1 :
ファン無し作者です :
2001年度5月某日 第13号特別プログラム
同種の小説があるので、基本的にはsageでお願いします。
どうしても旬のうちに書いておきたかったので・・(焦
文章を構成する国語力の無さには目をつぶってやってください。
2 :
名無し娘。 : 2001/01/11(木) 16:32 ID:5TlieNmc
頑張れ!!
国語力なんか関係無い!
気持ちさえ伝わればいいんだ!
クラス名簿
1番 加護亜衣 9番 飯田圭織
2番 吉澤瞳 10番 保田圭
3番 ソニン 11番 シンヤ
4番 矢口真里 12番 中澤裕子
5番 後藤ユウキ13番 和田薫
6番 石川梨華 14番 石黒彩
7番 市井紗耶香15番 後藤真希
8番 辻希 16番 安倍なつみ
原作のキャラ設定に沿わないオリジナルで。
4 :
名無し娘。 : 2001/01/11(木) 17:31 ID:Q4KZmnrU
自然公園。お母さんの呼ぶ声が聞こえて、真希は一面緑から体を起こした。口に入った
葉っぱをぺっとはきながら、服についた草をはたく真希を放ってユウキはもう走り出して
いる。その背中がやけに小さい・・。ん?小さいって事はないか。まだ小学校にあがった
ばっかだし、あたしは・・あれ、こんなに背低かったっけ・・。「まきー!ほらサンドイッ
チー!食っちゃうぞ。ほら」−お父さんの声だ。―そこで気ずいた。夢だ。たまにある、
こういうの。夢だと分かってる自分が出てくる夢っていうか、そういうの。でも、どうで
もよかった。もう走り出して緑の丘を駆けている。息を切らして。丘という程の高さでも
ないのだが、小さな真希にはとても高く、高く、その丘を上りきる事はできないように・・
思えた。「まーき!ほら頑張れ頑張れ!」お父さんの声、お母さんの、ユウキの笑い声が聞
こえる。もうすぐ・・・・真希の瞳に映し出されたのは、微笑ましい家族の光景ではな
かった。「さやか。」ふと何の気なしに口をついて出た。自分で思った以上に子供子供した
口調は気にならなかった。ただ、目の前の寂れたベンチ、市井紗耶香が俯きながらゆっくり
腰をあげようと・・。なんだろう、左足が不自由なのかそこを気にしつつ、ゆっくり立ちあがると
真希にぴったりと視線を据えつつ、おぼつかない足取りで歩き出した。左足をひきずりながら。
「ねぇ、どーし・・」何かおかしいと思いつつ、嫌な空気を感じて(場の空気には敏感だ。女の子って)
切り出した真希を遮る形で、左足をかささっささ、がっ。とひきずりながら紗耶香が口を開いた。
「ごとぉーー。ねぇ・・ごと」距離が詰まり・・真希は少しあとずさった。「あは、え、なに。どしたの・・?」
おかしい、あ、でも、夢・・あ、そーだよ。別に「・・ぉとぉー。ごとお」瞬間、真希は迫りくる紗耶香の両手に
大事に抱えられた“それ”を認識し、背中の熱がざっとひいた・・。ぁ・・ユ「後藤!ねぇ、起きて。後藤・・」
突然目を見開いた真希に圭は少しびくっとした様子だったが、すぐに、気ずいた。圭の青ざめた表情・・それに、
いかにも場違いな“それ”。いや、青ざめた圭にそれはさほど場違いでもないのかも、とも感じたが・・蛍光灯の
光を鈍く跳ね返す・・それ。首輪?
ブゥゥウンと低い唸りをあげる蛍光灯の光りが真希の瞳に射し、まだ開ききれない目だけ
を周囲に回した。・・ここが教室だと認識したのは真希の前席、これはなっち?の後姿、
青い色調のセーラー服が目についた事と、大きな黒板が真っ先に目に飛び込んできたから。
・・ていうか、みんな制服?あは、ゆうちゃんもだ。あ、そっか。番組の・・ふと視線を感じ
真希は視線を黒板の方へ戻した。「おし、起きたな。それじゃー始めるかっ・・と。」つんく
さんだ。眉間を寄せて読んでいた分厚い資料を教団のはしに無造作にどけると、サイズの小さい
椅子を引き立ちあがった。チョークを手にすると何やら大きく、大袈裟に黒板に走らせる。
・・なにかおかしい。真希の席は縦に4列並んだ机の中、廊下側1列目の前から2番目。前には
安倍なつみ、横には保田圭が。圭の向こうには・・紗耶香、だろう。圭を視界から外すように少し
姿勢を傾け、紗耶香に目を向けた。険しい表情で腹の前に腕を組み、やや上目使いにつんくさんを
見ている。夢の映像がちらついたが、何の事はない、いつもの紗耶香だ。・・席。4列といっても
人数が多くないので席は教室中央に狭い間隔で配置されているようだ。それに、後ろは振りかえら
なかったが(梨華ちゃんとかだったら気まずいから)圭ちゃんの前・・かおり?あれ、右のほっぺた・・。
かおりの頬が薄く紫色に、やや腫れあがっている。・・ぅ、なにこれ・・。ちょっと、その顔は気味
悪かった。かおりには悪いと思ったけど。ていうか、泣いてる・・。え、なんでー?と。カチャっと音がした。
つんくが一指し指と中指をジャージにこすりつけ、真希達の方に向き直ると黒板に右手の平をバァン!と
叩きつけた。後ろの方の席でひっ、と声がした。誰だろ、梨華ちゃんか・・加護?「えーー、今日からお前等の
担任になった。寺田光男だ。よろしく。」つんくこと寺田光男は左まぶたをピクピクと引き攣らせ、言った。
・・・は?はい、分かってますけど。真希は思った。
7 :
名無し娘。 : 2001/01/11(木) 19:26 ID:cCbB7i0c
シンヤって真矢?
8 :
名無し娘。 : 2001/01/11(木) 19:44 ID:z2iowQPk
真矢です。夫婦参加で
9 :
名無し作者 : 2001/01/11(木) 21:16 ID:/2m8j5X.
・・わっけわからん。裕子は左手に顎を乗せ、汗でじとじとした耳の裏、
ほつれた髪を耳の付け根のラインに沿って整えていた。・・なんかの
ドッキリとかそんなんやろ?目を覚ました裕子の目にまず飛び込んできた光景、
激しく反抗?するかおりにつんくさんは右手裏を振るい、かおりは頬を押さえ倒れた。
それを見てなお裕子はそう思っていた。いや、そう信じずにはいられなかった。
というべきなのか。もちろんカメラなどなく、教室を見渡しても隠しカメラみたいなものもない。
何も無い、殺風景な教室だ。ほんとに。ていうか・・ほんと何な訳?何この制服は。
本来ならあたしが制服着てる。うわー、裕ちゃん可愛い。あっはっはっと一笑い。ってとこでしょ?
なにこの静けさ、いや、この異様な空気を察しているからこそあたしも何も言わないのだが。
と、寺田が続けた。「おー、石黒―、久しぶりやなぁおい。どや、生まれそうか?」寺田の左まぶたは
相変わらずピクピクしていたが、中澤の口からは少し、安堵の息が漏れた。・・なんだ、そうそう、
再会特番やねん。楽しみにしてたんやもん、今日の“新旧モー娘。勢ぞろい!大同窓会全「残念やなぁ。ホンマ。」
寺田が言い、中澤の神経は再び張り詰めた。彩の笑みかけた頬の筋肉がこわばるのを中澤は見た。その隣りの席、
夫の真矢は先程から一切表情を変えず、寺田のにやけた顔を凝視したままだ。その顔は赤黒く、目は薄く充血して
いる。しーんと静まったままの教室に寺田は声を張り、続けた。「今日は、お前等に、殺し合いをしてもらうから。
そのつもりで頼むわ。」一瞬,空間が歪んだ。教室の中から呼吸音が消え、声を押し殺したように「はっ」という声が
聞こえた。言葉を区切り、教え子の頭に浸透するのを待つかのような口調。レコーディングに見せる表情と何ら変わりない、
それは、つんくさんの声。聞き違えるわけないでしょ?あたし達の、つんくさん。・・裕子は目を見開いたまま、まばたきを
止めた。心の深く、奥深くに抑えつけていた疑念が眼前に大きく迫り、目の前は闇に閉ざされた。いや、閉ざしたかった。
そんなはずはない。ありえない。とたん、ガタタッと席を立つ音が聞こえた・・。それは遠く、遠く聞こえた。
10 :
名無し娘。 : 2001/01/11(木) 22:41 ID:NwWuwras
>(梨華ちゃんとかだったら気まずいから)
ここだけよくわかんない。いしごまって別に仲悪くないと思うけど?
頑張って下さい。
11 :
名無し作者 : 2001/01/11(木) 23:20 ID:sVDjPIoo
「あのぉー・・。」真里は椅子を引き、席を立った。いざ立つと短めの
スカートが気になりつんくからは見えないように端を少し引っ張った。
「なんや?矢口、質問か。」寺田が薄く笑んだ表情を見せ、真里は続けた。
「これ、プログラム・・のやつですよね。」静まり返った教室に、か細い声が
小さく反響した。いや、逆に大きく聞こえた。紗耶香には。・・まずい。
この子・・紗耶香は目で真里に座るよう促したが(寺田の汚いジャージの右ポケットに
拳銃らしきものの銃身が覗き、下手に動作で示せば危険だと思ったので。目で。)
真里は気ずかずに続けた。「それをなんか、番組でネタみたいにして・・そう
いうのって・・ていうかなんで制服なんですか?ロケバスに乗って、えー」・・まずい。
この子は何も分かってない。かおりが殴られるのも見てないし、腫れた頬も窓際の一番後ろ
の席で見えない。・・紗耶香が今度は手で座るよう促そうとしたその瞬間・・寺田は左手を
ポッケに入れだらしなく背を黒板に預けながら、銃口を真里に向け、口を開いた。「殺し合いを
してもらう。そう、言った。・・いや、俺かてこんな事したないわ。お前等は我が子みた
いなもんやから・・。」真里は口をポカンと開いたまま動かなかった。その顔にはあの笑顔が
貼りついたまま・・恐らく、事を頭の中で整理しているのだろう。頭の中、現在状況パズル。
最後の1ピースがはまった時・・それを待つ訳にはいかない。絶対に。「座って矢口!!!」
すぐさま銃口は紗耶香に向けられたが、気にせず真里の瞳に強い視線、意思を注いだ。まだ
ぼーっとしているようだったがようやく了解したのか、真里はくずおれるように席についた。
また、これに張り詰めた感情の糸が切れたのか、すすり泣く声も聞こえてくる。
誰のかまでは・・分からないが。
12 :
名無し作者 : 2001/01/11(木) 23:29 ID:sVDjPIoo
いしごまは仲悪いもんだと思ってた・・。2人が絡む度に緊張してた
13 :
名無し作者 : 2001/01/12(金) 13:31 ID:vM9prXTQ
寺田によるルール説明が続いていた。ここが高松市沖に浮かぶ沖木島
だという事、禁止エリアの説明、真希達のいる分校はそのエリアでいう
ところのG7に位置している事も先に配布された地図で確認できた。
そして何よりこれは・・“プログラム”であるという事。殺し合いを
する・・って事?真希はまだ状況をよく把握できていなかった。市井の怒号で
すっかり目は覚めていたけれど。「それじゃーな、あ、今デイパック持ってくる
からな。席について静かに待っているように。」寺田は忙しい様子で戸をガラっと
空けると、教室を出た。パタッパタッ・・というスリッパの音が聞こえる。・・4秒ほど?
教室内に静寂が続いたのだが、カリ・・カリ、という耳障りな音を聞いて真希は
ちらっと後ろを振り返った。窓際2列目、後ろから2番目の席。・・梨華ちゃん・・唇が赤い。
小刻みに震えた手、爪を噛んでいる、というより噛みちぎっているような・・中指に施された
ネイルアートも剥げ落ち、歪に尖った爪が歯茎を傷つけ唾液と混じった薄い血が唇を紅色に
染めている。目は・・ギョロリと辺りを警戒するように・・、あれ?怖いって・・いうか、
ぅ、真希はふと、込み上げた“ある感情”に吐き気を覚えた。・・あれ?なんか、変。
真希は右手の平で顔を覆った。落ちつこう・・やばい、やばいよ。ほんっとに。
「ごっちん…ごっっちん…」小さく、聞こえる。・・よっすぃ。窓側横2列目、吉澤瞳だ。
あ、これで2列目はプッチモニ3人が勢ぞろいだ。場違いな感じがしたが、少し、ほっとした。
現実に引き戻されたというか。・・これから殺し合いをするというのも、現実に違いないのだが。
「これ…。」地図の端を千切った紙切れだろうか。瞳は保田と市井の背中越しに手を伸ばして
渡そうとしている。・・なに、これ。
14 :
名無し作者 : 2001/01/12(金) 13:32 ID:vM9prXTQ
・・手を伸ばしかけた真希に、すぐ前から声がした。はっきりと。「なに
ひそひそやってんの?はっきり言えばいいじゃん。口で。」やや左斜めに
振りかえり、安倍なつみ、なっちが言った。・・え?なに、なんで怒ってんの。
この人。なに、疑ってんの?・・真希は思った。また、声。「やめな。」振るえ
る声で裕子が言った。・・視線を感じた。目を中澤から前に戻すと・・かおりだ。
目を見開き、真希へ、瞳へ、また真希へ・・と顔を左右に向ける。その姿は滑稽
だったが、右頬の青いあざ、ぎらついた目に真希はまた、うぇ、となってしまった。
今度は悪いとは思わなかった。・・何見てんの・・気持ち悪い。そう、思った。
15 :
名無し作者 : 2001/01/12(金) 21:55 ID:616Xm2AQ
寺田が大きな白い袋を両手でひっぱり、教室に引きずり入れた。
まるでサンタクロース。プレゼントはふかふかの蒸しパンにブルゴーニュ?
それに、殺人道具か?和田は薄く目を開け、下唇を舐め回していた。この季節
乾燥する。ばりっばりに。「じゃ、えー、2分置きで。窓側前からぐるーーっとな。
一人一人、先生から愛を込めてデイパック、渡・・」そこまで言うと、寺田は
こめかみを押さえ、俯いた。静まり返る教室内、寺田のすすり泣く声・・。それは
恐らく、辻?のそれと交わって見事なハーモニーを奏でていた。多分。真希の頭の
中は既に真っ白になっていた。もう、訳が分からない。なんで泣いてんの?ホントに
殺し合いなの?「愛を込めて・・渡す、から。はい、加護!」加護は前を向き硬直し
ていた顔を機会仕掛けの人形みたいに、寺田に向けた。目に涙を溜め、嘘だと言ってく
れるのをまだ待っているように。しかし、寺田がポッケから銃を抜きかけるとガタタッ!
と勢い良く立ちあがり、寺田の目を伺いつつデイパックを受け取るとドアに向け歩き出した。
ドアの前で一度振りかえった。その泣きそうな視線は・・辻?保田だろうか。向けられていた。
なぜかかおりが何度も大袈裟に頷いた。これは多分勘違いなのだろうが・・、真希は思った。
・・これで・・さよならなの?加護・・、出席番号1、加護亜衣は戸を開け、閉めずに暗い
廊下に消えた。スニーカーだろうか、キュッキュッと音が聞こえる。走っているんだ、私達から
逃げるために?そうなの?・・まさに今、殺人ゲームに亜衣は身を投じた。「じゃ、2分たったら
言うから。吉澤な・・」寺田が言った。ハンケチで目を拭いながら。矢口はそれを見て、薄い笑いを
口元に浮かべた。ちょっと、面白い。
16 :
名無し作者 : 2001/01/13(土) 00:30 ID:kzn9kOFk
結局、瞳は地図の切れ端、メモを渡せずにちらっと2度だけ真希の
方をみやり、廊下へ向けて歩き出した。ふぅ、と息をつき寺田せんせー
から手に取ったデイパックを肩に釣った瞳の表情に静かな笑みが浮かぶのを
梨華は見逃さなかった。市井の怒鳴り声、吉澤の冷たい笑み。それらはその
まま“殺意”と梨華は受け取った。恐ろしかった。その市井さん、いや、イチ
イサヤカは私の目の前、手を腹の前に組んでじっと前を見据えている。
・・このばけもの・・イチイサヤカは・・あたしを・・。武道館での市井引退
ライブ、泣きながら花束を渡したあの日の記憶は、もう墨で塗りつぶされていた。
たっぷり、べったり。2番吉澤、3番ソニン、4番矢口、5番ユウキ・・教室を
出ていく“選手”をぼーっと目で追っていた真希の体から熱がざっと引き、丸めて
いた背中が軋む音がはっきり聞こえた。・・ユウキ?なんで?なんであんたいるの?
・・いや、ソニンが目に入った時点で気ずくのがホントなのだろう。しかし、それだけの
事に考えを及ばせるのにさえ、真希は疲れ過ぎていた。その疲れさえも・・引いた。ユウキ
が、あたしはユウキと殺し合いを、する?あは、ない。ありえない。あるはずが・・ない。
出席番号5番、ユウキは真希に目をやる事なく俯いたまま教室を出た。いや、真希がユウキに
意識を止めるのが遅すぎた。ユウキは何か合図か、視線を向けたのかもしれない。わからない。
それから自分の番が回ってくるまで真希の記憶は、ない。
17 :
名無し娘。 : 2001/01/13(土) 12:29 ID:2tYsEoRA
なんだこのめちゃくちゃな読みにくい改行のしかたは?
狙ってやってるのか?
18 :
名無し娘。 : 2001/01/13(土) 13:00 ID:pY2BKTIE
小説系スレは好きなんで応援したいんだが、なんとしても読み辛い。
>>2の言うことももっともだが、国語力以前に、「ぱっと見で読みやすくする」のは
物を書く上での基本的マナー。というか、そうでないと伝わるものも伝わらない。
とりあえず、「」でくくる台詞が出たら改行、とかしてみそ。
あと、小説系は2点リーダー(‥)より3点リーダー(…)か(……)が基本だ。がんばれ。
19 :
名無し娘。 : 2001/01/13(土) 13:02 ID:2tYsEoRA
しかし、それ以前に文体にも難あり・・・
しかし率直だな。
もう一個のほうにはレスつきまくりなのにこっちにはほとんどレスがつかない。
20 :
名無し娘。 : 2001/01/13(土) 13:55 ID:LQXrHTv2
微妙に電波系はいってる・・。>文体
断然あっちのが上だな(ワラ
21 :
名無し娘。 : 2001/01/14(日) 23:29 ID:..TkupmA
誰も指摘してないけど
吉澤は瞳じゃなくて平仮名でひとみですよ・・・
22 :
厨房作者 : 2001/01/15(月) 01:13 ID:j1W/9Dt.
やっぱ受け売りで浅い小説作っちゃダメだな・・。全然だめ。
と、いうわけで職人さんを尊敬。
23 :
名無し娘。 : 2001/01/15(月) 01:22 ID:h5AYzC9Q
あれ?やめちゃうの?
24 :
名無し娘。 : 2001/01/15(月) 03:57 ID:dpnLbepQ
もう一個ってなに?
どなたか教えてください。
25 :
名無し娘。 : 2001/01/15(月) 05:56 ID:XVzaayIw
26 :
名無し娘。 : 2001/01/15(月) 12:19 ID:b/kMMWlY
27 :
名無し娘。 : 2001/01/18(木) 14:11 ID:2cfPdPI.
ほんとにやめちゃうの?
せっかく書き始めたんだから最後まで書いてよ。
応援してっからさ。
28 :
名無し娘。 : 2001/01/23(火) 02:57 ID:67fmt352
>作者さん
同じネタでも書き手が違えば、また違う作品になると思うよ。
他の人達も、試行錯誤しながら上達していっているんだから、がんばれ。
一つ途中で放り出すと、後々、マイナスイメージが付くよ。
29 :
名無し娘。 : 2001/01/24(水) 16:28 ID:SXS2NHjM
なんだこりゃあまやかすんじゃねえ
30 :
名無し娘。 : 2001/01/27(土) 15:47 ID:itBMW9YA
下手糞
31 :
名無し娘。 : 2001/01/31(水) 02:24 ID:fHA7WkKs
一応、保全。
32 :
名無し娘。 : 2001/01/31(水) 13:34 ID:L//NJ3vw
誰か続き書いてやれ
33 :
名無し娘。 : 2001/02/01(木) 23:30 ID:nnRpbe8k
hozeen
34 :
名無し娘。 : 2001/02/02(金) 11:02 ID:lJw6Hmew
闇の中を、辻は走っていた。涙でゆがんだ視界にはほとんど何も映っていなかった。
時刻は夕方を回っており、唯一辺りを照らしているであろう月明かりも、この深い林
の中までは届かない。あまり足音を立てては、先に出てどこかに潜んでいるかもしれ
ない他のメンバーに気付かれる危険性がある、そんな事を考える冷静さも、今の辻に
は失われていた。
−−早くここから逃げ出したい。なんで?なんで仲間同士殺し合いなんてしなくちゃ
いけないの?プログラムって何?なんのためにそんなことするの?
答えのでない疑問と、恐怖だけが今の辻の思考を支配していた。
ふいに、持っていたディバッグを後ろに引っ張られ、ひっくり返りそうになる。
「ひぃっ!!」
自分でも信じられないような声がのどの奥から漏れる。元から高い声は更に1オクタ
ーブほどうわずって、林の中に響いた。
「しーっ!静かに」
聞き慣れた、しかしこの状況ではひどく懐かしい声とともに、ディバッグに加えられ
ていた力が失せ、そして生暖かい手が辻の口を塞いだ。辻の混乱した頭にもその声は
はっきりと届いた。ゆっくりと振り向き、闇に目を凝らす。黒目がちな瞳。愛嬌のあ
る顔。自分と同じくらいの身の丈。
「あんた音立てすぎやで、ののちゃん」
そう、つい先刻までいつも一緒に行動していた仲間−−加護亜依が、ニッと笑顔を見
せて立っていた。
「亜依ちゃん!!」
辻はもう一度叫んだ。「バカ!」と頭を軽くはたかれる。加護はそっと辻の手を引き、
「とりあえず、隠れられる所に移動しよう。大きな声出したらあかんで」
と耳元でささやいた。
35 :
名無し娘。 : 2001/02/02(金) 11:05 ID:lJw6Hmew
月の光がわずかに射す、しかし周りから身を隠せるような場所で、二人はもう一度再
会を喜び合った。辻もその頃にはようやく落ち着きを取り戻していた。そして、先ほ
ど頭を駆けめぐっていた疑問を加護にぶつけてみる。
「あぁ、ののちゃん説明の途中まで寝てたから知らんかったんやな。要するに、プロ
グラムって、ゲームみたいなもんや」
ゲーム?と聞き返して、辻は眉をひそめた。
「そう。うちも詳しくは知らへんねん。この島の中で、最後の一人まで殺し合いをす
るゲームや」
「それは…!」
またもや大声を出しそうになって、辻は今度は自分でその口を塞いだ。
「それは分かってるよ。なんでそんなことしなくちゃいけないの?だって、今まで一
緒に歌、歌ってきたじゃない。なんで・・・っ!」
声が詰まり、止まっていた涙がまた溢れてきた。信じがたい現実、受け入れがたい現
実が辻の上に重くのしかかる。加護は、そんな辻をそっと抱きしめ、話を続けた。
「とりあえずうちのわかることはこれだけや。最後の一人になるまでこのゲームが続
くことと、残った一人は、ソロでまた歌を歌えるっちゅーこと」
月明かりに照らされた加護の横顔が、わずかに微笑んだが、それは辻には見えなかっ
た。
36 :
名無し娘。 : 2001/02/02(金) 11:08 ID:lJw6Hmew
突然、背中に何かがぶつかったような気がした。辻は一瞬、何が起きたか分からなか
った。加護は坦々と喋り続ける。
「…それでな、うち、一人で歌ってみたいねん。いくらメインで歌ってもな、何かも
の足りないんよ。だから、ごめんな、ののちゃん」
−−背中が、熱い。息が出来ない。それでようやく、自分の身に起こった何かを理解
出来た。辻の背中には、一本のサバイバルナイフが深々と突き立っていた。
「亜依ちゃん?なんで?なんで…」
のどの奥から絞り出すような声で、それだけ言うのが精一杯だった。辻の全体重が、
加護の肩に掛かる。消えゆく意識の中、辻が最後に見た加護の顔は、−逆光でよくみ
えなかったが−やはり笑っているようだった。
「ばいばい、ののちゃん。風邪ひかんようにな」
そう言って、加護は辻の身体からサバイバルナイフを引き抜き、彼女のディバッグと
自分のとを肩に掛け、その場を去った。後に残されたのは、どす黒い血溜まりの中に
沈む、辻の遺体のみだった。
37 :
名無し娘。 : 2001/02/02(金) 11:13 ID:lJw6Hmew
放置されっぱなしだったので、なんちゃって更新。
ダメだね、オリジナリティーが全然無い。っつーかただのパクリじゃん。。。
では、本来の作者さんが戻ってくるor誰かが書いてくれる事を祈りつつ
ふぇーどあうと。。。。
38 :
代打娘。 : 2001/02/03(土) 02:18 ID:tFe5v97I
後藤は、暗い林の中で静かに歩を進めていた。林は、分校を覆うように東西南北に広
がっている。つまり、何処へ行くにもこのうっそうと茂る木々の下をくぐらねばなら
なかった。懐中電灯など、目立ってしまって使いようがない。木々の間から覗く光の
みが、後藤の目の前を照らしていた。隠れるには最適な場所。しかし逆に言えば、ど
こに誰が隠れているとも知れない。握りしめたメモの字が、汗を含んで少し滲んだ。
メモの送り主は、吉澤だった。正確に言えば吉澤は後藤にはメモを渡していない。渡
せなかったのだ。これは保田が、教室を出る間際につんくから見えないよう手渡した
ものだった。おそらく吉澤は、周りにいたプッチモニのメンバーにだけ、このメモを
渡したのだろう。その中にはきっと−−これは推測の域を出ないが−−きっとあの、
市井紗耶香も入っているはずだ。
“島の南の端で待っている”−−メモには走り書きでそう書かれていた。
でも… …罠かもしれない。吉澤が去り際に見せた微笑み。あの冷たい微笑みが後藤の
脳裏をよぎる。よっすぃーは私達を殺すかも知れない。言い知れぬ不安が後藤を襲う。
同時に、友達を疑うような考えを持つ自分が嫌になった。
よっすぃーなら大丈夫だ。後藤は、無理にでもそう思いこむことにした。−−それに、
そこには先に出た市井ちゃんや圭ちゃんもいるはず。きっと、あの頭の良い3人なら、
こんな訳の分からないゲームから抜け出す方法も思いついてくれるよね。そう思うこ
とで後藤の足取りは幾分か軽くなった気がした。
39 :
代打娘。 : 2001/02/03(土) 02:22 ID:tFe5v97I
後藤は、暗い林の中で静かに歩を進めていた。林は、分校を覆うように東西南北に広
がっている。つまり、何処へ行くにもこのうっそうと茂る木々の下をくぐらねばなら
なかった。懐中電灯など、目立ってしまって使いようがない。木々の間から覗く光の
みが、後藤の目の前を照らしていた。隠れるには最適な場所。しかし逆に言えば、ど
こに誰が隠れているとも知れない。握りしめたメモの字が、汗を含んで少し滲んだ。
メモの送り主は、吉澤だった。正確に言えば吉澤は後藤にはメモを渡していない。渡
せなかったのだ。これは保田が、教室を出る間際につんくから見えないよう手渡した
ものだった。おそらく吉澤は、周りにいたプッチモニのメンバーにだけ、このメモを
渡したのだろう。その中にはきっと−−これは推測の域を出ないが−−きっとあの、
市井紗耶香も入っているはずだ。
“島の南の端で待っている”−−メモには走り書きでそう書かれていた。
でも… …罠かもしれない。吉澤が去り際に見せた微笑み。あの冷たい微笑みが後藤の
脳裏をよぎる。よっすぃーは私達を殺すかも知れない。言い知れぬ不安が後藤を襲う。
ソロプロジェクト。つんくさんは… …寺田先生は、確かにそう言った。最後に生き
残った一人には、事務所がソロデビューを保証してくれる。番組と連動させて話題性
もバッチリや!…番組というのは、多分この「ゲーム」の、殺し合いの様子を放送す
る番組のことだろう。−−放送コードに引っかかるんじゃないの?クレームどころじ
ゃないよ?犯罪でしょ?これは−−
「くだらない… …!」
後藤は、誰にも聞こえないような声で、吐き捨てるようにつぶやいた。そう思うのは、
彼女がモーニング娘。に入って以来、メインの座を欲しいままにしてきたからだろうか。
−−確かに、芸能界って厳しいところだと思うよ。みんなの前で、一人で歌ってみた
いと思っている人は何万、何十万人といるよ。でも、そのために殺し合いまでする?
そんなの… …おかしいよ。
念のためにと、スカートのベルトに差しておいたオートマチックピストル(ワルサー
PPK九ミリというらしいけど…知らないよ名前なんて!要するにこれで殺せって言
うんでしょ?)が、やけに重く感じた。
40 :
代打娘。 : 2001/02/03(土) 02:23 ID:tFe5v97I
しばらく歩いて、やがて視界が開けた。後藤の眼前に、白い砂浜と静かな海が広がる。
海の向こうには島影が見えた。人が住んでいるのだろう、島にいくつか明かりも見え
る。後藤は手に持っていた磁石を月明かりにかざしてみた。南の方角、間違いない。
ここからは完全に月の下に身をさらすことになる。狙われる可能性は高くなるだろう
…この辺に人がいればの話だが。しかしそんなことも言っていられなかった。
−−この先によっすぃー達がいる。みんなが、待ってる。
後藤は、意を決して一歩足を踏み出した。
41 :
名無し娘。 : 2001/02/06(火) 16:45 ID:/4IxG.0w
お、複数の作者のコンピレーション小説になったのか?
42 :
名無し娘。 : 2001/02/09(金) 00:18 ID:4IGQZtwQ
保全。代打娘。さんでも元の作者さんでも、続き頑張って。
43 :
代打娘。 : 2001/02/10(土) 23:17 ID:e1Q7HHY2
そのころ保田は、その“島の南の端”にいた。そこにはどこからせり上がってきたのか、
ごつごつした岩が東へ突きだして、海に没している。保田は、敢えてその岩に登らず、
迂回するように岩の周りを歩いた。いつ何処から狙われるか分からない、
その緊張感で、保田の背中は汗で濡れていた。セーラー服のアンダーシャツが背中に張り
付いて、気持ち悪い。
「保田さん」
そう呼ばれて、保田の心臓は一度ビクッと飛び跳ねた。ゆっくりと岩の上を見上げるよう
に首を斜めに傾けて、ほっと安堵の息をついた。
「吉澤……」
岩の、一番高くなっているいわば頂上に、吉澤は腰をかけていた。視線は保田の方ではなく、
黒々とした海の方へ向けられていた。その整っているが無表情な吉澤の横顔は、
月明かりに照らされてより美しさが際だっている。
保田は、そんな吉澤の横顔に一種のコンプレックスを感じながらも、見とれてしまっていた。
「紗耶香は未だ来ていないの?」
言いながら、吉澤の近くに行こうと、岩の取っ掛かりを探して更に歩を進めた。
ピチャッ……
奇妙な音がして、保田は自分の足下、音のした方を見た。海に足を踏み入れたわけではない。
ではこの黒い液体は何なのだろうか。闇に目を凝らす。保田の細めた目は、
すぐに大きく見開かれることになる。その異様な液体の中に、一人の人間が
倒れていたからだ。やがてむせ返るような血の匂いで、それが死体だと気付く。
44 :
代打娘。 : 2001/02/10(土) 23:27 ID:e1Q7HHY2
ひゃっ!と、短い悲鳴を上げて、保田は腰を抜かしそうになった。
……紗耶香?まさか紗耶香なの?
「あぁ、ソニンさんでしたっけ?その人。私が殺したんです。彼女、私を殺そうとしたから。
安心して下さい。市井さんではありませんよ」
まるで保田の思考を読んだかのように、吉澤が答える。その声には感情がまるで入って無いよう
に聞こえた。ソニンは、仰向けに倒れていた。驚いたように見開かれた目は、月光を反射して
ビー玉のように光っていた。
「あ、あはは…そう、そうなんだ。そう…よね、そういうことも、あるわ、よね…」
平静を装うとしても、身体の震えがそれを許さない。
血溜まりに足を踏み入れないように死体の周りを歩こうとして保田は、何故かつま先立ちで
蟹歩きになっていた。端から見れば笑ってしまうような光景だったかも知れない。
「紗耶香、遅いわね…。後藤は、後藤は私よりずいぶん後だったから、まだ着かない
でしょうけど…」
まだ少し声が震えていたが、なんとか普通に言えた。ようやく岩の、とりつきやすそうな場所を
見つけ、海を背にして登り始める。ディパックの重みと岩の滑りやすさに悪戦苦闘しながら登り
切ると、今度は真っ正面に吉澤の姿があった。
「で、どうするの?私達を集めたりして。何か策を考えるんでしょ?あの分校の人達
…寺田先生をぎゃふんと言わせられるような作戦を……私で良ければ手伝うわ」
−−私達って、まだ私しか来ていないじゃない。それにぎゃふんって、今時使う?
自分で自分の言葉に突っ込みを入れる余裕があったのは、保田が吉澤を信頼し、彼女に会えた
ことで安心していたからだろう。吉澤には、その類い希なる知性もさることながら、どこか人を
惹きつけるカリスマ性のようなものがあった。普段はクールで、自分から何かを主張することは
ないが、不思議と他のメンバーからの信頼は厚い。
保田はそんな吉澤に、かつての親友、市井紗耶香を重ねて見ていた。
「まず、この首輪をどうにかしないとね。この首輪さえ作動しなければ分校へ−−」
「聞いて下さい」
吉澤の、無機質な声に気圧されて保田は言葉を切った。吉澤の冷たい視線が保田の身体を貫く。
45 :
代打娘。 : 2001/02/10(土) 23:33 ID:e1Q7HHY2
「私は、どっちでもいいと思ってるんです」
吉澤が何を言っているのか、その時点では保田には理解できなかった。なおも吉澤は言葉を続ける。
「最初は、こんなゲーム冗談じゃない、って思ってました。こんなくそやくたいもないゲーム…
ってね。でもここに来るまでに考え直してみたんです。このゲームに乗るのも、それはそれで
面白いんじゃないか、って」
保田は、ようやく吉澤の言葉の意味が飲み込めてきた。それに比例して、保田の胸に黒い不安が
広がり始めた。
吉澤……何を考えているの?まさか…まさか……
一度ひいたはずの冷や汗が、再び保田の背中を、伝う。口の中はからからに渇いている。吉澤は
手の中に収まるほどの大きさのコルト拳銃を、右手でクルクルと器用に回している。
「だから、提案があるんです」
吉澤はセーラー服の胸ポケットから一枚のコインを取り出し、保田に表と裏とを示して見せた。
「賭けをしましょう。このコインを投げて、表が出たら保田さんの勝ち。私達は力を合わせて、
この番組の企画に刃向かう。裏が出たら…私の勝ち。保田さんを、殺す」
抑揚のない声でそこまで言うと、吉澤は返事を待たずそのコインを高々と投げ上げた。
…冗談じゃない!そんな割の合わない賭けなんて!
保田は慌てて背負っていたディパックを下ろし、手探りで中を探った。迂闊なことだが、彼女は
まだ武器を用意していなかった。手に硬いものが当たる。−−あった!
