50CC!
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名無し戦隊ナノレンジャー!:04/09/19 16:50:31
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おかえり
じわりと汗が滲むとラメ入りの化粧を塗ったように
特に関節のしわが際立って光りだす。
見つめていると楽しくなる。
順に折っていく。小指を畳む中途に差し掛かると、光の当たり具合で
影が急にニョキッと伸びた。
静かな水がなみなみ入った水槽に黒が広がりだす。
畳み終わる頃には親指の側面にだけ煌きが残った。
拳が出来上がり、顔に近づけると指先が接地しているあたりの影が
一層色濃くなる。
更に寄せると、親指も侵食され光が消えた。
暗くなった崖下を見る。
底を一杯にしていた黒が上にも登り、そして行き場をなくした。
手を開く。輝きが増した。
意識が戻った瞬間、目に入ったのは看板だった。
隣町の警察署らしい。
スロープを登り玄関の前に自転車を止め、中に入った。
右手にカウンターがあり、そこから眺めるかぎり、かなりの広さに感じたが
警察官は2人きりしか居なかった。
とりあえず道を尋ねたが眠さでどうにも頭に入らない。
すると警察官の一人があそこで休んでいきなさい。とカウンターのむかいにある
ベンチを指差した。
もう一度振り返り警官に見たが、女が媚を売るのとは明らかに違う
上目遣いでこちらを見つめながらもう一度休んでいきなさい。と言った。
こいつの目の前で無防備な姿を晒すことには抵抗を感じて外にある
自転車を見た。しかし、どうしようもなく駄目らしい。
目を戻す前に足はベンチに向かった。倒れこんだ瞬間に眠りに入った気がする。
何気にパッチリと目が開いた。朝は朝だが空は黒ずんでいるし、そう明るくもない。
なぜ起きたと思いながらも立ち上がった瞬間にはどうでもよくなり、
カウンター越しに二人に礼を言った。手書きの地図を差し出され道を教えてくれた。
地図を手にもう一度礼を言い、なぜか警察署の中になる自転車を引いて
外に出た。
地図はわかりやすかった。順調に家に近づいていることは道路にある看板で
わかっていた。
だが途中橋から落ちた。あっという間に底に沈み、身動きがとれないことが分かった。
酸素を消耗すると思い、5秒ほど大人しく沈没してみた。
一度全身にぐっと力を入れるも、まだ動けない。
今度は10秒待ってみた。動けない。
30秒待ってみよう。これで駄目なら諦めよう。力を抜いた。
数秒もしないうちに体が川底に染み込んで、苦しくなくなった。
水より土の方が相性がいいみたいだ。
アスファルトが多くて、2時間はさまよっただろうか、やっと土を見つけて
地上に出た。
そこはアパートの駐車場で目の前には1階のベランダがあった。
疲れているときに性欲は漲るもので、
洗濯物の中にレースの黒いパンツとブラが盗みたい衝動に駆られた。
ベランダから手を伸ばすものの届きそうもない。
横目で窓を見ると、窓だと思っていたものは網戸だった。
実はそんなものを盗んだこともない、窓も開いている、潔く諦めた。
いつも慣れっこにはなっていたが、無意識の内に時間つぶしをしていたのかもしれない。
その時間つぶしの内に自転車はいつも側に止まっていてくれた。
その日は感謝を込めて自転車を引いて帰ることにした。
一つ引っかかるのは朝と夜の警官は同じ人たちだったのだろうか???
