1 :
ファイ :
学園ソフトボール物の小説です。
小説は初めてなんですが、いけるとこまで頑張りたいなぁと・・・
設定は映画:ピンチランナーの1年後。
ルールはソフトボールの公式ルールに基づいています。
名前は役名じゃなく本名で書いています。
市井は転校しました。
保田は病気が治りました。
とりあえず以上のことを踏まえて読んでいただければ嬉しいです。
2 :
ファイ : 2001/03/24(土) 12:13 ID:cMM3CylQ
「やっぱ無理です!!」
石川が叫んだ。
後ろに転々と転がる白球。
「無理なことはないよ!」
後藤はそう言って白球を打ち続けていた。
でも考えてみれば後藤以外の8人は素人だったのだ・・・
3 :
ファイ : 2001/03/24(土) 12:14 ID:cMM3CylQ
ここ朝比奈学園では今年新しい部が出来た。
「ソフトボール部」
なぜ出来たのかはわからない。
一部では学長の思いつきというウワサもある。
とにかく、部員を急募していた。
まず後藤が中学校時代エースだったということでスカウトされた。
「え〜、めんどくさいよ」
そんなことを言っていた後藤も、一旦ユニフォームを着ると別人になった。
そして、後藤を中心にひたちなか全国少女駅伝で共に走った、飯田・矢口・安倍。
後藤と同じクラスの吉澤。
陸上部:安倍の後輩の石川・加護・辻。
そして、保健委員の先輩の保田が加わった。
監督は誰かといえば・・・
「やっぱウチがやるの?ソフトボールとかわからへんよ?」
そう、パン屋の主人:中澤がやることになった。
ここに、あの時のメンバーが揃ったのだ。
4 :
ファイ : 2001/03/24(土) 12:15 ID:cMM3CylQ
大会を一週間後に控え、練習は激しくなっていた。
とはいっても監督である中澤は何もしない。
いや、何も出来ない。
ミーハーな阪神ファンではあるがルールとか全くわからない。
はじめは何人でやるスポーツかも知らなかったのだ。
だから練習はキャプテンの後藤が仕切っていた。
しかし、ソフトボールというものはチームプレーである。
いつかの飯田のように何でも仕切ろうとしてしまおうとする後藤の態度は、チーム内から不満の声があがっていた。
5 :
ファイ : 2001/03/24(土) 12:15 ID:cMM3CylQ
「もう休もうよ〜」
矢口が悲痛な声をあげた。
(だらしないなぁ〜)
後藤はそう思いながらも時計を見てみると、ノックはゆうに3時間を超えていた。
グラウンドの内外野の選手はみんなグロッキーだ。
「じゃ、休憩にしましょうか」
その声を聞いてみんなは木陰やベンチで休み始めた。
(だらしないなぁ。こんなんじゃ勝てないよ。やっぱ、私が投げぬかないと)
後藤は壁に向かって投球練習を始めた。
彼女の球はそんなに速くない。
しかし、変化球に富んでいた。
ドロップ、カーブ、シュートにチェンジアップ、そして決め球のライズボール。
これらの球を駆使して、中学時代は全国大会準決勝を果たした。
後藤の頭にはとにかく投げ勝つことしかなかった。
6 :
ファイ : 2001/03/24(土) 12:16 ID:cMM3CylQ
「気に入らないなぁ〜」
飯田はボヤいていた。
彼女はソフトボールをやるのは初めてだ。
しかし、もともと運動神経のいい彼女はバッティングに関しては後藤にもヒケをとらなかった。
飯田は何でも仕切ってしまう後藤が気に入らなかった。
生まれたっての目立ちたがり屋の彼女である。
後藤のせいで自分が目立たないのが許せないのである。
7 :
ファイ : 2001/03/24(土) 12:16 ID:cMM3CylQ
矢口は相変わらず安倍をライバル視していた。
彼女は背こそは低いが、そのすばしっこさからショートのポジションを軽々とこなしていた。
セカンドは安倍。
ニ遊間は熾烈な争いの場となっていた。
8 :
ファイ : 2001/03/24(土) 12:16 ID:cMM3CylQ
中澤は困っていた。なりゆきで監督になってしまったもののルールは全くわからない。
知っているのは阪神タイガースのオーダーだけ。
しかも・・・
「え〜と、3番バース様、4番掛布、5番岡田、後は誰やったかなぁ?」
古っ!!!
