【|l |リ゚ ー゚ノl|∩<くうかんとうこスレですぅ】
箱庭の中の夢 第五章 ある不安
作:箜間桐孤
*
私は今、文乃と群馬の白馬山に来ている。
夏の白馬山は壮大でなにものにも形容しがたかった。
私は文乃と共に山に登った。
山は急だった。
行けども行けどもけわしい崖が続いていた。
水はないのに見える水平線は私のまぶたにしっかりと焼きついた。
空があまりにも海と似ていたためだろう。
山の麓に行くには、まだ時間が必要だった。
私たちの歩く速度は決してはやくはなかったのである。
私は小さくも艶やかな花を眺めた。
私の目線より下、俯瞰の視点で花々や草木を眺めた。
それらはちっぽけではあるが、美しかった。
いや、ちっぽけであるから美しいのか。
きわめて日本的な美意識。
*
山頂の山小屋へ着いた。
休憩を入れた数時間の過酷な道のり。
それは私をひどく疲労させた。
しばらくして文乃が話してきた。
「疲れましたね、桐孤さん」
あたりまえのことを云ってきた。
「そういえば、白馬山って、昔から雪女が出るらしいですね」
私は嫌な気持ちになった。
文乃がこう云う時、えてして文乃の話すとおりになるのである。
それは、文乃の言葉がこの世界の因果律に干渉しているのか。
いやいや、そんなことはありえない。
いや…もしかして…まさか――な。
「どうしたました、桐孤さん?」
「いや…なんでもない…」
私はそうとだけ答えた。
雪女が出るなら出るで面白そうだが、そんなに都合よくもでまい、と思って。
*
その夜、雪女が現れた。
ご都合主義もたいがいにしてほしかった。
「桐孤さん、雪女ですよ」
「ああ、わかってる」
私はしょうがないので、その雪女とやらに聞いてみた。
雪女の顔はたいそう美しく、名をお雪といった。
どうやら、お雪は矢七をずっと待っているらしい。
お雪は、どうやら不遇の出来事で殺され、自分だけが雪女となり矢七のもとにいけないことを悩んでいた。
私はこう云った。
「私が一晩かぎりだが矢七の代わりをしてやる。
それで我慢しろ」
私はそのいつの時代に死んだのかもわからん女のためにその夫になってやった。
結局雪女は私の変身では満足ができないらしく消えていった。
しばらくして、文乃が聞いてきた。
「どうして普通の人間が雪女になれるんですか?」
「あれが普通な人間に見えるのか。
文乃はまだまだだな。
あれは生前名のしれた能力者と見た。
かわいそうに、我が能力ゆえにああいう妖怪になってしまったんだな」
「えっ、じゃあ、文乃たちもああいった雪女になる可能性があるということですか?」
「う、まあそうだな。
可能性はある。
思いは運命へと刃を刻み、自己を変革させるのだからな」
私は思いにかられた。
文乃や私はああいうお雪みたいなものになってしまうのであろうか、と。
私は文乃にそっくりな超常現象を一人しっていたが、口に出さなかった。
口に出せばそれが現実になってしまうと思ったのである。
*
箱庭の中の夢 第五章 ある不安 完
箱庭の中の夢 第六章 アカシック・レコード
作:箜間桐孤
*
わたしは誰?
わたしはアカシャ
いえ、違うわ
わたしはアカシャじゃない
わたしはそう――
わたしはまだ死ねない
わたしはまだ死ねなかった
だってこの世界を、かけがえのない地球を守りたかったから
まだまだこの世界は平和にはほど遠い
わたしは観測しなければならない
それがわたしの願い
わたしの一つの、たった一つの最後の願い
*
月影文乃は、空間と空間の狭間にある一瞬の煌めきに居た。
アカシック・レコードに呼ばれたのである。
「あなたが月影文乃?」
「はい、そうです」
「わたしはアカシック・レコード」
いくたもの選択を摘んだ意思の在り処。
この世界を観測しつづけるのが、わたしのつとめ」
「文乃をどうして呼んだのですか?」
「……あなたにどうしても話したいことがあったから」
しばらく二人は黙っていた。
「ねえ文乃、あなたはありのままの世界とそうありたい思う世界。どちらが好き?」
「……わからない。
けど、ありのままの世界だってそう悪いものじゃないんですよ。
ええ、きっとそうです。
だって世界はこんなにも美しいじゃないですか
鳥は囀り、花は生を謳歌し、人々は笑顔に包まれる。
こんなに素晴らしい世界を貴女は一つの醜いという見方でしか見てないの?