保田はそれを取り出そうとする間も、空中のコインから目が離せずにいた。
ディパックからマシンガンを取り出し、吉澤に向けて構える……が、その前に、吉澤の持っていた
コルト拳銃が火を吹いた。一瞬の間のあと、コインが岩に当たって小さな金属音を奏でる。
保田は、マシンガンを構えようとした体制のまま、後ろに倒れた。彼女の、猫のような大きな目は
普段より余計に大きく見開かれ、その胸に一つの穴が空いていた。
46 :
代打娘。 : 2001/02/10(土) 23:38 ID:e1Q7HHY2
弾は、確実に保田の心臓を貫いていた。
彼女の身体から流れた血が、滑らかな岩肌を伝って砂浜に落ちていく。
「駄目ですよ保田さん。コインが落ちる前に銃を構えるなんて」
おどけた調子で吉澤が言う。保田と吉澤の間に落ちたコインは…表だった。
吉澤は、撃った反動で痺れる手を軽く振ると、保田の持っていたディパックから、
食料品など必要なものを取り出し、自分の方に詰め替えた。その手つきがやけに慣れているのは、
先ほどソニンの荷物からも同様に奪ったからだろう。
事を終えると、保田の手からマシンガンを奪い取り、つま先で死体を転がした。
「私がこんな楽しいゲームに参加しないわけがないでしょう?ねぇ、保田さん」
実のところ、コインの裏表などどうでも良かった。
はなから保田を…ここに来る人間を殺す気でいたのだ、吉澤は。
あんな回りくどいことをしたのは、人は死を前にしたときどんな反応をするのか、
見てみたかっただけだった。
保田の身体が、岩を転がり落ちて海へ還るのを見届けて、吉澤はその美しい顔に冷笑を浮かべた。
近くまで来ていた後藤が、保田の死を目撃し、踵を返して走り去ったことにも吉澤は気付いていた。
「ゲームは楽しまなくちゃ……ね」
『残り13人』
47 :
居酒屋ファン : 2001/02/12(月) 20:54 ID:elGKo3sQ
自分のお気に入りに直リンします。あげた限りは最後まで無理しない程度にがんばって。
個人的にはパクリでOKです。同じ元ネタであっても結末一つを変えるだけでも
オリジナリティが得られそうですし、楽しみですけどね。
48 :
代打娘。 : 2001/02/14(水) 23:07 ID:xi7Ksq16
読んでる人いるのか…。
俺自身、バトロワ物はもうマンネリかと思っていたから
誰も読んでいなかったらやめようと考えてたけど…そうもいかなそうなのね。
49 :
代打娘。 : 2001/02/14(水) 23:16 ID:xi7Ksq16
分校から東の方角に向かい、林を抜けると、民家が集まった集落がある。
もちろん、住民は皆立ち退いていて人の気配はない。が、何処の家もまだ生活の匂いが残っている。
そこに一人の、ちょっとぽっちゃりした小柄な女の子がいた。安倍なつみである。
「やー、静かすぎて怖いべ。なんか幽霊でも出そうだべなぁ」
幽霊よりも怖いものがうろついているであろう中で、こんな言葉は場違いにも聞こえたが、
独り言でも言わないと耐えられないのだろう、孤独と恐怖の重圧に。
安倍はとりあえず、手近な民家を探して隠れることにした。
−−ヘタに動くよりよほど安全だよね。
万が一同じ事を考える人がいても…これだけの数の家があるんだから、同じ家に入るなんてないはず。
それでも鉢合わせしたら…そのときはそのときだ。きっと話し合えば分かってくれる。
戦いなんてしないで済む。もしものときは…逃げればどうにかなるさ。
実に単純な考えを持って、安倍は民家の一つに足を向けた。
「お邪魔しま〜す。あれ?ドアが開いてる…」
鍵がかかっているだろうが念のため、と引いたドアが、あっさりと開いた。
蝶番いが錆びているのか、ギギギ…とわずかな音を立てる。
安倍は靴のまま、そっと家に上がり込んだ。その足取りは典型的な泥棒を思わせた。
薄暗い玄関から、一直線に廊下が伸びている。
廊下を少し進むと、すぐに台所が目に入る。半開きになっていた、台所へ繋がる戸をそっと開き、
左右に目を走らせ−−ギョッとした。ベランダの窓ガラスが割れていたのだ。
誰か…いるの?
そう思ったとき、キッチンの椅子がガタンと音を立て、人影がテーブルの向こうから姿を現した。
誰だろう?と、安倍は薄暗いキッチンに浮かぶ影を凝視した。
「誰?……梨華ちゃん?梨華ちゃんでしょ?私、なっちだよ。安倍なつみ」
その人影の正体は石川梨華であった。
50 :
代打娘。 : 2001/02/14(水) 23:25 ID:xi7Ksq16
人を疑うことを知らないのだろうか、それとも信頼できる相手だと思ったのだろうか、
安倍はやっと人に会えたと、喜んで石川の元へ行こうとした。
そこでふと、石川の様子がおかしいことに気付く。石川の身体は小刻みに震え、
普段から気弱な目は、より怯えの色を濃くしていた。そこで安倍はやっと、
自分が“武器”を手にしていたことに気付いた。
元々人を傷つけるようなことは出来ないような娘だったが、用心のためにと、
農作業に使われるようなカマを彼女は手にしていた。もちろん支給された武器である。
普段メンバーといるときに彼女がこんなものを持っていたら、例のごとく中澤辺りに
からかわれていただろう、室蘭に帰って農家にでも転職するんか?と。
しかし今の状況はそんななごやかさからはほど遠い。
「あ…ごめんね。これは違うべさ。用心のために持っていただけで……」
やましいことがあるわけでもないのにしどろもどろになってしまう。安倍は慌てて床にカマを置き、
顔を上げて…再びギョッとすることになった。
石川が銃を両手で構えている。もちろん、こちらに向かって。
「嘘です…。石川は騙されませんよ。みんなそうやって石川のことを殺そうとするんだ。
私は誰も信じません!」
震える声でそう叫んで、石川は銃を発砲した。安倍のそばにあった花瓶が、大きな音を立てて破裂する。
その破片が、安倍の肉付きの良い腕をかすめた。
−−逃げなきゃ、殺される!
安倍は直感的にそう思い、床に置いたカマを拾って慌てて元来た廊下へと走っていった。
後方で、銃を撃つ破裂音が再び聞こえたが、後ろを振り返る余裕はなかった。
……なんで?なっち、何にもしてないべ?なんでなっちのこと疑うのさ?
ドアを開けて道に出る。集落の中を闇雲に走り回る。しばらく走って、後ろを振り返る。
石川はいない。
とりあえず、石川の殺意からは無事逃れることが出来た。しかし、疑心暗鬼に陥った石川の行動は、
少なからず安倍に影響を与えていた。
『残り13人』
51 :
名無し娘。 : 2001/02/17(土) 00:53 ID:v6o6M7H2
石川に何があったんだ?
52 :
居酒屋ファン : 2001/02/17(土) 10:54 ID:j0s4j4FQ
間だ13人いるから楽しめそう。
53 :
代打娘。 : 2001/02/17(土) 23:32 ID:TE5i2hxM
ゲームが始まってずいぶん経つ。すでに全員が分校を発っており、島の隅々まで散り散りになって…
いそうなものだが、未だ分校付近をさまよっている者もいた。
分校から少し東に行った林を進む少女。短く切りそろえた髪は、生来の整った顔と相まって
中性的な魅力を醸し出している。しかしその反面、地図と磁石を見つめて思案する姿は、
スーパーの牛肉の値段を比べて悩む主婦を思わせる。
そう、かつてモー娘。のかあさんと呼ばれた者、市井紗耶香である。
彼女もまた、かつてのプッチモニの一員として吉澤からメモを渡されていた。では何故
未だにこんなところをうろついているのか。別に道に迷ったわけではなく、理由があった。
話は数刻前にさかのぼる。分校の出口に向かいながら、市井は考えていた。
左手に握っていたメモ。…そう、吉澤による走り書きが残された、地図の切れ端。
吉澤を信用すべきか、そうでないか。市井は分校を出る前、自分より先に出発する者の表情を
つぶさに観察していた。もちろん、吉澤の冷たい微笑みも見逃してはいない。
…あいつは…吉澤ひとみは、やる気かもしれない。
市井は直感的にそう思った。だとしたら、プッチの順番でいくと吉澤の次にあたる自分は、
素直に待ち合わせた場所まで行けば危険なのではないか。メモに従わない方が無難だ、明らかに。
…でも。市井はふと気付いた。では他のメンバーは?あとの二人はどうするだろう?
圭ちゃんは…あの人は良くも悪くも生真面目な人だ。それに仲間を疑うことなど出来ない人でもある。
後藤も、素直な子だし、何より吉澤と仲が良い。
もし私が行かなかったら、そしてもし吉澤がその気だったら、次に危険にさらされるのは圭ちゃん、
…下手すれば後藤も。殺されてしまうかもしれない、吉澤に。
そこまで考えて、市井は分校の出口にたどり着いた。眼前に広がる木々の群。
正面だけ、その木々がゲーム参加者を誘うように道を開けている。
──そうだ、あの辺の木に隠れて圭ちゃん達を待とう。それが一番無難だよね。
そう決めて、市井はひとつ息を吐き、木々の群に向かって歩き出した。
54 :
代打娘。 : 2001/02/17(土) 23:40 ID:TE5i2hxM
──しかしそれは叶わなかったのだ。
出口の近くの林には先客がいた。彼女より一つ先に出た、最悪の先客が。
そう、石川梨華である。
目が合うと、石川は問答無用で銃を市井に突きつけ、銃弾を放った。幸い、木々の防護のおかげで
市井に弾は当たっていない。が、その後もしつこく追いかけられ、
結局追っ手を逃れた頃には、市井は例の、東の集落周辺までたどり着いてしまっていた。
その頃にはすでに保田も、後藤も分校を出てしまった後だった。
つまり石川が民家の一つに隠れていたのは、ある意味市井の仕業と言っても間違いではないだろう。
もっとも、被害者である彼女にそんな言い方は失礼かもしれないが。
そして今に至る。
既に禁止エリアに入ってしまった分校周辺…G=7を避けつつ、南へ向かう。
地図の見方が間違っていなければ、この島の最南端は分校から南西方向にある。
つまり、仲間と合流する機会を奪われただけでなく、思わぬ回り道をさせられたということだ、石川に。
「冗談じゃないよ…ったく。話ぐらい聞けっての」
市井は一人悪態をついた。
焦りは、少なからず感じていた。こうしている間にも、圭ちゃんは…後藤は……。
そう思うと、自然と足取りが速くなる。
しかし、その歩みはまたもや第三者の手によって止められることになった。
市井が向かう先の、暗闇の奥で、ガサガサと茂みをかき分けるような物音がしている。
…誰かいる。
市井は右手にある、ひのきか何かでできた棒(支給された武器みたいだけど、これでどうしろって?
孫悟空じゃないんだぞあたしは……)を、ぐっと握りしめた。
何かが月明かりで反射して光った。よく見ると、それは銃に弓矢を取り付けたような洋弓だった。
その矢の先は、やはり市井の方を向いている。
……ほんっとについてないな!市井は半ばやけくそ気味に、心の中で吐き捨てた。
その洋弓が近づいて来るに連れ、その持ち主であろう人影が徐々に形を成していく。
すらりと背の高い人影。やがて、その姿は月明かりに照らされて露わになる。
「カオリ……?」
市井に矢を向けた人物、それは飯田圭織だった。
55 :
代打娘。 : 2001/02/18(日) 23:12 ID:fB.7KtHg
飯田は、大きな目をグッと細めて闇に浮かぶ人物を見つめた。
視界が明るくなる。月明かりの下に来たんだと、飯田は察知した。
同時にそれは、相手に姿を晒していることを意味する。ひどく危険なことにも思えたが、
今更後退しても意味がないだろう。相手が動きを見せないことを確認し、もう一歩前に進み出る。
「カオリ……?」
ひどく懐かしい声が、飯田の耳に届いた。
もう一度聞きたかった声、もう二度と聞けないと思っていた声。
「紗耶香……紗耶香なの?」
飯田は、黒い影に向かって呼びかけた。駆け出したい気持ちを抑え、静かに歩み寄る。
あと数メートルというところまで来たとき、ようやく相手の姿がはっきり見えた。
…紗耶香だ。間違いない。良かった……。
信頼できる人間に会えたことで、飯田は安堵の気持ちで涙が出そうになった。
しかし、市井は張りつめた表情を緩めようとしなかった。
市井の視線の先を追い、ようやく自分が洋弓──ボウガンを、市井に向けたままだったことに気付く。
「あ…ゴメン、紗耶香」
飯田がボウガンを下ろすと、やっと市井もほっとしたような笑顔を見せた。
「カオリぃ……脅かさないでよ」
56 :
代打娘。 : 2001/02/18(日) 23:21 ID:fhs711NA
「顔…大丈夫?痛いでしょ?」
話したいことは色々あった。が、飯田の顔の痣が気になって市井はまずそれを訊いた。
そう、分校で説明があったとき、寺田先生に反抗して殴られた傷だ。
「うぅん、もう平気。触るとまだ痛いけどね」
「そっか。それにしても、いい武器、持ってるんだね」
飯田は、これ?とばかりにボウガンを少し持ち上げ、はにかんだように微笑んで頷く。
「いいの?ここで使わなくて」
「え?」市井の問いに、きょとんとして聞き返す。
「あたし、こんなのしか持ってないからさ。撃つなら今がチャンスだよ」
右手に持った細長い棒をひらひらさせながら市井が言う。
何言ってるの?紗耶香。カオに紗耶香を撃てるわけないじゃん。
大切な仲間、大好きな紗耶香を……。
市井にしてみれば軽い冗談のつもりだったのだろうが、それを聞いて飯田は少し悲しくなった。
「あ…ごめん、冗談だよ、圭織。ごめんね」
飯田の表情が曇ったのに気づき、市井は慌てて謝った。
しかし、今の反応を見て市井ははっきりと悟った。少なくとも、圭織は“やる気”になっていない…。
「圭織、良かったら一緒に行動しない?一人より、二人の方が心強いでしょ?」
その言葉に、飯田は一瞬笑顔を見せたが、また寂しげな表情に戻って首を横に振った。
その反応は、市井にとっては少し意外だった。何故?と訊く前に、飯田が口を開く。
「カオね、探している人がいるの。紗耶香も知ってるでしょ?辻。辻希美…」
辻?そう言われて、市井の脳裏に一人の少女が浮かんだ。
あぁ、あのちょっと舌っ足らずな子。笑うと八重歯が覗いて可愛いかったっけ…。
「辻はね、まだ本当に子供なんだよ。同い年の加護はもうちょっとしっかりしてるけど、
辻はまだ本当に幼いんだ…。きっと、今頃一人で寂しい思いをしていると思う。
だから、カオが側にいて、守ってあげなきゃいけない。守って…あげたいの」
そっか…同じなんだ、圭織にとっての辻は、あたしにとっての後藤という存在と…。
教育係やってたもんね。可愛がってたもんね。
市井は納得した。同時に、再びこのゲームに対する理不尽な怒りがこみ上げてきた。
57 :
代打娘。 : 2001/02/18(日) 23:26 ID:fhs711NA
「紗耶香も、探している人がいるんでしょ?」
「へ?」思いもよらない問いに、市井は素っ頓狂な声をあげた。
「どこかで待ち合わせてるんでしょ?プッチのメンバーで。カオリ、
紗耶香達がメモ回しているの見てたんだからね。ずるいよ、カオリ達仲間外れなんて」
してやったりという風に笑う飯田。それを見て市井も、「ばれた?」と決まり悪そうに笑う。
「じゃあさ、圭織が辻見つけたらこの島の南端まで来て。そこでうちら集まることになってるから。
移動するときは…目印を書いとくよ」
そう言って、市井は目印になるような簡単な記号を飯田に教え、二人はその場を別れることにした。
「あ、そうだ」
背中を向けて去りかけた飯田に向かい、市井が呼びかけた。
「何?」
「石川に気をつけて。あの子混乱してる。下手すると見境無く撃ってくる可能性があるから。それと…」
「うん」
「そのセーラー服、よく似合ってる。可愛いよっ」
ニカッと笑う市井に、飯田はこの日初めて心からの笑顔を見せた。
もう二度と逢えないかもしれない。二人の間にあった不安を拭い去るための、市井なりの配慮だった。
「うん、紗耶香も…カッコイイよ。惚れそう」
「なんだよそれ〜、ははっ、ありがと。……じゃあねっ!」
──だが、この二人が生きて再び会うことは、なかった。
「さてと、急がなきゃなっ」
飯田の背中を見送ってから、市井は静かに走り出した。
『残り13人』
58 :
名無し娘。 : 2001/02/19(月) 03:16 ID:de6lYqY6
おもしろいね。
引き込まれるよ。
59 :
代打娘。 : 2001/02/20(火) 21:16 ID:5NndzN7o
ところで、集落を抜けて更に東に行ったところに、小さな港がある。
本来ならそこから船が出ているはずだが、船着き場にはおろか、
ざっと海を見渡しても船影の一つも見あたらなかった。
いくら島の住民がもうここで生活していないとはいえ、
この海から逃げ出そうとする者の捜索のために、何隻か用意されていてもおかしくないはずだが…。
明らかに違和感を感じる。山田彩…旧姓・石黒彩は潮風で乱れる髪を押さえながら、そう思った。
その隣では真矢が、先ほど伐採した木とその辺の民家から探してきたロープを使って、
小さないかだを作っている。
プッチの面々がそうしたように、彼ら二人もまた、この港で待ち合わせて合流していたのだ。
真矢がいかだを作り始めてから既に数時間が経つ。
もうすぐ日の出の時刻なのか、空は白み始め、辺りの景色が次第にはっきりしてきていた。
「ねぇ、本当に大丈夫なの?」
「ん?」石黒の呼びかけに、真矢は顔を上げずに応える。
「つんくさん、言ってたじゃない。禁止エリアに入った場合と、島からの脱走を企てた場合、
…この首輪が、爆発するって。」
石黒は自分の首もとを指さして言った。そこには、鈍く光る銀色の首輪が巻き付いている。
それは参加者の行動を制限・監視するためのものだった。
(まるで鎖に繋がれた犬ね……ムカツクわ)
「あぁ」相変わらず気のない返事で応える真矢。
「それにこの港。船が一隻も見えないわ。…まるで逃げられるものなら逃げてみなさいと
言わんばかりに。これって、この首輪だけで脱走を防ぐには充分って意味になるんじゃないの?」
そこまで言ったとき、ようやく真矢が作業の手を止めて顔を上げた。
辺りの空気が冷え込んでいるにもかかわらず、真矢の額には汗が滲んでいる。
その傍らにはチェーンソー。真矢に支給された武器。
木を伐るにはこの上なく便利なものだが、それすら意図的に渡されたもののように、石黒には思えた。
60 :
代打娘。 : 2001/02/20(火) 21:23 ID:5NndzN7o
「…彩は、昔の仲間を殺せるか?」
「え?」逆に訊き返され、石黒は考えるように俯いた。
昔の仲間…そう言われて、かつて共にステージで歌ったメンバーの顔を思い出していた。
圭織……裕ちゃん……真里……皆んな……
よく喧嘩もしたけど、辛いときも励まし合い、共に頑張ってきた仲間だ。
殺せるわけがない。絶対に。
「俺はこの中に特別親しい人間がいるワケじゃない。お前を除いてはな。けどな、もし俺が
孤島に閉じこめられてバンドのメンバーと殺し合いをしろ、なんて言われても、絶対に出来ない。
そんなことするくらいなら、死を選ぶか、無理だと分かっていてもそこから逃げる方法を考える。
信頼できる人と共にな。…お前だって、そうだろ?」
その通りです、さすがによく分かっていらっしゃる。石黒は黙って頷いた。
「それに、万が一ゲームに参加して他の人間が全員死んで、俺達二人が生き残ったとしよう。
そのときは、どちらかが、もう一方を殺さなくちゃならなくなる。…そんなの、俺は御免だ。
だったら二人で心中した方がいい、そうだよな?」
──だから、駄目で元々だ。一か八かの努力だけはしてみようぜ。
重々しい口調で語る真矢。だが、石黒を見るその眼差しは、とても優しかった。
「大体だ、こんな薄っぺらな首輪に、人間の首をすっ飛ばすような力があると思うか?
だから大丈夫だよ。俺を信じろって!」
今までと一転しておどけたような口調でそう言い、真矢は石黒の肩をポンポンと叩く。
そして、完成したいかだを海に浮かべ、自分もそこに乗って、いかだの具合を見ている。
「最初はさ……、」真矢がおもむろに口を開いた。
「最初は、なんで俺までこんなところに呼び出されたんだろうって、思った…正直なところ、な。
でもようやくわかったよ。俺は、お前を助けるために、神様に連れてこられたんだろうな…」
自分で自分のセリフに照れ笑いを浮かべながら、真矢は「さぁ」と、石黒に向かって手を差し伸べた。
61 :
代打娘。 : 2001/02/20(火) 21:26 ID:5NndzN7o
──ありがと、あたし、幸せだね。アンタみたいな頼れる男を旦那さんにもらえて……
差し出された手に応えるように、石黒がいかだに歩み寄ったとき、異変が起きた。
石黒は一瞬、呆気にとられた。
その光景は……そう、アレに似ている。黒ヒゲ危機一髪ゲーム。
樽に開いたいくつかの穴に剣を刺していく。当たりを引くと(刺すと?)樽の中の人形が飛ぶ、アレ。
(ラジオで聞いたことあるけど、圭ちゃんだっけ?あのゲーム弱いのよね…)
今まさに、ドン、という爆発音のような音と共に、黒ヒゲが赤い煙を上げて飛んでいった。
ただし、人形ではなく、人間の生首が……。
何が起こったのか理解する間もなく、ドン、という二度目の爆発音を聞いて
石黒の思考は止まった。
二人の選択は、或いは正しかったのかも知れない。
苦しまずに、何も分からずに逝けたのだから。
『残り11人』
62 :
名無し娘。 : 2001/02/21(水) 00:12 ID:j8ueHdcg
バトロワ系はいいねぇ。
63 :
名無し娘。 : 2001/02/21(水) 07:13 ID:1HaxfHeI
オモシロイゾ
ツヅキキタイシテルゾ
ガンバッテホシイゾ
64 :
居酒屋ファン : 2001/02/23(金) 00:04 ID:ELV0WgRM
きのう映画で本物のバトルロワイアルを見てきました。
これも期待通りの展開です。
65 :
代打娘。 : 2001/02/23(金) 00:11 ID:Mwz7SKq2
現在は午前6時。ゲーム開始時から丁度6時間が経過していた。
普段なら、まだ少し起きるには早い時間かな、というところだろうが、おそらく
この島内にいて今までに寝ていた人間などいないだろう。
いるとしたらよほど度胸が据わっているか、生きることを諦めた者ぐらいか。
ちなみにこのゲームのルールとして、6時間毎に放送が流れることになっていた。
島中どこにいても聞こえるように配置されたスピーカから、雑音と共につんくの声が流れ出す。
『おいーすみんな、おはようさん。起きとるかー?これから朝の放送を始める。
じゃあまず、脱落者の名前を言うでー。』
出席を取るでー。とでも言うような声で、つんくが死亡者の名前を挙げていった。
『出席番号3番 ソニン 8番 辻希美 10番 保田圭……』
飯田や市井をはじめ、島内に散らばったそれぞれのメンバーがそれぞれの反応を見せた。
驚愕する者、悲しむ者、怒りに打ち震える者、……そして、笑う者。
……11番 真矢 14番 石黒彩』
彩っぺも、死んだ!?
島のやや北側の、山の麓。ある一本の木の根に腰を下ろし佇んでいた安倍が、顔を上げた。
彩っぺだけじゃない、圭ちゃんも、辻ちゃんも……。
夜通し泣き通して、赤く腫れた目からは、もう涙は枯れて出なかった。
いや、まだ現実を受け入れられずにいるのだろう。あまりにも現実離れした現実を。
『…あとな、脱走を企てた人間が2人いた。そいつらは首輪が作動して爆発し、死んだ。
…まぁ、自業自得やな。今生きてる奴らも、妙なことは考えないようすることや。
次、禁止エリア言うでー。しっかりメモしときやー。まず、D−02、F−……』
禁止エリア──そう、このゲームでは、時間を追う毎に島内で行動できる範囲が制限されていく。
そう、参加者を一カ所にとどまらせないため、より“敵”と接触する確率を上げるために──
「あ…禁止エリア、地図に書かなきゃ…」
安倍は慌てて荷物からペンと地図を出した。
長いこと呆けてはいたものの、安倍の意識はまだ、生きようという意志を失っていないようだった。
66 :
代打娘。 : 2001/02/23(金) 00:18 ID:Mwz7SKq2
放送が終わり、安倍はペンを置いて息を吐いた。
夏が訪れて間もない。
朝の風はまだ冷たいが、散々泣き腫らして火照った安倍の顔には心地よかった。
風に冷やされて、少し落ち着いた頭の中でもう一度、寺田先生の挙げた死亡者を反芻してみる。
出来る限り、その人達との記憶は、思い出さないようにして…。
──今のところ5人。さっき首輪が爆発して死んだ人が二人いると言っていた。
安倍は自分の首を締め付けているその物体に手を触れ、背中が寒くなるのを感じた。
──5引く2は、3人。つまり3人は誰かに殺された。自殺でもしていない限り……。
モーニング娘。というグループで共に活動してきた仲間の顔を、思い出す。
──この中の誰かが…娘。の中の誰かが殺したんだ。3人を……。
安倍の記憶の中で笑っているメンバー。
昨晩からすればあり得ないことだが、今の安倍にとってはそれが悪魔の微笑みに見えた。
実際は、娘。のメンバーではない者もゲームの参加者に含まれているのだが、
今の安倍はそんなところまで考えが及ばなかった。
尤も、安倍の想像はちゃんと的を射ているが。
67 :
代打娘。 : 2001/02/23(金) 00:22 ID:Mwz7SKq2
……あはは、そりゃそうだよね。これって、人殺しゲームなんだから。
殺さなきゃ、自分が殺されちゃうゲームなんだから。そりゃ、そうだよ……。
──コロサレル?
その五文字が、安倍の疲弊しきった頭の中をぐるぐると巡る。
コロサレル? コロサレル? ……私、死ぬの?
そう、そうなんだ。だってみんななっちのこと嫌いだもんね。なっちのこと信用できないんだよね。
きっとみんな、なっちを殺そうとするんだ。現に梨華ちゃんは──
安倍は、昨夜の光景を思い出した。
自分に銃口を向けて発砲する石川梨華。
その殺意のこもった瞳が、今も安倍の瞼の裏に焼き付いてはなれなかった。
大体、運が悪ければあの時死んでいたかもしれないのだ。
そう思うと、治まったはずの恐怖が再びよみがえり、心臓が早鐘を打つ。
それが全身に伝わり、どうにも抑えの効かない震えが、安倍を襲った。
──嫌だ、嫌だ。……死ぬのは、ヤダ。
安倍は、身体の震えを無理矢理押さえつけるように両腕を抱え、小さくうずくまった。
トン、トン。
ふいに、誰かに肩を叩かれた気がした。
──え?
一気に緊張が高まる。心臓が更に大きく脈を打つ。破裂しないかと思うほど。
──うそ?だって、足音はしなかったんだよ?
トン、トン。
再び、肩を叩かれる感覚。気のせいではない。確実に…誰かがいる、後ろに。
振り向いたら、殺される。それは根拠のない確信。
──死ぬのは、嫌だ!!
68 :
代打娘。 : 2001/02/23(金) 00:28 ID:Mwz7SKq2
「うわああああぁぁぁぁぁ!!!」
安倍は狂ったように叫ぶと、手に取った鎌を闇雲に振り回した。
ビュン、ビュンと、鋭い刃が空気を切り裂く。
「わはっ!やめろ安倍!危ないからやめなさいって!」
聞き覚えのある男性の声が、安倍の耳に届いた。それでもやめなかった。
ガツン!
硬い音がして、安倍の動きが止まる。
安倍が一休みしていた木の幹に、鎌が突き刺さって抜けなくなったのだ。
焦る安倍の前に立つ人影。眉毛の濃い男が、人懐っこい笑みを見せている。
「よっ、久しぶりだな、安倍なつみ!」
「和田さん……」
肩で息をしながら、安倍はほとんど無意識にその名をつぶやいた。
和田薫。かつて、モーニング娘。のマネージャとしてその手腕を振るっていた男である。
安倍はその男──和田の全身をざっと眺めてみた。
例のディパックを右肩から下げている以外、武器を持っているような様子はない。
少し安心し、安倍は頭の中がすうっと冷えていくのを感じた。
無論警戒は解かないが。
しかし、いくら力を込めても鎌は木にキスして離れない。よほどこの木がお気に召したのだろうか。
鎌を抜かんとしつつも、少し冷静になった頭に、一つ疑問が浮かぶ。
69 :
代打娘。 : 2001/02/23(金) 00:30 ID:Mwz7SKq2
「…なんで、和田さんがここにいるんですか……?」
当然の疑問だ。名簿には、モーニング娘。と、それに関係した…アーティストが主に名を連ねている。
──和田さんって歌なんて唄ってた?あ、それともこれに勝ち残ったら晴れて歌手デビュー?
和田の熱唱する姿を想像して、不謹慎にも吹き出しそうになった。
「ん〜、まぁ、俺も今EEJUMPのマネージャやってるだろ?
今回来たのはそいつらの保護者として…ってとこかな」
保護者?
保護──(外からの危険等に対し)気をつけて、かばい護ること。(岩波国語辞典 第五版より)
殺し合いのゲームだっていうのに、かばって護るとはどゆこと?怪しい……。
安倍は眉をひそめ、疑惑の目で和田を見た。
そんな安倍も顔は和田の方を向いているものの、身体の方は鎌を引き抜くことに専念している。
木の幹を右足で蹴っているような体勢のまま、思い切り足を突っ張ってみる。鎌は未だ抜けない。
「ん〜、まぁ、…いいじゃないか。安倍と色々話したいこともあったんだ。
ここで立ち話も何だし、俺と一緒に来ないか?」
「嫌です」
きっぱりと、安倍は拒否反応を示した。安倍でなくても、誰がこんな怪しい男についていくだろうか。
「まぁ、そういうなって。じゃ行こうか」
──行こうかって、いや、行こうかじゃなくて……え〜〜〜〜〜??
強引な言葉を吐き出した和田、その後の彼の行動は実に素早く、手際が良かった。
安倍がさんざん格闘していた鎌を、右手で軽々と引き抜き、安倍のディパックをひょいとかつぐ。
そして開いた左手を、嫌がる安倍の首に巻き付けると、そのままずるずると引きずって行った。
安倍はじたばたと抵抗を試みるが、それはほとんど効果を成さなかった。
和田と安倍が去った後、そこには何事もなかったように静寂が戻った。
『残り11人』
70 :
独り言。 : 2001/02/23(金) 00:40 ID:Mwz7SKq2
いや〜、、長くなりそう。だれるな、こりゃ。
次、前半の山場ッス。戦闘シーンはむずい。
レス下さった方々、ありがとうございます。
どうでもいいけど、オールナイトニッポンのLFRロワイアル?
あれは、、どーなの??
加護の首がポン言うて抜けたのは笑ったけど。
从 ~∀~ 从 <カオリぃ♪あたしの好きな言葉、知ってるよな!
じゃくにくきょ〜しょく♪♪
(#゜皿 ゜)ガガ....ユーチャン シドイ.... (一部抜粋)
71 :
代打娘。 : 2001/02/24(土) 22:59 ID:.GHtq9mQ
安倍が和田に“誘拐”された頃と同じ時刻。
放送を聞いていた市井は、他の多くの人間と同じように驚愕の表情をその顔に浮かべた。
「辻も……死んだの?」
保田圭が命を落としたことは、既に知っていた。
夜明け前、それは見つかった。
息を切らせながらその場所までたどり着いたとき、
待っていてくれたのは保田と…何故かソニン、だけだった。
波打ち際で漂う保田の身体は、水を吸って少し膨らんでいたように見えた。
その周りの海水は、恐ろしいほど真っ赤に染まっていた。
そっと陸に揚げ、開ききった目を瞑らせ、胸の前で手を組ませる。
その程度しか、今の市井に出来ることがなかった。出来ないことが悔しくもあった。
──あたしが、あたしがもっと早く、ここに来ていれば──
実際の所、おそらく市井に非はない。が、市井は自分を責めずにいられなかった。
そして今に至る。
圭織は……今頃圭織は、どんな顔でこの放送を聞き終えたんだろう。
市井は、昨夜偶然出会った飯田が辻を捜していたことを思い出し、ひどく胸が痛んだ。
それと同時に、安堵することもあった。
脱落者の名前の中に、市井のもう一人の捜し人、後藤真希の名前が無かったことだ。
ふと、市井は考える。保田とソニンが死んでいて、吉澤と後藤は生きている。それはどういうことか…。
おそらく、一番先に来ているはずの吉澤が、二人を殺した張本人であることに間違いはないだろう。
ソニンは…あれは偶然居合わせたんだな、多分。
では後藤は?考えられる事例はいくつかある。
1つは、何か理由があって、あの場所までたどり着かなかったということ。
…そう、例えば道に迷って、など。もしくは敢えて行かなかったのかもしれない。
2つ目は、居合わせたものの、なんとか吉澤から逃げ延びた。
これは、吉澤が殺人に銃を使っている以上考えにくいが、気付かれる前に逃げたというのなら有り得る。
3つ目は…。そのとき、市井に恐ろしい考えが浮かんだ。
吉澤と後藤が、共謀して2人を殺した……。
あるいはそうでなくても、吉澤が後藤を騙して行動を共にしているかもしれない。
後藤を利用して、最後に…殺す。あるいは逆か?後藤が吉澤を騙して?
72 :
代打娘。 : 2001/02/24(土) 23:06 ID:.GHtq9mQ
市井は首を振って、自分の考えを否定した。
──そんなはずはない。2人も殺している時点で、後藤が吉澤を信じるはずがない。
あいつはぼんやりしているが、頭は悪い方じゃない。むしろよく働くと言っていい。
同様に、後藤が吉澤を騙しているということもないだろう。
後藤の方がやる気になっていたとしたら、あそこにもう一人、吉澤の死体が転がっていたはず。
二人が一緒にいるということは…ありえない。
「もう余計なこと考えるのはやめよう」
市井は一人呟いて、寝そべっていた茂みから身を起こした。
保田の死体が打ち上げられていた、“南の端”からやや北に行ったところに、
安倍がいたところとは別のもう一つの山がある。市井はその麓にいた。
あまりあちこち動いて体力を消耗させるのも、このサバイバルゲームの中では禁物なのかもしれない。
そんな考えもよぎるが、しかし、動かずにはいられなかった。
保田の変わり果てた姿が脳裏に浮かび、罪悪感が胸にこみ上げてくる。
後藤は…後藤だけは、あんな姿にさせない。あたしが、守らなきゃ──。
市井は立ち上がって、スカートを軽くはたくと、ディパックと武器を片手に出発した。
もちろん、飯田に教えた“目印”をつけておくことも忘れずに。
山の斜面をしばらく下りていくと、やがて視界が開けた。
一本の、舗装されていない道が、市井の目の前を横切っている。
右を見る。その道はぐにゃぐにゃと曲がりくねって林の奥へ入ってしまっていた。
地図を見る限り、おそらく分校方向に続いていると推測できる。
左を見る。そっちは北の方角へとまっすぐ続いており、何処に繋がっているのかまでは分からなかった。
とりあえず、道の上を歩くつもりはない。
(そりゃそうだ。何処の世界に他人から狙われている中、日の当たる道を歩くバカがいる?)
道に沿って、北の方へ行ってみよう。そう決めて顔を上げたときだった。
「!?」
73 :
代打娘。 : 2001/02/24(土) 23:12 ID:.GHtq9mQ
道を挟んだ向こう側、茂みから上半身だけ出した学ラン姿を、市井は見つけた。
その顔には見覚えがある。まだ幼さを残した少年の顔。
何度か会っているその顔は、ある少女にそっくりだった。そう、市井が捜し求めている少女に。
後藤真希の弟、後藤ユウキがそこにいた。
顔を上げた瞬間に目が合っていた。その時既に、ユウキの様子がおかしいことにも気付いていた。
だが市井は、しばらくその場を動けなかった。まるでユウキの視線に縛り付けられているように。
視線……ユウキの目つきは、明らかにおかしい。
たとえて言うなら、手負いでいきりたっている猛獣、といったところだろうか。
市井の金縛りが解けたとき、それはユウキがこちらに向かって猛突進してきたときだった。
──やばい!!
市井はとっさに踵を返して逃げようとしたが、出来なかった。
ユウキの動きが速すぎたのだ。
道を挟んだ二人の間は距離にして数メートル。それを、ユウキは一気に縮めてきた。
その手には、木こりが使うような鉄の斧が握られている。
渾身の力で振り下ろされたそれを、市井はすんでの所でかわした。
──ユウキ、まさか“やる気”なの!?
息をつく間もなく、第二撃が下から繰り出される。市井は必死で上半身を反らし、かわす。
その瞬間、市井は何かに足をとられた。
多分、地面に落ちていた小石か何かだろう。ユウキの鉄斧はその瞬間を逃がさなかった。
74 :
代打娘。 : 2001/02/24(土) 23:17 ID:.GHtq9mQ
──ザクッ
「うあぁっ!!」
尻餅をついた市井の左大腿部に、斧の刃が深々と突き刺さった。
セーラー服のスカートがスリット状に裂け、その下から血が勢いよく流れ出している。
気を失いそうなほどの痛みが左足を襲い、市井はその場にうずくまった。
しかし痛がっている暇はない。
血の滴る鉄斧が、再び市井の頭上に振り下ろされようとしていた。
とっさに持っていたディパックを頭上に上げ、斬撃から身を守る。
犠牲になったディパックが切り裂かれる。が、中に入っていた何かが、ユウキの動きを一瞬止めた。
その隙に市井は、切り裂かれたディパックを見捨て、木の棒を支えにしながら立ち上がった。
逃げ出すという選択もある。しかし、この傷ついた左足ではあっさりと追いつかれてしまうだろう。
今だってユウキの俊足を見せつけられたばかりではないか。
みすみす身体を真っ二つにされるよりは──。
市井は、木の棒を両手で構え、ユウキの方へ向き直った。
75 :
代打娘。 : 2001/02/25(日) 05:12 ID:sBsnY7Fo
ディパックから斧を引き抜いたユウキが、振り返りながら市井へ斧を振り下ろす。
執拗に市井の動きを追うその目は、もはや正気を失っているようにも見えた。
狂気に歪んだ顔が、市井を戦慄させた。
闇雲に振り回される鋭い刃を、後ずさりながら、右に、左に受け流す。
それが今の市井に出来る精一杯だった。
ところで、追いつめられたときほど、人間は余計なことを考えてしまうものらしく、
市井は、ふと自分のいないモーニング娘。のレギュラー番組を思い出していた。
──チャレモニのみなさ〜ん!見てますかぁ?これが本場の“殺陣”ってやつだよっ!
