/03/25(日) 03:35 ID:7AyNprVk
「あっ、は、はい・・・先輩、知ってる人なんですか」
「えっ、石川、紗耶香の事知らないの・・・そっか、私が中一の時の事だから・・・」
戸惑いの表情を浮かべる梨華を前に、保田は、その頃の事を思い出していた。

(天才って言われるの、好きじゃないんだ)

(圭ちゃんは、私のライバルだから)

(帰って来るよ、絶対)

「・・・先輩?」
我に返った保田は、不安げにこちらを伺っている梨華に気づいた。
「あの・・・やっぱり、これ返さなかったの、マズかったですよね・・・」
そう言ってうつむく梨華を見て、保田は思わず吹きだしてしまった。
「先輩・・・」
「ゴメンゴメン、そんな事気にしなくても大丈夫。それより・・・」
保田は、手にしていたボールを梨華に渡した。
「これは石川に預けとくから。あんたがこれを拾ったって事は、たぶん偶然じゃない」
「えっ・・・」
「きっと近いうちに紗耶香に会う・・・そんな気がするんだ」
そう言った保田の表情は、なんだか晴れ晴れとしている。
梨華には、保田に尋ねたい事が一杯あった。
ただ、今はそれを聞くときじゃない、梨華に判るのは、それだけだった。
48Sの住人 : 2001/03/25(日) 03:36 ID:7AyNprVk
−36−
「はあ・・・なんか違うかも」
圭織は今まで書きこんでいた原稿用紙をくしゃくしゃと丸めると、部室の入り口の側にある、
ごみ箱目掛けて放り投げた。
その直後、扉を開けて入って来たのは、後輩の矢口真理だった。
「圭織・・・あたっ、何してんのさー」
矢口は、額にぶつかって落ちた、丸めた原稿用紙を広げると、溜息をついた。
「何、まだシナリオ出来てないわけー。もう締めきりはとっくに過ぎてるんですけどー」
そう言いながら、冷蔵庫から烏龍茶をとりだすと、お気に入りのプーさんマグカップに
なみなみと注ぐ。
「春って素敵よね・・・なんかこう、ぼーっとしたくなるっていうか・・・」
圭織は窓のすぐ外にある桜を見ながら、ぽつりとつぶやく。
「ぼーっとする前に、さっさとシナリオ書く。さあ、みんな待たせてるんだからね」
マグカップ片手に圭織の側に腰掛けると、いらいらした口調で矢口は言った。
「わかってるよ・・・わかってるんだけどさあ・・・なんか、ひらめくものが無いんだよね」
深い溜息をついて、圭織は立ち上がると、扉の方へ向かった。
「あれ、どこ行くの」
「ちょっとジュース買ってくる」
「逃げないでよ。文句言われるのは、あたしなんだからね」
矢口の強い口調に、手を振って答えると、圭織は渡り廊下へ向かった。
49Sの住人 : 2001/03/25(日) 03:37 ID:7AyNprVk
「ほんとにごめんね、梨華ちゃん。うち、昨日の事、全然覚えてへんねん」
「もういいって、それより、あいぼんの違った一面もみれたし」
梨華がニコニコしながらそう言うのを聞いて、加護はひとまずホッとした。
「胸にさわられた時は、びっくりしたけどね」
「えっ、うち、そんな事したん?」
加護は思わず自分の手のひらをまじまじと見つめる。
「いやーだ、あいぼん、思い出さないでよー」
呆然とする加護の腕をとって、梨華は部室の方へ歩きだす。
ちょうどその時、廊下の角から急に圭織が現れた。
よける間もなく、梨華は圭織とぶつかって、床に転んでしまった。
「あいたたた・・・何ー、危ないじゃない」
圭織は制服の裾を払うと、ぶつかって倒れた相手を睨みつけた。
「あっ・・・ご、ごめんなさい」
そう言いながら、梨華は上目使いでこちらを覗う。
その姿を見て、圭織は胸がドキッとするのを感じた。
(か、可愛い・・・この子)
同時に、圭織は、鋭い視線を感じた。視線の主は、加護だった。
(ん・・・何、あの子)
50Sの住人 : 2001/03/25(日) 03:38 ID:7AyNprVk
−37−
(なんやねん、梨華ちゃんだけ悪いみたいに云うて・・・)
加護は内心そう思いながら、梨華に声をかけた。
「梨華ちゃん、大丈夫?」
「あ、うん、大丈夫」
ほっとしながら、もう一度圭織の方を見ると、圭織の視線は、梨華の方に注がれていた。
(なんや・・・気になるなあ。それにしても・・・)
加護は改めて圭織を見返した。なんといっても、まず背の高さに威圧感を感じる。
長い黒髪、そして、大きな瞳が印象的だ。まず、美人と言える部類に入るだろう。
(高等部の先輩かな・・・なんか見た事あるような)
梨華は立ちあがると、圭織に向かってぺこりと頭を下げた。
「あの、本当にすみません。私がよそ見してたから」
それまで、梨華をじっと見つめていた圭織は、あわてて手を振った。
「いや、なんか圭織も大人げ無かったかな・・・ごめんね」
そう言いながら、圭織はすっと梨華に近づくと、梨華の制服についた埃を払い始めた。
「私、高等部3年の飯田圭織。あなた、名前は」
「あの・・・中等部3年の、石川梨華です」
(梨華ちゃん・・・か。名前も可愛いのね)
圭織は体を梨華にぴったりと密着させた。
(ふふ・・・なんかぎゅってしたら壊れそうな感じ)
51Sの住人 : 2001/03/25(日) 03:39 ID:7AyNprVk
「あ、あの・・・」
とまどう梨華を気にせずに、そのまま肩に手をまわす。
「あのさ、ちょっとイイ話があるんだけど・・・聞きたくない?」
そう言いながら、華奢な梨華の体を、ぐいぐいと引っ張っていく圭織。
「え、そんな、急に言われても・・・」
梨華は助けを求めるように後を振り返った。しかし、そこに加護の姿はない。
(あれ、あいぼん・・・)
「待って下さい」
圭織の動きが止まる。梨華が向き直ると、そこには通せんぼをする加護がいた。
「何?なんか用」
「石川先輩はこれから部活があるんです。話なら、後にしてもらえませんか」
標準語で加護はきっぱりと言った。
ムッとした表情の圭織を見て、あわてて梨華は圭織の前に出る。
「そうなんです。今はちょっと急いでるんで・・・後で聞かせてもらうんじゃ、駄目ですか」
そう言いながら、目で訴えている梨華を見ると、これ以上、無理強いは出来ないと圭織は悟った。
「ううん、そういう事なら全然。今度でいいよ」
そして、圭織は部室長屋の方を指差した。
「私、映画部の部長なの。何時でも遊びに来て。まってるから」
軽く笑みを浮かべた後、圭織は二人に背を向け、自動販売機の方へ歩いていった。
後には、あっけにとられた二人が取り残された。
「梨華ちゃん・・・知ってる人?」
「ううん・・・初めて会った人だけど・・・」
52Sの住人 : 2001/03/25(日) 03:40 ID:7AyNprVk
−38−
「ったく・・・遅いなー、圭織」
矢口はいらいらしながら、圭織が戻るのを待っていた。
部室には、矢口以外、誰もいない。
映画部は、名前こそあれ、正式な部員といえば、矢口と飯田の二人だけ。
飯田が脚本を書き、矢口がそれに手を加え、二人で監督するというスタイルをとっていた。
その際、撮影等のスタッフや、役者は、演劇部や文芸部などから連れてきたりして賄っていた。
今度撮る作品は、夏に行われる学生映画祭への出品作となる筈なのだが、
飯田の脚本が一向にあがってこず、矢口は頭を抱えていた。
(どうしよう・・・もしこのまま圭織が書けないんなら、私が書くしかないよな・・・)
ふーっと、大きく溜息をつく矢口。
「たっだいまー」
そこへ、元気な声と共に、圭織が明るい顔で戻ってきた。
「おかえりー」
そう返事した矢口の前に、圭織はすとんと腰をおろす。
「どうしたの、圭織・・・なんか機嫌良さそうじゃん」
「ふふ、まあねぇー」
圭織は手に持っていたカフェオレを飲み干すと、紙パックをごみ箱へ放りなげた。
「ないすしゅーと」
(何・・・なんでこんなにテンション高いわけ?なんか嫌な予感・・・)
不安げな矢口をよそに、圭織は鼻歌まじりに原稿用紙を広げた。
「さーて、書くぞー」
「えっ、圭織、書けるの?」
突然の事に、戸惑いながら矢口は尋ねた。
「ゴメンね、矢口ー。みんなには心配しないでって言っといて」
そう言いながら、圭織はすらすらとペンを走らせる。
基本的に、手書きでないと書けない圭織だった。
「う、うん・・・」
圭織に、どんなアイデアが思いついたのか聞いてみたくもあったが、せっかくノッているのを
邪魔したくはないと矢口は思った。
「じゃ、今日はもう帰るけど・・・ほんと、大丈夫?」
「だいじょーぶだいじょーぶ」
目線は原稿用紙に向けたまま、ピースサインを出す圭織。
矢口は、ふっと笑みをもらすと、部室から出ようとした。
しかし、圭織の次の一言で、矢口の足は止まった。
「矢口ー、そう言えば、あんた中等部の石川梨華って子、知ってる?」
53Sの住人 : 2001/03/25(日) 03:44 ID:7AyNprVk
お引越し&更新完了。
まったりと続きます・・・。