それは、ほんともったいない。
緑の若葉の揺れる音。
揺らめく陽炎の軌跡――」
「ええそうね。ほんとにそのとおりだわ。
あなたはあなたが思う以上に凄い人ね。
努力を惜しまず、自己を偽ず、
深い苦悩に打ちひしがれても克己し続けた。
あの山の向こうはどうなっているのだろう。
あの海の向こうはどうなっているのだろう。
あの空の彼方にはなにがあるのだろう。
宇宙と私。
知りたいと思う気持。
世界を渇望しようとするその在り方。
それが死してなお、わたし、アカシックレコードを生み出した。
わたしアカシック・レコードは文乃の霊体であり、
文乃の想いが具現化した形。
この世界を記録すること。
いいところも悪いところもありのままに記録すること。
そう、ただひたすらに――」
文乃はそこで一つの疑問に行きついた。
「でもならどうして貴女は今、ここに存在しているの?
文乃は今、現にここにいるのよ。
貴女が、未来の文乃が霊体となって現存している姿だとしたら、
どうして今、貴女にとって過去である【今】ここにいるのよ」
「アカシック・レコードであるわたしに時間軸は意味を持たない。
永遠に死ぬこともなければ、過去と未来という区別さえない。
ただ目に留まったものを記録する。
わたしの好みには、やはり多少に偏りがあるのは否めないけれど
それでもできうるかぎり全体を見回しているつもり。
わたしは過去に起った出来事を記録しなおすだけ。
わたしが死んだあとの未来のことはわたしでもわからない。
ただ、過去であっても記録できるということは素晴らしいことだと。
わたしは、そう思う」
「……あなたは霊体になってさえも、
飽くなき探究心をもっているのね。
今の自分に満足することなく、より素敵な自分を目指そうとする。
山を愛し、海を愛し、川を愛し、空を愛し、何より人を愛している。
素敵なことね。文乃、貴女みたいな人に為れるのかな?
ほんとうに為れるのかな?」
「ええ、きっと為れる。あなたがそれに向かって努力を惜しまなければ。
きっと」
文乃の未来が良いものか悪いものかそれはこれからの文乃次第。
そう文乃は思った。
*
箱庭の中の夢 第六章 アカシック・レコード 完
(おまけ)惨殺空間
「お前の顔も見飽きたしそろそろ殺すよ?」
少年は云った。
「あらあなたの方こそ。血走っちゃってきもちわるい」
少女は少年の言葉にそう応えた。
それが二人の闘いの合図になる。
学校という密封された空間だからこそ――これほど二人を喜ばせるのか――
少年は翔けた。
低空姿勢での疾風の俊足は、風を水平に切裂く――
少女は近くにあった同級生を盾にした。
うご
ほんのりと隆起した乳房にナイフが刺さる。
「痛い」
同級生はただそれだけを云った。
「あら、一思いに殺してあげればいいのに可愛そうな人ね。少年――」
「ごたごたうるせえな。お前が盾にしたんだろうが。
お前の膣にナイフぶっさしてやるよ」
「ふふ、私にとっても同級生はただの肉の壁なの。
それよりさ。これから私たちのどちらがたくさんの人間を殺せるか試してみない?」
少年はしばらく考えに耽ると
「……おもしろそうだな
ああ俺もこの猫の屍骸のような腐臭を垂らす人間に辟易としていたところだ」
「さあ、狩を楽しみましょう」
少年と少女は肉の塊の中、腐臭と悲鳴を楽しんだ。
終わり
これで今回の物語は終わりです。
最近、物語を組み合わせたり、うまく完成したりすることができません。
まだまだ物語を作る練習をしなければなりません。
それと、ちょっとまえまではアカシックレコードで箱庭の中の夢を
終わらせようと思っていましたが、これでおわってしまったら、
二度と小説を書かないのではないかと危惧しました。
だから続けることにしました。
文乃とアカシャの決意はとても美しく桐孤はすごく好きです。
あと惨殺空間はまあ、スルーしてくださいな。
たまにはああいう殺意の中に生まれる美なども書きたくなるのです。
あ、桐孤は犯罪とかは犯しませんよ。(笑
あしからずでつ^^