コテハンさんの怖い話を集めてみない?パート2

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121うなりくん
ところが、この甥が女のことで金につまり、この老婆の財産に眼をつけた。そしてばあさんさえなき者にしてしまえば、財産は
たった一人の甥である自分の懐にころげ込んでくると考え、或る日、とうとうこの老婆を殺害して、その死体をピシピシと
小さくへし折って、箱につめこみ、石の重しをつけ、この台所の井戸深く沈めたのである。この犯罪はその六年間発覚しなかったが、
丁度七年目に、老婆を殺した甥とこの男といっしょになった女とが、共に物の化におそわれるが如く、発狂状態になり、はては
自分達のやったことを口走り、ついに警察の調べとなり、この井戸の中から箱が浮び上り、白骨と化した老婆の変りはてた姿が
現われた――というのだった。
今更ながら、家中の者は震えあがり、釘付けになっている、大きな井戸を恐る恐るながめるのであった。私達一家となんの関係も
無い老婆の亡霊が、我々を驚ろかしたというのは、考えようによってはしゃくにさわるが、別に考えると霊としては、誰れにでも、
自分の気持を知らしたいものであるから、とも思い、同情したくもなってくるのだ。

以上が私の少年時代に見た恐ろしい亡霊の姿であるが、この時から私は霊魂の存在を信じるようになったのである。
知友である、徳川夢声老も幽霊を信じ、淡谷のり子氏も恐ろしい幽霊のことを私に話したことがあるし、佐藤垢石老も魚を釣りに
行った時、時々妖怪に会うことがあるというし、今年の春、九州博多で火野葦平氏に会った時には、氏は河童に会って親しく
したことがあるといっていた。皆間違いのない話だろう。
当時いっしょに老婆の姿を見た姉は、今では七人の児持ちである。出典――『幽霊』小野佐世男