【|l |リ゚ ー゚ノl|∩<くうかんとうこスレですぅ】
雪女
*
ゆらりゆらめく雪景色。
ゆらりめぐる雪模様。
ながれ落ちる雪雫《しずく》。
ここから始まる伝奇活劇。
今回のおはなしは雪女。
刻は江戸、群馬のとある霊山に面した田舎に
お雪と矢七という二人の若者が仲むつまじく暮らしていた。
お雪と矢七は貧しいながらも村人・五人組の中の一員として、
一致団結し、年貢を納めながらも、幸せに暮らしていた。
朝は茶を飲み、昼は稲作・畑作に精を出し、夜は絹織物を手がけていた。
そして幸運なことには、ここの領主さまは割りあいと慈悲深い人で、
神仏の影響を受けなさってか、恩情的だった。
そのことも相まって村人はよりいっそうその慈悲深い領主さまと、
村の神さまのために精進せねばと思い、朝から晩までせっせと働いた。
その村人のがんばりように天の神も思うところがあったのか、
村の天候は暑すぎもなく、また寒すぎもなく、
雨が降りすぎるでもなく、雨がぜんぜん降らないのでもなく、
非常に安定した気候を保っていた。
*
文月・葉月、夏のころ。
草木はおうおうと生い茂り緑ふかく、稲は成熟期を迎えつつあった。
この草木緑緑と生い茂る季節の中で村人たちは年に一度の祭りの準備をしていた。
夏祭り、盆踊り。
ほとんど娯楽といったもののない村の中では祭りは唯一といってもいいほどの娯楽であった。
村人も楽しみで楽しみで待ちきれず、中には農作業中に、浮かれて歌を唄いだす者もいたほどだ。
祭りの準備は村人の努力もあってか、順調に進んでいた。
お雪や矢七も村の祭りは楽しみにしていた。
けれども、なにぶんお雪と矢七は村の中でも立場が他の村人とは一線をかくしていたので、
あまり祭りの準備を楽しめないでいた。
お雪は代々、呪術の継承者であり、
お雪の家系は自然干渉、因果法則の促進と、反転を司《つかさど》る呪術師なのである。
お雪は米の豊作や気候の安定などを神に祈るという大切な役割を担っていた。
しかも、このお雪が中々の美人であるのだから、男衆もまた、あつかいに困った。
眼が細く、色白でうりざね顔と云おうものなら、この時代ではとびっきりの美人である。
そして、一方、矢七は困ったことに村人から恨まれることが良くあった。
お雪の結婚相手である矢七は、お雪の占いによって選ばれたのである。
いくらお雪という村人からも一目おかれる呪術師の占いだとはいえ、
なんのとりえもなさそうな矢七が選ばれたことに少なからず反発、反感を抱いた村人も少なくなかった。
しかし、元来働き者である矢七は、次第に村人からのその結婚の承諾をいただきつつもあった。
―――その矢先に…。
*
村で放火事件がおきた。
村領主さまの納屋の一部が、業火の炎によって全焼してしまったのだ。
しかし、その放火には目撃者が数人いたことにより、事態はおもわぬ方向へと因果を運ぶ。
その目撃証言によれば、矢七がその村で放火のおきた晩に領主の家の前をうろついていたことが明らかになったのだ。
その晩、矢七はたまたま、領主さまの家に村の祭りのことで
相談をしにいったのだった。矢七は自分は放火などはしていない、と言い張った。
しかし、聞き入れるものはいなかった。
【何者かが矢七をおとしいれた】
あの誠実で優しい矢七が放火などするはずがない。
お雪は自身の聡明な導きと呪術によりそう判断した。
そしてお役人に矢七はこんなことをするはずはない、
だれかに嵌(は)められたのだと言い張った。
しかし、お奉行さまは聞き入れてくれなかった。
この時代放火は第一級の犯罪である。
すなわち死罪にあたる。
>>295 もう、桐孤さんたら・・・
私、彼氏募集中じゃないですよ〜笑
縛られるの嫌いで、好き勝手だったら、私と同じじゃないですか。
「ええい。
このたびは村の、こともあろうに領主の倉庫に火を放ち、
村人およびに領主の命を脅かした罪、いかんともしがたい。
それは云うにおよばず、
村のおきてをやぶったこと、これすなわち極刑に値する。
えええい。
打ち首、打ち首獄門―――
ひったてい、ひったてい」
そのお奉行さまの取り決めに、お雪は涙が隠せなかった。
どうして矢七はあんなおどろおどろしい罪をきせられてしまったのか?
