1 :
バトロワ娘。 :
ども、お久し振りです☆ また小説書きます
今回は以前にもましてモーニング娘度の薄い小説となっています(w
なので、娘に関係ない人物やシーンがたくさん出てくると思いますが
それでも構わん、という人だけお読みください。
では。
2 :
バトロワ娘。 : 2001/03/03(土) 07:45 ID:7VYq1m8o
「ちょっと自販機までコーヒー買いに行ってくるけど、おまえも何か飲むか?」
警備会社から支給された制帽のつばをちょっと上向き加減でかぶるのが彼の癖。
いつも顔を正面に向け生真面目そうな容貌は、この仕事への自信と誇りを感じさせる。
内のワイシャツが少しよれよれなのは仕方ないだろう。見た目は45歳あたりだろうか。
実際にはそんなに歳を取っているわけでもないのだが、
彼はそんなことなど気にはしてない。
ただ、今まで後輩の前ではあまり自分について語ることは無かった。
「あ、塩見さんいつもホントすみません。おねがいします。」
制服の袖口もまだ新しい、3ヶ月前に入社したばかり青年がたくさんの監視モニターを前に座ったままこちらを向いて少しだけ頭を下げた。
この仕事に意欲を見せるその眼は、この薄暗い監視カメラ室の中でも一際輝いているようにも見える。
―・・・ふぅ
塩田は監視カメラ室の扉を閉めると地下の冷たさを含んだ廊下の壁にその身を預けて、
一つ大きく深呼吸をした。取り替えたばかりの廊下の蛍光灯がやけに眩しい。
もう嗅ぎ慣れたテレビ局地下一階の匂い、
それが今は何故かとても心を落ち着かせてくれる。
これからとてつもない事が起ころうとしている。
そして、そのとてつもない事の上演の幕を引くのはこの私なのだ。
塩田は小さく武者震いした。これ以上深く考えてしまうと頭がおかしくなってしまいそうだ。
もう一度眼を瞑って大きく深呼吸した。そして、おもむろに自分の腕時計に視線を落とした。
もう購入して5年目になろうというお気に入りの腕時計は、
微かに秒針の単調な機械音を刻みながら、まもなく午後9時50分を指そうとしている。
「よし、いくか」
気合を入れたつもりだったが、自分でも声が少し上ずっているのがわかる。
こんなに緊張するのは一体どれくらい久し振りなことだろう。
いや、かつて経験したことなどないほどの緊張、というべきか。
彼は制服のうちポケットからスタンガンを取り出すと、
コーヒーを持ち帰ることも無く、新人の待つ監視カメラ室の扉にその手をかけた。
3 :
バトロワ娘。 : 2001/03/03(土) 07:45 ID:7VYq1m8o
監視カメラ室はいつもにも増して薄暗いように思えた。
依然モニターの前に座ったままの新人が、塩田の帰りを待ちわびたように口を開いた。
「塩田さん、このモニター見てください。少し様子が変なんです。
局の裏手玄関前なんですけど、このワゴン車一時間も同じ位置に止めたままなんです。
それも一台じゃない。画面内だけでも・・・・4、5台はありますよ。
ファンの追っかけや他局の報道人かなにかですかね?
どうします、移動してもらいましょうか?」
新人は塩田を見やることなく、画面に指差したまま離しつづけた。
その声のトーンはやはり仕事をまっとうしているという自信と情熱を含みながら。
「どれどれ」
塩田はゆっくり彼の背後に回り込み、
そっと肩に手を置き彼の指差す画面を覗き込んだ、いや、覗き込むようなふりをした。
「心配ないよ。これは私の同志達だ。」
4 :
バトロワ娘。 : 2001/03/03(土) 07:46 ID:7VYq1m8o
―へぇ?
椅子に腰掛けたままの新人は思わず変な声をあげ、塩田の方を振り返った。
モニターからの薄緑の光を纏った横顔とあまりに力の無い返事。
次の瞬間にはその横顔は苦痛に歪み、とても短い悲鳴が彼の喉の奥から漏れた。
そして、彼はゆっくりと床に崩れ落ちた。
塩田は先ほどまで新人の首筋に当てられていたスタンガンを素早くしまうと、
制服の左ポケットから警備会社から支給された無線機とは違う、それを取り出した。
「メーデー、メーデー。こちらアルファ1
予定通り監視モニター室および、配電制御室へのルート確保しました。
今のところ計画に、異常なし。」
もう、後戻りはできない。これは、夢物語ではないのだから。
「ご苦労、よくやった。我々本隊は予定通り10時に突入を開始する。
君の名はわが組織『解放の羊』の中に永遠に刻まれるであろう。
では、10時までそこで待機せよ。」
あまりに抑揚の無い声、それが手にした黒い無線機から漏れた。
私と違ってその声はあまりに無機質で、とても、重い。そう、思った
「ありがとうございます。」
幾分下がりかけた帽子のつばを直すことも無く、塩田は3ヶ月続けていた禁煙の鎖を今、解いた。
5 :
バトロワ娘。 : 2001/03/03(土) 07:47 ID:7VYq1m8o
[大日本テレビ局、9階、控え室]
ブラインドの僅かな隙間から見える東京の姿は、
今の中澤にとって永遠の世界のように思えた。
―いや、そう感じるのはきっとうちだけや無いはずや
煩雑に並べられた自前の荷物、たくさんの衣装、溢れんばかりの花やおやつ、
いかにも女の子らいし20畳ほどの大きな楽屋、
その楽屋で真ん中の机を取り囲むように小さく座っているメンバーを見て、
中澤はそう思った。
今日の撮影が終わり、本来なら楽しい談笑があってもいいはずのひととき、
いや、過去のモーニング娘。にはありふれた風景だったはず。
はずなのに、今、中澤の目に映る年端も行かない少女たちは
みんな余りに無口で疲れきっている。
そして、何より中澤自身疲れていた。
コンサート、ミュージカル、リハーサル。
新曲の録音、振り付けの練習、ジャケット撮影、プロモ撮影、CM撮影、ラジオ、
グラビア、インタビュー、それぞれのユニット活動、エトセトラ・・・・・・・・・・・・・
なんだか、最近時計を見ることも少ない気がする。
今からホテルに帰って、明日ベットの上で目覚めても今日と一体何が変わるんか。
小さな頃からの憧れだった芸能界、一番になりたいとがむしゃらに頑張ってたあの頃、
でも、いま、うちは本当に幸せなんやろか
「死にそ〜」
矢口が机に突っ伏したまま、虫をつぶすような声でそう搾り出した。
―死にそう。
今の中澤には、その言葉に偽りなど感じなかった。
6 :
バトロワ娘。 : 2001/03/03(土) 07:47 ID:7VYq1m8o
いや、うちら、もう死んでるのかしれへんなぁ。そんな自虐的な言葉が際限なく溢れてくる。
ブラインドの隙間のガラスに映る自分の目が、思っているよりも険しく、冷たい。
中澤はもたれかかった窓から身を離し、ブラインドを歪めていた細い指を引き抜いた。
なんだか、今日は外がやけに静か過ぎる。そんな、気がした。
「さあ、あんたら、明日も仕事やで。
こんなとこで寝とらんと、はよホテルに帰りいや」
パンと一つ中澤が手を打ってみんなに活を入れると、メンバーは誰とも無く
老体に鞭打つように帰り支度をはじめた。
と、その時突然電気が消えた。
「うわぁ!」
非常灯さえついていない漆黒の暗闇の中で、娘たちの悲鳴だけが暴走している。
「おちつきぃ!大丈夫やから、みんな落ち着きぃ!」
中澤は必死でみんなを落ち着けようと声を張り上げた。
それでも石川あたりが大げさかと思えるほど悲鳴をあげて脅えている。
加護や辻も騒いでいるが、こちらは驚き半分楽しさ半分といった感じだ。
「ええ加減にしいや。すぐ非常電源に切り替わるから落ち着きぃや!」
ただでさえ疲れているこの体、無駄なことで極力体力は使いたくないのに、
ついつい声を張り上げてしまう。
―いかん、うちがヒステリー起こしてどないするんや。
思わず声を張り上げてしまったことをすぐに後悔した。うちがしっかりせなあかんのに。
「みんな、大丈夫だよ。外は電気ついてるもん」
何処にいるともしれない安倍がすかさずフォローを入れる。
中澤が窓の方を振り返ると、
下りたブラインドの小さな隙間から彩られた東京の町の明かりが差し込んでいる。
―あれ?ということは、停電してるの、ここだけなんか?どういうこっちゃ。
7 :
バトロワ娘。 : 2001/03/03(土) 07:48 ID:7VYq1m8o
そう思った矢先、楽屋の蛍光灯が点滅し、再び以前と変わらぬ明かりを取り戻した。
突然光を受けて目を細めた先、中澤は信じれらない光景を見た。
入り口の扉のところに立つ人影。
全身黒ずくめの格好、手にはM16A1マシンガンを構え、こちらに向けている。
みんなもすぐにそれに気付いたようで、
金縛りのように固まったまま、誰一人声すらあげられない。
「おとなしくしろ!このテレビ局は我々『解放の羊』が占拠した!」
まるで特殊部隊のような格好をしたその男が、銃口を娘たちに向けたままそう叫んだ。
ただ、中澤が一番初めに思ったこと、それは
―これって、ドッキリ企画?うちらわざと驚いた方がええんか?