絶え間なく続いていた攻防は、舗装されてない道を渡りきった頃、変化を見せた。
疲れを見せたユウキが、一気に踏み込んで間合いを詰め、大きく振りかぶって斧を下ろす。
市井は木の棒を横に持ち、頭上でその刃を受けようとするが──
…バキッ
乾いた音を立てて、棒が真っ二つに折れた。
勢いの衰えない鉄斧が、市井の鼻先をかすめ、赤い線を付ける。
──この、役立たず!!
市井はそう毒づいて、木の棒を茂みに投げ捨てた。
だが、チャンスはやってくる。
勢い余った斧は、地面の土を深く削り、止まった。ユウキはそれを引き抜くのに苦心していた。
斧の刃が、地面とのディープキスから離れる瞬間。
その瞬間を狙って、市井は怪我していない方の足で、鉄斧の柄の部分を思い切り蹴り上げた。
引き抜いた瞬間の勢いに、市井の蹴りがプラスされ、
斧はユウキの手を離れ、クルクルと回転しながら空に舞い上がった。
76 :
代打娘。 : 2001/02/25(日) 05:16 ID:sBsnY7Fo
これで、当座の危険からは逃れた…。
空を舞う斧に視線を注ぎながら、市井がわずかに気を抜いたその時、何か重いものが体当たりしてきた。
「なっ……!」
体勢を崩し、仰向けになった市井に覆い被さるその物体の正体。ユウキだ。
ユウキは馬乗りになって、市井の首……首輪のすぐ上に手をかけ、全体重をそこに乗せた。
息が止まり、首から上に血が回らなくなって、痺れるような感覚を覚える。
太陽を背にしているユウキの表情は、市井の方からは見えなかった。
徐々に視界が暗くなり、木々のざわめく音が、風の音が遠くなって……
──こんなとこで、こんな所で死んでたまるかっ……!
ユウキは手に体重をかけているため、自然と腰が浮き上がっている。
市井はそこを目がけて、先程斧を蹴り飛ばした方の膝を、勢い良く立ち上げた。
ドッ、と鈍い音がして、市井の膝はユウキの…股間を、直撃した。
「うっ」とユウキがうめき、市井の首にかけられた手の力が緩む。
その隙をついて、市井がありったけの力でユウキの身体を押し飛ばした。
「…っ……ゲホッ、ゲホゲホっ……」
気道に急に空気が通り、市井は一度起こした上体を再び地面に寝かせ、咳き込んだ。
しばらくの間の後、遠くで鈍く、重い音がするのを聞いた。
あぁ、斧が落ちる音だ、と気付いた。同時に、再び市井の身体に緊張が走る。
今この状態で、三たび襲われることになったら、間違いなく死ぬ。
市井はまだ痛む喉を押さえながら、急いで身を起こし、ユウキの方へ目をやった。
そして、その状況の妙に気付いた。
ユウキがこちらに足を向けて倒れたまま、動かない。
頭を打って気絶でもしたのだろうか?
膝をついてユウキの姿が見えるように、身体を伸ばす。
「……!!」市井は、息を呑んだ。
77 :
代打娘。 : 2001/02/25(日) 05:22 ID:sBsnY7Fo
ユウキは首から上を、失っていた。
いや、正確に言えば、銀色の首輪から上を。
無くなったユウキの頭の代わりに、そこには真っ赤に染まった刃が突き立っている。
切り口からはまるで倒れた打ち上げ花火のように、真っ赤な血の火花を飛ばしていた。
状況からの推測は容易だった。
……先程まで空を飛んでいた斧が、ニュートンの法則に従って落下。
重力による加速を伴って落ちてきた鉄の刃が、ギロチンよろしくユウキの首を刈ったのだろう。
偶然にも着陸地点にあったユウキの首を。
人間は、真の恐怖に突然であったとき、本当に悲鳴を上げるのであろうか。
少なくとも市井の場合はそうでないらしい。
いや、叫ぶタイミングをなくした、と言った方が正しいのか。
ただただ、脱力してその場に座り込み、震えるばかりだった。
風で転がったユウキの首と、目が合った。
狂気に醜く歪んだ顔は、死してかわらず市井を睨み続けている。
決して見たくないモノのはずなのに、市井は“それ”から視線をはずせなかった。
ふいに強烈な吐き気がこみ上げてくるのを、必死に堪えた。
78 :
代打娘。 : 2001/02/25(日) 05:24 ID:sBsnY7Fo
……どれくらいの時間が過ぎたろう。
市井がようやく落ち着きを取り戻し、立ち上がる。
「痛っ……」
緊張と興奮で忘れかけていた左足の痛みが、また戻ってきていた。
骨に達していると思われるほどの深い傷口。そこから流れた血で、膝から下が真っ赤に濡れている。
額に脂汗が滲む。
とりあえず、ここから去ろう。
騒ぎを聞きつけて誰か来るかもしれないし、何より…一刻も早く、この死体から離れたい。
痛む左足をひきずりながら、市井はゆっくりとユウキの遺体に近づき、
少しためらった後、柄の部分まで血に染まった“武器”を引き抜いた。
ユウキの首をちらっと見やる。さすがに、目を瞑らせることは出来なかった。
先程切り裂かれた、自分の荷物が落ちている場所へ戻ろうと歩きながら、市井は思った。
──もし、後藤が弟の死体を見たら、どんな反応をするのだろう。
ましてや、ほとんど事故とはいえ、あたしがユウキを殺したなんて知ったら──
そんな事を考えながら、例の、山の麓を横切る道までたどり着く。
そこでふと顔を上げ──市井は、軽いデジャヴを覚えた。
道を挟んだ向こう側、茂みから上半身だけ出した人影。
先程と同じような立ち位置に、同じ顔の人間。
それが別人であることは、髪型と、セーラー服で見分けがついた。
「…後藤?」
市井は、その名を口にした。
市井が会いたいと願った娘。しかし、今だけは絶対に会いたくなかった娘。
79 :
代打娘。 : 2001/02/25(日) 05:27 ID:sBsnY7Fo
名を呼ばれた少女──後藤真希は、銃を両手で構えていた。
涙で潤んだ目は、明らかに怒りと憎悪の光を含んで、市井に向けられていた。
そして、銃口も。
……最悪のタイミングだ──!
市井は思わず天を仰いだ。
「人殺し!」
一瞬の間の後、後藤のワルサーPPKが、大きな発砲音を立てる。
──市井の胸を抉ったのは、後藤の放った鉛玉か それとも、その言葉だったのか──
市井は右胸を押さえ、その場にゆっくりと崩れ落ちた。
「ご、後藤…待って、ねぇ、ごと……」
最後の力を振り絞って、市井が伸ばした手の先に、後藤の姿はなかった。
『残り10人』
80 :
名無し娘。 : 2001/02/25(日) 09:37 ID:39jrcfx2
バトルシーンの緊迫した雰囲気がいいねぇ。
密かに市井と後藤に合流して欲しいと思ってたけど、まったく裏をかかれて最悪の
展開での再会かぁ。
マジ面白い、つづきも楽しみにしてるよ。
81 :
名無し娘。 : 2001/02/26(月) 01:36 ID:k.WRmzz6
おもしろいねぇ。
作者に才能を感じるよ。
82 :
名無し娘。 : 2001/02/27(火) 12:04 ID:HSmWiYHk
市井がんばれー
まだ死ぬなー!
83 :
居酒屋ファン : 2001/02/28(水) 06:53 ID:IGagwK0Y
本物のバトルロワイアルでは、事故で、頭に刺さって死んでいた。
クビを切るとは恐い・・。
84 :
独り言。 : 2001/02/28(水) 06:54 ID:y6q.oPzw
銃器の種類がよーわからん。。。
みんな種子島鉄砲でいいか。。。(嘘
85 :
代打娘。 : 2001/02/28(水) 06:56 ID:y6q.oPzw
どれくらい長いこと歩いただろうか。
和田は、ちらりと後ろを振り返ってみた。
万が一、土が軟らかく、安倍を引きずった跡がはっきりとついていたりしては
他人に見つかるという危険性がある故、都合が悪い。
そのような跡が無いことを確認すると、
丁度茂みに囲まれ、周りから隠れられる場所で落ち着き、安倍を解放した。
「い、一体、こんな所まで連れてきて何するべさ!なっちを怖がらせて何が面白いべ!?
どうせ和田さんも最後はなっちを殺す気っしょ!!」
「ウフフッ……アハハハハハハッ」
安倍の必死の抗議に、和田は声をあげて笑った。およそ、似つかわしくない笑い方で。
「な…なにがおかしいべ!?」
「アハハッ…ゴメンゴメン、取り乱すとお国言葉が出ちゃうの、ちっともかわってないね」
和田はそう言って、きょとんとする安倍に顔を近づけると、にぃっと笑った。
「和田さん…?」
「久しぶりだね、なっち。まだ、分からない?」
その喋り方に、安倍は奇妙な懐かしさを覚えた。ひどく懐かしい感覚だが、その正体までは分からない。
和田が、おもむろに自分の、無精ひげの生えた顎に手をかけた。
安倍は目を見張った。
和田の顔の皮が徐々にめくれていく……!
その下から出てきたもう一つの顔。安倍はようやく、その懐かしさの正体に気付いた。
「明日香……ウソ?…え?…明日香なの…?」
和田薫の正体は、かつて安倍と共にモーニング娘。のセンターを勤めた少女、福田明日香だった。
86 :
代打娘。 : 2001/02/28(水) 06:58 ID:y6q.oPzw
「へへ、驚いた?」
福田は悪戯っ子のような顔でぺろっと舌を出した。
その声は既に中年男のそれではなく、昔、娘。で美声を発揮した福田明日香の声そのものだったが、
背が高く、体格のいい身体に少女の顔がぽつんと乗っているのは実に不自然だ。
安倍がそれをチョイ、チョイ、と指さすと、
「あぁ、これ?」と、いそいそと服を脱ぎだした。
肩パット入りの学ランを脱ぐと、安倍と同じ様なセーラー服が顔を見せる。
「下は、どうやって…?」
安倍の記憶が確かなら、福田は自分より背が低かった。
高下駄でも履いているのだろうか?と、安倍は想像する。
安倍は、目が点になった。
学生服のズボンを脱ぐと、そこには……矢口もビックリ、超厚底!の、ブーツ。
もはやブーツを通り越して長靴だ。
福田はそれを、飛び降りるような方法で脱いだ。
呆気にとられ、まばたきを繰り返している安倍を、福田は満足そうに見ている。
これで福田は、安倍とまったく同じ、セーラーの上下という格好になった。
彼女は以前より少し痩せて、背が高くなったような気がする。
「歩きづらくなかった…?」
やっと開いた口で、安倍はそう聞いた。
「まぁね」 福田はあっけらかんと答える。
87 :
代打娘。 : 2001/02/28(水) 07:01 ID:y6q.oPzw
「どうして?どうして、明日香がここに……?」
しばらく目を白黒させた後、ようやく最も疑問に思うべき部分を言葉にした。
厳密に言えば、この質問はおかしい。
むしろこう聞くべきだろう、“何故明日香だけ最初から参加していなかったの?”と。
大体、事の大元は、『新旧モーニング娘。勢揃い!大同窓会』と銘打った番組だったのだ。
それが、どういうわけだか『新旧モーニング娘。殺し合い!』に入れ替えられているが、
とにかく、石黒や市井が呼ばれていて福田がいないのはおかしい──
そんな点に安倍が気付くのは、もう少し後だった。
「決まってるじゃない」
福田は、おもむろに安倍に近づき、その華奢な両肩にそっと手を置いた。
口元にはかわらぬ微笑みをたたえたまま、しかし真剣な眼差しで安倍に視線を合わせ、
「なっち達を助けに来たの」と、一息に言った。
その意味が染み通るまでに、少し時間がかかった。
安倍はどゆこと?と言わんばかりに、眉根を寄せ、首を傾げている。
わずかな間の後、ぐぅぅぅ〜〜〜〜〜、と間抜けな音が空間を支配した。
福田が堪えきれず、吹き出す。
「なんで笑うべさ!」安倍は顔を真っ赤にして抗議した。
「ゴメンゴメン…フフッ、どんな状況でもお腹は空く…か。
ご飯、食べよっか?いろいろ話しておきたいこともあるしね!」
「う、うん…」
安倍はまだ戸惑いを隠せなかったが、ここで拒否するのも悪い気がして、とりあえず従った。
福田に会えて先程の疑念が吹き飛んでいることには、まだ気付いていなかった。
『残り10人』
88 :
代打娘。 : 2001/03/02(金) 04:22 ID:4gEKPdzQ
大歓声
大勢の観客
眩しいほどのスポットライト
肌に張り付くような熱気
──あれ?なんだここ?コンサートホール?なんであたしこんなとこにいんの?
突然消えるスポット
暗闇に光るペンライト
ホールを揺らすほどのアンコール
──あ、夢だ。たまにあるね。なんていうのかな、夢の中で夢だと気付いちゃう夢ってヤツ。
徐々に大きくなるアンコール
“サ・ヤ・カ!、サ・ヤ・カ!、サ・ヤ・カ!”
──はは、バカだね。こんなときに、ソロデビューの夢ですか?
…でも懐かしいな、この感じ。
一回ぐらい、こんな大きな会場で、一人で歌ってみたかったなぁ
“サ・ヤ・カ!、サ・ヤ・カ!、サ・ヤ・カ!”
──あは、みんな、ありがとー!なんてね……
89 :
代打娘。 : 2001/03/02(金) 04:27 ID:4gEKPdzQ
「…紗耶香!紗耶香!」
揺り起こされて、市井は目を覚ました。
まだ夢の中のような錯覚も起こしたが、身体の痛みが、そうでないことを知らせた。
声のする方に顔を向け、ぼんやりとする焦点を必死に合わせる。
やはり逆光で見づらいが、太陽の光でわずかに反射している金髪と、小柄なその影は
市井がその正体を判断するのに充分な材料だった。
「あ、矢口…」
自分の声が、やけに掠れているのに少し驚いた。
「しっかりしてよ!ひどい怪我…」
怪我?そう言われて、市井は仰向けに寝そべったまま痛む胸にそっと手をあててみる。
胸…というより、腹部に近い箇所だろうか。そこに一つ、風穴が開いていた。
心臓が脈打つ度に、その部分が熱を持ってひどく痛む。
身体から血の抜けていく感覚が、奇妙に心地よい。
どれくらいの間失神していたかは分からないが、まだ生きているということは
案外急所を外れていたのかもしれない。
──けど、この出血の勢いじゃそう長くないな…。
市井は、やけに落ち着いた気持ちで、自分の死期を悟っていた。
その身体から流れる血が、緑の草原に黒いシミを作っていた。
「誰に、やられたの?」
矢口真里がそう聞くと、市井は先程の記憶をたぐり寄せ、その名を呼ぼうとして…口をつぐんだ。
「これは…気に、しないで。それ、それより…矢口に、お願いが、あるんだけど…」
「ん、何?おいらに出来ることなら」
矢口の『おいら』を久しぶりに聞いて、市井は少し笑った。
「後藤…いるでしょ?あいつに、あいつにもし、会うことがあったら、
あたしが、市井が謝ってたって、伝えて欲しいんだ…。
市井、あいつに、取り返しのつかないことした…。
あいつを……ひどく、傷つけちゃった…。
それと、もし出来ることなら、あいつの側に、後藤の側にいてあげて……」
そこまで言って、市井はひどく咳き込んだ。鉄の味が、口内に広がる。
90 :
代打娘。 : 2001/03/02(金) 04:32 ID:4gEKPdzQ
「紗耶香!!」
「あは…、こんな頼み事、迷惑だよ、ね…。殺し合いの最中なのに…、敵同士なのに……
でも、でもさ…」
朦朧とする意識の中、市井は昨晩会った飯田のことを思い出していた。
あの時の飯田と、今の自分がオーバーラップする。
“きっと、今頃一人で寂しい思いをしていると思う。”
「…後藤…今頃一人で…寂しがってるから……」
“だから、カオが側にいて、守ってあげたいの”
「あたしは、もう、側に…いてやれないから……」
圭織…あなたも今、泣いているの──?
市井の目から、一粒の涙が零れた。
「だから……っ、どうか、おねが、い……」
「わかった、わかったからもう喋らないで!ごっちんは、ヤグチがなんとかする。約束するから!」
そう言って、矢口が市井の手を握りしめると、市井は安心したように笑みを浮かべた。
「ありがと…矢口…」
「ね、ねぇ…それとさぁ…」
「ん?」
「あたし…が、死ぬまで…一緒に、いて…くれる?一人で、死ぬのは…怖い、から……」
「…ん。いいよ」
──そんな、悲しいこと言うなよぉ…。
口に出して言おうかと思ったが、やめた。
もう助からないことぐらい、矢口にも分かっていた。
市井の肩に手を回し、そっと身体を抱き寄せる。
矢口に身体を預け、瞼を閉じた市井の表情は、母親に抱かれた赤子のように、安らかだった。
「や、ぐち……生きて……ね?」
「…おぅ」
数分後、市井紗耶香は、眠るように息を引き取った。
『残り9人』
91 :
名無し娘。 : 2001/03/04(日) 01:59 ID:Uh3bRKzQ
いちぃ〜ちゃぁむ・・・・・・・・(泣
92 :
居酒屋ファン : 2001/03/04(日) 05:21 ID:xSdvhAzk
和田→福田 書き手が違うはずなのに。すばらしいです。
93 :
代打娘。 : 2001/03/07(水) 06:03 ID:jyq1Sfzk
市井の死を確認してから、矢口の目に溜まった涙が、堪えきれなくなってあふれ出した。
まばたきの度に落ちる雫が、市井の、まだ張りを残した頬に当たって弾ける。
矢口の頭の中を、市井との思い出がハイライトで展開される。
“ね、ねぇ、一緒に寝てくれる?一人で寝るの、怖くって…”
初めてそう言われたのは、いつの頃だったか。
変わってないよね、紗耶香。
ホントは、寂しがり屋で、泣き虫で、甘えん坊で。
そのくせ年下のコの前では、強がって、お姉さんぶって、カッコつけちゃったりして。
今だってそうじゃん。他人の心配する前に…
「他人の心配する前に……自分の身ぐらい、ちゃんと守れよ……っ…」
矢口は市井の亡骸を強く抱きしめ、声を押し殺して泣いた。
どれくらいの間、そうしていただろう。
生暖かい風が吹き、草木がざぁっと音を立てる。
その音が合図になったように、矢口は顔を上げた。
ふと、涙でぼやけた視界に、人の姿らしきものが入る。セーラーを着た人影。
市井の身体から離した右腕で、荒っぽく両目を擦り、もう一度そちらに目をやる。
──あ、梨華ちゃんだ。今度ははっきりと認識できた。
石川の視線は矢口とは別の方向を見ていた。
恐怖に目を見開き、口元を押さえてがたがた震えている。
横顔しか見えないが、その様子は矢口からも分かった。
その視線の先に何があるのか、そこまでは分からなかったが。
「梨華ちゃん?」
思わず声をかけてしまったのは、少し不用意だったかもしれない。
矢口は少し後悔した。
石川はビクッと肩をすくめて、声のした方向──矢口の方を向いた。
しばし黙って見つめ合う二人。
まるで再開の喜びを噛みしめる恋人同士のように?あら、ロマンチック。
そんな甘い雰囲気じゃないのは、石川の恐怖に彩られた表情で一目瞭然だった。
94 :
代打娘。 : 2001/03/07(水) 06:09 ID:jyq1Sfzk
沈黙を破ったのは石川だった。
「矢口さんが、やったんですか?」
震えた声で訊く。その言葉に、矢口はぽかんと口を開け、「はぁ?」と表情だけで言う。
石川の視線を追ってみて、何のことを言っているかに気付く。
「あぁ、紗耶香のこと?これは…違うよ。ヤグチはたまたま通りかかっただけ」
うさんくさい。自分でもそう思うぐらいだ。梨華ちゃんは多分信じてくれない。
矢口の予想通り、石川は警戒を解くどころか、ますます強めただけだった。
石川の手に握られていた拳銃──ベレッタM92Fが、ゆっくりとその矛先を矢口へ向ける。
「…なんのつもり?」
矢口はゆっくりと立ち上がりながら、努めて冷静に、訊いた。
だがその感情を押し殺した口調が、石川をさらに恐怖と殺意に駆り立てた。
視界が悪い──と、瞼に残った涙を再度、指で拭う。
そんな矢口の何気ないしぐさも、今の石川の前では説得力を持たなかった。
「嘘つかないで下さい。矢口さん、服が血で真っ赤じゃないですか。
その、大きな刃物で、やったんでしょう?」
刃物ぉ???
言われて、自分の周りを見渡す。
それはすぐに見つかった。矢口から見て、市井の遺体の向こうにそれは落ちている。
矢口は、その黒ずんだ草むらに置かれている斧らしき物体を、市井の物だと認識していたが、
──ってゆーか、自分の武器を手の届きにくい所に置くか?普通。
どーみても紗耶香のじゃん。分かれよ〜……
矢口は心の中で石川にツッコミを入れた。
しかし、やはり今の状況というのは、漫才などできるような和んだ雰囲気でもないわけで…
ガチッという音を聞いて、矢口は再び石川に顔を向けた。
そしてすぐに、それが撃鉄を起こす音だと気付いた。
95 :
代打娘。 : 2001/03/07(水) 06:14 ID:jyq1Sfzk
「やだな…、冗談やめてよ?ホントにヤグチはここを通りかかっただけだって。
この返り血だって、そりゃ今みたいな姿勢なら…つくよ」
──言い訳がましいね、なんだか。
ゆっくりとした口調で言ったが、しかし矢口の目線は石川の指先をしっかり見据えていた。
石川の右手の指は既に引き金に掛かっている。
ゆっくりと、震える人差し指が手の中に戻ろうとし──
やがて鳴り響く破裂音。
それよりわずかに早く、矢口は小さいその身をぐっとかがめ、銃弾をかわした。
チッとかすかに舌打ちをし、足下に置いたスコーピオンVz61──矢口の本来の武器だ
──を拾い上げた。
石川は反動で上を向いた銃口を、もう一度矢口へ向け、撃鉄を起こし、撃つ。更にもう一度。
一連の動作を先程の数倍の速さで行う。
矢口は素早い身のこなしで、バレー選手よろしく回転しながら──まさか鉛玉を
レシーブするわけには行かないが──木の陰まで移動した。
銃弾を受けた地面が、矢口の後を追うように土煙を巻き上げる。
そして…矢口の視界の端で、流れ弾を受けた市井の身体が一度、ビクンと跳ねた。
「紗耶香!…なんてことを、石川!!」
矢口は自分の身体に余るそのスコーピオンを石川に向け、少しためらった。
こんな大きな銃を使えば、逆に矢口の身体が反動で吹っ飛んでしまう可能性もある。
それになにより…
──人に、撃つの?それも、ほんの数日前まで、一緒に仕事していた仲間に向けて?
他の多くの参加者がそうであるように、矢口もまた、殺し合いなどしたことがなかった。
その第一線を踏み越えてしまうことに、ためらいがあったのだ。
その迷いの間も、石川は容赦なく撃ってくる。
矢口の目の前で、銃弾が防壁となっている木の幹を削り、木屑が舞う。
──やるしかない!
そう決意し、矢口は石川に銃を向けた。
96 :
代打娘。 : 2001/03/07(水) 06:19 ID:jyq1Sfzk
「やめな!!」
かすかに、関西風のイントネーションを含んだ声が聞こえた。
石川は一瞬、驚いて辺りを見回そうとしたが、すぐに視線をもう一度、矢口へ定めた。
そして矢口もまた、その声を聞いていた。
──まさか、裕ちゃん?
「やめろと言うとるやろ!」
声と同時に、誰かが石川のか細い手首を掴む。それは矢口の方からでも、地面に映る影で分かった。
銃口が、矢口から上空へ向けられる。
「何するんですか!」
悲鳴に近い、甲高い声があがる。
石川の後方にいる金髪の女性──中澤裕子が、石川を羽交い締めにしながら、
その手にある銃を取り上げようとしていた。
二人の力のバランスの推移により、ベレッタの銃口が青空と大地を往復する。
「女の子がこんな物騒なもん使ったらあかん!」
「離してください!」
矢口は、突然のことに呆気にとられ、その光景を黙って見つめることしか出来なかった。
そして──
97 :
代打娘。 : 2001/03/07(水) 06:23 ID:jyq1Sfzk
パアァァァアン──!
再び、耳をつんざくような破裂音が辺りに木霊する。
その瞬間、二人はビデオの停止ボタンを押されたように固まった。
「いやあああぁぁぁぁ!!」
数秒後、銃声に負けないほどの悲鳴が石川の喉から発せられ、石川はその場に崩れ落ちた。
その左腕からは、おびただしいほどの、血。
二人の手から解き放たれたベレッタは地面に落ち、その口から硝煙を上げていた。
中澤は、やってもうた、というように顔を歪ませ、すこし腰をかがめると、
「石川…」と、その場に座り込んだ少女の名を呼んだ。
石川は一層身体を震わせながら、怯えた小動物のような目で中澤を睨んでいる。
「石川。もう、やめよ?な?今、手当してあげるから。おいで」
中澤の、優しい口調での呼びかけも、石川には通用しそうになかった。
「いやだ……いやだ……来ないで…」
うわごとのように呟き、目に涙を溜めながら、立ち上がって後ずさりをする。
中澤が手を伸ばした瞬間、石川は、驚くほどの瞬発力を発揮してその場から逃げ去った。
「石川!待ちぃな!石川!!」
中澤も慌てて後を追う。
矢口は、その場にぽつんと残される形になった。
98 :
代打娘。 : 2001/03/07(水) 06:29 ID:jyq1Sfzk
一人残った矢口は、先程まで二人が争っていた場所まで行き、ベレッタを拾い上げた。
さっきまで自分を狙っていた銃。
「あちっ」 銃身に触ってみて、その熱に驚いて手を引っ込めた。
ふと、何かもわっとしたような、胃の奥を刺激するような匂いに気付く。
──血の匂い?
市井紗耶香を看取ったときにも嗅いでいたそれが、この辺りには強烈に立ちこめている。
──うぇ…気持ち悪ぃ。
しばらくすると中澤が戻ってきた。
「あかんわ。あいつ、あんなに足速かったんかな?」
「あ、おかえり裕ちゃん」
あっさりとした口調の中澤に、矢口は今の状況も忘れ、いつもの気分でそう返した。
声をかけられた中澤は、矢口に視線を合わせ、フッと微笑む。
「しかし、まるで地獄絵図やな、ここは。あっちの方、見たか?」
と、中澤が顎で指した方向は、先程石川が恐怖に震えながら眺めていた方向だ。
矢口もそちらの方を見やり──背中の熱が急に引くのを感じた。
出そうになった悲鳴を無理矢理、飲み込む。
やがて、その凄惨な光景に吐き気を覚える。
……ひょっとしてあれかな?さっき梨華ちゃんが言っていたのは。
“その大きな刃物で、やったんでしょう?”
「首無し死体や。顔、確認したけど、ユウキやな、あれ」
随分と軽い口調で言う中澤に、矢口は違和感を感じた。
──なんで、あんなの見て、そんなに落ち着いていられるの?
「そしてこっちには紗耶香…か。みんなよーやるわ」
──紗耶香を見ても、悲しくないの?
中澤は市井の倒れている方を眺め、最後に矢口に目を戻すと、
「そんな格好してたら、そりゃ石川にも疑われるで」と、おどけて言った。
──あたしがやったんじゃないって、なんで分かるの?
中澤に対し、多くの疑問が沸き上がる。
99 :
代打娘。 : 2001/03/07(水) 06:38 ID:jyq1Sfzk
「ね、ねぇ……裕ちゃん……」
背中を向けて歩き出した中澤に、矢口が声をかける。
中澤は振り返ると、眉を少し持ち上げた。額にしわが寄るのは歳のせいか。
「こんな血なまぐさいとこで立ち話も何やし、少し移動せえへん?」
それだけ言い、またスタスタと歩いていってしまう。
「裕ちゃんってば!」
市井の側にあった、赤い鉄斧をかついだ中澤が、なんやねん、と眉をしかめる。
端から見るとかなり怖い。鬼に金棒、ということわざを、矢口は思いだした。
「なんで……なんでヤグチが殺したんじゃないって、分かったの?」
中澤は、なんだ、という風に矢口から視線を逸らし、再び歩き出す。
「決まっとるやろ」
「え?」
「矢口はそんなことせえへん子や。あたしと何年のつき合いやと思ってる?そんぐらい分かるで」
──裕子ぉ……
暗闇の中に、一筋の光が射し込むような感覚。
少々単純かもしれないが、ゲーム開始以来ほとんど人に会うこともなく
心細さを感じずにいられなかった矢口は、その一言に言い様のない安心感を覚えた。
同時に、心のどこかで中澤を疑っていた自分を恥じた。
「裕ちゃん、ありが──」
「おー!紗耶香の奴、食料一つも食ってないやん!ラッキ〜、もらっとこ!」
「……、……。」
やはり疑念を捨てきれない矢口だった。
『残り9人』
100 :
名無し娘。 : 2001/03/09(金) 05:11 ID:tDdZxZiE
おぉ、代わりの人が未だやってるのね。
楽しみにしてますよ
101 :
代打娘。 : 2001/03/11(日) 12:44 ID:iWU6E/ig
左腕の傷口を右手で押さえながら、石川は走っていた。
混乱。今の石川を表すのに、おそらく一番ふさわしい言葉だろう。
もはや、何処を走っているのか分からない。
禁止エリア?そんなの知らない。
胸が痛くなるほど走り、足が極度の疲労で動かなくなった頃、
近くの適当な木に背をつけ、そのまま座り込んだ。
肩で息をする。
「痛い……痛いよ……」
いくら手で押さえても、そこから溢れ出す血は簡単には止まってくれそうにない。
普通、獣などは怪我をすると興奮し、凶暴になるものだろうが、
石川にとっては、腕の痛みが、身体の疲労と合わさって鎮静剤の役割をしてくれていた。
おかげで、分校を出てから初めて、石川はこれまでのことに思考を巡らせることが出来た。
“石川。もう、やめよ?今、手当してあげるから。おいで”
そう言う中澤の手を振り切って、駆け出してきてしまった。
それは自分にとって、本当に正しかったのか?
差し伸べられた手に素直に答えた方が、良かったのではないだろうか。
──違う!そんなことない!
みんな、みんな私のこと殺そうとするに決まってるんだ。
今までだって、みんなは石川のことを軽蔑していた!
口では『梨華ちゃん可愛いね〜』『女の子らしいよね』なんて言うけれど、
裏ではこそこそ悪口言ったり、いじめだって…。
私のことを好きでいてくれる人なんていない。心から愛してくれる人なんていないんだ!
102 :
代打娘。 : 2001/03/11(日) 12:48 ID:iWU6E/ig
“あたしの今のマイブームはね、石川なんですよ”
──!
走馬燈のように駆けめぐっていた記憶の中で、石川はこの言葉を思い出した。
たまたま聴いていたラジオで、中澤が言った言葉だ。
“モーニング娘。の中で唯一女の子らしい子で……でもいっつも一言多いんですよ。
今日なんて挨拶したら、『あらあら、これは中澤の奥様〜』だって。なんや奥様って!”
独特の訛り口調で、楽しげに石川のことを話す中澤。
彼女のあの言葉に、裏があっただろうか?
裕ちゃんは嘘やお世辞が苦手。誰かがそんなことを言っていた気がする。
彼女は、本当に自分の身を案じてくれた人だったのではないか?
突如、激しい後悔の念が石川を襲う。
神様、石川は間違っていましたか?だからこうして、天罰が下ったのですか?
もう、戻れない。
今更、顔を合わせることなんて出来ない。
寂しくて、悲しくて、他人を信じられなかった自分が情けなくて、涙が出た。
涙が徐々に、嗚咽に変わる。
今まで必死に押さえていた感情が、無色透明な液体となって頬を濡らす。
103 :
代打娘。 : 2001/03/11(日) 12:51 ID:iWU6E/ig
両手で顔を覆って、泣いた。
だから、目の前まで近づいていた人影に、しばらく気付かなかった。
「……ちゃん。梨華ちゃん!」
自分の名が呼ばれていることに気付き、顔を上げる。
しゃがみ込んで、心配そうに石川を見つめるその少女は、加護亜依だった。
「大丈夫?梨華ちゃん。怪我してる……」
……亜依ちゃん?亜依ちゃんも私の心配をしてくれるの?
「安心してね。ウチが今すぐ、楽にしてあげるから」
──あぁ、神様、ありがとう。石川はバカでした。
こんなにも私を気遣ってくれる人が周りにいるのに、まるで気付かなかったなんて。
……楽にしてあげる……楽にしてあげる?
ラクニシテアゲル!!?
ザクッ…と、レモンを切るような音を聞いて、石川は自分の胸を見た。
胸元にはまるで身体の一部のように、ナイフの黒い柄が生えていた。
そこから広がるシミが、白い制服を赤く染め上げる。
上を見上げると、そこには血に塗れて、悪魔のような笑みを浮かべている一人の少女。
「あ、い、ちゃ……どう、して……」
石川は何かを言いかけて、口を開いたままゆっくりと倒れた。
「どう?楽になったやろ?…これでまた、うちの一人舞台が近づいたな」
そう言って、楽しげな笑みを浮かべる加護。
その冷酷な笑顔は、もはや若干13歳のそれとは思えなかった。
『残り8人』
104 :
名無し娘。 : 2001/03/13(火) 01:23 ID:7PczLkwg
加護。。。保全。
105 :
名無し娘。 : 2001/03/16(金) 05:01 ID:jFazJyGI
.
106 :
居酒屋ファン : 2001/03/16(金) 22:19 ID:L69BRbPI
恐い13歳。
107 :
名無し娘。 : 2001/03/19(月) 21:30 ID:4pqlOLzc
ほじぇん
108 :
お詫び。 : 2001/03/20(火) 02:09 ID:5NndzN7o
見てる人少なそうだけど一応・・・。
この先、既出の作品とキャラが著しくかぶります。
気分を害する方がいらっしゃったらスミマセヌ。
109 :
代打娘。 : 2001/03/20(火) 02:13 ID:5NndzN7o
道の両端に畑が並び、畑と畑の間には
農家の人々が住んでいたと思しき、古びた木の家がぽつぽつと立ち並ぶ。
何処の田舎町でも見かけそうな田園風景。
──ここ、地図で言うとどの辺になるんだろ?
と、手元の地図をちらちら見ながら歩く矢口を尻目に、
中澤はその内の一件の家に立ち、戸を開け、ろくに中の様子も見ずに入って行ってしまった。
「あっ、ちょっと待ってよ裕ちゃん!不用心だなぁ、まったく…」
ぶつぶつ文句を言いながら、矢口も後に続く。
中はさほど広くもなかった。
玄関を入ってすぐ、2階に続く階段があり、その横の廊下の、角を一つ曲がってまっすぐ行くと
台所と居間が続いている。
台所に付いている裏口と、居間から縁側に続く窓は、開け放されていた。
そのおかげで、やたらと風通しがよい。
5月の爽やかな風を全身に浴び、矢口は、ほっと一つ、息を吐いた。
やがて廊下から足音が響く。
「2階の方も見てきたけど、他に人はいないようやな」
「あっ、そう…、見てきてくれたんだ。ありがと」
不用心かと思いきや、案外しっかりしてるんだね。
「とりあえず、飯にしよか?裕ちゃんもうお腹ぺこぺこや」
居間の、畳の上にどかっと腰を下ろしながら、中澤が訊く。
その提案に賛成しそうになったが、矢口は考えを改めた。
「いや…おいらはいいよ。休んでられないし、もう行くよ」
後藤を捜したい、そう思ったからだ。
後藤のことは市井から任されている。
万が一、一度も会わぬうちに彼女に死なれたりしたら、市井に会わせる顔がない。
(いや…会わせる顔って言っても、あの世での再会は出来るだけ避けたいんだけどね)
生き残れる人間は一人だけ、そんなサバイバルゲームの最中だ、
うまい具合に見つかったところで、その後、どうなるかも分からない。
ただ、かつての親友と約束した以上、それを破ることは矢口自身が許せなかった。
110 :
代打娘。 : 2001/03/20(火) 02:16 ID:5NndzN7o
「捜し人でもいるんか?」
矢口の心を見透かしたように、中澤が問う。
「気持ちは分かるけどな、この広い島の中をいくら探し回ったって、
見つからんときは見つからんよ」
返事を聞かないまま、続ける。
「それより、出来るだけ一カ所に留まっていた方が、見つかる可能性が高くなる場合もあるやろ。
あんまり歩き回っても体力が減るやろし、やる気になっている人間に出会ったら最悪や。
その捜し人と天国でごたいめ〜ん、なんて洒落にもならんで。とりあえず、
ここは見通しもいいし、誰か通ればすぐ分かる。しばらくここで休憩しながら待ってみたらどうや?」
「…うん」
確かに正論だ。矢口はそう思い、はやる気持ちを抑えて、畳の上に座った。
中澤はといえば、自分のディパックから、パンやら水の入ったボトルやらを取り出している。
「あ、ねぇ、そういえば裕ちゃんの武器って何?」
最初に出会ってから今まで、中澤の武器を見ていなかったことに気付いた。
それを聞いた中澤は、決まり悪そうに首の後ろを掻きながら、再度ディパックを探る。
中澤が取り出したモノ、それは…
「えっ、と…これは…コントとかで見かける?」
「そうやなぁ」
ハリセンだった。
矢口が手に取って揺らしてみると、それはアコーディオンのごとく伸び縮みする。
その正面には、ご丁寧に白地に赤で『突っ込み専用』とか書いてある。
「どう思う?」
矢口からハリセンを受け取りながら、中澤が訊いた。
「…う〜ん……、裕ちゃんらしくて、いいんじゃない?」
スパアアァァァァァン──!
