■三十路目前に人生の大波
法律的には20歳が最大の年齢区分だろうけど、個人的には30歳、40歳という“大台越え”の
ほうが何となく節目というか、ちょっと人生ってものを考えたりした。
本書の主人公たちも、三十路(みそじ)目前にして人生の大波にぶつかったカップルだ。20歳から
9年の付き合いで、すでに同棲(どうせい)5年だが、結婚の予定はない。それで特に不都合も
ないけれど、周囲の結婚話や妊娠話に心がざわつくのも事実。そんな折、男のほうが酔った勢いで
一度だけ関係を持った会社の先輩を妊娠させてしまい……。
微妙な年齢の男と女の揺れ動く心情を、繊細かつ生々しく描いて共感を呼ぶ。ストーリーを進める
ためではない一見ムダなセリフがリアリティーを生み、心象風景の比喩(ひゆ)的表現(たとえば男が
妊娠を告げられるシーンで、女の放った矢が木に縛られた男の顔のすぐ横をかすめるような)が、
コミカルながら実感を伴って迫ってくる。
そしてもうひとつ特筆すべきは登場人物の身体性だ。骨の出っぱりや筋肉のスジ、シワや目の下の
クマまで描かれた人物たちは、体臭さえ感じられそうな確かな肉体を持っている。だからこそ、彼らの
何げない振る舞いが、人間の営みとしての哀歓を帯びるのだ。
遅めのデビューながら、その分、地に足の着いた作品を描いてきた作者。飄々(ひょうひょう)とした
語り口に貫禄(かんろく)すら漂わせる一方、清新さも失わないから不思議である。デビュー作収録の
最新短編集『ペコセトラ』と読み比べてみるのも一興だ。
にこたま 1 (モーニングKC)
著者:渡辺 ペコ
出版社:講談社
価格:¥ 580
◎画像:にこたま 1
http://ec2.images-amazon.com/images/I/51F2OzuwSYL._SS500_.jpg ◎ソース:asahi.com
http://book.asahi.com/comic/TKY201002240305.html