ということだった。
そして、その思いは他のメンバーもそれは同様だったようで、
すぐにテレビ用の顔を作っているほかの娘たちを視線だけで見渡した中澤は、
こいつらほんまにプロやなぁ、と少し場違いながらも、小さく憫笑した。
ただ、10分後、お茶の間は信じられない文字の羅列をテレビで目撃することになる
ニュース速報
「本日午後10時ごろ 大日本テレビ局が何者かによって占拠された模様
人質は人気芸能グループ モーニング娘を含む多数とみられる」
8 :
名無し娘。 : 2001/03/03(土) 08:18 ID:Y0IHhmYA
ガムバレ。
9 :
名無し娘。 : 2001/03/03(土) 09:49 ID:anfgJNB6
気体上げ
10 :
名無し娘。。 : 2001/03/03(土) 11:50 ID:Z6Xgca7w
続ききぼーんあげ
11 :
名無し娘。 : 2001/03/03(土) 13:13 ID:nZZdrwk6
相変わらずだなあ…
娘に。付いてねえし
12 :
名無し娘。 : 2001/03/03(土) 15:19 ID:a49FSEUw
007のファンですか?
がんばれ。
13 :
名無し娘。 : 2001/03/04(日) 04:40 ID:I8.Q73Z.
イイ感じ♪。モ板で本格的な小説が読めるとは嬉しい限り。
細かい描写が自然と世界に連れていってくれるね。
がんばれー
14 :
名無し娘。。 : 2001/03/05(月) 14:27 ID:py93apVM
age
15 :
名無し娘。 : 2001/03/05(月) 16:30 ID:cgiLjPJM
がむばれぇ♪
小説だからsage
16 :
名無し娘。 : 2001/03/05(月) 22:11 ID:60HoDQ4s
大期待。
17 :
名無し娘。 : 2001/03/06(火) 03:35 ID:NXxs3an.
ここってどうなんでしょう?
sageたほうがいいのでしょうか。
18 :
名無し娘。 : 2001/03/06(火) 14:58 ID:5T8nPGrU
>17
小説はsageないと後で要らないレスがたくさんついて読みにくいだろう。
だからsageた方がいいんだよ。たぶんな。
19 :
バトロワ娘。 : 2001/03/06(火) 17:17 ID:rN0Lhu4E
バイト死の6連続の5日目〜 死にそう〜
更新もうちょっと待ってくださいね。ホント、すみません。
では、逝ってきま〜す
20 :
名無し娘。 : 2001/03/06(火) 17:29 ID:UxvH.guw
ワンギャル光線発射!
鉄夫!本当の戦いはこれからだ!age
21 :
名無し娘。 : 2001/03/06(火) 17:45 ID:2Ps0Kflc
どうしよう・・・漫才は作れるのにコントが作れない。
22 :
名無し娘。 : 2001/03/07(水) 17:49 ID:GN2WR8eI
あげ
23 :
名無し娘。 : 2001/03/07(水) 23:57 ID:I.I/6v4M
前作の大ファンだった私としては、期待大!!
無理せずがんばってください。
24 :
名無し娘。 : 2001/03/08(木) 00:30 ID:kTe0sP.A
中澤の件が小説に少なからず影響をもたらすかも
25 :
名無し娘。 : 2001/03/08(木) 03:51 ID:QTzmLqF6
おお、新連載。これからも期待。
ちょっと重箱の隅で悪いけど、
>>2の8行目、「塩見さん」になってるよ。
26 :
名無し娘。 : 2001/03/08(木) 08:29 ID:L3K9S4jI
重箱ついでに
「メーデー」は普通「非常事態」って意味。
無粋で申し訳ないが。
27 :
名無し娘。 : 2001/03/09(金) 02:02 ID:U.nhPbh6
期待中
28 :
名無し娘。 : 2001/03/09(金) 02:04 ID:U.nhPbh6
>>27 大・中・小の中みたいだ。困った。
そーじゃないぞ。期待度は大だ。
レスありがとうございます。更新遅れ気味ですね、頑張ります。
>>11 またやってしまいましたね。1の方はほんとに忘れてました。ただ小説内のニュース速報の方は「。」は気付いていたんですが、
意図的に外してしまいました。ニュース速報って句読点をつけないって聞いたことがあったので・・・
でも、よくよく考えたらモーニング娘。の「。」は句読点ではなくてデザインですね。失敬。
>>12 残念ながら007のファンではないんです。アクション映画もあまり見ないかも。
今回の話、じつはアクションのようでアクションではありません。バトル系期待してた人には申し訳ないんですが。
>>24 これ、今回の小説で結構重要な点で、ちょっと困ってます(謎 どうしよう・・・
やめんといて、中澤姉さん〜
>>25 これも素で間違えました。人物名間違えるなんて致命的ですね。毎回気を付けてるつもりなのになくならんなぁ・・・
しかも、これ以外にも他に誤字発見してしまいました(w
>>26 私ずっと「メーデー」って「革命」ってニュアンスだと思ってました(w
今回もそんな雰囲気をもたせて使ってます。ロシア革命のメーデーの印象が強くて。
30 :
バトロワ娘。 : 2001/03/09(金) 09:46 ID:eRPTG5YQ
[大日本テレビ局 9階 楽屋]
そこはまさに、別世界、と表現するのが相応しいか、
気味の悪いほど生気を失った誰もいない楽屋で石川は一人、
冷たい床にへたり込んだまま動けなくなっていた。
あの時、石川はちょうどテロリストによって開かれた扉の裏側と楽屋の壁の間に
はさまれた格好で身動ぎ一つ出来ずにその光景を見ていた。
戸板の陰からは銃口らしき先が見えていた。
みんなが連行されていく時、中澤さんが目線で合図を送ったように見えた。
―あんた、外への救助連絡まかせたで。
石川は声も出せなかった。
テロリストの銃弾によって削られた天井の板屑が肩に少しだけ積もっていた。
「みんな、連れていかれちゃった・・・
どうしよう・・・とりあえず、警察に連絡しなくっちゃ・・・」
幾分うつろな目をもって、石川は自分にそう言い聞かせた。
これはテレビの企画でもドッキリでもない、未だ耳に残る銃声がそう物語っている。
石川自身、もう警察が駆けつけてきていること自体には重々気がついていた。
9階の部屋にも十分過ぎるほど届くけたたましい数多くのサイレン、
ブラインドの隙間からでもわかる、
東京の空の色を変えてしまいかねない程の赤色灯の明かり。
でも、メンバーが危険な目に遭っているのにじっとしていられない。
もしかしたら、今、内部の様子を伝えられるのは私だけかもしれない。
石川は小さく震える足をもってゆっくり立ち上がると、
とりあえず、物音を立てないよう慎重に部屋の電気のスイッチに手を伸ばして、
部屋の明かりを消した。
31 :
バトロワ娘。 : 2001/03/09(金) 09:48 ID:eRPTG5YQ
暗闇には人一倍怖がりのはず、なのに、今は何故か明るいことが怖い。
幸い、閉められた楽屋の扉にはガラス窓一つ付いておらず、
外の廊下から部屋の様子は覗えない。
石川一人のためには余りに広すぎる楽屋、それが、一瞬にして暗に染まる。
石川は一瞬全ての視覚を失ったが、
ブラインドの隙間から漏れてくる赤色灯の明かりと自分の記憶によって
何とか部屋の様子は認識することができた。
感覚的に、なぜか気温がとても下がった気がした。
―携帯電話は、たしかロッカーの中のカバンに入れたままね。
やや混乱した中で、そう記憶を手繰り寄せた石川は携帯を求めて
まるで薄氷の上を歩くが如く慎重に歩き出した。
・・・・・・・・パキッ
暗闇の中で、石川のか細い足がおやつか何かを踏み潰す、
その音に石川は息を飲んだ。反射的に扉の方を振り返った。
決して外の廊下まで届きそうも無いささやかな音だったが、
今の石川にはまる学校のテスト中に携帯が鳴り響いた、そんな感じだったのかもしれない。
―・・・・・・ふう
幾分激しくなった呼吸と心拍を取り静めるため、小さく深呼吸をする。
なぜか、涙が徐々に溢れてくるのがわかった。
32 :
バトロワ娘。 : 2001/03/09(金) 09:50 ID:eRPTG5YQ
神経をすり減らさんばかりの労力をかけてロッカーまでたどり着いた石川は、
その扉を物音立てぬよう静かに開いた。
綺麗に整理されたロッカー内。
中に入った私服などを慎重に掻き分けてカバンを取り出し、携帯を求めて中をまさぐった。
それはすぐに見つかった。石川は携帯だけを抜き取ると、カバンをロッカーの中に再び戻し、
さらに部屋の奥に向けて移動した。
ちょうど部屋の角とロッカーの隙間の陰に入り口から隠れるように身を隠すと、
スカートの上からでもその冷たさの響く床に腰を下ろした。
赤色灯の木漏れ日に赤く染まった携帯を持つ手が小さく震えている。
―ここで石川がしっかりしないと・・・ネガティブになっちゃだめ!
色々な恐怖や不安や緊張で小刻みに震える指を止めるように携帯に押し付けて、
石川は110番を押した。
携帯のバックライトがとても明るく感じて、思わず手で光が漏れないように隠した。
―お願い!だれか早く出て!