華麗なまでのハリセン捌きが決まった。
「いっづ〜〜!なぁにすんだよ、裕子!!」
「…ま、便利っちゃ便利やな」
111 :
代打娘。 : 2001/03/20(火) 02:21 ID:5NndzN7o
ハリセンって、こんなに痛かったっけ??
涙目になって頭頂部をさすりながら呟く。
しかし矢口は、その刺激によって、ようやく現実に目覚めたような気分を覚えた。
思えば、普段はとても見ることが出来ないような光景を、さんざん見てきた。つい先程まで。
まるで夢のような──というと、素敵な響きを帯びて意味がおかしくなりそうだが、
今までの一連の出来事が、とても実際にあったとは思えず、
頭のどこかが麻痺したような、まるで夢でも見ているような、そんな感覚に陥っていた。
そしてようやく麻痺から回復した頭に、ふっ、と疑問がよぎる。
分校を出るまでは確かにあったはずの疑問。しかし、非現実的な空間の中で忘れかけていた疑問。
寺田先生は答えをくれなかった。
だが、今、目の前にいる中澤なら、何か知っているのではないか?
根拠はないが、そんな期待が矢口にはあった。
「ねぇ、裕ちゃん」
「ん?なんや?」
「このゲームってさ──。」
────────────────────────
「…で、なんで明日香がここにいるのさ?なんで、最初から参加者に入っていなかったの?
助けに来たって、どういう意味?明日香は何か知っているの?」
矢継ぎ早に質問を繰り出す安倍に、福田は待った、というように手を突き出す。
「タイムタイム、そんなにいっぺんに言われちゃ答えようがないよ。
さて…、どこから話そうかな」
間を置くためにパンを一切れかじった後、明日香が口を開いた。
「私…このゲームのこと、ずいぶん前から知っているのよ。
このプログラムが企画されたときから…約2年くらい前からかな」
「え……」
「なんで?どうして知っているべさ?ねぇ!なんで明日香が!?」
安倍は身を乗り出し、福田の両肩を掴んで前後に揺さぶった。
福田の持っていた水ボトルも一緒になって前後に波を作る。
「ちょ、ちょっ、と、落ち着いて!」
安倍を落ち着かせるように、ゆっくりと肩に置かれた手を離すと、一呼吸置いて話し出した。
「私、以前にも一度、このプログラムに参加したことがあるの」
112 :
代打娘。 : 2001/03/20(火) 02:31 ID:5NndzN7o
「…!?」
「正確に言えば、このプログラムが実験段階のとき。いわば試作版ってとこかな。
2年前といえば大体その頃、…こんなこと言っちゃなっちが傷つくかもしれないけど、
私が抜けた後、一度モーニング娘。が落ち目の時期があったよね?
その時に娘。を生み出した番組『ASAYAN』のプロデューサーが考えたのよ。
娘。の7人が、バトルロイヤル形式の殺し合いをしたら、すごく面白いんじゃないか、ってね」
安倍は背中が凍り付く思いをした。
まさか?まさか2年も前に、こんなワケの分からないプログラムが発案されていたって?
「そこで実験的に、その企画を実行に移してみることになった。そこで呼び出されたのが、
ASAYAN出身で実らぬまま消えていった歌手グループ等から、無作為に選び出された数名。
…そして私も。丁度都合が良かったのね。元モーニング娘。ってことで」
「場所は、どこか閉鎖された廃工場の中。だましだまし連れてこられたから
正確にはよく分からなかったんだけど。
そこで、約3日分の食料と水、あと適当な武器だけ渡されて、その封鎖された空間に
私達は閉じこめられた。
殺し合いをしろ。最後の一人になるまで、この工場からは出さない。
それだけ、スピーカー越しに言われてね。」
信じられない事実を前に、安倍は黙って訊いていることしかできなかった。
福田はパンの一切れを口に放り込み、水で流し込んで、話を続ける。
「その時は、本当に実験段階らしく、こんな息苦しい首輪や、禁止エリアの存在なんて無かった。
もっとも、完全に締め切られていたから、脱走なんて無理だったんだけどね。
……ねぇ、こういうとき人間って、どうなると思う?」
「え?こういうときって…?」
「封鎖された空間。限りある食料と水。
どこから誰に狙われているか分からない、緊張感と恐怖。そして誰も信じられないという孤独。
精神的にも、身体的にも、まさに極限状態でのサバイバルゲーム。
こんなとき、人間ってどうなると思う?」
「こんなときって、つまり今みたいなときっしょ?そりゃあ……」
113 :
代打娘。 : 2001/03/20(火) 02:42 ID:5NndzN7o
人間の、本性が出るんや──
「人間の、本性…?」
矢口が、首を少し傾けながら訊き返す。
「そう、人間の本性っちゅーか、まぁ、そいつの本当の性格っちゅーか……そんなヤツかな。
限りある食料と水に、何処から狙われているか分からない緊張と恐怖、それに孤独。
そんな極限状態に立たされたとき、人間のとる行動は様々や」
「そやね、例えば…」
中澤はボトルの水を少し口に含んで、一拍置いた。
「恐怖や緊張に耐えられなくなって気が狂い、自殺する奴。
疑心暗鬼に陥って暗がりに隠れ、震えながら時間が過ぎるのを待つ奴。
自分が死ぬのが嫌で、出会った人間を闇雲に殺そうとする奴」
矢口は、なんとなく石川を思いだした。
梨華ちゃん、今頃どうしてるんだろ…。
「ハナからゲームに乗り気で、自ら動き、次々に参加者を血祭りに上げる奴も…いるんやろな、きっと。
…そして、誰も傷つけたくなくて、最後まで他人を信じようとする奴」
そう言いながら、中澤は矢口に視線を移し、小さく笑んだ。
「あたしもこのゲームのことはよく知らん。とりあえず考えつく限りの例を言ってみたんやけど…
つまり言いたいことは、そいつの性格によって、とる行動が一人一人違う。
逆に言えばそれで、そいつの本当の性格がよく判る。場合によっては参加者の人間関係までも、な。
…なぁ、そんな風に人間が本性丸出しにして殺し合う姿をTVで流したら、
めっちゃ面白い番組になると思わへん?」
突然なにを言い出すんだこの人は!?
矢口は眉をひそめて中澤を見た。
今の中澤の視線は遠く、畑の方に向けられている。
先程ボロボロに泣いた自分に比べ、化粧がほとんど崩れていないその横顔は
やけに美しいと矢口には思えた。
「それも国民的アイドル、モーニング娘。が、や。
これは最高のエンターテインメントになる。ドラマや他のバラエティ番組なんて目やないで。
テレビ史上最高の視聴率も夢やないな」
視線は畑に向けたまま、中澤がククッと楽しそうに笑う。
いや、それは皮肉を込めた笑いだったのかもしれない。
114 :
代打娘。 : 2001/03/20(火) 03:10 ID:5NndzN7o
──それが、このプログラムが行われる理由?
「まぁ、勝ち抜けばソロだ、なんておまけみたいなもんや。考えてみれば当たり前のことやね。
ゲームが終わる頃には、このグループ内で生きているのは一人だけなんやから」
「なんだよそれ……」
耐えきれず、矢口が口を挟んだ。
モヤモヤした怒りが、煮え立つような憤りが、心の中を渦巻く。
それに呼応するように、肩が小刻みに震える。
「何が、何がエンターテインメントだよ!こんなの、こんなの犯罪じゃない!」
思わず声が大きくなる。
「しっ!」中澤が人差し指を口元に当てるのを見て、言葉を切る。
「確かに、ヒトにこんな殺し合いをさせれば、犯罪になるかもしれん。
けどな、あたしら芸能人…特にアイドルは、ヒトとして見られてへん。モノや。
他人に使うだけ使われて、役に立たなくなったら捨てられる、ただの消耗品。
ヒトは殺せば殺人罪や。けど、モノはいくら壊したって、器物破損にしかならん」
抑揚のない声が、矢口を打ちのめす。
矢口は、中澤の方へ乗り出しかけていた身体を、すとんと畳の上に戻し、俯いて奥歯を噛み締めた。
握った拳から伝わる震えは、止まりそうにない。
枯れたはずの涙が、再び頬を伝い落ち、プリーツのついたスカートに染みを作る。
115 :
代打娘。 : 2001/03/20(火) 03:16 ID:5NndzN7o
「なんだよそれ、そんなのおかしいよ、狂ってるよ…!
じゃあさ、物は壊されて痛がったりする?仲間を壊されて悲しんだりする?
悲しくて涙を流したりするの?そんなの、狂ってるよ…!
紗耶香は…紗耶香は泣いていた。最期まで、ごっちんのことを心配して。
ただの消耗品に、そんなこと出来る…?そんな感情があるの?ねぇ…!」
押し殺した声だが、部屋の静けさのおかげで、隣にいる中澤にははっきりと伝わった。
中澤は黙っている。
彼女に当たったところで何もならない。それは矢口にも分かっていた。
しかし抑えきれない気持ちが、やりきれない思いが、言葉となり涙となって、止めどなく吐き出される。
「…おいらたちは…物なんかじゃない…!」
感情の高ぶりによって、声がうわずり、それ以上は言葉にならない。
そのまま泣き崩れた矢口を、中澤はそっと抱き寄せた。
可愛いなぁ…なんて、少し場違いな思いを抱きつつ。
「確かに狂ってるよ。けどな、芸能界っちゅーんはそんな狂った世界なんや。
あたしらはそんな狂った世界に足を踏み入れてしまった。それが運の尽きやったんやろなぁ」
嗚咽を繰り返す矢口の頭をそっと撫でながら、中澤もまた、悲しげに俯いた。
116 :
代打娘。 : 2001/03/20(火) 03:22 ID:5NndzN7o
「…そして、疑心暗鬼に陥った私達は、互いを憎み合い、殺し合った。
それは…まさに地獄のような光景だった」
一食分のパンの、最後の一切れを眺めながら、福田は淡々と語る。
黙って聴いている安倍の手元にあった食料は、もう随分と前に持ち主の胃へ収納されていた。
「実験は見事に成功したってワケ。各所に配置されていた隠しカメラには
ドラマじゃとても再現できないような、最高の画が記録されていたらしいわ。
結局最後は、私1人が残った。たくさんの屍の中で、私だけが生き残った」
「見て」と、福田は安倍の側に歩み寄り、自分の制服の袖をめくった。
「これ…!」
安倍は、絶句した。福田の左肩には、銃創の跡が一つ、生々しく刻まれていた。
「私は、幸いこれだけで済んだんだけどね。でも、ゲーム終了後にすぐ病院へ運び込まれ、
2週間くらい入院生活を送った。
…でさ、番組プロデューサーさん、なんて言ったと思う?
『入院費用は出してやる。ありがたく思え』だって。
さんざん人の命を弄んで、ありがたく思えだってさ…笑っちゃうよ、ホントに…」
そう言う福田の瞳の中で、僅かに光ったものは涙だったのだろうか。
「その後プログラムに改良が加えられ、1999年の秋、それが実行に移されるハズだった。
けど、そんな時にあの『LOVEマシーン』が爆発的にヒットし、モーニング娘。は、一躍
国民的スターになった。このグループはまだまだ使える。今、消してしまうには惜しい。
そう思って事務所が止めたんでしょうね。結局その企画は中止。
こんな人権無視のゲームは、完全に企画倒れとなった…って、思ってた」
「でも、2年経った今、こうして復活してしまった、ってコト?」
安倍が言葉を繋ぐ。
「そういうこと。今の時期が最適って思ったんでしょうね。やや下り坂とはいえ、人気絶頂と言える今が」
福田がさらりと返す。
「私は以前に参加していたから、今回は免除になったんだけど…
へへ、和田さんに言ってうまく潜り込ませてもらっちゃった」
117 :
代打娘。 : 2001/03/20(火) 03:26 ID:5NndzN7o
「…どうして?」
長い間の後、おもむろに安倍が口を開く。
「どうしてまた戻って来ちゃったの?せっかく生きて帰れたのに、どうしてこんな
危険な所に戻って来ちゃったのさ?」
「言ったじゃない」
福田はもう一度、今度はゆっくりと、子供に言い聞かせるような口調で、
「なっちや、みんなを、助けに来たのよ」と言った。
福田と安倍の視線がぶつかる。
優しい福田の瞳、しかしそこには確かな悲壮感が漂っていた。
「私だって、もう二度とあんな地獄は見たくないって思ってた。でもね、それ以上に
かつての友人が殺し合いをさせられると知って、黙って見過ごすことが出来なかった。
今回のプログラムは、私達の時とは違う。モーニング娘。というグループと、その肉親や関係者。
つまり、ほとんど気の知れた人間同士で行われている。
この上なく残酷な話だけど、考えようによってはチャンスだと思わない?」
「どういうこと?」
安倍が首を傾げる。
「仕事上の関係だけとはいえ、誰が気の知れた仲間と殺し合いたいと思う?
きっと、みんな木陰や家屋に身を潜めながら、番組関係者に怒りや反発心を抱いている
…少なくとも私の知っている人達は、そうなんじゃないかと思うんだ。
とにかく、見知った相手なら、会話の余地だってある。だから、彼らを説得して、
出来る限り、多くの人を集め、反乱を起こす」
言葉を選ぶように、ゆっくりと、答える。
その声は、心なしか徐々に、低くなっていった。
最後のフレーズでを聞いたとき、安倍が狼狽の表情を見せた。
「そんな、危険だよ!だってもう何人も殺されているし、なっちだって狙われたんだよ?
説得したって、きっとだれも信じてくれない。下手したら殺されちゃうかも知れないんだよ!?」
「大丈夫だって。あくまで『出来る限り』でいいし、もしものときは…、
私だって銃器の扱いには慣れている。前回優勝者の名は伊達じゃないよ。それに、」
118 :
代打娘。 : 2001/03/20(火) 03:31 ID:5NndzN7o
安倍の両手を、包むように握りしめる。
「現に、なっちは私を信じてくれたじゃない。そう思うのは、私の自惚れかな?」
「あ…!」
気付かなかった。先程まで、周りは敵しかいないと信じて疑わなかったはずなのに、
いつの間にか、福田を信頼している自分がいたことに。
今、目の前で笑顔を見せている福田は、あの頃と変わらず大人びていて、とても頼もしく思えて…。
その雰囲気は、余計な疑念など消し去るほどの、何か強い説得力を持っていた。
ようやく気付いた。福田に会えて、大きな安心感を得ている自分がいたことに。
そっか…、明日香は、命懸けで私達を助けに来てくれたんだね。
それに比べて…私は…なっちは……
ただ、怯えるだけだった。ただ、震えながら時間が過ぎるのを待っていただけだった。
ホントに…情けないよね……ゴメンね、明日香…。
「…なっち、泣いているの?私、何か気に障ること言っちゃった?」
「うぅん、違うの…なんでもない…なんでもないから……」
──駄目だね、こんなんじゃ、どっちが年上だか判らないよ。
そう思いながらも、安倍は流れる涙を止められずにいた。
グスッと鼻をすする。
ふいに、暖かい温もりが安倍を包む。
福田が抱き締めてくれている。顔を上げなくてもそれが分かった。
「…さ。泣いている暇はないよ。そろそろ行こう」
その声と共に、安倍を包んでいた温もりが離れる。
「取り敢えずは、仲間を集めないとね。全てはそれからよ」
「でも、どこにいるかなんて分かるの?こんな広い島の中で…」
涙に濡れた顔を上げて、安倍が訊く。
その問いに、福田はウィンクだけで答えた。
『残り8人』
119 :
代打娘。 : 2001/03/22(木) 00:53 ID:lEa/5h9k
のどかな田園風景。
今から見渡せるその景色の中で、動いている物と言えば、風で流れる雲ぐらいしかなかった。
矢口は、特に何処を見るわけでもなく、その景色を漠然と眺めている。
その顔には、涙の乾いた跡があった。
カチャッ、と、後ろでドアが閉まるような音が聞こえた。
「どや?捜し人は現れそうか?」
裏口を見てきたらしい中澤が問う。矢口は、黙って首を横に振った。
「ふむ…、まぁ、真っ昼間にこんな見通しの良いところ通る奴も、なかなかおらんよなぁ」
返事がない。
矢口は、黙ったまま膝を抱え込み、遠くを見つめている。
普段、TVの前でなくても基本的にテンションの高い矢口だが、時には元気の無いこともある。
しかし、ここまで塞ぎ込んでいるところを見るのは、中澤も初めてだった。
まぁ、しゃあないか。既に同期が二人とも死んでるんやもんなぁ…。
あんな話をしたのは、やっぱりまずかったかな?
「玄関の方見てくるで」とだけ声を掛け、中澤はいつでも動けるよう、武器とディパックを担いで
その場を離れた。
結局、スコーピオンは矢口には扱いづらいということで、中澤が持つことになった。
ついでにディパックの中には、斧と……ハリセンも。
矢口の手には石川が置いていったベレッタが渡っている。
「いつ誰が襲ってくるか分からん。荷物の整理だけはしといてや」
廊下の辺りでもう一度声を掛ける。
「…うん、ありがと」
随分と間を開けてから返ってきた、矢口の返事を聞き、中澤は安心したように微笑みを浮かべた。
120 :
代打娘。 : 2001/03/22(木) 00:56 ID:lEa/5h9k
玄関の戸をほんの少しだけ開け、左右に目を走らせてみる。
ふと、何かが中澤の目に留まった。
人が、徐々に近づいてくる。比較的身長が高いことが、遠目に見て分かる。
──あそこなら、矢口の方からでも見えるんちゃうか?
「や〜ぐち〜。そっちから人が見えへんか?あれ、矢口の捜し人ちゃう?」
その声に、矢口はハッと顔を上げ、縁側に駆け寄る。
「…あぁ、違うよ。ヤグチが捜しているのはよっすぃーじゃなくて───!?」
瞬間、カッ、と閃光が辺りを白く照らし、地面を揺らすような爆音が轟いた。
驚いた矢口は、引っ込めかけた頭を再び縁側に突き出して外をのぞき見る。
そしてその音源が分かった。
吉澤ひとみが畑の間の一本道を、こちらに向かって走ってくる。
その後を追うように、農家の家屋が次々に爆破されていたのだ。
「矢口、逃げるで!」
訳も分からぬまま、中澤に後ろ襟を掴まれ、引っ張られる。
「え?なんで?だってよっすぃーが…」
端から見れば、まるで吉澤が誰かに狙われている…ように、見えなくもないが──
「何言うてんの!この爆発はあいつの仕業や!モタモタしてるとここもやられるで!」
裏口から出て、障害物の多い方向へと走り出す。
すぐ後ろで起きた爆発、その風圧で二人は吹き飛ばされそうになる。
振り返ると、矢口達が先程まで休息していた家は、無惨に半分ほど吹き飛び、赤々と燃え盛っていた。
「なんなんやあいつは!!」
121 :
代打娘。 : 2001/03/22(木) 01:02 ID:lEa/5h9k
なんで?なんでよっすぃーが!?
もう、何も分からない。とにかくがむしゃらに走るしかなかった。
やがて、ぱららららら、と、ミシンのような音が耳に届く。
同時に、すぐ後ろで土煙や、こそげ落とされた木の皮が宙に舞う。
──ちっ、気付かれたか!
中澤は、ディパックを一度背負い直すと、スコーピオンを構えて後ろに向き直った。
「裕ちゃん!?」
「大丈夫や、矢口は全力で走れ!」
言いながら、矢口と吉澤を結ぶ直線上の間に立ち、スコーピオンを乱射して牽制する。
中澤が撃つ度に、吉澤と思しき人影は、すぃっと木の陰に引っ込む。
そこからマシンガンの銃口だけ覗かせ、撃つ。
銃声が止むと、その俊足を活かして中澤達との距離を詰めていく。
吉澤の行動には、無駄がなかった。
あかん、体力的にも向こうが上や。このままやと確実に追いつめられる──!
矢口の後ろを走りながら、中澤は焦りを感じていた。
この状況下で、中澤達に一発も銃弾が当たっていないのは奇跡と言えた。
122 :
代打娘。 : 2001/03/22(木) 01:07 ID:lEa/5h9k
「あぁぁぁぁ、駄目だ裕ちゃん!こっちは禁止エリア!」
前を走っていた矢口が唐突に声をあげた。
その手には、いつの間に取り出したのか、一枚の地図が広げられている。
「なんやてぇ!よし、左に曲がるで!」
「そっちは崖だよ!右に行こう!」
身体を左に傾けかけていた中澤は、見事に体勢を崩した。
「何やそれ!」
情けない声を出しながらも、中澤は心の中でほくそ笑んでいた。
やっぱり、矢口をパートナーに選んだのは正解やったな。
普通こんな状況なら、混乱して闇雲に走るのがやっとやろ。けどこいつはしっかり、
地図で逃走経路を確認してる。さすが、あたしの見込んだ次期リーダーや……。
──あれ?
地図を見ていた矢口の足元から、ふいに地面が消失した。
自分の意志と無関係に、その小さい身体はあらぬ方向へ移動する。
いや、落下、というべきか。
「あ、あ、あああぁぁぁぁぁぁぁぁあああ〜〜〜〜〜〜〜!?」
実に間延びした声をあげながら、矢口は突然現れた狭い石段を
野球選手よろしくスライディングしながら降りて──もとい、落ちていった。
……あかん、前言撤回、ミスキャストや──。
矢口の後を追って石段を駆け下りながら、中澤は頭を抱えた。
無論、実際にそんなことをしている猶予はないので、心の中でだけ。
石段を下りた先、そこは神社の境内だった。
このまま鬼ごっこを続けても、いつかは追いつかれてハチの巣にされてまう。
そう考えた中澤は、黒目を上下させてノビている矢口を引きずって、鳥居の陰に隠れた。
先程、吉澤がしていたように、銃口を鳥居の陰から石段の上へ覗かせ、狙撃準備を整える。
中澤がそうしている頃、矢口は朦朧とした意識のまま、あさっての方向を見ていた。
「圭ちゃん、そんなとこ登ってたら危ない……」
「アホ、あれは狛犬や」
123 :
代打娘。 : 2001/03/22(木) 01:12 ID:lEa/5h9k
数十秒とも、数時間とも思えるような時間が過ぎた。
「変やな…」
吉澤はいっこうに現れない。
石段の上はおろか、その周辺にも。中澤の視界の中に人らしき姿がまるで入らない。
「裕ちゃん…」
いつの間にか正常な思考を取り戻したらしい矢口も、不安げな声で囁く。
「矢口、周り見ててくれる?ちょっと、行って来るわ」
「え、ちょっ、あぶな…」
返事もまともに聞かず、中澤はスコーピオンだけを手にして腰を上げる。
少しの間、上の様子を窺ったかと思うと、大胆にも石段を上って行ってしまった。
わっ、嘘!?裕ちゃんそれは危険すぎ…!!
周りを見ていろ、と言われても、矢口は中澤の行動を見守るのに精一杯でそんな余裕など無かった。
そして中澤が矢口の視界から消える。
銃声等は聞こえない。
再び視界に中澤の影。矢口が予想していた最悪の事態は、起こっていないようだ。
石段の上から手を振って、こちらへ来るよう促している。
矢口はそれに従った。
124 :
代打娘。 : 2001/03/22(木) 01:15 ID:lEa/5h9k
「いなくなったみたいや。あたしら追うの諦めたんかな?」
腕組みをする中澤の横で、矢口が膝に手をつき、息を切らせている。
二人分の荷物を背負って石段を上ったせいだろう。
「でも…なんで…?追いつこうと…思えば……出来たんじゃないの……?」
途切れがちな矢口の言葉に、肩をすくめてみせる。
もちろん、それは中澤にも分からない。ただ…、
「深追いは危ないって、思ったんかな。ひょっとしたらあたしら油断させて待ち伏せているのかもな。
もしくは…」
もう一つ思い当たることがあった。
走っている最中、中澤は、どこかでガラスの割れるような音を聞いた。
それが吉澤からも聞こえていたとしたら──。
「…そう、あたしらの他に、誰かもっと手頃な獲物を見つけたのかもしれん」
「獲物?」
消耗品の次は、獲物扱いですか?
矢口は軽い脱力感を覚え、苛立ちの余り、中澤にそう当たりそうになった。
…違う。裕ちゃんが悪いわけじゃない。裕ちゃんがそう思っているわけじゃないんだ…。
首を小さく横に振り、自分の考えを正す。
「何はともあれ、今、直接来た道を戻るのは危なそうやな。少し迂回しながら様子を見るか」
矢口の心の動きに気付いているのかいないのか、中澤がそう付け足して動き出した。
125 :
代打娘。 : 2001/03/22(木) 01:18 ID:lEa/5h9k
出会ってからずっと、行動に関する主導権は中澤にあったが、
矢口にとってはそれが苦痛ではなかった。
むしろ、自分を引っ張ってくれるリーダーが戻ってきたようで、
居心地が良いとさえ感じていた。
やっぱり、裕ちゃんを疑うのはお門違いだよね…。
何をどう疑うのか、矢口にも分からなかったが、ここに来てからの中澤の態度、
その落ち着きすぎている振る舞いは、妙に矢口の心に引っかかっていた。
メディア上では『弱肉強食』を座右の銘としている彼女だが、本来は繊細な心の持ち主だったはずだ。
けど──。もう、考えるのはよそう。
裕ちゃんがここにいる。ヤグチを助けてくれている。それで、十分じゃん。
矢口は、そう結論づけた。
去り際、中澤がやけに名残惜しそうに、先程駆けて来た道を眺めている。
そんなに、あの家が気に入っていたのかな。
矢口はその態度が少し気になったが、あまり深く考えないことにした。
『残り8人』
126 :
名無し娘。 : 2001/03/22(木) 03:31 ID:ViGgpsUk
おもしろいす。悪よっすぃーってめずらしいよね?
期待してます。
127 :
名無しです。 : 2001/03/24(土) 11:05 ID:qdjobgCI
中澤さんが頼もしく見える。
128 :
名無し娘。 : 2001/03/29(木) 02:35 ID:140X4XWk
ほじぇん
129 :
代打娘。 : 2001/03/30(金) 06:10 ID:XyxaPGOk
所詮バトロワはバトロワか…。
申し訳ない。もう書くの止めます。
元の作者さん、好き勝手やってすみませんでした。
130 :
名無し娘。 : 2001/03/30(金) 09:10 ID:XMDTBxNo
ええ!続けて下さいよ。
楽しみにしてたのに…
131 :
名無し娘。 : 2001/03/31(土) 02:55 ID:zu8AXKVc
そんなぁ。おもしろくなってきたのに・・・
続き読みたいです・・・代打娘。 さんがんばって。
132 :
名無しです。 : 2001/03/31(土) 08:40 ID:Sd94V7nE
ネタが苦しくなったのなら、ゆっくり待ってますので、気長に行きましょう。
何人ぐらい読んでいるのでしょうか。
133 :
名無し娘。 : 2001/04/01(日) 01:16 ID:anr2dylE
続けて欲しいなあ。また、放置されたくないよう。
>>132 読んでいる人、結構いるんじゃない?
134 :
名無し娘。 : 2001/04/01(日) 05:09 ID:QxTFefD6
ここにもいるでぇ〜。
やめるなんていわへんと、つづけてえな〜。
135 :
名無し娘。 : 2001/04/03(火) 00:17 ID:72K.1y6U
続けて欲しいのでhozen
136 :
!!? : 2001/04/03(火) 02:10 ID:r3Yo8bBo
・・・・・予想外の反響が(汗汗汗汗
ネタ切れ…と言うより、『流行り物』を扱っている引け目とか、
小説関連スレで見かける「バトロワはもう…」という発言に肩身の狭い思いをしていたので
それが原因だったのですが、読んでくださっている方に失礼でしたね。
出来るだけ近いうちに再会します。交信は相変わらずゆっくりですが。
137 :
代打娘。 : 2001/04/03(火) 06:07 ID:r3Yo8bBo
( ゜皿 ゜)<再会→再開 交信→更新
アホナ作者デ ゴメンネ。
138 :
代打娘。 : 2001/04/03(火) 06:13 ID:r3Yo8bBo
一体、どれだけ歩いただろうか。もはや、時間の感覚さえ掴めなくなっている。
疲労を通り越して、足の感覚は、もうほとんど無い。
だが、それでも飯田圭織は、歩くことをやめなかった。
数時間前の放送で、辻が死んだことは知っていた。
それでも捜し続けた。分校の周りに生い茂る林の中を、茂みの一つ一つまで、しらみつぶしに。
そして……。
──やっと、見つけた。こんな所にいたんだね…。
飯田の予想通り、辻は分校からさほど遠くない林の中、
岩が削れて出来たような洞穴の中にいた。
ごめんね。一人で、寂しかったよね。辛かったよね。
…でも、もう大丈夫だよ。
カオがずっと、側にいてあげるからね。
変わり果てた辻の姿を見ても、落ち着いた気持ちでいられたのは、
朝の放送を聞き、ある程度、自分の中で覚悟を決めていたからだろう。
しかし実感は湧かなかった。
放送を聞いたときも、実際に辻と対面してみても。
イタズラ好きだった辻は、近づいたら突然顔を上げて、自分を驚かすのではないか。
そしてにぃっと八重歯を見せてこう言うのだ。“いいらさ〜ん、びっくりしましたかぁ?”
飯田は、そんな錯覚さえ起こしていた。
「ほら、そんな所で寝てたら風邪引くでしょ?ちゃんと起きて…」
しかし、辻の身体を抱き上げ、いくら呼びかけても、目を開ける気配はない。
「顔、こんなに汚れちゃってるじゃん。今、拭いてあげるから」
自分の荷物から水ボトルとタオルを取り出し、血と泥にまみれた辻の顔を丹念に拭ってやる。
──ほら、綺麗になったよ?
もはや青白さを通り越して土気色に変色してしまった辻の顔には、
生前のような温もりはなく、マネキンのように硬く、冷たくなっていた。
139 :
代打娘。 : 2001/04/03(火) 06:16 ID:r3Yo8bBo
もう、いい加減起きなよ。そうやって、カオが困っているところ見て、楽しんでるんでしょ?
いきなり目開けて、大きな声出したりしても、カオは驚いてあげないんだからね。
顔だけではない。身体の方もほとんど硬直してしまっている。
脅かしているわけでも何でもない。本当に、辻はこの世の人間ではなくなった。
飯田も、分かっていた。いや、最初から分かっていたのだ。
…そりゃ、分かるよ。カオだって、馬鹿じゃないんだよ。
だが、信じたくなかった。
妹のように可愛がってきた少女が死んだ。それも、誰かの手によって。
しかもその誰か、とは、つい2,3日前まで一緒に仕事をしてきた仲間かもしれないということを。
──分かってる。辻が殺された理由も、このゲームがどういうものかも。
だから止めようと思った。止めようと思って、つんくさんに抗議した。でもダメだった。
そして、みんなが殺し合いをする。みんなが死んでいく…。
事実を受け入れた瞬間、どうしようもない悲しみが、高波のように押し寄せてくる。
気を抜けば、大声を上げて泣き出しそうになる。
飯田は、物言わぬ少女の身体を抱き締めながら、それに堪えた。
140 :
代打娘。 : 2001/04/03(火) 06:18 ID:r3Yo8bBo
地面が揺れたような気がして、ふと顔を上げる。
気のせいか、と思おうとした瞬間、もう一度。
地面の奥から、響いてくるような音。それと共に、飯田は足元に揺れを感じた。
次に、ぱらららら、というミシンのような音。
何が起きているのか。考えるまでもない。
戦争だ。
小さな島で起きている、小さな戦争。誰かが誰かを殺そうとしている。
何のための戦争?決まっている。
木漏れ日が何かに反射して、飯田の目に入った。
飯田は目を細めて、木の上で光るその“何か”を見つめる。
正体は、意外と簡単に分かった。カメラだ。いわゆる防犯カメラのような、小さいカメラ。
外見はそうであるが、おそらく普通の小型カメラより、もっと高性能な物だろう。
でなければ、……鮮明に映せなければ、番組にならない。
番組でネタにするための、そのためだけの戦争なんだよね。
飯田はおもむろに立ち上がり、小型カメラの周りを巡ってみる。
何処から見ても、飯田からはカメラのレンズしか見えない。
追っているのだ。飯田の動きを。
多分、首輪か何かにセンサーでも付いているのだろう。
カメラはそれに反応して、参加者の行動を追い続け、その様子を記録しているのだ。
もちろん、殺し合いの瞬間も。
そう認識した瞬間、飯田の心に、黒い感情が沸き上がってきた。
141 :
代打娘。 : 2001/04/03(火) 06:26 ID:r3Yo8bBo
あのカメラは、誰かが辻を殺す瞬間を、撮っていた。
あのカメラは、辻が苦しむ様子を、撮っていた。
あのカメラは、辻が動かなくなる瞬間を、撮っていた。
そして分校の人達は、それを見て笑っているんだ……!!
飯田は手近な所にあった石を掴み、自分にレンズを向けているその物体へ、投げ付けた。
石は、ずれることなく一直線にレンズを貫き、
その勢いで小型カメラは、バランスを崩して地面に落下した。
ガシャン!と、派手な音を立てて砕け散る。
飯田の怒りはそんなもので収まるはずもなく…、
バラバラになった破片を、何度も靴で踏み潰した。
何度も、何度も。
破片が粉々になり、足元に手応えを感じなくなった頃、
飯田には、むなしさだけが残った。
「そうだ、辻。海、見に行こっか?」
辻を背負い、ディパックとボウガンを手に提げて、飯田はそこを発った。
血の抜けた人間の身体は、やけに軽くなることを知り、余計に悲しくなった。
──カオがずっと、側にいてあげるからね。
142 :
代打娘。 : 2001/04/03(火) 06:29 ID:r3Yo8bBo
その様子を眺めている一人の影。
吉澤ひとみは、木の陰に身を潜め、鋭い視線を飯田に送っていた。
迂闊な……。飯田さん、後ろが無防備ですよ。
飯田の背中──辻を背負っているので、正確には辻の背中だが──に、照準を合わせ、
マシンガンの引き金に手をかける。
この距離なら、間違いなく致命傷を与えられるだろう。
背負っている物が甲羅でもない限りは。
…数秒の間の後、吉澤は息を吐いて、マシンガンを下ろした。
殺すことは、簡単だ。
けど、このまま様子を見るのも悪くはない。
飯田さんなら何か、面白いことをしでかしてくれそうだ。それに───。
目の前まで垂れ下がった前髪を、一度掻き上げて、再び視線を飯田の方にやった。
飯田の後ろ姿は、もう随分と遠ざかって、小さくなっている。
気配を殺しながら、その後を追う。
その顔には、相変わらず崩れることのない冷笑が張り付いていた。
143 :
名無し娘。 : 2001/04/03(火) 13:04 ID:1bJLhc2c
わーい!再開だ!
飯田、吉澤が動きだしましたね。楽しみにしてます。
「バトロワはもう…」ですが、たしかに流行り物だし他にもたくさんあるけど
おもしろければいいと思いますよ。
ここおもしろいし、気にせず書いてって欲しいなぁ。と思います。
144 :
名無し娘。 : 2001/04/03(火) 14:36 ID:q1VXcaTc
復活おめでとうsage
145 :
代打娘。 : 2001/04/05(木) 02:13 ID:OgK9XJPY
レス下さった方々、ありがとうございます。
お騒がせしてすみませんでした。
この御礼は完結をもって…面白いかどうか保証できませんけどね。
146 :
代打娘。 : 2001/04/05(木) 02:24 ID:OgK9XJPY
「もう、外はこんなに明るかったんだねー」
島の東の小さな港。飯田と辻は、そこに訪れていた。
今まで飯田は、薄暗い林の中に居たため気付かなかったが、
初夏の太陽は既に昇りきり、空高くから島全体を照らしていた。
「あーあ。もう少し早く来ていれば朝日を拝めたかもしれないのになー」
しかし、日の出の情景ほどではないにしろ、
船影のような障害物のない海の波面に、日光が反射して煌めく様は、
陰惨な光景を目にした後の飯田にとっては、充分に美しく見えた。
海岸沿いを歩いていて、ふと、前方の海辺に黒い物体が転がっている様子を確認した。
何だろ、アレ?
