米東海岸ニューイングランド地方の港町、ニューベッドフォードにあるホテルの1室で、
ある男性がニューヨークから来た「ヒップスター」よろしく、黒い中折れ帽に細い黒ネクタイ、
鋲のついたベルトと、次々にそれらしいアイテムを身につけ、街に出かける準備をしていた。
シャイム・「ライフ」・ラザロスさん(24)は「現実の世界」では大学ラジオのDJだが、変身モードの
ときには「ヒーロー」の装いで、ホームレス支援を行っている。その支援の現場で、この目立つ
扮装が役立つ。「みんなの目につくからね。街中にいると、好奇心や興味をもった人たちから
いろいろ質問されるんだ」
■全米200人のヒーロー・ネットワーク
3年前、ラザロスさんとドキュメンタリー映画作家のベン・ゴールドマンさんが立ち上げたのが、
現実の社会のヒーローたちが集まるグループ「スーパーヒーローズ・アノニマス」だ。
現在、全米で約200人の「スーパーヒーロー」によるネットワークに発展したという。
彼らのいうスーパーヒーローとは、自分で考案したヒーロー・キャラクターに扮して街中を
見まわり、人々を助ける「普通の市民」だ。
■多岐にわたるボランティア活動
「ミッション」は、ホームレス支援から風俗産業で働く人々を対象とした福祉活動、街中の
清掃から犯罪防止活動、救急手当て講習の実施などさまざまだ。
9月初旬、このグループのメンバー約20人が全米からニューベッドフォードに結集した。
ヒップホップ・ライブや浜辺の清掃活動、街中で遭遇した「敵」を「武装解除」させる方法などに
関するワークショップなどを含んだ3日間のイベントを開催するためだ。
「スカベンジャー(ゴミあさり)」を名乗る28歳の女性のソーシャルワーカーは、黒のビスチェに
タイトなボディタイツ、顔は目だけを残してマスクで覆っている。
コスチューム・デザインのインスピレーションになったのは、カラスとコンドルだという。
「彼らは生まれつきのリサイクル主義者だもの。彼らは環境を掃除し、要るものだけしか
使わない。わたしも街のごみを拾ってるの」。拾ったごみを売って得る金銭は、ホームレスの
支援に寄付している。
オハイオ州からやって来たマイク・「ナイトオウル」・ジョンソンさん(26)は、普段は消防署の
救急隊員。フクロウのマークを描いた黒と黄色のジャージが、「夜ふかしの騎士」こと自分の
衣装だ。「身のまわりをちょっと見てみれば、人々が深刻に誤った方向に行っていることに
気づくと思うんだ。僕たちは少しでもその方向を変えて、社会の困難や苦しみを減らしたい」
ヒーローとして活動していると、安全圏から一歩はみ出す状況にも出会うことがある。
ラザロスさんたちはドラッグの密売人と遭遇したこともある。「スーパーヒーローズ・アノニマス」の
ブログには、実際の犯罪対策活動に役立つコスチュームの作り方まで載っており、なかには
防弾ベストも含まれている。
一方、ヒーローのいでたちで、自分が怪しまれることにも自衛策が必要だ。ブログには
「警察対策」として、例えばハロウィーンの日などにまず、スーパーのウォルマートのように、
地元で人出が多いところにコスチュームで登場しておこうと提案している。それを何度か繰り返し、
みんなが「ヒーロー」に慣れてきたところで活動するのが肝心だという。
AFPBB News
http://www.afpbb.com/article/life-culture/life/2644460/4619223