【ズーイー】 誰かお金下さい 【大暴落】

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1ズーイー ◆HbxINKu/s2
目の前で何が起こっているのか、理解できるまでかなりの時間を要した。

ほんの数分前まであれほど厚く積もっていた買い板はいつのまにか一瞬で消え去っていた。
かわりに売り注文だけが蟻の巣から湧き出る働き蟻のようにつぎつぎ沸いてきたかと思うと、さらに安い買い板に積もる注文さえまたたくまに食い尽くしていった。

気が付いたときにはすでに株価はストップ安をさしており、北国の積雪のように、1000万株を超える売り注文だけがジャスダックの板情報に積もり積もって何重にも重なって表示されていた。
買い注文を出す人はもはや一人も居なかった。

風呂上がりだったかと錯覚してしまうほど全身に汗をかき、朦朧とした頭のままでPC画面に映る証券会社の口座アカウント画面を眺めた。

きっと俺は今、「アカの他人」の口座を眺めているのだと思った。

なぜならば、画面右上に書かれた口座残高は毎日見慣れていた金額とは似てもにつかない数字を示していたからだ。
これは俺の口座ではない。俺の口座の残高は、ケタの数も違うし、もっとたくさんの、倍以上の金額が表示されてるはずであった。

これは俺の財産なんかじゃない。こんな端金が俺の全財産なんかであるもんか!

あれから数日経つが、未だに俺は自分の身の上に起こった出来事を何かの間違いだと信じている。
相変わらず俺のアカウント画面には「他人の財産」が表示され続けているが、きっと証券会社の人とか、偉い人とかなんとかが連絡してきて、
「すいません。こちらの手違いにより貴方の口座の残高表示に誤りがありまして・・・」と頭を下げて謝罪に来るに違いないんだ。

その時俺は優しく言ってあげようと思う。

「人間だから間違いは誰にでもありますよ」と。今の俺には、辛い思いをしてる人を責める気には到底なれないから。
「でもさすがの俺も今回はびびりましたよ。まあすべて間違いだったんだから笑ってられますけどね・・・ははは」

そう、あの日のあの出来事は、すべてが何かの間違いであり、俺は今もそれなりの資産を有する有能の投資家のままなのだ。
そう信じ続ける以外に自分の進むべき道が今は見えない。

俺は今日も明日も小金持ちで、優雅で自信に満ちた生活を続ける投資家なのだ。