−第3話−
真っ暗な裏通りを黒猫と男が歩く コツコツ・・・ ペタペタ・・・
音は入れ替わり立ち代り、ところどころ水溜りのある道に音楽を流した。
絵描きはどうだか知らないが、黒猫は静かな通りに、
これまた静かになる足音に昔の記憶へと意識が遠のいていった。
自分がまだ幼く、街の冷たい風も知らなかった時間。
あまりに今まで過ごして時間が濃厚で、冷酷で、残酷だったので忘れかけていた、
人の温かみに触れていた僅かな時間。。。
『ホラホラ!ねぇ!見てよ!』
やたらと五月蝿く騒ぐ少女が一人。
9・10歳くらいの元気な・・・少し元気過ぎる少女だ。
見た限りこの家は金持ちらしい。
少々大きな門があり、プールに、噴水に、花の沢山咲いた庭。
他の家の悠に2・3倍ありそうだ。
『ホラホラ見て!』
また何か言っている。。。(これが〜で〜は〜って言ってね?)
この家に来てから1年しか経ってないのに耳タコだ。
毎日五月蝿く言われ続けたおかげで、かなり人の言葉は理解できるようになってしまった。
困ったもんだ、猫なんだぞ。戸惑いながらも少女の熱意に耳を貸してしまう。
元々はこの家の使用人がたまに餌をあげていた猫が俺の母親で、
いつのまにか此処に居ついてしまい、いつの間にか子供を身篭ってしまった為に
生まれてきた奴の一匹が、この家の奥様に見つかって・・・。
それから追い出せという話になったんだけど。
この元気過ぎる少女が無理矢理に飼うと言ったので、辛うじて俺一匹だけ此処に残って居るのだ。
家族は・・・どうなったんだろう。
………それから十分ほどしてもまだ歩いている。
新たに何かを思い出した。
…ザー…ザーッ…
やけに耳に残る雨音
こびり付く泣き声
『わぁああぁっひっうぐっあああっ』
黒猫にぴったりの黒々とした空からしきりに雨が打つ中で
俺を目の前にして少女が泣いていた。
なぜ?
分かりきっていた
彼女の親は俺をよく思っていなかったから
なぜ?
黒いから
なぜ?
人間は闇を嫌うから
なぜ?
闇にはあらゆる物が潜む事が出来るから
なら、幸せは?
何が起きるか分からない時、幸せが来ると思うかい?
なぜ?
ドキドキしたときに限って、失敗したり悪い事が起きたり
目に見えないところで起こる事ほど不吉だからだ
全て自分への問いかけで、雨の降りしきる中胸の中で雨音より大きな音で聞こえていた。
−第3話・完−