と、とにかく一週間後の大会に向けて猛勉強中だった。
9 :
ファイ : 2001/03/24(土) 12:17 ID:cMM3CylQ
次の日から後藤は練習を個人練習中心にした。
後藤とキャッチャーの吉澤は一日中投球練習。
飯田・安倍・保田は打撃練習。
矢口と石川・加護・辻の外野陣は守備練習。
これらの練習をすることになった。
ここで繰り返しておくがソフトボールはチームプレーである。
このような練習は、大会前では非常に危険な練習であった。
しかし、ここで気づくべき監督の中澤は全く無知(ただいま勉強中)。
朝比奈学園ソフトボール部は、大会を前にして早くも崩壊の危機を迎えていた。
10 :
ファイ : 2001/03/24(土) 12:17 ID:cMM3CylQ
チームのムードが最悪のまま大会を迎えた。
初戦は前大会優勝校の月見高校。
朝比奈学園にはあまりにも強敵だ。
「ま、素人ばっかなんやから、のびのびやってきたらええわ」
中澤監督の試合前のお言葉だった。
「とりあえず打順を決めようか?」
そう言って中澤は何かを取り出した。
「ほなクジ引いてや」
「クジ!?」
みんな呆気にとられた。
まさか、クジで決めるなんて・・・
11 :
名無し娘。 : 2001/03/24(土) 12:32 ID:eBSEh/Og
ピンチランナーをみたとき、それを見ているじぶんに藁ってしまった。
だってなにからなにまで寒いんだもん。
脚本、モー娘。の演技、押尾学、ヲタの並走・・。
舞台もああなんのか?
12 :
ファイ : 2001/03/24(土) 12:45 ID:cMM3CylQ
>11
なりません。
てか、モー娘。以外は基本的に出てこないかなぁ?
俺もあれは藁った。
なっち以外の演技は見れたもんじゃなかったな・・・
あとsageでおねがいします。
13 :
ファイ : 2001/03/24(土) 12:50 ID:cMM3CylQ
「ちょっとどうゆうことなんですか!?」
後藤が叫んだ。
「そうですよ。いくらなんでも・・・」
飯田も続く。
「だって、ウチあんたらの実力知らんねん」
・・・・・・
そうだった。
中澤は練習には一切来てなかった。
練習後に店によった時に会うくらいだった。
「なんやったらジャンケンでもええけど?」
(かわらねぇよ・・・)
みんなそう思った。
「仕方ないか・・・」
矢口がクジを引いた。
するとみんなしぶしぶクジを引き始めた。
そして、オーダーが決まった。
14 :
ファイ : 2001/03/24(土) 12:51 ID:cMM3CylQ
朝比奈学園 スターティングメンバー
1番(遊)矢口 3年
2番(中)石川 1年
3番(一)飯田 3年
4番(三)保田 3年
5番(ニ)安倍 3年
6番(投)後藤 2年
7番(捕)吉澤 2年
8番(左)加護 1年
9番(右)辻 1年
15 :
ファイ : 2001/03/24(土) 12:52 ID:cMM3CylQ
(何であたしが6番なのよ!あのデブの次なんていやよ!!)
(1番かぁ〜。いっぱい打順がまわってくるかなぁ?)
(4番・・・ってことは主役なのかな・・・?)
(え〜と、バース様はファーストで掛布はサードで岡田はセカンドやったから・・・おお!)
(あ、ごっちんの後だ、嬉しいなぁ〜)
(なっちクリーンナップだ。主役取り返すよ)
(よかったわ〜。ウチはライトやのうて・・・ライパチなんて嫌やからな)
(何でカオリが3番であの半魚人が4番なのよ!!)
(9番って、まわってくるんですかねぇ)
(打つのは得意じゃないのになぁ。2番って何回もまわってくるのに・・・)
様々な思惑を秘めて試合は始まった。
16 :
ファイ : 2001/03/24(土) 12:53 ID:cMM3CylQ
試合ははじめ投手戦の様相を呈していた。
3回まで両チーム共にノーヒット。
後藤に至っては9連続奪三振と波に乗っていた。
(う〜〜〜このままじゃ、カオリは目立たないじゃん!)
