青い空を背景に巨大な凧(たこ)が浮かぶ。ただ、伝統的な和凧とは少し印象が違う。
描かれているのは、漫画やアニメに登場する萌(も)え系美少女。金色の髪をたなびかせ、
深く青い澄んだ目でみつめる。体は八頭身だ。
萌え系美少女を描いて大空に揚げる、この和凧の名を「痛凧(いた・だこ)」と言う。
漫画やアニメに登場する萌え系美少女。金色の髪をたなびかせ、深く青い澄んだ目でみつめる。
体は「八頭身」だ。
http://farm5.static.flickr.com/4024/4459777216_41aa1b5c12_o.jpg ◆技術を残したい
常陸太田市寿町の塗装業、後藤大輔さん(21)は、中学1年生のときから凧作りをして
きた。現在は日立市の伝統和凧、「八つ凧保存会」の会員で、「全国痛凧連合」の発起人。
美少女キャラとの出会いは、高校二年生のときだった。
恋をして、大好きな女性に裏切られた経験から傷心状態に陥った。そんな後藤さんを
救ったのが、当時はやっていた恋愛系ゲーム。「現実と違って裏切りがなかったから」
と笑う。おたく仲間と一緒に秋葉原へ行き、車に萌えキャラを描く「痛車(いた・しゃ)」
を見た。鮮烈な印象だった。
「和凧に描いてみたらどうだろう」。高校の卒業間近、本当になんとなく思いついた。
伝統的な和凧を作りながら、後藤さんは常に頭をひねっていた。熱心に取り組むのは高齢の
人ばかりで同じ年代の若者は誰もいない。「日本の和凧は、地方によって形も手法も違う。
本当にすばらしい技術があるのに、このままでは何も後世に残せず消えてしまう」
萌え系美少女を描くことで、若い人が少しでも興味を持つのではないか。和凧を広く知って
もらえるきっかけになるのではないか。もちろん、おたくとしての趣味もあった。
独学で萌え系の絵を和凧に描き始めた。武者絵を描く場合と同じく、染料を使った。ポスター
カラーや水彩絵の具でも描けるが、空に揚がって光にすかすと影ができてしまう。色の薄さ
や加減を微妙に調整し、職人技で一気に塗り上げる。
◆ ネットでうわさ
初めて後藤さんの「痛凧」が空に揚がったのは高校を卒業したての5月、埼玉県春日部市
で行われた「大凧あげ祭り」だった。同県鷲宮町には人気漫画「らき☆すた」のモデルと
なった鷲宮神社があり、地元をあげて萌えで街おこしをしている。後藤さんは、「らき☆
すた」のキャラクターを縦1メートル20、横1メートル70の凧に描いた。
ファンがわざわざ凧を見にやってきた。実は、後藤さんの凧が、ネットでうわさになって
いた。「痛車」にちなんで、「痛い凧」と。「痛い」はおたくの人たちが多少自虐的に使う
言葉だ。後藤さんは自分の凧に「痛凧」と名を付けた。
凧の縁で知り合った仲間から「和凧を作ってみたい」という声が上がった。
2008年秋、「第一回痛凧フライト会」を開き、仲間と全国痛凧連合を発足させた。
メンバーには静岡県の駿河凧の職人もいる。発足してまだ日は浅いが、毎年「痛凧」を
使ったたこ揚げ大会を開催し、徐々に認知度も上がっている。
今までに作った「痛凧」は約30枚。21、22日には、コミケの関連企画として水戸市
泉町2丁目の泉町会館で「痛凧」展示会を開く。「夢は、全国の人がその土地に残る伝統的
な和凧で痛凧を作ってくれること。どんな形でもいいから、日本の伝統的な和凧のよさを
残せたらうれしい」
ソース・マイタウン茨城
http://mytown.asahi.com/ibaraki/news.php?k_id=08000721003200001