「ギラギラしたかんじに」「この辺ライトアップぽく」。指示が、そこここに記されている。
アニメーション映画の制作過程で、1カットずつの画面構成を示すために作られる「レイアウト」だ。
「スタジオジブリ・レイアウト」展(10月12日まで大阪・サントリーミュージアム天保山)には、
約1300点が並ぶ。
「本来、人目に触れないもの」と語るのは、アニメ映画監督の高畑勲さん。ともに制作にたずさわってきた
宮崎駿さんと「アルプスの少女ハイジ」(1974年)で、初めて本格的なシステムとしてレイアウトを
導入した。アニメーターや美術スタッフが分業して作り上げるアニメ映画において、全体の統一をとるために
必要不可欠なこの設計図について「あくまでも画面作りの土台」と言い表す。「一般の人に見ていただいても、
面白いものなのか実はよく分からない」と首をかしげた。
「構想段階の線の味わいを、目にできる楽しみがあるのでは」。こう言葉を投げかけると、考え込んだ後、
「確かに、日本画の下絵みたいな感じかもしれない」とつぶやいた。
日本画では、本画に取りかかる前に下絵を描く。まず小さな紙で構図を整えてから、原寸大に拡大する。
構想を練り上げるまでに何枚も下絵を作ることもある。
高畑さんは、素早くスケッチを仕上げる力を備えていた渡辺崋山(1793〜1841)や、
「線の画家」と称された小林古径(1883〜1957)をあげ、「彼らの下絵の描線には、本画とは
異なった魅力がある」とうなずいた。それは画家の息吹を感じながら、苦心の跡を目の当たりに
することであり、創作の秘密に迫ることであろう。
「火垂るの墓」「となりのトトロ」(ともに1988年)、「千と千尋の神隠し」(2001年)に
「崖の上のポニョ」(08年)。どのレイアウトもラフでありながら完成度が高く、光や風、空間の広がり
をも想像させる。線がシンプルでやわらかいうえ、公開を念頭においていないため、絵に託した
作り手の思いや体温が、よりストレートに伝わってくるのだ。
高畑さんの言葉通り、レイアウトは、ものづくりの原点を見つめさせてくれる
日本画の下絵のような存在である。
読売新聞
http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/ghibli/cnt_eventnews_20090909a.htm http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/ghibli/img/photo_event_20090909a_2.jpg