その物体がはっきり見える位置まで近づいても、しばらくそれが何なのか分からなかった。
コンクリートで舗装された地面に、無造作にぶちまけられた黒いペンキ。
その中心には茶色い足みたいな形の…えっ?足?
あはは、スカート穿いてる……人の足??。。。。。。!「×◎!△★%$○?◆&〜〜〜〜〜〜!!?」
それが何なのかようやく飲み込めたとき、
飯田は声にならない悲鳴を上げて10mほど早足で後ずさり、バランスを崩してひっくり返った。
自然、辻が下敷きとなるのだがそんなことに構っていられる精神状態のはずはない。
それは確かに人“だったモノ”の足だった。
スカートも、飯田のそれと同じような、ひだの付いた紺色のスカートを穿いていた。
ただ…腰から上は、もはや原形を留めていない。
直視できずに、海の方へ顔を背ける。
と、またもや同じような物体の影を発見してしまう。
波に揺られて浮かんでいるそれは……ズボンを穿いている。
何故だか分からないが、遠目に見てもそれだけは、はっきり判断できた。
その付近で、同じリズムで揺れているのは…小舟か何かか。
147 :
代打娘。 : 2001/04/05(木) 02:33 ID:OgK9XJPY
なんで?ナンデ?────何これ??
普段の半分も働かない思考で、飯田は交信を始める。
もとい、ここで起きたと思われる出来事を解釈しようとする。
さっきの、地響きみたいな爆発音?
違う、だってあれは別の方向から聞こえた。
じゃあ何?もっと前? 何が起こったらこうなったワケ?
混乱を抑えつつ、どうにか手繰り寄せた記憶の中に、思い当たるフシを見つけた。
それは声。死者の名を告げる忌々しい声。
“あとな、脱走を企てた人間が2人いた。
そいつらは首輪が作動し、爆発して死んだ。…まぁ、自業自得やな。”
思い、出した。あの時、言っていた、2人。
その2人とは誰なのか。今の飯田にそこまで考える気力はなかった。
ただリフレインする、寺田の声。
首輪が爆発して死んだ首輪が爆発して死んだ首輪が爆発して死んだ首輪が爆発し
首首首首輪が首輪が首輪が首輪が爆爆爆爆爆爆発爆発爆発発発発
まぁ自業自得やな。自業自得やな。自業自得やな。
自業自得自業自得自業自得自業自得自業自得自業自得自業自得自業自………
そのとき、飯田の中で何かが壊れた。
148 :
代打娘。 : 2001/04/05(木) 02:42 ID:OgK9XJPY
「はっ…はは……あはははははは!」
自業自得ダァ?笑ワセンジャネェヨ。
全部テメェラガ仕込ンダコトダローガ。
…絶対許サナイ。分校ノ奴ラモ、辻殺シタ奴モ……絶対許サナイ!!!!
崩壊しかけた自我を保つ唯一の手段。
それは、憎悪という黒い感情に、自ら支配されること。
こうして飯田圭織は、復讐の鬼と化した。
『残り8人』
149 :
代打娘。 : 2001/04/05(木) 02:55 ID:OgK9XJPY
「あ〜疲れた〜眠い〜お風呂に入りた〜い〜〜」
小声で、歌うように愚痴る少女、加護亜依である。
状況にそぐわない呑気な声で呟きながら、加護は次のターゲットを捜していた。
疲れた、とは言っても、ゲーム開始からまだ12時間も経っていない。
慣れない夜に活動していたとはいえ、メンバー最年少の加護のスタミナはまだ切れることはなさそうだ。
「あー、そういえば、『労働基準法』っちゅーんには、引っかからへんのかな?」
加護がこれだけ余裕を持っていられるのも、それだけこのゲームに勝ち残る自信があったからだろう。
子供であること。それは今現在に於いて、彼女だけが持つことを許された武器。
普段はそう扱われる事が鬱陶しいと感じる加護だったが、今回ばかりは都合がよかった。
(何がうっとうしいって、ののといつもワンセットにされるんが一番イヤなんやけどな…)
そして、自分の演技にも確固たる自信を持っている。
自分が怯えて泣きじゃくってみせれば、大抵の人間は心を許してしまうハズだ。
そう思い、分校を出る際にも皆の前で、軽く“演技”を披露して見せた。つかみはオッケー。
当たり前やっ。ウチは深キョンの泣き顔だって真似できるんやで?
ただ泣くだけなんて楽勝や!これからのソロ歌手は、芸の一つもできんとダメなんや!
ソロ歌手…その甘美な響きに、加護は胸を躍らせた。
自分一人だけで、ステージに上がれる。観客の注目を浴びられる。
そう思うだけで、疲労や眠気など吹き飛ばすことができた。
ふと、足を止めて、耳を澄ます。
遠くから、誰かの足音が聞こえる。靴の裏と土が擦れ合う音。
加護は慌てて近くの茂みに身を隠し、葉と葉の隙間から目だけを覗かせる。
足音の重なり合って奏でるハーモニーは、相手が一人じゃないことを加護に気付かせた。
やがて一人の人影が現れる。その小柄な人物は、加護のよく知っている人間だった。
そしてその後ろにもう一人。
──二人かぁ…。大丈夫かな。ま、何とかなるかっ。
生来の楽天的な考えを持って、加護はターゲットを定めた。
150 :
名無し娘。 : 2001/04/05(木) 03:01 ID:HQDftxJ.
更新中にかぶっちゃたらスマソ
最後の、そして最強のバトルロワイヤル in 娘。
楽しみにしてますよ。がんばってねー
151 :
代打娘。 : 2001/04/08(日) 03:51 ID:ia1X4jKg
>>146-147
( ´ Д `)<なぁんか、改行が変になってるねぇ。読みにくい?あは、ごめんね〜。
でも書き直すともっと読みにくくなりそうだからさぁ、このまま行くね〜。
( ゜皿 ゜)<デモ、カオリノ混乱ブリガ良ク分カルデショ?
152 :
代打娘。 : 2001/04/08(日) 03:58 ID:ia1X4jKg
「やれやれ、こりゃひどいな…」
半壊した家屋から、福田明日香がひょっこりと顔を出す。
そこから見渡せる限りの家々は全て、ダイナマイトのような物で破壊されていた。
福田と安倍は、それらの民家の一つ一つを調べて回っていた。
正確に言えば、今のところ動いているのは福田だけなのだが…。
「なっち、大丈夫?」
福田の問い掛けに、青ざめた顔でコクコクと頷く。
安倍は、崩れた瓦礫の上に座り込んでいた。
「まぁ、仕方ないよね。初めて見る死体があれじゃ…」
言いながら、福田も安倍の隣に腰を下ろす。
その言葉で、安倍は先程見た光景を思い出し、再び吐き気を催した。
「梨華ちゃん…」
その名を、呟いてみる。
ほんの半日前、自分を殺そうとした人物。自分を恐怖に陥れた人物。
安倍と福田が発見したのは、その石川梨華の死体だった。
おそらく心臓をひと突きにされた、血塗れの死体。
忘れたくても、それは脳裏に焼き付き、当分離れてくれそうになかった。
「なんで…」
消え入りそうな安倍の声に、福田が反応して振り向く。
「何?」
「なんで明日香は、そんなに…普通でいられるの?」
「えっ?そりゃあ…」
もう見慣れたから。そう答えようとして、口をつぐんだ。
さすがに、そんな言い方は少し無神経だろう。他に答えようもないが。
少しの沈黙の後、福田が腰を上げた。
「向こうの家も見てくるね」
とだけ言い残して歩き出そうとした福田の手が、後ろに引っ張られた。
驚いて振り返ると、安倍が訴えるような目で、福田の右手を掴んでいる。
「どうか、したの?」
「やっぱり…無茶だよ。こんな時に仲間を探し出そうだなんて。だって…」
153 :
代打娘。 : 2001/04/08(日) 04:05 ID:ia1X4jKg
だって、なっちを殺そうとした梨華ちゃんは、あそこで殺されていた。
例え梨華ちゃんを殺した人と、この爆弾魔が同一人物だとしても、確実に一人は殺人鬼がいることになる。
もし、その人が、なっち達の知っている人だったら?仲間のフリして近づいてきたら?
安倍は、漠然と持っていた不安を福田にぶちまけた。
「大丈夫よ。これだけ派手なことをする奴なら、下手な小細工はしてこないわ。
多分だけど、カモは見つけ次第に殺すってタイプだと思う。
もしそんな奴と出会ったときは…、あたしがなっちを守るから。安心して」
心強い答えに、安倍は弱々しくも笑みを見せて頷いた。
だが、そう言う福田にも心に引っかかる不安材料はあった。
確かにこの爆弾魔は、そういうタイプだと判断できる。
しかし、この辺りから聞こえた凄まじい爆発音。その後には、微かながら
二つの種類の銃声が聞こえた。撃ち合いが行われていたと思われる、二つの銃声が。
おそらくその内の一方は、家を爆破させていた奴によるものだと考えていいだろう。
だが、石川梨華は刺し殺されていた。鋭利な刃物か何かで。
もし、あの爆弾魔がやったとしたら、何故わざわざ刃物を使ったのか?
彼女があまりにも無防備だったから、弾丸の節約のため?
それとも、その銃器は彼女から奪った戦利品?
そうでなければ…、殺人鬼は最低でも二人はいる、ということ?
もしそうだと仮定すると、なっちが言うような場合もあるというわけだ。
私達の知っている人間が、ナイフを隠し、仲間のフリして近づいてきて…
「あとね、もう一つ聞きたいことがあるんだ」
安倍の声で、福田の思考は中断された。
「ずっと気になってたんだけど…人を集めて、どうやって、その…反乱を起こすの?」
その言葉で僅かに動揺を見せた福田を見て、安倍はますます不安げに眉を寄せ、睨むように福田を見る。
刺すような視線と、強く握られた右手が痛い。
「それは、まだ言えない」
「なんでだべ!なっちが信用できないの!?」
キッパリと言い放つ福田に対し、つい声を荒げてしまう。
「それは…」
154 :
代打娘。 : 2001/04/08(日) 04:12 ID:ia1X4jKg
言いかけてからしばらく辺りを窺うと、福田は握られた右手を強く引っ張り、安倍を自分の側に寄せた。
「忘れないで、これが撮影だということを。ここにいるあたし達の行動は全て見られている。
当然、会話も全部聞かれているわ。だから、今は話せない」
安倍の耳元で、手短に囁く。
納得したのか、安倍もコクリと一度頷いた。まだ不満そうな顔は残したままだが。
「じゃあ、ちょっと行って来るね」
そう言って、福田は自分を掴んでいた安倍の手に、ここまで自分が所持していた鎌の柄を握らせる。
用心のために、という意味を込めて。
「何かあったら、大声で呼んで。すぐに戻ってくるから」
「うん…、その時は、馬に乗って助けにきてね。…白い馬で」
あまりうまくない冗談に、お互い顔を見合わせて少し笑った。
155 :
代打娘。 : 2001/04/08(日) 04:20 ID:ia1X4jKg
福田がその場を離れた後、膝を抱えて、焼け焦げて骨組みだけになった家を眺める。
そんな安倍の頭の中は真っ白で、もう何も考えていなかった。
いや、何を考えるにも疲れすぎていた。
銃声の恐怖からの脱走劇。次々に告げられた友人の死。先程目の当たりにした、凄惨な光景。
安倍の気力を奪うには、充分すぎるほどの出来事。
いっそのこと、福田に全てを依存してしまいたい。そんな気分でいた。
だが、ぼんやりできる時間をもらえるほど、このゲームは甘くはない。
「安倍さん」
呼ばれて、安倍の心臓が一度、大きな音を立てる。
あぁ、この感じは何度目だろう。いつになっても慣れそうにない。
おそるおそる振り返ると、すぐ後ろの崩れかかった家の陰から、一人の少女。
──すぐ近くに来ているのに、また気付かなかった。なっちはそんなに鈍いのかい?
だが、その姿を見て、安倍の表情は驚きから喜びに変化した。
「加護ちゃん!?」
156 :
団長 : 2001/04/10(火) 17:49 ID:AHywo9MY
おもしろいですね!!なかなかの作品ですよ!!
更新楽しみにしてます。
157 :
代打娘。 : 2001/04/11(水) 07:54 ID:4fCKvIDw
への字口と潤んだ瞳で今にも泣きそうな少女。
安倍に呼ばれて、その少女の表情が安堵と緊張の入り交じったような色を見せる。
「大丈夫だよ、おいで」
そんな顔色を察し、安倍は手招きをして加護を呼び寄せた。
やがてためらいがちに近づいてくる少女。
安倍がしゃがみ込んで、その身を腕の中に抱き寄せると、加護は小さな声で泣き出した。
「……ひっく……安倍さぁん……」
安倍の腕の中でしゃくりあげながら、涙声で囁く。
「ずっと…一人で、怖かった……んです…」
「うん、もう大丈夫。大丈夫だから泣かないで。ね?」
やはり年下の前だとついお姉さんぶってしまう。そんな自分に、心の中で苦笑する。
しかしながら、安倍は心底ほっとした。
ルール発表以来、安倍は時々気に掛けていた。メンバーの中でも、加護や辻のように
特に年齢の低い少女に、このゲームのルールを課するのはあまりにも酷だ、と。
もちろん、他のメンバーだったら良いというわけでも無いが、
特に、十三歳に刃物や銃を持たせて、『友達の命を奪うのです。やらなきゃ貴女が殺られるよん』
なんていくらなんでも無茶苦茶だ。可哀想すぎる。
自分のことだけを考えるのが精一杯のはずの状況で、安倍の中の母性本能はそう訴えていた。
辻が死んだと発表されたときは、特に胸が痛んだ。
でもこれで──福田の作戦がうまく行けばの話ではあるが──加護も助かることになる。
泣きじゃくる加護を愛おしげに抱き締めながら、安倍は偶然の出会いに感謝した。
あ、そうだ。早くこのことを明日香にも報せなきゃ──。
「あれ?その子……」
158 :
代打娘。 : 2001/04/11(水) 08:00 ID:4fCKvIDw
「ひゃっ!?」
すぐ後ろからいきなり声を掛けられ、安倍は驚いて飛び上がった。
思わず加護を抱き締める腕に力が入り、「ぎゅう」とカエルが潰れたようなうめき声が上がる。
(あぁ、これで何度目だろう、ってさっきも思った気がする…)
「あ、明日香、びっくりさせないでよぉ…。もう帰ってきたんだ?」
すぐそこの家まで見に行っただけだし。とだけ返す福田の視線は加護に注がれていた。
「何か、見つかった?」
「うぅん、何にも。まぁ、焼死体とかが無かっただけ良かったんだけど…」
安倍の質問に答えつつも、まるで値踏みでもするかのように加護を見つめている。
そんな福田と目が合い、怯えたような表情を見せ、安倍の服の裾をぎゅっと掴む加護。
「あ、そうだ。明日香も知ってるよね?この子、加護ちゃん。今そこで会ったんだけど……明日香?」
そこでやっと、福田の態度が妙なことに気付いた。
159 :
代打娘。 : 2001/04/11(水) 08:04 ID:4fCKvIDw
「どうかしたの?」
「ん?うん…」
安倍の問い掛けにも上の空のような態度を見せている。
「知ってるでしょ…?ほら、明日香がコンサートに遊びに来たとき──」
「あぁ、そうじゃなくてね」
ようやく福田が安倍の方に視線を戻した。
そりゃいつもテレビに出てるんだから、加護ちゃんのことは知ってるよ。
そう突っ込みながら、福田は自分のセーラー服を指で示し、
「加護ちゃん、服が随分血で汚れているから…」と言った。
あ、本当だ。そう言われてもう一度、加護の方を見ると、確かに服が所々、赤茶けている。
血…というより、それは最初、泥か何かによる汚れに見えた。
だが、よく見れば液体が乾いたシミになっていて、砂や土で出来るようなものではない。
雨でも降ったというのなら別だが。
「怪我しているんじゃないかな、って思ってね」
そう付け加えた福田だったが、何か違和感を感じていた。
平気?怪我してるの?と、問いただす安倍に、加護が首を振って、こう切り出した。
「この血は、のののなんです…」
「えっ…ののって、辻ちゃんの?」
「ウチ、本当はののと一緒にいたんです…。たまたま会えたから、ずっと一緒にいようねって
約束したのに…」
そう言う加護の目から、一度ひいていた涙が再び、じわっと溢れ出す。
「岩のかげに隠れてたら、突然ピストルの音がして、ウチら見つかっちゃったから、一緒に逃げたんです。
そしたら、ののが、ののが撃たれて……」
そっか、そのときに辻ちゃんは、死ん…亡くなったんだね…。
嗚咽する加護の頭を撫でながら、安倍も悲痛な表情を浮かべた。
辛かったね、怖かったね、と、優しく言葉をかけながら。
160 :
代打娘。 : 2001/04/11(水) 08:08 ID:4fCKvIDw
……違う。
何かが、おかしい。それに福田が気付いたのは、加護の表情を見たときだった。
声を掛けたとき、加護は身体を震わせて怯えたような、困ったような表情を見せた。
それは、ほとんど見ず知らずの他人に対する畏怖や、緊張ともとれる。
しかしそれだけではない何かに、福田は気付いた。
何か後ろめたさにも似た、裏のある感情が一瞬、加護の表情から垣間見えたような気がしたのだ。
それに、今の話はおかしすぎる。
普通、銃を持った奴に追いかけられ、二人で一緒に逃げたとき
一人が死んでもう一人は無傷なんて、そんなドラマみたいな話はほとんど有り得ない。
無論、相手が傷ついたとき、それを見捨てて一人で逃げれば有り得ることかもしれないが
だったらそんな、身体の正面に返り血がつくわけがない。
…出来の悪い冗談だ。
──私達の知っている人間が、ナイフを隠し、仲間のフリして近づいてきて…
…まさか。
安倍は、加護を疑う様子は微塵も見せていない。
福田も考え難い話だと思った。だって、相手は子供よ?
けど…
「……なっち……その子から離れて……」
「ふぇ?」
間の抜けた声を出して、安倍が福田の方を振り返る。
その際、そのふくよかな腕はやはり、加護の身体に回したまま。
「その子から離れて…早く…」
「はぁ?な〜に言ってんのさぁ、明日香」
“仲間”に会えたことで安心しているのか、少し上機嫌になっている安倍。
その肩越しに見えたのは、鈍い光を放つ──
「なっち!逃げて!!」
161 :
名無し娘。 : 2001/04/11(水) 14:10 ID:MUt..DOc
おー
いいところで(w
162 :
名無し娘。 : 2001/04/14(土) 00:21 ID:rKDduL6w
hozen!!
163 :
名無しです。 : 2001/04/14(土) 09:06 ID:PcbE5FmQ
味のある展開でドキドキ。
164 :
代打娘。 : 2001/04/15(日) 07:22 ID:1OszD2sw
きょとんとしている安倍の腕を、福田が自分の方へ強く引き寄せる。
「えっ、わっ!?ちょっ……」
安倍がバランスを崩してよろめき、加護から手を離して倒れ込んだ瞬間、その後方で閃光が走った。
「痛っ…!」
鋭い痛みを感じ、四つん這いになった状態で、首の後ろに手をやる。
ぬるっとした、暖かい液体がその手に触れた。
──え?
見なくても、それが何なのか感触で判る。
だが安倍は咄嗟に見てしまった。自分の掌に塗られた、鮮やかな赤を……。
「なっち!」
福田は腰のベルトに差したコルトパイソンを抜きながら、逆の手で再度、安倍の腕を掴もうとする。
が、それより先に、華奢な腕が安倍の首に巻き付いた。
「あ〜ぁ、うまく行くと思ったんやけどな〜」
安倍の耳元で聞こえる呑気な声の主、加護亜依は、もう“演技”をしていなかった。
頬についた涙の跡を袖で拭って、にぃっと笑ってみせる。
その表情にさっきまでの『怯えた仔犬』のような面影はない。
「福田さん、やったっけ?動いたらあかんで」
普段の彼女からは信じられないほどのドスの利いた声。
立ち上がりざま、安倍を引きずりながら後退し、福田との距離を置く。
その右手には、サバイバルナイフ。古い血のこびりついた刃先は、当然のごとく
安倍の喉元に突きつけられている。
「か、加護ちゃん…なんでこんな…」
「おっと、喋ると喉が切れますよ、安倍さん。二度と歌えなくなったりしたら嫌やろ?」
165 :
代打娘。 : 2001/04/15(日) 07:33 ID:1OszD2sw
まさかこんな子供が“やる気”とはね…。
迂闊だった…さっき危惧した通り、そのままの展開じゃない!
「とりあえず、その物騒なもん、地面に置いてもらおうかな」
物騒なもの…福田の手にある黒い拳銃のことだろう。福田はすぐには従わず、二人の顔を交互に見た。
安倍は…茫然自失と言ったところか、ただ助けを求めるような視線を福田に送っている。
「はよしぃや!安倍さん傷つけられたくないやろ?」
ナイフを押しつけられた首筋から、赤い雫が伝い落ちる。
「いっ、痛い…」
呟くような安倍の声を聞き取って、福田は奥歯を噛み、その場に腰をかがめた。
視線は二人から離さないまま、ゆっくりと地面に手を伸ばし、コルトパイソンを置く。
加護の注意は、ほとんどその“物騒なもの”に傾けられている。
───今だ!
ヒュン──
「わっ!?」
突然、加護の視界に目玉ほどの大きさの石が入ってきた。
それは福田が、銃を持っていた方とは逆の手で放ったものだ。
驚き、慌てて避ける。その瞬間、手に持ったナイフが安倍から離れた。
「今よ、なっち、暴れて!」
我ながら、なんて命令だ。咄嗟に思いついた表現がこれしかなかった。
しかしその言葉の意味を了解したのか、
安倍は右手に持っていた──が、しばしその存在を忘れていた──鎌を、闇雲に振り回した。
「わわっ、何すんねん!危ないやないか!」
加護はたまらず安倍の拘束を解き、離れる。その隙に福田は足元に置かれた武器を拾い上げた。
安倍が避難したことを確認し、銃口を加護に向ける。
そして、福田は我が目を疑った。
銃を向けた先──加護もまた、小さな拳銃を自分達に向けて構えていたのだ。
えっ……なんで?
166 :
代打娘。 : 2001/04/15(日) 08:02 ID:1OszD2sw
考えている暇はなかった。
「伏せてなっち!」
言うが早いか、福田は前方でぼんやり加護の挙動を見ていた安倍を
無理矢理押し倒し、自分も覆い被さるようにして伏せた。破裂音と共に、頭上を銃弾が通り過ぎる。
はは…なんでもくそもないか。
要するに“やる気”満々な加護さんは、既に何人かの人間をその手で殺め、複数の武器を入手しましたと。
クソッ、十三歳のすることじゃないぞ!
「わっ、とっ、とっ」
撃ち慣れていないのか、発砲した反動でふらついている加護に対し、
伏せた体勢のまま両手に構えたコルトパイソンで反撃する。
二発ほど放った銃弾は、慌てて家屋の陰へ逃げ去った加護に当たることはなかった。
「待ちなさい!」
叫んだものの、福田は加護を追うことを一瞬、躊躇した。
自分とは直接的な関わりはなかったものの、娘。のメンバーに殺意を向けることに、躊躇いがあったから。
けど、あのまま野放しにしていたら、また犠牲者が増えかねない。
複数の武器を持っている、そのこと以上に、加護が他者を手に掛けている事実を如実に示す証拠があった。
血に汚れた衣服。そして、血に汚れたナイフ…勿論、安倍の血とは別種の。
甘い顔はしていられない、あの子は、殺戮を楽しんでいる…!
167 :
代打娘。 : 2001/04/15(日) 08:05 ID:1OszD2sw
加護が二人の視界から消え去った、家屋の陰。
福田はそこまで走り込むと、壁に背をつけ、死角になっていた方向を用心深く窺う。
崩れかかった家と、畑との間の道。おそらく加護が逃げ去ったと思われる方向には、
島の大部分を覆っているのであろう木々の群が、所狭しと立ち並んでいた。
(なっち…)
福田は手首をくいっと動かして、安倍を呼ぶジェスチャーをした。
これから戦地になるかもしれない場所に安倍を連れていくのも、それはそれで気が引けるのだが
取り敢えず、これ以上離れてまた誰かに襲われたりしたら堪らない(何しろ爆弾魔の奴が
この辺りにいないとも限らないのだ)、そう思っての判断だった。
呆然と座り込んでいた安倍がそれに気づき、よたよたと福田の元にやってくる。
それだけ確認し、福田は安倍が追いついてくる前に行動を開始した。
足音を殺しながら、林の中に踏み入る。
何処の木の陰に潜んでいるとも分からない。
耳を澄まし、人の気配を察知することに全神経を集中させる。
が、加護がいる様子は見られない。
完全に逃げられたか……。
そう思ったときだった。
「そこで、何をしているの?」
加護のものでも、安倍のものでもない、だがひどく聞き覚えのある声が、遠くから響いてきた。
福田自身、この声が聞けることを、切に望んでいたはずだ。
だが、それは決して、あの頃のように親しみを込めて放たれたものではない。
むしろ怒気さえ含まれているようにも思えた。
「圭織……」
存在感のある影が、ゆっくりと福田の元に近づいてくる。
かつて苦労を共にした者同士の再会は、最悪の形で幕を開けようとしていた。
『残り8人』
168 :
団長 : 2001/04/15(日) 20:01 ID:UD7XEamw
おもしろい展開になってきたね!!
応援してます!
169 :
保全 : 2001/04/18(水) 03:06 ID:nLxDGtoA
保全
170 :
代打娘。 : 2001/04/20(金) 07:25 ID:5FGiOb9U
>>122訂正:
从# ~∀~ #从 <さすが、あたしの見込んだ『ミニモニ』リーダーやな(汗
|~
( ゜皿 ゜ )←リーダー
171 :
名無し娘。:2001/04/21(土) 03:21 ID:d4tOHtXs
hozen
先が読めないストーリーにドキドキ。
173 :
名無し娘。:2001/04/24(火) 00:52 ID:0cbhDbH2
hozenです
174 :
名無し娘。:2001/04/25(水) 04:23 ID:73dFo.ac
hozen
最近、削除が厳しくなったそうで…1日置きに保全?じゃなきゃ駄目だとか?
( `.∀´)<ちょっと紗耶香!あんた暇なんだから保全くらいしときなさいよ!
ヽ^∀^ノ<……。(圭ちゃんに言われたくない…)
いつもマメに保全して下さっている方、本当にありがとうございます。
書いてはいるんだけど…なかなか時間が…。申し訳ない。
更新までネタで繋ぐか…雰囲気壊れる?ふむ。
176 :
名無し娘。:2001/04/28(土) 04:06 ID:pTkSMoss
ヽ^∀^ノ<hozen
( `◇´)<続き、楽しみに、待ってるで〜。
178 :
名無し娘。:2001/04/29(日) 21:06 ID:V/RFz4MU
( `.∀´)<hozenよ!
179 :
保全:2001/04/30(月) 19:40 ID:bHmh238k
毎日保全してやれば済むことだ。
( `◇´)<保全するわ。
181 :
名無し娘。:2001/05/02(水) 15:30 ID:5QK3pDzo
( ´ Д `)<保全っと。・・・あたしなにやってんだろ?
182 :
代打娘。:2001/05/02(水) 23:47 ID:T60HPG7Q
今の声──圭織?
「明日香!今の…」
遅れてきた安倍も同じ事に気付いたらしい。
安堵と緊張の入り交じったような、複雑な表情を見せている。
でも、どこから?
もう一度耳を澄ませてみると、どこからかすすり泣きが聞こえる…。
「あ!」
素っ頓狂な声をあげて安倍が指さした方向に、福田も目を向けた。
『圭織!』
二人の声がハモった。
そこにいたのは、確かに飯田圭織だった。
だが、その姿は決して尋常ではなかった。
長時間さまよい歩いていたせいで、衣服はひどく汚れ、
木の枝にでも引っかけたのだろうか、袖などところどころが破れている。
ほんの数ヶ月前茶色く染めた、美しい長髪はボサボサに乱れ、まるで山姥だ。
目の下には、色濃く彩られたクマが目立つ。
(うわ…圭織大丈夫!?せっかくの美人が台無しだよ……)
(やだな、今のなっちもあんなひどい顔なのかな……?)
そのときの二人の想いは、これから起こる惨劇からすると、ずいぶんと呑気なものだったかもしれない。
何より目を引くのは、ぱんぱんに膨らんでやけに重たそうなディパックと、ボウガン。
そして背中に背負っているのは──辻ちゃん?
「か、圭織…無事だったんだね……」
戸惑いながらも、飯田の元に駆け寄ろうとする安倍だが──
「動かないで」
静かな、しかし有無を言わさぬ圧力を持った声に押されて、動きを停止した。
飯田が二人に向けて、右腕を振り上げる。
突き出した手には、鋭い矢を備えたボウガンが、握られていた。
「え…?」
183 :
代打娘。:2001/05/02(水) 23:55 ID:T60HPG7Q
「どういうつもり?」
二人の方を睨み据えたまま、飯田が口を開く。
その言葉は、決して再会を喜ぶような類のものではなさそうだ。
突きつけられた武器が、嫌でも緊張感を高める。
「どういう…って、何がさ?」
呆気にとられた表情で安倍が返す。それを受けて、飯田は身体を少し横にずらした。
飯田の後ろに隠れていた人影が、姿を現す。
────加護亜依。
安倍は相変わらずぽかんとした表情で、福田はやや呆れ気味の眼差しでその少女を確認した。
「加護から聞いた。なっち達に狙われている、助けてって。どういうことさ?
二人して、加護を虐めていたワケ?
誤魔化そうとしたって無駄だよ。カオリ、今の銃声だって聞いていたんだからね。
回答次第では、二人とも許さないよ…」
そう言う飯田にしがみついて、泣きじゃくっている加護。
なるほど?そういう手で来たか。
状況を把握した二人だが、安倍と福田の反応はそれぞれ違った。
「ちょっと待って、違うよ!何言ってるのさ圭織、なっち達がそんなことするわけ──」
「嘘や!さっき、そのピストルでウチのこと殺そうとしたやんか!」
狼狽した安倍の声を遮って加護が指さしたのは、コルトパイソン。
飯田の視線も、福田の手元に定まった。
「ウチ、なんもしてへんのに、あの人が撃ってきたんや!あの人が…」
加護の声が震え、言葉にならない泣き声が上がる。
当然、嘘泣きだ。
まったく、見事な演技ですこと……。
福田は加護を見据えながら、口元だけで皮肉を込めて微笑んだ。
「笑ってないで何とか言いなよ、明日香。…その銃、一体何なのさ?」
触れればいつ爆発するか分からないような、静かな怒りがその声から伝わる。
視線を飯田に戻し、心持ち肩をすくめ、コルトパイソンを「これ?」とばかりに持ち上げた。
「う〜ん…これは…護身用、って所かな」
「ふざけないで!」
184 :
代打娘。:2001/05/03(木) 00:02 ID:xM/Jd5Ag
些細な冗談は、どうやら起爆ボタンを一つ、押してしまったらしい。
飯田がボウガンのトリガーを引き、放たれた矢は福田の足元、硬い土に突き刺さる。
「きゃっ!」
隣で、安倍が悲鳴を上げた。
「ちゃんと言って。でないと二度目は無いよ」
言っても信用してくれないでしょうが…。福田は心の中で呟いた。
今の威嚇、兼試し撃ちでの勢いから、殺傷能力は充分に証明されたと思われる洋弓。
辻の身体を背中だけで支え、空いた片手でディパックから矢を取り出す。
二本目の矢が、セットされた。
静かながら、気が狂いそうなほど張りつめた空気。
「…そうよ」
静寂を解いたその声は、どこか開き直っているようにも聴こえた。
福田の言葉に、飯田が眉を少し持ち上げる。
「その通り。確かに私は加護ちゃんに銃を向けた。でもそれは、自分の身を守るため。
正当防衛ってやつ。わかるでしょ?
私達は加護ちゃんに殺されそうになって、仕方なく銃を向けた。ただ、それだけよ」
「…いい加減にしなよ、下手な嘘ばっか。加護がそんなコトするわけないじゃん」
ほらやっぱり。福田は脱力感と苛立ちを、溜息と共に吐き出した。
「本当だってば!何で圭織は、加護ちゃんの言うことばっかり信用するのさ!」
「加護は悪戯はするけど嘘をつく子じゃない。カオリは一年間、加護のことを見てたんだから分かるよ」
「じゃあ何?なっちや明日香は嘘をつくような人だって言いたいの!?あんまりだべさ!!」
(ん…?)
張りつめた空気は、変な方向に流れ出した。
185 :
代打娘。:2001/05/03(木) 00:10 ID:xM/Jd5Ag
「嘘ついたこと、今までに一度も無いって言える?」
「ひどい!何、その言い方!だったらなっちも言わせてもらうけど、圭織は何でも
そうやって決めつけるよね、なっちの話も聞かないで!」
(お〜い?)
「ちゃんと話は聞いてるじゃん」
「はぁ?いつ聞いた?いつ聞いてくれたって言うのさ?大体──」
「(…)なっち!」
飯田と安倍の口論は、福田の一声によって中断された。
「痴話喧嘩してるんじゃないんだから…」と、呆れ気味な声。
「あ…、ごめん」
安倍は素直に謝った。が、飯田は相変わらず探るような視線を二人に送っている。
「とにかく、こっちの言い分はさっきの通り。信じてくれなさそうだけど、嘘は言ってないよ」
福田はそう締めくくった。
「…加護、本当なの?明日香の言っていることは」
二人への疑惑を少し解きかけたのだろうか。
先程から腰の辺りに抱きついたまま、泣きじゃくっている加護に飯田は問い掛けた。
その問いに、首を激しく横に振って返す。
186 :
代打娘。:2001/05/03(木) 00:15 ID:xM/Jd5Ag
「でたらめや…全部でたらめや!!だって……っく……だって!!」
加護の瞳には、涙が枯れることなく湛えられている。
飯田から身体を離して、二人を指さし、告げた。
「安倍さんと、福田さんは……二人で…ののを……
ののを、殺したんや!!」
『はあ!!?』
再び、渦中の二人の声がハモる。
さすがに今回ばかりは、福田も声を荒げた。
一体、何を言い出すんだこの子は!?
「うち見てたんや…福田さんがののを殺すところを…ののは何も悪くないのに…。
それで安倍さん、ののが死ぬのを楽しそうに見てたやないか!」
「馬鹿なこと言わないでよ!そっちこそ出鱈目じゃ──」
反論しようとした安倍の唇が、止まった。
飯田の尋常ではない形相に驚いたからだ。
「か、圭織…?」
「へぇ、そう…そうだったんだ…」
「ち、ちが…」
「許さない…。絶対に、許さない!!」
二つ目の、そして最後の起爆スイッチが今、入れられた。
187 :
代打娘。:2001/05/03(木) 04:38 ID:xM/Jd5Ag
「危ない!」
福田が声と共に、固まっている安倍に向かって飛びついた。
勢い余って二人一緒に倒れ、安倍はもんどりうって木の根に頭を強くぶつける。
痛いと思う間もなく、視界に入ってきたものは
飯田の放った矢が、自分の元いた場所を通過していく弾道だった。
もし福田が庇ってくれなかったら、間違いなく今ので胸を貫かれ、死んでいただろう。
石川に狙われたとき以来、二度目の死の恐怖を、安倍は味わうことになった。
木に突き刺さった矢から、矢の持ち主に再び目を戻す。
その主は今、ディパックを鬱陶しいとばかりに放り
般若のような形相で、三本目の矢を構えようとしていた。
福田達の犠牲者と設定された、辻希美は背負ったままで。
「…ま、待って。私達の服装、見てよ。辻ちゃんの血とか、付いてないでしょ?
普通人を殺したら、返り血の一つや二つ付着するもので…」
福田の口調にも、僅かな焦りが見える。
「何言ってんの?拳銃使ったんなら血なんか付くわけないじゃん」
はい、その通りです。
でもね、ある程度距離を置いて撃つって、意外と難しいのよ?御存知?
