コミカルな中に温かみのある作風で知られるアニメーション作家の久里洋二さん(79)が、
二十数年ぶりとなる短編アニメーションに挑んでいる。テーマは「愛」。
「オペラのような、純粋で、永遠に腐らない男女の愛を描きたい」という。
半世紀にわたって実験的アニメ作品を制作する一方、イラストレーター、画家、童話作家などとして
国際的にも高い評価を受けた久里さんだが、1964年の深夜テレビ番組「11PM」への出演で
路線変更。毎週1本、女性をテーマに短編アニメを描くはずが、途中からお色気路線中心になった。
以来、久里さんといえば、エロチックでユーモラスな作品というイメージが広がった。
久里さんは「(番組の)途中でネタが尽きてしまったからね。あの番組でぼくの方向性が
曲がってしまったかな」と笑う。しかし、それももうおしまいだそうだ。「みんな本当は好きなくせに
(お色気路線を)嫌うようで。それで嫌になった。飽きたわけではないけど、
ヌードの絵ももう売れなくなってきたし…」とやや残念そうに話す。
代わって力を注いでいるのが、70年代まで盛んに発表していた短編アニメ。
最近、仕事場で録音テープを見つけて聴いたベートーベンの交響曲第八番にあらためて感動し、
新作アニメにぴったりだと思ったという。曲に「偉大な生活」と命名してしまうほどの
入れ込みようだ。講演などで古いファンから「(短編アニメを)次はいつ作るんですか」
と尋ねられたことも決断の動機となった。
「短編は『濃縮』。ぼくは濃縮されたものが好き。表現を最小限に縮め、
最後に『あっそうか』と分かってもらえればいい」と“哲学”を明かす。
新作のタイトルは「頭の中のくるみ」という。まず過去の実写とアニメを組み合わせた
27分の作品を、それから全編アニメの作品を作る予定だ。「アニメはこれが最後。
その後のことはまだ考えていない。でも、今の年寄りは下を向いて歩いて、元気ないね。
もっと町へ出て冒険しないと」と、ちゃめっ気のある笑顔を見せた。
西日本新聞
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/lifestyle/topics/20080215/20080215_001.shtml http://www.nishinippon.co.jp/nnp/lifestyle/topics/20080215/honbun20080215_001_000.jpg 久里洋二の部屋
http://www.kamaboko.com/kuri/