84年前、ドイツから3台の電気機関車が群馬にやってきた。
デキI型と呼ばれ、上信電鉄で石炭や木材を積んだ貨車を引っ張り、群馬の発展に貢献した。
子どものころからデキの走る姿を見て育った富岡市中沢の理容業大日向康博さん(59)が
先月、デキと子どもたちの交流を描いた童話「デキとなおと」を出版した。表紙の絵は、
「銀河鉄道999」で知られる漫画家の松本零士さんが筆をとった。(乳井泰彦)
童話の主人公のなおとは、なんじゃい村のパン屋の子だ。泣き虫で仲間外れにされていたのが、
必死に貨物を引っ張るデキに励まされ、一人前に成長する。
大日向さん自身、子どものころ、踏切でデキが走るのを見つめていた。「けたたましい音を
たてながら、荷物をいっぱい積んだ貨車を何両も引っ張る姿を見て、勇気をもらいました」
上信電鉄が貨物部門を廃止したことに伴い、デキは94年に現役を引退した。1台は富岡市に
寄贈され、市立美術館の前庭に展示されている。角張った車体はどこかユーモラスで、
人間的な親しみを感じさせる。
2台はその後も、保線工事などに使われていたが、07年3月に脱線事故を起こし、現在は
同電鉄の高崎駅構内で休眠中だ。
群馬の産業の発展にも大きな足跡を残したデキを保存しようと、大日向さんは95年、仲間と
ともに「デキを愛する会」を結成。美術館前に展示されているデキの清掃活動や、上信電鉄が
保有している2台のデキを使ったイベント列車「ファンタジー号」の運行を企画してきた。
漫画家の松本さんとは、98年に会のシンボルマークの制作を依頼したことがきっかけで、
交流が生まれた。松本さんも「デキは宝物」と話し、その後もイベント用のイラストを
描いてきた。
「デキが登場する物語を子どもたちに読んでもらい、電車にもっと親しみを持ってもらえれば」。
原稿を送って松本さんに絵をお願いしたところ、無償で引き受けてくれた。絵が届いたときは、
「体が震えるほどうれしかった」という。
「松本先生からはこれまでも『夢は大きく持て』と言われてきました。表紙の絵で私の夢を
実現してくれました」
物語は、故障して動けなくなったデキが、なおとたちの力で復活し、空を飛んで生まれ故郷の
ドイツに帰って行くところで終わる。表紙絵は、銀河を背景に宇宙を飛ぶ客車を引いたデキを
子どもたちが見送る場面だ。
大日向さんにとって、なおとは、生まれて8日後に亡くなった6歳下の弟、直人でもある。
「弟が生きていたら、いまごろ何をしているんだろうといつも思っていました」。短い命を
終えた弟の生きた証しにしたいと、書く前から、主人公の名前は「なおと」に決めていた
という。
童話は1千部印刷した。デキの保存活動で過去にお世話になった人や、希望する子どもたちに
配ることにしている。
asahi.com
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松本零士さんが描いた表紙絵の原画を前に、出版した童話の本を手にする大日向康博さん
http://www.asahi.com/komimi/images/TKY200805130151.jpg 富岡市立美術館の前に展示されている電気機関車のデキ
http://www.asahi.com/komimi/images/TKY200805130149.jpg 依頼いただきました#717