千葉県南東部に位置する鴨川市では、今年1月より整備された春を先取りする菜の花畑
“菜な畑ロード”が見頃を迎えている。先週末(2月11〜12日)は、天候も良かったこともあり、
2日間で約1200人が訪れた。花摘みを楽しむ人の姿が見られた一方、菜の花畑の真ん中で
注目を集めていたのが、テレビアニメ『輪廻のラグランジェ』のキャラクターパネルだ。
同作は関西の読売テレビ、関東ではTOKYO MX、チバテレビなどで主に深夜に放送されている
ロボットアニメ。鴨川を舞台に、架空の鴨川女子高等学校に通うヒロイン・京乃まどかが
宇宙から来襲した敵と戦う壮大なストーリーが繰り広げられる。地球を防衛する最前線として、
鴨川の町並みがリアルに描かれ、魚見塚展望台と女神像、前原横渚海岸、鴨川松島などの
名所も登場する。
菜の花畑から魚見塚展望台にも足を延ばしてみた。車で急な坂道を上がって行くと、
人家の間からふと眼前に鴨川の町並みを見下ろす展望が開け、思わず「あっ!」と驚きの声を
上げてしまった。アニメそのままの風景が広がっていたからだ。アニメ・ゲームの舞台になった地域を
ファンが訪れる“聖地巡礼”が全国的なブームになっているというが、そうしたくなる気持ちも
少しわかる気がした。
実在の町を取り入れ、背景に説得力を持たせて、視聴者をアニメの世界に引きこむ手法は
珍しいものではないが、最近は地域振興と結びついて、より注目されるようになった。
『らき☆すた』の埼玉県久喜市(当時は鷲宮町)、『かんなぎ』の宮城県仙台市、『あの日見た
花の名前を僕達はまだ知らない。』の埼玉県秩父市など、“聖地巡礼”によって一定の
経済効果がみられた事例もあり、“地域密着”の施策によってアニメファン以外にも広く作品が
認知されるようになった。4月スタートの新作アニメの中にも、静岡県下田市を舞台に描く
『夏色キセキ』や、神奈川県の湘南・江ノ島を舞台とする『つり球』などの地域密着系の作品があり、
ほかの作品との差別化にもなっている。
鴨川市では、昨年3月の東日本大震災と福島第1原発事故の影響で観光客が激減し、
夏の海水浴客は前年の半分以下に落ち込んだ。そんな中、『ラグランジェ』の製作サイドから
「鴨川を舞台に…」という話が同市に舞い込んできた。「鴨川市としては初めての取り組みになるが、
この機会を逃す手はない」(鴨川市産業振興課・畑中博司さん)と歓迎した。そもそも、
アニメがある程度ヒットしなければより多くの観光客誘致は望めない。商工業者や地域づくりの
担い手となる若者たちの間でも“ご当地アニメ”として盛り上げようという気運が高まり、
「輪廻のラグランジェ鴨川推進委員会」を発足させ、作品への理解と地域振興を併せた
フリーペーパーの発行や先行上映会などを行なってきた。
課題は「これから」だ。『ラグランジェ』は3月までの放送予定となっており、続編のあるなしに
関わらず、鴨川市は春から夏の観光シーズンを迎えることになる。2月9日に同市で開かれた
「推進委員会」の会合では、アニメの製作委員会の関係者も交えて、『ラグランジェ』と鴨川市の
“今後”についてさまざまな意見交換がなされた。“聖地巡礼”のための拠点施設の整備や、
製作委員会と連携した商品・グルメ開発、イベントの開催などが検討されているが、
「アニメのビジネスと地域振興が噛み合わないところも多々ある。何事も簡単ではない」と畑中さん。
自分たちから仕掛けていくことの難しさにも直面している。「それでも、鴨川市としては、
地域振興のモチベーションになっているし、今までの行政を含めた地域全体になかった
取り組みにもチャレンジしていくことが今、必要だと思っています」と前向きに話していた。
なお、記事冒頭の“菜な畑ロード”は、鴨川市役所付近の市道両脇の田畑を、農作物を作らない
冬のこの時期だけ地元の農家から借りて整備したもので、3月4日(日)まで実施。最終日までの
毎日曜日は午前10時から午後2時まで、菜の花茶屋が出て地場産品の販売や、先着200名に
汁物などを振る舞う。房総鴨川で菜の花いっぱいの春を満喫してはいかがだろうか。
ORICON STYLE
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