ビジネスシーンから友人や家族への頼みごとまで、〈人は毎日「交渉」をしているんだよ〉とは、
本作1巻に収録された人質立てこもり事件の犯人のセリフ。なるほど確かに人間は交渉する生き物だ。
本作は、そんな交渉のプロを主人公に据える。職場のパワハラ、痴漢冤罪、クレーマーなど、
世の中のあらゆる「ゴタ」=モメ事の解消を請け負う裏社会の示談交渉人。高額の報酬を要求する
凄腕(すごうで)ながら、依頼人の熱意と誠意を何より重視し、損得抜きで動くことも多い――というキャラは
仕事人ものの定番だし、高慢な相手を最後にギャフンと言わせるのは水戸黄門パターン。
斬新さはないが、その分、エンターテインメントの王道としてのカタルシスは十分だ。
最大の見せ場は、主人公の交渉術そのもの。微細なしぐさや語調から相手の心理を読み、法律や
判例知識に基づく正攻法のみならず、時にはトリックや脅迫まがいの手段も使いながら、押すべき
ところは押し、引くべきところは引く。鵜呑(うの)みにはできないが、覚えておくと役立ちそうなネタもある。
〈マンガ家を目指してから苦節12年。「君には才能を感じない」「独創性のカケラもない」と言われた事もある〉と
作者自身が記しているように、技術的には未熟な部分も少なくない。が、それを自覚したうえで、必死で描いている
のが画面から伝わってくる。もしも作者が編集者とモメて“ゴタ消し”を依頼したら、きっと引き受けてもらえるに違いない。
ゴタ消し示談交渉人白井虎次郎 1 (1)&(2) (ジャンプコミックスデラックス)
著者:大沢 俊太郎
出版社:集英社 価格:¥ 540
asahi.com
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