(打たなきゃ後藤の一人舞台だよ)
(なっちもがんばらなきゃな・・・映画では主役だったのに)
ベンチ内に目立とうという気持ちが蔓延していた。
17 :
ファイ : 2001/03/24(土) 12:53 ID:cMM3CylQ
この目立とうとする気持ちは恐ろしい。
4回オモテ。一死一塁。
バッターの打球はセカンド安倍の右へと飛んでいった。
(間に合うかな・・・)
安倍が打球に飛びつこうとしたとき、
「うるぁぁぁぁぁ!!!!!」
「ヒッ!!や、矢口ぃ!?」
矢口がショートから恐ろしい形相で走ってきた。
そしてボールをキャッチすると、
「タッチアウトォォ!!!ファーストッ!!!!」
ランナーにタッチしてファーストの飯田に送球した。
ダブルプレーの完成。
「やったっ!!さっきのは結構目立ったじゃん!!!」
大きくガッツポーズを決める。
(こいつ、そんなことのために・・・)
(なにやってんのよ矢口さんは!目立つのはエースだけでいいのよ)
(ちっ、さっきの落とせばよかった)
妬みの標的は徐々に矢口へと向けられ始めていた。
18 :
ファイ : 2001/03/24(土) 12:55 ID:cMM3CylQ
そのウラ、先頭バッターは矢口。
2−1からのストレートを見事にレフトに運んだ。
(これで安倍には勝ったんじゃないの?)
矢口は感激に酔いしれていた。
「なによ矢口まで目立っちゃったら、カオリが目立たないじゃん!!」
(お前までエースをさしおいて目立つ気かよ・・・)
後藤が飯田をにらむ。
(なっちも何とかしなきゃ・・・)
(こいつら、何でそんなに目立ちたいねん)
ベンチのムードはどんどん険悪になっていった。
「ボールフォア!!」
続く石川が四球で歩いて、無死一・二塁。
絶好の先制のチャンスを迎えた。
「飯田!」
中澤が送りバントのサインを出した。
猛勉強の成果である。
正攻法でいくことにした。
サインを見た飯田は明らかに不満そうな顔をした。
(マジでぇ〜〜?バントじゃカオリは目立たないじゃん)
(サインは初球をバント。スタート切らなきゃ)
(矢口さんはどうするのかな?矢口さんがスタートしたらあたしも走ろうっと)
ピッチャーが構えた。
19 :
ファイ : 2001/03/24(土) 12:55 ID:cMM3CylQ
(あ〜もう、バントなんていやだなぁ)
そして第一球。
(いまだ、スタート!)
(あ、走った。じゃ、あたしも)
二人はスタートを切った。
カキーーーーーン!!!!
「うそぉぉぉぉっっっ!!!!!!?」
矢口、石川、そしてベンチのみんなが信じられなかった。
飯田はバントの構えもせずにこれを激打した。
打球はライナーでピッチャーの左へ・・・
「抜けてっ!!」
しかし、飯田の声は届かずショートがダイレクトでキャッチ。
そして二塁ベースを踏んで、ファーストへ・・・
トリプルプレーである。
「何やってんのよ!!!」
「そうですよ!!」
矢口と石川が叫ぶ。
(惜しかったなぁ〜。あのショート上手いね)
全く二人の話を聞いていない。
(また宇宙と交信でもしてんのかよ!!)
(こいつサインがわかってたんか?)
(なっちまで打順が回らなかったじゃない!)
飯田はベンチに戻ると、ナインからの冷たい視線を浴びてしまった。
20 :
ファイ : 2001/03/24(土) 12:56 ID:cMM3CylQ
攻撃の悪いリズムは守りにも響くものである。
6回のオモテ、今まで快投を続けていた後藤が打たれた。
二死三塁からセンター前ヒット。
先取点を許してしまったのだった。
「あぁ〜もう!!!」
優勝候補相手に6回を1失点。
本来なら誉められるべき好投である。
しかし、一人で投げ勝つ気でいた後藤には、たった1点でも許せなかったのだ。
しかも他のメンバーは、
(これで、今のところはあたしが一番目立ってるわね)
(まだまだカオリにも目立つチャンスがあるじゃん)
(なっちもいけるかな?)
と、やっぱり目立つことしか考えていなかった。
この回の朝比奈学園の攻撃は三者凡退。
(何で打ってくれないのよ!!)
後藤のイライラは高まるばかりであった。
21 :
ファイ : 2001/03/24(土) 12:57 ID:cMM3CylQ
「もう〜!!やってらんない!!!」
後藤のグラブがマウンドで跳ねた。
7回オモテ、無死ニ・三塁。
しかもノーヒットで。
この回のトップバッターはなんでもないセカンドゴロ。
しかしセカンド安倍がトンネル。
次のバッターの深いショートゴロは、矢口が上手くさばいたものの飯田が後ろにそらした。
守備練習をしていない二人のエラーだった。
「落ち着きなよ、ごっちん」
たまらず吉澤がマウンドに駆け寄った。
そして投げつけられたグラブを拾う。
「だって、エラーで点を取られたんじゃ・・・」
悔しさが後藤の顔ににじみ出ている。
「これらのことを考えようよ。あと3人、抑えればいいんだよ」
(あと3人。よし、三者連続三振しかないわ!!)
