コテハンさんの怖い話を集めてみない?パート2

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118うなりくん
脚から腰へ、老婆の動きにつれてびっしょり冷たい水が浸み通ってくる。眼は私をみつめたままだ。うらみをふくむのか、
うったえるのか、へばりつくように迫ってくる。――腹に乗り上ってきた……。頭のずいからでも流れ出るのであろうか、
水の雫は後から後からたらたらと、顔中に流れ、口にあふれる。歯ぐきから吹きだした血は、顎から糸のようにこぼれる。
眼玉は生柿色。グラグラの前歯からは地鳴りのようなうめきがもれる。眼を外らそう、せめて頸だけでもねじろうとするが、
全くいうことをきかない。やがて、重さが胸にきた。蜘蛛のように細い手が、私の首にからまってきた……。
老婆の顔がすぐ目の前にあった。額のしわが一本々々見える。ぬれ髪が私の顔を覆った。氷のように冷たい息が、血をふくんで
ふりかかり、むせぶような囁きが耳に入ってきた。目が血ばしっている。と、血のにじんだその眼球が、見る見るうちにふくれ
あがってぽたり、ぽたりと、私の頬といわず顔といわず、顔中に血が滴り落ちてきた。もう私は息もできなかった。
「あッ!」
いきなり二つの眼球が、ポタリと私の顔の上に落ちてきた――と思うや、まるで崩れるように、音を立てて老婆の顔が、
私の上にかぶさってきた。……私は狂気のようにもがいた。と、まるで真空状態からぬけたように、私の体はスポンととびあがった。
私は次の瞬間、
「ワアーッ」
と叫んで隣室と境いの襖を蹴破った。
「姉さん!」
「………」
「おばあさんが出た」
「おばあさんだア……」
二人は階段をかけ下りたが、途中で二人共足を踏み外してしまった。そして申し合わせたように気を失い、息をふき返したのは、
夜中の二時だった。家中は大騒ぎになった。
「おばあさんの幽霊だって?……そんな馬鹿な」
父は夢でも見たのだろうと言って笑った。しかし、その時は夢中で気付かなかったが、姉も同じ頃同じ目にあっていたのだった。
だから私が襖を蹴破った時、姉はすでに起きていて、期せずして「おばあさんがでた」と叫び合ったのだ。姉と私は、女中の
かやがいれてくれた熱い茶で、やっと人心地をとりもどした。
「ほんとにおかしいね。夢なら、同じ夢を同時に二人が見るはずはないね――」