33 :
名無し読者 : 2001/03/10(土) 03:15 ID:3gYPbSQQ
娘。小説総合スレッドの方であげさせていただきます。
34 :
名無し娘。 : 2001/03/10(土) 16:03 ID:d.OCmrOc
前作とのキャラのギャップに萌え。
毎日チェックしちょきます。
35 :
名無し娘。 : 2001/03/10(土) 21:18 ID:PxsH8yUk
>>29 メーデー(1)「May Day」
5月1日。労働祭。赤旗持って日比谷公園大行進とかそんなイメージでOK。
19世紀末米国でのゼネストが発祥、西欧中心に活発化。
ロシア10月革命への源流みたいなのにはなったけど直接の関係はなし。
>>26 メーデー(2)「Mayday」
音声無線の国際救難信号。仏語の m'aider(助けて)が英語化したもの。
モールスで使うSOSと同義。
使用した状況が状況だからな。作者の意図はどうかわからんが
やっぱ(2)の意味が強くなっちゃうな。
スレ汚ししてすまんな。
続けてくれ。
36 :
名無し娘。 : 2001/03/13(火) 01:29 ID:7PczLkwg
保全。描写がうまいねえ。
どうやらメーデーは私の一方的な思い込みのようですね。
でも、もうどうしようも無いのでさらりと読み流してください(w
それにしても、何故か最近筆が進まない。書いては消し、書いては消しの繰り返し。
う〜ん・・・なんでだろう・・・
38 :
バトロワ娘。 : 2001/03/14(水) 00:44 ID:LMwx.iIQ
[大日本テレビ局玄関前 警視庁現地対策本部 トレーラー内]
まるで野球場のカクテル光線。
もはや数え切れないほどのサーチライトが、この東京の夜景を霞ませるほどに
大日本テレビ局を浮かび上がらせていた。
上空には明らかに警視庁のものとは違うヘリ数10機が、
死を待つハゲワシよろしく、テレビ局の上を爆音を轟かせながら旋回している。
局の周りには、外周を取り囲むようにして、ゆうに百台は下らないであろうパトカーや
緊急車両がその周りを囲んでいる
さらにその外側には数え切れないほどの群集、警官、報道陣。
まるで日本における関心事が全て、ここに集結したかのような騒ぎになっていた。
しかし、それとは反して舞台の中心となっている大日本テレビ局は
不気味なほど静かで、事件発生以来沈黙を保ったままにいた。
「これが、テレビ局内部の見取り図です、香川警視長」
局の玄関前に横付けされた大型トレーラーとその側面に書かれた控えめな警視庁の文字、
そのコンテナ内の仮設現地対策本部に香川警視長はいた。
全国545人の警視長の中では数えるほどしかいないノンキャリアで叩き上げ。
今まで数多くの難事件に携わり、その多くを解決してきたベテランである。
それゆえ、この地位までくるのにそれ相当の時間を費やしてしまったが。
気が付けば、まもなく50歳を超えようとしている。
「・・・・・・・・う〜ん」
香川は幾分白髪の混じった無精ひげをさすりながら、テーブルに広げられた
数多くの資料に眼を通してうなった。
お世辞にも広いとはいえないコンテナ内は無線機やモニターなどの計器類で埋められ、
オレンジ色の光は全てを映し出すにはあまりに薄暗く、まもなく春だというのに蒸し暑い。
39 :
バトロワ娘。 : 2001/03/14(水) 00:45 ID:LMwx.iIQ
テレビ局内の様子はこれまでに局内から脱出してきた人々からの情報によって、
ある程度の内情は掴めていた。
テロリストは大体20人ないし30人ほど。
人質とされているのは8階報道フロアの報道関係者50人程と、
最上階9階にいた芸能人、モーニング娘。の10人。
それ以外の人々はテロリストに追い出されるようにして、解放されたようだ。
ただ、地下一階警備員室および監視モニター室とは連絡が未だつかない。
テロリストグループは全員の左腕につけられていたという特徴的な赤い腕章から、
極左過激派グループ「解放の羊」のメンバーである可能性が高いということ。
テロリストのメンバーは全員武器を所持。
要求は未だ不明。人質の安全も不明。犯行声明も出ていない。
「厄介だな・・・・・・」
香川は自分で頼んでおいたコーヒーに手をつけることも無く、
ただただ煩雑に並べられた机の資料をにらめつけては、唸るばかりだった。
一つの資料に目を通しきる前にその横には次々と新たな資料が積み上げられていく。
「よりによって、解放の羊とはな・・・
俺も今まで何度と無くやりあってきたが、本当に手ごわい連中だ。
札幌ハイジャック事件、検察庁爆破事件、国竹警視庁長官暗殺未遂事件・・・
数多くの歴史的テロ事件の背景には必ず奴らの存在があった。
おまえらも知っていると思うが、奴らの組織力は半端じゃないぞ。
裏では国を動かすほどの権力を握っているとも言うしな。」
目線を落としたままそこまで一気に喋ると、
既に薫りのたたなくなったコーヒーを少しだけ口に含んだ。
机の周りを取り囲む警察関係者の表情がみるみる曇っていく。
「・・・・・・長い戦いになりそうだ。」
40 :
バトロワ娘。 : 2001/03/14(水) 00:45 ID:LMwx.iIQ
「香川警視長!センターより緊急の入電です!」
コンテナ奥の無機質な機械の前に座っていた一人が、
被っていたヘッドホンを少しだけ持ち上げ素早くこちらを振り返ったかと思うと、そう叫んだ。
「どうやら、監禁を免れた人質からテレビ局内より通報があった模様です!
こちらに回線を開きますか?」
一気に対策本部が騒然とする。
「それはいたずら電話とかではないんだな?」
香川はまったく慌てる様子も無く、資料に目を向けたままそう切り替えした
「はい!電話会社から確認とりましたが、発信元は局内部で間違いないようです。」
「そうかわかった、私が代わりに話す。こちらに回線をまわしてくれ。
君は録音の用意と、本庁の本部に連絡を。」
そういいながら香川は彼の席まで歩み寄ると、さっとヘッドホンを受け取って
マイクに近づいた。
ふぅっと小さく深呼吸をして、
緑色に鈍く光る小さなボタンに、お世辞にも美しいとはいえないそのごつごつした指を掛けた
41 :
名無し読者 : 2001/03/14(水) 01:48 ID:WythVuqE
娘。小説総合スレッドの方であげさせていただきます。
警視庁長官ではなく警察庁長官もしくは警視総監だと思われ・・・
>警視長は小規模な県警の本部長クラス。
>警察庁でいうところの○○管区警察局部長、警視庁の部長クラス。
>ノンキャリアがここまでたどり着くのは大出世だそうです。
とあるので警視長が現場に出ることは無いと思われ・・・
まあどうでもいいですが
43 :
バトロワ娘。 : 2001/03/14(水) 16:19 ID:d1uMu8YI
うひょ!また痛恨のミス!
そうですね、警視庁長官なんておりませぬ。警察庁長官です。
で、警視長が現場に出てくる件はですね・・・正直わかりません。
「テレビ局でテロが起こったとき、警察体系はどう動くんやろか・・・」って考えましたが、まったくわかりませんでした。
まあ、普通に考えたら「現地対策本部」と「管轄の署内対策本部」、「本庁の対策本部」、「政府官邸の対策本部」
の4つが設置されるんかなぁって・・・で、今回の現地対策本部の香川警視長は本庁から派遣された
という設定にしてました。
テロ事件という事件性から指揮権は警視や警視正よりは警視長かなっと思って・・・うむ〜よくわからん。
まあ、香川警視長にはテロへの実績が豊富ということも考慮して・・・
だれか、警察体系に明るい人フォローお願いします(汗
っていうか、この時点でこれだけ間違いの多い小説を引き続き続けていっていいものかどうか・・・
44 :
名無し娘。 : 2001/03/14(水) 23:09 ID:SswBk.zQ
ぜひ続けて欲しいです!
ところで、題名の「ストックホルム・シンドローム」は、
物語の伏線ですよね。それ考えただけで
どんな結末になるのか楽しみです。
45 :
名無し娘。 : 2001/03/14(水) 23:10 ID:SswBk.zQ
すいません、ageてしまった・・・。
46 :
名無し娘。 : 2001/03/15(木) 05:27 ID:MJxyY1mQ
気にするな
巷の業界ものドラマなんてもっとでたらめな考証だ
がんがれ
47 :
名無し娘。 : 2001/03/16(金) 01:26 ID:2g015ee6
携帯では発信場所がそれほど特定出来ないと思うんだけど。
まあそんなことはいいか。
前作から読んでるけど、
この作者さんは知識は無いけど才能が有るよね。
歳食えば知識なんて嫌でもついてくるから、
ここは気にせずガンガン書いてください。
48 :
名無し娘。 : 2001/03/16(金) 10:47 ID:Frg71/zc
つーかよぉ、
細かいトコ突っ込みすぎ。
49 :
名無し娘。 : 2001/03/18(日) 16:36 ID:3SS0G5PU
うーん、確かにそうかもしれないけど。
47さんの言う通り、才能はあると思うから
もうちょっと細かいところを気にして欲しいのは事実。
前作もそうだったけど書きながら成長するみたいね、作者は。
50 :
名無し娘。 : 2001/03/19(月) 22:50 ID:ArAgjcFA
待ちsage
51 :
名無し娘。 : 2001/03/21(水) 01:20 ID:W19qD6hc
待ち続けsage
52 :
名無し娘。 : 2001/03/21(水) 02:20 ID:1t9DUAcg
凄いね。始まったばかりなのに、もう夢中になったよ。
やっぱり小説はこうでなくちゃ!
53 :
名無し娘。 : 2001/03/22(木) 03:18 ID:ETK3A2Pk
もう一週間も経つよ
細かい事言うやつも、言わない奴も
みんな君の小説を楽しみにしてるんだぞ
ハアハア
54 :
名無し娘。 : 2001/03/23(金) 07:13 ID:zeqiHuLY
続き楽しみです。でも焦らないように。
あまり細かいつっこみにこだわらないで。
バトロワさんのもつ文章のリズム感を
大事にして。
55 :
名無し娘。 : 2001/03/26(月) 00:12 ID:zo7T4AVE
>>47 ピッチはある程度できるんじゃないの?逆探。
つーか期待アゲしたいんあだけど保全サゲ
56 :
名無し娘。 : 2001/03/26(月) 23:43 ID:fSOzYf9Y
いつまでも待ちまsage
いまだこんなスレ読んで頂いてどうもです
いまは色々理由があってすぐには書けませんが、
4月に入ったら必ず再開します。
ほんと、ごめんなさい
58 :
名無し娘。 : 2001/03/28(水) 23:54 ID:aFX122f2
ブックマークはいつまでも
59 :
名無し娘。 : 2001/03/29(木) 02:42 ID:B.yPQYRM
おもしろい!
続編期待!