「・・・うん、がんばる。ありがと、よっすぃ〜」
吉澤は戻っていった。
22 :
名無し娘。 : 2001/03/24(土) 16:58 ID:EbOg37Ro
sageで書け
23 :
名無し娘。 : 2001/03/26(月) 01:24 ID:GvF.ApIY
羊の小説総合スレッドで紹介してもよろしいですか?
それから余計なお世話かもしれませんが、小説はsageで書いた方が良いと思います。
24 :
ファイ : 2001/03/27(火) 23:22 ID:MkTvcJ0w
やっと更新できます。
今まで色々と忙しかったんで・・・
>23
お願いします
25 :
ファイ : 2001/03/27(火) 23:26 ID:MkTvcJ0w
今やっとsageの方法がわかりました。
2ちゃんねる初心者でした・・・
26 :
ファイ : 2001/03/27(火) 23:27 ID:MkTvcJ0w
吉澤は後藤と同じクラス。
学園でも有名な優等生だった。
成績は優秀で、スポーツも万能である。
誰にでも優しく、人当たりもいい。
わがままな後藤とバッテリーを組めるのは、吉澤しかいなかった。
後藤は次の二人を三振に仕留めた。
決め球は二人ともライズボール。
後藤の得意球だ。
しかし、次に迎えるバッターは、全国大会で7本のホームランを打った選手だった。
(歩かせようか?)
一塁は空いている。
しかし吉澤のサインに後藤は首を振った。
(この子を抑えたらあたしはすっごく目立つじゃん!)
後藤の心の中は目立つことで一杯だった。
27 :
ファイ : 2001/03/27(火) 23:28 ID:MkTvcJ0w
初球は外角低めへのストレート。
ストライクゾーンぎりぎり。
ここなら打たれても長打にはならない。
(次は内ね)
吉澤のサインに後藤はうなずいた。
後藤の投げた球にバットは空を切った。
バッターも内角を予想していただろうが、後藤のカーブは予想以上の曲がりを見せた。
これでカウントは0−2。
(次は外すよ)
外角に外れるドロップ。
これでピッチングカウントの1−2。
(決め球はどうしようかな?やっぱライズかな?)
しかし吉澤は、
(このバッターはライズを読んでる。だから裏をかいてチェンジアップで・・・)
と、チェンジアップのサインを出した。
(何で?チェンジアップにひっかかるの?)
後藤は少し悩んでものの、
(よっすぃ〜を信じよう)
後藤は吉澤を信じた。
セットしてからの投球。
ど真ん中へのチェンジアップ。
バッターの体が泳いだ。
(決まった!!)
後藤と吉澤の顔に笑みが浮かんだ。
バッターはどうにかバットに当てたもののファーストへのゴロ。
(やたっ!!)
後藤がガッツポーズをしようとしたその時だった。
ワァーーーー!!!!!!
ひときわ大きな歓声が響く。
(え・・・?)
後藤は目を疑った。
ファースト飯田のトンネル。
(う、嘘・・・)
この回、後藤はノーヒットで2点を取られたのであった。
28 :
ファイ : 2001/03/27(火) 23:29 ID:MkTvcJ0w
7回ウラ。
吉澤は落ち込んでいる後藤をずっと慰めていた。
「ごっちんは悪くないよ。がんばったじゃない・・・」
さっきから、同じセリフを繰り返していた。
最終回、朝比奈学園は打順よくトップバッターの矢口から。
(クジで決めた打順に良いも悪いもないわよ)
後藤は絶望に打ちひしがれていた。
しかし矢口は四球、石川はセンター前ヒット。
4回と同じ無死一・二塁のチャンスを迎えた。
そして次のバッターは飯田。
(お願い、飯田さん。打ってください)
ナインはベンチから身を乗り出して願っていた。
(あんたしかおらんわ。たのむで、飯田)
中澤もベンチに座らず立っている。
ピッチャーが構えて第一球。
鋭いストレートを飯田は見事にバントした。
これ以上ないといった感じのバント。
29 :
ファイ : 2001/03/27(火) 23:30 ID:MkTvcJ0w
・・・ん?
