猫にまつわるエッセーを満載し、数々の著名人が寄稿していることで知られる月刊文芸紙
「ねこ新聞」が、六月号で通巻百号を迎えた。神戸市出身の原口緑郎さん(68)が一九九四年
七月に創刊。病に倒れて休刊を余儀なくされた時期もあり、足かけ十四年での達成に感激も
ひとしおで、「よくぞここまでたどりつけた」と話している。
タブロイド判八ページ、オールカラーで、広告はなく写真も控えめ。半面、執筆陣は豪華で、
これまでに吉本隆明さん、故時実新子さん、眉村卓さん、横尾忠則さん、竹下景子さんなど、
文化人から芸能人まで数多くの人が原稿を寄せた。
猫をきっかけに夫が元気を取り戻し、夫婦のきずなが強まった話(東海林のり子さん)、食卓で
日々繰り広げられる飼い猫との食べ物争奪戦(田川一郎さん)などは思わずほおが緩む。
一方で、好きだったモーツァルトを聞きながら、飼い主に見守られて息を引き取った猫の様子
(小野幸恵さん)など避けられない「死」の話も。テーマは多彩だが、かわいさにとどまらず、
日常から生まれる人間の喜怒哀楽を描いている点は同じだ。
百号の表紙を彩るのは、故関野準一郎さんの木版画「猫と少女」。日本エッセイストクラブの
村尾清一会長が巻頭文を寄せ、映画監督の山田洋次さんが「愛猫の玉抜き」、作家の
あさのあつこさんが「ねこ雑感」と題するエッセーを寄稿。連載コーナーを女優の水谷八重子さん、
歌人の寒川猫持さんが固める。
神戸市灘区で二十六歳まで過ごし、猫に囲まれて青春時代を過ごした原口さんは「大人感覚で
読ませる猫の文学を」と、同新聞を創刊した。
阪神・淡路大震災の四カ月後に脳出血で倒れて休刊。左半身にまひが残ったが、懸命に
リハビリに励み、約六年後に復刊を果たした。
同新聞のキャッチフレーズは「富国強猫(きょうねこ)」。猫がゆっくりと眠りながら暮らせる国は
心が富む国、という意味だ。それとは逆に、暗い事件が絶えない現代を「お金、お金の世の中。
昔はここまでひどくなかった。猫たちも憂えている」と嘆く。
編集作業は妻美智代さん(67)との二人三脚で、「これからも猫の視点から、殺伐とした現代社会の
対岸にある“心の世界”を描いていきたい」と話している。
神戸新聞
http://www.kobe-np.co.jp/news/kurashi/0001171252.shtml 月刊「ねこ新聞」
http://www.nekoshinbun.com/