■地図を携えて街へ出よう
地図を持って出かけるのは楽しい。何より、「いま自分はこの辺りにいるんだな」という実感が持てるし、万が一、道に迷っても
途方に暮れないで済む。時間があれば、目的地の周辺に変わった名前の公園や坂道を見つけて回り道してもいい。東京の
風景は均質化しているようでいて、住宅街に突如ハッとするような景色が噴出したりする。そんな街の、新たな風景に気付か
せてくれるのが、古地図好きの16歳・鹿子木千束。連載時の「尋ネ人探偵」を改題、加筆修正した本書の主人公だ。
尋ね人探しを生業とする祖父に代わり、千束が依頼を受けたのは、“少女期に親の都合で離れ離れになり、その後10年もの
間、消息が分からなくなってしまった友達”や、“子供のころに天ぷら屋で見た1枚の絵”。誰かを、もしくは何かを探しながら、
実在の土地をゆるゆる巡るのかと思えば、好奇心の赴くままに猛ダッシュで街を駆ける回もある。
軽やかな線で描かれたキュートなキャラクターもさることながら、フリーハンドで描かれた風景には、視覚的に落ちつくからなのか、
ざわついた心が凪(なぎ)になる効果もあった。また、各話の最後には手書きの地図と、見どころのメモが添えられている。これを
見れば、作品内に切り取られた場所が一目瞭然(りょうぜん)なのだが、そのセレクトにも作者の感性がぎっしり詰まっている
ように感じられた。こういう人を選球眼ならぬ、選景眼がある人と言うんだろうなあ。
ちづかマップ
著者:衿沢 世衣子
出版社:講談社 価格:¥ 945
◎画像
http://ecx.images-amazon.com/images/I/51YyCLc1cGL._SS500_.jpg ◎ソース:asahi.com
http://book.asahi.com/comic/TKY201002030224.html