・・・バント?
「何ですとぉぉぉぉっっっっっっーーーーー!!!!!!!!」
驚いたのは飯田を除く敵味方の全選手であった。
一瞬グラウンド内の時が止まった。
誰もが予想すらしなかった事態。
矢口と石川は慌てて進塁。
相手ピッチャーも慌てて打球をファーストに送球した。
仕事を果たし意気揚々とベンチに引き上げてくる飯田。
その飯田にいきなり怒声が浴びせかけられた。
「何でバントしたんですか!!?」
「そうや!ウチはサインとか出してへんで!!」
飯田はわかっていない。
「だってチャンスを広げようと思って。さっきはそうしろって言ったじゃん」
(あかん、こいつウチよりソフトボールのこと知らんわ)
(何でこんなバカが3番なのよ!)
(もしかして一番足引っ張ってるのって・・・飯田さん?)
「最終回ですよ!?7回ウラですよ!?3点差あるのにバントしても意味ないじゃないですか!!」
・・・・・・
しばらくの沈黙。
飯田もやっとわかったらしい。
「あ、そうか。カオリ気づかなかった」
笑顔の飯田に後藤は殺意を覚えてしまった・・・
30 :
ファイ : 2001/03/27(火) 23:30 ID:MkTvcJ0w
3点差一死ニ・三塁。
朝比奈学園は窮地に立たされていた。
ここでバッターは四番保田。
(やっとわたしが目立つチャンスね)
そう、今まで彼女は目立つところがなかった。
守ってはボールが飛んでこない。
打ってはいつも先頭バッター。
(ここで目立つしかないわ)
春に手術を行い病気のほうは完全に治った。
今はスポーツも難無くこなすことが出来る。
パワーもありバッティングは問題ない。
二球続けてのストレート。
2球目は外に外れた。
(次は内への変化球かな?)
予想通りの内角低めへのカーブ。
これでカウントは1−2。
(最後は外一杯のストレートしかないわ)
目立つことにすべてをかけた保田は、脅威の集中力を見せていた。
ボールがよく見えている。
4球目、外角高めへのストレート。
「あたしは・・・」
フルスイングする保田。
「四番なのよぉぉぉーーーーー!!!!」
保田の打球は快音を残してレフトスタンドへと消えていった。
31 :
ファイ : 2001/03/27(火) 23:31 ID:MkTvcJ0w
朝比奈学園は保田の起死回生の3ランで同点に追いついた。
ベンチは今までにないくらい盛り上がった。
後藤も飯田のバントのことは忘れてしまっていた。
そして、一斉にかけ声を上げて守りにつく。
延長8回オモテ、立ち直った後藤は先頭の二人を三振に仕留めた。
しかし、次のバッターに3−2から四球を選ばれた。
決して打力のあるバッターではなかったが、ファールで粘られた末の結果だった。
(う〜ん、あの子眼がいいなぁ)
後藤は気を取り直して次のバッターを迎えた。
ストレート、カーブ、そして一球外す。
いつもどおりの配球でカウントは1−2。
(最後はライズで決めよ)
吉澤のサインにうなずく後藤。
天下の宝刀ライズボールがうなる。
カキーーン!!!
打球は高々と空に舞い上がった。
32 :
ファイ : 2001/03/27(火) 23:31 ID:MkTvcJ0w
「レフト!!!」
レフトの加護は落下地点にたどり着いた。
しかし、打球はなかなか落ちてこない。
「あれれれれ?」
加護は少しずつ後退し始めた。
打球はフラフラと風に乗って伸びていく。
「うそ・・・・・・」
後藤がつぶやく。
加護がついにフェンスまで到達した。
「うそーーー!!!!」
後藤が叫んだ。
ボールはレフトスタンドへ・・・
悪夢の2ランホームランだった。
33 :
ファイ : 2001/03/27(火) 23:32 ID:MkTvcJ0w
バックスクリーンの上の旗はレフト方向に向かってなびいていた。
おそらく風速4mぐらいはあるだろうか。
ショックが隠しきれない後藤は続くバッター二人に四球を与えてしまった。
二死一・二塁。
吉澤がマウンドに駆け寄る。
「ごっちん、打たしていこうよ」
「でも、さっきみたいに風に乗っちゃったら・・・」
あの一発ですっかり後藤は消極的になってしまっていた。
「低めに集めたら大丈夫だよ。引っ掛けてくれるって」
「でも・・・」
後藤は周りを見回した。
7回にエラーを3つもした内野陣だ。
信頼には足りない。
「でも、それしかないじゃない」
(たしかに。ライズを投げなきゃ打球は浮かないし・・・)
「わかった。低めにいくよ」
吉澤の説得は成功した。
34 :
ファイ : 2001/03/27(火) 23:32 ID:MkTvcJ0w
初球は真ん中低めへのドロップ。
しかし、疲れからか球は落ちきらなかった。
(ヤバイ!!)