60 :
名無し名無し : 2001/04/01(日) 03:05 ID:weFThfbU
携帯でも今はかなり細かく区域の特定できるよ。
中継基地の数がかなり増えたからね。
具体的な数字だすと、都心部だと、ぎりぎり百メートル以内。。。。
微妙だね。
61 :
名無し娘。 : 2001/04/02(月) 23:18 ID:Kz6SuVaM
4月入ったよ〜
まだ忙しいの?バトロワ娘さん〜
62 :
名無し娘。 : 2001/04/05(木) 04:18 ID:BQBCKD6k
保全しとこう
63 :
名無し娘。 : 2001/04/05(木) 13:50 ID:vcCiRx4E
さて…そろそろ葬式の準備でもするか
64 :
名無し娘。 : 2001/04/06(金) 18:32 ID:lplHe7BU
65 :
名無し娘。 : 2001/04/07(土) 22:45 ID:OnN7qcCw
保全
66 :
名無し娘。 : 2001/04/09(月) 00:34 ID:TfuYMXqs
( `.∀´)<保(田)全
67 :
名無し娘。 : 2001/04/10(火) 18:19 ID:sPP9.WKM
続きが読みたいね。
68 :
名無し娘。 : 2001/04/11(水) 13:06 ID:5TlieNmc
ウド編は終了。
次回からクメン編が始まります
69 :
名無し娘。 : 2001/04/11(水) 20:40 ID:E27BoJ4E
まだか〜続き読みたい〜
70 :
名無し娘。 : 2001/04/11(水) 21:06 ID:c1EXfMiE
4月は何かと忙しいのかな。新社会人になったとか。
71 :
名無し娘。 : 2001/04/13(金) 10:21 ID:gqK4lq86
72 :
名無し娘。 : 2001/04/15(日) 02:23 ID:GKctpAE6
保全!
73 :
名無し娘。 : 2001/04/16(月) 06:01 ID:E1M92mcc
まってるぞ
74 :
名無し娘。 : 2001/04/18(水) 03:06 ID:nLxDGtoA
ほぜn
75 :
名無し娘。 : 2001/04/18(水) 18:56 ID:2Cs4ylQM
ほぜん
76 :
名無し娘。 : 2001/04/19(木) 22:02 ID:WPC9qBu6
待ってますの保全。
77 :
名無し娘。:2001/04/21(土) 03:37 ID:d4tOHtXs
ほぜん。
78 :
名無し娘。:2001/04/23(月) 21:48 ID:LD3zi3VE
・・・保全。
79 :
名無し娘。:2001/04/24(火) 17:03 ID:oNptgo3o
ほぜん
80 :
名無し娘。:2001/04/25(水) 04:26 ID:73dFo.ac
hozen.
81 :
名無し娘。:2001/04/26(木) 01:24 ID:0pyEMxbE
ほぜん
82 :
名無し娘。:2001/04/26(木) 22:46 ID:l7QE5big
hozen
83 :
名無し娘。:2001/04/27(金) 19:19 ID:RMBXxvuY
まってるぞ
保全
84 :
名無し娘。:2001/04/28(土) 23:53 ID:r.YvE94c
俺もほぜん
85 :
名無し娘。:2001/04/29(日) 19:11 ID:lAfihTvA
ホゼムじゃ
86 :
名無し娘。:2001/04/29(日) 23:14 ID:2c8lOgXQ
4月が終わり5月が来るなぁ。
どうしたんでしょ?
保全。
87 :
名無し娘。:2001/04/30(月) 02:34 ID:y4j.FvdA
待ちの保全
しつこくホゼム
89 :
名無し娘。:2001/05/03(木) 02:08 ID:m05nY.b2
待ちの保全。
90 :
名無し娘。:2001/05/04(金) 04:52 ID:Vx01jXMg
ほぜーん
91 :
名無し娘。:2001/05/06(日) 01:41 ID:JE9WQm62
hozen
92 :
バトロワ娘。:2001/05/08(火) 00:28 ID:y0t5NLdA
まず最初に。保全していただいた方ほんとにありがとうございます
4月に間に合いませんでしたね。ほんと最低です。
私も社会人になって、色々あって、ごめんなさい。
もう暫くしたらしたら地元を離れ東京に出ていこうと思っています。
って、関係ない話でしたね(w
とにかく、こんなヘボ人間ですが出来る限り書いていきたいと思っています
もう一度。ありがとうございました
93 :
バトロワ娘。:2001/05/08(火) 00:30 ID:y0t5NLdA
[大日本テレビ局 9階 楽屋]
オペレーターに『しばらくお待ちいただけますか』といわれてから
ものすごい時間が経過した気がする。
石川は携帯を耳に押し当てて、暗闇の中ただひたすら待ち続けていた。
−何で!? どうして誰も出てくれないの!?
孤独と不安と恐怖からまた涙が溢れそうになる。
テレビ局すれすれを掠めていくヘリのサーチライトが、
ブラインドの隙間からといえ何度となく部屋を昼間のように照らし出した。
それに伴って、すべてをかき消すほどのローター音。
石川の恐怖心は今にも破裂せんばかりに膨張していた。
「はい、こちら警視庁の香川だが」
携帯のスピーカーから聞こえるあまりに突然の返事。
石川は思わず、一瞬手にした携帯を投げ出してしまいそうになったが、
両手でそれを抱え込むように持ち帰ると、堰を切ったように話し始めた。
「あ、あの、わたし石川といいます。
ええっと、モーニング娘。の石川っていうんです。
それで、えっと、あの・・・」
伝えよう、伝えようとするほど言葉が出てこない。
−言わなきゃいけないことは沢山あるのに・・・
そう頭でわかってていても言葉が口をついてでない。
−みんなが私を頼りにしているのに、やっぱり私なにやってもダメなんだ・・・
またもネガティブな考えが心を支配していく。
94 :
バトロワ娘。:2001/05/08(火) 00:31 ID:y0t5NLdA
「大丈夫。落ち着いて。ちゃんと聞いているから。
一度、大きく息を吸ってごらん。
一つずつゆっくりと話していこうじゃないか。
君は石川さん、だね。モーニング娘。の石川さんでいいんだね。
私もいつもテレビで拝見させてもらっているよ
私は警視長の香川というものだ。もう、50過ぎのおじさんだよ。
今、君の身は危険にさらされていないのかい?」
トーンの低くゆっくりと、それでいて落ち着いた声が石川の耳に届く。
汗ばむ手で携帯電話をきつくきつく握りしめたまま、石川は一つ大きく息をした。
オーバーヒート寸前の熱く火照った体の中を冷えた空気が駆けめぐっていく。
石川は吸い込んだときよりもさらに幾分時間を掛けて、その火照った空気をはき出した。
「はい、今は大丈夫です。私一人なんです
ほかのメンバーは突然入ってきた男の人に連れて行かれちゃって・・・
私ひとりで楽屋に隠れてて、そこから電話してるんです。」
幾度となくテレビ局にまとわりつくヘリの爆音がその二人の会話を邪魔したが、
石川は取り乱すことなく落ち着いて話しを続けた。
95 :
バトロワ娘。:2001/05/08(火) 00:32 ID:y0t5NLdA
「あ、あの、私これからどうしたらいいんでしょうか・・・」
闇に説けてしまうほどの消え入りそうな声で石川は聞いた。
今すぐ助けに来てもらえないことはわかっていた。
みんなを置いて1人だけ逃げ出すこともできない。それもわかっていた。
でも、ここの暗闇に1人でいることが、とても怖い。それもわかっていた。
「君ももう気付いていると思うが、テレビ局の周りは私たち警察が取り囲んでいる。
私たちも全力を尽くして君たちを助け出そうと頑張っている。
だから・・・少し協力して欲しい。
君を危険な目に晒すつもりは毛頭ない。
ただ、わかる範囲でいいから内部の状況を教えてくれないか」
はい、と返事を返そうと思ったが、うまく言葉が出ない。
背中は汗だくなのに、口の中がからからに乾いていて声が掠れてしまっている。
小さくつばを飲み込んだ後、絞り出すように話し始めた。
「私・・・何もわからないんです。ほんとに・・・私・・・
一瞬のことで、気がついたらみんな連れ去られてて・・・それで・・・
・・・ごめんなさい。」
最後にはやや鳴き声混じりにそう答えた。
96 :
バトロワ娘。:2001/05/08(火) 00:33 ID:y0t5NLdA
「・・・そうか。それは仕方ない。
それじゃあ、君はそこに隠れていてくれないか。決して外に出てはいけないよ。
私たちがすぐにきっと助けにいくから。それまで頑張るんだよ。
またこちらからすぐに連絡するから。
それじゃあ、バッテリーが切れないうちにいったん切るよ。」
―あ!待って!
石川がそう言おうと思った矢先に、携帯のバックライトが消え闇を取り戻した。
また、暗闇の中に取り残されてしまった。いつ終わるともしれぬ恐怖、孤独、不安。
石川は香川の言った最後の言葉に、事態はすぐには終わらないと、そう思った。
97 :
バトロワ娘。:2001/05/08(火) 00:35 ID:y0t5NLdA
[大日本テレビ局 9階 第12スタジオ内]
このテレビ局でこのスタジオが一番小さいのではなかろうか。
先ほどまで収録されていた通販番組のセットがそのまま残され、
消されることのなかった照明は、
ただ画面に映る世界、その装いも大袈裟なほどのセットだけを煌々と照らしている。
あの楽屋から連行されてきた娘。たちはこのスタジオに連れてこられ、
セット脇の待機場のようなスペースの床に、みんな身を寄せ合って座っていた。
そんな娘。たちの前に、黒ずくめ戦闘服、印象的な少し黒みがかった独特の赤い腕章、そして、手には銃を抱えた男が歩み寄ってきた。
照明に十分届かないこの位置からはその容貌までよく見えないが、
オールバックの髪に切れ長の目。
年はきっと30にも達していないだろう。
彼は、娘。たちの前で立ち止まるとゆっくりと全員を見渡して、こう、話し始めた
「いきなりだが、今回の事について先に謝らせて頂きたい。本当に申し訳ない。
本来、君たちまで巻き込むつもりはなかったんだ。
上層部の指示で君たちの身柄を拘束させてもらっている。悪く思わないで欲しい」
そういって、ゆっくり深々と頭を下げた。
中澤は彼の口から出たその落ち着き払った言葉に驚きを隠せないでいた。
もしかしたら、殺されるのかしら、そんな事まで考えていたのに・・・
戸田は話を続けた
98 :
バトロワ娘。:2001/05/08(火) 00:36 ID:y0t5NLdA
「申し遅れてすまないが、私たちは「沈黙の羊」という組織のメンバーだ。
そして私が今回のテロの指揮を執っている戸田というものだ。
私たちは君たちにいっさい危害を加えるつもりはない。
私たちの要求が通れば君たちはすぐにでも解放するつもりでいる。
それまで申し訳ないが我慢していただきたい。
それと、君たちを交渉の道具として利用させてもらうことも悪く思わないでくれ」
テロリストのあまりに紳士的な態度にみんなその場で返す言葉がなかった。
しばらく間をおき、戸田が娘。をもう一度見渡して仲間のところへ帰ろうと背を向けたとき、
その背中に向かって突然、吉澤が叫んだ
「そ、そんなの私たちに関係ないじゃない!