やっとなっちを出せそう。あと、メロンの柴田ちゃんも出す予定です。
54名無し娘。 : 2001/03/25(日) 23:28 ID:73dFo.ac
羊の小説総合スレッドで紹介してもよろしいですか?
また、今後更新情報を載せても良いですか?
55名無し娘。 : 2001/03/26(月) 01:06 ID:c/Asg9RA
やっと再開か。待ってたよ
それと早くもう一回いしよしのシーンやってね。しつこいけど(ワラ
56名無し娘。 : 2001/03/26(月) 06:32 ID:TFrxkGfg
祝・移転。
かおりか、待ってましたっ。嬉。
マターリ応援してます。
57名無し娘。 : 2001/03/26(月) 16:16 ID:MFVGA7oE
今気づいたんだけど、所々文を修正してる?
58名無し娘。 : 2001/03/27(火) 06:48 ID:EbJ0lnxE
再開オメデトウ。
そういえば、石川のテニスにおける
ライバル的存在は誰になるんだ?(市井?福田?柴田?まさか安倍?)
59てうにち新聞新入社員 : 2001/03/28(水) 14:06 ID:.iKe68xs
やっと見つけました。
狼時代から読んでます。
頑張ってください!
何かやすかごっぽいですね。
60Sの住人 : 2001/03/29(木) 03:37 ID:6Arv.5F6
読んで下さっている方々に感謝。
>54
こんなつたない妄想話でよかったら・・・よろしくです。
>55
いしよしは必ずやります。少し延びるかもですが。
>56
マイブームはかおりかですので・・・今後ともよろしく。
>57
一部書きなおしてますが、後は変えてないです。本当は全部直したい
(特に市井ちゃんのところ)んですが・・・
>58
それは言わぬが花ってことで・・・ただ、最後はライバル同士の闘いに
なると思います。一応、吉田秋生「解放の呪文」っぽくしたいな、と。
>59
やすかご・・・意外な反応ですね。そうなったらなったで面白いかも。
61Sの住人 : 2001/03/29(木) 03:40 ID:6Arv.5F6
なお、次の更新は木曜夜にでも。

昨日買った坂本真綾のアルバムがいい感じ。
ごとーソロはレンタルで・・・。すんません。
62名無し娘。 : 2001/03/29(木) 05:33 ID:PU3.hDK6
更新楽しみ
63Sの住人 : 2001/03/31(土) 02:19 ID:XuPczNjY
下手にいつ更新なんて書かないほうがいいかも・・・
次回は未定。土曜はさいたま、日曜は幕張に行かなきゃいかんので。
早くて日曜の夜です。
64名無し娘。 : 2001/03/31(土) 05:25 ID:bRaxAcZI
まあマターリいきましょう。待ってますんで
65名無し娘。 : 2001/04/03(火) 00:20 ID:72K.1y6U
hozen
66名無し娘。 : 2001/04/04(水) 06:21 ID:5xhC32eo
まだかなー
67名無し娘。 : 2001/04/06(金) 05:29 ID:WzTFRcAE
ほぜ〜ん
68名無し娘。 : 2001/04/07(土) 10:18 ID:.HPdAnKI
hozen
69名無し娘。 : 2001/04/08(日) 03:56 ID:AmXwEJKo
ほぜ〜ん
70名無し娘。 : 2001/04/10(火) 09:36 ID:P4YqEOFs
ほじぇん
71Sの住人 : 2001/04/11(水) 03:12 ID:5RiLWoX2
保全して下さっている皆様に感謝。
体調不良が続いていましたが、ようやく回復。
2、3日中には更新できるかと。

横アリの寸劇にて、妄想はさらにふくらみました。
ブレザー萌え〜。
72名無し娘。 : 2001/04/11(水) 07:07 ID:M8Vb9CGs
がんばれー
73アップ職人 : 2001/04/11(水) 14:23 ID:5TlieNmc
上げてやる
74名無し娘。 : 2001/04/13(金) 20:15 ID:uU00TMsg
上げておきます
75Sの住人 : 2001/04/14(土) 05:17 ID:fHizV3qw
−39−
「ありがとうございましたー」
客がいなくなった店内を見まわすと、矢口はカウンターに腰掛け、紅茶をすすった。
ここは矢口の両親が営む喫茶店。今日の様に、部活が早く終わった日などは、
店に出て手伝いをしている。
外はもう日が暮れようとしており、そろそろ学校帰りの高校生や、常連客が姿を見せる頃だ。
(石川梨華・・・ねえ・・・)
矢口は、頬杖をつきながら、部室での圭織との会話を思い出していた。

「石川・・・ああ、テニス部の子でしょ。知ってるよ」
放課後、一人で黙々と練習している姿を見た事があるものの、あまり印象にはなかった。
「えっ、テニス部なんだ・・・そう」
「何、圭織知らなかったの。じゃ、なんで石川の名前が出てくるわけ?」
「いや、ちょっと。そっか・・・テニス部ねえ」
圭織はペン先を止め、何か考え込んでいる様だった。
「圭織、どーしたのさ。石川がなんかしたの」
「うん・・・そーゆーわけではないんだけれども」
そう言いながら、圭織は書きかけの原稿用紙をくしゃくしゃと丸めると、
再びごみ箱に投げ捨てた。
「あれ、圭織・・・」
「ごめん、矢口。ちょっと一人にしてもらえるかな」
「うん・・・いいけど。じゃ、頑張ってね」
こめかみに手をあてて、うーんと唸っている圭織を残して、矢口は部室を後にした。
76Sの住人 : 2001/04/14(土) 05:18 ID:fHizV3qw
(なんで石川の名前が急にでてきたんだろ・・・もしかして)
ふいにある事を思いついた瞬間、店のドアが開き、客が入ってきた。
矢口はすかさず営業スマイルを浮かべる。
「いらっしゃいませー・・・ん?」
入ってきたのは、他でもない、石川梨華その人だった。
隣には、おそらく後輩であろう、背の低い女の子がぴたりと寄り添っていた。
手にはラケットを持っている。
「あのう・・・二人なんですけど」
「あ、それじゃ、こちらへどうぞ」
矢口はさりげなく、カウンターの出入り口に近い席に二人を案内した。
ここなら、近くにいても、さほど不自然ではない。
圭織の事もあってか、石川がどんな話をするのか、矢口は興味があった。
「今日はあいぼん頑張ったから、私がおごるね」
「えー、梨華ちゃん、そんな事言ってー、あとで後悔するよー」
お互い、笑いあいながら、二人は席についた。
矢口はメニューを渡すと、すこし離れたところで二人を見比べる。
(うーん・・・よく見るとかわいい子だな。圭織の好みかも)
77Sの住人 : 2001/04/14(土) 05:26 ID:fHizV3qw
やっとこ更新。

FUNを見るにつけ、やはり中澤姐さんの卒業は残念。
これから、いったい誰が石川さんを弄ってくれるのか・・・。
ここはやっすーor部長に期待するしかないか。たのんます。
78名無し娘。 : 2001/04/14(土) 06:52 ID:ZOvjvabM
更新に敬意を込めてage
79名無し娘。 : 2001/04/14(土) 09:39 ID:mC7rhRq2
狼に追い出された1にage
80Sの住人 : 2001/04/16(月) 01:54 ID:zXUCJGis
更新は月曜夜予定。今日はこの一言をいいたくて・・・

中澤姐さん、お疲れ。

寂しさを感じつつも、モーヲタを続けていこうと思う今日この頃。
81Sの住人 : 2001/04/17(火) 04:09 ID:FlNmIdZo
−40−
「あいぼんはさ、やっぱり、ベースライナー向きだと思う」
「ベースライナー?」
加護はいきなりそう言われて戸惑いの表情を浮かべる。
今日一日、試合形式の練習を含め、梨華からいろいろとテニス用語についてもレクチャーを
受けてはいたものの、まだまだ判らない事だらけだった。
「そう。ベースラインって、ようはコートの一番後ろのラインの事なんだけど、
その辺りまで下がって球を打つの。つまり、ストローク中心で試合をする選手の事なんだけど」
「ふーん・・・」
なぜ梨華がそう考えたのか、加護にはよく判らなかったが、ただ一つ、今日一日を通じて
わかったことがあるとすれば、それは、自分はテニスを好きになれるだろうという事だった。
そもそも、梨華と一緒にいたいという不純な動機から始めたとはいえ、さすがに自分は、
面白くもない事を続けられるタイプではないと思っていた。
それだけに、梨華と一緒に汗を流して、練習後に肩を寄せ合った瞬間のなんともいえない
充実感が、加護にとってはたまらなく心地好いものだった。
「あいぼん、きっと凄い上手くなるよ。私が保証する」
梨華はそう言うと、ニッコリと笑った。
(うわっ、梨華ちゃんカワイイ)
「そ、そうかな・・・」
俯き気味にそう答える加護の頬は、心持ち赤く染まっている。
「そうだよ。もうすぐ地区予選も始まるし。頑張らないとね」
82Sの住人 : 2001/04/17(火) 04:11 ID:FlNmIdZo
(なんだ、つまんないの)
さっきから二人の会話をさりげなく聞きつづけている矢口ではあったが、
たちまち、退屈してしまった。なんの事はない、テニスの話ばかりだったからだ。
(一体、圭織と石川の間に何があったのか・・・なんて、判るわけないか)
これ以上聞いててもしょうがない、と二人から離れようとしたその時、
「そういえば、あの飯田さんって人、何なんですかねー」
と、あいぼんと言われている少女が漏らした一言で、矢口の足はぴたりと止まった。
「うーん・・・なんか、不思議な感じの人だったよね」
そう言いながら、梨華は苦笑している。
(何、何があったのさー)
思わずつっこみたい衝動に駆られながら、矢口はじっと我慢した。
続けて、梨華が何か言おうとしている、まさにその時、
「カランカラーン」
と音をたてて、入り口のドアが開いた。
(んもー、こんな時にー)
83Sの住人 : 2001/04/17(火) 04:19 ID:FlNmIdZo
更新です。さて、ドアを開けて入ってきたのは・・・
考えてないんだな、これが。まさに行き当たりばったり。
誰が入ってくるかで、話はまったく変わります。さて、どーなるやら。
書いてる自分にもわかりません。