後藤と吉澤がそう思った瞬間。
カキーン!!!!
真ん中に甘く入った球を痛打された。
打球は後藤の足元を抜けていった。
ランナーは三塁ベースを回ろうとしている。
打球はセンター石川の前へ。
「りかちゃん!!バァッッックホォォォーーーーム!!!」
吉澤がホームベース上で構える。
石川は打球をキャッチすると同時に送球のフォームに移行した。
「もうこれ以上・・・」
石川が叫ぶ。
「点をやらないんだからああああああああ!!!!!!」
矢のような送球。
ストライクで吉澤のミットに収まった。
そして間一髪でタッチアウト。
「ナイスセンター!!」
後藤の顔に笑みがこぼれる。
「ちゃお☆」
満面のスマイルで返す石川。
朝比奈学園は2点を追いかけて裏の攻撃にうつるのであった。
35 :
ファイ : 2001/03/28(水) 22:17 ID:x4DTXj4k
ピンチは防いだものの2点を奪われた。
この回追いつかなければ負けてしまう。
先頭は9番の辻。
俊足ではあるがパワーがなく長打はない。
でも内野安打は期待できるバッターだ。
ここまで2打数ノーヒット。
(ここでなんとかしないと)
目立つためじゃなく、チームのために・・・
辻は初球のストレートを叩いた。
打球は高いバウンドでショートへ・・・
ショートは捕球するもののファーストへは間に合わない。
辻の俊足が生んだヒットだった。
「のの!ええで!!」
中澤は大喜びだ。
続くのは矢口と石川。
共に出塁率.667と期待できる。
中澤はふと何かを思いつき、サインを出した。
矢口と辻が頷く。
「監督、何のサインを出したんですか?」
安倍が後ろから中澤に聞いた。
「“ヒットエンドラン”や」
ピッチャーが矢口に対して初球を投げる。
同時に辻がスタートを切った。
カーーン!!
打球はファーストゴロ。
ファーストの選手が一塁ベースを踏んだ。
結果的に進塁打となり一死ニ塁と状況は変わった。
36 :
ファイ : 2001/03/28(水) 22:18 ID:x4DTXj4k
「あかんわ。2点とらなあかんのに・・・」
中澤はもう手の打ちようがないことを悟った。
石川のヒットを期待するしかない。
「頼むで石川!!」
「りかちゃん、がんばって!!!」
石川もバッティングは得意ではない。
ただ俊足で肩が強く、先ほども好返球でランナーを刺した。
(う〜ん、すごいプレッシャーだなぁ)
石川は打席で2度深呼吸をした。
3球見てカウントは2−1。
4球目のストレート。
石川は思いっきり引っ張った。
打球はレフト前へ。
「のの!!まわるんや!!!!」
辻が快速を飛ばしてホームに突っ込んできた。
レフトからのバックホーム。
しかし、辻はすでにホームベースを駆け抜けていた。
「やったで!!」
ベンチは蜂の巣をつついたような騒ぎである。
生還した辻がナインによってもみくちゃにされていた。
「アウトォォォッッッッ!!!!!」
審判の声が高らかに響き渡った。
「え・・・?」
はじめは誰も事態を飲み込めていない。
二塁ベース上では呆然と石川が倒れこんでいた。
バックホームされた球はショートが途中でカットしていた。
そしてニ塁を狙った石川を刺すためにセカンドに送球されていた。
二死ランナー無し。
そして次のバッターは・・・
「大丈夫だよ、みんな。カオリに任せて!!」
監督をはじめ他のナインの頭には“絶望”の二文字が浮かんでいた。
37 :
ファイ : 2001/03/28(水) 22:19 ID:x4DTXj4k
飯田がバッターボックスに向かっている。
しかしそのころベンチでは撤収作業が行われていた。
「惜しかったね」
「ごめんね、ごっちん。援護できなくて」
「いいよ、また次がんばろうね」
「ののちゃん、最後凄かったね」
「あ、わたしのグラブとってくれる?」
「このタオル誰のですか?」
「ほらほら、バットも片付けなあかんよ」
さすがの飯田もキレた。
「なんなの〜!?チョー感じ悪いっ!!!」
(そうやってカオリの活躍をひがんでるんだよね)
もはや誰も試合を見ていない。
(カオリはやっぱり可愛いし、妬まれても当然なんだけどね)
間違った妄想が飯田を支配する。
(スポーツだって勉強だって問題ないし・・・)
ピッチャーが第1球を投げた。
(クラスの人気者だしね)
無意識でバットを振った。
カキーーーーーン!!!!