「い、いい加減にしてよ圭織!大体、明日香が殺したって証拠がどこにあるのさ!」
震えた声で安倍が叫ぶ。
「証拠はないけど証人はいるよ。…もう、言い訳は聞き飽きたよ。死んでくれる?」
安倍とは対照的に、抑揚のない声が二人を戦慄させた。
「…死んで、あの世で辻に詫びな」
ゆっくりとボウガンを上げ、先ずは福田にねらいを定めた。
「やだよ…ねぇ、信じてよぉ……なっち達は、本当に何も…」
「もういいよ、なっち」
木と自分の間に安倍を挟み、守るようにして立っている福田が答える。
「もう、何を言っても無駄よ…」
その声には、諦めの気持ちが漂っていた。
188 :
代打娘。:2001/05/03(木) 04:46 ID:xM/Jd5Ag
もう、何を言っても無駄。
福田は別に、飯田を責めるつもりでそう言ったわけではなかった。
飯田圭織は、以前から多少思いこみの強い部分もあったかもしれない。
良く言えば純粋でまっすぐな性格だと言えるのだが
しかしそれは年月を重ね、成長と共にある程度、緩和した。
そして生来の思慮深い性格
(これ故に度々、人から“飯田圭織交信中”と言われるのだが、本人は意外と気に入っているらしい)
のおかげか、時折周りを驚かせるような察しの良さも見せたし、
リーダーとなった自覚も手伝ってか、人の意見も良く聞き入れた。
とにかく飯田は、メンバーの中でも頭の回転が利く方だった。
しかし今の状況──いつ死ぬか分からない状況、普段見ることのない惨殺死体、
大切な友人を殺された怒り、憎しみ。
普通の神経を持った人間なら、このような状況で普段通りの思考力を保てるはずがない。
そして今、可愛がっていた後輩から、助けを求められてきている。
加護は、自分が最年少であることを最大限に利用している。
普段、悪戯ばかりしては怒られているが、それが加護の子供らしさを周りに印象づけていたのだろう。
あの無邪気な少女が、人殺しなどどうして出来ようか。誰もがそう思うはずだ。
加護の嘘は、巧みと言うには程遠いほど粗が目立った。
だがこのような条件が揃っては、そんな飯田でさえその粗に気付くことが出来ないのだ。
まったく、大したもんだよ、あの子は…。福田は、思った。
そういえば誰かが言っていた。同い年の明日香と比べると、辻加護はひどく子供っぽい、と。
いえいえ、とんでもございません。
加護ちゃんの方がよっぽどオトナですよぉ?……いろんな意味でね!
福田は、覚悟を決めた。
それは飯田の制裁を甘んじて受けようという覚悟ではない。
安倍を守るため、自分の意志を貫くために、昔の仲間と戦う覚悟だった。
189 :
代打娘。:2001/05/03(木) 04:54 ID:xM/Jd5Ag
……待てよ。
さっきから加護ちゃんが──面倒ね、敬称略──
加護がいちいち引き合いに出している辻希美は、じゃあ誰に殺された?
普通に考えれば加護自身じゃないの?
でなければあれだけ自信満々に辻の名を出せるだろうか。
彼女が誰に殺され、その瞬間を誰が見ていたか。
実際に辻が死ぬシーンに立ち合っていないと、それはわからないはず。
それが分からなかったら、あれだけはっきりと言い切れないのでは?
(いや、あの性格だから、その辺も微妙なとこだけど…)
加護が辻を殺したと仮定すれば、まず銃を使うことは無いと考えられる。
何故って?
──加護が銃を、使い慣れていないから。
あの子が所持しているサバイバルナイフを見る限りじゃ、石川さんもあれでやられている。
(他に細身の刃物を持っている人?ん〜、いないでしょ。
似たような武器じゃ番組的に面白くないからね)
朝6時の放送では辻の名前が呼ばれていたから、順序的には辻の方が先。
…問題はここよね。
辻希美は何によって殺されたか。
拳銃。考えられなくもない。
でもね、言っちゃ悪いけど、あんな拙い使い方じゃ止まっている人にも当てられないよ。
さっきだって銃を向けられたとき、咄嗟に伏せはしたけど、別に立ったままでも平気だった。
撃つ瞬間に銃口がかなり上へずれている。あれじゃお空のお星さまにしか当たらないね。
それに、…こんなことは言いたくないけど…、ピストルってのは一度使うとクセになるもので。
辻ちゃんを銃殺したなら、その快感に味を占めて、石川さんに対しても銃を使うだろうし、
何より──なっちの前であんな回りくどい演技をしなくても済んだ。
はなから銃を使えるなら、なっちが気付かない内に物陰から撃ってしまう事もできたハズ。
(今思えば、一瞬でもなっちの元を離れたのは本当に迂闊だった…)
それをしなかったのは、加護は銃を使うことに自信がなかったから。
そう考えるのが、自然。
だったら辻は────
190 :
代打娘。:2001/05/03(木) 05:04 ID:xM/Jd5Ag
「……明日香……ねぇ明日香ったら…何ぼぉっとしてるのさ…」
口元に手をあて、俯き加減で考え事をしている福田を、泣きそうな声で安倍が呼ぶ。
肩を掴み、前後に揺さぶる。
(いやしかし…ああああれだけきっぱりと、ののののは撃たれて死んだんや〜って
言ってるくらいだだだから…ひょひょひょっとしたらややややっぱり銃で……
って、揺らさないでよなっち!考えがブレるじゃない!!)
福田に横目で睨まれて、安倍はしょんぼりと小さくなった。
飯田はと言えば、その奇妙な光景を不思議に思ったのか
ボウガンは構えたままだが、撃とうという素振りは見せていない。
「飯田さん、何してるんですか…早くののの仇を討って下さい!」
加護に小声で訴えられ、我に返ったように照準を福田に合わせ、引き金に指をかけた。
「待って!」
突然発せられた言葉に、引き金を引く指が止まる。
「あのさ、加護ちゃんの話ではその子…辻ちゃんだっけ?銃で撃たれたのよね。
良かったらその証拠見せてくれないかな?」
「証拠?」
訝しげな目で飯田が訊ねる。
191 :
代打娘。:2001/05/03(木) 05:10 ID:xM/Jd5Ag
「そう、証拠。銃で撃たれたのなら、辻ちゃんの身体には銃創が残っているはず。
それを見せてほしいんだ。
もしナイフで刺されたような傷跡だったら、私達は容疑者から外れる。
そうでしょ?至近距離で殺害したのなら、返り血が付かないはずは無いんだから」
その時、加護が一瞬、狼狽えたような表情を見せた。
福田の目はそれを見逃してはいない。
「アカンで飯田さん!福田さんは銃持ってるんや!油断したら殺されてまう!」
そうはさせまい、と、すかさず飯田に訴える。
迷いを見せた飯田の表情が、再び険しいものに変わった。
「分かった…」
福田の右手がゆっくりと開き、コルトパイソンが地面に落ちた。
武器を手放すのは二回目だが、今度は自分の意思で。
そのまま両手を顔の横まで上げ、自分がもう何も持っていないことを、相手に知らせる。
「これでいいでしょ?ね、加護ちゃん?」
加護に同意を求めつつ、ゆっくりと飯田の元へ近づく。
「明日香!」
安倍の呼びかけに振り向き、唇の動きだけで『大丈夫』と伝えた。
飯田も、福田の申し出を了承したらしく、少し躊躇った後
息のない少女を自分の背から下ろした。
192 :
代打娘。:2001/05/03(木) 05:14 ID:xM/Jd5Ag
加護ちゃん、貴女の演技力は素晴らしいと思うよ。
でも“返り血”の存在だけは、どうにも誤魔化せないものなのよ。
今度、完全犯罪をしようと思うときは、気をつけた方がいいんじゃないかな。
飯田の元にたどり着いたとき、福田は自分の考えに、ある程度確信を持ち始めていた。
自分が辻に手を出すのも憚れたので、屈み込んで、飯田の動向を見守る。
「ごめんね…すぐ終わるからね……」
検死のために服をまくり上げようとしたとき、飯田が言った。
今までとうってかわって、とても優しく、どこか寂しげな声で。
辻希美という子は、圭織にとってどのような存在だったのだろう。
どれだけ大きな存在だったのだろう。
福田は、そんなことを考えたりもした。
次の瞬間、福田は“そんなこと”を考える余裕を無くした。
嘘……
捲った制服の下、辻の腹部には、小さく丸い穴が一つ、空いていた。
見間違いようのない、弾痕が。
──そんな、馬鹿な…
「もう、言い逃れは出来ないよ」
失意を覚え、膝をつく福田。
顔を上げると、ボウガンが目の前に突きつけられていた。
矢尻が、木漏れ日に反射して怪しく光る。
誰かの、息を呑む音が聞こえた。
193 :
名無し娘。:2001/05/03(木) 05:41 ID:xM/Jd5Ag
( ´ Д `)<焦って書いたから、文章が変かも。ゴメンネ
ごと〜は何してるんだろうねぇ?
きっとどこかで寝てるんじゃないかな〜。
何てったって、ごと〜だからねぇ。
194 :
名無し娘。:2001/05/04(金) 00:34 ID:lBCjSUd.
保全
195 :
名無し娘。:2001/05/04(金) 01:40 ID:l3XP/YzY
げ、いつ弾痕が、と思って過去レス読み返してみたりした。
む、これが鍵を握ってるのか?
196 :
名無し娘。:2001/05/05(土) 03:50 ID:ZT9Vl8n.
加護・・・おまえってやつは・・・
飯田はやさしいね。
>>195 ホント。いつのまに!?って感じ。謎のまま楽しみにしときます。
197 :
代打娘。:2001/05/05(土) 06:33 ID:D2vTbLEE
細かいけどまた訂正…
>>188 同い年の明日香と… → 同い年の頃の明日香と…
198 :
名無し娘。:2001/05/06(日) 16:02 ID:3vJDJX32
hozen
199 :
名無し娘。:2001/05/07(月) 00:03 ID:M3GZKQqM
保全
200 :
名無し娘。:2001/05/08(火) 09:03 ID:DVXliJNo
hozen
201 :
名無し娘。:2001/05/09(水) 08:51 ID:ORU2cK8o
hozen
202 :
名無し娘。:2001/05/10(木) 00:20 ID:GcTuikDs
hozen
続きが楽しみ。
204 :
し:2001/05/11(金) 02:51 ID:Q.EEF/Aw
205 :
代打娘。:2001/05/11(金) 23:39 ID:Xu3kzZrY
ボウガンの矢先が、ゆっくりと下がり、福田の喉元に定まったところでピタリと止まる。
飯田の指一本に、一人の少女の命が委ねられた。
はは…絶体絶命…
じゃあ、辻ちゃんの身体から弾取り出して、ほらっ! 私のと口径が違うでしょー?
なんて、出来るわけ、ないよね……。
そんなことを考える福田とは対照的に、この状況を思う存分楽しんでいる人間もいる。それは…
ラッキー! や〜、ののの荷物からピストル見つけたとき、その場で試し撃ちしといて良かったわ〜。
的になってもらったののには悪いと思ったけど、それがこんなことになるとは思わんかった。
まさか飯田さんがののを連れて歩いてるとはなぁ。
やっぱスターになる運命の人間は、人一倍幸運も持ってるんやな♪
顔で泣いて心で笑う少女、加護だった。
(結局、ピストルはうまく使えへんままやけどな)
(あれ…?)
福田はふと気付いた。鼻の先で矢を光らせているボウガンが、小刻みに震えていることに。
「圭織?」
見上げると、飯田が歯を食いしばり、目に涙を溜めている。
「…見損なったよ…明日香。明日香がそんなことする人だと思わなかった…」
震えが声からも伝わる。大きな瞳から、水滴が一粒零れ、頬を伝った。
「圭織…お願い、話を聞いて──」
「もういい! もう何も聞きたくない…言い訳だったら向こうで辻に言って」
向こうで…おそらく、『あの世で』という意味なのだろう。
「まぁ、辻とアンタが同じ世界に逝けるわけないけどね。 …バイバイ」
──!!
無理だ、避けきれない!
福田が咄嗟に目を瞑ったとき、銃声が響いた。
って、銃声? え?
206 :
代打娘。:2001/05/11(金) 23:48 ID:Xu3kzZrY
おそるおそる目を開ける。
静止した世界。加護がびっくりしたように大きな口を開けている。何故かそれが最初に目に付いた。
目の前の飯田は……こちらを睨んだまま、右手を高々と上に挙げている。
それはまるで、授業中に手を上げる生徒のように。
──あ〜、飯田君。駄目だよぉ、トイレは授業前に行っておかないと。
その右腕を赤い筋が、木の枝のように別れながら、肩の方へ伝い下りていた。
ボウガンは持っていなかった。飯田の後方に、無造作に落ちている。
いや、弾き落とされた、と言った方が正しいのか。
後ろを──銃声のした方を振り返ると、安倍なつみ。
両手で拳銃を…福田の落としたコルトパイソンを構え、緊張からか荒い呼吸を繰り返している。
そのコルトパイソンの銃口からは硝煙が上がっている。
そこまで見て大体、起こった事は理解できた。
──なっち…あなたが助けてくれたんだね…ありがとう…でも、
飯田が、錆び付いたからくり人形のように、ゆっくりと安倍の方へ顔を向ける。
──逃げて…早く…次はあなたが…
「へぇ、ようやく本性を現したね」
──狙われる!!
「あ……あ…あぁ……」
自分のしたことに気付き、脅えながら後ずさる安倍を飯田の視線が捕らえる。
静かな怒りを漂わせた表情は、変わらぬまま
何事もなかったように右手を下ろし、歩き出す。安倍の元へ。
って、ちょっと待て。怒りの余り痛覚まで無くしたか飯田圭織!?
銃で撃たれたんだから、普通は泣くほど痛いはずで……
放り出したままのディパックの側を通り過ぎざま、飯田はそこから何かを取り出した。
木の伐採か何かで使いそうな工具。先端にはキャタピラにも似た、ギザギザの刃が付いている。
それは、飯田があの港で拾った──
──あれ、何て言うんだっけ。チェーンソー? チェーンソー……。
ジョンソンが、チェーンソー拾って、ジェイソンになりました?
「あっはっは、おもしろ〜い」
「…って、面白くないよ!」
切羽詰まったシーンなのに、世にも珍しいコンビで漫才を繰り広げる、加護と福田。
207 :
代打娘。:2001/05/11(金) 23:54 ID:Xu3kzZrY
「やめて! 圭織!」
福田の叫びも虚しく、チェーンソーの電源は入れられた。
回り出す刃。目の据わった飯田からは、人間らしい感情がほとんど読みとれない。
今の安倍の行為で完全にキレてしまったのだろう。そこにいるのはもはや飯田圭織ではなく
復讐という言葉のみをインプットされた、殺人マシーンだった。
やだ…来ないで…来ないで……
連射の利くコルトパイソン。
恐怖に駆られた安倍は、その性能を存分に活かし、飯田に向かって発砲を続ける。
しかし、下手な鉄砲が偶然に当たることは二度と無く、飯田の神経を逆なでするだけに終わる。
『ちょ、ちょっ、なっち(…倍さん)! 危ない(がな)!』
ちなみに、飯田の後方で流れ弾の危険に晒された“世にも珍しいコンビ”が
世にも奇妙なダンスを踊っていたことには、あまり触れないでおこうか。
「あ……あっ……」
カチッ、カチッと、弾切れを示す音を聞き、安倍の恐怖は最高潮に達した。
恐怖はおそらく石川に襲われたときのそれよりも更に大きく、
安倍が人生の中で一度たりとも経験したことのないものだろう。
当然だ。映画やテレビの中でしか見たことのないジェイソンが、今まさに目の前に立っている。
体感版『十三日の金曜日』ってやつだ。
としまえんの体感シアター『バイオハザード』もびっくりだ。
ただし、アトラクション終了後、お客様の命の安全は保障致しません────
「嫌……来ないで……」
「残念だったね」
涙に潤んだ目で、哀願するように首を振る安倍に、冷たい言葉が投げかけられる。
「私を──殺せなくてさぁ」
「辻の痛み、思い知らせてあげる」
208 :
代打娘。:2001/05/11(金) 23:59 ID:Xu3kzZrY
駄目───圭織!
「残念やったなぁ、福田さん」
飯田の後を追おうとした福田を、加護が呼び止めた。
「アンタもなかなか頭の働く人みたいやけど、ウチの“慌てるフリ”までは見抜けんかったようやね。
まぁ〜あんときはホンマに焦ったけどな。先に背中見られたらどうしようかと思ったわ」
背中……?
加護はそう言ってニシシと楽しそうな笑みを見せ、スカートのポケットから
自分の拳銃─シグ・ザウエルを取り出し、示して見せた。
「ののの──辻のお腹の、あれなぁ。た・め・し・う・ち♪」
「……?」
「試しに一発、撃ってみたねん。辻の死体に向かって。あの時はうまく当たったのになぁ〜」
──!?
その楽しそうな口調に、福田は背中が凍り付くような感覚を覚えた。
何故この子は、そんな残虐なことを笑いながらやってのけるのだろう?
加護はそのシグ・ザウエルを、ゆっくりと、刑事ドラマのような仕草をつけて福田に向ける。
僅かな緊張が走る。
「……ばーん!…なぁんちゃって。ホンマはアンタみたいな恐い人、撃ち殺しちゃいたい所なんやけど
せっかく飯田さん味方に付けたの無駄にしたくないからな。それに、どーせ弾は当たらないやろし。
や〜、それにしても、飯田さんってホント、後輩思いの素敵な方やな♪
……アンタの相棒、危ないんちゃう? はよ助けに行かんでええの?」
からかうような口調。
…情けないけど、完全に振り回されてる、この子に。
209 :
代打娘。:2001/05/12(土) 00:02 ID:vjNP/9VA
目の前にいる悪魔に対して何もできない屈辱感に堪えながら、福田がもう一度
安倍達の方へ走りだそうとした、その時。
凄まじい音が空間を支配した。
「うわ!?」
工事現場で聞くような、金属と金属がぶつかり合う音が、ボリュームMAXで流れ出す。
音源の方では、金属間の摩擦により生じた火花が、安倍と飯田、二人の顔を間近で照らしていた。
「な、何が起こって…」
安倍が、目を固く瞑ったまま両手を頭上へ思い切り突き出し、飯田のチェーンソーを受け止めている。
勿論、素手のはずはない。番組支給の武器。農作業用の鎌が、安倍の手にはあった。
だが……何にせよ今が危険な状況であることに変わりない。
農具VS工具は、工具の方に部があるようだ。
当たり前だ。チェーンソーは電動式。昔ながらの草刈り用の鎌とは性能が違いすぎる。
聴覚神経を壊さんばかりに響く、金属の摩擦音。それに混じって悲鳴に似た声が聞こえる。
なっちの声……なっち!
「くっ!」
小さく呻いて駆け出した福田を、加護は手を振って見送った。
「行ってらっしゃ〜い」
210 :
代打娘。:2001/05/12(土) 00:13 ID:vjNP/9VA
ヽ^∀^ノ<更新ッス! 弾痕に深い意味はありませんでした…スミマセン
よかったら感想など下さいな。
展開が遅いとか、展開が強引とか、明日香のキャラが違うとか
…私を復活させろとか!?
(0°−°0)<(…無理ね)
一番の問題は、更新が遅いことですかね。いつも保全ありがとうございます。
211 :
名無し娘。:2001/05/12(土) 01:59 ID:Ga0GcQRo
更新ごくろうさまです。いつも楽しみにしてます。
飯田とチェーンソー・・・妙にはまってて恐い(w
・・・展開っすか?やっぱり後藤の放置っぷりが気になります。
212 :
きこり:2001/05/12(土) 02:24 ID:JYAi9sBM
ちぇんそーは電動?
ガソリンがお勧めっす
213 :
名無し娘。:2001/05/13(日) 00:32 ID:617Rd/q.
sage
制服の設定は旧作者の1さん(結局どこ行ったのかのかなあ)
が決めたんでしょうけど、美少女教育を予言した事に?
215 :
名無し娘。:2001/05/15(火) 01:37 ID:qaTK6ivU
hoz
216 :
名無し娘。:2001/05/16(水) 08:20 ID:VEZ7trEg
保全
( `◇´)<だけど愛しすぎて・・・
( `◇´)<「じゃあな」なんて笑わせないで・・・(保全)
219 :
代打娘。:2001/05/18(金) 21:50 ID:TIMWKdZ.
( ´ Д `)<やっと会えたんじゃない・・・(↑続き)
きゅ〜ん
というわけで訂正・・ガソリンチェーンソーですよねぇ ははは…
電動もあるらしいですけど…どこからコード引くんじゃっちゅーねん!(怒
ご指摘ありがとうございます。
( ゜皿 ゜ ) ハイオクマンターン♪
更新はもうしばし待って下さると嬉しいッス。
後藤さんですか? 後藤さんは…書き手がその存在を忘れてフェードアウトってことで…
『残り7人』
嘘です(泣
( `◇´)<ぶん殴っちゃえば よかったかもね〜(保全)
221 :
名無し娘。:2001/05/21(月) 11:11 ID:EQFFZMF6
ho
( `◇´)<春だよ、スキップして ステップして スプリングしようよ
きらめくために ひらめくままに 完全燃焼!愛情は根性で行きましょう!(保全)
223 :
名無し娘。:2001/05/23(水) 00:33 ID:ETsVye02
保全
224 :
名無し娘。:2001/05/23(水) 23:25 ID:fMDO1/U.
( `◇´)<今ひとつ目の 涙が靴の先っぽに落ちるよー(保全)
225 :
名無し娘。:2001/05/24(木) 21:17 ID:EDlkMtfw
( `◇´)<残りの涙はあの人の 胸にとどいてほしい〜♪(保全
>>224どうもね 再開待ってる)
ハンドルネーム間違えた。
227 :
代打娘。:2001/05/25(金) 03:00 ID:s3sxLF9M
この番組は、みっちゃんライブとの二次元中継でお送りしています(w
ホントに、待たせてしまって申し訳ないッス。
予告程度の更新です。本更新は明日か明後日に(予定)。
228 :
代打娘。:2001/05/25(金) 03:05 ID:s3sxLF9M
ねぇ、なっち?
カオリは、なっちのこと信じていたんだよ。
うぅん、もちろんモーニング娘。皆のことを信じてた。
分かってるよ。このプログラムがどんなものかって。
みんな戦いは止めようよ! なんて言って、それでうまく行ったって、最後はみんな飢え死にするだけ。
脱出する方法なんて無いもんね。
誰かが乗らなきゃゲームにならない。始まらないまま終わっちゃう。
分かってる。分かってるんだ……でもね、
「それでもカオリは許せないの! なんで、なんで辻を殺したのさ!
辻はまだ弱くて、幼くて! ……人を疑うことも知らない純粋な子なんだよ? なっちのことも
すごく慕ってたし…信じていた相手に裏切られて、辻はどんな気持ちだったと思う!?」
「だから違うって言ってるっしょ! 圭織、全然信じてくれてないじゃん!
なっちだって……なっちのこと、一番分かってくれてるの、圭織だって信じてたさ!
上京して、一緒に暮らして、…仲違いもしたけど、元通りになったし、今のモーニングの
中で、一番分かり合える友人だと思ってた。それなのに……裏切られたのはこっちだべ!」
「…まだそうやって嘘を言い張るんだ。じゃあ何? 加護が演技であんな風に泣いてたとでも言うの?
そんなこと出来るわけないじゃん。そんなこと出来たら、加護は女優になれるよ!」
「だからそうなんだってばぁ!」
騒音に負けないほどの声量で繰り広げられる、二人の口論。
悲鳴に近い声をあげた安倍の両腕が、ガクガクと震えだした。
筋肉を酷使し続けたせいだろう。腕が痺れ、力が入らなくなり、徐々に押されてくる。
安倍とチェーンソーの距離が縮まる、それに比例して恐怖が大きくなる。
火花が顔や腕に当たって数カ所火傷を負ったようだ、が、この状況でとてもそれに構っている暇はない。
……熱い……恐いよ……助けて……
「…助けて、明日香ぁ!」
229 :
代打娘。:2001/05/25(金) 03:19 ID:s3sxLF9M
まさに藁をも掴む思いで叫んだ。
その声に呼応したかのように、安倍の腕にかかっていた力が、急に失せた。
同時に鼓膜を破らんばかりの工事現場音も消え、耳に奇妙な違和感だけが残る。
「…?」
固く瞑っていた目を開き、そろそろと顔を上げる。
刃がボロボロになった鎌の向こうに見えたものは、僅かに状態を反り返らせた飯田。
そしてその後ろに───小さな身体で飯田の巨体を羽交い締めにする、福田がいた。
「早く、逃げて…」
飯田の後ろから、声があがる。
全力で飯田を抑えているためか、その声はやや苦しげだ。
「で、でも…」
「いいから早く!」
一瞬、躊躇した安倍だったが、福田の想いを汲み取ったのか
ふらふらと立ち上がり、おぼつかない足取りで駆け出した。
「…離せ」
驚くほどドスの利いた、低い声で飯田が呟いた。
そして、やはり体格の差、力の差は否めない。
チェーンソーを持ち替え、空いた手で福田の腕を掴むと
そのまま背負い投げで投げ飛ばした。
「…痛っ!」
背中をしたたかに打ち付けて、顔を歪める。
同時に、福田に緊張が走った。
この無防備な状態で襲われたら、確実に命はない。
慌てて身を起こすが──
230 :
代打娘。:2001/05/25(金) 03:24 ID:s3sxLF9M
「あれ?」
無防備な福田に背を向けて、飯田は去っていった。
尻餅をついたまま呆気にとられている。その間にも、飯田の背中は遠のいていく。
──ヘイヘイ、お姉さん。辻希美ちゃんの憎き仇(という設定の人)はここにいますよ?
「…どして?」
多分、消えた方角からして安倍を追ったのだろう。それにしても、何か順序が違う。
ついに血迷ったか? それとも、さっきの発砲で本当にキレてしまったのだろうか。
実は、なっちと圭織の間にはまだ何か確執が…。んなわけないよね。
こうしている場合じゃない、後を追わなきゃ。なっちがまた…
そう思い、福田は立ち上がって辺りを見回す。
武器も何もなくては、いくら福田でもジェイソンに勝ち目はない。
そこでふと──今までいたはずの加護亜依がいなくなっていることに気付いた。
付近にあったはずのボウガンも無くなっている。
加護ちゃんが──敬称はいらないって言ったっしょ!──加護が、持ち去ったんだ。
ここに残されているのは、辻ちゃんだけ、か…。
心の中でだけ、舌打ちをする。
半ば予想できたことだ。 残念ながら今は、そのことで地団駄を踏んでいられるほど暇ではない。
ん……?
圭織のディパック?
加護も飯田の持っていたボウガンも消えているという状況で、
やけに不自然にディパックだけが残されていた。
しかも、飯田が先程チェーンソーを取り出したにも関わらず、それは奇妙な膨らみを見せている。
一体何が入ってるの?
福田は手を伸ばし、そのディパックを手繰り寄せた。
保存します。
232 :
名無し娘。:2001/05/27(日) 10:02 ID:BAofPvhU
hoz
233 :
代打娘。:2001/05/28(月) 01:35 ID:RfHJoTQ6
土を蹴り、茂みをかき分け、林を抜ける。
あまり短距離走が得意でない安倍だが、この時100mのタイムを計っていたら
確実に自己新記録だったろう。
人間とは追いつめられたときにこそ、自分の真の力を発揮する。
火事場のクソ力、というやつか。
「……あ、明日香……明日香、置いてきちゃった……」
自分達が先程までいた場所──爆破された農家の近くまで来て、ようやく後ろを振り向く余裕が出来た。
隣に福田がいないのは当たり前だ。自分を助けるために、飯田を足止めしていたのだから。
そう思ったとき、安倍は彼女の身を気にして、急に不安を覚えた。
前回優勝者の名は伊達じゃない。
そうは言っていたが、チェーンソーに丸腰で太刀打ちできるはずがない。
…銃。コルトパイソンは?
そうだ、あれさえあれば…弾は切れていても、
あの銃の持ち主なら──明日香なら予備の弾を持っている、きっと。
あれが明日香の手に渡れば……、……。
…?
「…なんで、なっちが持ってるのさ…」
安倍のポケットには、いつ差し込んだのだろうか、コルトパイソンが残っていた。
ダメじゃん。。。
234 :
代打娘。:2001/05/28(月) 01:38 ID:RfHJoTQ6
今から戻れば、間に合う?
そんな考えが浮かんだ。
でも…駄目だよ。また明日香の足手まといになっちゃう。
けど、後ろからコッソリ行けば…。
まだ手元には、鎌がある。刃こぼれがひどいけど、十分使える…かな?
でも、ヤダ。もうあんな怖い思い、、したくない。
けど、明日香を見捨てられない。なっちを助けてくれた、明日香…。
不安、心配、心細さ、恐怖、迷い。
様々な感情が、ごった煮になって安倍を惑わせる。
安倍はそんな自分がつくづく嫌になった。
意気地のない自分。オロオロと立ち尽くすことしか出来ない自分。
「…ええぃ! 何やってるんだ安倍なつみ!」
頬を平手で二度叩き、自分を戒める。
そしてありったけの勇気を奮い起こし、今来た道を戻ろうとしたその時。
遠くで、ガサガサと茂みをかき分ける音が聴こえてきた。
──明日香!?
安倍の表情がパッと明るくなった。
無事だったんだ、明日香!
しかしその希望は、いとも簡単にうち砕かれる。
安倍の視界に入ってきた影は、福田にしてはあまりにも大きすぎたから。
「か…か、おり…」
235 :
代打娘。:2001/05/28(月) 01:42 ID:RfHJoTQ6
安倍は一歩出しかけた足を引っ込め、慌てて後方に退いた。
民家の、崩れ掛けた壁の陰に身を潜め、目だけを覗かせる。
明日香は? ……まさか、まさか……
嫌な想像が脳裏をよぎる。
まさか、あのチェーンソーでバラバラにされて…。
こんな時ばかり、安倍のイマジネーションは絶好調で働く。
福田の五体が、あのギザギザの刃によって刻まれる。飛び散る鮮血。内蔵とかも飛び出ちゃったり……。
やだ、やだよ、やだやだ……明日香…あすかぁ……っ…!!
恐怖で荒くなりそうな呼吸を無理に抑え、壁の向こうの様子を窺う。
飯田は、既に安倍の隠れている民家の側まで来ていた。
大きな目を細めて辺りを見回している。
肩に担いでいる、大きめのチェーンソー。
それを見たとき、安倍の中に、今までとは違う感情が芽生え始めた。
「あのチェーンソーが、明日香の命を奪ったんだ……」
知らずに口に出していた。声は飯田にも聴こえたらしく、ハッと安倍のいる方に顔を向ける。
飯田の足音が徐々に大きくなっていく。それに比例して大きくなる感情は、決して恐怖ではなく──
後藤真希を、飯田圭織を染めた、黒い感情。
…おそらくこのプログラムのテーマともなっている、
それは憎悪。
鎌を握る右手に、今まで以上に力がこもる。
「絶対、許さない…」
あと5メートル、4メートル、3メートル、2メートル、…射程距離。
「……わああああぁぁぁぁぁぁ!!」
狂ったような雄叫びを上げて、安倍は飯田に飛びかかった。
236 :
代打娘。:2001/05/28(月) 01:46 ID:RfHJoTQ6
「…何、コレ…」
福田は、その黒い球状の物体を、呆気にとられながら見つめた。
ボーリングの、玉……???
これは、いったい何の冗談なのだろう?
っていうか、圭織さ〜ん。君は一体、何キロ担いでここまで来たんだい…?
なりふり構っていられないということで、取り敢えずボーリングの玉をディパックに戻し、
肩に担ぎ上げる。
「とっ、とと…重いぃ……」
後ろに思い切り重心がかかり、フラフラとよろける。
玉に刻まれた、サイズ表示は16。男性用サイズです。 …ふざけんなぁ!
これでは余計、攻撃力ダウンではないだろうか。
そんな心配をする福田だった。
237 :
代打娘。:2001/05/28(月) 01:54 ID:RfHJoTQ6
振り下ろした鎌は、安倍が予想していた地点よりも遙か下方、地面に突き刺さって止まった。
渾身の一撃は、飯田圭織にあっさりとかわされてしまった。
勢い余って自分も派手に転ぶ。
しかし今の安倍なつみは、普段の鈍くさい彼女ではない。
土色に染まった鎌を、地面から引き抜きざま、飯田の方へ振りかざす。
ガツッと硬い音を立てて、刃の動いていないチェーンソーと二度目の衝突を起こした。
「よくも明日香を……返して……明日香を返してよ!」
その言葉に、飯田は眉をひそめた。何の話だ?
飯田が疑問を浮かべている間も、安倍の攻撃は休まらない。
身体ごとぶつかるような勢いで、闇雲に鎌で斬りつける。
明日香を返せ、と、何かの呪文のように唱えながら。
いい加減うっとうしい、飯田がそう思った次の瞬間、安倍の身体は弾き飛ばされた。
「きゃうっ!」
鎌が安倍の手を離れ、地面を回転しながら滑っていく。
チェーンソーで薙ぎ倒されたようだ。白い腕がぱっくり割れ、血が溢れ出す。
「い、痛ぃ…」
脈を打つ毎に、激しい痛みが安倍の腕を襲う。
足音と、チェーンソーの刃が回りだす音を聞き、慌てて身を起こした。
感情を忘れた眼をした飯田が、そこにいた。
「何のことだかよく判らないけどさ、いい加減うざいんだよね」
左手に持っていたチェーンソーに傷ついた右腕を添え、頭上へ振りかざす。
沸き上がりそうになる恐怖を押し込めて、必死で相手を睨んでいた安倍だったが
鋸状の刃に日光が反射して、その眩しさに目を瞑った。
逃げ出せなかった。
いや、動けなかった。
まるで蛇に睨まれたカエル、あるいはメデューサに魅入られた人間のように。
「明日香…ゴメンね…」
押し寄せる絶望感の中で、安倍は覚悟を決めた。
238 :
代打娘。:2001/05/28(月) 02:01 ID:RfHJoTQ6
────!?
予想していた衝撃や激痛はまだやって来ない。
その、ほんの数秒間の間は、安倍にとっては妙に長く感じられた。
「…?」
目を開けて、顔を上げてみると、確かに飯田はそこにいた。
チェーンソーを振りかざした体勢もそのままに。
ただ、安倍を睨み付けていた瞳は、突然感情を取り戻したかのようにキョトンと辺りを見回していた。
…何? どうしたの?
「……辻?」
「へっ??」
飯田の一言に、思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。
こんなときに交信ですか?
「辻! また…何で止めるの? カオリはアンタのために──やめて!」
──また? って?
叫び声を上げながら、頭を抱え、その場に屈み込む。
そんな飯田の様子を、安倍は呆然と見ていることしかできなかった。
圭織の電波って、宇宙だけでなく死者の世界にも通じているのかな?
そんな呑気なことを、考えてみたりみなかったり。
239 :
代打娘。:2001/05/28(月) 02:16 ID:RfHJoTQ6
「う…うぅぅ……うああああぁぁぁぁああああ!!」
突然の叫び声に、腰を上げかけた安倍は再びひっくり返る。
飯田が立ち上がりざま、安倍に狙いを定め、下ろしていたチェーンソーを振り上げた。
その勢いがあまりに大きすぎて、飯田の背が反り返る。
反り返って───ゴン、と鈍い音が聴こえたかと思うと、そのままもんどり打って倒れた。
その一連の動作は、まるで背泳のスタート、あるいは直立からブリッジに移行する動作のようだった。
大きな目をパチクリとさせて、安倍は飯田の足元──自分の足元と言っても差し支えないが──を見た。
黒くて大きな球が、コロコロと余韻を残して転がっている。
ボーリングの、球…。
「スットラ〜イク! と言っても、一本だけだけど…」
──!!
二度と聞けないと思っていた声が、耳に届いた。
今度こそ、間違いない…
「なっち、大丈夫だった? 怪我ない?」
差し伸べられた手。その手の向こうに、変わらず優しい笑顔
荒い呼吸が混じった声。急いできてくれたことが、それだけで判る。
「あ、明日香ぁ…」
良かった、無事だったんだね、生きてたんだね、明日香…。
──あ!