今度会うときはしっかりお礼を言わなくちゃ。
液晶モニタを接続し終わって片付けをしていた。一つ一つダンボールを潰していると、
ダンボールを入っていたダンボールに手提げ鞄のような持ち手がついていることに気付いた。
当然それを振り回し始めた。その途端に無性に楽しくなってしまい、
小学生がバケツの水をこぼさないように回して遊ぶように、ダンボールを
更に勢いよく回した。
すると、ダンボールから人が飛び出して、無造作に崩れ落ちた。
今はその人のことよりもダンボールを回していたかったが、
偽善は心を休めてくれるという期待感もあり、とりあえず声を掛けて起こした。
まずポマードでビシッと決めた黒髪に目がいった。実際は白髪だろう。
余りの漆のような黒が染めているということを教えてくれていた。
おじさんは金色で縁取られた立派な眼鏡をかけており、左右のレンズの
間には緑の宝石がはめられていた。
スラックスが細身のせいか、蛍光灯の明かりを見事に反射している靴が
はっきりと見えた。
パリッと糊の効いた真っ白なシャツの上には、こっちが苦しそうになるくらい
きっちりとネクタイを締めており、それは真っ直ぐにさがって、
クラッシックアーガイルチェック柄のベストに滑り込んでいた。
さて、何から話したものか。
紳士を絵に書いたような、この御仁に失礼があってはいけない。
質問は慎重に選ばなくては。
しばらく黙って考えていたが、ダンボールおじさんは笑みをたたえたまま、
こちらが喋るのを待っているようだった。
そういえば、この人は起こしてあげた御礼もまだ言っていない。
少しずつ腹が立ってきた。
それでも、良い質問を考えることはやめなかった。
「ダンボールに入ってたのに重くなかったのですが、なぜですか?」
我ながら良い質問だ。喋り終わったあとに満足げな鼻息が無意識に出た。
「何も入っていないダンボールが重いなんて、おかしくありませんか?
だから軽かったのですよ。」
優しい口調でおじさんは言った。まだ御礼を言ってはくれないが、
不思議と苛立ちはおさまった。おさまったと言うよりも、おじさんの
答えに
「なるほど。」
と声が漏れるほど感心が勝ったのだ。御礼は歳のせいで忘れているのだろう。
彼は紳士だ。
話を聞くと世界に存在するダンボールの3割には人が入っており、
彼らは距離が離れていようとも強い連帯感を持って繋がっており、
各々そこそこ幸せに暮らしているとのことだった。
その時、おじさんは突然手を首の後ろにやり、背中から日本刀を取り出した。
切っ先をこちらに向けた瞬間奇声をあげた。
だめだ!この人は戦争経験者だ。
身を翻して逃げようと試みるも、左手が肩から切り落とされ宙に舞った。
その時私は既に走り出しいて、落ちてきた左手は左ひざにくっついた。
まるで足から手が生えたようだ。
きっとまだ片付け終えていなかったダンボールに足が触れたのがいけなかったのだろう。
左ひざの左手のせいで走るスピードを奪われていたせいで、
老人の足でもまだ私を追ってきていた。
長い廊下に入って、後ろを見ながら走り続けた。
謝れば許してくれるのだろうか。でも謝りたくはない。彼はまだ御礼を言っていない。
階段を落ちるように降りて、1階にある自転車に飛び乗った。
さすがに振り切ることができた。
帰り道、目に入るダンボールを悉く足で蹂躙した。左ひざを落とそうとしたが
左ひざの左手が邪魔をして、大好きなニードロップができないことが
更に腹立たしさを煽った。
家につくなり、部屋にあるダンボールを全て引きちぎり、切り刻み
焼却炉で全て燃やしてやった。
学生時代の古い教科書を平積みする羽目になってしまい、
ダンボールが無いと不便だと思ったが、いたしかたない。
ダンボールおじさんとの戦いは始まったばかりだ。
意識が体と分離した。
目が見えるはずもなく、どこを漂っているのかさえ分からない。
そもそも宇宙空間に意識だけが存在することができるのかどうか、
全く別の世界に居るのかもしれない。
私は意識は宇宙空間を常にさまよい、混じわり合っていると思っていた。
それがあらゆる生物の誕生とともに、我先にと飛び込むことによって
命が生まれるものだとも思っていた。
しかし、どうだ。おそろしいくらい一人じゃないか。
まあ感覚があるはずもなく、誰かが居るやもしれぬが