金属バットの鋭い音がこだまする。
誰もがそれを疑った。
打った飯田ですら信じられなかった。
打球は逆風をものともせず、ライト場外へと消えていった・・・
38 :
ファイ : 2001/03/28(水) 22:19 ID:x4DTXj4k
朝比奈学園はまたもや追いついた。
しかも、あの飯田にホームランが飛び出したのだ。
つまり試合はまだ続くわけである。
後藤は9回を危なげなく三者凡退で切り抜けた。
一方朝比奈学園の攻撃は後藤がヒットで出たもののあとが続かなかった。
そして10回の攻防にうつる。
ここからはソフトボール独特のルールである、「タイブレイク」制となる。
このルールは、前の回のラストバッターが二塁ランナーとなる。
そして、無死ニ塁からプレーするわけである。
これは非常に面白いルールである。
バント、スクイズ(もしくは外野フライ)で1点は確実に入る。
しかし、それ以上を求めようとしたときは打っていかなければならない。
そこで凡打になってしまうと、1点も入らないという結果になってしまう。
攻めの駆け引きが難しいのだ。
このルールでは後攻が有利になる。
先攻のチームが何点取ったかで、攻め方を変えられるわけだ。
つまり、ルール的には朝比奈学園は優位に立った。
試合の書き方が上手いですね。
これからも頑張ってください
40 :
ファイ : 2001/03/29(木) 22:12 ID:v2osWtwQ
ファイは引っ越しのため当分更新できそうにありません
41 :
ファイ : 2001/04/01(日) 21:39 ID:Hhh2/jV6
10回オモテ、無死ニ塁から始まった。
サード保田、ファースト飯田はバントを警戒してやや前進している。
バッターは一度バントの構えをしてから打ってきた。
セカンドへの鋭いゴロ。
安倍はすばやくさばいてサードへ送球する。
タイミングはアウト。しかし審判は、
「セェェェーーーフ!!!」
サード保田の足元に白球が転がっていた。
(またぁ!?何度エラーをすれば気が済むのよ!!)
(しっかり投げなさいよ、安倍!!)
(さっきのなっちが悪いのかなぁ?ていうか取れるでしょ?)
無死一・三塁、大ピンチを迎えた。
(やっぱあたしが三振を取っていくしかないじゃない)
後藤の球にも力がこもる。
後藤を悩ませたレフトへの強い風は、この回からすっかりやんでいた。
(これで、ライズも投げることが出来る)
二者連続三振。
後藤の変化球はキレを失ってはいなかった。
次の打者も2−2と追い込んでいた。
(とどめはライズで決めよう)
吉澤のサインに頷く後藤。
やや低めからバッターの手前で浮き上がってくるライズボール。
バッターも何とか当てるが、詰まったレフトフライ。
しかし、みんなは信じられないものを見た。
42 :
ファイ : 2001/04/01(日) 21:40 ID:Hhh2/jV6
「加護・・・?」
加護が倒れていた。
「あいちゃん!!!」
センターの石川がレフトの加護のところに駆けつける。
この猛暑の中の試合であった。
(もしかして、日射病か?何でウチは気づいてやれんかったんや!!)
中澤は近くの椅子を蹴る。
打球は加護の後方をてんてんとしている。
三塁ランナーはすでにホームインしている。
「だいじょうぶっ!!?」
ようやく石川が辿り着いた。
「ううん・・・う・・・」
熱にうなされていた。
ワァァァァアアアアア!!!!!!!