あ、あ、明日も仕事あるんだし、みんなを帰してよ!」
吉澤のうわずった声がそう大きくないスタジオ内に反響した。
今にも飛びかからん勢いで腰を浮かせた吉澤を
保田が泣き出さんばかりの相貌をもって必死に静止しようとしていた。
その叫びに歩みを止め、戸田はゆっくりと振り返った
99 :
バトロワ娘。:2001/05/08(火) 00:37 ID:y0t5NLdA
「悪いがそれはできない。君たちは人質だという立場を忘れてもらっては困る」
そういうと戸田は抱えていたM16A1の銃身をにぎって床を一度だけ小突いた。
冷たく甲高い音が響き渡り、娘。全員の体がビクッとすくんだ
「君たちには見張りをつけさせてもらう。
なるべくなら拘束はしたくないんだが、
刃向かうようなことがあれば我々もそれなりの手段で対抗させてもらう。」
そう言いきると、再び背を向け歩き出した。
静まりかえったスタジオ内に彼の足跡だけが響き渡ってる。
みんなそれ以上何も言わなかった。
誰かのすすり泣く声が、聞こえた気が、した。
[大日本テレビ局 9階 第12スタジオ内]
−石川は無事やろか・・・
収録途中に襲われたのだろう、
一台のカメラは赤い光をその床に写したまま横倒しになっており、
あたりには椅子や機材は散乱し、黒みを帯びて鈍く光るあれは血液だろうか。
そんなスタジオの端に娘。は身を寄せ合ったまま怯え震えていた。
どうしてこんな事に・・・
10メートルほど離れたスタジオの出入り口付近に二人の歩哨が
ただただ黙ってこちらを睨み付けている。
二人ともよく訓練された風な感じであり、さすがに私たち全員でかかっても勝てそうにはない。
中澤はそんな彼らをやや睨み付けながら、
その隣で必死に涙を堪えている安倍に小声で話しかけた。
「・・・なっち、あんた大丈夫か?」
安倍はその問いかけに対し小さく、ゆっくりとうなずいた。
ただ、その視線は暗く冷たい床を見つめたままだったが。
「・・・ありがとう、ゆうちゃん。私は全然平気だよ。
あまりに突然の出来事でちょっと混乱してただけだから。
それに、・・・怖いのは私だけじゃないから。」
よく見ると安倍のさらに向こうに座っている辻が、
安倍の左腕を抱え込むように掴んでいる。
安倍自信もやはり自分がしっかりしないといけないと自覚しているのだろう。
「・・・そうやな。」
中澤は前を向いたまま、そう答えた。
―うちが一番しっかりせなあかんのに・・・情けないわ
何もできない自分がもどかしい。私よりいくつも年下の安倍でさえそう自覚しているのに。
いや、きっと飯田も保田も矢口も後藤も、気丈に振る舞った吉澤も。
そして、会議室に残してきた石川も・・・
「石川・・・」
中澤は思わずその名を声にだして呟いた。
―ほんとにあそこに残してきて正解やったんやろか・・・
あいつだけでも見つからずに助かってくれればええんやけど
もしかしたら石川はうちが石川の事を嫌っていると思っているのかもしれない。
でも、本心中澤は石川が嫌いではなかった。確かに一言多いことはあるけれど。
石川は私にない色々なものを持っている。だからあえて反発するような事もした。
そうすることによって、よりいっそう石川の個性が引き立つと思ったから。
そんな仲だけに、なおさら石川のことが気がかりで仕方なかった。
でも、今は、どうしようもない。
中澤は隣でうつむく安倍が床に付けている右手の甲の上にそっと自分の手を重ねた。
その安倍の手は驚くほど冷えていた
―今、うちに出来ることはメンバーを信じることだけや。
中澤は安倍の手を包み込むように握りしめた
ただ、自分の背中に顔を押し当て、その咽びを殺している保田に対して掛ける
言葉を見つけることは出来なかった。
―・・・モーニング娘。を辞めたいなんて、今は口が裂けても言われへんな。
[大日本テレビ局玄関前 警視庁現地対策本部 トレーラー内]
「テレビ局の周りを囲むビルはすべて立ち入り禁止、報道規制通達、
それと、SATの狙撃チームは周りのビルよりポイント確認の上、待機。
で、肝心の内情偵察だが・・・」
沈着に次々と指示を出していた香川だったが、そこで初めて資料を見つめ唸った。
内部の事情が全くつかめない。
テロリストの数が多すぎて、正面玄関にすら近づけない。
奴らの組織力からいって、地下駐車場の玄関にも屋上にも見張りがいるだろう。
大きな玄関前の広場が幸いして、隠れて近づくことさも出来ない。
進入ポイントは、無い。
「・・・今のところお手上げだな。」
吐き捨てるようにそう言うと、
手にしていた赤いボールペンを机に広げられた沢山の資料の上に放り投げた。
いまは、奴らとの接触を爪を咬んで待つことしかできない、
彼らはすぐ目の前にいるのに多が出せない歯痒さがたまらなく悔しい。
いつ事態が動き、急襲のチャンスがやってくるかもしれない。
一瞬たりとも気が抜けない。
そのとき、机の端におかれていた白い電話機が
赤い光の点滅を伴いながら狭いコンテナ内に鳴り響いた。
「はい、こちら指令車対策本部の香川です」
素早く取り上げた香川は
受話器を右肩と耳で挟みながら先ほど投げ捨てた赤いボールペンを再び取り上げ、
ペン先で空になったコーヒーカップを部下に指し示しながら話しを続けた。
「ええはい、そうですが。・・・え!? いや、しかし」
香川は突然声のトーンを少しだけあげた。
肩に挟んだ受話器を素早く左手に持ち替えた。
「・・・はい、ええわかりました。それでは。」
こんどは幾分トーンをさげ、ゆっくりを受話器をおろした。
ふぅっと短くため息をついて、
訝しげな面もちのままどかっとパイプ椅子に腰を下ろした。
―こちらから指示するまでテロリストに対して手出しをしてはならんとは、
本庁のキャリア連中は何を考えているんだ!
事態は刻々と変化しているというのに、そのチャンスをみすみす見逃せというのか!
「くそっ!」
みんなが一斉に香川の方に視線を送った。
机の上で高く跳ね上がった赤いボールペンが、鉄板の床でその身を欠いた。
手を組んだ肘を机につき、しばらく目を閉じていた香川だったが
その体勢のまま隣にいた部下に話しかけた
「・・・もう一度、彼女に電話してくれないか」
105 :
名無し娘。:2001/05/08(火) 01:19 ID:hbQkLt.E
おかえり!! 待ってたよ(涙
106 :
名無し娘。:2001/05/08(火) 03:58 ID:O2KxaH2o
よかった。帰ってきてくれて。続きも期待。
ところで、組織名は「解放の羊」or「沈黙の羊」、どっち?
107 :
名無し娘。:2001/05/08(火) 05:19 ID:aKzS71VQ
1を信じて保全しつづけてよかった。
これからの展開に期待。
108 :
あいぼんの大ファン:2001/05/09(水) 01:15 ID:oLLjyFB.
つづきをがんばってください。
109 :
名無し娘。:2001/05/09(水) 01:39 ID:SYkltNu6
更新ごくろうさまです。
まだちょっと話が動いてないのでなんとも言えないが・・・
これからもあせらずがんばって欲しいです。
110 :
まだダメ:2001/05/09(水) 23:34 ID:06ZuPmHY
「バトロワ〜」から大好きです。期待してます!
俺が余計なつっこみいれたせいで止めたのかと思っちゃってたよ〜
復活してくれてマジ嬉しいです。
トーキョーくるですか。ガムバッテ。
112 :
名無し娘。:2001/05/10(木) 06:02 ID:C4.WUAZI
ほぜん
113 :
し:2001/05/11(金) 01:36 ID:Qu7/WqMk
114 :
し:2001/05/11(金) 03:34 ID:/4WxPQWY
115 :
名無し娘。:2001/05/12(土) 02:20 ID:5FM8cc5Y
sage
116 :
あはは:2001/05/12(土) 15:20 ID:sj2GtNg6
この小説を読んでいるやついるのかよ(w
117 :
名無し娘。:2001/05/13(日) 00:00 ID:2y/dBYDI
ここにいる
118 :
娘っ子:2001/05/13(日) 22:15 ID:7Q/mzqjY
最初から、読んできた!
バトロワも良かったけど、こっちも面白いじゃん!
頑張って、続き書いてくださいね!
石川〜、頑張れ〜!
