さわやかな朝だ。鳥の鳴き声。カーテンから差し込む陽光。
窓のあたりを覆う冷気すら清々しい。
心地よい朝の目覚めだった。
「なんでだろう。」
あなぐも名無しはミッチーの腕枕に抱かれていた。
「なんでこうなったんだろう。」
一度目は呟き、二度目は胸の中で唱えた言葉だ。
夜の記憶。激しく絡みあった感触。男と男の姦淫。
湿った汗の香り。粘つくタバコの香り。ミッチーの香り。
「・・・」
大きく首を振る。すると、右腕に抱かれていた
あなぐも名無しの鼻先に、ミッチーの左腋が触れた。
「くさい」
きつい酸味が鼻腔を突く。だが顔を背けられない。
俺は正常な性癖だった。昨日までは。
夕べまでは。ミッチーを知るまでは。
「なんでだろう。」
再び同じ言葉を口にしながら、起きあがろうとする。
肛門が痛い。ミッチーは馬並み。無理もないことだった。
あなぐも名無しはニ週間の便秘のあとでさえ、あんな太い便を出したことはなかったのだ。
「俺。俺さあ、ミッチー・・・」
安らかな寝息を立てて、安眠を貪るミッチーに
あなぐも名無しは語りかける。聴いて欲しいわけではなかった。
言わずにはいられなかったのだ。
顔面が紅潮する。胸の中で何かが、熱い何かがこみ上げている。
「俺さあ、ミッチー・・・」言葉が出なかった。この感情に対する形容詞がでてこない。
何を口にすればいいのか。あなぐも名無しにはわからなかった。
「明日も来るよ。」
ミッチーの耳元に囁いた。傍らのメモ用紙に
今と同じ言葉を書き込む。手が震えているのがわかった。
自分が恥かしい。なんでだろう。また口にしようとして押さえる。
あなぐも名無しは服を着ると、急ぐようにミッチーのアパートを出た。