CEEDC2日目の13:00から、「KORG DS-10の作り方」と題して、キャビアの佐野信義氏をはじめ、
「DS-10」の開発に携わった6名のスタッフから開発秘話が語られました。佐野氏の軽妙な司会ぶりに
リードされたスタッフから、思わぬコメントも飛び出すなど、肩の凝らない展開ながら、
奥深い内容のセッションとなりました。
DS-10はシンセサイザーやデジタルピアノなどの製造・販売で世界的に有名な老舗メーカー、
コルグ社の完全協力で開発された、世界初のDS向け音楽ツールソフトです。往年の名機「MS-10」
をモチーフとしており、アナログシンセサイザー2台、ドラムマシン1台、6トラック/16ステップの
シーケンサー、3種類のサウンドエフェクトが内蔵され、初心者でも簡単にデジタルサウンドの
制作が楽しめます。AQインタラクティブからAmazon専売で発売され、隠れたヒット作となりました。
DS-10の開発ディレクターで、本セッションで司会を担当した佐野氏は、旧ナムコで
「リッジレーサー」「鉄拳」シリーズなどのサウンド制作を手がけたことで知られるクリエイターです。
本作は佐野氏の所属するキャビア、コルグ、ゲーム向けのサウンド・ドライバ開発などで
高い技術を誇るプロキオン・スタジオ、開発スタジオのトイロジック、そしてパブリッシャーの
AQインタラクティブという、5社の協力体制で開発が行われました。
■懸念材料はDSの性能
はじめに登壇したのは、コルグ開発部の井上和士氏です。発表者の中では、唯一ゲーム業界外の
クリエイターで、担当パートは音源であるソフトウェア・シンセサイザー部分の開発となります。
もともとコルグとしてもゲーム業界について情報収集を行っており、今回の話は渡りに船でした。
ただし井上氏自身は、それまでUIやウェブ管理が中心で、本格的な音源開発は初めてだったとのこと。
それでも「作り方はわかっていたので」と引き受けたと語り、佐野氏を驚かせていました。
苦労した点としては、シンセサイザー2台などの仕様がDSで実現できるか、事前に予測がつかなかった
ことで、やはり開発当初は動作が重かったとのことです。それでも「できるだけ直列にコードを走らせる
工夫をしただけ」といたってクール。まずDS上で実行させて、その上でどういったアルゴリズムを採用
するか決めたかったとコメント。独フランクフルトで発表した時、ネット上で反響を得たことが
一番嬉しかったとのことでした。
井上氏の開発した音源をDSに実装、シーケンサー部分も開発したのがプロキオン・スタジオの
鈴木秀典氏です。井上氏も「懸念材料はDSの性能だった」としながら、挑戦的なプロジェクトで、
依頼後すぐに快諾したと語りました。井上氏によると、DSのスペックは15年前のPCと同じくらい、
MacだとQuadraシリーズと同レベルで、当時ソフトウェアでアナログシンセサイザーを実現したソフトは
なかったそうです。それでも、今ではDSでリアルタイムにストリーミング再生を複数トラックできる
状態なので、ある程度の目処はあったとコメント。すぐにテストプログラムを開発し、
佐野氏を驚かせました。
とはいえ作業を進めていくと、幾つかの問題が発生しました。最初に悩んだのはデータサイズで、
当初は32ビットで作っていましたが、メモリの制限で16ビットとなりました。このため操作レイテンシーが
2ミリセックと、かなりの軽快さを実現できましたが、通信プレイ時に完全な同期がとりにくい弊害も
発生してしまいました。DS-10では1台の親機に対して7台の子機を無線接続してマルチプレイが可能ですが、
こうした理由から佐野氏曰く「本当の同期(シンク)ではなく『合奏』」なのだそうです。
またドラムのレンダリング部分で、開発中に同期がずれる問題も発生しました。2基のオシレーター(発信回路)
の位相状態で、スピーカーから聞こえる音が変わってしまうこともあったそうです。これについて佐野さんに
「セッション中にすごい音が出ていたのに、ロードしたらクオリティが下がってしまうと、困りますよね?」
と尋ねたところ、「アナログシンセだから良くね?」と返されて、絶句したというエピソードを披露。
とはいえ放置するわけにもいかず、修正することになったそうです。
>>2へ続く
iNSIDE
http://www.inside-games.jp/news/311/31186.html