石川さんの茶髪、私的にはOK。ただ、飯田さんはどう思ってるやら・・・。

ハンニバル、とりあえず小説読まずに見ることをオススメ。
その後小説読んだほうが面白いと思う。
84名無し娘。 : 2001/04/18(水) 00:57 ID:CDFEShYY
ここ学園物の中じゃ一番好き。
Sの住人いいぞ。
85名無し娘。 : 2001/04/18(水) 05:37 ID:psuKlOTo
更新お疲れさま。…かおやぐ?

吉澤のメッシュより、後藤の黒髪の方が見た目のインパクトが強いというのが笑える。
石川のはいまいち。中途半端にギャルっぽいのが…悪くはないけど。吉澤が伸ばすみたいだから、ここは思い切ってショートってのもアリかも。というか、ショートきぼん。

…スレ汚し臭い。ゴメン。
86名無し娘。 : 2001/04/18(水) 22:54 ID:kvpPVbNg
>>85
おいおい、あんなに華奢で小柄な人間がショートにしたら
貧相に見えちゃうよ。やめれ〜(w
87名無し娘。 : 2001/04/19(木) 02:12 ID:ooNn3JZQ
ほぜ〜ん
88名無し娘。 : 2001/04/19(木) 10:44 ID:IRS9.23k
保全
89名無し娘。:2001/04/21(土) 03:38 ID:d4tOHtXs
hozen
90名無し娘。:2001/04/22(日) 00:06 ID:IKZn/mQo
期待&保全サゲ
>>86
http://up.e-chome.net/morning2ch_2429.jpg
結構似合うと思うが。
91名無し娘。:2001/04/22(日) 01:43 ID:rTABjRS.
目の前で見る石川は人形みたいでとてもかわいかった・・・
9285:2001/04/23(月) 01:03 ID:pWhkGaMc
>>90
そうそう、それを見てショートも悪くないじゃん、と。
>>91
握手会行ったのか。うらやまし…

ほぜむ。
93名無し娘。:2001/04/23(月) 10:12 ID:eI1h1M6I
切り方次第でチャム系かもね。石川のが繊細な顔してるけど。
94Sの住人:2001/04/24(火) 03:38 ID:fR9bzO/c
−41−
「あれっ、なっち・・・」
ドアを開けて入ってきたのは、矢口の親友、安倍なつみだった。
「どもー、なんかヒマそうにしてたからさー、寄ってみた」
なつみはそう言いながら、カウンター席について、メニューを一瞥する。
「あ、カプチーノプリーズ、ね」
「もー、今日は自腹だからね」
矢口がちらりと梨華達の方を見ると、一瞬、目があったものの、
梨華はすぐに連れの少女の方を向いて、話の続きを始めたようだ。
なつみが側にいることを気にしてか、ひそひそ話に変わっている。
(もー、気になるじゃんよー)
今日ばかりはなつみの事を恨みつつ、矢口はヤキモキしていた。
もちろん、なつみには、そんな矢口の気持ちなど、わかるはずもないのだが。
「はい、カプチーノ。飲んだらとっとと帰る。わかった?」
「えー、矢口冷たーい。なっち、何かした?」
なつみはぷーっと頬を膨らませる。
「圭織は圭織で何にも教えてくれないしさ。やんなっちゃう」
一緒に出したクッキーをぱくつきながら、なつみは呟いた。
95Sの住人:2001/04/24(火) 03:39 ID:fR9bzO/c
「え、なっち、圭織んとこ行ったの」
「うん、本の進み具合はどーかなーと思ってさ。でも・・・」
「でも?」
矢口は思わず身をのりだした。
「まだ見せられないってそればっかり。部室、追い出されちゃったもん」
「そっか・・・」
なつみの不満そうな顔を見て、矢口は溜息をついた。
話せるものなら話したいが、なにせ圭織がどんな話を書いているのかは、
矢口にも、見当がつかない。どうやら、石川と出会った事が、何か関係しているようだが、
今ここでそれを言うのはマズいと、矢口は思った。
「ねー、矢口は知らないの?一応、私は聞く権利あると思うんだけどな」
「うーん・・・実は矢口も知らないんだよね・・・。ただ、本人はめちゃやる気
みたいだから、もう少し、様子見てみようよ」
そう言いながら、矢口は、後で圭織に電話してみないと、と考えていた。
その時、再び音を立ててドアが開いた。
96Sの住人:2001/04/24(火) 03:44 ID:fR9bzO/c
更新です。体調悪し。皆さん風邪には注意しませう。

石川さんはやはりロングがよろしいかと。
握手会・・・行きたかったなあ。多分、こんなチャンス、二度とないかも。

BSスペシャルは泣けました。石川さんはもちろんだけど、
圭織の絵には萌えた。さすが新リーダー、頑張って欲しいです。
97名無し娘。:2001/04/24(火) 17:00 ID:jvaSRvj.
石川って目の前でみたら顔がすごく小さかった・・・
もちろんちょーかわいい
98名無し娘。:2001/04/25(水) 04:26 ID:73dFo.ac
hozen.
99名無し娘。:2001/04/28(土) 00:07 ID:TCfJRILw
保全
100名無し娘。:2001/04/28(土) 00:30 ID:5bdGNGk.
get100
101名無し娘。:2001/04/29(日) 04:23 ID:XK3GK03k
ほぜーん
102Sの住人:2001/04/29(日) 18:00 ID:9KLl6wS.
保全してくれてる方に感謝。
もうすこしお待ち下さいませ。

そろそろ石川さん欠乏症になりそう。いいかげんオソロにでてくれ・・・。
今は某スレのいしよし小説にハマリ気味。
103名無し娘。:2001/04/30(月) 03:20 ID:fbr5kjl.
いしよし期待ほぜーん
104名無し娘。:2001/05/01(火) 23:07 ID:igxHKXQw
ほいっ
105名無し娘。:2001/05/02(水) 05:29 ID:DPXj3h.c
りかっち保全
106名無し娘。:2001/05/03(木) 01:31 ID:wjtNJUrQ
ageときます。
107pentaresu:2001/05/03(木) 01:39 ID:7BscCBPw
名無し娘。さんはとても頭悪そうですね。
108名無し娘。:2001/05/04(金) 00:35 ID:lBCjSUd.
さげ
10985:2001/05/04(金) 04:27 ID:zpHKujoY
いしよし好きじゃないけど、思い切って読んでみた某いしよしスレのサスペンス風味な学園モノは面白かった。チャミ剣のやつ。
110名無し娘。:2001/05/05(土) 12:07 ID:7t1dBVbE
保全
111名無し娘。:2001/05/06(日) 06:21 ID:9aa4Hz1s
ホゼホゼ
112名無し娘。:2001/05/06(日) 21:28 ID:gCfSkCMc
保全
113名無し娘。:2001/05/07(月) 00:11 ID:M3GZKQqM
念の為
114Sの住人:2001/05/07(月) 03:45 ID:yn31rpCg
−42−
「見つけたー。梨華ちゃーん」
手をひらひらさせて入って来たのは、バレーボールを肩からぶら下げた吉澤だった。
「あっ、よっすい」
加護がしまったという表情を浮かべる間もなく、吉澤は加護の隣に腰をおろすと、
テーブルの下で加護の太股をぎゅっとつねりながら、梨華に向かってにっこりと微笑みかける。
「ごめんね、何か大事な話してた?」
加護の、何すんねんと言いたげな顔を無視して、吉澤は言った。
「ううん、ちょうど部活の話も終わったとこ」
「そっか。地区予選も近いもんね・・・お互い、大変だ」
「よっすいの方も、地区予選ってあるんだ」
やっと吉澤の手を引き離すと、加護が尋ねた。
「まーねー。年々数は減ってるけど・・・それでも、バレー部ある学校は多いからさ」
「また、応援しに行ってもいい?」
梨華が遠慮がちに言った一言に、吉澤の胸の鼓動は高まった。
(もー、なんでそんなにかわいいのよー、梨華ちゃん)
「もちろんだよー、やっぱ梨華ちゃんの『ファイトファイトー』がないとさー」
言いながら、吉澤はウインクする。
「やだー、よっすいったら、もー」
梨華は赤くなった顔を両手で隠した。
「えー、何、なんの事?」
そう尋ねる加護に肩を揺すられながら、吉澤はニヤニヤしている。
「どーしよっかなー。教えて欲しい?」
「ダメ、よっすぃ。言っちゃダメだからね」
115Sの住人:2001/05/07(月) 03:46 ID:yn31rpCg
「あれ、あの子・・・ひょっとして・・・」
入ってくるなり、石川達のテーブルに座り、話始めた女生徒に、矢口は見覚えがあった。
圭織とさほど変わらない、すらりと高い背丈。整った顔立ち。
(そっか、図書室の子だ)
矢口の脳裏に、昼間に在った出来事が蘇ってくる。

