スマートフォン(スマホ)向けゲーム「パズル&ドラゴン(パズドラ)」のヒットによって会社の市場価値が任天堂
7974.OK -2.35%を上回ったと5月に聞かされたとき、ガンホー・オンライン・エンターテイメント 3765.JA +11.61%の
森下一喜社長は誇らし気な様子はみせなかった。
「率直な思いは、非常に嫌な気持ち」。森下氏はビデオゲーム業界の巨人と比較されたことについてこう話した。任天堂の
ゲーム「スーパーマリオブラザーズ」は同氏がビデオゲームを開発しようと思い立ったきっかけにもなっており、
「任天堂のものづくりにわれわれは全然足元にも及んでいない。恥ずかしい気持ちでいっぱい」と森下氏は語った。
任天堂の来るべきライバルとしてのガンホーの台頭は、ビデオゲーム業界でスマホ向けゲームがいかに革命を起こしつつあるか
を物語っている。スマホのタッチ式ディスプレーはますます高性能化が進み、そのおかげで低コストのゲーム開発業者にとっても、
既存の大手ゲームメーカーと同じように数百万人の新たなプレーヤーを手に入れるチャンスが訪れている。
フィンランドのロビオ・エンターテインメントが開発したモバイルゲーム「アングリ−バード」は、指で画面をなでる操作が、
ユーザーがボタン操作の組み合わせを習得する必要のあるコントローラーを使用する場合と比較していかに直感的で簡単かを
示している。一方、次にヒットを生み出すモバイルゲーム銘柄を求める投資家が株式市場にホットスポットを作り出し、ゲーム
業界の既存のヒエラルキーを覆している。
ガンホー株の急伸と任天堂株の伸び悩みは、スマホやタブレット型端末でプレー可能なゲームを取り巻く興奮と、それらが
ゲーム専用機から顧客を奪う可能性の双方を反映している。
ガンホーは東京を拠点とする企業で、ソフトバンクが58.5%保有している。同社の市場価値は過去12カ月で約45倍にまで
膨らんだ。ただし、ここ数週間は反落し、7日の取引終了時点の市場価値は1兆1170億円と、1兆3200億円の任天堂を下回った。
「ポケットモンスター」や「マリオカート」、「ゼルダの伝説」といったヒット作を生み出してきた30年にわたる実績を持つ
任天堂とは異なり、ガンホーの市場価値はほぼ全面的にパズドラに根ざしている。
パズドラは、米ポップキャップ・ゲームズの「ビジュエルド」のようなパズルゲームにカードバトルゲームや
ロールプレーイングゲームの要素を組み合わせたもので、日本ではスマホユーザーの4人に1人が利用している。
調査会社アップアニーによると、3月の売上高は世界のゲームアプリ市場で首位となっている。
ダウンロードは無料だが、ユーザーにコインを購入し、ドラゴンをはじめとするモンスターキャラを集めるよう促す仕組みに
なっている。
最近都内の電車でパズドラをプレーしていたホリ・リョウタさん(21)は、プレーを始めてから2カ月たつと話し、
モンスターを集め、それを進化させるのが好きだと語った。お気に入りのモンスターができると、もっと大きく、強くさせたいと
思うようになる、とホリさん。
ホリさんによると、自身がパズドラでプレーを続けるためにかける費用は毎月わずか数千円程度だが、友人の中には珍しい
モンスターを手に入れようと毎月1万円超費やしている人もいるという。
そうした仕組みがゲームの人気に一役買っている。パズドラの4月の売上高はおおむね1日当たり400万ドルだ。パズドラの
おかげでガンホーの1-3月期の売上高は9倍に、純利益は54倍にまで拡大した。
パズドラの成功は一夜にして成し得たものではない。ガンホーは1998年にソフトバンクのネット競売運営会社として創設され、
02年にオンラインゲームにくら替えした。05年の上場後は、森下氏は会社の経営面に力を入れ、事業の拡張や小規模なゲーム
会社の買収を行った。
しかし、失敗作が相次いだことから、森下氏は製品開発をより密接に監督する必要があるとの結論に至った。今では森下氏の
意見や承認を得ずに開発の次の段階に進む製品は1つもない。パズドラは森下氏がゲーム開発に再度注力し始めてから初めて
開発されたゲームのうちの1つ。
森下氏はゲームの面白さを決める判断基準は何かを問われ、「僕。僕の中で答えを出す」と述べ、「90パーセント面白くても
駄目。100パーセント、本当に面白いと自分たちで思うものしか出さない。もやもやするときは出さない」と答えた。
(以下省略)
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