アニメーション製作会社70社以上が集まる東京都杉並区に、民間施設「杉並アニメーションミュージアム」
がある。その館長、鈴木伸一さん(75)はアニメ草創期から半世紀以上活躍する現役のアニメーターだ。
「シニア世代にも、もっとアニメに親しんでほしいし、できれば描いてみてほしい」と話している。
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/lifestyle/topics/20080305/honbun20080305_001_000.jpg 同ミュージアムは2005年3月にオープン。アニメの歴史や製作工程の紹介、作品上映、ライブラリー、
製作体験コーナーなどがある。これまでの来館者は14万人を超えたが、鈴木さんが新たなターゲットにと
考えるのがシニア層だ。鈴木さんは「シニアにはシニアなりのアイデアがあるはず。
それを形にして発表できたら楽しいと思うのですが」と話す。今年はシニア世代向けのワークショップを
企画するという。
鈴木さんは1956年に、「フクちゃん」で知られる漫画家横山隆一さんの「おとぎプロダクション」に入社。
以来、クレジット表記のある作品で約100本、CMなどを含めると数え切れないほどのアニメを作ってきたが、
その原点は「トキワ荘」だったという。
手塚治虫、石ノ森章太郎、藤子不二雄、赤塚不二夫らが住み、漫画の聖地ともいわれた「トキワ荘」に、
鈴木さんは55年から約1年間身を置いた。「みんな貧乏で、食パンだけを食べるような生活だったけど、
お互い刺激を与え合って、とにかく楽しかった」と振り返る。
彼らのような人気漫画家による良質な作品が多く出回って「漫画ブーム」を巻き起こしたことが、現在の日本
アニメの礎を築き、世界的な評価につながったと鈴木さんはみている。一方で、製作を人件費の安いアジア
諸国に外注するケースが増えたため、日本の製作現場で低賃金・重労働が広がり、将来有望な若者が
どんどん辞めていっているのが心配だという。
それでも鈴木さんは希望を捨てていない。
60歳以上の仲間と、“世界最高齢のアニメーターグループ”「G9+1」(ジーナインプラスワン)を結成して、
同ミュージアム製作のオリジナル短編のほか2本のアニメを製作中だ。鈴木さんは「年寄りだってまだまだ
頑張っている。だから、若い人も『この業界では食べていけないから』なんて言って辞めないでほしい」
と話している。
▼すずき・しんいち
1932年長崎市生まれ。「おとぎプロダクション」を経て63年「スタジオ・ゼロ」を設立、多くのアニメーション
を手掛ける。05年3月から現職。代表作に「おそ松くん」「パーマン」など。
西日本新聞
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