「うんしょ、うんしょ・・・もー、なんでよー」
昼休みの図書室。矢口は演劇関係の本棚の、上の方の本を取ろうとしていた。
が、悲しい事に、後数センチという処で届かない。
(くっそー、やっぱ牛乳飲まないとダメってことかぁ)
受付に行けば台を貸してくれるのは知っているが、それは矢口のプライドが許さない。
(仕方ない。ちょっと失礼して・・・)
矢口は、棚の下の方にある、厚めの本を何冊か重ねると、靴を脱いでその上に乗った。
「これでよし、と」
お目当ての本を掴むと、出そうとするが、なかなか引き出せない。
「うーん・・・」
スポンと音を立てて本を取り出したと同時に、矢口はバランスを失って、倒れそうになった。
「あっ・・・あれ?」
その瞬間、矢口の体はがっしりと受け止められていた。
116Sの住人:2001/05/07(月) 03:57 ID:yn31rpCg
中途はんぱに更新。保全して下さっている方に感謝。

ミュージカル見に行きました。予想より面白かった。
保田さんのソロが最高。やっぱ上手いし、聴いてて気持ちいい。
あと石川さんの腰のくびれが最高。ヲタ必見です。
ただ、やっぱA席12000円はなあ・・・。
それに、ミニコンサートいらないと思いました。
みんな立ったら、小さなお子様は見るのツライと思うんだけど・・・。
やはりミュージカルに徹して欲しかったです。

某スレのBWさんの小説は必読ですよー。
117名無し娘。:2001/05/07(月) 04:39 ID:78wbNvSM
微妙にいしよしだ・・・
118名無し娘。:2001/05/08(火) 06:05 ID:UeR9ctMI
今日の保全
119名無し娘。:2001/05/08(火) 08:03 ID:n2CB4KyQ
期待ほぜーん
120名無し娘。:2001/05/09(水) 05:46 ID:vGFsAnQw
更新お疲れさまですです。やぐよし…それもまたよし。

「LOVEセン」逝きました。ミニライヴはともかく、劇中曲で煽らないで欲しかった。リアクションに困るじゃないのよ。
役には必然性が感じられなかったけど、ヤスダさんは素晴らしかった。ソロ曲は歌声を聴いているだけで泣けた。
ヲタのモラルの無さには閉口。期待するだけ無駄だけど。内容自体は想像以上でした。
121名無し娘。:2001/05/10(木) 00:30 ID:GcTuikDs
hozen
122てうにち新聞新入社員:2001/05/10(木) 21:13 ID:4JME9Fpw
念のため保全
123:2001/05/11(金) 02:58 ID:Wvm4xBxU
>>1
>>1
>>1
>>1
>>1
>>1
>>1

壺飛び職人
124名無し娘。:2001/05/12(土) 02:21 ID:5FM8cc5Y
sage
125あはは:2001/05/12(土) 15:19 ID:sj2GtNg6
この小説を読んでいるやついるのかよ(w
126名無し娘。:2001/05/13(日) 00:37 ID:617Rd/q.
sage
127名無し娘。:2001/05/14(月) 04:42 ID:O9jgQaTM
ホゼーン
128名無し娘。:2001/05/14(月) 04:46 ID:V0wqyk4c
りかっちほぜーん
129名無し娘。:2001/05/15(火) 04:14 ID:Yg54LUv2
今日のほぜーん
130名無し娘。:2001/05/16(水) 08:20 ID:VEZ7trEg
ほぜーん
131Sの住人@仕事場:2001/05/16(水) 20:11 ID:ANcCW4oA
保全していただいている皆様、すんまそん。
先週水曜より、平均睡眠時間3時間弱、自由時間ほぼなしの、
超お仕事モードに突入。実は日曜朝から、家に帰ってません・・・。

とりあえず、明日夕方が最終納期なので、更新は明日夜、
死んでたら明後日夜になります・・・。もーすこしお待ちを。
132名無し:2001/05/17(木) 00:48 ID:o1HBP3qk

無理しないで体調を整えてよい作品を書いてください。
ROM専の自分には「読む」ことと「待つ」ことしか
できないけど、応援してますんで。
133名無し娘。:2001/05/17(木) 04:26 ID:7koP942I
がんがれ
134名無し娘。:2001/05/18(金) 01:56 ID:mLnnFy4o
hozen
135名無し娘。:2001/05/19(土) 12:29 ID:a6H6ntfc
hoken
136名無し娘。:2001/05/20(日) 11:40 ID:IWz/zWhI
hokan
137名無し娘。:2001/05/20(日) 23:20 ID:GhqX0OpE
gokan
138名無し娘。:2001/05/21(月) 02:33 ID:mTWpmlhc
まだかな
139Sの住人@死にかけ:2001/05/22(火) 05:10 ID:3VzpL96k
あれ・・・仕事終わらないぞ・・・なんで?

とりあえず、更新された時が、仕事から解放された時と思ってください。
予定では、今日の夜には終わってるはずなんですが・・・。
140名無し娘。:2001/05/23(水) 03:53 ID:klKoST6I
ほぜんしときまーす
141名無し娘。:2001/05/24(木) 04:28 ID:dd147sp2
hozem
142名無し娘。:2001/05/25(金) 04:10 ID:ACPl7pC6
まだ仕事なんだろうか
143Sの住人:2001/05/25(金) 05:54 ID:XQKkUwRs
やっと終わった・・・(泣)
どこの会社の、何て言う新製品の仕事かは言えないけど、
とりあえずそのメーカーの製品を買うことは一生無いでしょう。
N社のバカやろー。

とりあえず寝ます。今日の夜更新できたら嬉しいぞ、と。
保全してくれてた皆様にほんとーに感謝。
144名無し:2001/05/26(土) 01:06 ID:0WTp623c

お疲れさまです〜。
更新待ち保全!!
145Sの住人:2001/05/26(土) 04:57 ID:FZ/iJ5bM
42続き

「大丈夫ですかー?」
少し低めのトーンの声に矢口が振り返ると、
そこにはやや驚いた表情の女生徒の顔があった。
何処かで見た事があるような気もするが、はっきりとは思い出せない。
制服から、自分を抱きかかえているのが、中等部の後輩であるのが判って、
矢口は恥ずかしさのあまり、顔が真っ赤になった。
そんな矢口の心情を知る由もなく、女生徒は、本の散らばっていない処に、
軽々と矢口を降ろした。
「ありがと。お陰で助かった」
やや俯き加減で、矢口は言った。
本当なら、もっとちゃんとお礼が言いたいところだったが、相手が後輩という事もあって、
なんとなく素直に言えない気持ちにさせていた。
「いえ、怪我なくてよかったです。それじゃ」
特に気を悪くしたようでもなく、ペコリとお辞儀をして、女生徒は矢口の脇を通り過ぎていった。
(あーあ、行っちゃった・・・子供だな、私って)
やや、自己嫌悪に陥る矢口だった。
146Sの住人:2001/05/26(土) 04:58 ID:FZ/iJ5bM
「あれ、これって・・・」
吉澤は、目の前に置かれたフルーツパフェに、一瞬戸惑いながらも、
それを運んできたウエイトレスをまじまじと見た。
「もう忘れてるかもしれないけど・・・昼間のお礼。美味しいから食べて」
お盆を小脇に抱え、微笑む彼女の身長で、吉澤はすぐに思い出せた。
「ああ、図書室の・・・でも、そんな、大した事してないのに・・・」
ボリュームから察するに、そーとーお高いメニューなのは間違いない。吉澤は遠慮気味に答えた。
「いいの。気持ちだから。隣の子にも分けてあげて」
そう言われて、吉澤が隣を見ると、加護が指をくわえてパフェをじっと見つめている。
「んもー、恥ずかしい奴だなあ」
そんな吉澤の言葉が通じるはずもなく、加護は矢口の言葉に眼をキラキラさせている。
「じゃ、ゆっくりしていってね」
矢口はそう言うと、カウンターへ戻った。