「ね、明日香! 大丈夫なの? 手とか足とかちゃんとある? 内蔵出てない?」
「ハァ?」
こうして、感動の再会(?)は、ぶち壊しになった。
240 :
名無し娘。:2001/05/29(火) 09:17 ID:KUdea/sA
hozen
( `◇´)<行き交う人波 乱れる事なく どこかへ歩いて消えてく♪(保全)
242 :
名無し娘。:2001/05/30(水) 09:51 ID:e2Gk9cPQ
保全よ☆
243 :
名無し娘。:2001/05/31(木) 14:32 ID:03/naQao
hozen
( `◇´)<すきな時にだけ すきな分だけ
すきな様にして 帰るあなた〜♪(保全)
( `◇´)<女は愛嬌、男は度胸!(保全)
246 :
代打娘。:2001/06/03(日) 07:59 ID:xM/Jd5Ag
「なっち、いきなりで悪いけど、あの拳銃貸してくれないかな? 持ってるよね?」
急かされるように福田に言われて、安倍は慌てて自分のポケットを探った。
黒くてごつごつした物体を取り出し、福田に差し出す。
受け取ろうとした福田の手が、一瞬止まった。
「その腕…」
言われて自分の腕を見る。先程傷ついた安倍の腕は
その傷口から流れる血で、指の先まで真っ赤に染まっていた。
「大丈夫」と笑おうとした安倍だが、恐怖による震えが顔にまで来て、うまく表情が作れない。
「…あとで、手当てしよう」
言いながら、福田は拳銃を受け取った手で安倍を思いきり突き飛ばした。
その反動を利用して自分も反対方向へ飛ぶ。
二人のいた地点を、飯田のチェーンソーが通過し、
無感情に回り続ける刃が、地面を無駄に掘った。
着地地点は、むき出しになった和室の、畳の上。
転がりざま、福田はコルトパイソンのシリンダーを開き、薬莢を入れ替える。
空の薬莢が、バラバラと音を立てて落ちる。
体勢を立て直したとき、眼前には、体を変えて迫り来る飯田。
狂気を通り越し、心を無くしてしまったような表情。
目を覚まして、正気に戻ってほしい。一瞬だけ願ったが、それも無駄だと気付いた。
圭織……
「圭織、ゴメン!」
247 :
代打娘。:2001/06/03(日) 08:11 ID:xM/Jd5Ag
チェーンソーが福田の頭部をかち割るより前に、コルトパイソンが二度、火を吹いた。
飯田の肩、脇腹に、朱い華を咲かせる。
身体は銃弾が突き抜けた勢いでフラリと二,三歩、後ろによろめき、膝から崩れ落ちた。
福田の眼前を掠めて落下した凶器が、次は畳俵を削りだした。
ゆっくりと、飯田の身体から赤い液体が広がっていく。
銃を構えた姿勢のまま、それを見ていた福田は
ふいに、自分の手が震えていることに気付いた。
自分の手を血に染める覚悟は充分にできていた。そのつもりでいたが──。
汗を拭うつもりで額に手をやると、ヌルッとした感触。
手の甲に付いた、飯田の返り血を見て、またゾッとした。
「か、かお……かお……かおり……」
声に気付き、顔を向けると安倍が見えた。
突き飛ばされて尻餅をついた姿勢のまま、目を皿のように見開いて、飯田を凝視している。
「し、し、し……んだ……の?」
チェーンソーを引きずりがてら戻ってきた福田に、震えた声でそう尋ねた。
喉や唇が上手く動かないせいか、奇妙な発音で聞きづらい。(あるいは訛りのせいかも)
「大丈夫。死んではいないよ」
(殺せるわけ、ないじゃん…)
急所は外しておいた。福田の計算が間違っていなければ、飯田はまだ息をしている。
「か…かおり……!」
安倍が飯田の元に駆け寄り、しゃがんで畳の上に横たわっている身体を揺すってみる。
「なっち…あ、あんまり揺らしたら、」
圭織の傷に障るよ。福田がそう言いかけたと同時に、飯田の目がクワッと見開いた。
248 :
代打娘。:2001/06/03(日) 08:16 ID:xM/Jd5Ag
「ヒャァ!」
安倍は、文字通り驚いて飛び上がった。
飯田の手がゆっくりと伸び、安倍の首を掴みにかかる。
「やっ、来ないで、来ないでぇ!」
再び──三たび、か? 言い様のない恐怖に襲われ、必死にそれを振りほどこうとする安倍。
後方で……銃声がもう一度響いた。
二人の足元の土が、鯨の潮吹きみたいに湧き上がった。
条件反射的に、飯田がビクッと肩をすくめ、身を縮める。
さすがに三度も痛い目に遭えば、今の飯田にも銃に対する恐怖は芽生える(らしい)。
一度かたく瞑った目を開くと、そこいたのは安倍ではなかった。
安倍を守るように立ち、未だに硝煙を上げるコルトパイソンを突きつける福田がいた。
249 :
代打娘。:2001/06/03(日) 08:22 ID:xM/Jd5Ag
「圭織…向こう、行ってみる?」
「…?」
「さっき、私達が出会った場所。辻ちゃんを置いてきた場所だよ」
言われて、福田から目線を外し、林の方向を見た。
勿論ここからでは何も見えはしない。茂みの向こうに隠れてしまっている。
「もう、あそこには加護ちゃんもいない。それと、圭織が持っていたボウガンも。
これがどういうことか…判るよね? もし怖くて逃げ出したんなら、圭織の武器を
勝手に持って行ったりしないでしょ?
嘘をついていたのは、私達じゃない。圭織を騙していたのは…」
福田は、そこで言葉を切った。
もうそこから先は言う必要がない。それに、口にするにはあまりにも残酷すぎて。
「うそだよ、そんなの──」
「だったら行って見てきなよ!」
今までにない強い口調で、飯田の主張を斬る。福田は一度、大きな息の塊を吐いてから続けた。
「ねぇ…私達、圭織にとってそんなに信用無かった? 私はまだいい。でも、圭織にとって、
なっちはモーニングができて以来 ずっとつき合ってきた仲間だったんじゃないの?
大変な芸能生活の中で、喜びも辛さも、全部共有していた仲間だったんでしょ?
なのに…こんなのってないよ。あんまりじゃん…信じていた仲間に、憎まれるなんてさぁ…」
福田の後ろで、安倍のすすり泣く声が聴こえた。
「…もう、止めよう。今からでも、一緒に行こうよ。圭織がいてくれれば、心強いから、ね?
それとも、まだ信じてもらえないかな?」
250 :
代打娘。:2001/06/03(日) 08:27 ID:xM/Jd5Ag
「……」
加護がいたはずの密林を見つめている飯田。
悪い夢から覚めたような表情に、少しずつ後悔の色が浮かび上がる。
「明日香…」
「わかって、くれたんだね…」
相手を落ち着かせるように、柔らかな微笑みを浮かべ
福田は突きつけていた銃を下ろした…
その時だった。
ヒュン、と、風を切るような音が、二人の耳に届いた。
そしてそれが、飯田圭織が最後に聞いた『音』だった。
「────!?……圭織!!」
空気を切り裂く音と共に、今、福田の視界に映っていた飯田の首から上が横にスライドした。
僅かに遅れて上半身もそれに付いていく
そのまま視界からフェードアウトし、一瞬の後にドサッと人の倒れる音が聴こえた。
「……嘘?」
福田は見た。
倒れた飯田の、細く長い首筋に突き立っている、一本の矢を。
251 :
代打娘。:2001/06/03(日) 23:54 ID:xM/Jd5Ag
飯田の首を貫通していた矢は、ボウガン用の短いものだった。
持ち主は…思い当たる人物は一人しかいない。
「加護……あいつ!」
矢の飛んできた方向をキッと睨み付け、立ち上がろうとした福田のスカートが、引っ張られた。
見ると飯田が裾を握りしめている。
まだ僅かに意識があるのか、口の端から血の泡を吹きながら、何事かを呟いていた。
何? 何て言っているの?
矢を放った主のことも気になったが、今はそれより…
飯田の最期の言葉、一語一句逃さず読みとれるよう、福田はそちらに意識を集中した。
「…つ……に………られ…た……」
口内に溜まった血液のせいか、飯田はほとんど喋れていない。どうにか唇の動きで、読みとる。
「つじに…おこられ、た…? ころしちゃ……だめ…って…いわれた…。
わ…るいのは…あすかじゃない……ほん、とは…わかって、いたのに……しんじ…たく、なかった。
あすかも、……なっちも……つじも……、しんじて、あげられ、なかった…… って、どういうこと?」
声に出して、辿々しく復唱してみたが、その意味は福田にも理解しかねた。
252 :
代打娘。:2001/06/04(月) 00:16 ID:wv2Q5BB2
カオね、辻に怒られたんだ。
最初は明日香を投げ飛ばしたとき。二度目はここでなっちとやり合ったとき。
やめて下さい! って。安倍さん達を傷つけないで下さい! って、遠くから聴こえたんだ。辻の声が。
カオリ、馬鹿だった。
自分で、こんな戦争許せない、殺し合いなんて許せないって言っといて、自分が殺そうとしてんだもんね。
それも、昔からの大切な仲間を。
大切な仲間の言葉も、辻の声も信じないで、カオリは勝手に暴走していた。
…私、どうしちゃったんだろうね? 飯田圭織は、どこかで大事なネジを落としちゃったみたいです。
本当に、本当にゴメンね……明日香。なっちにも……ごめんね。
……あれ? 何でだろ? うまく 話せない。 おかしいな?
そっか わたし しぬんだ
「あ、す、か……ご、め、ん、ね……明日香、ゴメンね……」
途切れ途切れな言葉を、福田がそこまで読みとったとき
飯田は首をだらんと横に傾けて息絶えた。
「圭織、圭織……嘘でしょ? ねぇ?」
無駄だと分かっていても、飯田の名を呼びかけずにはいられなかった。
勿論、返答を得られるはずもなく、その行為は徒労に終わる。
飯田の横顔は、無表情にも見えた。
大きく、美しい黒目は開いたまま。だがその瞳には、哀しみが宿っていたようにも思える。
思える──だけだ。実際はどうなのか分からない。
飯田圭織が、何を思って死んだのか。
253 :
代打娘。:2001/06/04(月) 00:21 ID:wv2Q5BB2
飯田の口からダラダラと零れる液体は、傷口から流れるそれと混じって、間もなくその場に池を作った。
黒い水たまりにポツリと雫が落ち、波紋が同心円状に広がった。
あれ? …私、泣いてる。
はは…まだ私にも、涙なんてものが残っていたのか…
その姿勢じゃ、辛いよね? と、飯田の目を閉じさせて、仰向けに寝かせてやる。
首に刺さった矢は余りにも深過ぎたため、抜いてやれそうになかった。
気を静めた後、一度大きく深呼吸して、立ち上がる。
矢の飛んできた方向には、何事もなかったような静寂。
おそらく加護亜依は、矢を撃ってすぐに逃げ出したのだろう。
追いかけることもできるが、おそらく無駄な行為、下手すれば相手の思うつぼだ。
いずれにしろ、怒りや憎しみを通り越した脱力感で、とてもそうする気になれなかった。
「そうだ、なっち。怪我の手当てを──」と、安倍の方を向く。
そしてすぐに、安倍の様子がおかしいことに気付いた。
「なっち?」
呼びかけても、返答がない。
いや、反応そのものがない。
安倍はその大きな目を最大限に見開き、地面の一点を凝視していた。
しゃがみ込んだ体勢で、震えを抑えつけるように、自分の身体を両腕で抱き締めながら。
それはまるで、数刻前に福田が初めて安倍を見かけたときのように。
254 :
代打娘。:2001/06/04(月) 00:24 ID:wv2Q5BB2
「なっち、大丈夫? ねぇ?」
駆け寄り、もう一度耳元で名を呼ぶ。
それで安倍はようやく顔を上げた。が、目の焦点が福田に合っていない。
その瞳は遠くを見つめている。あるいは、何も映していないのかもしれない。
──やばい。
福田は直感的にそう思った。
以前プログラムに参加したとき、その最中に福田は、こんな症状の人間を何度か見てきた。
この非現実的な現実に耐えきれなくなり、精神崩壊を起こす人間を。
──そして、その者の末路も。
「も…いや……」
「えっ?」
「もうイヤァ!!」
心の底からの叫びと共に、安倍が勢い良く立ち上がる。
福田は突き飛ばされるような形で、尻餅をついた。
「もういやだ…もうたくさん……もういや……」
うわごとのように呟く安倍の瞳には、やはり何も映っていないようだった。
……駄目、行かないで…なっち!
急いで立ち上がり、安倍の肩を掴もうとする。
が、直後に安倍は、何の前触れもなく駆け出してしまった。
福田の振り下ろした手が、虚しく空を切った。
畜生! なんでこうなるかなぁ!?
安倍の後を追って、福田も走り出した。
福田の去った後そこに残されたものは、飯田と、彼女が愛用(?)したチェーンソー
…そして、ボーリングの玉、だけだった。
『残り7人』
255 :
代打娘。:2001/06/04(月) 00:33 ID:wv2Q5BB2
更新一区切り。構成メチャクチャ…このシーンだけやたら長いし。
補足:以前、制服の設定云々って話が出ましたけど、
ここでは『美少女日記』や映画版バトロワみたいなブラウスより
いわゆる船乗りさんの着るようなセーラーを想像していただけるとうれしいっす。
…この先使う可能性あるので。
保全。姐さんに期待。
257 :
名無し娘。:2001/06/06(水) 02:15 ID:/Ak8zq5A
明日香いいね。こんなに活躍してるのひさびさに読んだ。
壊れた安倍がどう動くか・・・期待してます。
258 :
代打娘。:2001/06/06(水) 23:04 ID:BBx3xHZk
正午。太陽が丁度、真上に来る時間。
ゲーム開始から12時間が過ぎ、朝の放送から6時間が過ぎた。
そして再び、スピーカーから雑音と共に、間の抜けたチャイムが流れ出す。
学校の始業時に流れるようなそれは、参加者のユニフォームに合わせたのだろうか。
そんなことを考えながら、矢口は放送に耳を傾ける。
『おーっす。お前ら、ちゃんと昼飯は食ったか?これから昼の放送を始めるでー。
じゃあいつものように、脱落者の名前から。
5番 後藤ユウキ 6番 石川梨華 7番 市井紗耶香 9番 飯田圭織
以上や。もう残り半分切っとるんやな。いいペースやで。その調子で頑張れよ。
次、禁止エリア言うで。A−05、H−01……。
。
。
現在このエリア内にいる奴は、1時間以内に出ていくようにな。以上、放送を終わるで』
ぷつっ、という音を最後に、スピーカーから音が途切れた。
実にあっさりした放送。なぁにが“その調子で頑張れよ”だよ。ふざけんなっつーの。
金髪の小柄な少女は、やり場のない苛立ちを持て余しながら地図に向かっていた。
禁止エリアのメモを取るため、右手にペンを持っていた矢口は、そのついでに
参加者名簿を広げて脱落者の名前に印を付けてみた。
…そして、その行為にすぐに後悔を覚えた。
“もう半分切っとるんやな”つんくの放った言葉が重くのしかかる。
259 :
代打娘。:2001/06/06(水) 23:11 ID:BBx3xHZk
後藤ユウキとは余り接した記憶がない。市井は、自分の手で看取った。
石川は…武器も持たずにどうやって生き残れる? 半ば予想できた。だが……。
──カオリ。
名を反芻する度に、飯田圭織との思い出が蘇る。
飯田とは、タンポポというユニットを通じて、よく行動を共にしていた。
お互い我の強い性格だ。ぶつかり合うことも多々あった。
しかし、苦楽を共にしてきた絆は、どうやら自分で思うよりも深かったようだ。
気が付けばタンポポも…自分と加護以外はもう…
……駄目だ。これ以上考えちゃ駄目だ。考えちゃいけない。考えちゃいけないんだ。
みんなを想って泣くのは…生き延びてからでも出来る。
気を緩めると、また涙が流れそうになる。
矢口は目頭を押さえ、必死に堪えた。
そして、過去を振り返りそうになる思考のベクトルを、これから先の方向へ向け直す。
どうすれば自分たちは生き残れる?
しかしそれもまた、答えの出ない問い掛けに過ぎなかった。
260 :
代打娘。:2001/06/06(水) 23:18 ID:BBx3xHZk
──そういえば、ごっちんはまだ生きてるんだ…。
「ごっちんがどうかしたんか?」
自分でも気付かないうちに、声に出して言っていたらしい。
隣を歩いていた中澤が、不思議そうに矢口を見ている。
「まさか、あんたの捜し人って、ごっちんなんか?」
意外だ、と言わんばかりの声をあげる。
確かに、中澤が驚くのも無理はない。
矢口と後藤は、それほど仲が良いわけではなかった。
話すことは多少あっても、あくまで仕事上のつき合いでしかない。
むしろ矢口にとっては、安倍や吉澤(今となっては信じられないが)の方が親しい間柄であった。
中澤も“捜し人”と聞いて、その辺りの面々を予想していたのだろう。
だが、すぐに心当たりが見つかる。
「ひょっとして、紗耶香のことで、か? さっき何か言うてたね」
あぁ。そう言えば感情に任せて口走った記憶がある。
別に中澤に話したところで不都合はないだろう。
矢口は、市井の今際の言葉を、その時に自分が見た状況の一部始終を、中澤に伝えた。
261 :
代打娘。:2001/06/06(水) 23:26 ID:BBx3xHZk
「へぇ…、それはまた厄介なこと頼まれたなぁ」
確かに。あのときは勢いで了解してしまったが、この状況で一人の人間を捜すのは非常に厳しい。
何しろ、いつどこから、また吉澤などに狙われるか分からないのだから。
まったく、無茶なお願いしてくれるよ…。
内心で故人に悪態をついてみる。
人間、死ぬ間際になると、混乱しているのだろうか
どうでもいいようなことを言い残すケースが多いらしい。
矢口は、TVか何かで、そんな話を聞いたことがあった。
それを考えれば市井は、比較的しっかりした“遺言”を残せたと言えよう。
自分の今、一番心残りなことを伝える。うん、理想的。
(いっそ、どうでもいい遺言の方が、ヤグチとしては楽だったんだろうな…。『ネギマ食べたい』とか、
『矢口…セクシーになったね』とかさ。)
「とすると、紗耶香を撃ったのは、ごっちんか?」
───はぁ!?
思いがけない中澤の言葉に、矢口は思考の世界から現実へ一気に引き戻された。
「な、何言ってんのさ…」
笑い飛ばそうとしたつもりだったが、言葉に詰まる。
確かにそれだったら、市井が加害者の名を言わなかったのも納得できるわけだが。
いや、そんな馬鹿な…ごっちんに限ってそんなこと…。
「まぁ聞いて。これはあくまであたしの推測なんやけどな…」
唇を舌で湿らせながら、中澤が話し出した。
262 :
代打娘。:2001/06/07(木) 06:05 ID:249vntdQ
「ごっちんが紗耶香を撃った理由、それはユウキのことや」
と、おもむろに中澤が取り出したのは、長い柄にまだ血がこびりついている、あの鉄斧だった。
「こいつ、な。紗耶香が倒れている側に落ちてたやろ?
そしてそこからあまり遠くない場所でユウキが首を斬られていた。ということは、や。
まず、紗耶香がこれを使ってユウキを殺ったって考えるのが自然やと思わへん?」
「…」
矢口も、一度はそれを考えた。
それは、中澤の言うとおり、そう考えるのが一番自然だったからだ。
だがその考えは、市井と友人関係にある矢口の主観によって打ち消され、意識の奥底に封じ込めていた。
だって…
「だって紗耶香がそんなことするはずないよ。紗耶香は…人を殺すような奴じゃない」
だから、きっと、紗耶香を殺した奴が、紗耶香のそばに斧を置いていったんだ。
あたかもユウキ殺しの犯人が、紗耶香であるぞと見せかけて…
「誰がそんなことするねん。推理小説やあるまいし」
…そりゃそうだ。
ここじゃ、いくら他人を殺しても犯罪にはならない…ハズ。
(常に死刑執行人が辺りをうろついている状況だけどね)
誰かに罪をなすりつけるなんて、まるで意味のない行為だ。
「まぁ、最後まで話を聞いてや。確かに紗耶香はそんなことするはずない。あたしもそう思うで。
せやけど自分が襲われたときまで、人殺しは良くないよーなんて、そんな悠長なこと考えるかな?」
「って、どういう……あ!」
「紗耶香を看取ったんなら知ってるやろ?あいつの手足には、無数の切り傷があった。
どう見ても大きな刃物を使わな出来んような、深いものまで、な。
多分あの場で、紗耶香は後藤ユウキに襲われた。しかも、この斧で。
それで…自分の身を守ろうとして、抵抗したんやろな、結果的にユウキを殺してしまった。
それをごっちんが見てしまい、ショックのあまり……どや?有り得ない話でもないやろ?」
263 :
代打娘。:2001/06/07(木) 06:12 ID:249vntdQ
言いながら、ちょっと自分の推理に酔いしれる中澤。アタシって、頭え〜な〜。
顎に手をあて、探偵風に格好つけてみる。
が、矢口が気付いてくれず、哀しくなってすぐに止めた。そして思いついた考えを続ける。
「そやな…誰かがユウキの首を刈り、居合わせた紗耶香も襲った、という方がまともな考えやろうけど、
それだったら紗耶香は相手の名前を言うよな? 矢口の身の安全を思うならなおさら。
紗耶香の遺言から察するに、前者の方が有力な考えやと思わへんか?」
そうか…矢口は頷いた。どうして気付かなかったんだろう。
なるほど、それなら全ての辻褄が合う気がする。
『後藤に取り返しのつかないことをした』。紗耶香のあの言葉の意味も、これで合点がいく。
紗耶香が偶然(どんな偶然が起きたらああなるのか分からないが、女の子の力で普通に斧を
振り下ろしても、首なんか落とせない…ハズ)ユウキを殺してしまったとして、
その現場をもし、ユウキの姉である後藤真希──ごっちんが見ていたら?
身内を殺されたことで逆上したなら、例え相手が紗耶香でも、衝動的に撃ってしまってもおかしくない。
…ヤグチにも、妹がいるから何となくその気持ちは分かる。
いや、身内の死を目撃したショックは、きっとヤグチなんかの想像を遙かに超えている。
だから、もしこの推理が正しかったとしても、ごっちんは悪くない。ごっちんを責めることは出来ない。
けど……それって、そんなのって──────悲しすぎる。
「まぁ、取り敢えずごっちんなら大丈夫やな」
矢口の落ち込んだ雰囲気を察してか、中澤が幾分砕けた調子で言う。
264 :
代打娘。:2001/06/07(木) 06:19 ID:249vntdQ
「なんでそう思うの?」
「あいつは、そんな簡単に死ぬようなタマやない。どう言えばいいかよう分からんけど、
ごっちんは生まれ持ってのヒロインていうかな、そういう星の元に生まれた子なんや。
悔しいけど、アタシらには無い、何かを持っている…そんな子が、脇役みたくコロッと死ぬもんかいな。
あの子なら大丈夫。裕ちゃんの勘は当たるんやで?」
「それって、圭ちゃんや紗耶香は脇役でしたって意味?」
「んっ? あっ、いや、そういう意味やなくて…」
矢口の突っ込みに、中澤はひどく動揺した。
けど…あながち外れてもいないかもしれない。矢口は思った。
実際、なっち──典型的ヒロインと言うべき安倍なつみは、まだ生きているのだ。
このゲームで生き残れるだけの強運と精神力を持った人間。それを芸能界は求めているということなのか。
ん〜、ということはヤグチも、このまま生き残ればヒロインの資格アリ?
……はっ! 何考えているんだ矢口真里!
「…何考えてるん? 自分」
「えっ? あっ、うん、なんでも、ないよっ」
今度は中澤の突っ込みに矢口が狼狽した。
でも…。矢口は、嫌味なくらいに晴れ渡る青空を見上げて願った。
ごっちん、なっち…。ヒロインの座は二人に譲るよ。だから…絶対生き延びてよね…。
その時、ちょうど誰かの足音が左側……矢口達から向かって右から聴こえ、間もなく左へ消えていった。
「えっ!?」
矢口が声をあげ、中澤の方を見る。中澤もまさかといった表情をしていた。
まさか──ごっちん? それとも、なっち? あぁ、神様! 早速ヤグチの願いを叶えて下さったんだね!
「あっ、ちょっと待ちぃな、ヤグチ!」
思ったが早いか、矢口は中澤の制止も訊かず、足音の去った方向へ向かって走り出していた。
( `◇´)<結局私のわがままね 涙は本気よByeByeBye〜♪(保全)
266 :
名無し娘。:2001/06/08(金) 03:01 ID:NZtmFmcU
レンタル開始保全
267 :
名無し娘。:2001/06/09(土) 12:35 ID:BtCOBg4w
hozendesu
保全。
( `◇´)<結局なんにも残らない あなたとの恋に Bye×3〜♪(保全)
ずっとまってま〜す。
271 :
代打娘。:2001/06/14(木) 00:04 ID:MK9tXujc
待たせてごめんち。
272 :
代打娘。:2001/06/14(木) 00:31 ID:MK9tXujc
聴こえるのは、自分の足音と息づかいだけ。
何処にも行く場所なんて無い。逃げる場所なんて無い。
でも、走っていた。
元々体力はあまり無い方なのに、この時ばかりは爆発した感情がエンジンの役割をしてくれた。
スクロールしていく景色。
こんな小さい田舎の島だ。移り変わる景色なんて、もう見飽きてしまった他愛のないものばかり。
いや──普段の安倍なら、これを見て喜ぶのだろう。
自然を見れば、故郷の室蘭を思い出せる、と。
(もっとも、ここと室蘭は東京から見てまるきり逆に位置しているのだが)
そんな“見慣れた”情景に突然飛び込むんできたもの、見慣れることの出来ないモノ。
──さっ、さ、や、か……?
仰向けになった市井紗耶香。辻と同じような土気色の顔。飯田と同じように口から赤い糸を垂らしている。
思わず目を逸らすと、そこには首と胴体の離れた少年。
後藤ユウキが、カッと見開いた眼で安倍を睨み付けていた。
「い、い、イヤアアアアアァァァァ!!」
安倍の走りに、ますます加速が付いた。
273 :
代打娘。:2001/06/14(木) 00:34 ID:MK9tXujc
『……これから、昼の放送を始めるで。……』
耳に飛び込んできた、スピーカ越しのつんくの声。
『……まずは、脱落者の名前から……』
イヤ! 聞きたくない!
『5番 後藤ユウキ』
瞬間、安倍の脳裏に克明に蘇る、首だけになったユウキの眼差し。
やめて!
『6番 石川梨華』
福田と二人で発見した、人形座りで胸を真っ赤に濡らした石川。
もう、イヤ!
『7番 市井紗耶香』
名を呼ばれる毎に、その者の最期の姿が文字通りフラッシュバックする。
そして──
『9番 ……飯田圭織』
「イヤーーーーーー!! もぉ嫌! もうたくさん! もぉやめてよぉ!!」
耳を塞ぎ、声をあげながら安倍のスピードは更に早まる。
もう、あとの放送は聞いていなかった。
安倍にとっては、その後の説明…禁止エリアなど、どうでも良かったのだろう。
いや、あるならいっそのこと、足を踏み入れてしまえばいい。もう……こんな世界、イラナイ。
274 :
代打娘。:2001/06/14(木) 00:43 ID:MK9tXujc
「ほら、あの声! 間違いなくなっちだよ!」
喜び勇んで地を駆ける矢口。こちらも徐々に加速が付いていく。
「あ、あぁ…そやな」
しかし中澤の表情は浮かなかった。
確かに声はなっちや…せやけど、あの悲鳴、ただごとやない。誰かに追われてるんか? なっち……
そんな不安や危惧、そして──
あぁ、もう! こんなに走るんやったら斧なんか出すんやなかったわ!! 走りづらくてかなわん!
ちょっと疲れ気味な中澤裕子、27歳。
(うっさい! え〜おかげさまで、もうすぐ28やで! 大きなお世話や!)
「ちょっ、矢口ぃ…。もうちょっと…ペース落とさへん?」
中澤が音をあげている間に、先導していた矢口は視界の外、茂みの奥へ進んでしまった。
「だぁ〜、もぅ! ちょっと待ってぇな!」
半ばヤケになりながら、肩からずり落ちかけていたディパックを背負い直す。
一度消えた重量が再び中澤の肩にかかる瞬間と、茂みの先でドン、という音が聴こえたのは同時だった。
へ……今の? 矢口!?
「矢口!!」
咄嗟に、腰ほどある茂みを一気にかき分け、その先の、視界の開けた平地に飛び出す。
そこには…まるで神隠しに遭ったかのように、誰もいなかった。
275 :
代打娘。:2001/06/14(木) 00:49 ID:MK9tXujc
「矢口…? 嘘やろ? どこ行ったん…矢口ぃ!!」
ぐにゃっ
「ぐぇっ!」
中澤が一歩踏み出したそのとき、その一歩が柔らかな何かを踏んだ。…何やの??
「ゆ、裕ちゃん…踏んでる、踏んでる……」
「んな!?」
足の下には、何故か仰向けに倒れている矢口真里がいた。
ディパックを背負ったままひっくり返っているから、その姿はまるで子ガメ…。
「何こんなとこで寝とるん? 自分」
「好きで寝てるんじゃないやぃ……早く足どけてよ!」
「……っ、テテ」
中澤と矢口がコントのようなやり取りをしている最中、二人のものとは別の声が、右手から聴こえた。
矢口はそちらに顔を振り向け──振り向けた顔の、二つのパーツ…眼と口が、大幅に広がった。
きっと絵にしてみたら、瞳はザ・シンプソンズ(参考資料:CCレモンのCM)並みに丸く飛び出し、
顎の外れ方は地面まで届かんばかりの勢いだっただろう。
とにかく、この子ガメにそれだけの驚きを提供した人物は…
「…あ、あす、あす、あす、あす、か……さん?」
「明日香…」
矢口との衝突事故に遭い、尻餅をついている…福田明日香、その人がいた。
276 :
代打娘。:2001/06/14(木) 01:14 ID:MK9tXujc
「あれ、矢口と…裕ちゃん」
「明日香ぁ! なんだよぉ、来てるなら声かけてくれればいいのに!」
矢口は立ち上がると、その場の状況も忘れ、楽屋にいるようなノリで福田に抱きついた。
そして福田の肩に手を置き、一旦自分から離して、その顔をじっと見つめる。
「う〜ん…ヒロインって言うより、“曲者(くせもの)”ってカンジかな…」
「…何の話?」
矢口の言葉に、訝しげに眉を寄せる福田。
「あぁ、そのアホはほっといてええで」と、中澤。
「ゴメン、矢口。今はゆっくり話している暇がないんだ」
と、矢口を引き剥がして福田が言う。「なっちを捜さないと…」
「何かあったの?」
って、ゆっくり話してられないって言ってるのに…おいら、馬鹿だ。
だが、福田は特に意に介す様子もなく、一度だけコクリと頷く。
「あ、あぁ〜ちょっと待って! ヤグチ達も一緒に行くよ。ね、裕ちゃん?」
中澤が「あぁ」と返事をする前に、福田が首を振った。今度は、横に。
「いい…よ。なっちがああなったの…私の責任なんだ…それに、矢口達を危険に巻き込みたくない…」
「で、でも! せっかく会えたんだし…」
矢口のその言葉に、福田は躊躇いを覚え、少し俯いた。
そう、このゲームでは一度別れた人間と再会することが非常に困難だ。
それどころか今こうして巡り会えたことも奇跡と言える。
「ね! だから一緒に──」言いかけた矢口の目の前に、ズイッと何かが押しつけられた。
「なっちを見つけたら、必ずここに戻ってくる。だからそれまで…これ預かっといて」
「え? ちょっ…」
両腕にズッシリと重い感触。矢口の持っている物と同じ、縦に長い形状の…ディパック。
「これ…」
「盗られると色々都合悪いから、矢口が持ってて…ね?」
言ってから福田は、スッと中澤の方に視線を合わせて、微笑んだ。
まるで、何かの合図を送るように。
277 :
代打娘。:2001/06/14(木) 01:25 ID:MK9tXujc
「明日香!」
去りかけた福田の背中に、中澤が呼びかける。
「禁止エリア…向こうの集落周辺は多いからな。気ぃつけてや!」
…了解しました。サンキュー、裕ちゃん!
福田は振り返らず、手を大きく振ってそれに応えた。
「行っちゃった…」
呆然と福田の姿を見送っていた矢口が、ポツリ呟く。
そういえば、さっきまでの安倍の悲鳴が、今は聴こえない。
その他に銃声なども響いた様子はなく、誰かに襲われた可能性は…無いだろう。無い…と、信じたい。
間に合ってくれればいいけど。抱えていたディパックに、僅かに力が入る。
一方で中澤は別のことを考えていた。
チラリと、矢口の持っているディパック──福田の持ち物であるそれを、見やった。
盗られると都合が悪いから…何故? 今もこの先も肌身離さず持ち続ける物を『盗られる』と言った。
この辺りに横行しているのは殺人犯…または強盗殺人犯だけだろう。ただの引ったくりなどいるものか。
荷物を奪われる、それは多くの場合、持ち主の死を意味するか、戦闘中に第三者によって盗まれるか。
どちらにせよ──。
“矢口達を、危険に巻き込みたくない…。”
なんやろ…この嫌な予感は。
「矢口…行くで」
「え? でもここで待ってろって、明日香が──」
「判らへんの!? このままやったら、二人が危険や!」
一度軽く跳んで、ディパックを担ぎ直して中澤が走り出す。
「あわ、わ、待ってよ、裕ちゃん!」
後を追おうとした矢口が、ふらついた弾みで何かに躓いて転んだ。
あ、あの〜…荷物が……メチャクチャ重いんですけど……
矢口真里、145cm。ディパック二つは、やや辛い。(うるさーい! 身長は関係ねぇやい!)
──んん? そういえば明日香って名簿に載ってなかったような…あれぇ!?
最初に浮かぶべきはず……もとい、浮かんだはずの疑問に、今更気付く矢口であった。
278 :
代打娘。:2001/06/14(木) 01:34 ID:MK9tXujc
( ` ◇´)<根性、根性! 人生やったもん勝ちやー!!
えっと、ささやかながらレスです…(超亀レス)
安倍&福田コンビは、実は書く上で一番苦労しています。自分にとって最も動かしづらい二人。。
おかげで、どこかクールでない福田さんが見れる、珍しいスレとなっております。
(そういや他所でなかなか彼女を見かけない…需要がないのかな(0T−T0)
その点、姐さんは(略
しかし駄文もさることながら、出演キャラが片寄ってますね。あの子はいつ出るんだろ…ホントに(汗
ところで、確認せずに上げちゃったんですけど…矢口って妹いましたっけ?
279 :
名無し娘。:2001/06/14(木) 21:45 ID:xg3o8dyQ
hozen
280 :
名無し娘。:2001/06/15(金) 01:12 ID:w8G4MsP2
妹はいましたね、確か。背は矢口より高いそうです。
( `◇´)<読んで半年たったんや・・・(保全)。
保全。
283 :
名無し娘。:2001/06/19(火) 10:21 ID:kj5c2ibA
hozen
姐さん28歳(保全)。
285 :
名無し娘。:2001/06/21(木) 10:10 ID:V/AlplkY
hozen
286 :
名無し娘。:2001/06/23(土) 02:48 ID:ASIgEKlY
保全。
287 :
名無し娘。:2001/06/24(日) 16:43 ID:2G4t6dwY
hozen
288 :
名無し娘。:2001/06/26(火) 17:48 ID:Hb7L5xAI
hozen
( `◇´)<今日は保全にきたで。
290 :
名無し娘。:2001/06/28(木) 03:54 ID:gC9UfzSM
hozen
291 :
名無し娘。:2001/06/29(金) 03:45 ID:DGFsgs8k
2週間過ぎた。そろそろかな?保全
土曜日保全。
293 :
モー娘。板に名無しさん(羊):2001/07/01(日) 01:31 ID:THZCWuEU
スマソ、保全age。
294 :
y2k:2001/07/01(日) 07:55 ID:qtZsQr4w
はじめて読ませてもらいました。・・・すげぇよ、作者さん。
心の描写がいい感じです。おもしろいです。マジ。
ゆっくりでいいので更新頑張ってください。
295 :
:2001/07/02(月) 06:21 ID:EXVpy6eg
296 :
名無し娘。:2001/07/02(月) 11:55 ID:raze55Hs
hozen
( `◇´)<ネオンがまぶしいわ。
( `◇´)<出かけよう 夏の海 夏の風 夏の恋物語♪
299 :
名無し娘。:2001/07/04(水) 03:43 ID:vmsujy.E
もう夏ですね。。。保全
300 :
名無し娘。:2001/07/05(木) 01:04 ID:9Cx8ej4c
1ヶ月ぶりに、あっちのバトロワ更新されてたね。
こっちもそろそろ更新してほしいな保全。
301 :
代打娘。:2001/07/05(木) 02:03 ID:D2vTbLEE
( ´D`)<いちーさんは、パツキンさんに生まれ変わって、らいせで幸せにくらしているのれす。
更新が滞って申し訳ねっす。大スランプ発生…鬱だ。
>>280さん、質問にお答えいただきありがとうございます。
>>294さん、たまにほめられると照れます。でも嬉しいッス。サンキュッス。
>>281-293さん
>>295-300さん、保全ありがとう(●´ー`●)
おっしゃる通り、始まってから約半年、舞台設定通り5月に終わらせる予定が
今や7月。。。焦ってます(涙
(0^〜^0)<ほんのちょこっと なんだけど♪
。。更新します、繋ぎ程度に。 本当にちょこっとすぎて笑えない。。
302 :
代打娘。:2001/07/05(木) 02:09 ID:D2vTbLEE
どこかで見たことのある、自然の多い公園。
上を見上げると、小高い丘の上、まだ若い──三十代前後だろうか──男女が手を振っている。
自分の側から、丘の上に向かって駆け出している、幼い少年の背中が見える。
『真希ー!ほら、サンドイッチ、食っちゃうぞー!』
──あれっ?これ、どこかで見たことある。
…そうだ、あの夢だ。
自分の意志とは関係なく、走り出している。
正確には、画面が揺れながら前に進んでいる、というべきか。
『まーき!ほら、頑張れ頑張れ!!』
──お父さんの声だ。お母さんもいる。ユウキも…随分ちっちゃいけど。
でも…多分この後だよね。突然、場面が飛んじゃうの…ほらっ!