119 :
名無し娘。:2001/05/15(火) 01:38 ID:qaTK6ivU
sage
120 :
名無し娘。:2001/05/15(火) 02:28 ID:koNESQCU
ほぜん
121 :
名無し娘。:2001/05/17(木) 03:05 ID:TMZDgmn6
保全
122 :
名無し娘。:2001/05/18(金) 01:19 ID:GVeP99RU
んでもって保全
123 :
名無し娘。:2001/05/19(土) 01:19 ID:ZN.yLQIk
保全
124 :
名無し娘。:2001/05/20(日) 23:20 ID:CEjJhHOs
125 :
名無し娘。:2001/05/22(火) 01:23 ID:FEvlHym6
ほぜん
126 :
名無し娘。:2001/05/23(水) 18:29 ID:U51ibx1M
=========終了==========
127 :
名無し娘。:2001/05/23(水) 20:45 ID:3XKyY4Tg
保全
128 :
名無し娘。:2001/05/25(金) 09:46 ID:.e0xDC.M
保田
129 :
名無し娘。:2001/05/26(土) 21:38 ID:T7L6kabk
新社会人、お仕事がんばれ。
保全
130 :
名無し娘。:2001/05/28(月) 05:14 ID:u7C32C9Y
保全
131 :
名無し娘。:2001/05/28(月) 23:07 ID:wMAt4OVE
HOZEN
132 :
名無し娘。:2001/05/29(火) 00:27 ID:RUMmv1Ec
hozen
133 :
名無し娘。:2001/05/30(水) 20:09 ID:2R47mcPo
ほぜーん
134 :
名無し娘。:2001/05/31(木) 20:09 ID:P/E7M2aA
ほぜーん
135 :
名無し娘。:2001/06/01(金) 10:25 ID:zJmrkBjE
墓前
136 :
名無し娘。:2001/06/02(土) 07:14 ID:OGAlA5vo
>>135 ウマイ!
けど、かすかな希望でもって保全
137 :
名無し娘。:2001/06/04(月) 00:32 ID:jd4Om3rI
hozen
138 :
あ名無し娘。:2001/06/06(水) 01:00 ID:lcCtUTJs
ほゼん
あげちゃった
140 :
名無し娘。:2001/06/09(土) 15:47 ID:tp8v8iEE
保。
141 :
名無し某:2001/06/10(日) 00:40 ID:v/usRnTo
保全sage
142 :
名無し娘。:2001/06/11(月) 22:28 ID:2Cg6aSVI
sage
お久しぶりです。
もの凄い間隔で書いてますね。すみません。
保全していただいた方、申し訳ないです
いったいいつ終わるんでしょうか(汗
あと、「沈黙の羊」ではなく「解放の羊」ですね。
いっこうに恥ずかしいほどにミスは無くならないですね。
まあ、開き直ってこれも私の持ち味だと思ってください。
思えるわけないですね、すみません。なるべく努力します。
[大日本テレビ局 9階 楽屋]
ようやくその目が暗闇になれてきた頃。
石川は以前と変わらぬ部屋の角に身を潜めたままにいた。
ただ、先ほどと違うのは石川の周りに沢山の鞄が置いてあるということ。
じっとしていられなかった石川は暗闇の中、手探りで使えそうなものを探していたのだ。
ずらっと並んだ他のメンバーの鞄、そこから使えそうなものがあれば・・・
―みんな、勝手に鞄あけてごめんね。
石川は律儀にも鞄を一つ一つ開けるたびにそう呟いた。
痴漢よけスプレー、携帯電話などをかき集めたが使えそうなものはそれほど多くなかった。
「取りあえずこれで連絡の手段はなんとかなりそうだけど。
でも、テロリストに見つかったら石川どうしよう・・・」
白く華奢な手に握られた小さな痴漢よけスプレーを見つめながら、そう呟いた。
そういえば、先ほどまで耳をつんざくような爆音をたてていたヘリの音も
気がつくと聞こえなくなっている。
閉め切られた部屋に小さく響くサイレンの音、外の景色をかき消すサーチライトの明かり、
石川を突如どうしようもないほどの不安が駆け抜けた。
「ううぅ・・・うぐぅ・・」
また、涙があふれ出す。
怖くてたまらない。
石川は前に積まれたみんなの鞄に覆い被さるようにして顔を押しつけ、声を殺して泣いた。
少しだけ、メンバーのにおいがした。
―こんな事ならみんなと一緒に連れて行かれた方が良かった・・・
どうして、中澤さんは私だけ置いていったの・・・
「ひぃっ」
石川が突然掠れた悲鳴を漏らした。
薄い藤色と淡いサックスブルーが交差したアーガイルチェックのスカート、
その膝の上に置いてあった自分の携帯電話が振動している。
その暗闇の中では色さえ失ったピンク色のカーディガンの袖で
繰り返し涙をふき取った石川は、膝の上から携帯電話を取り上げると
鼻を小さくすすってから通話ボタンを押した。
「・・・はい」
石川は平静で気丈を装ったつもりだったが、
こんな鼻声では今の今まで泣いていたことなどすぐに気付かれてしまう。
泣くのを我慢するのさえつらくてたまらない。
「大丈夫かい?
ひとりぼっちで心細いと思うけど、今の私には頑張ってと励ますことしかできないんだ。
許して欲しい。」
通話口から香川の優しい声が漏れてくる。
石川はもう一度、その濡れた袖で涙をぬぐい、やや大きく鼻をすすった。
「・・・ありがとうございます
私大丈夫です。頑張ります。」
心なしか携帯のバックライトに温もりを感じるような気がした。
何を頑張ればいいのかなんてわからない、
でも、私にはその励ましがとても心を落ち着かせてくれた。
「あ、あの・・・メンバーや他のひとたちは無事なんでしょうか」
このテレビ局にはとても沢山の人がいたはず。その総てを人質に取る事なんて出来ない。
だから人質にされているのはきっとごく一部の少数の人たちだけだろう、石川はそう思った。
もしかしたら、連れて行かれた娘。メンバーも解放されてしまったかもしれない。
「ああ、今のところ確認が取れないのは君がいる真下のフロアの報道スタッフ数十人と、
君が所属していたモーニング娘。の残りの人たち、それに数人といったところだな。」
「・・・そうですか」
石川はメンバーがまだとらわれているという現実に悲嘆したが、
私だけが取り残されたわけでないと知って安堵の念を覚えたことも確かであった。
−・・・私って最低
みんなが銃の恐怖に怯えながら捕らわれているのに、私はこんなところに隠れてていいの?
そう、何度も思った。
「こちらも何とかして内情を探ろうと頑張っているがなかなか手が出せなくてね・・・
その部屋からなにかわかることがあったら教えて欲しいんだ。何でもいい。
声が聞こえたとか、音がしたとか、何か無いかな。」
石川は言われるがままに辺りを見回し耳を澄ませたが、
部屋は依然暗闇のままであり、耳が拾う音は変わらぬサイレンの音。
何もわからない。
「・・・すみません、やっぱり何もわかりません・・・」
「そうか、それじゃあ仕方ないな。
・・・う〜ん、近くに10円玉かなにかあるかい。」
「はい、あります」
突然の申し出に石川は少し訝りながら、
暗闇の中、器用に自分の鞄をたぐり寄せかわいいピンクの財布を取りだした。
「その10円を今持っている携帯の通話口につけて、1分ほど壁に当てていてもらえないかな。
もしかしたら音紋解析で何か音が拾えるかもしれない。」
「は、はい」
石川は香川の言ったことがよくわからなかったが
言われた通り携帯電話の通話口と近くの壁の間に10円玉を挟んで壁に押し当てた。
−こんなことで本当に何か聞こえるのかしら
まるで壁と会話しているような携帯電話の異様な光景を眺めながら、
石川も何気なく自分の耳を壁にそっと当ててみた。
やや火照り気味の体にその壁は心地いいほど冷たく、
石川は思わず目を閉じて壁から伝わる音に聞き入った。
壁の中の世界はとても静かで清閑だった。
先ほどまで煩わしく聞こえていたサイレンの音も気にはならない。
−ふぅ
石川は自分で意識すること無く深呼吸を繰り返した。
みんなが近くにいる、そんな気がした。
どれくらい時間がたっただろうか、きっと一分以上こうしていたはず。
そろそろいいかしら、石川がそう思って携帯電話を壁から離そうとしたその時、
壁にあてられた石川の耳は確かにその声を聞いた。
−・・・よっすぃー!