私の知るところではないということだろう。
白色か黒色かといえばイメージとしては白だ。
ともかく気持ちよく存在していると、ここが今どのあたりかということや
実体のこと、私が誰であるかということ、つまり絶対的に何一つ残さず
どうでもよくなってきた。
これは宇宙生命になる前触れかもしれない。
こうやって皆一つになっていくのではないか。だから今は孤独をかんじているのだ。
最後に実体のことを考えてみよう。
今あれは何をしているのだろう。まず最初に思いつくのは
意識が無いものは動かないということだが、私はすぐにそれを否定した。
人には無意識というものがあるのだ。私が全てを持ってここに居るとしたら
実体と共に生きていた時とは異なる自分を感じるに違いない。
だが、その感覚は無かった。
さてあれは今無意識に動いているに違いない。
理性というものは私が持ってきた。
全ての箍は外れた。
彼はまず川原の土手を下りたところにある公衆便所に向かい、その壁を利用して
空気イスを始めた。すると、右足は小刻みに震え始めた。
いわゆる貧乏ゆすりというやつだ。その勢いは凄まじく、右足の下の
草は踏みにじられすぐに土が現れ、さらに土は削られ足型に穴ができあがった。
そう草だ。彼は腹が減っていた。四つん這いになって土手周辺の草を犬食いで
むさぼった。腹が減ると性欲が湧くものだ。
公衆便所に一人の女子高生が入っていくのを彼は見逃さなかった。
彼はすぐさま彼女を追いトイレに入り、扉を破り、
パンツを脱ぎかけていた彼女を犯した。
彼女は便器を枕に横になった。意識がなくなったわけだ。
愉快なことだが彼女は今私の側に居るやも知れない。
そして、彼は草を食べ尽くして露わになった土の上で深い眠りについた。
さて、考え終わる頃にはその想像の楽しみよりも
融合が始まりつつあり、そちらに興味が向いていた。
ところがどうだ。一度失いかけた自分が徐々に戻ってきた。
それは実体と居るときに近づき、そしてそれよりもはっきりと強くなった。
気が付けば川原に居た。
当然草は無く、土の上で寝ていた。便所の壁際には足型の穴があり、
女はまだトイレで倒れていた。
ははは!こいつはやっぱり全部やっていたか!
土手を登って道路に戻り、自転車を引いて歩き始めた。
時は夕暮れ時で私の広報では夕日の半分以上が沈むつつあった。
10分くらい歩いて、後ろで日が沈みきるのを感じた。
構わずに、歩き続けるとまた日が射してきた。
上半身を捻って振り返ってみると、また日が昇ってきたようだ。夕日は赤く眩しい。
そしてまた沈み始めた。私も前に向き直り、歩き出した。
しかし、諦めの悪い太陽はまたもや昇りだした。
今度は私も性根を据えてそれに付き合わなくてはならないだろう。
全身を太陽に向き合わせた。すると、太陽はまた沈み始めた。
それでも、今度はジッとそれを見つめていると、
昇り降りを繰り返し始め、瞬く間に恐るべき速さでそれが繰り広げられた。
私は赤いライトのストロボの中に取り込まれた。
動いているものは静止しながらも高速に移動を始めた。
川は乱反射した光をすぐさま回収して、またすぐに無造作にばらまいた。
何も変わらないのは道路脇の木だけで、夕日を背にしているせいで
いつ見ても黒いままただそこにいた。
道の向こうに黒い点が現れた。人だ。
明るくなるたびに人が近づいてくるのがわかった。
人の形が判断できる頃には人のスピードが尋常ではないことを悟った。
あれは加速度的にこちらに向かってきているではないか!
そして次見えたときには黒い棒状のものが生えていた。
妙な心地悪さを感じ、後ろにある自転車に向かおうとしたが時既に遅し、
その人は私の側を通り抜けた。その瞬間私の左手が飛んだ。
それは大した問題ではなかった。私は左手を切り飛ばされてからというもの
金輪際にそれが左ひざに結合してしまわないよう訓練を行っていたのだ。
落ちてきた左手は見事に私の左肩に納まった。
ダンボールおじさんの二撃目をかわし、私は逃げ去った。
逆方向に向かったため、ストロボで目をやられたが後ろで
おじさんが転んでいるのははっきりと見ることができた。
ああ、眠いような、ちょっとずつ死んでるような。
書きたいことはあるのに。
test
test
test