308 :
色伊角@バトルロアワイアル@そして、始まり:
臙脂は、このプログラムが始まってからずっと怯えていた。
家の者から見捨てられた、というショックもそれに拍車をかけた。
今までの彼女はずっと、名家の玲嬢と言う名目の元に、自由を謳歌していたのだ。
それが無くなっては、まったく無力であると言う事は自分でもよく分かっていた。
今の彼女は自失のあまり、なにも信じられなくなっていた。
とりあえず、組織から、配給された武器である包丁を握り締める。
そうすることで、何とか自分を保とうとしたのだ。決して、人を傷つけるつもりは無かった。
むしろ、誰かに会いたかった。不安で、仕方なかった。
その時、若い女の声がした。
「だ・・・・誰かおるのか・・・・?」
人・・・!!
包丁を構えたまま(それを収めることにまで、気が回らなかった)臙脂は声の方に振り向いた。
西洋風のドレスを着た15,6の少女が、夕日の逆光の中、立っていた。
色伊角達の社交場に来たばかりの臙脂には面識が無かったが、安堵の笑顔を向けて言った。
「まっておったぞえ」
臙脂がそう言った瞬間、エメラルドは駆け出した。
不安が交じり引きつった臙脂の笑顔は、エメラルドにとって物凄く恐ろしいものに感じられのだった。
この女は自分を殺すつもりじゃ・・・!!
折角出会った少女に逃げられ、臙脂も驚いて追いかけた。
「待ってたもれ!!待たぬと・・・・・」
臙脂の声がエメラルドを追いかける。
「あっ・・・!」
普段走りなれてないエメラルドがドレスにつまずいて転んだ。
そこを、袿を着ているとは思えない早さで臙脂が追いついてきた。包丁は持ったままだった。
(殺される・・・!!)
考えるより先に、行動していた。
すばやく起き上がり、包丁を奪おうとする。
「な・・・なにを?!」
驚いて、臙脂も手に力をこめた。
二人はもみ合いながら、倒れこむ。
思わず、エメラルドが目をつぶったその時。
「あぁあぁぁあぁぁ-――――――――――――――――!!!!!」
この世のものとは思えない声が響いた。
同時に、ぬるりとした熱い液体がエメラルドにかかった。
目を開くと、眼窩で首に包丁の突き刺さった臙脂がもだえていた。
倒れこんだ瞬間、刺さったのだ。エメラルドの握った包丁が。
「ひっ・・・」
思わず、握っていた包丁を臙脂から引き抜く。
血が、噴出し、エメラルドにかかった。
臙脂は声にならない何かをつぶやきながら、ゆっくりと倒れこんだ。
後は、覚えていない。
忘れたかった。
血に汚れた、手を見る。
「わらわ・・・・わらわは・・・人を・・・。でも、あれは事故だったのじゃ・・・。」
自分に言い聞かせるようにエメラルドは呟いた。
「そこ・・・だれか、居るのかしら・・・?」
エメラルドはビクリと身を震わし、声のした方を、見た。
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