「あれ、吉澤じゃない?バレー部の」
「えっ、なっち、知ってる子?」
パフェの争奪戦を繰り広げている吉澤と加護を見ながら、矢口は尋ねた。
「うん。中等部じゃ有名だよ。部長やってるし、下級生の子に人気あるみたい」
「へー、そうなんだ・・・」
争奪戦には決着がついたらしく、吉澤は加護を押さえつけながら、向かいに座る梨華に、
パフェを食べさせている。
時折、梨華が「よっすぃ、ハイ、あーん・・・」と言いながら、吉澤にパフェを
食べさせている姿が、なんとも微笑ましい。
しかし、同時に、もし今吉澤の向かいに座っているのが自分だったら・・・。
(やだ、何考えてるの私)
147Sの住人:2001/05/26(土) 05:09 ID:FZ/iJ5bM
よーやく更新。ペースあげたいです。

大阪LIVEの編集は今月末だそうで・・・はたして発売に間にあうのかしら。
ちょっと心配。時間かかってもいいんで、DVDマスタリングは
ちゃんとして欲しいです。SME様、頑張ってくださいませ。

たまってたオソロをようやく聴けた。
「イチゴが好き〜」に萌え。しずかちゃんずはやはり良い。
「ころもがええ」の圭織も良かった。
後は早く4人そろった放送を聴きたいです。
148ビリー・ジョー:2001/05/26(土) 05:16 ID:4y7pSHtE
おお、更新されてる。やぐよしもいいね。
でもやっぱ石川の「よっすぃ、ハイ、あーん・・・」が萌え・・・
149ののりか:2001/05/27(日) 00:32 ID:jI.Y6QLo
オモシロイ!! ほぜーん
150名無し娘。:2001/05/27(日) 11:46 ID:.ZjfACfM
おもしろいっす
加護VSよっすぃがイイ!
151名無し娘。:2001/05/28(月) 02:07 ID:hSz9hQWI
更新お疲れさまです。お仕事も。
このまままた〜りほのぼのは続くのかな…そろそろ波乱にも期待してみたり。

しずかちゃんずは、相変わらず絶好調ですなぁ。なにより、本人たちが一番楽しんでいる感じがイイ。いしやすのコンビネーションを超越してくれると嬉しい。
152名無し娘。:2001/05/29(火) 04:46 ID:DBVdKCZg
次回の更新がたのしみ
153Sの住人:2001/05/30(水) 04:56 ID:KYUdYSpo
−43−
矢口が妄想で頭がいっぱいになっているその時、
再び、カランカラーンと音を立てて、ドアが開いた。
見ると、そこには、矢口に向かってVサインをする圭織がいた。
「待たせたな、矢口」
ふっと不敵な笑みを浮かべる圭織。
そんな圭織を、あっけにとられた表情で見つめる梨華、加護、吉澤達。
「何やってんの圭織。こっちこっち」
なつみは慌てて手招きする。圭織は胸を張ったまま、すたすたとカウンターに
歩み寄ろうとしたが、近くの席の梨華達の存在に気づいた。
「あっ、梨華ちゃーん」
突然、人が変わったようにとろけた表情で、圭織は梨華に駆け寄ると、
後ろから羽交い締めにした。
「ちょーどよかったー。昼間はちゃんとお話出来なかったけど・・・良い話があるのよー」
圭織は梨華の耳元で囁く様に言った。梨華はあまりに唐突な出来事に、
どうリアクションしていいのか判らず、うろたえている。
「こら、梨華ちゃんに何すんねん」
すかさず、加護がそんな二人の間に割って入ろうと、席を立ちあがった。
154Sの住人:2001/05/30(水) 04:58 ID:KYUdYSpo
吉澤とて加護と気持ちは同じだったが、相手が高等部の先輩であると判っている以上、
無茶はできない。
「加護、ブレイクブレイク」
「あっ、よっしー、止めんといて。こら、あんた、梨華ちゃん嫌がってるやんか」
後輩にあんた呼ばわりされ、むっとした表情になった圭織だったが、
「嫌がっている」と言う言葉は気になったらしい。
「梨華ちゃん、私にこうされるの、嫌?」
圭織は、甘えた口調で、ますます梨華に密着しながら尋ねる。
「え、あの、嫌っていうか・・・なんていうか、その・・・」
正直に困っていると言えればいいのに、それが出来ない梨華だった。

「もー、圭織、何やってんの。ここは学校じゃないんだよ」
矢口はこれ以上ほって置けないとばかりに、カウンターから飛び出してきた。
「ほら、石川さんから離れて。今はうちのお客さんなんだからね」
しぶしぶ離れる圭織。梨華はほっと一息ついた。
「ごめんなさいねー。イっちゃってる先輩で」
「どーゆー意味よ」
不満気な圭織をぐいと後ろに押しやると、矢口はテーブルの上にケーキを並べた。
「これ、お詫びのしるし。これにこりず、また来てくださいねー」
続けて喋ろうとしている矢口を遮るように、圭織はぐいと身を乗り出して言った。
「ねえ、梨華ちゃん、あなた、映画に出る気ない?もちろん、主役で」
155Sの住人:2001/05/30(水) 05:04 ID:KYUdYSpo
更新です。読んでくれてる方に感謝。

そろそろ新展開に進みたい今日この頃。あと、なんとしても
メロンの柴田ちゃん&あさみを出したい。
基本はかおりか。ただし、いしよし、いしやす、いしかご、やぐよし、
そしていちごまになったりする予定。
156名無し娘。:2001/05/30(水) 05:34 ID:1IUUKUik
柴田も出るのか
ところであさみって誰だっけ?(w
157名無し娘。:2001/05/31(木) 00:10 ID:esbgSqlQ
あさみを出すならりんねも出したら?
158名無し娘。:2001/05/31(木) 03:39 ID:59gujSGE
更新お疲れさまです。
編集長かこいい〜。タラシな感じがなんとも。
そういや最近娘。板でかおりか見かけなくなったなぁ…。

あさみって、手レト「ハム太郎」のモデルになった子でしょ?
159名無し娘。:2001/06/02(土) 03:43 ID:3E0TFXNc
hozem
160名無し娘。:2001/06/04(月) 05:33 ID:n0LSjvoo
ほぜん
161Sの住人:2001/06/05(火) 03:40 ID:ETUTkOwc
−44−
「しゅ、主役?」
叫んだのはなつみだった。
「ちょっと、圭織、それどーゆー意味よ」
詰め寄るなつみに、圭織は戸惑いの表情を浮かべる。
「ん、何?なっち、何怒ってんの」
まるで心当たりがないのか、圭織はきょとんとしている。
なつみは、そんな圭織の態度に、信じられないという顔をした。
「忘れたの・・・ヒドい」
そう言うなつみの声は、怒りで震えている。
梨華は、そんな二人のやりとりを、黙って見ている事しか出来ない。
(何でこんなことになっちゃってるの・・・もぉやだぁー)
なつみの射るような視線に耐えられず、梨華は思わずうつむいた。
「映画の主役・・・梨華ちゃんが?」
「か、かっけー」
加護と吉澤は、そんな梨華に気づかず、お互い顔を見合わせて興奮している。
一方矢口は、あまりに突然の出来事に、呆然とするばかりだった。
「圭織の・・・バカっ」
首を捻って考え込んだままの圭織に向かって、なつみはそう言い放つと、出ていってしまった。
「あっ、ちょっと、なっちー」
矢口は慌てて追いかけようとしたが、無駄だと思ったのか、足を止めると、
圭織の方に向き直った。
162Sの住人:2001/06/05(火) 03:42 ID:ETUTkOwc
「圭織・・・あんた、自分が何言ったかわかってんの?」
「え、何、矢口まで。圭織、そんな変な事言った?そりゃ、全然相談しなかったのは
悪かったけども・・・」
事態が思わぬ方向へ進んだのか、圭織はしどろもどろに返事する。
圭織の性格を理解している矢口は、ふーっと溜息をつくと、肩を叩きながら言った。
「もー・・・悪気は無いのはわかるけどさー。その鳥頭、なんとかしなよー。
最初になっちを次の映画の主役にしようって言ったの、圭織じゃん」
矢口のその言葉に、圭織は絶句した。
「思い出した・・・?もー、今日は仕方ないからさー、明日、謝りなよ」
矢口はそう言うと、梨華達の方を向いて言った。
「ゴメンねー。なんか巻き込んじゃったみたいで」
「い、いえ・・・そんな、気にしてないです」
梨華は小さく手を振って答えた。
「あの、紅茶、美味しかったです。それじゃ、失礼します」
財布からぴったりの金額を出して矢口に手渡すと、梨華は加護の手を引いて
店から出て行こうとした。
「まって」
その時、圭織が梨華の背中に向かって声をかけた。
「ごめんね・・・でも、さっきの話、マジだから」
梨華は困惑した顔を圭織に向けた。そして軽く一礼をすると、ドアの向こうに
姿を消した。
163Sの住人:2001/06/05(火) 03:51 ID:ETUTkOwc
更新です。かおりかです。