この間に一塁ランナーもホームを狙っていた。
「一点で・・・」
石川が転がっているボールを掴んだ。
「十分でしょぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!!」
自慢の強肩が見せる、剛球のバックホーム。
一塁ランナーはホームで見事に刺された。
「あいぼん!!!」
「あいちゃん!」
チームメイトが続々と駆けつけてきた。
加護は石川に担がれてベンチに下がっていった・・・
43 :
ファイ : 2001/04/01(日) 21:41 ID:Hhh2/jV6
「亜衣ちゃんは昨日から体調が悪かったんです」
辻はみんなにそう説明した。
加護の意識は依然戻らない。
「でも、自分が休めば・・・試合が・・出来ないって・・・」
辻は今にも泣き出しそうだった。
後藤、飯田、安倍、保田、矢口の5人は、それを聞いて恥ずかしくなった。
目立つことしか考えていなかった自分達。
体調が悪いのを押して試合に挑んだ加護。
自責の念で一杯だった。
「どないする?もう棄権しよか?」
中澤がナインにたずねる。
沈黙がベンチを包んだ。
「・・・続けましょう」
そういったのは石川だった。
「せめてこの回だけでも・・・もしまだ続くようなら8人で守りましょう」
「そうだね、それが亜衣ちゃんのためだもんね」
吉澤も同意する。
44 :
ファイ : 2001/04/01(日) 21:41 ID:Hhh2/jV6
「でもさっきの回のラストバッターは加護だよ?」
飯田の言うとおり、この回加護はセカンドランナーとして出なければいけない。
しかし、朝比奈学園には控え選手がいないのだ。
再び訪れた沈黙の中、中澤がつぶやいた。
「ウチにええ考えがある」
みんなが顔をあげる。
「せやから次の者は用意しとき」
そう言って中澤はベンチを出た。
そして審判に向かって叫ぶ。
「ピンチランナー!!!!」
グラウンド内が静まり返った。
「ウチや!!!!」
45 :
ファイ : 2001/04/01(日) 21:41 ID:Hhh2/jV6
中澤はヘルメットをとるとセカンドベースに向かった。
「監督!いいんですか?」
後藤がそう聞くと、
「ええんや。昔そんなことしたやつがおったんや」
それは初代ミスタータイガースの藤村監督のことでは・・・
「あの人は言うた。“代打、ワシや”ってな」
やっぱ古いぞ中澤監督・・・
「せやから、ここはウチが・・・」
中澤は全速力で走っていった。
しかし、後続が続かなかった。
辻はバントを失敗して三振。
矢口もショートゴロで中澤は二塁ベース上に釘付けにされたままだ。
(あかん、ウチあんまり足は速うないからな)
だから、盗塁を狙うことは難しい。
石川のバットにすべての期待がかかった。
(あいちゃん・・・あんなに熱があったのに・・・)
石川は友達思いで有名だった。
だから、倒れた加護のことを誰よりも心配していた。
それと同時に、加護のためにもどうにかヒットを打ちたかった。
決してバッティングが得意ではない石川。
でも気合だけは誰にも負けていなかった。
46 :
ファイ : 2001/04/01(日) 21:42 ID:Hhh2/jV6
でも気合だけは誰にも負けていなかった。
(なんとか、あいちゃんのために・・・)
ピッチャーは低めのストレートを投げた。
暑さもあり球威は落ちている。
石川は思いっきり強振した。
打球はピッチャーの足元を抜けてセンターの前へと転がっていく。
「でぇぇぇえええええ!!!!!!」
中澤は三塁を回った。
当たりは浅く、センターからの返球が返ってきていた。
ホームへ突っ込む中澤。
みんなが見守る中、本塁上は大量の砂塵が舞っていた・・・
47 :
ファイ : 2001/04/01(日) 21:42 ID:Hhh2/jV6
「無くなっちゃったんだね」
後藤はグラウンドで呟く。
「そうだね」
吉澤も傍らでそう頷いた。
朝比奈学園ソフトボール部の大会は終わった。
結局中澤はタッチアウト。
5−6で敗れた。
でも後藤の中には悔しさよりも満足感のようなものがあった。
最後の中澤の走り。
みんなの希望をのせた、みんなの祈りをのせた、みんなのピンチランナーだった。
大会後、ソフトボール部は廃止。
みんなはもとの生活に戻った。
「中澤さん、大丈夫かな?」
48 :
ファイ :
激走した中澤は筋肉痛という理由で二日間店を休んでいた。
「たぶんね・・・」
二人は校門のとこまで来た。
短かった夏。
でも後藤にとっては久しぶりに充実した夏だった。
(次の夏は何が待っているんだろう?)
グルグルと肩を回してみる。
「あててて・・・・・」
(やっぱ、運動不足かな?)
ずっと向こうから陸上部が4人走ってくる。
「帰りに中澤さんとこ寄ってみよ」
「うん」
二人は走ってゆく・・・
夕日が二つの長い影を創っていた。
― 完 ―