まず気付かないだろうというほど本当に微かな響きだったが
石川の耳には確かに届いた
何を言ったかまでははっきりわからなかったけれど、声は絶対よっすぃーだ。
ただ、少し気がかりなのはその声は叫び声のようにも聞こえたこと。
−無事だといいんだけど・・・
石川は不安な言葉を口に出したが、内心は喜んでいた。
というよりかは、メンバーが近くにいることを感じられて安心したと言った方が正しいか。
取りあえず、今の石川のとってその声と何にも代えがたい安心感を与えた。
石川はさらに暫く耳を押し当てていたが、それ以上はなにも聞こえなかったので
あきらめて携帯電話を壁から離した。
「3分以上たってるから、何かあったんじゃないかと心配になったよ」
香川が少し安堵と苦笑いの混じった声で話しかけてきた
「ごめんなさい。何か聞こえました?」
携帯を壁にあてる前より石川のトーンが少しあがっている。
「いや、すぐにはわからないよ。
これから今録音したテープを音紋解析にかけて分析するからね
君は何か聞こえたのかい」
「え、あ、はい。・・・たぶんなんですけど、よっすぃーの、
あ、メンバーの吉澤さんの声が聞こえたような気がしたんです。
何を喋っているかまではわからなかったんですけど・・・。」
石川の語り口が少し早くなった。香川はなぜ時間がかかったのかわかった気がした。
「そうか。君には聞こえたんだね。
ということは、メンバーは大丈夫、無事だよ。
それじゃあ、また私たちは君とみんなを助け出す方法を一生懸命考えるから、
電話を切るよ。
また、必ず電話する。君も何かわかったら電話してくれ。」
「は、はい。わかりました」
携帯はまた光を失い、石川を再び暗澹な部屋へと戻らせた。
石川はもう一度目を瞑って、
まるでメンバー寄り添うかのようにまだ少し温もりの残る壁にもたれ耳を押し当てた。
[大日本テレビ局 9階 第12スタジオ内]
後藤はちょうど寄り添ったメンバーの真ん中あたりに体育座りのような膝を立てた格好をして、
その立てた膝の間に顔を埋めるような感じで座っていた。
位置関係で言えば、後藤を中心にして目の前が安倍、その両隣が中澤と辻
後藤の右に保田、左は飯田とさらに奥に加護。
後藤の後ろに吉澤と矢口が座っている
ここに連れてこられて30分以上たっただろうか、後藤はずっとその体勢のままにいた。
周りから見れば無関心で強がっているように見えるかもしれない、
でも実は後藤は心底怯えていた。顔さえ上げる事が出来ないほど。
でも、後藤の性格からして泣きじゃくったり自分の弱さをあまり見せない、
そういう性格を後藤自身が一番よく知っていた。
もし、顔を上げて現実を直視するとそれが崩れてしまいそうで、だから顔を上げない、
顔を上げられない。
「後藤、大丈夫?」
そういって声を掛けてきたのは左隣に座っている飯田だった。
後藤はゆっくり顔を上げて飯田の方を見た。
その目は少し涙で充血しており、
あまり見せたことのない後藤の表情に飯田は少しとまどいながらも
そっと肩に手を回して包み込むように後藤を引き寄せた
飯田の反対の手はすでに加護を包みこんでいた。
「あはは、大丈夫大丈夫。
後藤も加護も元気出しなさい。
圭織ね、なんだかわからないけど無事に出られる気がするんだ。
圭織の予想ってよく当たるんだよ。
だからさ、心配することなんか無い、だいじょうぶだっぺ」
飯田はそう言って後藤と加護の肩を叩きながら言った。
「・・・うん。後藤もそう思うよ」
後藤は少し鼻をすすってから顎を上げ、飯田に向かってニッコリほほえんだ。
後藤はその言葉に本当に救われた気がした。
リーダーという存在の本当の意義を再認識したような感じだった。
突然、入り口に立つ見張りの歩哨が動き出した。
みんなの視線が入り口に集中する。
2人の歩哨が深々と頭を下げるなかスタジオに入って来たのは、
先ほど娘たちの前から立ち去った、あの戸田だった。
戸田は確実にこちらに向かって歩いてくる。
みんなに緊張が走った。
戸田は娘たちの前で止まると、ゆっくりみんなを見渡した
「そんなに怯えないでくれるかな。
別に君たちを取って喰おうというわけじゃない。
お喋りしてもらっても構わないし、寝てもらっても構わない。
我々の邪魔さえしなければ、君たちを拘束するつもりはないよ。」
中澤は鼻で笑った。後藤はしっかりと戸田を見据えていた。
辻と加護はそれぞれ安倍と飯田にしがみついたままだ。
他のメンバーも戸田を睨んだまま、一言も発しようとはしなかった。
「どうやら我々は嫌われているようだな。
まあ、それも当然だろう。
そうそう、後で食事を持ってこさせよう。
申し訳ないが当分出られそうになさそうなので、しっかり食事は取っていてくれ。
あー、それと・・・」
そこまで言うと、戸田はもう一度娘たちを見回した。
「今から1人だけちょっと手伝ってもらいたい事があるんだ。
そうだな・・・そこの君、・・・えっと、確か後藤さん、だったかな?
少しの間だけ私たちに付きあってもらえるかな?」
後藤は目を見開いて驚いた。え!?私!?
「・・・わ、私がいくんですか」
「そう、ちょっと我々に協力してほしい。
君だろ、最近CDを出して話題になっていたのは。
私は芸能人に疎いのでみんなの名前はあんまりよくわからないんだが、
君は知ってるよ。
いやなら別にいいんだ。他の人に代わってもらってもかまわない。」
みんなが後藤に視線を送った。
−後藤はここにおっとり。うちが代わったるから
−ごっちん、私がいくよ。
みんなが口々に後藤を気遣って声を掛けてくれる。
泣かない、そう決めたのに涙がこみ上げてくる。
「ぐじゅ・・・ありがとうみんな。
でもいいよ。後藤いくから。
すぐに帰ってくるから心配しないで」
後藤は目を真っ赤にして笑顔でそう答えた。
「あんた、後藤に手出したらあたしが許さへんで」
中澤が戸田を睨みながらそう言い放つ。
みんなで後藤の手を取り合った。
−コンサートの前みたいだね
後藤はそう呟いた。少しだけ恐怖心が和らいだ。
後藤はすくっと立ち上がると、戸田の方に向かって踏み出した
「決まったようだね。
では、私についてきてくれるかな。」
そう言うと、戸田は背中を見せて先に歩き始めた。
後藤は一度だけメンバーの方を振り返って、小さくうなずいた。
みんなもまた、小さくうなずいていた
後藤は戸田の後ろを少し早足で付いていった。
戸田はその歩みを止めずに話し始めた。
「怖いかい?」
後藤は何も言わなかった
「怖いに決まってるよな。
私が同じ立場なら怖いからな。君みたいな女の子ならなおさらだ。」
底のサバイバルブーツがもともと高い戸田の身長をよりいっそう際立たせる。
「・・・いったいなんで、こんなことするわけ」
後藤が足音が消えた。
廊下で立ち止まり、絞り出すようにそう言った。
その小さな肩が小刻みに震えている。
「いったいなんなのか、全然わかんない!
理由もなくさぁ閉じこめられて、今度はあんたたちを手伝えって・・・
そんなの、納得いくわけないじゃない!」
廊下で立ち止まった後藤が戸田を睨み付けている。
戸田は小さくため息をついた。
「そうだな、君の言うことももっともだ。
確かに協力してもらう上ではちゃんと話しておくべきかもしれないな。
でも、今は時間がない。1秒でも惜しい。
それに、君に我々の信念を説くのは少し難しすぎる。
まあ、おいおいわかってくるよ。そう、あせるな。
・・・さあ、いこうか。」
戸田は何事もなかったかのようにまた、歩き始めた。後藤もまた、歩き出した。
歩調の合わない靴の音が廊下に響く。
目的の場所にはすぐに着いた。
「さあ、ここに入ってくれ。」
[大日本テレビ局 9階 第12スタジオ副調整室]
戸田に連れられ後藤がやってきたのは、第12スタジオ副調整室だった。
ここは第12スタジオで行われる撮影を管理する部屋で、
プロデューサー、ディレクター、ミキサーなどの席が並び、
部屋一面機材とモニターで埋め尽くされており、お世辞にも広いとは言えない。
ここもきっと襲われたときは撮影中だったのだろう、
床には台本やら書類やらが散乱している。
部屋の中には戸田の他に4人ほどの仲間がパソコンを広げたり、
端におかれたやや小さな机の上で忙しそうに作業している。
後藤は少し異様な雰囲気に入り口で立ち止まった。
すこし、身の危険をも感じた。
「ようこそ、『解放の羊』総司令部へ。」
戸田がやや自虐的にそう言った。後藤がおそるおそる中へ入った。
1人のテロリストがすぐさま戸田に駆け寄り、なにやら書類らしきものを手渡した。
「戸田隊長、準備はすでに完了しております」
「わかった、ありがとう。」
それだけ言い小さく敬礼したあと、彼はすぐに立ち去った
「それでだ・・・」
戸田は今手渡された書類をパラパラめくりながら後藤の方を振り返った。
後藤はいつでも入り口に逃げ出せるように、重心を後ろに引いて身構えている。
「それで、君にやってもらいたいというのは、
いまから警察に電話して、ここに書かれてあることを読んで欲しいんだ。
たったそれだけだ。簡単だろ。」
そう言うと、戸田は用紙を一枚手に取り後藤に手渡した。
後藤は少し拍子抜けした。
「・・・これを、読めばいいんですか?」
「そうだ。これを警察に向かって読み上げて欲しい
まあ、犯行声明というやつかな。
いま私が警察に電話するから、君は紙に書いてあるとおり読んでくれればそれでいい。
警察が何か言ってくると思うけれど、決して何も答えないでもらいたい。」
戸田はそう言いながらおもむろにそばにあった受話器に手を掛けると、
警察へと電話を掛けた。
159 :
名無し読者:2001/06/12(火) 07:19 ID:eFwehxFM
モーニング娘。板名作集の方であげさせていただきます。
160 :
名無し娘。:2001/06/12(火) 21:32 ID:6YlcNarU
おかえりなさい
161 :
名無し娘。:2001/06/12(火) 21:37 ID:ROP6.gHM
随分待ったとおもったら一ヶ月しか経ってないのね・・・。
今日初めて読んだ。続きを〜は〜や〜め〜に〜!
163 :
名無し娘。:2001/06/13(水) 00:03 ID:ylG6VpWk
で、次回更新はまた1ヵ月後?
