コテハンさんの怖い話を集めてみない?パート2

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119うなりくん
母の顔は蒼ざめていた。
「旦那様、なんだか私も胸苦しかったですよ。なにかこの家は、ぶきみでございますよ」
かやは、寝巻の襟をかき合せて、ぞッとしたように言った。すると書生の徳吉さんと父が、
「そんな馬鹿なことがあるものか」
と、二階へ上っていったが、やがて降りてくると、
「布団もぬれてないし、鼠一匹いないじゃないか。二人ともねぼけたんだろう。アハヽヽ……」
と大きな声で笑った。それを聞くと、もうじき夜が明けるから、いっそ起きてしまおうと言って、台所へ行ってゴトゴトと
音を立てていた母が、
「でもあなた! 考えてみれば大きな家の割合いに家賃が安いじゃありませんか。すこし安すぎますよ」
と、眉をひそめていった。
「アハヽヽヽ、幽霊などこの世にあるものか、馬鹿な! きっと二人共胸の上に手でものせて寝ていたのだろう。よーし、あしたの
夜は、わしが二階へ寝てみよう」
父は又大声で笑ったが、いつのまに夜が明けたのか、コトコトという、牛乳屋の車の音が外に聞こえた。

半月型に外に出ている井戸のまわりに、山びるのように太いみみずが、たくさんうごめいていた。土の柔く盛り上っている所を
棒でさぐると、南京玉ほどの土蜘蛛が、ガサガサと音を立てて群り散った。こんな遊びに夢中になっている中に、やがて二日目の
夜が訪れてきた。
庭の奥や、聯隊の土壁が黒々と深い暗黒にとざされてくると、私も姉も怖しくなって、
「今夜は二階に寝ないよ」
と言って床を敷いてもらうまで、書生の徳吉さんや、母のまわりにまとわりついていた。二階からかやが私たちの夜具をもって
きたとき、昨夜の老婆の水のしたたりや、血痕が残ってはいまいかと、あっちこっちとしきりに触ってみたが、綺麗な花模様の
フンワリとした布団には、何の変化も見られなかった。
私たちは、母たちと混って寝た。母がいると思うと、不安の気持は少しも起らず、私はいつのまにかぐっすりと気持ちよく寝こんだ。
ところが、真夜中に部屋の中が妙に騒がしいので、ふと眼を覚ましてみると、父の青ざめた顔を中心に、家中の者が車座に集り、
なにかしきりと喋べり合っていた。
「ばあさんがでた! ほんとだ! ほんとだ! ぬれねずみのばあさんだ!」
父の声だ。私もいつか寝具から脱けだすと、こっそり車座の中に割りこんで聞き耳を立てた。