ビジョンが移り変わり、そこに緑の草原や青空は無かった。
何処にでもありそうな広場の…いや、もう広場かどうかの認識もない。
ただ、目の前に寂れたベンチがある。そこに市井紗耶香が座っている。俯いていてその表情は見えない。
「紗耶香…」
──市井ちゃんだ。そうだ、だんだん思い出してきたぞ。
確かこの後…あれ? この後って、何だっけ? この後、どうなるんだったっけ??
俯いたままの市井が、ゆっくりと腰を上げる。
『後藤…後藤…』と、壊れたテープレコーダーのように、その名を連呼しながら。
嫌な予感がする、とっさにそう思っても、身体が動かない。
いや、正確に言えば──少々しつこいが──そこから、場面が変わってくれないのだ。
不自由なのか、左足を引きずりながら、近づいてくる市井。その手に何かを抱えている。
瞬間、断片的な記憶の、最後のピースが当てはまった。
──全部、思い出した。嫌だ…こっちに、来ないで! お願い…!
『後藤…ねぇ、後藤』
大事に抱えられた“それ”が、視界に入った。
──嫌だ!!!
分かっていたはずなのに、背中からザッと血の気が引く。そこで見たのは…
ユ ウ キ……。
顔を上げた瞬間、市井と目が合った。
うつろな市井の瞳。乾いた唇が、微かに動く。
『・・・・・・』
303 :
代打娘。:2001/07/05(木) 02:15 ID:D2vTbLEE
────
──
─
きっかけは、爆発による振動でも銃声でもない。
少し強めの、生ぬるい風が頬を撫で、後藤真希は目を覚ました。
枕代わりにしていた木の根元から身を起こそうとし、木漏れ日の眩しさに眼を細める。
──今の、夢…。
まだ意識は覚醒しきっていないが、目を瞑ると脳裏に焼き付いたあの映像が蘇る。
──やだな。変な夢。思い出したくない。
ほとんど無意識に、支給された腕時計に目をやる。時刻は、11時56分。
立ち上がり、衣服に付いた木の葉や草を払おうとして…目に入った。
スカートのベルトに差したままの、ワルサーPPK九ミリ。
夢じゃ、ない。
夢より前に見た、夢より鮮明な映像。
首と胴体が離れた弟、後藤ユウキの側から、血にまみれた斧を引き抜く市井紗耶香。
その虚ろな目が、引きずる左足が、夢とオーバーラップする。
違いを挙げれば、市井紗耶香の持っていたモノ。
あの夢の中で市井が持っていたモノは、血塗れの斧よりおぞましい。
市井の両手の中に、ユウキがいた。首から下を失ったユウキが。
夢じゃ、なかった。
市井ちゃんは──市井紗耶香は、あたしの弟を…。
ユウキを、殺した。
「ごっちん!?」
突然声を掛けられ、後藤はビクッと身をすくめた。
本能の中の警戒心が、後藤に再び銃を掴ませた。声のした方向に、震える銃口を向ける。
「撃たないで! 大丈夫、何もしないから…」
少女は立ち止まり、両手を上げ、敵意のないことを示す。
後藤が撃つ気配を見せないと悟り、またゆっくりと歩み寄る。
「良かった、会えて…。ずっと、捜してたんだよ?」
304 :
代打娘。:2001/07/05(木) 02:18 ID:D2vTbLEE
────────────────────────────────────────────
305 :
名無し娘。:2001/07/05(木) 02:32 ID:gVnvMhH2
後藤復活歓喜sage。
出会えた相手は、永らく出てこなかったあの人なのか?
今後の展開に興味津々。
放置かと思ってた・・・再開うれすぃ〜
307 :
名無し娘。:2001/07/05(木) 15:13 ID:GCO4bekk
ワーイ!再会だ☆代打娘。さん頑張れ!
長寿スレッド♪
( `◇´)<夏の海へ早く来ないかな?
310 :
y2k:2001/07/08(日) 15:47 ID:RLE3yHhI
hozendesudesu...
311 :
名無し娘。:2001/07/10(火) 00:20 ID:0t..VBsw
ho
312 :
y2k:2001/07/11(水) 03:22 ID:VqUSibmI
ザ☆ホゼン
313 :
名無し娘。:2001/07/11(水) 23:13 ID:p7mNPe/E
hozen
314 :
名無し娘。:2001/07/13(金) 01:20 ID:qIkFSloE
後藤復活したけどそろそろあの人の事も気になります・・・
315 :
名無し娘。:2001/07/15(日) 15:11 ID:knFii4A2
hozen
そろそろ保全
317 :
同胞県民:2001/07/17(火) 06:31 ID:XYuOEngI
期待保全
318 :
名無し娘。 :2001/07/18(水) 00:21 ID:Pnqqw8Yk
まだかな〜?
319 :
代打娘。 :2001/07/18(水) 03:16 ID:TIMWKdZ.
( `.∀´)<長いことお待たせしちゃってごめんなさいね! 俄然ネタに詰まってるわ!
いろいろと言い訳したいところだけど、んなコトやってる間に書けやゴルァ!
とお叱りを受けそうなので止めておくわ!
( `.∀´)<
>>305さん、あの人って誰かしら!? つんくさん? 平家のみっちゃん?
それともア・タ・シ?
>>306さん、人々が忘れた頃に更新しているわ!!
>>307さん、ありがとう! 星のマークがとてもステキよ!!
>>308さん、長期のご愛読ありがとうね!! 夏休みを利用して何とかしたいけど…
>>314さん、あの人って誰か(以下略
>>309-313,315-317さん、保全ありがとう! 最近は保全にも個性があるわね!
このスレが長く続いているのも、保全してくれている方のおかげね! 感謝しています!
保全のありがたみが分かったところで、アタシもお気に入りの小説スレを保全しに
行こうかしら!
( ゜皿 ゜)<(ソノ前ニコッチ書ケヤゴルァ!)
320 :
代打娘。 :2001/07/18(水) 03:24 ID:TIMWKdZ.
( `.∀´)<
>>318さん、なるべく早くに更新したいとは思っているわ!
(多分)放棄はしないから、お暇なら気長に待ってて頂戴!
(〜^◇^〜)<…だってさ。ところでウチら、何週間走り続けてる?
从 ~∀~ 从 <かれこれ一ヶ月以上や。この調子なら24時間TVのチャリティーマラソンも楽勝やな。
(〜^◇^〜)<キン肉マンじゃないけどさ、これが再開された頃、ウチら足上がらなくなってんだろうね
んでもって、明日香とかは優雅にハンモックで寝てるんだぜ、きっと…
从 ~∀~ 从 <(矢口…そのネタ、肉ヲタの彩っぺにしか通じへんで)
( `◇´)<気長に待ってるで。
( `◇´)<今日も保全にきたで。
323 :
名無し娘。:2001/07/20(金) 09:33 ID:pom8yxsU
俺も保全しときます。学生さんはもう夏休み。。。いいな
324 :
y2k:2001/07/20(金) 23:40 ID:.rJt.Quw
学生さんだけどまだテストよ・・・大学生だから。
ま、こんな短いスパンで保全しても意味無いけど、代打娘。さんリスペクト保全。
でっかい保全に愛がある(w
325 :
名無し娘。:2001/07/22(日) 02:51 ID:Dz10Uq46
保
待ち続ける
326 :
名無し娘。:2001/07/22(日) 04:46 ID:tYYkk3hw
( `.∀´)ρ< 保全しといてあげるわ
327 :
名無し娘。:2001/07/23(月) 03:32 ID:hbstHmQ2
( `.∀´)ρ< 今日も保全しとくわ
328 :
同胞県民:2001/07/23(月) 23:18 ID:CCIkhLyA
対策保全
329 :
名無し娘。:2001/07/24(火) 11:22 ID:IgkAzYQ6
保全しに来ました。
( `◇´)<深呼吸しよう!!
331 :
同胞県民:2001/07/25(水) 17:46 ID:qWVQ0aBM
待望保全
332 :
名無し娘。:2001/07/26(木) 04:28 ID:qJ.JhVdE
( `.∀´)ρ< 保全しとくわ
( `◇´)<Diary更新したで。(保全)
334 :
名無し娘。:2001/07/28(土) 14:19 ID:JfTMqT2.
なんか、すっごくさがってるので、心配保全。
( `◇´)<投票忘れずにいってや。(保全)
336 :
同胞県民:2001/07/29(日) 23:49 ID:3z7jTfgg
( ゜皿 ゜)<ホゼホゼ・・・
337 :
名無し娘。:2001/07/30(月) 15:14 ID:50WKpINo
保全ですわ☆
338 :
だいむす。:2001/07/31(火) 05:19 ID:WnFu0ceg
(0°−°0)<遅くなってしまってスミマセン。ちょいと大幅な路線変更がありまして…
从#~∀~#从 <おぅ! 路線変更によって話のクオリティも大幅アップやな?
(0°−°0)<んにゃ。エピソードが一つ削られ(ポカッ)ッテ!
从#~∀~#从 <何やねんそれわ! 何のために読者さん待たせとんねん!
(0°−°0)<ぶったなぁ! 頭叩くと脳細胞たくさん死んじゃうんだぞ! バカバカ!
从#~∀~#从 <アイタ!…何すんねんこんガキャァ! 上等やないかゴルァ!
:
:
以下エンドレス
ヽ;^∀^ノ<でわ、続きをほんの少しだけどうぞ〜(次回はあんまり待たせません…きっとね)
339 :
代打娘。:2001/07/31(火) 05:25 ID:WnFu0ceg
「……あ!」
「ん? どしたん?」
後方で突然声をあげた矢口を、中澤が振り返る。
「ゴメン、裕ちゃん。先行っててくれる?」
と言う矢口の視線は、中澤のいる方より90度右を向いていた。
「は? 何言うてんの矢口、こんなとこではぐれたら…あ、ちょっ、矢口!」
中澤が言い終えるより先に、矢口は自分の向いていた方向へ走り出す。
こんな急を要するときに…何考えてんねん、あの子は!
一瞬その場で狼狽えてしまったが、取り敢えず中澤は『急を要する』方を優先した。
その結果、矢口と中澤は別行動をとることになった。
ゴメンね、裕ちゃん…。
明日香達のこと、頼むよ。裕ちゃんならきっと大丈夫だよね。
ヤグチは今、どうしても最優先しなくちゃならないことがあるんだ。
今を逃したら、この機会を逃したら二度と会えなくなってしまうかもしれない。
一瞬見えた、少し茶色がかった黒髪の少女。
見間違いでなければ…いや、見間違えるはずがない。
ほんの一日前までは、あの平和なときには毎日のように見ていたんだ。
少女の去った方向へ足を進める。
視界が開けた。舗装されていない、乾いた土で出来た道があった。
集落がもう近い。
そして……
「良かった、やっと会えた…。ずっと捜してたんだぞ!」
340 :
代打娘。:2001/07/31(火) 05:32 ID:WnFu0ceg
矢口の声に振り向いた少女の、その動作はひどく機械的であった。
ロボットが何かのセンサーに反応するかのように、首だけをゆっくりとそちらに向ける。
いつもの眠たそうな眼、死んだ魚のような眼が矢口を見た。
その瞳に何か言い知れぬ恐怖を感じ、矢口は一瞬、後ずさった。
「ごっちん…」
名を呼んでみた。だが、これといって反応はない。
無理もない…。いろんなことが、あぁそりゃあもういろんなことがあった。
後藤真希の精神は少なからずおかしくなっている。無理もないんだ…。
矢口は、その無機質な視線に耐えながら後藤の元へ行き、今出来る限りで最高の笑顔を作ってみた。
「何か、久しぶりだね…いやホント無事で良かったよぉ、なっ!」
演技じみたハイテンション。自分でもそう思った。
けど、後藤が無事でいて安堵したことは事実。心から言ったことだった。
だが…やはり、後藤は何も答えない。ただ矢口の口の動きを観察しているだけだ。
なんか…気まずいぞ、オイ。
「あ、あーっと……そうだ、こんなトコで何してたの? 休憩? 食事?
そう言えばもうお昼だもんね、ごっちん食いしん坊だからパンだけじゃお腹空くっしょ? ハハッ」
気まずい空気を他愛ない話で必死に繋ごうとする。
何か、知り合って間もないクラスメイトといるときの、嫌な沈黙を防ぐ行動にも似ている。
矢口はそう思った。
だが、クラスメイト相手ならきっとここまで苦労はしないぜチクショー、とも思った。
「待っているの…」
初めて後藤が口を開いた。消え入りそうな声で。
この声を聞くのは久しぶりだ。しかし問題はその内容だ。
「待っている? 誰を?」
まさか紗耶香って言うんじゃないだろぉなぁ? そんなわけないか。じゃあ、誰を?
後藤の二言目を聞いて、矢口は耳を疑った。
「よっすぃーを」
341 :
代打娘。:2001/07/31(火) 05:39 ID:WnFu0ceg
342 :
代打娘。:2001/07/31(火) 05:44 ID:WnFu0ceg
安倍にとって、見覚えのある景色が広がる。
今度は故郷の室蘭と照らし合わせてではなく、ここ半日間の記憶の中で、だ。
この島唯一の、住宅が密集している場所。集落、というやつだ。
しばらく歩くと、ベランダの硝子が割れ、玄関のドアが大きく開いたままの家に出会う。
…ここが、このゲームが始まってから、初めて他のメンバーに出くわした場所。
他のメンバーに…襲われた場所。
もう…なっち疲れちゃったよ……
誰も、信じてくれない。梨華ちゃんも、圭織も。
誰も、信じられない。加護ちゃんも、みんな、みんな…。
みんな、みんな──死んじゃった。
もう、嫌になっちゃったよ、なっちは。
例の民家の、垣根に寄りかかり、腰を下ろす。
半袖の制服も、そこから伸びる腕も、泥と血で酷く汚れている。
安倍はそんな自分の身なりを、ぼんやりと見つめていた。
肩から腕、腕から手首へ視線を動かし、ふと、手元で止まる。
右手に握りしめるは、あの鎌。いつの間に拾ったのか鎌があった。
余りにも手に力が入りすぎて、指先は白くなっている。
固く握りしめた鎌は、指を一本一本こじあけなければ離れてくれそうになかった。
…そうだ。ねー、圭織ぃ。
辻ちゃんに、もう会えた?
そっちの世界、楽しい?
なっちも、そっちに行っていいかな?
安倍は、両手に鎌を持ち直し、先程の戦闘でボロボロになった刃を自分の首筋、少し後ろ辺りにあてる。
このまま引き下ろせば──楽になれる。
安倍なつみに、迷いはなかった。
343 :
y2k:2001/07/31(火) 08:20 ID:kV8GHtX6
おおっ、更新!
( `◇´)<LaLaLaLa・・・(保全)
345 :
同胞県民:2001/08/01(水) 00:55 ID:eD1ip04s
( ゜皿 ゜)<更新、感謝、感謝
346 :
代打娘。:2001/08/02(木) 00:53 ID:T60HPG7Q
鎌を引き下ろそうとした瞬間、
「何してんの!」
遠くで、声が聴こえた。誰だろう? 別に誰でもいい。構うことはない。
力を込めて引こうとした鎌が、安倍の意思とは正反対の方向に動いた。
驚いて振り返った。そこには──。
「裕ちゃん!?…なんで! なんで止めるのさ!」
自殺を妨害した人物を睨み付け、当たり散らすように叫ぶ。
「なにしとんねん、アンタ! …なんで…こんなこと……」
「なっちは…なっちはね、圭織と辻に会いに行くんだ。そう…そうだ! 向こうには圭ちゃんもいるよ?
そうだ、紗耶香もいる。梨華ちゃんも、彩っぺも矢口もいる」
ちょい待ち。矢口は生きてるで。なんて突っ込みが脳裏をよぎった。
が、今はそんな場合ではない。
「向こうに行けばみんなに会える。だからね、なっちは今から行くんだ…天国に」
「何言うてんの、アンタ…あるワケないやろ天国なんて」
「…なんで? なんでそう言えるのさ!」
不安定な精神状態がそうさせたのか、安倍の語気が急に荒くなった。
「だって圭織は言ってたよ? 辻の声が聴こえたって! 死んじゃったはずの辻の声が聴こえたって!
きっと、辻が天国から圭織に呼びかけたんだよ。天国からの辻の願いが届いたんだよ。だから…」
「…ちょぉ…落ち着けや!」
喚き立てる安倍が、その一喝で黙った。
347 :
代打娘。:2001/08/02(木) 00:56 ID:T60HPG7Q
「アンタ、圭織に会ったんか…」
俯き佇む安倍の両肩を掴み、無理矢理、自分の方に向かせる。
じっと眼を見つめ、もう一度問う。
「会ったんやな?」
安倍は黙ったままコクリと頷く。
「アンタらと圭織に何があったかは知らんけどな、あの世や天国なんてもんは死を恐れた人間の造った
幻想や。そんなもん実際にはあらへん。
圭織が死んだ辻の声を聞いた? それもな、圭織の辻に逢いたい気持ちが生んだ…ただの幻聴や。
死んだらなにも分からなくなるんやで? 嬉しいも楽しいもおいしいも、なーんも感じなくなる。
なっちの大好きな歌だって歌えなくなるんや、それでもええんか?」
安倍の目を見据え、ゆっくりと諭すように言う。
泥遊びをした子供のように、すっかり汚れてしまった安倍の顔が、再び涙に歪む。
「それでもいい……それでもいいよ…こんな辛い思いするくらいなら、もう何も分からなくなっちゃう
方がずっとましだよ」
一瞬、その言葉に打ちのめされたような表情を浮かべる中澤。
「何言うてるのなっち、しっかりしぃ──」
「裕ちゃんには分からないよ! なっちが…今までどんな思いしてきたか…!
梨華ちゃんは顔を合わせただけでいきなり撃ってきた。加護はなっちを裏切って殺そうとした。
圭織は…圭織は…絶対に信じられるって……思ってたのに……」
頬に浮かぶ涙のあとを、上からなぞるように新しい雫が伝っていく。
「結局…なっちは誰からも愛されていない子なんだよ。だから皆なっちのことを信じてくれないんだ!
皆なっちのことなんかどうでもいいって思ってるんだ!」
安倍の言葉を静かに聞いていた中澤が、ある瞬間に顔色を変えた。
安倍の放った一言、ほんのワンフレーズが中澤の逆鱗に触れた。
348 :
代打娘。:2001/08/02(木) 01:01 ID:T60HPG7Q
刹那、視界が自分の意志とは無関係に、横に飛んだ。自分に何が起きたのか、直ぐには分からなかった。
ただ頬の痺れだけが今の状況を伝えていた。
「何…何すんのさ!」
キッと睨み付けた先の中澤は、無表情だった。
「アンタ、今なんて言った?」
ただ、その瞳だけは静かな怒りを湛えていた。
「『皆』? 『皆』なっちのことなんかどうでもいい、て思とる。そう言うたんか?」
その瞳から目をそらせぬまま、安倍は頷いた。
そこでふと自分が震えていることに気付いたが、それが興奮のせいか、恐怖、もしくは別の感情による
ものなのかはわからなかった。
「じゃあ…明日香はどうなるんや?」
『明日香』の名を出したとき、中澤の表情がふっと緩んだ。
「さっきな、アイツに会ったんや。アンタを…安倍なつみを捜してた。いつものあの子からは信じられ
んほど、必死な形相でな。明日香とアンタは、さっきまで一緒やったんやろ?
なぁ…明日香は一度でもアンタを裏切ったことがあったんか? 一度でも、アンタを信じなかったこ
とがあったんか?
アンタも非道い子やなぁ…なんで一番身近にいた子の気持ち、分かってあげられへんの?」
349 :
代打娘。:2001/08/02(木) 01:07 ID:T60HPG7Q
中澤に叩かれて痛む頬を押さえながら、安倍は涙を隠すように俯いた。
その目から落ちた雫が地面に吸い込まれ、水玉模様をつくった。
小さく震える肩を、中澤はそっと抱き寄せた。
「アンタかて、あの子のことが好きやったんやろ?」
優しく語りかける。
「信じてるんやろ?」
腕の中で、安倍が小さく頷いているのが分かる。
「それやったら、死ぬなんて言うたらあかん。アンタが死んだら…あの子のことや、きっとひどく自分
を責めるで。明日香にそんな思い、させたいんか?」
今度はふるふると小さく首を振っている。
「それにな、アイツだけやないんやで。アタシも矢口も、アンタのことを心配してる。今かてな、アン
タの声を聞いてここまで──」
そこで、中澤の表情が凍り付いた。
焦ったように、自分の身体から安倍を離す。
「……明日香は?」
突然そう聞かれた安倍は、溢れる涙もそのままにキョトンとしている。
「明日香、ここに来てへんの?」
ワンテンポ遅れて、首を横に振る。
安倍をなだめることに夢中になっていて、気付かずにいた。
何でここに、明日香がおらんの?
今だって……なっちを捜しに来て、明日香は先に来ているはずで──
どこかで道を間違えた? そのハズはない。中澤と矢口は、福田の後を追ってここまできた。
ほとんど直線的に──そう、木が邪魔していたときぐらいだ、“方向転換”をしたのは。
方向音痴の自分でも辿り着いたのに、どうして福田が迷うものか。
「明日香…まさか……途中で誰かに……」
──襲われた?
350 :
代打娘。:2001/08/02(木) 01:10 ID:T60HPG7Q
乱れる息遣い。
静まらない動悸。
全身に走る痛み。
何が……何が起きた……?
一瞬のことだった。
走っている最中、突然固いもので打たれたような衝撃を背中に受け、次には身体が弾き飛ばされていた。
ほんの一瞬意識が飛び、木に打ち付けた全身の痛みで我に返った。
油断した…?
いや、確かに周りには気を配っていた。
安倍があれ程の叫び声を上げている以上、やる気になっている人間がその声を追って、近くまで来てい
る可能性は充分に有り得る。
用心はしていた……はずだったのに……。
痛む身体を無理矢理に起こそうと、うつ伏せた体勢から両腕をついて上体を持ち上げたとき。
ザッという足音と共に“そいつ”の靴が視界に入った。
「お久しぶりです。福田…明日香さん、でしたよね?」
上から声が降ってくる。
視線を、脚からスカート、白いセーラーへと上らせる。途中、肩から提げている大型の銃が目に入る。
これで殴られたのだ、と瞬時に理解した。
そしてその顔は…なるほど、確かに“お久しぶり”ですね。
お互い顔は知っていても、実生活に於いてほとんど交流の無かった相手。
吉澤……ひとみ。
351 :
名無し娘。:2001/08/02(木) 01:20 ID:SC8SSbvE
でたー! 真打登場万歳!
352 :
代打娘。:2001/08/02(木) 01:41 ID:T60HPG7Q
とりあえずここまでー。 って…
>>351さん、はやっ!(w
いつも保全ありがとうごぜぇます。
( ゜皿 ゜)<保全、感謝、感謝 ですホントに。
ところで、
>>333の平家さん、 Diaryって何でしょか?
353 :
名無し娘。:2001/08/02(木) 11:16 ID:fWZv9sf6
おぉ!保全しに来たら、更新されてるっ
嬉しいよぉ。。。
354 :
同胞県民:2001/08/03(金) 01:42 ID:0ZgC9vyU
( ゜皿 ゜)<カヲリ更新に感動ガガガ・・・
355 :
名無し娘。:2001/08/04(土) 12:48 ID:UJl9IShA
保全ですぅ。。。
356 :
名無し娘。:2001/08/05(日) 03:21 ID:aEsLHTdk
ドキドキ
358 :
代打娘。:2001/08/07(火) 00:50 ID:249vntdQ
旅に出ます
故、また2週間ほど更新が滞ります。申し訳ないっす。
逝く前にもう一度更新…出来るかな…?
359 :
代打娘。:2001/08/07(火) 02:58 ID:249vntdQ
黒い塊が頭上に降る。
福田は咄嗟に横へ転がり、それを交わしながら立ち上がった。
瞬間、ぐわんと頭が揺れ、平衡感覚を失いそうになる。
…くっ…当然だ…頭を殴られてんだから…
チリチリと痛むこめかみからは、血が滲んでいた。
「お聞きになりましたか。さっきの、昼の放送を」
マシンガンの銃身を振り下ろした体勢のまま、クリッと愛らしい目が福田を見る。
吉澤ひとみが何を言っているのか理解しようとする前に、反射的にコルトパイソンに手が伸びる。
腰のベルトからそれを引き抜くより前に、吉澤が飛んだ。
間合いを詰めて再びマシンガンの銃身が襲う。
薙ぎ払うように振るわれた物体を避けきれず、腕で受け止める…が、連続して放たれた中段蹴りを
交わしきれずに脇腹に受け、再び吹き飛ばされた。
至る所に生えた木の一本に、激しく叩き付けられる。
「…つぁっ…!」
「聞きました?」
目の前の少女は悪戯っぽく笑い、もう一度訊く。
「…何を…?」
乱れた呼吸が治まらない。全力で走っていたのだから当然か。
「放送でね、寺田先生がおっしゃっていたんです。この中に侵入者がいるって」
対峙している者は、いたって涼しい顔で話し続ける。
「あの監視カメラ…CCDカメラでしたっけ? ゲーム開始から早朝に掛けて、一部が次々に機能停止
させられているんですって。…何者かの手によって……おっと」
再度、銃を取ろうとした福田の手が捻り上げられ、身体ごと木に押しつけられる。
「まぁ聞いて下さいよ。更に困ったことに、その犯人はほとんどカメラに写っていないらしいんです。
そいつ、禁止エリアも関係なく縦横無尽に動き回っているとか」
ウソだ…そんな放送は聞いていない!
「何か御存知ありませんか?……ねぇ、和田さん」
360 :
代打娘。:2001/08/07(火) 03:02 ID:249vntdQ
「何故、それを…」
明らかに動揺した福田を見て、吉澤の瞳が怪しく光った。
「別に、簡単なことですよ。あなたの名前は名簿に載っていなかった。その代わりに、名簿には一つ
妙な名前があった」
その涼しい顔と裏腹に、福田を抑えつける力は強く、もがく彼女にほとんど身動きを取らせないでいる。
「和田薫…この番組には確かに、娘。の同窓会というコンセプトがあった。そこに以前、娘。と深く関
わりがあった彼の名前があったとしても不思議ではない。しかし…」
木に押しつけていた力が急に失せた。
反動で前のめりになった福田の鳩尾に、強烈な膝蹴りが入る。
ほんの僅かに身体が浮き、倒れそうになったところを間髪入れず、二発目の膝が襲う。
今度こそ、全身が宙を飛んだ。
顎にまともに入った吉澤のソレと、落下の際に頭部を打ち付けたことで脳震盪に陥り、福田は完全に
動きを失った。
「しかし」
もう一度言い直す。
「このゲームにおまけのごとく付いてきた“副賞”の存在が、あなたの存在をおかしくさせた。
だってそうでしょう。いくらメディアに露出のある人とはいえ、マネージャーが歌手に転向だなんて
聞いたことありませんもの。
あ。でも以前、どっかにスタッフ上がりの人達がしゃしゃり出てきた歌手グループはありましたね。
もう解散しましたけど」
ひどくあっけらかんとした声で喋り続ける。
361 :
代打娘。:2001/08/07(火) 03:07 ID:249vntdQ
そういえばなっちが言っていた…
半分ぼやけた意識で、福田は食事の際に交わされた会話を思い出していた。
“やー、でもびっくりしたよぉ。何で和田さんこんなトコにいるんだろぉって。
和田さんもソロデビューするのかなって想像したらおかしくって、笑いそうになったべさぁ”
あの時は適当に流しちゃったけど…そういう意味だったのか…
「やっぱり御存知無かったんだ」
笑いながら、未だ身動きのとれない福田の上に正座するようにのし掛かる。
「か…はっ!」
肺を圧迫され、咳と共に空気が漏れる。
「そうじゃないかって思ってたんですよ。あなたも、そしておそらく、あなたをここまで導き入れた
“共犯者”も、この企画にくっついてきた副賞の存在は知らなかったんじゃないかって」
言いながら吉澤は、背負っていたディパックから何かを探る。
「話を戻しますけど、その侵入者を撃退した人には、ボーナスポイントが貰えるんですって。
あははっ、ボーナスだって。よく判らないことを言うところは寺田先生らしいですよね」
ディパックの膨らみのおそらく大部分を占める物が、吉澤の手で取り出される。
「まぁ貰って損なものじゃないだろうし? 私も気になるので…
あなたには犠牲になってもらわなければならない。いいですね? 侵入者さん」
福田は目を見開いた。
それは、福田も見たことのある物。そして今、目にすることが信じられない物。
何故…何故……
「何故あんたがそれを持ってるんだ…!」
掠れがちな声に反応し、吉澤は心持ち眉を持ち上げた。
「これですか? …フフ、何故でしょう?」
楽しそうな口調で取りだした武器を振りかざす。
猟銃の先に弓矢を取り付けたようなソレは、ほんの数十分前に福田が見た物と同じモノ。
飯田が持っていたボウガンと同じモノ。
似ているのではない。まったくの同一物だった。
362 :
代打娘。:2001/08/07(火) 03:15 ID:249vntdQ
「吉澤さん…まさかあの場に…?」
冷たい光を宿した瞳が、ゆっくりと笑むように細まる。
「飯田さんには悪いことをしました。でも楽しませていただきましたよ。深い絆で結ばれていたはず
の関係が、たった一人の少女によって脆くも崩れ去っていく。実に…面白かった」
ククッ…と押し殺すような笑いは、まるで悪魔の嘲笑。
「圭織を殺ったのも──」
「えぇ。あなた方と手を組まれると、不都合かなって思いましたから」
カッと頭に血が昇った。
「でも悲しむことはないんですよ。あなたも…今直ぐ同じ所に、送ってあげます」
「ふ…ふざけるな!」
全身のエネルギーを総動員して起き上がろうとするも、上に乗っている吉澤はびくともしない。
この細い身体の…いや、よく見れば別に細くないか…どこにそんな力があるのか。
唯一、左腕だけが吉澤の体重から逃れているが、この体勢では殴りかかることも出来ず、かといって
拳銃にも手は届きそうにない。
やがてボウガンに矢がセットされる。矛先は当然…足元で苦渋の表情を浮かべる少女へ。
「あなたは優しすぎたんですよ。あの時だって、心を鬼にして二人を始末してしまえば少なくとも安
倍さんが壊れることはなかった」
安倍さん。安倍なつみ。その単語は、今福田が一番気に懸かっていた少女の名。
そうだ…本当はこんなことしてる場合じゃない…追いかけなきゃ…あの子を…
「守りたいものがあるのなら、何をも──たとえ他人の命を犠牲にしてもそれを最優先する覚悟が無
くてはいけません…なんてね。とにかく、あなたの優しさはこのゲームに向いていない」
…いや、大丈夫か…さっき聴こえた二つの足音…あれ多分裕ちゃん達だよね…今頃なっちの元に辿り
着いているのかも……それにしても。
「あんた…意外とお喋りだね」
「あれ? 御存知ありませんでした?」
くすくすと笑いながら、おもむろに立ち上がる。
吉澤の重みから解放されたと思った──次の瞬間。
「おやすみなさい」
ボウガンの矢が、福田を貫いた。
363 :
代打娘。:2001/08/07(火) 03:22 ID:249vntdQ
以上。
急いで書いたから雑やね。スマソ
レスくれた人、保全してくれた人。いつもどうもありがとう
では逝ってきます。続き書きたい人がいたら書いてくだせぇ
364 :
名無し娘。:2001/08/07(火) 11:00 ID:5MeiYB6M
保全
365 :
名無し娘。:2001/08/07(火) 18:28 ID:2A/Lde76
代打娘。さん帰ってくるまで保全します。
気を付けて行ってらっしゃい!
367 :
名無し娘。:2001/08/08(水) 15:28 ID:lj6E7iOk
保全☆保全
368 :
同胞県民:2001/08/09(木) 00:11 ID:oMn4R60U
( ゜皿 ゜)<留守番保全
369 :
名無し娘。:2001/08/09(木) 00:12 ID:kgFfhZ3c
370 :
y2k:2001/08/09(木) 21:56 ID:WarUXCp2
保全します。今のログ整理の仕組みだと、丸1日空けるとヤバいそうなので。
371 :
名無し娘。:2001/08/10(金) 05:12 ID:wkAEhIwY
372 :
(0^〜^0)@狼:2001/08/10(金) 13:29 ID:R2oyDks.
トイレにいっといれ
保(田が)全(裸)
374 :
同胞県民:2001/08/11(土) 00:31 ID:MG0kl0F2
( ゜皿 ゜)<保(田)全(体主義)
( `◇´)<渋谷に来てや。(保全)
376 :
名無し娘。:2001/08/13(月) 04:33 ID:GTWqjYaw
( ゜皿 ゜)<保(守党を)全(否定)
377 :
名無し娘。:2001/08/13(月) 09:06 ID:VfEIW8nY
ぽじぽじ
378 :
名無し娘。:2001/08/13(月) 12:29 ID:Aem/ewMQ
( `.∀´)<sageよ!
379 :
(0^〜^0)@狼:2001/08/13(月) 18:05 ID:Ab4EY1Sw
おいら頭いいよ
( `◇´)<ageておいて頭良いよとはなんやねん。
381 :
名無し娘。:2001/08/14(火) 08:01 ID:F6wBBaS6
みんなで保全!なんか良いですね。
382 :
(0^〜^0)@狼 :2001/08/14(火) 20:49 ID:AAFwp7TI
383 :
名無し娘。:2001/08/15(水) 12:20 ID:ACnO3DiQ
じゃあ、そうゆことで保全
( `◇´)<来たで。
( `◇´)<アタシ暇なんかな・・。
386 :
y2k:2001/08/17(金) 02:02 ID:H6.OlIGA
Oh〜Yes!保全が大事!
387 :
名無し娘。:2001/08/17(金) 13:21 ID:r/iyX8ZY
保全
388 :
y2k:2001/08/18(土) 02:51 ID:HA/CzomA
保全!!!!!!
hozen
390 :
同胞県民:2001/08/18(土) 16:26 ID:65ECvBhU
( ゜皿 ゜)<保(田)全(国区)
391 :
名無し娘。:2001/08/19(日) 00:15 ID:nifmM72c
hozen
392 :
名無し娘。:2001/08/19(日) 02:25 ID:tFvPI1qo
スレ乱立に備え保全しておきます。
393 :
名無し娘。:2001/08/19(日) 07:47 ID:UegT1l3Y
24hTV保全
394 :
名無し娘。:2001/08/19(日) 19:52 ID:nPQnVhxc
24hTV終了保全
395 :
名無し娘。:2001/08/20(月) 01:13 ID:oKMRhSjM
保全
396 :
同胞県民:2001/08/20(月) 01:14 ID:vhoz/Whk
( ゜皿 ゜)<安(保)全(体主義)
397 :
名無し娘。:2001/08/20(月) 12:04 ID:IoEmSxQE
398 :
393:2001/08/20(月) 12:42 ID:R6ApuKOg
>>394 もしかして、某小説スレで夜保全してくれた人?
火曜日の朝の保全
400 :
au:2001/08/21(火) 16:34 ID:MwLWu9Pk
中澤の活躍期待!!中澤が残ってるのは少ないから活躍して欲しい。
( `◇´)<台風呼んだ雨女や。
402 :
394:2001/08/22(水) 06:34 ID:m8Gq5qqI
保全
404 :
同胞県民:2001/08/23(木) 01:38 ID:CCIkhLyA
( ゜皿 ゜)<ho・・・
どうも、お待たせしております。。。
本当に申し訳無いッス! もうしばらく時間を下さい!
どうも一場面が無駄に長くなってしまう…序盤のサクサク感(??)は何処へやら
段々、序盤でお亡くなりになった人に悪い気がしてきたりも
例えば( `.∀´)とか、他にも( `.∀´)とか、更に( `.∀´)とか。
スレッド規制が厳しい中、保全有り難うございます。一日に何度も…(感涙
なるべく早めに更新したいと思っています故。
頑張れ
気長に待つよ
( `◇´)<半年読んでいたら、待つのもなれたもんやで。
408 :
同胞県民:2001/08/24(金) 00:44 ID:7OiTJ8jM
( ゜皿 ゜)<グワンバッテ代打娘。さんガガガ・・・
( `◇´)<放送中やで。
410 :
名無しさん:2001/08/25(土) 03:49 ID:XIwqfy3c
バトロワ系は人数が少なくなってくると大変だよな。
保全すっから頑張って続けてくれ。
411 :
名無し娘。:2001/08/25(土) 21:54 ID:XxdZJCrM
保存しておくか・・・
2ch閉鎖回避記念保全。UNIXマンセー
hozen
ちょっとテスト