東京駅から特急「しおさい」で2時間。5月のある寒い日、私は千葉県銚子市に向かいました。
目的は、銚子電気鉄道(銚子電鉄)。この会社の鉄道部次長である向後功作さんへの取材です
(インタビューの模様は、日経パソコンの2008年6月9日号に掲載予定)。
銚子電鉄といえば、最近では“ぬれ煎餅騒動”で話題になった会社です。同社は鉄道事業のほかに、
ぬれ煎餅などのグッズ販売も手がけています。鉄道事業の資金難により鉄道運行の継続が
危ぶまれる事態に陥った2006年、Webサイトを通じてぬれ煎餅の購入を呼びかけたのです。
これがネット上の掲示板やニュースサイトで取り上げられ、注文が殺到。
銚子電鉄はひとまず危機を脱しました。
実は私も、当時ぬれ煎餅を注文した1人です。同社のWebサイトを見た家族が「自分も協力したい」
と言い出し、私も賛成したのです。注文してすぐ、同社からは丁重なお詫びのメールが届きました。
そこには、注文の殺到により発送までにしばらく時間がかかること、今フル稼働で生産していること
などが綴られていました。「資金難で大変な時に、そこまで気を遣わなくていいのに…」。
家族とともに、その誠実さに感心したものです。それから2カ月ほどのち、
またもや丁重なお手紙と共に煎餅が我が家に届きました。
そんな経験があったので、取材当日はワクワクしながら銚子電鉄に乗り込みました。
年季の入った車両に、手書きの吊り広告。途中の駅では下校途中の小学生たちがにぎやかに
乗り込んできて、小さな車内は見る間に黄色い通学帽で埋め尽くされました。そんな子どもたちを、
目を細めて見やる観光客らしき老夫婦。停車する各駅には、子どもたちの帰りを笑顔で待つ
保護者の姿もありました。終点まで20分足らずと時間にすれば短いのですが、
こんなに味わい深い電車の旅は初めて経験したように思います。
元々私は、鉄道に関する知識や関心は薄い人間です。むしろ無知と言ってもよいほどで、
恥ずかしながらぬれ煎餅の話を聞くまでは銚子電鉄の存在すら知りませんでした。そんな私が、
今やなぜか銚子電鉄の座席に腰掛け、子どもたちの元気な声に囲まれて、線路の周りに広がる
キャベツ畑を眺めている。ネットがなければ、間違いなくこんな縁には恵まれなかったことでしょう。
ゆっくりゆっくり走る電車に揺られながら、ネットが持つ力の大きさを感じずにはいられませんでした。
今回お話を伺った向後さんも、ネットの影響力については何度も言及していました。情報伝搬力では
テレビが圧倒的ですが、テレビの場合は話題になるのは放映日後の数日だけ、ということも
少なくありません。対してネットは、コンテンツが残り続けます。最初に目にした人の数は少なくても、
リンクやトラックバックなどを通じて徐々に広がり、継続性のあるムーブメントを
巻き起こせる可能性があるのです。
継続性という意味では、ブログも無視できません。向後さんは騒動の直後から日々ブログを綴り、
毎日多くのアクセスを集めました。ブログというツールによって、銚子電鉄のことを
日常的に意識してもらえるようになったのです。
向後さんは今、ネットなどを通じて知り合った支援者たちとともに、銚子のまちづくりに
取り組んでいます。一時のブームだけでは、鉄道を取り巻く厳しい状況は変えられない
という考えがあるからです。鉄道が元気になるには、まず地方が元気になる必要があるというわけです。
こうした活動が、これからの銚子を、そして地方をどのように変えていくのか。
ぬれ煎餅騒動というブームをきっかけに銚子電鉄を知った私ですが、
今後も継続的に、このテーマに目を向けていきたいと思っています。
BPnet
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http://www.choshi-dentetsu.jp/ 向後功作の銚子散歩
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