164 :
名無し娘。:2001/06/14(木) 00:07 ID:/piWcQsc
おお、更新されてる。
頑張ってください。
165 :
名無し娘。:2001/06/16(土) 18:17 ID:M9CNsM2U
保全
[大日本テレビ局玄関前 警視庁現地対策本部 トレーラー内]
事件発生から1時間半ないし2時間ほどたったであろうか、
トレーラー内の時計もまもなく12時にさしかかろうとしていた。
−・・・遅い
香川は椅子に腰掛け、ただひたすら待っていた。
テロリストからの接触がないかぎりこちらから動くことさえままならない。
なのに、事件発生から2時間、「解放の羊」本部からの声明どころか、
立てこもり犯からの要求さえ出ていない。
これでは全く手の施しようがない。
周りの部下も香川が手にしたボールペンの後ろを噛んでいるのを見て、
必要以上に声を掛けなくなっていた。
彼がそのような仕草をするときは、得てして機嫌が悪いのをみんな知っている。
「香川警視長!犯人より電話での接触あり!」
突然外部連絡担当の部下が声を張り上げた。
トレーラー内の全員が一斉にそっちを振り返った。緊張が走る。
−来たか
香川は待ち焦がれたといわんばかりに、ゆっくりと席を立った
「よし、私が受けよう。準備をよろしく頼む」
これまで何度か似たような現場を手がけてきたとはいえ、
この時ばかりはさすがに緊張する。
少し髭をさわってから、部下からヘッドフォンとマイクを受け取った。
しばらくの間、沈黙が続いた。
「どうも、はじめましてみなさん。
もうご存じかと思われるが、私たちは「解放の羊」のメンバーだ。」
香川はこの声を聞いたときにすぐに誰だかわかった。
その声の主が以前「解放の羊」一斉検挙の際に自らの手で捕らえたことのある戸田だと。
「どうやら初めてじゃなさそうだな。
その声はおまえ、戸田だろう。
『解放の羊』では新進派としてあんまりいい評判は聞かないが」
「そう言うあんたは香川さんか。
以前一度あんたのお世話になったな。
我々が行動を起こすと必ずあんたが絡んでくるよな。
今回もたぶんあんたが仕切ってると、薄々そう思ったよ。」
電話口での戸田のトーンが幾分あがった。
「まあ、そんなことはどうでもいいんだ。
別に感傷に浸るつもりもない。
今回の作戦には私たち組織を上げ、組織生命をかけて行っている。
故に一切の妥協は許さない。
あんたたちは私たちの要求を聞いてくれさえすればいい。
そうすれば人質もすぐに解放する。」
「これはまた一方的な要求だな。
こちらとしてもそう簡単に君たちの有給だけを飲むと言うわけにはいかないな。
取りあえず、人質が無事かどうかだけでも確認させてくれないか。」
「そう言うと思ってスペシャルゲストを用意させてもらったよ。
モーニング娘。の後藤さんだ。
これから彼女に我々の要求を読み上げてもらう。
彼女への一切の交渉は禁止する。」
−えっ!?
少し突然の展開に香川はとまどった。
すかさず部下の1人が後藤真希について書かれた資料を香川に手渡した。
「・・・もしもし、後藤真希です。
あ、あの、・・・いまから読みます。」
ちょ、ちょっとまって、と香川が遮ろうとしたが後藤は話し続けた。
「私たち『解放の羊』が要求する事は以下の通りである。
ひとつ、現金10億円用意すること。新札連番、一億単位でケースに詰めること。
ひとつ、『解放の羊』に関わる政治犯の釈放
ひとつ、屋上にヘリを用意。機種は自衛隊の双発ヘリ、チヌーク1機
ひとつ、『解放の羊』が主張する政治声明を全国放送すること。
以上4点である。
時は明日午後0時まで。
要求はひとつとして欠けてはならない。
・・・えっと、これで終わりなんですけど。」
「ああ、要求はよくわかった。
それより君は無事なのか?他のみんなは?石川という人から連絡があったんだ。
人質はどれくらいいるんだ?」
香川は矢継ぎ早に次々とマイクに向かって質問した。
が、次にスピーカーから聞こえてきた声は彼の求める声ではなく、戸田であった。
「というわけだ。
要求はわかってもらえたと思う。人質の声も聞かせてやった。
交渉は一切しない。質問も無しだ。
近い内に総本部からも犯行声明が出されるだろう。
それでは、また後で。」
待て戸田!と香川が叫んだがそれより一瞬早く電話の切れる音がした。
香川は頭に掛けたヘッドフォンを引きちぎるように外すと、拳を堅く握りしめた。
−くそっ!相手のペースに乗せられたままじゃないか!
こちらから何も出来なかった事の歯痒さが香川の悔しさを増幅する。
しかし、気持ちをすぐに切り替えた。いつまでも悔しがってはいられない。
取りあえず犯人と接触しただけでも事態は大きく前進したと言っていい。
特に香川にとって大きな収穫だったのが、実行犯を率いているのが戸田だとわかったことだ。
長年『解放の羊』を調べてきた香川にとって、
戸田がどういう人物かはだいたいわかる。
ということは、彼のこれからの行動もある程度予想がつく。
「香川警視長、犯人のこと知ってるんですか?」
直近の部下が香川に聞いてくる
「ああ、やつのことならだいたいわかるよ。
戸田というやつは『解放の羊』の組織のなかでは比較的新しいメンバーなんだ
やつはテロや内ゲバに明け暮れる過激派的な旧体制を嫌い、
論理的、かつ効率的に改革を進めようとした新進温厚派なんだ。
だがな、それゆえ旧体制の幹部たちからは嫌われていると聞いていたんだがな・・・
まさか組織の命運をわけるような作戦、
しかもテロという舞台に彼がでてくるとは私も思いもしなかったよ。
やつは頭も切れるしカリスマ性ももっているが、
昔の『解放の羊』のような血で血を洗うような抗争をもっとも嫌っていたんだ。
だから今回のテロも一見暴力的に見えるが、
テレビ局から追い出された人は自ら怪我した人さえいれど、
彼らに傷つけられた人はいないだろ。
やつは人質には手をださんよ。交渉の道具として利用するだけだ。
・・・しかしなぁ」
香川はそこまで話すと、髭をさすりながらう〜んと唸った
「少し引っかかる点がいくつかあるな。
まずこの身代金の要求だ。
持ち運ぶのにもたいへんなほどの金額をなぜあえて現金で要求したのか、
ただでさえ政界にさえ影響を及ぼすほどの一大勢力である『解放の羊』が
金銭面で困っているとも思えんしな。
それに政治犯の釈放だって、頭の賢いあいつには無理難題な要求だとわかるはずだ。
その昔赤軍派といわれる組織がハイジャックにより同様の要求をしたことがあって
その時は超法規的措置という特例がとられ政治犯が釈放されたこともあったが、
世界中から避難を浴びて今ではテロに屈しないというスタンスが確立している。
やつもそれはもちろんわかっている。
わかっているにもかかわらず、なぜこんなに通りにくい要求を突きつけてきたのか。
そして一番引っかかるのは、
彼らの要求がこれほどのリスクを犯してまでするほどの要求では無いということだ。」
香川は手渡された後藤真希の資料を見つめながらそういった。
−こんな幼い少女も犠牲になっているのか・・・
どうにかしてでも、一刻も早く助け出さないといかんな
机の上には消息未確認者のリストが並んである。
香川は赤いボールペンを取り出すと、後藤真希と書かれた名前の横に小さく"9S"と書いて、
赤く丸で囲んだ。
S、"A survival"、つまり9階の生存者ということである。
他の同様に印がついているのは石川梨華だけだ。
「今のところ所在がはっきりしたのは2人だけか・・・
不明者はまだ50名近くはいるな。
ただ、このモーニング娘。とか言う団体は
石川が言ってた通りなら、一カ所にまとめて捕らえられているだろう。
とすれば後藤真希の声の様子におかしなところは感じられなかったから
彼女たちの残りのメンバーも無事だろう。
問題は8階の報道スタッフがどのように捕らえられているかだな・・・」
その時トレーラ中央におかれた机の上の電話が鳴った。
本庁対策本部とトレーラ内を繋ぐホットラインである。
「はい、こちら現地指令車対策本部、香川です」
電話に出ても香川の視線は後藤の資料から外れることはなかった。
「ええ、そうです。
本庁の方にも電話の音声は聞こえていたでしょう。
はい、ええ、はい」
香川はただうなずくばかりだった。
最終的な絶対的指揮権は電話の向こうにいる本庁の連中が持っている。
「はあ、しかしですね・・・
そうですか・・・はい、はいわかりました。」
香川は明らかに落胆の表情を持って受話器をおろした。
すかさず部下が様子を訪ねてくる。
「何かあったんですか?」
「ふぅ、怒られたよ、なんでもっと会話を長引かせなかったのか、
後藤とか言う女の子から何か聞き出せなかったのか、とかね。
奴ら椅子に座って眺めているだけのくせして、いい気なもんだよ全く。
それと、テロリストの要求の件だけどな」
香川はそこで一度だけ区切って、冷めたコーヒーを口に含んだ。
「政府としては、どの要求ものめないと言うんだ。
せめてお金を集めておくとか準備だけでもしとくべきだと思ったんだが、
それもまだ出来ないというんだ。
とにかくもう一度交渉しろとこっちが怒鳴られたよ。」
香川は肩をすくめ、やや口をへの時に曲げてそう吐き捨てた。
−上の連中は人質を見殺しにするつもりか。
また無意識のうちにボールペンの後ろを噛んでいる。
上からもう一度交渉しろと言われたものの、今度いつ掛かってくるかもわからない。
しかも、先に相手に交渉はしないとくぎを刺されている。
取りあえず香川が出来ることはいつでも突入可能なような体勢をしいておくこと、
そして人質を無事に助け出す方法を考えること、それだけだ。
「香川警視長、暗視カメラとサーモで調べた結果
一階玄関ロビーに数人のテロリストの見張りがいるようです。
同様に、裏口と屋上にも人影を確認しました。
進入路にはまず歩哨がいると考えて間違いないと思われます。
・・・それと」
部下が少し言いにくそうに続けた
「マスコミから報道規制の緩和と警察の記者会見の申請が・・・」
「・・・そうか。
報道規制はこのままだ。
固定映像でないと奴らにこちらの動きがばれないとも限らないしな。
ヘリも建物に近づいていかん。民間人にもフラッシュの規制をはれ。
記者会見は近いうちにしないといけないだろう。
国民に不安を与えないのも警察の仕事だからな。
君、セッティングを頼む。」
部下は素早く敬礼すると、急いで駆けだしていった。
そばに置かれたコーヒーも4杯目になろうとしていた。
176 :
名無し娘。:
更新おつかれさまです。
頑張ってください。