コテハンさんの怖い話を集めてみない?パート2

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117うなりくん
私は本箱を整理してから、夜具にあおむいて足を思いきりのばした。
窓をしめたせいか、部屋の中はいやに蒸し暑い。だが引越の疲れが出たのか、私はいつか深い眠りに陥ちていった。
それからどのくらい時刻がすぎたか分らないが、ふと眼がさめた。――というよりも何者かに突然起こされたように眼があいたのだ。
頭は不思議と冴えていた。天井裏をながめる私の眼には、木目までもがはっきりと見えた。壁に目を移すと、額縁が曲って掛っている。
(朝になったら真直ぐにしよう)と私は思った。私はまた目をつぶった。だがどうしたことか少しも眠くない。と、その時だ、
掛布団の足の先の方にものの動く気配を感じたのは……。猫でも迷いこんできたかと、私はふと頭をもちあげたが、とたん、
「アッ――」
と息をのんだ。
首! 水でも浴びたようにぐっしょりぬれた生首が見えた。私は二、三度目をしばたたいたが夢でも幻でもなかった。
生きた生首だった。どす黒い口許から白い歯が震え、何か蚊の鳴くような声が洩れている。顔面の皮膚は渋茶で、びっしょり雫を
垂れた髪が、一すじ二すじ、横じわの額にはりついて、その垂れた髪の毛の間から、カッと見ひらいた眼が、物凄い光を放って
こちらをねめつけている。
私は大声をだそうとした。飛び起きようとした。だが喉はからからに乾いて、声はおろか身動きもできなかった。
妖怪、幽霊というものは、霧のごとくボーッとしているものであると聞いていたが、この老婆の顔は、白眼に浮いた赤糸のような
血管まで、はっきりと見えるではないか。躰中に戦慄が走った。必死に目をつぶろうとしたが、どうしたことか瞬き一つ不可能だった。
(アー、恐ろしい)と思った時、老婆の顔がぐらりとゆれた。影でもひくように、首の動きにつれて髪の毛が長く糸を引いた。
生首が徐々に浮き上りつつこちらへ迫ってくる。はっとした。だが、次の瞬間、私の目に入ったのは、めくら縞の着物がぴったりと
まつわりついた、骨と皮さながらの上半身だった。あばら骨が斜にせりあがっている。私はあまりの恐ろしさに布団を頭から
被ろうしたが、はや手足は利かなかった。と、その三尺位のずぶ濡れの体が、四つん這いになり、私の布団の上に這い上ってきた。
枯木のように痩せ細った両手が、足から膝へ……。 老婆の重みが、布団を通して感じられた。