お雪は涙が止まらなかった。
その晩、お雪は家の外へ赴《おもむ》き、夜空の月を眺めていた。
まんまるお月さまはなにを見た
見たもの私に告げとくれ
まんまるお月さまはなにを見た
見たもの私に告げとくれ
しかし、何も起きなかった。
今まで順風満帆《まんぱん》に暮らしていたお雪にとって、
この仕打ちは、さながら地獄へと突き落とされた咎人《とがびと》のそれだった。
ごめ〜ん。
お話の途中にレス入れちゃった?
*
刻は過ぎさり、冬になる。
夜中、月見の帰りに、お雪は四・五人の男が矢七の話をしているのを偶然聞いてしまう。
どうやらその話によると、お雪の想像通り、村ぐるみで矢七に放火の罪を被せ、
陥いれようとしたらしいのだ。
元来お雪は美人であり、村の祭祀や呪術をも司っていたために、
たとえお雪の占いによって選ばれた男といえども、身分も卑しく、
さりとてあまり際立った取柄のない男にお雪を任せられるはずもなかった。
初めからこの放火事件は村人により仕組まれていたのだ。
そして、お雪は矢七を占いで選んだ、と村人への口実として云ってはいたが、
実際は矢七のその穏やかでやさしい人柄にほれ込んでいたのだ。
それをただとってつけたかのように、占いという一種の、
この時代に置ける科学的な役割を示すお墨付きにより、お雪は矢七との婚姻を正当化していたのである。
お雪はその矢七に罪を被せたのだ、という話を聞くと、ぶるぶると身を震わせながらも、
自身の内からめきめきと沸きあがる怒りの念をおさえることができなかった。
「そなたたちの云うたことはほんとうか?
ほんとうならば、そなたらを奉行所にてしょっぴいてもらおうぞ」
四・五人の男たちはまさかこんな夜更け、
お雪が聞いているとは露ほども思わず、お雪の言葉に恐れ慄《おのの》いた。
しかし、その四・五人の男たちは、もうこれはしたかたがないと悟ったのか。
その四・五人中のまとめ役が、もはやこうなれば、お雪を殺すしかないと云った。
お雪が呪術使いの家の出だろうと、村の領主さまや村人らの承認を得てのこと。
正直、そこに居た男たちはお雪の復讐が恐くて恐くてしかたがなかった。
お雪は優秀な呪術師。
下手をしたら村人全員で挑んでも勝てないかもしれない。
否。実際、村人全員で望んだとしたら、いくら優秀な呪術師のお雪といえども、
その肉体自身は常人の女と変らぬために、勝てないことはないのだが…。
少なくとも村人はお雪の実力を過大評価していたがために、
そのお雪に対する畏敬の念、恐ろしい女という感情は並々ならぬものだった。
それが村人やお雪には仇《あだ》となった。
お雪は自然干渉系、冷気の呪術を使い、その男たちに呪いをかけようと試みた。
だが、一瞬早く村人の鎌により惨殺された。
しかし、事はこれで終りではない。
このお雪と矢七の不遇な死。
加えて、お雪は類まれなる才能と血を引き継いだ呪術師である。
こんな不遇で哀しい結末をうけて、崇《たた》らぬはずがあろうはずもない。
お雪の霊体はいつの間にか、雪女とかしていた。
そしてそれからというもの、その村は冬に何百年と、雪に見舞われた。
さすがのお雪といえども夏に雪を降らすことなどはできない。
お雪がいくら生前、彼の天才的な呪術師だったとしても、
人ひとりが持つことのできる霊的収容力は限られているのだから。
それが村全体を被うほどの雪なれば、なお更である。
村はそれ以降、冬は来る日も来る日も雪に見舞われた。
村人たちは殺されたお雪が雪女となり、降らせているのではないかと思い始めた。
村人はお雪を供養する墓を立てて祀ったが、冬の間、雪が止むことは終《つい》ぞなかった。
今でもその村の言い伝えでは、無実の罪で殺された矢七や、
自身の不遇を鳴くお雪の涙が雪となり、村を雪で埋めつくすとされている。
雪女が鳴くたびに雪がふり、その雪はついぞ絶えることがなく。
*
終わり