今はなんといっても全仏オープンがアツい。アガシ最高。
毎晩WOWOWに釘付けです。この面白さ、どーやったら文章で
表現できるんだろう・・・。

あと、りんねさんも当然だします。
最近、松浦嬢にも少し心引かれているので、出すかもなあ・・・。

大阪城DVD、つんく氏のシーンはカットかも。
まあ、姐さんからメンバーへの挨拶がカットされてなきゃいいやって感じです。
164名無し娘。:2001/06/06(水) 01:34 ID:mTlBj/Kk
保全
165名無し娘。:2001/06/06(水) 12:23 ID:Lf.ZEqqs
お!作者はマジテニスファンだったのか。
俺も見てるぞ。wowowないから民放だけどな(w
おかげで朝が死ぬほどつらい…。
で、これからの展開は、劇とテニスどっちが主になるんだ?
166Sの住人:2001/06/07(木) 04:10 ID:Ezf50bIM
−45−
「さーて」
入り口に休業中の札をぶら下げると、矢口はカウンターに戻ると、
コーヒーをなみなみと注いで、圭織に渡した。
「邪魔もされないし。どーゆー事かじっくり聞かせてもらいましょうか」
頬杖をつき、厳しい顔の矢口を見て、一瞬躊躇しながらも、圭織は、意を決して喋り始めた。
「実はね・・・」

その頃、梨華達は商店街をてくてくと歩いていた。
既にすっかり日は落ちて、辺りは夕食の買い物をする人達などで賑っている。
「梨華ちゃん、どーするの」
加護は梨華の手をぎゅっと握り締めながら言った。
なんだか、あの先輩に、梨華を奪われそうな気がしたからだ。
「えっ・・・そんな、私はやる気ないよ。テニス部もあるし」
梨華はそう言って、心配そうに見つめる加護に向かってにっこりとした。
そんな梨華の笑顔に安心したのか、加護はぎゅっと梨華に抱きつく。
「そうだよねー。テニス部、これからだもんねー」
「こらー、加護くっつきすぎー」
吉澤は加護を梨華から引き離すと、間に割って入る。
「でも梨華ちゃん、あの先輩、結構マジだったみたいよ。大丈夫?」
そう言いながら、吉澤は梨華の肩を抱いた。
「もし無理矢理なんかやらされそうだったらさ・・・何時でも呼んで。助けに行くから」
そんな吉澤の言葉に、梨華は嬉しくなった。
167Sの住人:2001/06/07(木) 04:12 ID:Ezf50bIM
(よっすぃー・・・カッコいい)
「だいじょーぶ、梨華ちゃんにはうちがついてるもんね」
加護は吉澤の背中にタックルすると、振り返った吉澤に向かって、アカンベーをした。
「このガキー」
自分の周りで小競り合う二人をなだめながら、梨華は、圭織の姿を思い返していた。

「なるほどね・・・」
興奮状態で圭織が話終えると、矢口は軽く息をついた。
「どう、どう?なかなかのアイデアっしょ」
「んーまあねー。確かに悪くはないし、石川が主役ってのも納得だけど・・・」
でも、このままじゃなつみは納得しないだろうな、と矢口は思った。
元々、演劇部所属で、夏の学校祭での主役候補だったなつみに、映画主演の話を持っていって、
そちらの方を断念させているだけに、いくら圭織のアイデアが良くても、
簡単にOKは出せなかった。
「大筋はそれでいいけどさ・・・それって、なっち主役じゃ、成り立たないかなあ」
矢口は、何か大事な事を忘れているような気がしながら、圭織に言った。
「えー、だからぁ、さっきから言ってるじゃん。石川がテニス部部長ってのが、主役にした
理由なんだし・・・」
圭織はいらいらしながら答える。
「あっ」
その時、やっと思い出せたのか、矢口の顔はパッと明るくなった。
「何、まだなんかあるの?」
「なっち、元テニス部じゃなかったっけ?」
168Sの住人:2001/06/07(木) 04:19 ID:Ezf50bIM
更新です。アガシ負けた・・・これぞテニス。

今週のおそろはなんといっても梨華美(字はこれであってるのだろうか)
昔聞いてた某声優ラジオを思い出してしまいました・・・。サイコー。
ただ、世界標準のコーナーはやめた方がよいかと。ネタがいまいち。

>>165
今回の更新にてなんとなくさっしがつかれたかもしれませんが・・・
もう暫くお待ちを。よーやく本筋を始められそうです。
169名無し娘:2001/06/07(木) 09:28 ID:twXUkt2o
テニスファンなんだろうけど、テニスしたことあるの?

テニスボールに刺繍なんてありえない。せめてサインペンでマークとか
焼印とかにしないとね。
170名無し娘。:2001/06/08(金) 01:02 ID:2Ywbe9/E
……小森まなみ?
171名無し:2001/06/08(金) 10:29 ID:1ZQrjGiI
まみさんヲタは声優ヲタの中でも一番怖いよ
172名無し娘。:2001/06/10(日) 14:02 ID:GcTuikDs
hozen
173名無し娘。:2001/06/12(火) 19:06 ID:D8eMeIgI
hozen
174Sの住人:2001/06/13(水) 04:10 ID:Zn0JMyLk
−46−
「りーかーちゃん」
廊下を歩いている途中、突然手で目隠しされて、梨華は驚いた。
しかし、ぎゅっと密着してくる体の感触と、コロンの香りで、すぐに誰だか判った。
「いいだ・・・さん?」
手の目隠しが外され、振り向くと、圭織が嬉しそうに立っている。
「あたり。ところで今、時間空いてる?」
「はい。大丈夫ですけど」
梨華がそう答えるのを待っていましたとばかりに、圭織は梨華の手を引いて歩き出す。
「じゃ、ちょっと付き合って」
「あ、あの、どこへ・・・」
圭織にぐいぐい引っ張られて着いた先は、映画部の部室だった。
「連れてきたよー」
部室のドアをあけ、圭織は中に入る。
「何してんの。どーぞ、入って」
「は、はい・・・」
梨華はおそるおそる中に入った。
「わあ・・・凄い」
真っ先に目に飛び込んできたのは、壁のあちこちにディスプレイされた、
映画のポスターの数々だった。
見たことのあるものや、そうでないものも、実にバランス良く飾られている。
「あ、気にいった?一応、圭織のチョイスなんだけどね」
自慢気に言う圭織。
175Sの住人:2001/06/13(水) 04:11 ID:Zn0JMyLk
「飾ったのは私だけどね」
そうツッコミを入れる矢口は、ティーカップ片手に、座っている。
その隣には、なつみが、にこりともせず、梨華の方をじっと見ていた。
「あ、昨日はどうも・・・」
とりあえず何と言ってよいかも判らなかったが、梨華はぺこりと頭を下げた。
「まだ、圭織から話は聞いてないみたいね。お世話になるのは、私だから」
そう答えると、なつみは、自分の隣の椅子を、梨華にすすめた。
「とりあえず座って。話、長くなりそうだから」
「あ、すみません」
梨華が椅子に腰掛けると、矢口は空いたティーカップになみなみと紅茶を注いだ。
「はい、どーぞ。昨日店で出したのよりは、味が落ちるけど」
あたたかいダージリンティーを飲んで、梨華はやっと落ち着いた。
「さーて、役者もそろった事だし・・・梨華ちゃん?」
圭織は梨華の横に立ったまま、肩に手を置いた。
「昨日の話なんだけど・・・」
「あ、私、出来ません。映画の主役なんて」
あわてて首を振って、梨華は答えた。
「それはいいの。主役は、なっちにやってもらうから」
「そうですか・・・」
梨華はほっと一息ついた。一方、なつみは複雑な表情で梨華の方を見ている。
「でね、梨華ちゃんには、別のお願いがあるんだけど」
176Sの住人:2001/06/13(水) 04:20 ID:Zn0JMyLk
更新です。遅れ馳せながら、カプリアティ優勝おめでとう。
今年の全仏は面白かったです。

>>169
ご指摘どうり、テニスは見るだけの人です。
これからも色々間違いはあると思いますが、その時はまた教えて
頂ければありがたいです。

>>170
昔聞いてた、飯塚雅弓さんの番組っぽかったなと思いまして。
小森まなみさんってのは、よく知りません。

>>171
私は、仕事で井上喜久子さんのヲタを見た時が一番恐かったです。
井上さん自身はすごい優しい、素敵な方でしたが。

シャッフルユニット、いしよし、いししばも無く残念。
ただ、3人しかいない分、PVで目立てるかなとか、期待もあり。
あやや、早めに出そうかなとも思ったり。
177名無し娘。:2001/06/13(水) 06:24 ID:Paw5OWd6
相も変わらずかおりかマンセー。あやや登場も楽しみ。

全仏は早々に愛ちゃんが消えてしまって欝。
シャッフルはいしかご、みちごま、かおよし、に期待。
178名無し娘。:2001/06/13(水) 11:48 ID:WV3eg9WY
リカちゃんには是非ともスコート姿でテニス番組に出てもらいたいっす。
最近低迷しつつあるテニス人気を回復させるにはそういう起爆剤が必要
です。
まあ個人的にスコート姿でテニスするリカちゃんが見たいっていう気持ち
のほうが強いんですけどね(w
179名無し娘。:2001/06/14(木) 04:03 ID:zBLGfn0g
石川vsあやや、なんてのを見てみたかったり<テニス
180名無し娘。:2001/06/14(木) 09:57 ID:yQ7kvBgE
アイサガあたりに企画リクエスト出してみるかな
181名無し娘。:2001/06/15(金) 16:32 ID:HnK9gA1Y
ホゼン スル(・x・)ゴマー
182名無し娘。:2001/06/17(日) 10:40 ID:Q5CWsWuA
( ´ Д `)ゴマー
183名無し娘。:2001/06/18(月) 00:13 ID:37vmJ0LY
184名無しさん:2001/06/20(水) 02:14 ID:EQWZFhlg
185名無し娘。:2001/06/20(水) 03:24 ID:8nfg6iFg
保全して頂いて感謝。更新は木曜夜になりそう。

