●声優&音響監督、両方をこなす郷田氏ならではの金言の数々
郷田ほづみ氏と言えば、アニメファンならば知らぬ者はいないだろうというほどの有名声優だ。『装甲騎兵ボトムズ』の主人公キリコ・キュービィー役を筆頭に数多くの作品に出演。
近年では、某芳佳ちゃんのお父さん役などでも人気を博した。
講演は、まず郷田氏の自己紹介から始まった。いやいや、存じ上げてますよ……と思いきや、語られた郷田氏の経歴は、じつに興味深い内容だった。
まず、声優デビューからまもなく、キリコという大役を射止め、順調なキャリアをスタートさせた郷田氏だが、
並行して行っていた3人組コントグループ“怪物ランド”の活動も多忙となり、徐々に声優の仕事から離れていく時期が続く。
しかし、郷田氏も敬愛していた大声優・富山敬氏が1995年に逝去。その後、人気アニメ『銀河英雄伝説』シリーズの外伝が制作されるにあたり、
富山氏の持ち役だったヤン・ウェンリーの代役として、郷田氏に白羽の矢が立つ。これは郷田氏によると、『銀河英雄伝説』は長大な大河アニメで、
膨大な数のキャラクターが登場する作品。それでいて、ひとりふた役をなるべく避ける方針がとられていたため、出演声優の数も膨大となり、
当時ある程度のキャリアがある声優はほとんど出演済みで、ヤン役をやれる声優がいなかった、という事情があったのだそうだ。
また、郷田氏が世代的に『宇宙戦艦ヤマト』直撃世代で、富山氏の物まねをしたりすることも多かった……というのも、関係があるのかもしれない。
そしてヤン役を演じたことをきっかけに、以降、再び声優の仕事に“戻ってくる”ことになる。だがその過程で郷田氏は、
「アニメから、コント、テレビドラマ、映画など、いろいろやりました」と語る。
その“いろいろ”には、舞台演出の経験も含まれており、それこそが、郷田氏が音響監督の仕事を依頼された理由となっているのだという。
中略
●声優、音響監督を悩ませる“制約”とは?
続いては、“テレビアニメ、映画、ゲームなど、それぞれにおける音響の違いとは?”というお題。これについては、理想と現実の壁を感じさせる、生々しい現場の実情が語られた。
まずゲームの音声収録では、キャラクターごとに別録りで収録するケースが多いというのは、熱心なゲームファンならご存じの方が多いだろう。
郷田氏によると、ゲーム収録においては時間との戦いになることが多いそうで、“テスト本番”、つまりテストなしのぶっつけ本番で収録するケースも多々あるのだという。
郷田氏が声優として経験したケースでは、「全部の台詞を2回ずつ言ってください」と依頼されたこともあったのだとか。この方法だと時間は単純に2倍かかってしまうものの、
郷田氏は、「ある意味効率がいいやりかたでもあるな、と思いました」(郷田氏)と語る。
それは、プロの声優でも、一度声を出してみないと、自分のイメージ通りになっているかわからないこともある。一度目をもとに、二度目で修正することで、
よりイメージ通りの演技ができるということだ。また、一度目で完璧に演技ができた場合には、二度目では少し遊びを入れて演技を入れてみたりすることもできる。
ディレクターは、よりよいほうを選ぶことで、クオリティーを高めることができるわけだ。
また興味深かったのが、ドラマCDの収録にまつわるお話。ドラマCDの場合、絵もないし、口パクの制限もない。
郷田氏は、「役者さんが、自由に、自分の間で喋れますから、非常に役者さんが活き活きできるジャンルのひとつだと思います」と説明する。ただしここでも、制作上の都合が……。
CDドラマは1時間くらいの尺のものが多いが、それをだいたい3〜4時間くらいで収録することが多いのだそうだ。
時間の制約が大きいため、キャラクター設定だけ確認したあとは、リハーサルなし、ぶっつけ本番で収録することが多いのだという。前述の通り、
役者のよさを発揮しうるコンテンツなだけに、郷田氏は「丁寧に何回かテストをやってから本番、とできれば、もっといいものにできるのにな……と思うことも、たまにあります」
と残念そうに語る。
ちなみに、絵に合わせなくてもいい、台本を読む仕事なので必然的に台詞を覚えなくてもいい、というわけで、台本をあまり読まずに現場に来る役者さんも、
「なかには、たまに」(郷田氏)、いるのだそうだ。講演中を通して穏やかで、決して誰かを貶めるような言葉を口にしなかった郷田氏が、あえて苦言らしき発言をするということは……。
いち消費者としては、なるべくならば、役者さんの魂のこもった商品を購入したいものです……。
>>2以降に続きます。
http://www.famitsu.com/news/201208/22019955.html >>1の続き
中略
●アニメ独特の“演技”とタレント声優の現状
つぎに、「演出するうえで気を付けていることは?」というお題。郷田氏は、「絵に負けないようにすることです」と語る。
とくにアニメの場合、絵に誇張が加えられていることが多く、“絵のテンション”が全体的に高い。
郷田氏は、「絵のテンションより芝居のテンションが低いと、本当にみすぼらしい感じに見えてしまうんです」と説明する。まして、ここまで何度か説明されてきた通り、
収録の現場では絵ができていないケースが多い。そこで音響監督としては、できあがりの絵がどうなるのか確認を取りつつ、収録を進めるのだそうだ。
ただ、「完パケを見て、話しが違うよ、ここはこういう絵だって言っていたじゃん! となることもありますが(苦笑)」(郷田氏)。
なお郷田氏は、昨今の、集客や宣伝を目当てに、声優以外をキャスティングする作品が増えている風潮について、
「そういう作品を見ると、やっぱり絵に負けているな、と感じます。お芝居ができない人ではないけど、これでは足りないな、と」(郷田氏)と語る。
そして郷田氏は、そうした起用は、作品にとっても、起用されるタレントにとっても気の毒なことだという。
かつて郷田氏が音響監督を務めた、とある短いアニメーションでのこと。この作品でも、キャスティングは音響監督が口を出せない領域にある案件で、
いったい誰が来るのかと思っていたら、超売れっ子のアイドルが来たのだそうだ。何せ超多忙なアイドルなので、スケジュールが取れないため、収録が行われたのは真夜中。
そのアイドルがナレーションをする内容なのだが、本人にナレーションの経験など皆無なため、何度やり直してもうまくいかない。そうこうしているうちに、
音がヘンだと感じた郷田氏が、ブースの中を覗いてみると……そのアイドルは、頬杖を付いた姿勢で台本を読んでいたのだそうだ。
こうしたキャスティングが行われているのが現実で、そこには相応の理由があるのは事実だ。郷田氏もそこに理解は示し、言葉を濁してはいたが……
アニメ業界は、いまも多くの難問を抱えているようだ。
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