伊角だけど何でプロになれないんだろう? 第29局

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308色伊角@バトルロアワイアル@そして、始まり
臙脂は、このプログラムが始まってからずっと怯えていた。
家の者から見捨てられた、というショックもそれに拍車をかけた。
今までの彼女はずっと、名家の玲嬢と言う名目の元に、自由を謳歌していたのだ。
それが無くなっては、まったく無力であると言う事は自分でもよく分かっていた。
今の彼女は自失のあまり、なにも信じられなくなっていた。
とりあえず、組織から、配給された武器である包丁を握り締める。
そうすることで、何とか自分を保とうとしたのだ。決して、人を傷つけるつもりは無かった。
むしろ、誰かに会いたかった。不安で、仕方なかった。
その時、若い女の声がした。
「だ・・・・誰かおるのか・・・・?」
人・・・!!
包丁を構えたまま(それを収めることにまで、気が回らなかった)臙脂は声の方に振り向いた。
西洋風のドレスを着た15,6の少女が、夕日の逆光の中、立っていた。
色伊角達の社交場に来たばかりの臙脂には面識が無かったが、安堵の笑顔を向けて言った。
「まっておったぞえ」
臙脂がそう言った瞬間、エメラルドは駆け出した。
不安が交じり引きつった臙脂の笑顔は、エメラルドにとって物凄く恐ろしいものに感じられのだった。
この女は自分を殺すつもりじゃ・・・!!
折角出会った少女に逃げられ、臙脂も驚いて追いかけた。
「待ってたもれ!!待たぬと・・・・・」
臙脂の声がエメラルドを追いかける。
「あっ・・・!」
普段走りなれてないエメラルドがドレスにつまずいて転んだ。
そこを、袿を着ているとは思えない早さで臙脂が追いついてきた。包丁は持ったままだった。
(殺される・・・!!)
考えるより先に、行動していた。
すばやく起き上がり、包丁を奪おうとする。
「な・・・なにを?!」
驚いて、臙脂も手に力をこめた。
二人はもみ合いながら、倒れこむ。
思わず、エメラルドが目をつぶったその時。
「あぁあぁぁあぁぁ-――――――――――――――――!!!!!」
この世のものとは思えない声が響いた。
同時に、ぬるりとした熱い液体がエメラルドにかかった。
目を開くと、眼窩で首に包丁の突き刺さった臙脂がもだえていた。
倒れこんだ瞬間、刺さったのだ。エメラルドの握った包丁が。
「ひっ・・・」
思わず、握っていた包丁を臙脂から引き抜く。
血が、噴出し、エメラルドにかかった。
臙脂は声にならない何かをつぶやきながら、ゆっくりと倒れこんだ。

後は、覚えていない。
忘れたかった。
血に汚れた、手を見る。
「わらわ・・・・わらわは・・・人を・・・。でも、あれは事故だったのじゃ・・・。」
自分に言い聞かせるようにエメラルドは呟いた。

「そこ・・・だれか、居るのかしら・・・?」
エメラルドはビクリと身を震わし、声のした方を、見た。

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