>>177
あやや・・・出しますよー。今は「トロピカール恋してーる」に
やられまくってますんで。
愛ちゃんには、そろそろシングルスでもいいとこ見せて欲しいんですけどね。

>>178,179,180
スカパーあたりでやって欲しいんですけどね。
「石川梨華のエンジョイテニス」とか。
ヴュージックにいる知り合いに話してみようかな・・・。

シャッフル聞きました。賛否両論ですが、とりあえず私的には大満足。
売れる売れないはどーでもいいです(きっぱり)
聞いて楽しいのは3人祭だけでした。正直、他の2曲は耳に残らなかった。
PV、期待できそうです。
186名無し娘。:2001/06/21(木) 06:45 ID:8y0Lqk5Q
更新待ち
187名無し娘。:2001/06/22(金) 02:37 ID:SqA3Q2OY
更新なかった
188名無し娘。:2001/06/23(土) 01:45 ID:8qaeJZKY
なんとなく保全。。。
189Sの住人@仕事場:2001/06/24(日) 04:01 ID:Ixtpv1wI
−47−
「ふーん・・・まあまあじゃない」
亜弥は金網越しに、きちんと整備されたテニスコートを眺めながらつぶやいた。
今は放課後だが、まだコートには誰もいない。
「ここで待っててもしょうがない・・・か」
大きく伸びをすると、亜弥は担任に教えてもらった、部室長屋の方へ向かった。

「あれ・・・誰やろ」
ラケット片手に、いそいそと部室に向かう加護の目に飛び込んできたのは、
部室の前で、腕組みしながら悩んでいる女生徒だった。
(梨華ちゃんの知り合いかな・・・それとも)
よく見ると、なかなかの美少女だ。どことなく、梨華に似た雰囲気を醸し出している。
(可愛い人やな。まあ、梨華ちゃんには及ばんけど)
相手も加護に気づいたのか、腕組みをやめて、何か言いたそうにしている。
「あのー、うちの部に、何か用ですか」
「えっ・・・と、あなた、石川さん?」
190Sの住人@仕事場:2001/06/24(日) 04:08 ID:Ixtpv1wI
すごく中途半端に更新・・・だって、仕事中だもん。
あー悲しい。うちに帰りたい・・・。
加護辻のオールナイト聞きたい・・・。

とりあえず帰れれば続き書きます。
あやや結構メインにするかも。
191読者:2001/06/24(日) 14:53 ID:KT4X.e32
名作集の小説アイデアスレで
テニスものってないよなーとかと
書き込んだ途端にテニスものを発見してしまいました。
松浦登場で波瀾の予感。
192名無し娘。:2001/06/25(月) 01:26 ID:2H7VaA.k
りかたんvsあややたんの果たし合いが見れるのか。

あややたんキツそうでいいわぁ。
あややたんは姑息で悪くて腹黒くてなんぼなんだよ。うん。
193駄スレ作者@最近:2001/06/26(火) 09:37 ID:SKKvBtyg
アンダースコートには「3333」の数字入りきぼーん。
194名無し娘。:2001/06/26(火) 22:10 ID:sXR/F/3s
ヒンギスまた負けたね、しかも初戦敗退・・・
グランドスラム2年ぐらい勝ってないんじゃない?
195名無し娘。:2001/06/27(水) 09:04 ID:pndF.oo2
女子テニス界のモー娘。はクルニコワなんだろうなあと思う今日この頃。
196名無し娘。:2001/06/28(木) 03:59 ID:gC9UfzSM
( ^▽^)<「3333」って何ですか?
197名無し娘。:2001/06/28(木) 08:00 ID:6.AxYDzw
多分、3人祭の333の事だろう
見せパンに書いてあるの知ってるよね?
森高のMみたいなもん
198名無し娘。:2001/06/29(金) 23:45 ID:VcTXTIw.
クルニコワ。15くらいの時から好きだわ。ドキッチもいいけど。
雑談ごめんね。
199名無し娘。:2001/07/01(日) 08:19 ID:l7wAUINI
hozen
200名無し娘。:2001/07/01(日) 09:06 ID:rukVuceE
作者さんはテニス好きらしいからテニスの雑談で保全しながら次稿を待つってのは
いいんじゃないかな
201名無し娘。:2001/07/01(日) 23:03 ID:GzTYpOF6
sage
202名無し娘。:2001/07/02(月) 20:57 ID:5yjHscf.
sage
203名無し娘。:2001/07/03(火) 03:48 ID:b0ajwow2
俺テニスに詳しくないし、あまり雑談されると読みにくくなって嫌なんですけど・・・
とりあえず更新がんばれ
204名無し娘。:2001/07/05(木) 01:45 ID:n9ynWyrY
ho
205Sの住人:2001/07/05(木) 03:09 ID:CeTMm9gI
47続き

「いえ、違いますけど」
「あっ、そう・・・」
加護の答えに拍子抜けしたのか、その女生徒は軽く空を仰いだ。
しかし、直に今度は加護を値踏みするように、じっと見つめる。
(な、なんや、この人・・・気になるなあ)
「あのー、私の顔に、なんかついてます?」
「ふふ、ゴメンなさい。癖なの。初対面の人、じーっと見ちゃうの」
そう言うと、その女生徒はすっと右手を差し出した。
「私、松浦亜弥。よろしく」
亜弥の自然な態度につられて、加護は握手を返した。
「加護亜依です。あの・・・」
「あなた、テニス部の人でしょ。石川さん、まだ来てないみたいね」
「あ、はい。梨華ちゃん、じゃなくて部長は、なんか用事あるみたいで」
「そう・・・」
(なんかおちつかへんなぁ。早く梨華ちゃん来てくれんかなあ)
そわそわする亜依。一方、そんな亜依を面白そうに亜弥は眺めている。
「そうだ、ねぇ、加護さん」
「はい」
「石川さんがくるまで、ちょっと運動しない?」
そういって、亜弥は、壁に立て掛けてあった自分のラケットを手にとると、軽く素振りをした。
「ねっ、どお?」
「でも・・・私、まだテニス始めたばっかなんで」
きっと凄く上手いんだ、この人。亜依はそう思った。
体全体から、自信めいたものを感じる。でも、特に不快な感じはしない。
逆に、興味が沸いてきた。一体、どんなテニスをするんだろう、この人。
「大丈夫。ちゃんと教えてあげるから」
亜弥は加護の肩を抱くと、半ば強引にコートの方へ歩き始めた。
「ちょ、ちょっと。部室の掃除・・・」
206Sの住人:2001/07/05(木) 03:23 ID:CeTMm9gI
よーやく更新。相変わらず保全して下さった皆様すんまそん。

色々ありましたが、遂に娘。の仕事やりました。
突発的なものだったので、当然スタッフロールには名前もでませんけど、
やれてよかった。事務所の人(?)とも話せたし。
石川さんファンだと言ったら、「3人祭どうですか」って即座に
返されたのは可笑しかった。やっぱ、気になってるんですね、あの格好。
一応「ピンクのかつら、可愛いですね」って返しておきましたけども。

テニス雑談歓迎ですよ。私的には、ダベンポートの復活が嬉しい。
やっぱ強い。カプリアティとの試合が見たいです。
あと、アガシも順当に勝ちあがってくれて何より。
しばらく寝不足気味の日が続きそうです。

あややどうでしょう。キャラ掴むまで、もうしばらくかかるかも。
207名無し娘。:2001/07/05(木) 09:39 ID:GDAGhHmY
あややとりかちゃんのダブルス見てみたいっす。
208:2001/07/05(木) 15:42 ID:Q9tFpf1M
わかるよぉわかるよぉ
209名無し娘。:2001/07/06(金) 20:05 ID:BVvoWoEk
カプリアティとセレーナの試合、NHKの実況の盛り上げもあって
泣いてしまった…。ホゼム
210名無し娘。:2001/07/06(金) 20:05 ID:FnusW526
ダベンポートかあ、彼女は永く活躍してるよね。昔、ジャパンオープンに来てた時に
サイン貰ったっけなあ。当時はぽっちゃりしてて今と印象が全然違ってた。
211名無し娘。:2001/07/07(土) 10:12 ID:iWtr4OBM
杉山、ダブルス決勝進出!
212名無しさん:2001/07/09(月) 02:47 ID:3ZlH3/gU
テニスは実はよく知らない……ので

保全
213名無し娘。:2001/07/10(火) 09:01 ID:LK3FcwFg
最終セット最終ゲームのイワニセビッチがよかった。悲願の優勝へ向かって自分と
格闘している姿に感動したよ。
214保全:2001/07/11(水) 23:58 ID:0fdeRS5w
杉山はどうなった?
215名無し娘。:2001/07/12(木) 09:02 ID:nWnxA7Ng
決勝で負けた。今度のパートナーは挌下だがいいかもしれんね。全米までみっちり
試合に出て調整してもらいたい。
216Sの住人:2001/07/14(土) 04:15 ID:g2B7ALgk
相変わらずいそがしいっす。更新は土曜の夜予定。
保全感謝です。

全英、応援してる選手は負けましたが、イワニセビッチはよかったですね。
やはり、ウインブルドンにはドラマがある。
もー一度、伊達VSグラフが見たい・・・。

新曲、個人的には恋レボより好きかも。
217Sの住人:2001/07/15(日) 03:40 ID:WY5VdJqw
−48−
「さーて、やりますか」
軽くストレッチを終えると、亜弥は加護に向かってボールを投げた。
「加護さんから、サービス、どうぞ」
「あ、はい・・・」
加護はボールを受け取ると、ベースラインへ向かおうとした。
「あっ、ストップストップ」
「えっ」
亜弥の一言に、加護はあわてて振り返る。
「打つのはサービスラインからでいいよ。その、真ん中のラインから」
「でも・・・近くないですか?」
「もちろん、軽く打つの。それで、少しずつ、お互いの距離を広げてくわけ。わかる?」
ジェスチャーを交えながら、亜弥は言った。
「あ、はい、判りました」
加護は、亜弥の言葉を聞きながら、昨日梨華に言われた事を思い出していた。
(あいぼんはまだ始めたばっかだから・・・明日はミニテニスやってみよっか)
(そっか・・・これがミニテニスなんや。多分)
加護の目には、亜弥と梨華がだぶって見えた。
「じゃ、加護さん、どーぞ。軽く、ね」
「いきまーす」
(梨華ちゃんとおんなじ事言うって事は・・・やっぱ、おんなじ位上手いんだろうな)
胸がどきどきするのを感じながら、加護は緩くボールを打った。
218Sの住人:2001/07/15(日) 03:41 ID:WY5VdJqw
「上手い上手い。じゃあ、もう少し間あけよっか」
「はい」
練習を始めて30分。打ち合いながらも、その間に、亜弥から次々と指示が飛ぶ。
「打った後、キチンと振り切って。そう」
「ヒザを意識して。そうそう、バランスがとれるでしょ」
「ラケット面をちゃんと合わせて。うん、いい感じ」
加護は、亜弥の言うとおりにしているうちに、なんとなく上手くなっている自分に気づいた。
(凄いな・・・この人。ぜんぜん、汗もかいてないし)
ほぼ、打ちっぱなしにもかかわらず、汗だくの加護とは対称的に、亜弥は涼しい顔をしている。
気がつくと、加護は、ベースラインの上に立っていた。
「OK。じゃあ、加護ちゃん、そろそろ、ちゃんとしたサービス、打ってみよっか」
「はい、あの・・・」
「とりあえず自己流でいいよ。ボールを叩く感じは、だいぶ掴めたでしょ」
そういって、亜弥はにっこりした。
(うー、余裕の顔やなー。よーし、挨拶がわりに・・・)
付け焼刃ではあるが、一応、梨華に打ち方は教わっている。
高くトスを上げる加護。身長の低さを、実感する時でもある。
(どこでもいいから入っときー)
219Sの住人:2001/07/15(日) 03:48 ID:WY5VdJqw
更新です。いよいよテニス物になるのか?用語等間違いだらけかも。
とりあえずテニスファンの皆様、ご容赦を。

ブロードキャスター見ました。PV楽しみ。

先日、中野ブロードウェイに行きましたが、面白い店が増えてて楽しかった。
長いこと探してた「聖ロザリンド」のコミックス見つけた時は、
神に感謝しました。ついでに、ナショナルの梨華っちポスターもゲット。
高かったけどね・・・。

そろそろ柴っちゃん出したいぞ、と。
220名無し娘。:2001/07/15(日) 08:59 ID:2wzaS8/E
用語間違ってないよ。と言うかそれなりに造詣深いんじゃない?レッスン風景の
描写は中々巧みだと思う
221名無し:2001/07/16(月) 00:42 ID:Br6Lx9Hk
更新されてた!
222名無し娘。 :2001/07/18(水) 00:24 ID:Pnqqw8Yk
柴っちゃん期待
223名無し娘。:2001/07/20(金) 19:14 ID:bcUEqNyw
224名無し娘。:2001/07/22(日) 09:35 ID:oIWgkUtM
hozen
225名無し娘。:2001/07/24(火) 03:16 ID:xIOTaEJI
 
226名無し娘。:2001/07/24(火) 05:52 ID:FXIKARzs
クルニコワ、ついに結婚かぁ…
227名無し娘。:2001/07/24(火) 09:19 ID:zYd7Wfqs
噂のお相手と、、、あんないい女誰も放っておかないわな
228 名無し読者:2001/07/24(火) 14:32 ID:vshRtEh6
柴田期待大!
実は石川のダブルスの相棒は柴田と勝手に思ってます。
頑張って!
229 :2001/07/25(水) 15:53 ID:eu4ZsYkU
漏れのラケットはクルニコワモデル…(関係無し)
230Sの住人:2001/07/26(木) 02:55 ID:kwGKe/CA
会社が変わって、どたばたしてまして・・・
更新はANNの後かな。保全ありがとうございます。

ここのところの石川さんプッシュには凄まじいものがありますが、
まさか写真集までだすとは・・・ここまでされると、返ってイヤな予感も
したりする私。しかし、ポジティブに考えるべきなんでしょう、きっと。

しかし・・・サイボーグしばたって、いったい・・・。
231名無し娘。:2001/07/27(金) 02:18 ID:WqqRJA2g
更新期待してるよ
バレリーナ戦隊のほうがハテナ?だと思うけどね(w
でもしばちんはかわいいなぁ
ミュンミュンミュミューリ
232名無し娘。:2001/07/28(土) 21:43 ID:n/kLKtzU
とりあえず
233Sの住人:2001/07/30(月) 03:28 ID:IF8lX.cQ
−49−
「辻ちゃん、何買ったのー」
「あっ、ごとーさん」
学校近くのコンビニ。後藤がジュースでも買おうと立ち寄ると、
ちょうど辻が中から出てきたところだった。
「ひょっとして・・・」
「えへっ。アロエヨーグルト、美味しいんですよー」
辻が袋を開くと、中にはアロエヨーグルトが二つ、入っていた。
「まー、ヨーグルトは体にいいからいーんだけどさあ・・・よく飽きないよね」
「はい。辻も不思議なんですけどー」
そう言いながら、辻はにこにこしている。人を、幸せな気持ちにさせる笑顔だ。
「食べるのはトレーニング終わってから。わかってるよね。とりあえず、先に行ってて」
「あいあいさー」
軽く手を振る後藤に、辻は敬礼して答えると、そそくさと自転車に乗って走りだした。
そんな辻を見送る後藤の脇を、二人の女生徒が喋りながら通り過ぎる。
「喉乾いたからさー、何かおごってよ、沙耶香」
「えー、今月、苦しいんだけどなぁ」
ふと、後藤が振り返ると、一瞬、その沙耶香と呼ばれた女生徒と目が合った。
しかし、その女生徒はすぐに目をそらすと、コンビニには入らずに、
そのまま、学校の方へ向かう。
(あれ、誰だっけ。なんか、前に合ったことあるような・・・)
後藤は、しばらく、思い出そうと努力した。しかし、諦めも早かった。
(ま、いいや。そのうち思い出すでしょ)
234Sの住人:2001/07/30(月) 03:30 ID:IF8lX.cQ
「まあ、大体こんな感じなんだけど・・・」
圭織の話が一段落ついたのは、梨華が、映画部の部室に入って一時間後の事だった。
「どうかな、協力してもらえるかな」
「え、あの・・・」
あまりに突然の話なだけに、梨華には返事のしようがなかった。
ただ、圭織の話を聞いているうちに、面白いかも、と思い始めた事は確かだった。
うまくいけば、テニス部の為になると言う圭織の言葉も、納得いくものだった。
「いいお話だとは思うんですけど・・・私一人では決められないので」
「なんで?梨華ちゃん、部長でしょ」
「そうなんですけど・・・やっぱ、ちゃんと部員の意見も聞きたいんで・・・」
そう言いながら、梨華はなつみの方を見た。
なつみは、やはり梨華をじっと見つめている。別に、怒っているわけではなさそうだが、
かといって喜んでいる様でもない。
「あ、そう・・・じゃ、これから、テニス部の部室に行こうか」
「えっ?」
「私から、加護ちゃん・・・だっけ、彼女に説明するよ」
圭織はそう言いながら、自分のカバンをごそごそとあさり始める。
「あった。矢口ー、撮影よろしくー」
そう言う圭織の右手には、ハンディカムがしっかりと握り締められていた。
235Sの住人
遅くなりましたが、更新です。

代々木、行きました。楽しかったけど・・・どっぷりはまれませんでした。
小さい女の子が、娘。がなかなか出てこなくてつまんなそーにしてるのとか、
前が見えなくて大変そうなところとか見ちゃうと、やっぱり、もう少し
考えて欲しいと思いました。家族連れのお客さんも増えてるんだし。

あと、娘。選手権の優勝者を生でみちゃったのはビックリ。
世間って、せまいんですねー。一応、お友達らしき人と来てました。

写真集、一応予約したけど・・・発売日に手に入るかは微妙。